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「ヤギ飼いになる」を読んだ

ヤギ飼いになる」を2025年07月22日に読んだ。

目次

メモ

ヤギミルクでチーズ作りに励む日々 p28

彫刻家の熊井淳一さんのお宅には、アトリエの他に、自宅裏にヤギ舎があります。
ここで、熊井さんは5頭の日本ザーネンのメスヤギを飼っていて、毎年4~2月には、ヤギのミルクを毎日搾っています。
搾ったミルクは、以前は飲んだり料理に使ったりしていましたが、今はチーズ作りがメイン。
チーズ専用の工房で、毎日チーズ作りに励んでいます。

熊井さんが最初にヤギを飼ったのは大学生の時。
よくなついていましたが、そのヤギは腰麻痺という病気で亡くなってしまいました。
当時は病気のこともよくわからず、どうすればいいかわからなかったのが辛かったそうです。
それ以来、ヤギを飼うことから離れ、本業の彫刻で忙しい日々を送っていました。
彫刻家の中では珍しく、鋳造まで自ら行う熊井さん。
東京藝術大学を卒業して大学院へ進み、社会に出たころは、鋳造技術の習得に必死でした。
忙しい日々の連続で、季節の変化を気にも留めないまま、何年も時が流れました。
そんなある日、ふとヤギのことが頭をよぎったといいます。

「またヤギを飼えば、季節の変わり目がわかる暮らしができるかもしれない」。
そこで、今度は病気のこともよく調べ、予防法がわかると、再びヤギとの暮らしが始まりました。

そして飼い始めたヤギは、毎日4~5リットルもの大量のミルクを出しました。
これを何とか無駄にしないためにと、今度はチーズ作りが始まったのです。
それから20年目を迎える今、チーズ作りは日課のひとつになっています。

試行錯誤の末、おいしいチーズ作りに成功 p31

チーズ作りを始めた当時は、教えてくれる人は誰もいない状況でした。
ところが、鋳造と同じように、熊井さんは独学で取り組んだのです。
職業柄、フランスへ行く機会もありましたが、そんな時は美術館より田舎のチーズ工房を巡っていたといいます。
始めは何度も失敗を繰り返す日々。
ところが、彫刻に夢中になって、いつもと違う時間で作業をした時、失敗と思いきや、とてもおいしいチーズができました。
彫刻で使う粘土層が、チーズの熟成にいい条件だったこともわかりました。
何度も試して最もいい条件を絞り込み、やがて自他ともに認めるおいしいチーズができあがりました。
最初は無料で配っていましたが、評判を呼び、売ってほしいとの要望が重なったことから、許可をとって販売することに。
今では、経営する「ギャルソンチーズ工房」のチーズは評判を呼び、地元のワイン店にも並ぶようになりました。
海外からのお客さんや、著名人まで、ファンは増え続けています。

ヤギを飼う前に p36

長い間、家畜として人に飼われてきたヤギは、飼いやすく人に慣れる動物です。
とはいえ、どの動物でも同じように、飼うからには、そのヤギの命に責任を持たなくてはなりません。
ヤギは健康に飼えば15年以上生きます。
飼う前に、一生責任を持って飼い続けられるかよく確認しておきましょう。

飼うことに決めたら、まずヤギを飼って何をしたいのかを考える必要があります。
ミルクをとりたいなら乳量が多い品種、伴侶動物として飼うなら扱いやすい小型の品種など、目的によって飼うのに適した品種が異なるためです。
また、除角という角が生えないようにする処理や去勢は、子ヤギの時点で済ませるので、購入する時点で目的に応じて性別、去勢の有無を選ぶことになります。

去勢をしていないオスは体が大きくなり、臭いも強いので、初めて飼うならメスか去勢したオスがお勧め。
ミルクをとるならメス、除草や伴侶動物としてなら、去勢したオスは発情もなく飼いやすいといえます。

場所の確保 p36

ヤギが休むためのヤギ小屋は、体格にもよりますが、1頭に少なくとも約2㎡の広さが必要です。
そして小屋の他に、運動できる場所を用意します。
柵で囲ってパドックと呼ばれる運動場を作るか、広いところにヤギを連れ出して、つないでおく場所を確保しましょう。
パドックの場合、1頭あたり7~8㎡の面積が必要です。
ヤギを連れ出す場合、広ければ庭でも問題ありませんが、外に連れ出す時は、ヤギにとって危険のない、車や人通りが少ない草原や土手を見つけます。
その場所に移動するまでの経路にも野犬など危険がないか確認しておきましょう。

ヤギのエサの確保 p37

ヤギのエサのことも事前に知って、準備しておきましょう。
ヤギは主に草を食べます。
雑草や木の葉も食べるので、緑が豊富な場所なら、そこに放しておけば自由に採食します。
ヤギを外に出さない場合は、土手や空き地、畑などから草を刈ってくるか、家畜飼料として売られている乾草を与えましょう。
自分で牧草(家畜の飼料となる草)を育てるのも一案です。
問題は、冬。
草が少なくなる地域では、家畜用の乾草を購入して与えます。
草の水分量が多い夏も、お腹の調子を整えるために乾草は必要です。
飼料が少なくなってから慌てないよう、あらかじめ入手先を決めておきましょう。

草の他に、ミネラルを補充する塩、栄養を補助する濃厚飼料も食べます。
これらはペットショップでも扱っていますが、量を考えると飼料会社から購入する方が経済的です。

もしもの時に備える p37

ヤギが病気やケガをした場合、ひどい難産だった場合など、もしもに備えて、ヤギを診てくれる獣医さんや、すぐに相談できる詳しい人を見つけておきましょう。
獣医さんは家畜を主に診療している人が適任です。
家畜専門の動物病院が近くにない場合は、大学付属の動物病院や町の動物病院で診てもらえるところを探しましょう。
各県の獣医師会や、家畜保健衛生所に問い合わせるとわかります。

ただし、ヤギは我慢強い動物で、悪いところがあっても隠してしまいます。
明らかに具合が悪くなった時は重症で手遅れのことが多いので、飼い主さんがきちんと知識を身につけ、日ごろからよく観察し、異変に気づけるようになることが大切です。

ヤギミルクをとる p38

ヤギミルクは牛乳よりも消化がよく、タンパク質、ビタミン、ミネラルを多く含み、昔から子どもの発育増進や、お年寄りの健康食として重宝されてきました。
牛乳アレルギーの人でも大半の人は飲むことができます。
日本ザーネン、アルパインなど乳量が多い品種が最適です。
品種にもよりますが、1頭でも家族が飲むのに十分な量(1日約3~5L)を出してくれます。

雑草を刈りたい場所の除草 p38

山岳地帯の厳しい環境でも生きていたヤギは、草刈りの強い味方。
草木の芽や根、木の皮など、他の草食動物があまり食べない部分も食べるので、生きた除草機として世界中で注目されています。
日本でも、公園や空き地、道路脇にヤギを放して除草をする自治体が増えているほど。
除草したい場所に杭を打ち、ロープでつなぐと、一日で杭のまわりの草を刈りとってくれます。

伴侶動物としてかわいがる p39

ヤギはその愛らしさ、飼いやすさ、温厚で人によくなつくことから、家畜の枠を超え、癒しを求めて飼う人が増えています。
自然が多い場所ならイヌほど手がかからず、ヤギのフンが肥料にもなって、いい相棒になってくれるでしょう。
どんな種類のヤギを飼ってもいいですが、トカラヤギやシバヤギなど小型のヤギの方が女性や子どもにも扱いやすく、スペースもとりません。

子どもたちの情操教育 p39

ヤギは扱いやすく、小型のヤギなら子どもでも世話ができます。
情操教育のために保育園、幼稚園や小学校などで飼うところも増えています。
家畜としてミルクや肉を利用するヤギを身近に感じることで、ふだん食べているものに対する感謝の気持ちも生まれるようです。
ヤギは昼間に出産することも多く、子どもたちに命の大切さを教える役割も期待できるでしょう。

早熟で長生き p42

ヤギのことをよく知るために、その成長の流れを見ておきましょう。

ヤギは他の草食動物と同様に、生まれてすぐ、自分の脚で立ち上がり、ミルクを飲み始めます。
子ヤギのうちはとても好奇心旺盛。
お腹がいっぱいになると母ヤギから離れて遊びます。
そして遊びで草をかじるようになり始め、3ヶ月ほどで離乳します。
この生まれてから離乳するまでを、哺育期といいます。
生まれたばかりの子ヤギでは、オスメスの体重差はありませんが、離乳する頃から差が出始めます。

離乳した後は、育成期と呼ばれる時期に入ります。
メスは離乳から初産まで、オスは離乳から交配開始までが育成期です。
この時期に、子ヤギはごはんをたくさん食べてすくすく育ちます。
育ち方は、飼料や環境、そのヤギによって差が出ます。
そして生まれた年に、生後約6~7ヶ月で初発情を迎えます。
この時すでに交配が可能ですが、体が十分に育たないうちに交配すると難産になりやすく、母体の発育も不十分なままになってしまうので、翌年まで待つことが多いようです。

育成期の次は、生産期。
乳用ヤギは出産してミルクが出るようになってから、オスは繁殖できるようになってからを生産期と呼びます。
1歳くらいには完全に親から独立し、親子でも順位を競ってケンカをします。

乳用ヤギの場合、最初の出産以降、徐々に乳量が増え、3~5年でピークに。
これ以降は、ミルクの量が減り、病気の発生率も高くなります。
乳用ヤギがミルクを出して活躍できるのは、8~9歳まで。
オスの交配は、順調にいって小型のヤギで7年、大型のヤギで8~9年が限度です。
過度に交配をすると、繁殖できる期間も短縮されます。

その後は、体力や歩く力が徐々に衰え始めます。
生産能力がなくなった後も長生きして、およそ15年は生きるといわれています。

草がヤギの主食 p44

ヤギはウシやヒツジと同じ草食動物。
雑草や木の葉、「青草」、「乾草」といわれる牧草(家畜の飼料になる草)を食べる他、穀物や野菜、果物も食べます。

青草や乾草のような繊維を多く含む飼料を「粗飼料」、逆に繊維が少なく、炭水化物やタンパク質が多い穀物や人工飼料を「濃厚飼料」といいます。
濃厚飼料は、トウモロコシや大麦、えん麦、大豆粕、米ヌカ、フスマなど。
野菜や果物は、キャベツ、ニンジン、リンゴなどを食べます。
ただし、お腹にガスがたまりやすいサツマイモは胃の調子を崩しやすいので、量を少なくするか与えないようにしましょう。

本来なら草だけで十分ですが、ミルクを出すヤギや成長期の子ヤギには、補助飼料として濃厚飼料を追加します。
また、草ではとれないミネラルを岩塩で補給してください。

雨を避けられる小屋と、できれば運動場を p48

ヤギは湿気と暑さを嫌います。
ヤギ小屋は風通し・日当たりがよく、夏は暑くなりすぎない場所に設置してください。
昔から「ヤギが鳴くと雨が降る」といわれるほど水を嫌うので、雨が避けられる屋根も必要です。
小屋の出入り口が南か東を向くようにして、西日を避けて。
小屋の広さは1頭あたり2㎡以上がいいでしょう。
さらにすぐ隣に1頭あたり7~8㎡の広さのパドック(運動場)を作り、ヤギが自由に小屋と行き来できるようにすると、毎日連れ出す必要がなく便利です。

日々の作業を丁寧に p50

毎日のお世話は、1日1~2回エサを与えて水を替え、小屋を掃除することです。
フンや尿をいたるところにするので掃除は毎日必要です。
掃除をする前に放牧するか運動場に出しましょう。
不潔な環境は病気の元なので、小屋は清潔に。
給水器も毎日洗いましょう。
フンは堆肥にして土に還すと処分の手間が省けます。

その他、健康を保つために、定期的な削蹄と寄生虫の駆除が必要です。
削蹄は、伸びた蹄を切って正常な長さに保つこと。
蹄が伸びすぎると、歩行困難や蹄の病気を招き、いいことがありません。
自然にすり減る場合は必要ありませんが、伸びるなら2~3ヶ月ごとに行います。
寄生虫対策には、年1回駆虫剤を飲ませますが、放牧していない場合、少頭数で過去に異常がない場合は毎年行わなくても大丈夫です。

飼っている人や牧場から p54

ヤギの入手方法は、飼っている人から子ヤギを譲り受けるか、牧場から購入するのが一般的です。
地域でヤギを飼っているところがわからない場合は、市町村役場の畜産課や家畜保健衛生所、農協などに問い合わせるといいでしょう。

ヤギは春に出産のピークを迎えるので、この時期には離乳した子ヤギが入手しやすくなります。
生後3ヶ月の離乳時に迎えるのもいいですが、それより早く迎えて人工哺育をするとより人になつきます。

エサをはじめ、ヤギの飼育方法は地域によって大きく異なるものです。
ヤギを受けとる時には、飼育方法をよく聞いておきましょう。
飼い始めてから相談ができるという点でも、受け取り先の方とよく話をして、信頼できるところからヤギを入手したいものです。

長距離移動の注意点 p55

購入時や放牧に連れて行く時など、車で輸送する場合は注意が必要です。
車内や荷台が高温になったり、直射日光があたり続けたりすると日射病になる可能性があるので、夏場の輸送は避けるようにしましょう。
どうしても夏に移動が必要な場合は、適宜休憩をとって十分に給水させます。
車に酔わせると、ヤギにストレスを与えてしまうので、運転にも気をつけて。
移動中にロープが首に絡まないように、短めのロープでつないでください。

子ヤギや小型のヤギなら乗用車に乗せられますが、軽トラックの荷台に乗せる場合、そのままでは飛び降りてしまう可能性があるので、ヤギが飛び出さない工夫が必要です。
大型犬用のケージなど、屋根つきのケージを用意し、その中にヤギを入れて運ぶようにすると安心です。

また、ヤギ同士のトラブルを避けるために、面識のないヤギ同士は一緒に乗せないようにしてください。

Q5. 他の動物と一緒に飼っても平気? p58

A5. 病気や動物の相性には要注意

ウシと一緒に飼う場合、ウシが近くで飼われている場合は注意が必要です。
ウシにとっては害がない寄生虫を蚊が媒介してヤギに移ると、腰麻痺という病気にかかります。
ウシが寄生虫を持っていないことが明らかであれば問題ありませんが、過去に発生例がある場合は、離して飼うか、予防薬を投与することが必要です。

また、草食動物であるヤギはイヌを嫌います。
イヌも遊ぶつもりで子ヤギを傷つけてしまう可能性があるので、お互いが慣れるまでは、注意して見守る必要があります。
一方でヒツジはヤギと似たところが多く、飼い方も同じなので、一緒に飼いやすい動物です。

搾乳するには p82

ヤギは出産後、1週間ほどでミルクを搾って飲めるようになります。
品種にもよりますが、日本ザーネンなど乳用種のヤギなら半年間ミルクが出続けるので、子ヤギが離乳してからでも十分搾ることが可能です。

搾乳は朝夕の2回にわけて行います。
ヤギのミルクは臭いを吸収しやすいので、ヤギ舎から離れたところで搾るのが理想です。
搾乳する場所はいつも清潔にしておきましょう。
ヤギの乳房が搾りやすい位置にくる高さで搾乳台を作っておくと便利です。
フタができる容器に搾り、搾り終わったら速やかにフタを閉め、外に持ち出すようにします。

搾ったミルクは、サラシ布などでこして細かいゴミをとります。
保存する場合は、火にかけ、沸騰直前で火を止めて加熱殺菌してください。

ヤギミルクの特徴 p83

ヤギミルクには良質のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラルがたっぷり。
喉越しがよく、レモン汁、蜂蜜を加えてもおいしく飲めます。
臭いが気になる時は、ヤギが食べる草の種類を変えるか、青草より乾草を多く与えると、臭いがやわらぎます。

ヤギミルクの脂肪球は、牛乳より小さくなっています。
このため、牛乳を搾ったら必ず機械で行う「均質化」という処理をしなくても、脂肪の粒が現れて飲みにくくなることがありません。
だから特別な機器がなくても、家庭で搾ってすぐ飲むことができるのです。
また、牛乳に含まれるアレルギーの原因物質、αS1-カゼインをほとんど含んでいないので、牛乳アレルギーの人でも飲めることがあります。
別のアレルギー原因物質はヤギミルクにも含まれており、100%アレルギーを起こさないわけではないので注意してください。

世界のヤギの歴史 p92

ヤギは家畜の中で最も古くから飼われており、イヌの次に人に飼われるようになったといわれています。
最初に搾乳が行われたのもヤギで、チーズやバターなどの乳製品もヤギミルクから発明されたのだとか。
ヤギが家畜化されたのは紀元前6000~7000年ごろ。
西アジアのペルシャ地方でベゾアールという野生のヤギが飼い慣らされたのが始まりです。
家畜化されたヤギは遊牧民によって東西に広げられ、各地の在来種の基礎となりました。

ヨーロッパでは、12世紀ごろ、子ヤギの皮がヒツジと同じように羊皮紙の原料になりました。
18~19世紀には、粗食に耐えることから遠洋航海で船にも積まれました。
そして次に立ち寄った時の食料源にするために、各地の島でヤギが放されたのです。

長い歴史の中で世界各地に広がっていったヤギは、現在、その97%がアジア、アフリカ、南アメリカなどの開発途上国で飼育されています。
そして各国で肉、乳、草、毛を利用したり、除草に利用したりと、さまざまなシーンで活躍。
世界の飼育頭数は年々増え続けています。

日本のヤギ史 p93

日本には700~800年ごろ、中国大陸と東南アジアの2つの経路でやってきました。
主に九州、沖縄近辺の島々に輸入され、小型のヤギが飼育されていました。
このころからヤギ肉は貴重な栄養源だったそうです。
ヤギの語源は、朝鮮語でヤギを意味する「ヤグゥ」がなまったという説があります。

乳用ヤギが入ったのは近代になってから。
嘉永年間(1848~1854年)、ペリーが来日の際に飲用として持ち込んだという説がありますが、品種はわかっていません。
そして明治11年に輸入が始まりヤギミルクが販売されました。

第二次世界大戦中には、乳用ヤギは農村で貴重な蛋白資源となり、全国に普及。
戦後にはますます増えて、ヤギの飼育ブームといえる時代を迎えます。
昭和32年には全国で約67万頭(乳用ヤギ約56万頭、肉用ヤギ約11万頭)が飼育されていたそうです。
その後、食料事情が改善され、昭和36年の農業基本法の制定でウシ、ブタ、ニワトリの多頭飼育が奨励されたのを機に、ヤギは激減。
昭和53年には約4万頭にまで減りました。
現在は2万頭前後で推移しています。

日本を食料危機から救ったヤギ。
その後、爆発的なブームはないものの、近年になってヤギミルクが健康食品として注目されたり、潅木除去にヤギを使う自治体も増えたりと、再び脚光を浴び始めています。

世界のヤギは500種以上 p94

現在、ヤギは世界で500種以上の品種がいるそうです。
その種類は目的別に、乳用種、肉用種、毛用種にわけられています。
乳用種はザーネン、トッケンブルグ、アルパイン、ヌビアンなど。
肉用種はボア、スパニッシュ、ピグミーなど。
毛用種にはアンゴラやカシミアがいます。

品種の数が多い国は、中国が43種、パキスタンが25種、インドが20種といわれていますが、日本ではほとんどが日本ザーネンかシバヤギです。
沖縄・九州の在来種は乳用ヤギとの交雑が進んだため、純粋種は珍しくなっています。

体重や条件で量・内容が異なる p104

放牧していれば、ヤギは自分で体に必要な量を食べますが、放牧をしない場合や放牧できない時期は、エサの量を考えて与えなければいけません。

その量は、基本的に体重から計算します。
例えば乾草の場合、1日の摂取量は水分を含まない乾物で体重の25~30%が目安です。
これに、育成期のヤギか、ミルクをとるヤギか、分娩前かなど、条件によって必要な養分を加えます。

ヤギに必要な養分は? p104

ヤギが健康な体を維持するためには、たんぱく質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルの5大栄養素が必要です。
たんぱく質は筋肉、皮、毛、血、ミルクなどを作る主成分。
炭水化物と脂肪は動くためのエネルギー源。
ビタミン、ミネラルは骨や血を作り、代謝をよくするために欠かせません。
5大栄養素のバランスが悪いと、成長が遅くなったり、繁殖力が落ちたり、毛並みが悪くなってしまいます。
栄養バランスをよくするためにも、いろいろな種類のエサを与えましょう。

中でも一番大切なことは、エネルギーとたんぱく質が足りているかです。
そこで、左に各飼料のエネルギーとたんぱく質の量、ヤギが必要とする量をあげました。
注意したいのは、同じ草でも栄養分は水分含量(青草か乾草かなど)、刈り取る時期や保存状態、生産地によって異なってくるということ。
数字は目安にして、ヤギの体(体重、肉付き、毛並み)を見ながら調整してください。

草は反芻動物であるヤギにとって胃の調子を保つために欠かせないものです。
一定量を毎日食べられるようにしてください。
粗飼料が十分なら、ミルクを出すヤギや育成期の子ヤギ以外は、濃厚飼料は特に必要ありません。
ミネラルは主に塩化ナトリウムやカルシウムなどが必要です。
ブロック状のミネラル塩を置いて自由に舐められるようにしておきましょう。
ミルクを出すヤギの場合は、0.7~0.8%のカルシウムを添加します。

ヤギの消化のしくみ p106

ヤギは4つの胃を持っていて、消化のしくみは人やイヌ、ブタなど、胃が1つしかない動物とは大きく異なります。
イヌやブタと同じように考えてエサを与えると、ヤギの胃は大変なことになってしまうのです。
ヤギの消化のしくみを知っておきましょう。
ウシやヒツジでも同じです。

草を食べる時は、上唇と舌を動かしながら、下あごの切歯と上あごの固い歯茎で草を挟んで切り取ります。
そして上あごと下あごの臼歯でよくすりつぶしてから飲み込んでいます。
飲み込まれた草は、食道を通って第一胃と呼ばれるひとつめの胃へ。
この胃の中には無数の細菌や原虫などの微生物がいて、草を発酵して分解します。
この時、第二胃も連動して動き、内容物をかき混ぜてやわらかくします。
ここでやわらかくなった草は、再び口の中へ戻されます。
そして口の中でもう一度咀嚼。
これを反芻といって、ヤギが食後しばらくしてから座って口をもぐもぐし続けているのはこのためです。
再び飲み込まれた草は直接第三胃に入り、養分の一部が吸収されます。
第4胃では、胃液による消化が行われ、その後、小腸から盲腸へと進み、盲腸でも微生物による分解が行われています。

このように、ヤギの消化には微生物が不可欠です。
特に第一胃の微生物は宿主であるヤギと共生関係にあり、エサの内容の影響を受けやすく、急に内容が変わると微生物のバランスが崩れ、ガスが異常発生したり、消化がストップしたりすることに。
粗飼料が少ない場合も同じです。
胃が大きい分、胃が膨れると肺や心臓を圧迫してしまうので、気をつける必要があるのです。

エサの注意点 p106

ここで、おさえておきたい注意点をまとめました。
ヤギの健康を守るために確認しておきましょう。

・エサは毎日、同じものを同じ量あげるのが基本。
内容を変える時は少しずつ新しいものを混ぜ、2~3週間かけてゆっくりと変えていく。

・マメ科の牧草(クローバー、アルファルフアなど)は多給すると鼓脹症という病気になりやすいので注意。

・ヤギは湿っている草より、乾燥している方を好む。
水分含量が多い青草だけでは下痢をすることがあるので、乾草も与えるか、刈ってきた草を干して水分含量を少なくしてから与える。

・ヤギはラクダの次に水分の代謝が遅く、あまり水は飲まないといわれるが、ミルクを出すために水分が必要。
オスの場合も水分が不足すると尿石ができてしまう。
いつも新鮮な水を十分飲めるようにする。

繁殖のサイクル p108

もしミルクをとりたいなら、出産が不可欠です。
そうでなくても、親子で飼いたい時、子ヤギを産ませたい時は、ヤギは安産で繁殖しやすいので繁殖にチャレンジしてみてください。

ヤギは生まれた年の秋から繁殖できますが、十分に成長してからにした方が親ヤギにとって安全です。
2歳以降からにするのがいいでしょう。
ヤギには一年の中で繁殖できる時期が決まっているタイプと年間を通して繁殖するタイプがいます。
一般に、ザーネン種のヤギは前者で、シバヤギやトカラヤギなどは後者といわれていますが、同じ種類でも地域(特に緯度の違うところ)によって異なります。
繁殖期には約21日ごとに発情し、1回の発情は24~48時間ほど続きます。

繁殖に備えて p108

無事に交配して元気な子ヤギを産むためには、事前の準備も大切です。
まずメスは、夏の暑さに負けない体力づくりを心がけましょう。
暑さで食欲が落ち体力が衰えると、発情が遅れがちに。
涼しい時間帯に十分運動させ、濃厚飼料も与えてよく食べさせてください。
太りすぎると妊娠しにくくなってしまうので、与えすぎには気をつけましょう。

一方、オスの方も、夏の管理はメスと同様に。
さらに発情がくると食べることも忘れてメスを追い、体力を消耗してしまいます。
この時期は体重の変化に注意して、濃厚飼料を増やすなどしてあげましょう。
足にも負担がかかるので、交配時期の前に削蹄しておいてください。

交配する時は p109

去勢していないオスは臭いがきつく、気が荒くなるので、一般家庭ではオスとメスをつがいで飼うケースはまれです。
大抵は、自分のメスを牧場などオスがいるところに預けるか、オスを借りてきて交配させます。

発情期間は1~2日間くらいなので発情したらその徴候を見逃さずに。
ヤギの発情徴候はわかりやすいものですが、中にはわかりにくいヤギもいます。
一度逃してしまうと、次の発情がくるまで20日以上待つことになるので気をつけてください。
朝と夕方、夕方と翌日の朝というように2回交配させると、受胎率が上がるといいます。

このように、自然にオスとメスを交配させる自然交配という方法のほか、普及はしていませんが、人工授精の技術も確立しています。

妊娠の判断 p110

妊娠したヤギは次の発情がこないので、交配した後に発情がこなければ、妊娠と判断します。
ただし、ヤギによっては妊娠していても発情したり、不妊でも発情がこなかったりすることがあるので、100%とはいえません。

ヤギの妊娠期間はおよそ5ヶ月。
平均150日前後で、143~157日の間に分娩します。
日本ザーネンより、シバヤギなど小型のヤギの方が、妊娠期間が短くなる傾向があるそうです。
初産のヤギなら妊娠中期、出産経験があるヤギは後期に乳房が張って、腹部が大きくなります。
後期には、ゆっくり腹部を持ち上げた時に、胎児の感触が確認できるでしょう。

生まれる子ヤギの頭数は平均1.8頭。
双子の確率が高いです。

出産までの管理 p110

多頭飼いしている場合、他のヤギの角があたって流産する危険があるので、妊娠したヤギは別にして1頭だけで管理してください。

妊娠3ヶ月めに入ると、胎児がお腹の中で大きくなります。
このころには、粗飼料をいつもの20%増やして十分な栄養を与えましょう。
そして3ヶ月めの終わりごろから、母ヤギのお腹は急速に大きく膨らみ始め、だんだん活発に動かなくなるので、適度な運動をさせましょう。
出産に伴う病気の予防になります。

分娩前から分娩後の管理 p110

予定日の1週間前になったら、分娩徴候がないか確認しましょう。
分娩する場所を温かく清潔にして、乾燥したワラなどをたっぷり入れておきます。
分娩の数日前には、お乳が張って食欲が落ちます。
このころには濃厚飼料を控え、できればフンをやわらかくして分娩を助けるフスマを与えてください。

陣痛が始まると、母ヤギは落ち着きがなくなり、よく鳴いて、歩きまわったり、立ったり座ったり、排便・尿を繰り返すように。
陣痛の間隔が短くなると、第一破水がおこり、陣痛はさらに重くなります。
羊膜に包まれた胎児が見え始め、羊膜がやぶれると第二破水です。
胎位が正常であれば、この後すぐに出産します。
双子なら、短時間の間に続けて次の子ヤギが生まれます。

母ヤギは出産後すぐに子ヤギの羊膜を舐めとっていきます。
生後30分ほどで、子ヤギが立ち上がって自分でミルクを飲む姿が見られるでしょう。
母ヤギが子ヤギを舐めない場合は、羊膜を破りタオルで口のまわりから拭いてあげてください。
体をこする刺激で、子ヤギの動きがよくなり、産後1~2時間後には後産(胎盤)が降ります。

分娩にかかる時間は1~3時間。
基本的に安産ですが、なかなか出産しない場合は、人の介助が必要になります。

子ヤギの成長 p112

出産直後に出るミルクは初乳といって、子ヤギが生きるために必要な免疫をつける成分が入っています。
産後はできるだけ早く(2時間以内が理想)初乳を飲ませ、最低でも1週間は母ヤギが出すミルクを与えてください。

生後10日ごろには、草や濃厚飼料を口に入れたり、舐めたりして遊び始めます。
草を食べることで、子ヤギの胃は草を消化できるように育つので、草は自由に食べられるようにしておきましょう。
生後1ヶ月を過ぎたら、徐々にミルクの量を減らし、固形物を食べる量を増やしてください。
そして2~3ヶ月で完全に離乳。
離乳の時期は、子ヤギの発育や、固形物を食べる量を見て判断してください。
離乳後から1歳を迎えるまでは、たんぱく質やカルシウムの多い飼料を与えて、子ヤギの成長を助けてあげましょう。

自然哺乳と人工哺乳 p112

子ヤギが自由に母ヤギのミルクを飲めるようにして育てることを自然哺乳といい、反対に、子ヤギを母ヤギから放し、人がミルクを飲ませて育てることを人工哺乳といいます。
母ヤギが育児放棄する場合や、人によくなつくようにしたい場合は人工哺乳で育てます。
1日あたり子ヤギの体重の約5分の1のミルクを40°Cに温めて与えてください。
哺乳瓶や人工哺乳器を使うか、口が広い容器に入れて飲ませます。
温度が低いと下痢をすることがあるので注意。
人工哺乳を行う場合、ヤギの代用乳が国内で売られていますが、入手できない場合は人用の粉ミルクをお湯で溶いて与えます。

去勢と除角 p112

去勢と除角は、成長してから行うとヤギにとって大きな負担です。
除角は生後7~10日、去勢は生後3ヶ月で行います。
除角には、電気ゴテをあてるか、薬品(苛性カリ)を塗りこむ方法がありますが、どの方法も苦痛を伴うもの。
少数で飼う場合は必須ではないので、行うかどうかは飼い主さんが判断してください。
オスのヤギを繁殖させない場合は去勢をした方が扱いやすく、臭いも抑えられます。
ゴムバンドで睾丸の血流を止めて壊死させる方法、切開して睾丸を摘出する方法があります。
どちらも、まずは詳しい人や獣医さんに相談してみましょう。

ヤギの放し方は2パターン p114

晴れた日の日中に外に出て、自由に草を食べ、好きに歩きまわることはヤギにとって何より楽しい時間。
ストレスも軽減されて健康に育つので、毎日実践したいことです。
その方法には、放牧と繋牧の2つのパターンがあります。

放牧は、柵で囲った敷地の中にヤギを自由に放す方法。
繋牧はヤギを山や草原などでつなぎ、つないだ範囲で自由に草を食べられるようにすることです。
土地が必要なことや柵を作る手間があるため、放牧しているケースは珍しく、繋牧の方が一般的のようです。

放牧、繋牧で注意すること p114

春になって放牧、繋牧を始める時は、突然草をたくさん食べると胃腸障害を起こしてしまうので、最初は短時間で終わらせ、徐々に長くしていきます。
毒草がないか、除草剤がまかれていないか、ヤギが誤って食べてしまうゴミが落ちていないかを事前に確認しましょう。
ダニや蚊など虫にも気をつけてください。

放牧、繋牧をする場所にも水飲み場を設置して、自由に水とミネラル塩を取れるようにしてあげましょう。
強い日差し、雨を避けられるように、放牧場に簡単な屋根や小屋を設置し、繋牧では木陰につないで快適な環境作りをしてください。

野外でのヤギの天敵は、野犬です。
数頭に襲われるとかなわないので気をつけてください。
子ヤギはカラスに襲われることもあるので、カラス対策も必要です。
繋牧で気をつけたいのはロープによる事故。
首や体に巻きついて窒息や骨折など、思わぬ事故が起こることがあります。
ロープは長くしすぎず、ねじれないよう端にナス環をつけるなどしてください。

また、堆肥が多いところでは、草が青っぽい色になることがあります。
この草を大量に食べると、硝酸中毒を起こすことがあるので気をつけてください。

こんな病気には特に要注意! p119

1年で最も気をつけたいのは、夏。
蚊が媒介する腰麻痺という病気になりやすいので、予防薬の投与や蚊の対策が必要です。
また、ヤギは寄生虫による死亡率が高くなっています。
特に子ヤギには注意してください。
蹄の病気も多いので、歩き方にも注意しましょう。

4つの胃を持つヤギは消化器のトラブルも多い動物です。
栄養状態がよければ病気になりにくく、回復力も強くなるので、エサの内容には十分気をつけてください。
栄養状態の目安となる、ヤギの太り具合を見る表もあげました。
太りすぎても健康に支障をきたすので、チェックしてみてください。

ヤギからの5つのお願い p126

ヤギからヤギ飼いさんへ、心にとめておいてほしいこと
一、草はたくさん食べさせてください。
乾草でも構わないので、何より草をたくさん食べさせてください。
草よりも他のものを食べたがる時もあります。
それでも、お腹を健康に保ち、きちんと栄養を吸収するためには、草を食べることは欠かせないのです。
一、水や湿気は嫌いです雨に濡れることは大嫌いです。
小屋の中は、雨が入らないようにしてください。
そして風通しをよくしたり、寝る場所を床から高くしたりして、湿気がこもらない快適な場所にしてください。
一、ちょっとだけ高いところに登れるとうれしいです。
高いところがあるとつい登りたくなるので、いつでも登れるところがあるとうれしいです。
木製の台でも、土を積み上げたところでも、壊れて事故が起こるようなものでなければどんなものでも構いません。
一、1頭だけでいるのは寂しいです。
ずっと1頭だけでいると、不安になってしまいます。
2頭以上の仲間がいるような環境にすることが難しい場合は、なるべく人の側にいられるようにして、1頭だけで過ごす時間を少なくしてください。
一、人と仲良く、楽しく暮らしたいと思っています。
いつも人を警戒しているか、怖がっているようなヤギにしないでください。
そのために、まずあなたがやさしく声をかけ、時にはなでて、安全であることを教えてください。
他の人に会う時には紹介して、マナーを持って接してもらえるようにしてください。