「チーズはどこへ消えた?」を 2,024 年 10 月 19 日に読んだ。
目次
メモ
私たちみんなが持っているもの――単純さと複雑さ p2
この物語に登場するのは、二匹のネズミ、「スニッフ」と「スカリー」と二人の小人、「ヘム」と「ホー」。
この二匹と二人は、私たちの中にある単純さと複雑さを象徴している。
私たちは、スニッフのように、いち早くチャンスをかぎつけることもあるし、スカリーのように、すぐさま行動を起こすこともあるし、ヘムのように、いっそうまずいことになりやしないかと怯えて、変化を認めず、変化にさからうこともあるし、ホーのように、もっといいことがあるに違いないと、うまく変化の波に乗ろうとすることもある。
どのような行動をとろうと、私たちみんなに共通していることがある。
迷路の中で、自分の道をみつけ、時代の変化の中で、望みを成就せねばならないということだ。
p32
彼はつづけた。
「あいつら、ただの単純なネズミじゃないか。状況に反応しているだけだ。われわれは小人だぞ。ネズミなんかより利口だ。この事態を解明できるはずだ」
「確かにわれわれのほうが利口だよ」ホーが言った。
「でも、いまのところあまり利口なことをやってないようだ。事態は変化しているんだよ、ヘム。われわれも変わって、違ったやり方をしなけりゃならないんじゃないか」
「どうして変わらなきゃならないんだ?」とヘム。
「われわれは小人だぞ。特別なんだ。こんなことがあっていいわけはない。少なくとも何か得することがなくちゃならない」
「どうして?」ホーが聞いた。
「われわれには権利がある」ヘムはきっぱり言った。
「何に対する権利?」
「われわれのチーズにだよ」
「どうして?」
「この事態はわれわれのせいじゃないからだ。誰かほかの者のせいなんだから、われわれはこうなったことで何かもらうべきだ」
ホーが提案した。「もうあれこれ事態を分析するのはやめて、見切りをつけて新しいチーズをみつけたほうがいいと思うんだが」
「だめだ」ヘムは言い張った。
「なんとしても真相を究明するんだ」
p39
ホーは言った。
「ねえ、ヘム、物事は変わることがあるし、決して同じことにはならない。あのころと一緒だよ、ヘム。それが人生だ!人生は進んでいく。ぼくらも進まなくてはならない」
p52
まだ新しいチーズが
みつかっていなくても
そのチーズを楽しんでいる
自分を想像すれば
それが実現する
p64
ホーは急いで挨拶を返すと、自分の好きなチーズすべてにかじりついた。
ランニング・シューズを脱いで紐を結ぶと、いざというときのために首にかけた。
スニッフとスカリーが笑い声をあげ、それから賞賛するようにうなずいてみせた。
ホーは新しいチーズにとりかかった。
おなかがいっぱいになると、新鮮な一片を掲げて乾杯のしぐさをした。
「変化、ばんざい!」
新しいチーズを楽しみながら、彼はこれまでに学んだことを思い返してみた。
変化を恐れていたときは、古いチーズの幻想にしがみついていた。
すでになくなってしまっていたのに。
そんな彼を変えたのは何だったのか?
餓死するという恐怖か?
実際そのおかげだったのだと思って、ホーは笑みを浮かべた。
彼は苦笑した。
私は、自分と自分の行動がばかばかしく思えるようになったとたん、変わりはじめたのだ。
自分が変わるには、自らの愚かさをあざ笑うことだ。
そうすれば見切りをつけ、前進することができるのだ。
また、前進することに関しては、仲間のネズミたちのスニッフとスカリーから有益なことを学んだ。
彼らにとって、人生はつねに単純だ。
事態をどこまでも分析しようとして、物事を複雑にしたりはしなかった。
状況が変わってチーズがどこかへ消えてしまうと、自分たちも変わってチーズを探しに出かけたのだ。
それを覚えておこう。
ホーはすぐれた頭脳を使ってネズミたちよりうまくやろうと考えたのだった。
彼は何かもっといいものを――もっとずっといいものを――みつけている自分を詳細に思い描いた。
これまで犯した過ちを振り返り、将来の計画に生かそうと思った。
人は変化に対応することができるようになるのだ。
それは――
物事を簡潔に捉え、柔軟な態度で、すばやく動くこと。
問題を複雑にしすぎないこと。
恐ろしいことばかり考えて我を失ってはいけない。
小さな変化に気づくこと。
そうすれば、やがて訪れる大きな変化にうまく備えることができる。
変化に早く適応すること。
遅れれば、適応できなくなるかもしれない。
最大の障害は自分自身の中にある。
自分が変わらなければ好転しない――そう思い知らされた。
おそらくもっとも大事なことは、つねに新しいチーズがどこかにあるということだ。
その時点ではそう思えなくても。
そして、恐怖を乗り越え、冒険を楽しむなら、報いはあるということだ。
確かに、恐怖をおろそかにしてはいけない場合もある。
本当に危険なことから遠ざけてくれることがあるからだ。
だが、ホーがいだいていた恐怖は大部分が理屈に合わないもので、そのために変わるべきときに変わることができなかったのだ。
変化は、災難に見えても結局は天の恵みだった。
よりよいチーズをみつけるよう仕向けてくれたのだから。
それに、自分の長所に気づくこともできた。
ホーは自分が学んだことを思い起こし、友人のヘムのことを考えた。
ヘムは私があちこちに書きしるした文句を一つでも読んでくれただろうか?
ヘムは見切りをつけ、前進する気になってくれただろうか?
もう迷路に足を踏みだし、もっといい人生にしてくれるものをみつけただろうか?
ホーはもう一度チーズ・ステーションCに引き返して、ヘムがいるかどうか確かめようかと思った。
一応、またここに戻ってくることができるとしてだが。
もしヘムがまだいたら、苦境を脱する方法を示すことができるだろう。
しかし、すでに一度、彼を変えようとしたことがあったのを思い出した。
ヘムは自分で道を見いださなければならないのだ。
居心地のよさから抜け出し、恐怖を乗り越えて。
誰も彼に代わってそうすることはできないし、彼を説得してそうさせることもできない。
当人が自分が変わることの利点に気づくしかないのだ。
ホーは彼のために目印を残してきた。
彼があの壁にしるした文句を読めば、前進することができるはずだ。
ホーは自分が学んだことをよく検討し、チーズ・ステーションNの一番広い壁にその要点を書きつけた。
そして、それを囲むように大きなチーズを描くと、にっこりした――
変化は起きる
チーズはつねにもっていかれ、消える
変化を予期せよ
チーズが消えることに備えよ
変化を探知せよ
つねにチーズの匂いをかいでいれば、古くなったのに気がつく
変化にすばやく適応せよ
古いチーズを早くあきらめれば
それだけ早く新しいチーズを楽しむことができる
変わろう
チーズと一緒に前進しよう
変化を楽しもう!
冒険を十分に味わい、新しいチーズの味を楽しもう!
進んですばやく変わり
再びそれを楽しもう
チーズはつねにもっていかれる
ホーは、ヘムと一緒にチーズ・ステーションCにいたときから見るとずいぶん遠くまで来たものだと思った。
だが、安心しきっていると簡単に事態が悪化することもわかっていた。
毎日、チーズ・ステーションNを点検し、自分のチーズの状態を確認した。
予期せぬ変化に驚くことがないよう、できることは何でもするつもりだ。
チーズはまだたくさんあったが、ホーはしばしば迷路に出ていき、新しいエリアを探索して、つねに周囲で起きていることに注意していた。
どんな選択肢があるのか知っていたほうが、居心地のいい自分の居場所に閉じこもっているより安全だとわかっていたからだ。
やがて、外の迷路で何かが動く音が聞こえた。
音が大きくなり、誰かが近づいてきたのがわかった。
ヘムがやってきたのだろうか?
彼が角を曲がろうとしているのか?
ホーは祈りの言葉をつぶやいた。
これまで幾度となく願ったことだが、ついに旧友がやってきたのでありますように……
p78
「私たちのビジネスを支えているのは、訪問販売をする大勢の販売員だと考えていたからよ。
販売員がとどまっているのは、高額商品を売って高額の手数料が得られるからだった。
会社は長年それでうまくいっていたし、将来もずっとそうやっていけるだろうと思っていたの」
ローラが言った。
「物語の中でヘムとホーが成功におごっていたのと同じことね。彼らは以前は役立っていたことも変えなければならないことに気づいていなかった」
「君たちはその古いチーズを自分たちだけのものだと思っていた」とネイサン。
「そう。
それにしがみついていたの。
私たちに起きたことを振り返ってみると、『チーズがどこかに消えてしまった』ということだけじゃなく、『チーズ』自体に寿命があって、いつかは尽きるのだということがわかるわ。
ともかく、私たちは変わらなかった。
でも、競争相手は変わり、わが社の売上は激減した。
私たちには厳しい状況がつづいてるわ。
現在、この分野でまた一つ大きな技術革新が起きているけど、会社では誰も手を打とうとはしていない。
それでいいとは思えないけど。
私、近く辞めるかもしれないわ」
p79
アンジェラが尋ねた。「ヘムも変わって、新しいチーズをみつけたと思う?」
エレインが言った。「そう思うわ」
「ぼくはそうは思わないな」コーリーが言った。
「なんとしても変わらない人もいる。
そういう人はその報いを受ける。
ぼくの患者の中にもいるよ。
自分の『チーズ』は絶対安全だと思ってる人が。
で、それをなくすと裏切られたように感じ、ほかの人のせいにする。
そういう人は、見切りをつけて先に進む人に比べて、ずっと病状が悪くなる」
やがてネイサンが、まるで自分に言い聞かせるように静かに言った。
「問題は、『何を見切り、どこへ進むべきか?』ということだと思う」
p94
本書も中心部分の物語はごく単純だ。
二匹のネズミと二人の小人がチーズを求めて右往左往するだけである。
が、本書冒頭の登場人物にふれたところにあるように、四者四様の性格をもち、四者四様の行動をする。
それは私たちみんながもっている「単純さ」と「複雑さ」を象徴するものである。
また、「チーズ」も、たかがチーズながら、この四者にとっては死活を制するものである。
自分にとって死活を制するものを失ったとしたら……。
本書に出てくるかつてのクラスメートたちのように、私たちも否応なく自分に重ねあわせて読んでいくことになるだろう。
なお、物語の登場人物の名前はそのまま使ったが、それぞれ次のような意味をもち、その人物を象徴するものとなっている。
スニッフ……においをかぐ、~をかぎつける
スカリー……急いで行く、素早く動く
ヘム……閉じ込める、取り囲む
ホー……口ごもる、笑う