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「WHO YOU ARE」を読んだ

投稿時刻2023年4月25日 06:40

WHO YOU ARE」を 2,023 年 04 月 25 日に読んだ。

目次

メモ

行動こそが君という人間だ p15

一度失敗している者のほうがその失敗を悔い改め、以降は身を慎み、仕事に励む。
一度も失敗したことのない者は使いものにならない。
――葉隠

p19

では、そうした人の目にあまり触れない振る舞いをどう設計し、形づくればいいのだろうか。

その答えをシャカサンゴールに聞いてみた。
1990年代から2000年代にかけて、ミシガン州の刑務所でギャングの集団を率いていたのが、サンゴールだ。
ギャングたちの生死がこの集団の文化にかかっていることをサンゴールはわかっていた。
「ややこしいんだ。たとえば、誰かが自分の子分の歯ブラシを盗んだとしよう。あんたならどうする?」
サンゴールがそう聞く。

「大したことじゃないだろう。歯を磨きたかったから盗んだとか?」と私は答えた。

サンゴールは違うと言う。
「たかが歯磨きのためにそんなリスクを取る奴なんていない。
俺たちを試してるんだよ。
そこで俺たちが放っといたら、次はもっと大事なものを盗んだり、ケツを狙ったり、殺したり、商売を乗っ取ってもいいと思い込む。
かといってそいつを殺っちまったら、もう誰も俺たちを狙うこともなくなる。
とはいえ、それじゃあいくらなんでも厳しすぎる」

サンゴールが手を広げる。
「だから言っただろ。ややこしいって」

p23

私がいつもヒップホップの例をたくさん引用するのはどうしてかとよく聞かれる。
理由のひとつは、私自身がラッパーになりたかったのになれなかったことが、いまだに心残りだからだ。
これは本当の話。
だがもうひとつは、起業やビジネスや文化についての私のアイデアのほとんどは、ヒップホップを聴いている最中に思いつくからだ。
だから、私が今あるのはヒップホップのおかげだということをみんなに知らせたいという気持ちから、つい引用が多くなってしまうのかもしれない。
たとえばエリック・ビー・アンド・ラキムの「フォロー・ザ・リーダー』ラン-DMCの「キング・オブ・ロック」といった初期のヒップホップの楽曲は、
私が起業家として行っていたことと重なっていた。
私の仕事の文化は、彼らの文化と同じだったのだ。

p52

そんなものの見方が軍隊では問題になる。
大組織の運営に信頼は欠かせないからだ。
信頼がなければ、コミュニケーションも成り立たない。
なぜなら、「人間が触れ合うときに必要なコミュニケーションの量は、信頼の量に反比例する」からだ。

私があなたに絶対の信頼を寄せているとしたら、あなたの行動について私は説明を求めないし、話さなくてもいい。
あなたが私の利益を第一に行動することが私にはわかっているからだ。
逆に、私があなたをまったく信じていないとしたら、あなたがどれだけ言葉を尽くして説明し、理屈をつけても、私には通じないだろう。
あなたは本当のことを言うはずがないし、私のためを思って行動してくれるはずはないと私が思い込んでいるからだ。

組織が大きくなるにつれ、コミュニケーションは一番難しい課題になる。
兵士が上官を心の底から信頼していれば、そうでない場合よりも意思が伝わりやすいのは間違いない。

p61

イギリスとの戦争でルーベルチュールの軍隊が飢えに苦しんでいた時でさえ、
ルーベルチュールは地元の貧しい白人女性に食事を分け与えた。
「戦争の犠牲になった不幸な白人の運命に、私の心は引き裂かれた」とルーベルチュールは記していた。
助けられた女性は、この「驚くべき男性」が与えてくれた支えを記録に残し、その醜い元奴隷を「父」と呼んだ。
ハイチ革命を率いた奴隷を、植民地の白人女性が「父」と呼んだなどという話をしても、誰も信じてくれないだろう。
とてもありえない話だからだ。
だが、これは実話である。倫理にはそれほどの力がある。

p107

ウーバーの新入社員は、ウーバー大学と呼ばれるプログラムで3日間の初期研修を受ける。
最初の授業で、次のようなシナリオが与えられる。
「ライバル会社が4週間以内に相乗りサービスをはじめることになった。
ウーバーはライバル会社より先にまともな相乗りサービスをローンチできない。どうしたらいいか?」

ウーバー大学での正解は、「準備万端のふりをして、間に合わせのサービスをつくってライバルより先にローンチする」だった。
実際に、リフトが相乗りサービスをはじめることを知ったときにウーバーがやったのがこれだった
(私のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツはリフトに投資していて、
私自身がリフトの取締役なので、両社のライバル関係についてはかなり詳しく知っている。
もちろん、私がリフト寄りの見方をしていることは間違いない)。

ウーバーの法務チームも含めて、時間をかけてこれまでよりも優れたサービスを開発すべきと提案したチームは、「ウーバーらしくない」と否定された。
その言葉の背後にあるメッセージは明らかだ。
誠実さか勝つことか、どちらかを取れと言われたら、ウーバーではどんな手を使っても勝つことが優先されるのだ。

勝ちにこだわるというウーバーの姿勢がふたたび問われたのは、
中国のライドシェア市場で一番手の滴滴出行と競争しはじめたときだった。
滴滴出行は攻撃的な手口でウーバーに対抗した。
ウーバーのアプリをハッキングして、偽の乗客を送り込むようなことまでやっていたのだ。
中国ではこうした手口がかならずしも法律違反とされていなかった。
ウーバーの中国支社は同じ手口で出行にやり返した。
その後、この手口をアメリカ本国に持ち帰り、「ヘル」の異名を持つプログラムを使ってリフトをハッキングし、
偽の乗客をリフトに流しながら同時にドライバーの情報を盗んで引き抜いていた。
では、カラニックが部下たちにこうした手口を使うよう指示したのだろうか?
姑息で、犯罪すれすれの行為なのに?
真実は藪の中だが、カラニックの指示があったかどうかは関係ない。
法律に違反してもいいと思わせるような文化がすでに浸透していたことが問題なのだ。

アルファベット傘下で自動運転車を開発しているウェイモがライドシェアのアプリを開発しているという情報が流れると、
ウーバーはウェイモのエンジニアを強引に引き抜いて、自社で自動運転車の開発を一気に推し進めようと試みた。
アルファベットの子会社のグーグルはウーバーの大株主で、アルファベットの法務責任者兼事業開発責任者のデビッド・ドラモンドはウーバーの取締役だったのに、そんなことをやってしまったのだ。
さらにカラニックはもう一歩進んで、ウェイモから企業秘密を盗んで独立したと疑惑のあったオットーという会社を買収する。
ウーバーの経営陣は、オットーがウェイモから知的財産を盗んだことを知っていたのだろうか?
断定はできないが、ウーバーの文化を考えれば知っていたとしてもおかしくない。

p112

カラニックは倫理に反する組織をつくるつもりはなかった。
ただ、超負けず嫌いな会社をつくりたかっただけだ。
だが、彼の文化にはバグがあったのだ。

中国最大級の通信機器メーカーであるファーウェイも同じように、強烈だがバグのある「イケイケ文化」によって急成長した企業だ。
しかし、数々の違法行為で訴えられ、国際的な贈賄でも起訴され、最近ではCFO(最高財務責任者)が銀行詐欺で逮捕されている。

すべてのはじまりは、執念と競争心だった。
会社で寝泊まりできるように社員にはマットレスが支給され、
軍隊式の新入社員研修では朝からランニングではじまり、紛争地域の顧客支援の方法を教えるような寸劇もあったとニューヨーク・タイムズ紙は報道していた。

また、社員は毎年、一連の企業遵守事項を学び、署名しなければならなかった。
そのほかに、より非公式な形で、決して越えてはいけない「レッドライン」があると教えられた。
企業秘密を漏らすことや、規制や法を破ることだ。
しかし、「イエローライン」はグレーゾーンとされていた。
顧客獲得のためなら、ルールを無視して贈り物を送ったり、袖の下を掴ませたりすることは、むしろ奨励されていた。
それが、ガーナやアルジェリアでの贈賄につながり、イランへの制裁違反につながった。
さらに、Tモバイルがスマホの品質検査に使っていた「タピー」というロボットの技術情報を盗んだことも、ファーウェイは認めている。
ファーウェイ社員がパソコンバッグにタピーの腕を入れて持ち帰り、ファーウェイのロボット開発に役立てたと言う。
つまり、ここでレッドラインを越えたのだ。

2015年の企業恩赦で、数千人にのぼるファーウェイの社員が、贈賄から詐欺までさまざまな違法行為を認めた。
ファーウェイではどれだけ案件を獲得できたかだけで社員を評価していたことを考えると、
CEOの任正非もおそらく、違法行為は承知していたはずだ。
こうした一見ショッキングな告白のあとでも、任は全社員に向けて、倫理規程を厳守することはもちろん大切だが、
「倫理のせいでメシのタネが生み出せなかったら、全員が飢え死にする」とメールに書いていた
(もちろん、ファーウェイが中国政府の仕事を請け負っていて、
諜報機関と同じように国策としてルールを破っているとしたら、すべきことをしていると言えなくもない)。

何を評価するかは、何に価値を置いているかを示す。
ファーウェイがしたことはウーバーと同じだった。
特定のルールや法律に従わなくていいと言うことは、文化から倫理を取り除くことに等しい。

バグのない文化をつくるのは不可能だ。
しかし、倫理違反を引き起こすようなバグは一番危険だと理解しておくべきだろう。

だからこそ、ルーベルチュールはおおやけにはっきりと倫理を強調したのだ。
自分の組織が決してすべきでないことを具体的に書き出すことは、倫理違反を引き起こすようなバグへの最良の対策になる。

ルーベルチュールが兵士に語っていたことを思い出してほしい。
「私をがっかりさせないでほしい。
欲望に負けて、せっかくの勝利を棒に振るな。
敵を追い出したあかつきには、一番大切なものについて考える時間ができる」

この言葉がどれだけ的はずれに聞こえたかを考えてみてほしい。ルーベルチュールの究極の目標はウーバーと同様に勝つことだった。
戦争に勝たなければ奴隷制度は廃止できない。
勝つより大切なことはなかったはずだ。
兵士が略奪したいのなら、させておけばいいではないか。

ルーベルチュールはこのように説明している。
「この地上で最も大切な財産、それは自由である。
その自由が滅びることのないように、我々は戦っている」
倫理については、「なぜ?」を説明できなければならない。
なぜ略奪してはいけないのか?
なぜなら、略奪は真の目標の妨げになるからだ。
真の目標は勝つことではなく、自由だ。
もし間違ったやり方で勝ったとしたら、何を勝ち取ることになる?
市民から自由を奪うような戦い方をして、自由な社会を築けるのだろうか?
自由な社会を築けないなら、何のために戦っているのだろう?

ルーベルチュールは読み書きのできない元奴隷の集団を、哲学者のように扱った。
そして元奴隷たちはルーベルチュールの期待に応える働きをした。

武士道 p118

古代から中世の日本の武士階級である時には、「武士道」または「武士の作法」と呼ばれる、厳しい規範があった。
1186年から1868年まで、ほぼ700年にわたって武士が日本を治めることができたのは、この規範のおかげだ。
そして武士の作法は彼らの統治後も長く生き続けた。
今日の日本文化の根幹をつくったのは侍だった。

神道や仏教や儒教を取り入れた武士道の教義の中には、数千年も続いてきたものもある。
かなり古臭く感じられるものも一部にはある。しかし、これほど長い間武士の文化が続いてきたのは、
ありとあらゆる状況や、人生でかならず直面する倫理的な葛藤に対処するためのフレームワークがこの中にあるからだ。
武士道の教義は簡潔で一貫性があり、しかも包括的だった。
組織全体をまとめるような文化をつくるきめ細かな取り組みは、そっくりそのまま今日にも通用する。

侍にとって文化はどんな意味を持っていたか p118

武士道は一見、一連の哲学のように見えるが、むしろ実践の積み重ねだ。
侍にとって、文化は行動規範だった。
つまり、価値観ではなく徳(善い行い)の体系が文化だったのだ。
価値観は単なる信条だが、徳とは人間が努力し体現する行動だ。
いわゆる「企業理念」に意味がないのは、それが行動ではなく信条しか表していないからだ。
文化を築くにあたって、あなたが何を信じているかはどうでもいい。
あなたが何をするかに意味がある。
「武士の4誓願」もまた、行動を説くものだ。

一、武士道に於いておくれ取り申すまじきこと
(武士道を誰よりも率先して実践しなければならない)

一、主君の御用に立つべきこと
(主君に忠誠を尽くさなければならない)
一、親に孝行仕えるべきこと
(敬意をもって両親に孝行しなければならない)

一、大慈悲を起し人の為になるべきこと
(思いやりの心で他人を助けなければならない) 
武士の知恵をまとめた最も有名な武士道の著である「葉隠」では、こう教えている。
「剛臆と言う物は平生当りて見ては当らす。別段に有物也」
(勇気があるか臆病かは平時にはわからない。何かが起きたときにすべてが明らかになる)

p122

弓の達人として知られたある武士は、壁に「常在戦場」の文字を掲げ、常に戦場にいる心構えで事にあたるようにしていた。
木刀を風呂場に持ち込み、いつでも戦えるよう、また死を意識するように心がけていた武士もいた。

企業文化が脅かされるのは、危機が訪れたときだ。
たとえば、ライバル会社にやり込められたり、倒産の瀬戸際に追いつめられたりするようなときだ。
いつ死んでもおかしくないとしたら、どうやって目の前の仕事に集中すればいいのだろう?
その答えは、「すでに死んでいたら、殺されることはない」。
最悪の結果を受け入れていたら、失うものは何もない。
『葉隠』は、どのように最悪の結果を想像し、受け入れたらいいかを、生々しく描いている。

「一日のはじめに、死についてじっくりと考えなさい。
毎朝、静かな心で、自分の最後の瞬間を頭に思い浮かべなさい。
弓矢で射抜かれ、銃で撃たれ、剣で刺され、大波にさらわれ、地獄の炎に焼かれ、
雷に撃たれ、地震で潰され、断崖絶壁から墜落し、不治の病に冒され、または何の前触れもなく突然に死ぬ姿を。
毎朝かならず、死の瞑想に浸りなさい」 

自分の会社が破産する姿を思い浮かべれば、目指すべき文化を構築しやすくなる。
倒産したらどうなるかを想像してほしい。
働きやすい職場だっただろうか?
取引先にとって、仕事はやりやすかっただろうか?
相手にとって、あなたとの出会いは得になったか、損になったか?
プロダクトの品質に、あなたは誇りを持っていただろうか?

今どきの企業は、目標、ミッション、四半期業績といった指標ばかりに目を向けがちだ。
社員がなぜ毎日仕事に来るかを考えることはほとんどない。
お金のためだろうか?
お金と時間とどっちが大切だろう?

私のメンターのビル・キャンベルは、かつてこう言っていた。
「働くのはお互いのためだ。
一緒に働く人をどのくらい気にかけているか?
社員をがっかりさせたいか?」

あなたの目的が死を意識することであっても、お互いのために働くことであっても、
仕事そのものに意義があるということが、企業文化をまとめる接着剤になる。

p148

メラニックスの掟は複雑だが、仲間の団員に責任を持つことが基本だった。
よそ者が団員を殴ったら、団全体が仲間のために立ち上がる。
ということは殴った奴はどこの刑務所でも安全じゃいられないってことだ。
尊い兄弟分に助けが必要なら、かならず助けにいくのが団の掟だった。
仲間のケンカは自分のケンカだ。
仲間を助けないような団員は、尊敬できる兄弟分とは見なされず、守ってもらえなくなった。

サンゴールは次の掟に注目した。
仲間の弱みにつけ込まないこと。
仲間に暴力を振るわないこと。
そして、自分が接してほしいように仲間に接するということだ。そしてこうした掟を団の中に浸透させはじめた。

読み書きがあまりできない団員も多い。
だから、中身を理解せずにただ言葉だけ暗記してる奴らもいた。
理解してないから、掟を守れないんだ。

そこで文化を浸透させるために、週に1、2回勉強会を開くことにした。
俺が教育責任者になって、ナイーム・アクバーの『ビジョンズ・フォー・ブラックメン』『マルコムX自伝』、
ジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』(サンマーク出版)、
ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』(きこ書房)といった本をみんなで読んだ。

これらの本の基本要素を解説した教則本を俺が書き、団員全員の必須読本にした。
入団してから2年で俺はメラニックスの文化リーダーになった。
つまり、この団のリーダーになったってことだ。
若い連中は俺にすごくなついてくれた。
誰でも、信じられる何かがほしいんだ。

自分たちの文化を自分が尊重できないようなら、誰にも自分を信じてもらえなくなる。
この団の掟は俺の本心から出た掟だった。
俺はその掟を信じていた。
守り続けたいと思った。
その気持ちが組織文化をいい方向に向かわせた。