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「デザイナーとして起業した〈い〉君へ。成功するためのアドバイス」を読んだ

投稿時刻2024年4月14日 21:39

デザイナーとして起業した(い)君へ。成功するためのアドバイスーWork for Money, Design for Love」を 2,024 年 04 月 14 日に読んだ。

目次

メモ

1-1 好奇心を持つ p14

人間の最大の強みの一つは、疑問を持つ力だ。
それってどういう仕組み?
どこから来たの?
なぜそんなふうに動くの?
いつ作り出された?
何にでも疑問を持つことで、僕らの脳は常に活性化される。
トレーニングだと思えば――いい脳も筋肉と同じように、使えば使うほど鍛えられるのだ。
そして脳が鍛えられると、それだけ同業者より優位に立てる。

君も僕も、かつては世界一の「知りたがり屋」だった――そう、子供の頃は。
でも年を取るにつれて、他人のことに余計な口出しをすべきではないと学び、周りで起きていることにあまり興味を持たなくなってしまったのだ。

その周囲への興味をもう一度呼び覚まし、好奇心旺盛になる必要がある。
なぜならクライアントとやり取りする場面で、デザイナーは「知りたがり屋」になることが欠かせないからだ。
優れたデザインはデザイン仕様書に従って生み出されるわけだが、的を射た質問をしないと(これについては第15章で詳しく見る)、適切なデザイン仕様書は作れない。
するとプロジェクトは失敗。
君は喜べなくなる。

1-3 自信を持つ p17

自分に自信がある人は、外向的な性格とは限らない。
内向的な性格でも大丈夫。
自信を持つとは、自分を信じるということ。
君が提供するデザインは価値のあるものだ、ともし君自身が信じていないのなら、誰もそんなものにお金を払おうとは思わないだろう。

君は自分のスキルを売り込むために必要な自信を身につけるべきだ。
自信がなければ、商売などできない。
しっかりしたクライアントとの基盤ができあがるまでは、他でもない君自身が一番のセールス担当者なのだ。
誰も君の代わりに君を売り込んだりはしてくれない。

1-5 モチベーションを維持する p20

僕の妻はまる1日仕事が休みの日には、たいてい午前中をベッドの中で過ごしている。
それに日の短い冬の間は、朝9時ごろまで明るくならないし、家の中も普段よりずっと寒い。
決まった時間にオフィスで上司が待っているわけでもないから、僕は暖かいベッドから抜け出すのが本当に一苦労なのだ。

そんな僕に力を貸してくれるのが、世界中のデザイナーの卵たちから届く素晴らしい電子メールだ。
毎日少なくとも一通は届いて、僕のブログや僕の本「ロゴデザイン・ラブ! (Logo Design Love) 」 (ビー・エヌ・エヌ新社、2011年)を読んで、デザインの勉強を続ける助けになったとか、大好きなことを仕事にする自信がついたとか、言ってくれる。
こんなことを書くのは、自慢したいからじゃない。
皆からもらう電子メールが、僕にとっは大きなモチベーションになっている、と言いたいからだ。
常に自分を鼓舞してくれるものを、君も見つける必要がある(ブログの開設については第10章、本の執筆については第20章で、それぞれもっと詳しく見ていく)。

もう一つ、僕が自分を奮い立たせるためのモチベーションとして使っているのは、生まれ育った環境だ。
僕には結婚して30年以上になる愛すべき両親がいて、僕や弟や妹は安定した家庭で育てられた。
僕は路頭に迷ったこともないし、ひもじい思いをしたことも一度もない。
小・中・高校、大学と、十分な教育を受けさせてもらった。
家族はいつも僕を応援してくれて、やりたいことをやらせてくれた。

これと同じような贅沢を享受できる子供は、あまりにも少ない。
僕は両親のおかげで、今この時を最大限に活かすことができている。
だから僕は将来、自分の子供たちにも――幸運にも子供が持てたらの話だが――僕が与えられたいろんな機会を与えてあげないといけない、と思っている。

p22

最も有名で、最も評価の高いデザインスタジオは、どんなふうに自分をプレゼンしているか、見てみるといい。
チャマイエフ&ガイスマー (Chermayeff & Geismar) 、ムービング・ブランズ (Moving Brands) 、ペンタグラム (Pentagram) 、ウルフ・オリンズ (Wolff Olins) 、ランドー (Landor) 、ターナー・ダックワーズ (Turner Duckworth) 、ベンチャースリー (venturethree) 、サムワン (SomeOne) 、ジョンソン・バンクス (johnson banks) などだ。

これらの会社のウェブサイトはナビゲートしやすく、会社にコンタクトも取りやすく、もっぱらクライアントとの仕事内容に焦点を合わせて、それらをわかりやすく紹介している。

ウェブサイト上の宣伝文句、電話応対の仕方、メール返信の素早さ、服装――たとえ自宅でひとりで仕事しているとしても、身だしなみは大切だ――、その他数多くのちょっとしたことがすべて積み重なって、大きな差が出てくるのだ。
それはちょうど、円満な結婚生活のようなものだと考えればいい。
ちょっとした愛情深いジェスチャーを夫婦間で絶え間なく示し続けることで、結婚生活は長続きするのだ。
盛大でドラマチックなイベントが一度あったきりで、あとは失望に満ちた年月ばかりでは、うまくいかない。

p24

そこで大切になってくるのが、仕事と生活の調和、つまりワーク・ライフ・バランスだ。
君にとってはちょうどいいバランスでも、他の人にとってはバランスが悪いかもしれない。
ロードアイランド・デザインスクールの校長、ジョン・マエダ (John Maeda) の言葉を借りれば、「バランスを取るとは、半々に分けることではありません。
ちょうどいい分け目を探ること――当然、そのときどきによって結果は変わってきます。」

ステファン・サグマイスター (Stefan Sagmeister) は、ワーク・ライフ・バランスを実現しているデザイナーのひとりだ。
彼は7年ごとにニューヨークにあるスタジオを閉めて、1年間休業する。
ちょうど退職後の年月を、現役期間中に少しずつ組み込んでいるようなもの、と考えればいい。
とはいえ、今の彼のほうが退職後よりも若く活動的だし、それに休暇中の経験をその後の仕事に活かすことができる。

1-8 自分の経験にとらわれすぎない p24

経験は僕らの思考プロセスを支配する。
だから子供はあれほど想像力が豊かなのだ――経験が少ないからこそ、自由な発想ができる。
もし君も、これまでの自分の経験から自由になれれば、可能性はどこまでも広がる。

2011年にケープタウン国際コンベンションセンター (Cape Town International Convention Centre) で開かれたデザイン会議で、
ウルフ・オリンズ社 (Wolff Olins) の共同設立者であるマイケル・ウルフ (Michael Wolff) は、発想力を高めるには、まずは頭の中を空っぽにすることだ、と語った。
「想像力を働かせるという点については、私は自分の経験を信用していません。へたに経験があると、余計な色をつけてしまうし、想像力を押し殺してしまうからです。」

米国のグラフィック・デザイナー、ボブ・ギル (Bob Gill) の言葉を借りれば、こうだ。
「何が問題かを知る前に、それを解決するデザインはどんなものになるかがわかっているデザイナーは、問題を見る前に、答えが112だと知っている数学者と同じくらい滑稽です。」

僕は新しいプロジェクトを引き受けたら、新しい経験を学ぶ機会だととらえて、まずはクライアントのビジネスの基本情報をリサーチする。
利益が生み出される最もシンプルな方法と、ビジネスの最もシンプルなゴールに目を向ける。
僕がやらないのは、以前別のクライアントのプロジェクトで採用されなかったデザインを使い回そうと考えることだ。
そうした目的のために、数多くのウェブサイトが続々と誕生している。
不採用になったアイデアを売りたいデザイナーたちを利用して、利益を得ようというわけだ。
一方に二度報酬を得たいデザイナーがいて (一度目は元々のクライアントから、二度目は棚からデザイン案を選び出すだけの姿も見せないクライアントから) 、
もう一方に過去に不採用になったアイデアを探しているクライアントがいる、ということ。
なんとも世知辛い話だ。

p30

デザインスクールで何もかも教わるわけじゃない、というのは本当だ。
だからデザイナーとして成功したければ、一生学び続けなくちゃいけない。

2-1 学びに終わりはない p30

ずっと学び続けている自分の姿を、僕はイメージできる。
年を取って白髪交じりになっても、僕はまだまだデザインに夢中になっているだろう。
いくつになっても新しいことを学んで、ワクワクする気持ちを持ち続けているに違いない。

デザイナーは恵まれている。
生計を立てるために仕事しながら、学ぶことができるのだから。
一生学び続けることは、デザイナー個人にとってためになるだけじゃない。
クライアントの要望にきちんと応えるためにも、欠かせないことなのだ。

p32

「デザインについて何も知らないくせに、知ったかぶりをする人たちとうまく付き合う方法を教えてくれるクラスをぜひ作ってほしいです。」
――エミリー・ドリナー (Emily Doliner)

この手のクライアントには、何度も繰り返し出会うことになる。
取引相手の多くが、デザイン会議は一連の仕事の中でも一番面白い部分だと考えている。
やたら口を挟みたがるだろうが、構わない。
ただしデザインに関しては、きちんと線引きをする必要がある。
デザイン案を作成して具体的な決断を下すとき、デザインの専門家は君だ。
もしクライアントが「青にしてみてはどうかな?」と言ったら、「それはなぜでしょう?」と聞くのが君の仕事。
青が好きだから、というだけでは理由にならない。
デザインの観点からきちんと説明できなくちゃならない。

p33

「クライアントとやり取りする方法、あるいは取引を成立させる方法すら知らないと、デザイナーはせっかくの才能を十分に発揮できません。クライアントがいない=デザインの仕事がない、ということだから。」
――アラン・アンダーソン (Alan Anderson)

商売の仕方は学べる。
最もいいのは、試行錯誤を重ねること。
実際に経験を積むことが何より大事だ。
君はもはやデザインをするだけの、単なるデザイナーではない。
ワードローブにいろんな種類の帽子をそろえておき、相手に応じてかぶる帽子を変えるのだ。
これについては第4章でも触れることにしよう。

2. あらゆる教科を学ぶ p34

「デザインスクールの1年生には、微積分、経済、歴史、作文、弁論術の授業をまずはみっちり受けさせるべきです。その目的は、自分できちんとものが考えられ、プロ意識を持ち、ビジネスのスキルを身につけた、教養のある個人を育て上げること。それができてから、従来のデザイン教育を始めるべきです。」
――プレスコット・ペレス=フォックス (Prescott Perez-Fox)

この章の初めでも言ったように、最も優秀で最も高い報酬を得ているデザイナーたちは、最も経験を積んだ人たちであり、1万時間超を仕事に費やしてきた人たちなのだ。
もし君が受けたデザイン教育の中に、プレスコットが挙げている教科が含まれていなかったなら、時間を取ってそれらを自分で勉強する価値はあるかもしれない。

p40

できるだけ早い時期から、自分は独立してビジネスをやるんだ、という意識を持ち始めたほうが、具体的な利益をもたらす行動が取りやすくなる。
たとえば、これは後でわかったことだが、僕はフリーランスとして独立したときに、自分のウェブサイトを立ち上げたけれど、
もしそれよりも5年早く、学生時代に立ち上げていれば、今ごろは僕のドメイン名の信用度はかなり高くなって、サーチエンジンの上位にランキングされていただろう。
もし君の個人名がまだドメイン名として使用されていないなら、今すぐ取得すべきだ。
のんびりしてたらダメだ。
たとえ将来個人名を使ってビジネスしなくても、どこかの段階で必ず役に立つ。
本当だ。
今すぐ行動しよう。

2-3 学び続ける方法は他にもある p40

自営業者は孤立していると考えがちだ。
特に僕のように、自宅をデザインスタジオにしてひとりで仕事している場合は。
けれども、毎日デザイン関連イベントを提供してくれる活発なコミュニティはある――自宅の近くにはなくても、ネット上には必ずある。
次のようなアイデアを試してみてはどうだろう。

p41

月に一度、地元のデザインスタジオを訪ねて回ろう。
デザイン関係のネットワークを広げるだけでなく、同業者がどんなふうにビジネスをしているのか学ぶことができるだろう。
スタジオのオーナーにコンタクトを取るときは、先方が思うだろうこと――「こっちにとっては何の得がある?」――に答えることを常に忘れずに。
ここでブログの出番だ。
君のブログでスタジオの宣伝を無料でしようと申し出よう。
ビジネスに関連する質問をいくつか用意して、ブログのメイン記事にするためにインタビューをするといいかもしれない。
君はビジネスのヒントをもらい、連絡先リストを作ることができ、一方のスタジオ側は無料で宣伝してもらえる、というわけだ。
地元のデザイナーや事業主たちと、定期的に朝のお茶会や夜の飲み会を開こう。
お互いの利益のために共同で仕事したり、業務をトレードしたりするチャンスは結構あるものだ。
それと同時に、苦労話を分かち合ったり、他人の失敗から学んだりすることもできる。
できれば君自身が同じ失敗をする前に、話を聞けるといいが。

p46

「多芸は無芸」という言葉は、ちょっと使い古された感があるが、今でもよく使われるのには理由がある。

結局のところ、まさにその通りだからだ。

もちろん、よくよく探せば例外は見つかるはずだ。

でもすごく極端な例を言えば、オリンピックの金メダリストでもあるアカデミー賞女優とか、ピューリッツァー賞受賞のジャーナリストでもあるF1レースの世界チャンピオンなんて、聞いたことがあるだろうか?

ないだろう。

ビジネスの世界でも同じだ。
最も高い評価を得ている会社は、一つのことだけに集中して取り組み、それを見事に遂行している会社だ。

一番になるには、一つのゴールに向かって、君の持つすべての集中力、願望、情熱、献身的努力を傾けることだ。
やり始めたことを成し遂げるまで、横道にそれてはいけない。

その途中で君のゴールは変わるかもしれないが、ゴールがなければ得点もできないだろう。
僕は2006年に初めて自分の会社のブログを立ち上げたとき、登録読者数を1000人に増やす、というゴールを設定した。
読者数が1000人に達すると、すぐに今度はゴールを1万人に引き上げた。
その大きな目標が達成されると、次は2万人、その次は5万人とゴールを引き上げていき、今ではブログの読者数は15万人を超えている。
さらに新しいブログも二つ開設して、そちらの登録読者数も数万人に達している(ブログの重要性については、第10章でもっと詳しく話す)。

p48

なんだか紛らわしいが、君にピッタリの職種を絞り込むのはいたって簡単だ。
単純に君が大好きなことをやればいいのだ。
君が一番楽しめるのは、デザインのどの分野だろう?
印刷?
ブランド・アイデンティティ?
モーショングラフィックス?
それとももっと別のもの?
何をやっているときが一番楽しいか、わかるのは君だけだ。

大好きなことにエネルギーを注げるよう、職種を選ぶことだ。
いったん目指すところを絞り込んだら、そのときはもう、君は本当に素晴らしい自分になるための道を歩み始めているのだ。

さらに一歩進んで、特定のタイプのクライアントか分野をターゲットにすることで、自分のニッチを定めることができる(そうすれば競合相手をいくらか減らすことができる)。
いくつか可能性を挙げてみよう。
どれもかなりターゲットを絞り込んでいる。

・レストラン向けウェブサイトのデザイナー
・ヘアサロン専門のデザイナー
・中小企業専門のブランド・アイデンティティ・デザイナー
・クライアントが簡単にカスタマイズできるウェブサイトのクリエイター
・フォトグラファーのみと仕事するデザイナー
・車庫専門のデザイナー
・ステーショナリー専門のデザイナー
・ファッション業界専門のデザイナー
・不動産業界専門のデザイナー
・倫理的立場を強く打ち出している企業専門のデザイナー
・クライアントフィーの10%を特定のチャリティー団体に寄付することで、ニッチなポジションを作り出すことも可能かもしれない。クライアントに地元のチャリティー団体を選んでもらってもいい。

でも覚えておいてほしいのは、ターゲットを絞れば絞るほど、君のクライアントになる人の数は少なくなる、ということだ。
だからニッチを狙うのはいいが、狙いすぎてもいけない。
ここでもまた、フリーランスとしてやっていくには、バランスが大事ということだ。

p51

君の専門分野を限りなく絞り込むと、君のウェブサイトのコンテンツも限りなく絞り込まれる。
するとどんなメリットがあるだろう?

検索エンジンが君のウェブサイトを、君が専門とする分野の専門知識を載せたサイトとして扱うようになる。
例を挙げれば、グーグルで「グラフィックデザイン」を検索すると、約1億5300万件の検索結果がヒットするが、「ブランド・アイデンティティ・デザイン」を検索すると、ヒット件数は100万件に満たない。
検索結果の上位に表示されることを目指すなら、どちらのほうが簡単だと思う?

もちろん、検索結果の上位表示を狙って、「犬の散歩を請け負う会社向けのワードプレステーマのデザイナー」なんて感じにとことん専門性にこだわることもできる。
しかし繰り返すが、特定の分野に絞り込むとは言っても、ビジネスとして成り立たないほどサービス範囲を狭めてしまってはダメだ。

p56

僕はちゃんとやらなかったけれど、やっておいたほうが絶対にいいと思うのは、デザイン業界で仕事をしている経験豊富な誰かに、ビジネスの浮き沈みについて話を聞いておくことだ。
えいやっと飛び込む前に、他人のアドバイスをもらう必要がある。
僕が独り立ちしてすぐに学んだ大きな教訓は、成功するためには本気で成功を望む必要がある、ということ。
さもないと、やる気満々の人間は他にも何千人もいるし、君が「納期はいつでしょう?」と聞けもしないうちに、クライアントを獲得してしまう同業者が何千人もいるのだ。
その事実に、僕はきちんと目を向けていなかった。
きっとベテランのデザイナーなら、僕がいかに厳しい世界に飛び込もうとしているのか、ちゃんと覚悟しておくようアドバイスしてくれたに違いない。

デメリット3:好きでやっている仕事だから、タダでも喜んでやってくれるだろう、と考える人がいる p59

もし君がまだこの問題にぶつかったことがなくても、いずれ経験するだろう。
そう書いている矢先から、ちょうど今日も、僕はまた一件、見込み客から電子メールでデザイン料なしの仕事を打診された。
先方は僕に何をオファーしてくれたかというと、彼のウェブサイトの一番下に、僕のポートフォリオへのリンクを張ってあげよう、と言われた。

「そうすれば宣伝になりますよ!」と。

どんな製品やサービスを求めているかに関係なく、何かをタダで手に入れられると信じている人は、信じられないほどたくさんいるのだ。
お声掛けありがとう、でも遠慮しておきます。
君が自分と自分の仕事を尊重していることを態度で示せば、他人も君の仕事を尊重すべきだと知るだろう。

メリット4:自分でルールを決められる p60

大企業に比べて、中小企業のほうが圧倒的に有利なのはこの点だ。
新しいマーケティング・キャンペーンを始めたいと思えば、今日にでも始められる。
お金を費やす前に結果を予測しようと、無駄な努力をして何度も会議を開く必要がない。
すぐに実行できるのだ。
責任者は君なのだから。

独立したての頃、僕は地元のクライアントを獲得したいと思った。
地元のクライアントなら直接会えるので、ネットだけを通して獲得するクライアントより、もっと深い人間関係が築けるだろうと考えたのだ。
そこで僕は自分の会社のステーショナリーをデザインし、それを地元のプリントショップで印刷し、ポートフォリオを磨き上げ、一番いい靴を履いて、街の中心部へ乗り込んだ。
成功したかって?
大した成果はなかった、でも僕はトライした。
自分で直接マーケットに売り込みをかけようと決めて、単純にそこへ出向いてそうしただけだ。
必要だったのは2、3日の準備だけ。
さて、もしコカ・コーラ社が個別訪問のマーケティング活動を実施するとなればどうなるか、想像してみよう。
何度会議を開き、何ヶ月準備をしなければいけないと思う?

メリット7:クライアントは世界中のあらゆる職業の人たちだ p64

僕の仕事の醍醐味の一つは、多種多様なクライアントと仕事できることだ。
地球の反対側に住む、まったく異なる文化を持つクライアントもいれば、同じ街の反対側に住むクライアントもいる。
実際、検索エンジン最適化の性質上、僕のウェブサイトを見て連絡してくるクライアントは、実は大西洋の向こう側出身である可能性が高い (検索エンジンのランキングを上げるためのアドバイスは、第10章を見てほしい) 。

刺激になるのは、様々なクライアントと仕事できることだけじゃない。
ほぼすべてのプロジェクトごとに、クライアントのビジネスの性質が大きく変化することも刺激になる。
あるプロジェクトで僕はサーフィンについて学んだかと思うと、別のプロジェクトではテキーラについて知り、また別のプロジェクトでは高級ファッションや、医学の進歩、はたまたデジタル音楽について学ぶ。
自分が学ぶことになるテーマは、自分がどのクライアントと仕事をするかによってのみ決まる。
僕の仕事がいつも面白いのは、きっとそのおかげだ。

p72

何度も何度も、決断をしないといけないことが一つある。
クライアント(実際のデザインワークを買う人)と直接取引するのか、それとも他のスタジオや代理店(クライアントに雇われて、デザインの仕事を定期的にデザインのスペシャリストに下請けに出す人)を通して仕事するのか、どちらかを選択しないといけない。

p76

同時に、下請け仕事をするときには注意が必要だ。
自分がどんなことに関わることになるのか、ちゃんと知る必要がある。
それを念頭に置いて、アンディ・バド (Andy Budd) のウェブサイトから引用した次の有益な一節について考えてみてほしい。
アンディ・バドは英国に拠点を置くユーザーエクスペリエンス専門のデザイン会社クリアレフト (Clearleft) の共同創設者で、「中間業者」を通して仕事をする場合の危険性について、こんなふうに語っている。

「まずは仕事を獲得して、その後デザイナーを集めようとする代理店があまりにも多いです。
直前になってプロジェクトへの参加を求められて、フリーランスであることは黙っているように、とウソを強要されているフリーランサーに、僕はしょっちゅう会っています。
彼らの多くは、雇い主からのサポートをまったくかほとんど受けられずに、結局自力でプロジェクトを行わなければいけないはめに陥っています。
多くの場合、ウェブデザイン・コンサルタント会社は人材派遣会社と大差なく、安い値段で人を雇って、彼らの日給からマージンを奪い取っているだけなのです。
つい最近も友人とビールを飲む機会があったのですが、彼が働いているデザインとウェブ開発を手掛ける代理店では、200人余りいる社員のうち、デザイナーはたったの10人、ウェブ開発者は20人しかいないそうです。
それに対して、60人態勢のセールスチームと、4人のプロジェクト・マネージャー、20人の顧客担当者、さらに大勢の経営管理スタッフがいるとか。
NMA(イギリスで2011年まで続いたインタラクティブメディアに関する週刊誌。現在はオンライン版がある)が選んだトップ100に入るこの代理店に、誰もが専門技術を求めて仕事を依頼してくるわけですが、その仕事の大半は実際にはフリーランサーたちが行っていると、もちろんクライアントには知らされていません。
その代理店は最前線の販売管理を担っているにすぎず、大金を与えられて、つまらないデザインを垂れ流しているだけなのです。」 

p79

誤解しないでほしいのだが、クライアントとアイデアを共有するのはいいことだ。
ただ、僕がどんなものを作ろうと、あのときの代理店の担当者は、単に自分のアイデアを僕に形にしてもらいたいだけのように感じられた。
クリエイティブな能力ではなく、ソフトウェアを使いこなす能力を買われて、僕は雇われたのだ。
さらに僕のアイデアは、クライアントに承認される必要もあった。

結局、代理店やクライアントと行った電話会議で、全員から肯定的な意見を引き出せた。
ところがその後代理店から、クライアントの共同経営者が満足していないと言われたのだ。
共同経営者がいたなんて、僕は全然知らなかった。
知っていたら、彼も電話会議に加わるべきだと主張していただろう。
仕事のプロセスをコントロールできないと、こういうことが起きてしまうのだ。

そのプロジェクトはどんな結末を迎えただろうか。
5月21日、何度もデザインの修正と電話会議を繰り返した後とうとう代理店は僕にこう言った。
「クライアントが何を望んでいるのか、よくわからない」。
結局、デザイン案は一つも採用されず、僕は残り半分のデザイン料を受け取れなかった。
下請け仕事だと、意思決定者(たち)と直にコンタクトを取ることが難しく、事実上二重の合意(代理店との合意、それからクライアントとの合意)を取りつける必要が出てくる。
ということは、プロジェクトの成功は二重に難しくなる。

p82

今は亡きフランスの作家・操縦士、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ (Antoine de SaintExupery) は、かつて「プランのない目標は、ただの願望にすぎない」と言った。
君が新しく始めるビジネスで成功するためには、プランがなくちゃいけない。
君が進もうとする道筋、そのために必要な資金、その途上で君が経験したいと願うすべてのことについて概要を示したもの、つまりビジネスプランが必要なのだ。

p85

または、デザインの仕事がここ2、30年の間に爆発的に増えたことについても書けるだろう。
ハードウェアやソフトウェアにかかる費用が下がったこと、インターネットの普及により、ネット環境があればどんな場所からでも仕事ができるようになったことなどが、その理由として考えられる。

このセクションは意見を述べるところではない。
単に事実をありのまま、必要な限り詳細に述べるところだ。
このセクションで大事なのは、デザインビジネスの現状を把握している、ということを君自身に(そして見込み投資家たちに)はっきり示すこと。
集計表、報告書、世論調査、市場分析など、使えるものは何でも使って、実態を正確に描き出すことだ。

p83

君のビジネスプランは、様々な情報を載せた総合的な文書だ。
君が参入するのはどんな市場か、君は何を成功と定義するのか(たとえば、君はどのくらいの個人所得を得たいか、いつまでに従業員を雇えるようになりたいか)、従来案が失敗したときはどうするのか、君の財務予測はどうか、その他何でも君のビジネスに関連することを載せた文書なのだ。
状況が変わればアップデートすることが可能な流動的な文書だが、オリジナルは手つかずのまま絶対取っておいたほうがいい。
そうすれば将来それを見直して、自分の足跡を振り返ることができるからだ。
もちろん、もし君のビジネスに投資を呼び込むためにその文書を使うつもりなら、それらしく見える必要があるだろうが、君はデザイナーなのだそれくらいお手の物だろう。
とはいえ、少なくとも誰かひとりには見せて、誤字脱字はないかチェックしてもらおう。

効果的なビジネスプランの作成を助けてくれる本やソフトウェアパッケージはたくさん出ているので、そのどれかを参考にするのはうまいやり方だろう。
ここで僕が紹介したいのは、君のようなフリーランスのデザイナーに合うようにプランをカスタマイズする方法だ。
マーケティング界のカリスマでブロガーのセス・ゴーディン (Seth Godin) によるアドバイスは、特に優れている。
2010年5月の投稿メッセージの一つで、彼はビジネスプランを五つの明確なセクション――事実、自己表明、費用、代替案、人間関係――に分けて書くことを勧めている。
僕もこれらのセクションをこの順番通り使ってプランを書くことを勧める。

p88

フォントの購入費用については、僕は当初考えていなかった。
のちにこの費用はクライアントへの請求書に計上できるとわかったのだが、今よりもずっと低額のデザイン料しか請求できなかった頃は、フォントの購入費用が簡単に僕の収益を食いつぶすこともあった。
プラス面があったとすれば、一度フォントライセンスを購入すると、別のプロジェクトでも使い回すことができた点だろうか。
その意味では、フォント購入は一種の先行投資だとみなすこともできた。

p92

ビジネスプランのこのセクションには、どんな種類のスペシャリストたちと、築くつもりか、について書こう。
たとえば僕の場合なら、ウェブサイト上のコメント欄が、デザイナーやウェブ開発者たちとの関係を発展させるためのかけがえのないツールだとわかっている。
誰かがブログ記事にコメントを残してくれて、自分のウェブサイトにリンクを張ってくれたときは、その人のことをもっとよく知るために、僕は必ずクリックするようにしている。
僕がブログに書いているクリエイティブな話題に、その人が興味を持っているのは明らかだから、僕と同じような仕事を専門にしている可能性は高い。

p96

1年ほど経ってようやく、僕は会社名をデイビッド エイリー (David Airey) に変えた。
ひとりしかいないのだから、会社名を僕の名前に変えようと決断したことを、今もまったく後悔していない。

パースを拠点にするバーナデット・ジャイワ (Bernadette Jiwa) は僕の友人で、ブランド・ネーミングを専門にしている。
実を言うと、この本のタイトル『Work For Money, Design For Love』(原書タイトル)を考え出したのも彼女だ。
僕は彼女に、この章のベースになる専門家のアドバイスをもらえないだろうか、と頼んだ。
ありがたいことに、彼女は願いをきいてくれた。
僕の場合は、自分の個人名を使ってビジネスをすることで予想以上の成果が得られているけれども、誰にとってもそうとは限らないだろうからだ。
バーナデットなら、もっと広い視野からアドバイスをしてくれるはずだ。

バーナデットによれば、見込み客に君こそが「その人」だと思わせる、あるいは少なくとももう一度考えさせるのに、君には9秒間の猶予がある。
「あなたがビジネスをするために選んだ名前は、この先ずっと所有する資産であるだけではなく、あなたのブランド戦略の最も重要な要素の一つでもあるのです。」

ドメインの利用可能性 p101

.com ドメインを取得してウェブサイトやブログを運営すると確かに重要度は増すが、もし .com ドメイン名が空いてなかったり、あるいは違う業界のブランドがすでに使っていたりした場合は、
君が住んでいる国のドメイン (.us 、 .co.uk 、 .in など) を利用することを考えてみよう。

.com ドメインを取得できれば素晴らしいが、それがなくては絶対にダメということではない。
たとえば、米国に拠点を置く会社インスタグラム (Instagram) の例を見てみよう。
2012年、従業員数8名の同社はフェイスブック (Facebook) に10億ドル (約810億円) で買収され、そのときに .com ドメインを取得したのだが、それまでは創業時のドメイン名「instagr.am」のまま、つまり .am ドメイン(アメリカの国別コードトップレベルドメイン)をずっと使っていたのだ。
このようにクリエイティブになる余地はある。
ただし、 .com ドメインは一般的にグーグルの検索エンジンで上位表示されやすい、という事実は知っておくべきだ。
どれを選ぶにしても、どうすればクライアントに自分を見つけてもらえるか、君は慎重に考える必要がある。

覚えやすさ p104

グーグル (Google) 、ヴァージン (Virgin) 、ペプシ (PEPSI) ――簡潔で特徴的な名前は覚えやすい。
デザイン業界ではどうだろう?
ペンタグラム (Pentagram) 、チェイス (Chase) 、ランドー (Landor) 。
これらの名前には、それぞれの会社の製品やサービスを直接表す言葉はまったく使われていないと気付いただろうか?
何をやっている会社かすぐわかる、いかにもそれらしい名前は (たとえばニュー・ドーン・グラフィックスとか) 、あからさますぎて安っぽくなってしまう。
たとえばロゴ・ワールド (Logo World) と名乗っても、ありきたりで目立たない。
ブランドネームは目立つためにつけるのであって、周りに溶け込んでしまっては意味がない。
君がこんなふうになりたいと思う会社を見習い、こんなふうにはなりたくないと思う会社から教訓を得よう。

一晩寝て考えよう p115

「一晩寝て考える」というのは、ほぼ使い古された決まり文句だ。
でもやはり、とても価値のある教えだ。
1日か2日、なんなら1週間でもデザインから離れると、脳に記憶された視覚情報を整理する時間が与えられる。
すると君は新鮮な目と新たな視点で君のデザインにまた戻ってくることができるだろう。

p127

カリフォルニアを拠点とするメレディス・グロスランド (Meredith Gossland) は、自宅で仕事しているとあまりにも気が散るようになったので、オフィスを借りることに決めた。
彼女は今、125のオフィスが入っているビルの中ではただひとりのグラフィック・デザイナーだ。
他のテナントは皆小規模企業で、その少なくとも6割が彼女の取引先になっていて、シンプルな名刺からパンフレット、パッケージのデザインまで請け負っている。
光熱費込みのオフィスの家賃は月額500ドル(約4万9000円)だが、メレディスの収入はそこへ引っ越してから大幅に増えた。
オフィスは自宅から4ブロック先の、歩いて通える場所にあり、健康にいい。

さらに、メレディスが仕事をしているビルには数多くのオフィスが入っていて、テナントのおよそ2割は毎年入れ替わる。
小規模企業が事業を拡大すると、引っ越す必要が出てくるからだ。
つまり、新しくクライアントになる可能性のある企業が次々とすぐ近くにやってくるだけでなく、新天地へ出て行ったクライアントともメレディスは引き続き取引しているのだ。

ドメイン p137

僕は2005年に davidairey.com のドメイン名を取得して、数年ごとに更新している。
ドメイン名登録機関の大半は、登録有効期限を1年から10年までの間に定めており、期限が切れる1ヶ月ほど前になるとメールが送られてきて、更新するかどうか聞いてくる。
もし君が米国以外に住んでいるなら、国別ドメインも取得することをお勧めする (米国では一般的に .us よりも .com のほうがメジャーだ)。
たとえば、僕は英国ドメインの davidairey.co.uk も取得していて、主にバックアップ用として使っているが (僕の代替案の一部だ) 、それだけでなく、ひょっとして同じデイビッド・エイリーという名前のデザイナーが他にもいた場合、英国のローカル検索エンジンのランキングを競い合うことがないようにしている。
ドメイン名取得には、一件につきおよそ10 ~ 15ドル (約1000 ~ 1500円。日本でも種類により差があるが、同程度で取得できる) くらいかかる。

コンテンツ p140

最低限、君のサイトには次のものが含まれている必要がある

・トップページ――トップページは、ウェブサイト全体へと訪問者を導く窓口になる。
また、君のことや君の職業を知らない人たちが、君について理解をし始める場所でもある。

・君についての情報――ここは、サイト訪問者が君のビジネスと関わるために必要な主な情報を得る場所だ。
ここで君は話すように書くべきである。
なぜならここで紹介するのは君自身――握手している2人の写真素材を貼りつけたロボットか何かではないからだ。
君の写真を少なくとも1枚は載せよう。
さらに勇気があれば (そして確かな動画に関するスキルがあれば) 、短い自己紹介ムービーも載せよう。
ムービーを利用すると、直接会う機会がなさそうな人たちともすぐに信頼関係を築くことができる。

・ポートフォリオ――君の最高作品だけを見せるようにしよう。
ありふれた作品がたくさん詰め込まれているせいで、一番いい出来の作品が見過ごされてしまうポートフォリオを僕はたくさん見てきた。
僕が勧めるのは、しっかりしたプロジェクトを10件ほど載せて、それと一緒に、クライアントが新しいビジネスを獲得するために君の作品が役立つ理由を説明する方法だ。
画像の品質の高さとサイズは保つこと。
ただし保存するときは、ウェブ閲覧用に最適化し、ページがスムーズに表示されるようにしよう。

・問い合わせ先――ズーム可能な地図を載せておくと、サイト訪問者は君の活動拠点地を正確に知ることができる。
自宅で仕事している場合は、住所をこの問い合わせ先ページには載せないで、クライアントと最初に何度か打ち合わせをした後で初めて明かすという選択肢もある。
それでも構わないが、君がオープンであればあるほど、君のプロとしての信用度も高くなることを忘れない

この4要素は絶対必要だ。
これらがなければ、フリーランスのデザイナーのウェブサイトは決して完成しない。

信じられないほどの価値があるブログ p143

ブログはやったほうがいいと、僕はどのデザイナーにも勧めている。
特に僕の場合、ブログのおかげで今この本を読んでくれている君がいるわけだからだ (この本の出版社は2009年に僕のブログ「ロゴ・デザイン・ラブ (Love Design Love) 」を見て連絡をくれ、そこから僕の最初の本が生まれた。そして今、この2作目が生まれている)。

1. ブログを公開する p146

これについてはすでに長々と話してきたとわかっているが、でもやはりすごく重要なことなのだ。
僕は2005年に「ニュー・ドーン・グラフィックス (New Dawn Graphics) 」と称して最初のウェブサイトを立ち上げた(第7章で話したとおり)。
そのサイトは15から20ページほどの静的な画面から成っていて、僕が提供するサービスの情報、過去のデザイン作品の紹介、それといくつか関連する連絡先情報を載せていた。

それで終わり。

他は何もなし。

ディスカッションを生み出す方法もなければ、サイト訪問者を増やす方法もない。
そしてまさにその点において、ブログのほうがウェブサイトよりも優れている。
ブログがなければ、僕は今ごろ自営業者としてやっていけてなかっただろう。

3. 誰もがサイトを訪問してくれるものと思わない p148

どうすれば新しい読者やコメントを獲得できるのか、僕にはまったくわからなかった。
コンテンツを新しくすれば、自動的に読者を引きつけられるものと思っていた。

そんなわけはない。

まずは、関連する他のブログを読んだりコメントを加えたりするのに多くの時間を割かなくてはいけなかった。
そして自分のブログ記事を書くためには、他人が面白いと思うような情報を探し、それに独自のひねりを加えなければならなかった。
そこが重要なポイントだ――そう、君独自の考えを加えるのだ。
どこかよそでも見つけられる内容を繰り返すだけなら誰にでもできるが (実際そうしている人は多い) 、君の考えは君しか持っていないのだ。
それを使おう。
それを伝えよう。
だからこそ人は君のサイトに戻ってくるのだ――君の考えを知るために。

ブログを公開する裏には特有の心理があることに、君はすぐに気付くだろう。
僕の思考回路も変わった。
今では何か面白いことを見たり聞いたりすると、どうやってそれをブログの記事にしようかと考えてしまう。

4. 話すように書く p149

WordPress.com で作成した当初の僕のブログは、なんだか講義みたいな記事を載せていた。
一方通行の講義なんて、誰が読みたいと思うだろう?
それでは読者を話し合いに巻き込むことはできない。
僕は読者の意見から学びたいし、できればそのお返しとして何か有益な情報を伝えたい。
僕は最初の頃、会話を発生させるような記事が書けず、ブログのコメント欄を活用できずにいた。

僕は今でも定期的に他の多くのブログを訪れて、チャットに参加している。
時間はかかるけれども、誰だってコメントをもらえば嬉しいし、関係を築くのにも役立つ。

君の文章の書き方、言葉遣い、口調、コメントへの反応、ブログのデザイン、取り上げる話題……
それらすべてが君という人物を表している。
オープンになろう。
フレンドリーになろう。
他の人にこんなふうに思われたい、と思う自分になろう。

6. ブログに関わる時間を少なく見積ってはいけない p151

ブログを書くのにどのくらい時間がかかるのか、僕にはまったくわからなかった。
何もリサーチしないですぐに飛び込んでしまったけれど、昔の自分のパッとしない WordPress.com のブログを読み返してみると、自分の考えがどれほど甘かったかよくわかる。

今、僕は週に10時間ほどかけて、 davidairey.com 、 logodesignlove.com 、 identitydesigned.com の三つのブログを運営している。
毎週それぞれのブログに一つか二つの新しい記事を書くだけにしては、ずいぶん長い時間をかけているように見えるかもしれないが、これはほんの一部にすぎないのだ。
記事を書くことに加えて、コメントの管理 (承認、編集、削除など) をする必要があるし、それに僕はできる限り多くの人に返事をしたいと思っている。
それぞれのブログのデザインやレイアウトに100%満足することは絶対にないので、いつもいじくり回している (これに抗うのは難しいと、君もわかるだろう) 。
さらに、しょっちゅう昔のブログを読み返してはアップデート (リンク切れを直したり、文章を数行変えたり) している。

p156

一つのアプローチ方法がうまくいかなければ、そこから学んで、次のアイデアへと移る必要がある。
たとえば、大量のチラシとポジティブな姿勢だけを頼りに僕が行った個別の飛び込み営業は、ひどいものだった。
うまくいくわけがないとすぐにわかった。
だから僕はやめた。

しかし実際にうまくいったアプローチも一つあって、それは地元の新聞や業界誌にざっと目を通して、デザインが最悪な広告を探すというものだった (実にたくさんあった。君もやってみれば同じ結果が得られるだろう) 。
僕は広告を切り抜き、それと一緒に、もし僕がこれと同じ狭いスペース内で広告を作ればこんなに魅力的になりますよ、という実物大のモデル広告と、僕を雇うか作品の著作権を買いたい場合の連絡先を添えて、その広告を載せた会社に送った。
すると多くの場合、フォローアップの電話をかけるだけでその会社のドアをくぐることができ、いくらか現金を稼ぐことができた。
この方法で地元のいくつかの会社と関係性を築くこともできたが、それは口コミの評判を得るためには絶対に必要なことだ。

11-1 プロボノ活動を行う p157

雇用されているデザイナーの多くは、契約上の制限により、雇用者のために作ったデザイン作品を個人的なポートフォリオに載せることはできない。
これは雇用契約の標準的な条項だ。
雇用者が作品の全権利を保有するのだ。

それなら、雇われの身のデザイナーはどうやってポートフォリオを充実させられるのか、とよく聞かれる。
結局、自分の作品を見せられないなら、クライアントを引きつけることもできないのではないか、と。

そこで重要な役割を果たすのが、プロボノ活動によるデザインだ。

何のことかって?

「プロボノ・パブリコ」 (通常「プロボノ」と短縮される) とはラテン語で「公益のために」の意味だ。
この言葉は一般的に、公共サービスとして自発的に無償で行われる専門的な仕事を表すのに使われる。

伝統的なボランティア活動とは違って、プロボノ活動ではプロの職業人が専門的な技術を用いて、それらのプロのサービスを受ける金銭的余裕のない人々にサービスを提供する。

僕が勧めるのは、地元の非営利団体に君のスキルを提供することだ。

なぜなら、国際組織にはデザインワーク専用の予算があるので、包括的なポートフォリオを有するデザイナーやスタジオを雇う可能性のほうがずっと高いからだ。

コネチカット州を拠点にするゲーリー・ホームズ (Gary Holmes) は、事業を始めるとき、まずは地元企業との仕事から始めようと決心した。
そして地元の歴史博物館であるノア・ウェブスター邸 (Noah Webster House) に、プロボノ活動をしたいと申し出た。
博物館側は彼の活動ぶりを気に入り、すぐに彼を雇って有給のデザインの仕事を任せるようになった。
さらに博物館は地元コミュニティでは非常に目立つ存在だったので、ゲーリーの評判はすぐに広がり、他のクライアントへの紹介につながった。

p159

ゲーリーもリタも最終的にはお金を払ってくれるクライアントを獲得するに至ったが、プロボノ活動としてのデザインは大義のために行うのだ、ということを覚えておくことは重要だ。
そして地域のために (最終的な金銭的報酬は一切求めずに) 「善いことを為している」と感じられることは、何事にも代えがたい最高の気分だ。

2. くまなく調べる p166

近隣に君の助けが必要なように見える会社はないか、くまなく調べる。
そんな会社を探し出すのは難しいように見えたとしても、君のどんな専門知識や技術がどこで役に立つかわからないものだ。
それらの会社で働いているかもしれない共通の友人がいないか、あるいはすでに出入りしている業者の知り合いがいないか、探してみよう。

アントワネットは、アット・メディアの助けを借りる可能性のある近隣の企業トップ5をリストアップした。
それらの企業が参加していそうなイベントにいくつか出向いては、一般のネットワーカーとして交流した。
そしてリストアップした企業の一つの副社長に名刺を手渡したところ、その2ヶ月後、グラフィックデザインと新しいウェブサイトについて話がしたい、という電話がかかってきた。
それ以来、3年以上経った今もその会社はアット・メディアのクライアントで、飛躍的な成長を遂げている。

意思決定者の確認 p168

意思決定者を確認しておこう。
企業サイトの「会社概要」ページは、会社の主要人物を探すときに見るべき最初のページだ。
ラッキーなら、直接コンタクトが取れる連絡先情報が入手できることもある。
その場合は遠慮なく利用しよう。
ビジネスマッチングに特化したSNS「リンクトイン (LinkedIn) 」は、新しいビジネス間検索機能を日々追加しているので、活用するといい。
会社やコネクションの検索、中でも一番重要なのは、ひょっとして君の知り合いがいないかどうか、検索してみることだ。
ネットマナーはきちんと守ること。
知り合いの知り合いだからというだけで、誰かにいきなりコンタクトを取ったり、個人的なメッセージを知らない相手に送って自己紹介したりしないように。
既存の人脈を通してのみ、コネクションを広げるようにしよう。
そうすれば、紹介がどれほど素早くくるか、君は驚くだろう。

11-6 他のデザイン代理店に働きかける p170

イングランドを拠点とするキー・クリエイティブ (Key Creative) のスティーブン・キー (Steven Key) は、長年デザインスタジオに勤めていた。
彼はその間、年に何度か、たとえば同僚が休暇でいなくなるときなど、納期を守るために仕事を外注に出しがちになる時期が必ずあることに気付いていた。

「思い切って独立したとき、すぐに考えたのは、たぶん多くのデザイン会社も同じ状況だろうということです。
そこで僕は地元の代理店や印刷業者をリストアップして、手紙と、名刺と、簡単な問い合わせフォームと、切手を貼った返信用封筒を送ったんです。
それらをピーク時のホリデーシーズンの1、2週間前に送ると、1年の他の時期に送った場合に比べて、いつも成功率がずっと高なりました。

人の心に種をまくという意味では、タイミングが非常に重要なのです。
急ぎの仕事が入って、皆が休暇に出かけていると、ふと可能な解決策の記憶が蘇る――つまり、僕が送った手紙を思い出すようでした。

今でもまだ、僕が6年以上も前に初めて送った手紙を見たと言って、仕事の依頼がきます。」

11-10 買い物先で営業する p176

フリーランスのデザイナー、スザナ・シャシュ (Suzana Shash) は、独立して2年になる。
彼女は近所に開業したばかりだとか、ウェブサイトを持っていない、あるいは魅力的なパンフレットやメニューを作っていないという会社や店はないか、常に目を配っていた。

彼女の最初のクライアントは、おしゃれな地区にある一軒の美容室だった。
その店はウェブサイトを持たず、いつも共同購入クーポンを客に配っていた。
スザナはヘアカットの予約を入れ、オーナーに髪を切ってもらっている間にそれについて話をした。
結局、彼女はその店のウェブサイトを作成して名刺をデザインする仕事を受注できたのだった。
そうして最初のクライアントを獲得して以来、スザナのウェブサイトへは、その美容室のウェブサイト経由でアクセスしてくる人が増えた。
なぜなら美容室のサイトのフッターに「サイトデザイナー」のタグがまだ入っていたからだ。
そして美容室のサイトから張られたリンクをたどって、同じ街の他のスパのオーナーたちからもデザインの依頼が入るようになった。

11-11 物事がうまくいかないときは…… p177

キッシュ+コー (Kish+Co) のカリシュマ・カサビア (Karishma Kasabia) は、また別のマーケティング体験を話してくれたが、こちらは意図した結果が得られなかった例だ。
それは2011年8月、スタジオのビジネスネームをミス・キッシュ (Miss Kish) からキッシュ+コーに変更したときのことだ。
彼女は改名記念パーティーを開こうと計画し、そこでアーティストの展覧会を行い、食事と飲み物も用意して、できれば新しいクライアントに大勢出席してもらいたいと考えた。

手短に話せば、あまりにも大勢のアーティストたち (それと彼らの友人と家族) が出席して、テーブルに並んだご馳走を楽しんだのに比べて、姿を見せたクライアントはあまりにも少なすぎた。
実際、3万豪ドル (当時の月平均為替レートで約220万円) を費やした後、新規獲得できたクライアントはまったくのゼロだった。

振り返ってみて、カリシュマはこんなふうに考えている。
「ときどき私は、既存のクライアントこそがうちの会社に命を吹き込んでくれてきたのに、彼らにあまり感謝してこなかったのではないか、と感じるんです。
だから私は彼らやうちのスタッフに惜しみなく利益を還元したいと思っています。
そうされてしかるべき人たちなのですから。
ただし今は、何らかのマーケティング活動に乗り出す前に、ちゃんと具体的な数字を予測してから決めるようにして、結果に関して自分に正直になるよう気をつけています。
厳しい教訓を学ぶ結果にはなりましたが、あのときの経験は私がビジネスを始めてから起きた一番素晴らしい出来事でした。
今の私は以前より抜け目のないビジネスウーマンになったと言えますよ。」

ロンドンを拠点とするデザインド・バイ・グッドピープル (Designed by Good People) のリー・ニューアム (Lee Newham) もまた、マーケティングプランがうまくいかずに教訓を学んだひとりだ。
彼が素晴らしいアイデアだと考えたのは、業界の見本市へ行って出展社からビジネスを獲得するというものだった。
問題は、彼がアプローチした人は皆、見込み客に自分のサービスを売り込むのに忙しすぎたことだ。
そのプランはすぐに取り下げられた。

たとえ物事がプラン通りにいかなくても、少なくとも貴重な教訓を得ることはできる。

p182

少し前、2005年の僕は、自分をデザイン代理店の経営者のように見せたがっていた。
様々なクライアントニーズに応えられる、大勢のスタッフを抱えた代理店を経営しているかのように。
僕のウェブサイトの文章も三人称で書いていた。
他にも仲間がいるとほのめかすためだ。

なんて馬鹿だったんだろう。

確かに、デザイナー仲間のネットワークを築いて「必要に応じて」協力を要請する、という計画は立てていた。
けれどもそれは格好をつけるための言い訳にすぎなかった。
平たく言えば、僕は自分の身分と勤務形態についてウソをついていたのだ。

僕の会社は僕ひとりだけ。
他には誰もいなかった。
なのにどういうわけか、ひとりで仕事をしているとわかったら、新しいビジネスを引きつけるのに不利になるのでは、と思っていたのだ。
今にして思えば、自分ひとりの会社だということをむしろ喜ぶべきだったのに。
なぜなら小さな会社であることにはたくさんのメリットがあるからだ。

そもそもの初めから、僕は間違った方向を向いて自分のロールモデルを選んでいた。
ペンタグラム (Pentagram) やランドー (Landor) のような大会社に成長したいと思っていたのだ。
もちろん、そのこと自体は何の問題もない。
それが君の望むことなら、素晴らしい。
頑張れ、幸運を祈る。
でもそれが本当に君の進みたい道なのか、今一度自分の心に正直に問いかけてみてほしい。
最終的に、大会社に成長することは僕の真の願望と一致しなかった。
ただ、当時はそれがわからなかった。

1年かかってようやく、僕が目指すのは僕自身が成長することであって、人数を増やして僕の会社を大きくすることではない、とわかった。
そうなると、僕にとってよりふさわしいロールモデルは、ランス・ワイマン (Lance Wyman) やミルトン・グレーザー (Milton Glaser) のようなデザイナーになった。
彼らは素晴らしい作品や論評でその名を知られており、至る所でデザイナーたちにインスピレーションを与えている。
エリック・カルジャルオト (Eric Karjaluoro) は、自著『Speak Human』 (smashLAB、2009年) の中でこう言っている。
「僕たちは自分もそうなりたいと思う地位を手に入れた人の振る舞いを真似します。
そのとき陥りやすいのは、結果であるうわべと原因を混同してしまうことです。
金持ちはベントレーに乗っているかもしれないが、高級車に乗っているから金持ちになったわけではないでしょう。
同様に、大企業はすごく立派なオフィスを構えているかもしれないが、立派なオフィスがあるから成功したと考えるのは間違いです……社員が3人しかいないのに、会社のCEOだと自己紹介する人に会ったときほど、滑稽に思えることはあるでしょうか?」

要するに、正直になれということだ。
君は君のままでいるべき――様々なサービスを提供できる、才能あるひとりのデザイナーでいるべきなのだ。
小さな会社や自分ひとりだけのオフィスを経営することには特別なメリットがあり、それはクライアントにとっても非常に魅力的なことなのだ。

12-2 クライアントが望んでいるのはありのままの君だ p184

考えてみてほしい。
数ある大手のデザイン代理店では、最も経験豊かなデザイナーたちが、実際にデザインを作り出すのではなく、新しい商談をまとめることに時間を費やしている。
仕事が獲得できると、たいてい社内のもっと経験の少ないデザイナーたちにその仕事は回されることになる。
なぜなら契約を勝ち取った人たちは、さらに契約を取ろうと必死になって営業に出て行くからだ。

けれども、君が契約を勝ち取った場合は、コンセプトから完成まで、あらゆる段階で重要な役割を果たすのは君になる。
この点をセールスポイントにするといい。
なぜならクライアントは、プロセスの各段階で君が一緒にいてくれることを歓迎するからだ。
それが非常に合理的で効率的な仕事の仕方だと、クライアントにもわかっているのだ。

ロンドンが拠点のデザイナー、リー・ニューアム (Lee Newham) はこう言っている。
「今は大手飲料会社デザイン部長になっているが、かつて巨大スーパーマーケット『テスコ (Tesco) 』のデザイン部長だった人が、僕にこう言ったんです。
テスコはどんな規模の会社とも話をしたいと思っている。
小さい会社も良いし、他と違う会社も良い、ただし小さいのに大企業のようになろうとしている会社は困りものだ。
小さい会社には小さいからこそ話を聞きたいのだ――大手とは違った視点を得るために。」

クオリティ管理 p186

会社が大きくなるにつれて、誰が自分の役割を十分に果たしていて、誰が他の者の足を引っ張っているか、見分けるのがますます難しくなる。
カルジャルオトは『Speak Human』の中でこう書いている。
「メモやらミーティングやら職場の駆け引きやらが飛び交って、どの社員が全力を尽くしているのか、それとも単にこびへつらうのがうまいだけなのか、ますますわかりづらくなります。」

しかし社員ひとりだけの会社なら、尻拭いをしなくてはいけない同僚もいない。

君はただ、素晴らしい仕事をするだけ。
クオリティの管理については君が完全にコントロールできる。

大きくなることは忘れよう堅実になる p187

会社の規模は小さくても、クライアントの期待を上回る結果を出す能力がある、ということを君は明確に示したいはずだ。
それにはクライアントからの証言を公開し、ポートフォリオを充実させるといいだろう。
しかしそのための材料があまりたくさんない場合は、どうすればいい?

僕は自分のサイトの「自己紹介」ページで、「クリエイティブ・レビュー (Creative Review) 』、『コンピュータ・アーツ (Computer Arts) 』、『ハウ (HOW) 」などのデザイン雑誌に記事が載ったことに触れている。
これは見込み客の信頼を得るのに役立つ。
君もこの手を使うといい。
業界雑誌にアプローチして、君が選んだニッチな分野について特別記事を書くことを申し出るのだ。
出版社はたいてい寄稿者に謝礼を払うだろうが、たとえ金銭的報酬がなくても、これは価値のある宣伝方法だ。
それによって君の名前とスキルを結びつけてもらえるし、普通なら接点のない訴求対象に向けて自己PRができる。

p189

大企業では情熱が薄れてしまうものだ。
なぜなら、デザインチームの全員が創業者と同じくらいの情熱を手掛けるブランドに対して抱くことは稀だからだ。
しかし君の場合、クライアントを満足させる責任を負う者は君ひとりだけなので、仕事への情熱は純粋に高まり、クライアントはそのぶん報われることになる。

覚えておいてほしいのは、ひとたび従業員を雇って君の会社の人数を増やし始めると、自分ひとりだけの会社のほうがやっぱり良かったと思ったとしても、そう簡単に後戻りはできないということだ。

p192

倫理規定に関して言えば、デザイン業界はちょっとした無法地帯と言える。
僕らが従わなくてはならない一連のルールやガイドラインを定める管理機関は一つもない。
デザイナーと名乗るのに、専門家として認定を受ける必要はまったくない。

他の職業、たとえば建築士、弁護士、医師などの場合は、試験に通らなければプロになれないが、デザイナーの場合は、本業がどうであれ、誰でもデザイナーと自称するのが流行りのようだ。
「通っている教会のためにチラシをデザインした」
「自宅のリビングルームのレイアウトをデザインした」
「新タイプのTシャツをデザインした」などのセリフが、カーニングやCMYKカラーについて何も知らない人たちの口から聞こえてくる。

でも水漏れのする蛇口を修理できるというだけで、配管工と自称できるわけではないはずだ。

誤解しないでほしい。
誰でもデザインの才能を持っているし、デザインを学んでたぐいまれなデザイナーになるチャンスもある。
しかし、実際にデザインをもっと学ぼうと懸命に努力している人よりも、正規のデザイン教育は必要ないと考える人のほうがはるかに多いということは、コンピュータがあれば誰でもデザインできる、というありがちな誤解を抱いているクライアントも少なからずいるということだ。
幸い僕らが取引相手として選ぶ人たちは、その手の困ったクライアントではない。
僕らの専門家としての価値を理解し、デザインの適任者 (君のことだ) を雇うことの重要性を知っているクライアントとのみ、僕らは仕事をする (べきだ。一緒に仕事をしたくないクライアントを見つけるのは簡単だ。いわゆる危険信号については次の章で詳しく見よう) 。

p194

そのせいで僕は罰せられたかというと、この何年かの間に一度だけ、ブログに載せたイメージを削除するよう求められたことはある (使用制限の厳しいF1レースのロゴだ。僕は優れたデザインとして紹介していたのだけど) 。
でも自分の写真やイラストが誰かのサイトで取り上げられているのを見たら、宣伝になるしリンクも張られたと喜ぶ可能性のほうがずっと高い。
これは1976年の著作権法でいう「公正使用」にあたるとも考えられるが、公正使用と著作権侵害の間の線引きは簡単ではない。
一般に最も安全な方策は、著作権のある素材を使用する前に、常に著作権所有者から許可を得ることだ。

もう一つ、合法性が重要な役割を果たすケースがフォントのライセンスだ。
あまりにも多くのフォントが無料で入手できるので、デザイナーはどんなフォントファイルでもプロの書体デザイナーや活字鋳造所が作ったものでもすぐに送れるものと思い込んでいるクライアントは実際多い。
しかしデザイナーがクライアントに合法的にファイルを提供するためには、
マルチユーザーライセンスの取得が必要で、インストール制限についてクライアントに説明しなければいけない。
つまり、ファイルを無制限数のコンピュータにインストールすることはできないのだ。
だから君の仕事として、マルチユーザーライセンスの取得費用をプロジェクト全体の費用に組み込むか、それともクライアントにインストール制限について説明し、ライセンスが購入できるサイトを教えてクライアント自身に買ってもらうか、そのどちらかを選ばなくてはいけない。

さらに、印刷業者からフォントファイルを送るよう求められたときは要注意だ。
なぜなら、君がマルチユーザーライセンスを取得していない場合や、フォントのライセンスが印刷業者への配布を許可していない場合、そのファイルをメールで送信することは違法だからだ。
ちょうどコンピュータのソフトを共有することが違法なのと同じだ。

フォントが無料でダウンロードできるからといって、そのフォントをクライアントのプロジェクトにそのまま使えるというわけではない、と覚えておいてほしい。
無料フォントにもライセンスがあり、個人的または教育的プロジェクト (つまり営利目的ではないプロジェクト) にのみ使用可という制限があるかもしれないので、付属のライセンス規約を必ず読んで、違約金支払いのダメージを避けるようにしよう。
疑問点があれば販売業者に問い合わせること。

p196

君のブログがネット上でそこそこ知られるようになってくると、そのうち必ず悪質でどうしようもない人間が出てくる。
君のブログのコンテンツをそっくりそのままかき集めて、自分のサイトに載せる輩だ。
そこにグーグルアドセンス (Google AdSense: サイト閲覧者がクリックするたびにサイト運営者に広告収入が支払われる広告配信サービス) やらその他のアフィリエイト広告を追加して、君が苦労して書いたコンテンツを利用して小銭を稼ごうとする。
僕の場合は、僕のブログのコンテンツをそうやって盗用しているサイトがあまりにも多すぎるので、それらを全部追いかけているよりも、自分の仕事をきちんとやり続けながらブログのコンテンツもさらに増やしていくほうが速いのだ。
だからもうこれは「仕方のないこと」と思ってあきらめている。
でも君は悪質な人間をつかまえるほうがいいと言うのなら、健闘を祈る。

直感を信じる p201

リザ・ローウィンガー (Liza Lowinger) とスペンサー・ベイグリー (Spencer Bagley) がブルックリンを拠点とするアパートメント・ワン (Apartment One) を共同で設立したとき、大なり小なり「社会に還元して」「善いことをしている」クライアントと仕事をする、という明確なビジョンを持っていた。

「これは広範な概念なので、表現の仕方はいろいろあるでしょうね」とリザは指摘する。
「でも私たちにとって何よりも重要なことは、ビジネスに誠実に取り組んでいるクライアントと一緒に仕事をすることなのです。」

p203

君はまた、一緒に仕事をする仲間や、君が担当できない見込み客に対し仲間を紹介する場合にも責任がある。
揺るぎない人間関係が大元にあってこそ、デザインは成功するのだ。
クライアントやそのチーム、また一緒に仕事をするイラストレーターやフォトグラファー、コピーライターやヘルプをお願いするデザイナーでも (ひどい見込み客を紹介し、デザイナーの時間を浪費させてしまった場合、君が直接プロジェクトに関わっていなくても、デザイナーと客の関係を断つ権利はある) 、君がそうした人たちと強固な関係を築いていることがデザイン成功の大前提なのだ。

13-3 倫理性 p203

ロンドンが拠点のデザイナー、マイルス・ニューリン (Miles Newlyn) は、動物園と武器に関与する企業とは一緒に仕事をしないと決めている。
インタラクションデザイナーのガイ・ムーアハウス (Guy Moorhouse) は、タバコとギャンブルに関与する企業に対して同様の厳しい態度を取っている。
僕は自分が同意できない政策を掲げる政治家のためにはデザインしない。

これらは皆個人のモラルに基づく選択であり、何がいい選択か白黒はっきりしていることはめったにない。
なぜなら皆それぞれ生まれも育ちも異なり、物の見方も違うからだ。

クライアントについての情報を一つ残らずすべて知ることもまた困難だろう。
プロジェクトを引き受けると決める前に、リサーチを行う余裕がどこまであるだろうか?
どのクライアントも自分自身のモラルと一致する行動を取っているかどうか確認しようと思えば、どれだけ時間が合っても足りないのでは?

p204

イタリアのイラストレーター兼デザイナーのアンドレア・アウストーニ (Andrea Austoni) は、とある出版社から聖書研究のアイフォーンアプリのロゴをデザインしてほしいと依頼され、また別の出版社からは、子供のための聖書という漫画アプリのロゴのデザインを依頼された。
しかしアンドレアは組織化された宗教、特に子供に教義を教え込むことに断固反対なので、両方の仕事を丁重に辞退したと言う。

この種の問いには簡単には答えらない場合がときにはある。
誰にだって払うべき請求書があるし、支えるべき家族もある。
だからどこで善悪の線引きをするかは、とても個人的な決断になりうる。

もし新聞社や出版社が君に仕事をオファーしようとアプローチしてきたら、
君はプロジェクトを引き受ける前に、見込み客が使っているインキの毒性や紙の原産地について疑問を抱くだろうか?

もしイケア (IKEA) がコンタクトを取ってきたらどうする?
アイリーン・マキャベリー・ケインは著書の中で、イケアが販売している家具についてこうコメントしている。
「中が空洞の木板やぐらつくテーブルトップはマーケティング上の策略です――家具は長持ちするように作られていません――そして消費者はそれで満足なのです。
イケアが人気なのは消費者のニーズに応えているからだとする意見は近視眼的です。
イケアは答えではありません。
まやかしです……空虚な製品は (流行が変われば) 古くなり、壊れて、代替品を買う必要が出てきます」。
箔がつくという意味では、チャンスが与えられたときにイケアを自分のポートフォリオに加えないなんて馬鹿だと思うかもしれない。
とはいえ、やはり……。

カリフォルニアを拠点とするデザイナー兼教師のロビン・ワックスマン (Robyn Waxman) がうまい具合に言っている。
「自分が今まさに宣伝しようとしている製品またはサービスが、自分や自分が大切にしているものをむしばむ元凶になるかもしれません。
製造過程をたどりそれを探る勇気と関心を持ち合わせているかが、私にとって最大の倫理的問題なのです。」

14-1 危険信号 p212

次のセリフは、僕が今年の初めごろに受け取ったメールからの抜粋だ。

「返金保証はありますか?というのも、私はすでに2社と仕事をしたのですが、満足できなかったからです。」

これまで何千件もの問い合わせに対処してきたのでわかるのだが、この手のセリフは間違いなく、難しいクライアントの可能性を示す危険信号だ。
ここから感じ取れるのは、僕もまたプロジェクトが始まった後に返金を求められるかもしれない、ということ。
それに、この人はすでに他の2社と仕事して満足できなかったのなら、僕のデザインに満足する見込みはどのくらいあるだろう?
もちろん、他の2社の作品が良くなかった可能性もあるが、何をやっても満足しないクライアントに問題があった可能性もある。
他にも避けたほうがいい類いのクライアントはいる。
必要なときは、クライアントとの契約を解除するべきだ。

5. 料金についてしきりに聞いてくるクライアント p226

うるさく値切ってくるクライアントや、ちょっとした昼食代ほどの値段でおかしなほど大量の仕事を要求してくるクライアントは、歓待する価値などまったくない。
同様に、頭金の支払い依頼に対して繰り返し質問してくるクライアントや、頭金の支払がものすごく遅いクライアントからは、最終支払いを受けるのが難しくなることが多い。

たとえ何をされようと、クライアントに背を向けるのは決して簡単ではない。
一度などは、まるで僕がクライアントにひどい仕打ちをしたかのように、不安な気持ちばかりが残ったが、実際には、クライアントと合意したことよりはるかに多くのことを僕はすでにやっていたし、他のどのクライアントに対してよりも、ずっと柔軟に対応していた。
クライアントの要求に従おうとして自分を曲げてばかりいると、いずれ何かが壊れてしまうのは避けられない、と覚えておくことは重要だ。

経験を積めば、君も問題のあるクライアントを嗅ぎ分けられるようになる。
だから焦る必要はない。
だが残念ながら、嗅ぎ分けが本当にうまくなるまでに、何度か餌につられることはあるだろう。

p230

何の対策も講じなければ、見込み客の仕事に「ノー」と言ったほうがいいとわかるまでに、多くの時間を無駄にしてしまうことがある。
しかし、問い合わせを選別する方法はある。
それによって、君も見込み客も無駄なエネルギーを使う恐れが大幅に減り、君はより自分に合ったクライアントに集中することができ、一方の君とはうまく合わなかったクライアントは、他にもっと適したデザイナーを見つけることができる。

15-1 クライアントへのアンケート調査 p230

アンケート調査は絶対に欠かせない。
問い合わせがきたら、これを真っ先に思い浮かべるべきだ。
なぜならアンケートにちゃんと答えてもらえば、見込み客の特定のデザインニーズについて詳しく理解できるからだ。
アンケートでたずねるべき質問
僕がアンケート調査で聞きたいことをいくつか挙げよう。
1. あなたの会社はどうやって利益を得ていますか?経営構造はどうなっていますか?

覚えておいてほしいのは、これはあくまで最初のアンケート調査であって、後でまたフォローアップ調査も行う必要があるということだ。
この最初の質問の狙いは、相手企業の製品やサービスについて、大まかな全体像をつかむこと。
それに加えて、経営構造について少し知れば、何人くらいの人間が意思決定プロセスに関与しているのか、おおよそ把握するのに役立つ。
たとえば、経営者ひとりだけの新設企業なのか、あるいは取締役会のある多国籍企業なのか、といったことだ。
2. これは新しいデザインですか、それとも既存のもののリデザインですか?

新しいデザイン (新しいブランド・アイデンティティ、新しいウェブサイト、新しい年次報告書、など) なら、白紙状態からアイデアを形作っていける。
しかしリデザイン、あるいはデザインの改善となると、元のデザインを参照する必要が出てくる。
3. プロジェクトの目標は何ですか?

クライアントの期待と、その期待を上回る結果を出そうとする君の努力が、あらゆるプロジェクトを成功に導くために大きな役割を果たす。
クライアントが何を達成したいと望んでいるのか、君は正確に知る必要がある。
最初の1年間で新ビジネスの引き合いを3倍に増やすことが目標かもしれないし、あるいはもっと漠然とした目標、たとえば会社の将来の目標によりふさわしい新しいビジュアル・アイデンティティを検討し始めたい、ということかもしれない。
いずれにしろ、クライアントの期待がより具体的で計測可能なほど、どちらの側にとってもプロジェクトの成功はより判断しやすくなる。
しかし製品やサービスの成功には、デザインだけでなく他にも多くの要素が関係しているのが普通なので、君がクライアントのビジネスにどれほどの影響を及ぼしているのか、判断するのはたいていものすごく難しい。
とはいえ、判断が難しいからといって、トライすべきではないということではない。
4. このプロジェクトではあなたと一緒に誰が仕事をしますか?

理想的なシナリオとしては、君がやり取りするのは相手側の唯一の意思決定者で、その人が君の仕事に最終的な承認を与えることができる、というものだ。
必ずしもそれが可能とは限らない――特に取引相手の会社の規模が大きくなるほど難しくなる――が、同等の発言力を持つ複数の人間から成るデザイン検討委員会がある場合には気をつけよう。
この委員会の検討を経た結果、デザインが骨抜きにされ、君が提出した素晴らしいデザインが、ただ役割を果たすだけのつまらないものに代わってしまう可能性があるからだ。
作品のプレゼン方法については、第18章でもっと詳しく見る。
5. あなたが目指すプロジェクトの完成日はいつですか?その理由は?

一般に、期限を定める必要がある。
プロジェクトの完成までにどのくらいの時間がかかるかについては、君のほうがよくわかるだろうが、この質問によってクライアント側の希望をチェックしておくことができる。

近い将来見本市があるかもしれないし、もしかすると新製品を発売するのかもしれない。
その場合、あらかじめ定まった期日までに君の仕事を終了させる必要があり、スケジュールに変更の余地はない、ということもありうる。
クライアントが目指す完成日が非現実的なら、プロジェクトにはこのくらいの時間がかかるので、急いで不必要なミスをするよりも仕事をきちんと仕上げるほうがよほど重要だ、と説明する必要がある。
君のデザインプロセスの中にクライアントを取り込んでいくのであって、その逆ではない。
だから仕事の段取りについては、君が主導権を握り続ける必要がある。
6. あなたがターゲットとする客層、理想の顧客は誰ですか?

君とクライアントは一緒にプロジェクトを進めていくわけだが、忘れてはいけないのは、君たちの選択はすべて、クライアントの顧客を念頭に置いてなされる必要があるということだ。
ウェブサイト、ビジュアル・アイデンティティ、モバイル端末アプリなどと最も関わりを持つことになるのは誰か、わかっていないといけない。
誰をリサーチして理解する必要があるのか?
誰の注意を引きつけるべきか?
クライアントは新しい顧客を獲得したいと考えているのか?
既存のデザインはターゲットとする顧客層にそぐわないのか、それとも単に改善が必要なのか?
7. あなたの競合相手は誰ですか?

これについては君が自分でリサーチを行えばわかるだろうが、君だけでなくクライアント側にとっても、この重要な質問にできるだけ早く答えることは役立つことなので、クライアントにも仕事してもらおう (つまるところデザインプロジェクトはジョイントベンチャーなのだ) 。
君の作り出す作品が関連市場で評価されればより効果的だろうし、もし君のクライアントが勝つとなれば、敗者が必要になってくる (競争なのだから) 。
8. あなたの懸案事項は何ですか?

最初にクライアントのどんな心配事にも対処しておくことは (もしかするとデザイナーと仕事をするのは初めてかもしれないし、既存のデザインを変えることについて社内に不安の声があるかもしれない) 、クライアントを安心させるのに役立つ。
不安が減れば、より自信が持て、最高の結果を出せる可能性が強まる。
他にも事前に聞いておきたい質問はあるだろうが、ほどほどにしておこう。
確かに、できるだけ多くのことを知る必要はあるが、これは今後デザインプロセスを深く掘り下げていくための最初のステップに過ぎないのだ。
ちなみに僕はクライアントと電話で話したり直接会ったりするときでも、やはり事前にこのステップを踏む。
アンケート調査の実施方法
アンケートの実施方法はいくつかある。

・オンラインフォームを作成する
・PDFファイルかワード文書にしてメールで送る
・ダウンロード可能なドキュメントを提供する

このうちの一つ、二つ、または三つすべてを併せて使いたいと思うかもしれない。
その昔、僕はオンラインフォームを作成して (将来また復活させるかもしれない) 、サイト内のそのページにクライアントを誘導していた。
その利点は、一貫したフォーマットで答えが得られることと、フォームに「記入必須項目」を組み込むことができるので、すべての質問に答えないと「送信」ボタンが押せないように設定できる点だ。
さらに、オンラインフォームはプロセスの一段階を省いてくれる。
つまりこちらから個別にアンケートを送らなくても、先にクライアントのほうから答えを送信してもらえる。

ウェブフォームの欠点は、ホスト・プロバイダーに何か問題があると、オフラインになる可能性がある点だ。
見込み客が常にデータを保存できるとは限らない。
ネット回線は突然切断されることがあり、ときにはフォームを記入している最中に切れてしまうこともある。
もし20分かけてフォームを記入し終わり、いざ送信しようというときに回線が切れてデータが失われてしまったとしたら、もう一度最初からやろうと思うだろうか?
オンラインフォームの中には、いくつかのページに分かれていて、ユーザーが次のページに進む前に自動的に前のページがセーブされるものもある。
それを利用するのも一つの手だろう。

僕はワード文書にしてメールで送るほうが好きだ。
答えのフォーマットを揃えることよりも、自分の仕事のスタイルに合った方法でアンケートを送り、答えを受け取ることのほうが僕にとっては大事だからだ。
ひと手間余分にかかることは全然苦にならない。
なぜならこのひと手間で、危険信号を発する見込み客をここでも除外できるからだ。
ワード文書を受け取ったとたん、パソコンに保存され、クライアントが自分の時間を使ってアンケートに取り組むことになるのだから。

僕はインタラクティブPDFの利用を試したこともあって、これは質問の後にテキストを入力してもらうというものだが、見込み客側のデータの保存や送信に絶えず問題が生じたので、今は利用を見合わせている。

アンケートのすべての項目に答えてもらっても、プロジェクトについて知るべきことすべてがわかるわけではないが (フォローアップ調査もする必要がある) 、
それでも多くのことがわかるはずだし、見込み客がどれほど真剣に君と仕事をしたがっているかもわかるはずだ (いいかげんな答えは明らかに危険信号だ) 。

15-2 時間を無駄にしないために p237

君の知名度が上がり、検索エンジンの上位にランキングされるようになると、君のサービスについての問い合わせの数もますます増えていく。
秘書でも雇う余裕がない限り、君がメールをひとつひとつ読み、検討し、返事する必要があるのだ (とはいえ、時間とともにどのメールを削除すべきかすぐにわかるようになるが) 。
君が目指すべきは、取り引きが正当なものなのか、それとも誰かが単により安い値段で誰かを雇おうとして見積りを依頼しているだけなのか、できるだけ早く見分けることだ。

合法かどうかはともかく、まだ何も話し合っていないうちに価格を聞かれることはよくあるだろうが、当然ながらプロジェクトの詳細がわからないうちは見積りなど出せるわけがない。
君が最大の利益を得ようとしているかのような印象を与えることなく、単刀直入に話をするためには、次のいずれかの方法で、両者が取引を進めるかどうか決めるといい。
1. 君が他のクライアントと仕事をするときの通常の価格をある程度知らせる。

最低価格 (君が喜んで仕事を引き受けられる最低限の価格) という形で示すか、あるいはもっと一般的な価格帯 (いくら位からいくら位まで) を示してもいい。
ただしこの場合、価格設定を低くしすぎて、自分で自分の首を絞めてしまう恐れがあるので要注意。
自分を過小評価してはいけない。
ウェブデザインを専門とするハッピー・コッグ (Happy Cog) は、クライアント向けアンケート用紙の一番上に、プロジェクト請負最低価格10万ドル(約980万円)とあらかじめ表示していた。
そのおかげで大量の不適切な見込み客を選別でき、大いに時間を節約できたのは間違いない。
2. 利用可能な予算はどのくらいか、クライアントにたずねる。

そうすれば答えてもらえるときもある (たとえば以前にデザイン戦略が計画されて予算が組まれた場合など) し、答えてもらえないときもある。
特に、デザイナーを雇うのにいくらかかるのか、見込み客がまったくわかっていない場合は答えが出ない。
いずれにしても、たずねるのを恐れてはいけない。

15-3 良いスタートを切ろう p238

見込み客が君を雇うかどうか決めるのは、アンケート調査の段階を経て、君と直接会うか電話で話をする後まで引き延ばす可能性はある。
だからもし、君がクライアントとどんなふうに仕事をし、クライアントは君のデザインプロセスの中でどんな役割を果たすのか、はっきりと示すことができれば、クライアントから良い返事をもらえる確率は高くなる。
『Designing Brand Identity』 (Wiley、2009年) 、『Brand Atlas』 (Wiley、2011年) の著者アリーナ・ウィーラー (Alina Wheeler) は、彼女の人生とアプローチ方法を変えたプロセスについて、1枚の紙にまとめた。
それは一種のフローチャートになっており、1から5までの番号をふった五つのセクション――リサーチを行う、戦略を明確にする、アイデンティティをデザインする、接触ポイントを作り出す、資産を管理する――に分かれていて、各セクションにそれぞれいくつかの実行すべきステップとアクションが書かれている。

この表がなぜそれほど大きな効果を発揮したのだろう?
「シンプルだからです」とアリーナは説明する。
「未経験者にとって、デザインのプロセスは複雑で難しいもののように見えがちです。
でもこのフローチャートがあれば、見込み客はプロセスの中での自分の役割を理解し、そのことが何にも増してプロジェクトチーム全体への信頼を築くことになります。
そして彼らは、結果を出すためにしっかりしたプロセスが用いられ、随所で主要な決定がなされるのだとわかって安心するのです。
さらに、クライアントは地図を手に入れることにもなります。
自分は今プロセスのどの段階にいるのか、その段階でチェックできることは何か、次の段階に入る前にどんな決断をする必要があるか、などがわかる地図です。」

p244

「請求金額はいくらにするべきだろう?」、僕が一番よく聞かれる質問はたぶんこれだ。
数日ごとにまた別のデザイナーからメールが入って、自分が提供するサービスの価格設定に四苦八苦している様子がうかがえる。

僕も価格設定には苦労したし、今でもまだ、疑問をぬぐえないまま見積りを出すことはときどきある。
自分を安売りしてしまっただろうか?
それとも逆に、最高のプロジェクトを手掛けるほどの高値をふっかけてしまっただろうか?
きっとどちらもやってきたに違いない。
安い見積りを提示しているうちに、徐々に自信がついていき、やがて自分のサービスにいつもより高い値段を突然つけて、取り引きを台無しにしてしまうのだ。
これは誰もがやらなければならないシーソーゲームのようなもので、バランスの取り方は実際に仕事をしながら習得していくしかない。

この章では、価格設定問題を一発で解決し、君の不安を完全に取り除くような数式は提示しない。
その代わり、このシーソーゲームを機転を利かせて切り抜けてきた人たちが、苦労して得た教訓をいくつか集めた。
彼らのアドバイスを心に留めておけば、君の自信も深まるだろう。

16-1 君の価格レートを決める p244

前章でアドバイスをくれたアリーナ・ウィーラー (Alina Wheeler) は、僕よりもずっと長い間デザイン業界に身を置いているが、その彼女曰く、多くのデザイン会社にとって、仕事に値段をつけることは、まさに拷問のような非効率的な作業でしかない。
「魔法の公式もなければ、究極の正しい数字もない。
あるクライアントにとっては2万5000ドル (約250万円) のプロジェクトが、他のクライアントにとっては10万ドル (約995万円) のプロジェクトになることも実際にあるのです。」

何年も前、アリーナはカッツ・ウィーラー (Katz Wheeler) という名のデザインオフィスを経営していた。
値段を決めるために、アリーナと共同経営者のジョエル・カッツ (Joel Katz) はテーブルにつき、その仕事がいくらに相当すると思うか、それぞれ違う紙に書いた。
その紙を折り畳むと、テーブルの上を滑らせて相手の紙と交換した。

「私たちはいつも2人が書いた値段の中間値を取りました。
それでうまくいっていたのは、2人とも諸経費がどのくらいか把握していましたし、利ざやをどのくらい得たいかわかっていたからです。
引き受けた仕事はすべて注意深くプロセスを見守りました。
おかげで仕事が終わったときには、良いクライアントだとどのくらいの時間がかかり、ずさんなクライアントだとどのくらいの時間がかかったかがわかりました。
仕事の範囲に関しては、契約条件で明確に定めていました。
だからこのシステムはうまく機能していたのです。」

君には紙を交換する共同経営者はいないかもしれないし、アリーナが当時の時点ですでに積み重ねていたような経験もないだろうが、助けを求められる仲間はいるはずだ。
君が仕事を下請けに出したデザイナー仲間や、以前の雇用主や、ブログを通じて知り合いになった人たちなどがそうだ。
誰だってときどきは他人の助けが必要なのだから、遠慮することはない。

意図的に自分の価格レートを吊り上げたり、逆に引き下げたりすると、たいてい逆効果になる。
たとえば、アリーナはあまりやりたくないと思うプロジェクトがあると、いつも相当高い値段をふっかけて、これなら確実に仕事は発注されないだろうと考えたものだった。
「ところがいつもその手の仕事は発注されたのです。
きっとあなたにも同じような経験があるでしょう。」

その逆の行為も同様に賢明ではない、おそらくもっと悪い、とアリーナは指摘する。
なぜなら他人の足も引っ張ることになるからだ。
「仕事を獲得するために故意に安い価格を提示することは、自分自身、自分の職業、そしてクライアントにも害を及ぼすことになります。
低コストの代替品と思われるようなことは絶対にしてはいけません。」

p247

アリーナのシステムがうまく機能するのは、シンプルで、論理的で、合理化されたシステムだからだ。
実際の話、クライアントはしばしば膨大な量の提案書を受け取り、大半はその情報量の多さに圧倒されてしまう。
「デザイン会社やポートフォリオの違いや、微妙なニュアンスの差がわかるクライアントはめったにいません。
あるいは、本当に素晴らしく、持続可能で、差別化されたものを作り出すために何が必要かなんて、クライアントにわかるはずもありません。
でもプロセスなら理解できます。」

有益なヒントをもう一つ。
かかる費用をカテゴリー別に分けて提示すると、クライアントが何にお金を払っているのかを理解するのに役立つ。
さらに、もし君の企画提案書が複数ページにわたる場合は、最初のページに価格を表示すること。
クライアントが君の仕事の進め方を少しでも理解しやすくなるよう手を尽くすことは、契約を成立させ、成功するプロジェクトを始めるための助けにはなるが、妨げにはならない (契約条件については次の章で詳しく見る) 。

p250

そこでテッドは、ほとんどの会社では調達手順として、工作機械からオフィス用品まで、あらゆるものの購入にあたり活発な交渉をするものだ、と説明した。
クリエイティブなサービスについても例外ではない。
イアンのクライアントは現在、10万ドル (約995万円) 以上のものを購入する際は必ず、適格とされた指定業者3社からの入札を求めている。
イアンはRFPを提出する前にRFQ (資格審査の書類) を提出するよう求められなかっただけラッキーなのだ。

「これはウォルマートの影響だと言う人もいます」と、テッドが続ける。
「あの会社は徹底的にコストの削減を追求しますからね。
でもこの風潮に本当に拍車をかけたのは、2008年の住宅バブルの崩壊です。
消費者は消費をやめ、企業は緊縮経営を行うようになりました。
今日では、購買担当者や調達部門がかつてないほど影響力を強めています。
そしてその成果が現れています!
雇用はいまだ低調ですが、企業利益は高く、これはコスト管理によるところが大きいでしょう。」

16-5 料金アップの交渉方法 p253

クライアントと話し合いをする中で、君のデザイン料金の調整を考えるとすれば、たぶん下方修正を考えるだろう。
しかしいつもそうあるべきだとは限らない。

クラクフが拠点のデザイナー、アンドレア・アウストーニ (Andrea Austoni) は、ある有名なデザイン会社から継続的な共同制作の依頼を受けた。
アンドレアが提示した時間給がデザイン会社に承諾された後、契約書が送られてきた。
するとそこには問題点があった。
今後アンドレアがこの有名デザイン会社との共同制作について履歴書に書くことも、共同制作品をポートフォリオに載せることも禁止するというのだ。
この条件はデザイナー側の取引価値を下げるものだったので、アンドレアはすでに合意済みだった時間給の引き上げを要求し、しばらくしてからデザイン会社側はこれに応じた。

アンドレアはこの経験からいくつかの教訓を学んだ。
「自分の価値を知り、メディアへの露出、ポートフォリオの充実、個人的マーケティング価値の観点から、その仕事をすればどのくらいの利益を得ることになるか算出し、それに従って自分の料金レートを調整するべきです。
一歩も引かずに自分の立場を堅持すること。」

p258

「みんな僕の要求する料金を喜んで支払ってくれました。
僕の記憶では、2002年当時で日給350ドル(当時の年平均為替レートで約4万4000円)でした。
そんな感じでつたないながらもやっていき、自分の料金が他人と比べてどうとか、他の方法を見つけようとか、あまり考えていませんでした。
それがある時点で、理由は思い出せないのですが、たぶん自分は代価以下の請求をしていると気がつきました。
フリーランスになって数年経っていたから、たぶんそれも理由の一つだったのでしょう。
誰だって収入は毎年少しずつ上がるべきだと感じるものです。
少なくともインフレ率を考慮すれば。」

p270

自分のビジネス用にカスタマイズした契約書を作成するためには、500ドルぐらいから1500ドル(約5万円から15万円)かそれ以上の弁護士費用がかかるでしょう。
特定のニーズに合うように、専門家にある程度の時間をかけてちゃんと見てもらう必要がありますからね。
でもそれを出費だと思ってはいけません。
それどころか、値千金の投資なんです。
自己負担で仕事をさせて、そこから不当に利益を得ようとする、誠実さのかけらもない連中から守ってくれるものですから。

p272

ジョナサンにとって幸運なことに、会社の設立者たちは誠実な人たちだったので、少しずつだがジョナサンに支払いをし続けた。
この問題が持ち上がっていた最中も、彼は新製品のデザインに携わったが、今回はプロジェクトの開始時に50%の前払い金を要求した。
さらに50%の残金が支払われるまで、完成品のファイルを提出しなかった。
もちろん、この新プロジェクトの概要は、署名入り提案書という形で書面に明記された。

17-1 契約に入れるべき条件 p272

親しい同業者仲間数人の助けを借りて、一連の契約条件を作ってみた。
プロジェクトに関する業務を開始する前に、すべてのクライアントに同意してもらう必要のある契約条件だ。
これらの条件を記載した文書は、クライアントの署名と日付を書く欄を最後に設けた上で、クライアントにメールで送付する。

いくつかの条件を変えてほしい、と言ってくるクライアントが中にはいるかもしれない。
実際僕も一度経験したことがある。
しかしそのクライアントから、プロジェクト終了時に料金の全額が支払われなかったのは、偶然ではないと思う (それは条件が新しくなったからではなく、もとから全額支払う気などまったくなかったかもしれない難しいクライアントだったからだ) 。
その経験から、契約条件に一つでも変更を求められたら、それは危険信号だと考えていい、と僕は学んだ。

以下の諸条件をそのまま利用してもらってもいいし、あるいは君の目的に合うように適宜編集してもらっても構わない。
契約条件が君のビジネスに合っているかどうか、弁護士に相談して確認してもらうのも賢いやり方だろう。
〈権利と所有権〉
権利:
デザイナーによって提供された全サービスは、デザイナーが宣伝活動に利用する場合以外、クライアントのみが利用できるものとする。
手数料および経費が全額支払われ次第、本プロジェクトのためにデザイナーが制作した最終認可デザイン全作品の次の複製権がクライアントに許可される。

・ブランド・アイデンティティの譲渡可能な全権利。
・商業印刷業者を通して作品を複製する全権利。

所有権:
合意された料金が全額支払われ次第、プロジェクト期間中に制作されたアートワーク全点の全所有権はクライアントに付与される。

第三者契約:
デザイナーは、ウェブ開発、写真、イラストレーション等のサービスを提供する目的で、他のクリエイティブ・プロフェッショナルと契約を結ぶことができる。
すべての第三者との契約条件には、クライアントの複製権が含まれる。
第三者との契約によってプロジェクトに追加費用が発生する場合、あらかじめクライアントの許可を得ることなく契約を進めることはできない。
プロジェクト完成のために第三者が必要になるという仮定のもとに、プロジェクトを開始することはできない。
そうした詳細は、後にクライアントから要求された場合を除き、プロジェクト開始前に合意されていなければならない。

〈コミュニケーション〉
デザイナーは月曜日から金曜日の午前9時から午後5時までの間 (グリニッジ標準時)、電話による連絡が可能である。
スカイプによるチャットも歓迎する。
デザイナーとクライアント間のコミュニケーションの大半は、通常電子メールを介して行われる。
両者が特定のデザイン要件と起こりうる変更の記録を残せるようにするためである。

〈支払いスケジュール〉
業務開始前に、クライアントは50%の頭金を支払う。
デザイナーが頭金を受領した後、プロジェクトのスケジュールが組まれる。
頭金は返金不可。
プロジェクトが終了次第、50%の残金がデザイナーに支払われ、残金の支払後にアートワーク原本がクライアントに提供される。

〈支払遅延〉
最終的な請求書に対して30日以内に支払いが為されない場合、5%の「支払遅延」手数料が課される。
この最初の5%の数字は、その後30日ごとに加算されていき、それはデザイナーに全額支払われるまで続く。

〈キャンセル〉
プロジェクト開始後、クライアントとのコミュニケーション (対面、電話、または電子メール) が180日以上途絶えた場合、デザイナーは書面によりプロジェクトをキャンセルすることができる。
その場合、著作権はすべてデザイナーに留保されるものとする。
クライアントは完成済みの作品に対してキャンセル料金を支払う義務があり、キャンセル料金はプロジェクトの完成段階に基づいて算出される。
キャンセル料金はプロジェクト総費用の110%を超えないものとする。

〈雑則〉
サンプル:
クライアントはデザイナーに、プロジェクトにおいて制作されたデザイン作品のプリント・サンプルを提供するものとする。
それらのサンプルは制作された作品を最高品質で表示するものでなければならない。
デザイナーはそれらのコピーやサンプルを公開、展示、その他の宣伝活動のために使用できる。

守秘義務:
クライアントが提供する資料または情報の一部、あるいはプロジェクトの一部が非公開の場合、クライアントはそれをプロジェクト開始前に書面でデザイナーに通知しなければならない。

免責:
クライアントは、ありとあらゆるクレーム、要求、損失、訴訟原因、損害、訴訟、判決、弁護士の費用および経費を含むすべてを補償し、デザイナーに何らの損害も与えないことに同意する。
ただし、デザイナーが提供した作品によって引き起こされる範囲内においてのみとする。

p278

「クリエイティブな仕事に頭金を払うことを渋るクライアントは、もとから1円も払う気がない場合が多いんです」とパトリシアは言う。
「身をもってそのことを学びました。とりわけ個人的な友人や仕事上の友人だったクライアントから、そう思い知らされました。
そういう人たちに限って、他のデザイナーには頭金を払えなんて言われたことがない、と文句を言ったり、友人を信頼できないのか、と腹を立てたりするんです。
でも本当に仕事をしてもらいたければ、頭金を払うはずです。
だから自分の立場を堅持したほうがずっといいのです。
下手に譲歩すると、自分のアイデアがクライアントや他のデザイナーに勝手に使われて、自分には1円も入ってこない、という事態を招いてしまいます。
本当ですよ、私は何度も経験済みですから。」 

30年の経験から導き出されたアドバイス p310

ロンドンが拠点のマイク・デンプシーは、キャロル、デンプシー&サーケル (Carroll, Dempsey & Thirkell) 社を30年間経営した後、同社を離れて新しい事業を始めたが (彼は今、スタジオ・デンプシー (Studio Dempsey) としてビジネスをしている)、その忙しい合間を縫って、将来君が事業拡大をする場合に役立つだろう、貴重な智恵をいくつか授けてくれた。

1. 親友と一緒に事業を始めてはいけない。その親友を失うことになる可能性はかなり高いからだ。
2. 会社の最前線からクリエイティブな精神を消しては絶対にいけない。
3. スタッフを増やしすぎないよう気をつける。
4. クリエイティブ部門のスタッフが常にクライアントとコンタクトを取っていることを確認する
5. スタッフは慎重に選ぶ。
6. 闖入者に気をつける。放置すると君の世界を壊しかねない。
7. 常に公正で親切であるよう努める
8. ファイナンシャルアドバイザーの話を聞くのはいいが、彼らをクリエイティブスタッフの仕事場には近付けてはいけない。彼らの思考回路はデザイナーのそれとは違い、しばしばとんでもなくひねくれていて、デザイナーとは相容れないからだ。
9. 本当に興味のある仕事を常に求めるようにする。そのほうがより気合も入って、はるかにいい仕事ができる。
10. 毎晩遅くまで仕事するという悪癖に陥らないこと。そんなことをしていたら体を壊す。
11. スタッフ全員に他のクリエイティブ分野もすべて吸収するよう促す。巷で行われているのはグラフィックデザインだけではない。世の中にははるかに多くの分野があるのだ。
12. 今就いている仕事が好きでないなら、辞めること。人生はあまりにも短く、しかも一度きりしかない (それでも僕は希望を抱いているが) 。

君についてのフィードバックをもらおう p312

最終デザインが選ばれ、プロジェクトが完了したら、君と一緒に仕事をした感想をクライアントに聞いてみよう。
あくまで好意でしてもらうことなので、無理強いはよくないが、もしクライアントから貴重な意見が聞ければ、次の二つの点で君にとってプラスになる。

1. もし君に至らないところがあるなら、将来のクライアントの利益のために、そこを改善することができる。
2. 好意的な評価をもらったら、それを君のウェブサイトの証言ページやポートフォリオの作品横に掲載して、将来のクライアントを引きつけるために利用できる。

p322

クライアントに対応する必要がない自営業――つまり、クライアント相手にあくせく働かなくても自動的に収入が生み出される状態――という考えは、いつかは君の脳裏に浮かぶだろう。
誤解しないでほしいが、僕は良いクライアントと仕事をすることは大好きなのだ。
けれども僕が自営業を選んだのは、ちょっとした起業家精神を持ち合わせているからだし、そもそも寝ている間に稼ぐというアイデアに惹かれない人などいるだろうか?

p324

クリスとまったく同じように、僕もブログから広告収入を得ている。
でも僕はそれに頼りすぎないよう注意していて、回転式のバナー広告を、メインコンテンツから離れたサイドバーに一つだけ置くようにして、広告を載せる場所を限定している。
ギラギラ光るバナー広告やポップアップ広告が大量に現れるウェブサイトほど、うんざりさせるものはそうそうないからだ。
ついでに言っておくと、もし君が僕と同じような考えの持ち主なら、グーグルアドセンス (Google AdSense) はプロらしく見えないので、使わないほうがいい。

君と広告主との間を仲介する会社もある。
君が自分のサイトにその会社が発行するコードナンバーを埋め込んでおけば、毎月末に会社から君に広告収入が送金される。
この仕組みを利用すると、広告主の獲得と統計データの配信は会社の手に委ねられるので、君の仕事は減る。
もちろん、これらの会社は君の広告収入の一部を取るわけだが、面倒な手間のかからない運営方法ではある。

あるいは、君が広告主と直接取引して、広告収入を100%得るという選択肢もある。
ただしそのためには、広告主がログインし、バナー広告に関連する感想やクリックスルーの数、地理的位置、
その他の統計データをモニタリングできるようにするための追跡システムを用意する必要がある。
君にその時間と知識があるのなら、頑張ってやってみればいい。

20-4 本を書く p329

本を書くためには多大な時間と労力を費やす必要があるが、いったん仕上がれば、追加の労力はさほど要らずに、その本が何度も版を重ねて売られる可能性はある。
本を出版して著者になると、印税という自動的な収入が得られるだけでなく、自分が提供するサービスに信頼性を与えることにもなる。
クライアントは、雇って任せたいと思っている仕事について、君がすでに本を書いているとわかれば、より安心して前払い金を振り込みできるだろう。
本を書けば儲かる、とは思わないほうがいい――特にデザイン関連の本では無理だ――とはいえ、毎月ちょっとした副収入が得られるのは嬉しいものだ。

大手出版社と手を組むか、それとも独力で自費出版するか、どちらのほうがいいだろう、と迷うかもしれない。
僕としては、特に初めての本を出すなら、出版社に君のアイデアを売り込むことを勧める。
僕が前著『ロゴデザイン・ラブ!』を執筆していたときに出版社から受けた支援は、編集の観点からも、販売とマーケティングの観点からも、とても貴重なものだったとわかった。
出版から2年経って、今では10カ国語に翻訳されているが、出版社の担当チームの助けがなければ、僕ひとりの力ではとうていこの成果は達成できなかったに違いない。
さらに言えば、名の知れた出版社から本を出すと、信頼性もずっと高まる自費出版された本だと、同じようにはいかない。

出版社からは、印税の前払いをしてもらうことができる (国や版元により事情は異なる) 。
これは、クライアントの仕事をあまり引き受けられない間、諸経費をカバーするのに役立つ。
一度本が売れて、出版社側が前払い金分を回収できれば、その後君は出版社と交渉したレートで (何事も交渉可能だ) 印税を自動的に受け取ることができる。

確かに、本を書くことのメリットの一つは副収入が得られることなのだが、実際に執筆をしているときは、クライアント相手の仕事をしているときと非常によく似ている。
各章の締め切りを守らなきゃいけないし、編集者からのフィードバックを受け入れる必要があるからだ。

とはいえ、僕にとってはそうでも、君にとってもそうとは限らない。
自費出版した本で成功を収めている人は何千人もいるし、著書を出版・流通させるために利用できるサービスはますます増えている。
だからしっかりリサーチして、君が正しいと信じる方向を選ぶことだ。

20-5 エネルギーとしての収入 p330

作家でデザイナーのマギー・マクナブ (Maggie Macnab) は、自動的に生み出されるお金の流れを「収入」と呼ぶよりも、むしろ「エネルギー」と呼ぶことを好む。
彼女は万物をエネルギーの諸相と捉え、お金はエネルギーの流れを人工的に解釈したものだと説明する。

「最良の状態では、お金は共同体の繁栄を促し、あなたとあなたの周りの人たちを支援します。
もっと大きな世界では、お金は世界各国間の相互作用という文脈も提供し、それは健全な文化交流につながります。
しかし最悪の状態では、お金は力のある立場から人々を操作し圧迫するための手段になるのです。
これに関連する私の話をしましょう。

どういうわけか、私はかなり早い時期に、自分が本当に好きなことだけをしよう、という誓いを立てましたが、その考えは正しかったんだと思います。
私にとって、それはまさしく理にかなっていました。
つまり自分の情熱に従えば、最高の結果が出せるのです。
私の魂が命じていることをきちんとやらなかったときはいつも、結果は自分の基準に達さず、とても残念な思いをすることになる、とわかりました。
そういうわけで、私は成功の基準――どのくらいのお金を蓄えれば成功と呼べるのかは特には設けてきませんでしたが、自分が良いと考える人生を支えてくれるものを欠かしたことは一度もありません。
それらはおいしい食事、探検と個人的な進化の機会に満ちた旅行、そして健全で満ち足りた人間関係――家族、友人、学生、クライアントとの関係です。
自分にとって正しいとわかっていることに従うことで、健全な人生、完全な人生が作り出されるのだ、と私は信じています。
これは学習することではありません。
根っこのところでわかっていることなのです。
それに導かれて、元からそうなるように運命付けられている自分を作り上げていくのです。
世界は私たちが繰り広げていく経験や人間関係を提示してくれます。
その中からあなたの人生を形作る経験を選び、参加することが非常に重要です。

まずは誰と仕事するか、何をするかは二の次だ p339

ベース (Base) の共同経営者でクリエイティブ部門長のティエリー・ブランフォート (Thierry Brunfaut) は、集中力を保つためのアドバイスをいくつか教えてくれた。

「若いデザイナーは、何年かの間、デザインのためにデザインします。
『何か』のため、つまりロゴだとか、ポスターだとか、本だとか、何らかの結果を出すためにデザインします。

でもある日、それが一番重要なことではないとわかるんです。
一番重要なのは『誰と』仕事するかです。

他の何を考えるよりも、一緒に仕事をする人を注意深く選ばなければなりません。
チームの仲間。
共同制作者。
クライアント。
それらが君の好きな人たちで、彼らとオープンに話し合うことができるなら、君のデザインプロジェクトはすべて、やりがいがあって、面白くて、楽しいものになるでしょう。
デザイン業についての僕のアドバイスはそれだけです。
まずは誰と仕事するか、何をするかは二の次です。

うちのデザインチームのコミュニケーションとデザインの向上を図るために、僕は10か条の基準を定めました。

1. どの仕事にもそれぞれ背景がある。仕事を始める前にそれを調べる。
2. まずは、コンセプト。次に、デザイン。
3. 我々はデザイナーのためにデザインするのではない。普通の人々のためにデザインするのだ。
4. 我々が制作するアイテムはすべて、コミュニケーションツールだ。
5. 我々はデザインの習慣とマスメディアに挑戦する。規則と戯れる。
6. どこかで見たようなものなら、何か別のものを試す。
7. 様々なクリエイティブ分野を自由にミックスする。
8. 試行錯誤をする。ミスをすることを恐れない。
9. 趣味に良し悪しはないと我々は信じている。
10. 我々は驚きをもたらす。人々を笑顔にしたいから。」

コミュニティの一部になる p350

「ウェブに関してモチベーションを保つのが難しいと感じたことは一度もないです」と言うのは、カリフォルニアを拠点とするCSSトリックス (CSS Tricks) のクリス・コイヤー (Chris Coyier) だ。
「本当にたくさんの人が、たった今本当にすごいことをやっていて、しかもその人たちはなぜ、どうやってそれをしたかを喜んで教えてくれます――まったく、信じられないくらい素晴らしいことですよ。
僕は他の人たちから情報を得て、仕事をして、できる限りこちらからも情報を提供しています。
コミュニティの一部だと感じられれば、たとえ自分ひとりだけのプロジェクトに携わっているときでも、モチベーションを保つことは簡単です。」

自分がしていることを愛そう p356

仮に僕らが最長で100歳まで生きるとしよう。
そのうち33年間は睡眠に取られるとして、10年間は子供時代、20年間は老年期で失われるとすれば、後に残るのはたったの37年間。
その間に、何か有意義なものを作り出すことになる。
その期間を悲嘆や不平不満、不必要なネガティブ思考で敵にしてはいけない。
僕らはポジティブ思考のときに、最高の作品を生み出すのだ。
死後、ふたたび何かを経験できるかどうかは、まったくわからない。
だから何よりもまず、自分の仕事を楽しみ、自分が置かれた環境に感謝し、物事を改善するためにデザインを利用することを愛そう。

p359

僕はここにまとめて載せるお勧めの読み物や参考資料のページをわざと短くした。
なぜならこれまでの章で、ライバルに差をつける方法についてのアイデアは十分に提供してきたはずだからだ。
とは言うものの、この本に関するウェブサイトの情報源ページを見てもらえば、もっと幅広い参考リンク集が載っている。
www.workformoneydesignforlove.com
参考書籍
※日本語版は原書改訂前のものも記載

・『It's Not How Good You Are, It's How Good You Want To Be』 by Paul Arden (Phaidon, 2003) / 『大事なのは今のあなたじゃない。この先、どのくらい上を目指そうと思っているかだ。』 ポール・アーデン著 (ファイドン、2010年)
・『How to Win Friends and Influence People』 by Dale Carnegie (Simon & Schuster, reissue edition, 2009) / 『人を動かす 新装版』 デール・カーネギー著 (創元社、1999年)
・『Design is a Job』 by Mike Monteiro (A Book Apart, 2012)
・『Steal like an Artist』 by Austin Kleon (Workman, 2012) / 『クリエイティブの授業“君がつくるべきもの”をつくれるようになるために』 オースティン・クレオン著 (実務教育出版、2012年)
・『The Win Without Pitching Manifesto』 by Blair Enns (Rockbench, 2010)
・『Designing Brand Identity』 by Alina Wheeler (Wiley, 2009)
・『Word of Mouth Marketing』 by Andy Sernovitz (Greenleaf, 2012) / 『WOMマーケティング入門』 アンディ・セルノヴィッツ箸 (海と月社、2010年)
・『100 Things Every Designer Needs to Know About People』 by Susan Weinschenk (New Riders, 2011) / 『インターフェースデザインの心理学 ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針』 スーザン・ワインチェンク著 (オライリー・ジャパン、2012年)
・『Don't Make Me Think』 by Steve Krug (New Riders, 2005) / 『ウェブユーザビリティの法則 ユーザーに考えさせないためのデザイン・ナビゲーション・テスト手法』 スティーブ・クルーグ著 (ソフトバンククリエイティブ、2007年)
・『How to Be a Graphic Designer without Losing Your Soul』 by Adrian Shaughnessy (Princeton Architectural Press, 2010) / 『魂を失わずにグラフィックデザイナーになる本』 エイドリアン・ショーネシー著 (ピエブックス、 2007年)
・『How to Think Like a Great Graphic Designer』 by Debbie Millman (Allworth Press, 2011)
・『The $100 Startup』 by Chris Guillebeau (Crown Business, 2012) / 『一万円起業 片手間で始めてじゅうぶんな収入を稼ぐ方法』 クリス・ギレポー著 (飛鳥新社、2013年)
・『Made to Stick』 by Chip Heath and Dan Heath (Random House, 2007) / 『アイデアのちから』 チップ・ハース、ダン・ハース著 (日経BP社、2008年)
・『Lateral Thinking』 by Edward de Bono (Harper Colophon, 1973)
・『Talent is Not Enough』 by Shel Perkins (New Riders, 2010)
・『The Designer's Guide to Marketing and Pricing』 by Ilise Benun and Peleg Top (HOW Books, 2008)
・『101 Contrarian Ideas About Advertising』 by Bob Hoffman (Hoffman/Lews, 2011)
・『Aesop's Fables』 by Aesop (Chronicle Books, 2000)
・『Logo Design Love』 by David Airey (New Riders, 2010) / 『ロゴデザイン・ラブ!僕の失敗と成功、みんなの話からわかるブランド・アイデンティティのつくり方』 デイビッド・エイリー著 (ビー・エヌ・エヌ新社、 2011年)
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「ideasonideas」 by Eric Karjaluoto
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忘れないでほしいこと
ここまで書いてきたものとそれ以外にも有用なリンクが、次のウェブサイトに書かれている。
www.workformoneydesignforlove.com