「ふつうのデザイナーのためのタイポグラフィが上手くなる本」を2025年08月30日に読んだ。
目次
メモ
【コラム】そうさす業務日誌――① p22
デザイナーがタイポグラフィにこだわって作ったデザインも、顧客の意向によって改変の必要が生じることがあります。
「イメージと違う」「好みではない」など理由は様々ですが、顧客によっては具体的なフォントを指定してくる場合もあります。
例えば私たちの過去の案件では、筆文字の筆運びを活かした書体に対して、顧客から「MSゴシック」を指定されたことがありました。
MSゴシックは、フォントとしての品質に問題があるので、使用するとデザイン全体の完成度を下げてしまうことになります。
顧客の意向は尊重したいところですが、素直に反映することが必ずしも正しい対応とは言えません。
そこで「なぜMSゴシックなのか」という理由について丁寧にヒアリングすることで、「シンプルなゴシック体にして欲しい」という本来の意向を確認し、適切なゴシック体に置き換えました。
顧客としては、フォントに関する知識が少なかったため、普段から馴染みのある「MSゴシック」を指定したのでしょう。
フォントに関して顧客から具体的な指定を受けた際には、まずは相手の意図を確認すること、そしてこちらの意図を説明することが重要になります。
MSゴシックの問題①
太さが一定でない、不安定な字形
図:「の」「う」だけ線が太い
MSゴシックの問題②
等幅フォントで、半角英数字の字幅が全て同じで不自然
MS明朝も同様
Adobe Fontsって使ってもいい? p33
筆者が開催しているセミナーの受講者さんに「フォントはどこのものを使っていますか」と聞くと、「Adobe Fontsを使っている」と答えられることが増えてきました。
デザイン会社ではない会社のインハウスデザイナーだと、「フォントに予算をかけてくれないので、Adobe Fontsを使っている」という話も何度か聞いたことがあります。
一方で「Adobe Fontsはいつ使えなくなるかわからないから使わない方がよい」という話をみなさんも見聞きしたことがあるかもしれません。
私たちデザイナーにとって、Adobe Fontsはどのようなものだと考えたらよいのでしょうか。
前提として、スポットの仕事メインで、万が一過去のデータが開けなくなっても困らない方は、使用することにあまり問題はありません。
「いつ使えなくなるかわからない」というのは、提供しているフォントメーカーが、Adobe Fontsからフォントを引き上げてしまう危険があるためです。
ただし、Adobe Fontsで使える日本語フォントには、収録されている字数が少ない「お試し版」的なものや、元々オープンソースやフリーフォントとしてダウンロードできる書体が多く含まれています。
フリーフォントだから品質が低いとは断言できませんが、平均的にはメーカー品より劣る傾向があります。
よほど書体を見る目に自信がない限り、そのなかから本当によいフォントを選ぶには時間がかかるでしょう。
収録文字数の問題以外にも、ツメ情報がないフォントも多くあります。
チラシのような端物であれば、オプティカルカーニングを使用して、気になるところだけ手動で文字ツメするという手もありますが、ツメる箇所が多いページ物であれば現実的ではないかもしれません。
タイトルの位置と他要素の位置関係 p64
タイトルをどこに置くかは、そのタイトルが縦組みか、横組みかで、それぞれ大まかに6パターンずつ考えられます(これ以外の変則的なレイアウトパターンもたくさんあります)。
タイトルを最優先のデザイン要素として一番目立たせる場合、タイトルとの位置関係で考えられるレイアウトは、ある程度法則性があります。
レイアウトの基本として、視線移動は「縦組みはN型、横組みはZ型」とされます(図a)。
これを考慮すれば、タイトル以外の他の要素をどのように配置すればよいのかも、絞り込むことができます。
その際には、タイトルの次にどこを読んで欲しいかを考えましょう。
実作業では、タイトルの位置を意図的に少しずらしたり、斜めに配置したり、縦組み横組みが混在したりと、細かいバリエーションは無数にありますが、ここで解説する基本原則を覚えれば、迷うことは少なくなります。
基本的な視線移動。
縦組み横組みを混在させたデザインもよくありますが、基本的にタイトルが縦組みか、横組みかで、視線移動を考えるのがよいでしょう。
もちろんケースバイケースで判断する必要はあります。
写真・イラストとタイトルの関係 p78
主役となる写真やイラストがある場合の、タイトルの配置や、レイアウトはどのように考えればよいでしょうか。
レイアウトの教本などには、人物写真の場合、顔の向きや目線に気をつけるなど、物体の運動方向などいろいろな要素を基に考える方法が説明されています。
本書では、それらを踏まえたうえで、イラストや写真の持つ「方向」に着目した技法を紹介します。
写真やイラストには「方向」があります。
それは重力(下方向)だったり、移動方向だったり、パース(奥行き)だったりします。
タイトルを効果的にレイアウトする場合に、これらの「方向」は重要な要素となります。
「方向」と並行してタイトルを配置させると、紙面が整理された印象になったり、スピード感が増したりしますし、逆にクロスさせると奥行きが出ます。
文字組みの二つの考え方 p86
日本語の文字組みは、細かいところを考えるとかなり複雑ですが、組み方は大きく分けると二つしかありません。
それは①「升目状に揃える」と②「見た目で揃える」です。
升目状に組む方法は、主に「ベタ組み」があり、文字の仮想ボディを隙間なく升目状に並べることを言います(図a)。
他にも仮想ボディの間を均等にツメたりアケたりする、「均等ツメ/アケ」があります(図b)。
見た目で揃える方法は、「スペーシング(レタースペーシング)」と呼ばれ、文字同士の間隔を調整して、目的に応じた文字組みをすることをいいます(図c)。
①「升目状に組む」方法は、主に長文、特にページをまたぐような分量の文章に向いているとされています。
升目状に組むメリットは、「文章全体を見渡したときに一定のリズムが保たれているので、ゆったりと読める」「一定の設定に基づいて組版され、全体の整合性が整う」「文字数が算出しやすい」ことがあります。
ベタ組みに代表されるこの文字組み方法は、本格的に実践するにはエディトリアルデザインの知識が不可欠なのでここでは詳しく書きませんが、ここで紹介する基本的なことは覚えておいてください。
②「見た目で揃える」方法は、見出しやタイトル、ボディコピーのような短い文章に向いています。
文字組みを一つの塊としてとらえ、文字同士の間隔を微調整することで、美しい文字組みを実現できます。
また近年では横組みの長文を、OpenTypeフォントの「プロポーショナルメトリクス」や「メトリクス」で自動スペーシングをして文字組みをすることもあります。
日本語の文字組みは、このどちらか一方だけでは足りません。
①②を上手に使い分けることが、日本語タイポグラフィの上達には不可欠なのです。
スペーシングは(端物で)どこまでやるべきか p91
ポスターやフライヤー、チラシなどの端物において、スペーシングはどこまで適用するべきでしょうか。
文字数の少ないポスターであれば、細部までスペーシングにこだわるべきですし、文字数が多いチラシや記事広告であれば、ベタ組みやツメ組みを活用しつつも、タイトルや大見出しなどのスペーシングには気を配るのがよいと思います。
筆者の場合、どのような検討をしているかを下記に記します(◎最適、◯場合によって選択)。
タイトル
◎ツメ組み+手動スペーシング
大見出し
◎ツメ組み+手動スペーシング
○ツメ組み
小見出し
◎ツメ組み+手動スペーシング
○ツメ組み
(小見出しの頻度:大量)
長文(横・箱組み)
○ツメ組み
○ベタ組み
長文(縦・箱組み)
◎ベタ組み
○ツメ組み
短~長文(成り行き改行)
○ツメ組み+手動スペーシング
○ツメ組み
○ベタ組み
キャプション
◎ツメ組み
○ベタ組み
ここではツメ組み=アプリケーションによる自動文字ツメとしています。
端物であれば、できるだけ長文の箱組み以外は手動スペーシングをしたいところですが後の修正指示等を考慮すると、ある程度ツメ組みで効率よく制作する必要があります。