コンテンツにスキップする

「1万円起業」を読んだ

投稿時刻2024年4月19日 16:49

1万円起業」を 2,024 年 04 月 19 日に読んだ。

目次

メモ

p14

ベンチャー・キャピタルに関する大言壮語と自家製オーガニックレストランの話を盛り込んだ本はいくらでもある。
誰も読まないうえに、実際のビジネス経営とはかけ離れた80ページもの企画書の書き方を教える手引書もある。

本書はそういうものとはまるで違う。

本書を貫く2つの主なテーマは自由と価値だ。
自由は誰もが手に入れたいと願うもので、価値はそれを実現するための方法といえる。

生まれながらの一匹オオカミでなくていい p15

私自身もそうした生き方を送っている。

10年以上前、私は個人事業主としての生活を始めた。
「起業家になりたい!」と意気込んでいたわけではなかった。
自分の頭で考え、行動した結果、そうなっただけだ。

まず、小さなアパートの一室で、これまで他人がしてきたことを分析し、成功例を模倣することから始めた。
最初のビジネスは、ジャマイカからコーヒーを輸入して、ネットで売ること。
なぜかといえば、それで儲けた人がいたからだ。
私には輸入やコーヒー豆の焙煎、販売に関する特別なスキルは何もなかったが、十分な生活費を稼ぐことができた。

p17

誤解のないように言っておくと、この行動計画は働かずにすむ方法を教えるのではなく、よりよい仕事をするためにある。
目指すのは他人が喜んであなたにお金を払いたくなる価値あるものをつくり上げることだ。

考えているだけでお金を稼ぐ方法がわかるとあなたが思っているのなら、本書を置いてそうすればいい。

今日からできる「1万円起業」の基本モデル p28

本書で紹介する実例がどのようにして集まったかをお話しておこう。

すでに述べた通り、私自身が起業家であり、ビジネスモデルのケーススタディにも取り組んできた。
多種多様なケースを眺めるうち、いや応なしにある共通点を思い知ることになった。
採算のとれるビジネスは、だいたいにおいて1人で、たいした起業資金をかけずに始められていた――この発見が、ことの起こりだ。

現実を正確に知るため、私はチームをつくり、数年にわたる調査を実施することにした。

まず私自身でワークショップを開いたり、アメリカとカナダの65都市と世界15か国を回って、できるだけ多くの「予期せぬ起業家」たちに話を聞いた。
インタビューできた人数は、チーム全体で教えて100名以上にのぼる。

それと並行し、取材で聞いた話をオンライン講座に掲載しながら、似たような体験をも回答者のアンケートも集めていった。
この結果、さらに綿密なデータ(数百回におよぶ電話、スカイプによる面談、そしてメールのやりとりに加えて、4000ページを超える書面による調査の回答)ができあがった。

最終的に集まった回答者は1500人以上。
そしてその全員が、次の6つのうち、多なくとも4つの基準に合致していた。

①情熱主導型モデル
趣味や、夢中になっているものを基にしてビジネスを生み出した(ただし、あとで詳しく遊べるように情熱だけでは大きな利益に結びつくとは要らない)。

②超・低コスト
起業資金が1000ドル(10万円)未満、特にごくわずかな費用で――100ドル(1万円)未満で始めた例がほとんどだった。

③利益が少なくとも年間5万ドル(500万円)
少なくとも北アメリカの平均収入が稼げるビジネスが望ましい。
本書を読むとわかる通り、利益にはかなり幅がある。
10万ドル(1000万円)以上の高利益を稼ぎ出しているビジネスも多いが、基準は年収5万ドル(500万円)とした。

④特別なスキル不要
ごくふつうの人がビジネスを成功させた例を知るため、誰でもできるものばかり選択した。
なかにはある種のスキルを必要とするものもあるが、それらは短期間の訓練か、自主的な学習で身につけられるものだ(たとえば歯科医になるのは簡単ではないが、コーヒー焙煎の技術は他の仕事をしながらでも覚えられる)。

⑤収支の完全公開
回答者はその年の予測利益と、少なくとも過去2年間の実際の利益を公開することに同意した。
さらに、収支について具体的に話してほしい、という要求にも応じてくれた。

⑥従業員5人未満
ケーススタディの多くは完全に1人で経営しているビジネスだ。
その他の場合も、ビジネスの規模を小さく、少人数に保っている例に注目した。

なお、違法行為はもちろん、アダルト産業や、いったい何の仕事なのかよくわからない不透明な事業は除外した。
判定基準は、次の質問に答えられるかどうかだ。
「自分のやっていることを、おばあちゃんにわかるように、堂々と説明できますか?」
本書に登場するストーリーの半分はアメリカから、残りの半分は他の国々から選んだ。
シリコンバレーからアトランタまで、アメリカは価値観においても、容易さにおいても、「起業家精神」の中心地だ。
しかし本書を読めばわかる通り、世界中の人びとがマイクロビジネスを創造している。
その中にはアメリカのモデルに倣ったものもあれば、独自のやり方をしているものもある。
ちなみに、ケーススタディの対象者にビジネススクールの卒業生はほとんどいなかったし、半数以上は過去にビジネスの経験がまったくない人たちだった。

大学を中退した人も何人かいるし、そもそも大学に行っていない人もいる。
こうしたユニークで新しい成功者たちの共通項を洗い出すつまり、古いルールを書き換え、新しいビジネスの真理を創造するのが、本書の目的だ。
集まったデータは、それだけで数冊の分厚い本を書けるほどだったが、本書ではもっとも重要な情報だけを抽出するように努めた。

マイクロビジネスがうまくいく「たった3つのルール」 p32

浮かび上がってきたのは、1万円起業がうまくいく3つのルールだ。
本書では、この3つのルールをさまざまな角度から取り上げることになる。

ルール①「共通部分」を探す
共通部分とは、あなたが好きなことや得意なこと(その両方を兼ね備えていればいちばんいい)と、他人の興味が重なる部分だ。

その他人の興味は、喜んでお金を払うほど強いものでなければならない。

あなたが大好きなこと、得意なことが何でも人の興味を引くわけではないし、ビジネスにつながるわけでもないのだ。

この点を勘違いすると悲劇のもとでしかない。

だが、情熱やスキルと他人の興味が一致する2つの円の共通部分ならば、自由と価値に基づいたマイクロビジネスが誕生する余地がある。

ルール②スキルを転用する
本書に登場するプロジェクトの多くは、必ずしもそのためにもっともよく使われるスキルの持ち主ではなく、関連した別のスキルの持ち主が始めたものだ。

たとえば、すぐれた教師は勉強を教えるのがうまいだけではない。
コミュニケーション全般、集団管理、長期計画の策定と実行、そして異なる利益団体(生徒、保護者、学校経営者、同僚教師)の関係の調整などにも長けていることが多い。
教師はそれ自体が尊い仕事だが、これらのスキルは別のビジネスを創造するうえでも役に立つ。
「スキルの転用」と言われてもピンとこないかもしれないが、こう言い換えればどうだろう。
「自分が得意なことはたぶん1つだけではない」と。

ドイツ出身のキャット・アルダーはロンドンでウェイトレスとして働いていたとき、「君はきっとPRの仕事に向いているよ」と人に言われた。

キャットには何のことやらさっぱりわからなかった。
「PR」が「広報」を意味するということさえ知らなかったのだ。
でも彼女は、いつもメニューのなかからお客が気にいりそうなものを上手に勧めて喜ばせていたし、自分はチップをたくさん稼ぐ優秀なウェイトレスだ、という自信はあった。

イギリスの公共放送BBCで腰かけ仕事をしたあとで、キャットは以前言われたことを思い出した。
見よう見まねで広告の仕事を始めると、1か月以内に最初のクライアントを獲得し、コツをつかんでいった。
4年後、彼女の会社は従業員5人を雇い、ロンドン、ベルリン、ニューヨーク、中国で営業するまでになった。
キャットはすぐれたウェイトレスの持つ「対人能力」を、クライアントの宣伝に応用したのだ。

従来の常識は忘れよう。
マイクロ起業を成功させるには、必ずしも特定の分野の第一人者である必要はない。
アメリカの人気コミック『ディルバート』の作者スコット・アダムスは、自分が成功した要因を次のように見ている。

「僕の芸術的才能はないも同然、文章力は基礎レベル、ユーモアのセンスは月並みで、ビジネス経験はごくわずか。
それでも漫画家として成功できた。
なぜかって考えてみたら、『ディルバート』シリーズは、この4つの能力全部を組み合わせたものなんだ。
世の中には僕よりすぐれた芸術家や才能ある書き手、面白いことを考えるユーモア作家、経験豊富なビジネスマンは山ほどいる。
めずらしいのは、その4つのささやかな能力が1人の人間に集まったことだ。
価値ってものは、そうやって生まれるんじゃないかな」

あなたも自分が持っているすべてのスキルのうち、他人の役に立ちそうなものについて――特にそれらの能力の組み合わせについて――ちょっと考えてみるといい。

ルール③「魔法の薬」
最初の2つのルールをまとめると、マイクロビジネスを誕生させる、ごく当たり前の計算式が見えてくる。

情熱やスキル + 有用性 = 成功

立ち上げに必要な「たった3つ」のこと p36

「ちょっと待って。ルール自体は難しくなさそうだけど、起業にはいろいろ必要なものがあるんでしょう?」

10年前ならそうだったかもしれない。
でも1万円起業の時代にMBAはいらないし(6万ドル(600万円)の学費がもったいない)、ベンチャー・キャピタルも、詳細なプランすら必要ない。
必要なのは、次の3つだけだ。

①製品またはサービス = あなたが売るもの
②代金を払ってくれる人びと = 顧客
③支払いを受ける手段 = 製品またはサービスとお金を引き換える方法

たったこれだけ!

興味がある人はいるのに売るものがなければ、ビジネスは成り立たない。
売るものがあっても、誰も買いそうになければ、ビジネスは成り立たない。
どちらの場合も、こちらが提供するものに顧客が支払いをする簡単で信頼できる方法がなければ、やはりビジネスは成り立たない。

三拍子そろえば……おめでとう!

あなたは起業家だ。
ここまで読んでおわかりの通り、1万円起業は文字通り誰にでもできるものだ。
本書ではすでに立ち上げた人の目を通して必要なポイントを学んでいくが、リラックスして楽しんでほしい(登場人物たちはみな、そうしていたのだから)。
まずは、気負わない「ビジネスの始め方」から見てみよう。

p40

レストランでの食事は、家で同じものをつくるのに比べてはるかに値が張る。
雰囲気やサービスに多大な割増金を払っているからだ。
サーモンリゾットを自分で料理したければ、そうすればいい。
レストランに来たのは、新しい料理を習うためではなく、もてなしてもらってくつろぐためだ。

なぜこんな話を持ち出したと思うだろうか?

実をいうと、うまくいかないビジネスの多くは、このシェフのようなことをしているのだ。
つまり、顧客に完全なサービスを提供するかわりに、顧客にも舞台裏を見せ、作業もしてもらったほうがいいだろうと考えてしまっている。
なぜなら、それが顧客の望みだと思い込んでいるからだ。

よく知られたことわざに、「人に魚を捕ってやれば、その人は一日生きられる。
魚の捕り方を教えれば、その人は一生生きられる」というものがあるが、これがすべての元凶だろう。

腹をすかせた漁師が相手なら、このことわざは正解だ。
しかしビジネスにおいては、これではうまくいかない。
ほとんどの顧客は、魚の捕り方を習いたいとは思っていない。
週間休みなく働いたあとでレストランに行くのは、何もかもやってもらいたいからだ。
キッチンで起きていることを詳しく知る必要はない。

それよりも、人びとが本当に欲しがっているものを与えたほうがいい。
ごく当たり前のことだがなかなか実行できないこのルールを、無意識のうちにうまく実行したビジネスの実例を紹介しよう。

p43

バーバラの話は、彼女が語ったあることが理由で強く印象に残っている。
私はいつもビジネスオーナーに、「何を売っているのですか」「顧客はなぜあなたから買うのでしょうか」と質問する。
多くの人は、この質問に対して直接的に答える。
「私たちが売るのはこれこれこういう製品で、人びとはその製品がこういうとき必要だから買うんです」と。
しかしときには、バーバラのようにもっと鋭い答えを返す人もいる。

「私たちはただ乗馬体験を売っているわけではありません。
自由を提供しているのです。
来てくれた人がほんの束の間でも日常を離れて、思ってもみなかったような人間になるお手伝いをしているんです」

この違いは決定的だ。
V6牧場を訪れるお客のほとんどは、仕事があり、休暇は限られている。
太陽の光がさんさんと降り注ぐビーチでのんびりするかわりに、小さな町の牧場で過ごすことを選ぶのはなぜだろうか。
その答えをバーバラは教えてくれたのだ。

顧客がそこを訪れるだけで「日常を離れて、別人になれる」のは、乗馬体験を提供するよりもずっと価値がある。
V6牧場は、幸せを箱に入れて売っているのだ。

p46

「弁護士時代、一流のマッサージ・セラピストと一緒に仕事をしたとき、私は彼女にこう言ったんです。
『仕事で誰かを幸せにできるなんて、きっとすばらしい気分でしょうね』。
やってみたら本当にそうだったわ」

V6牧場のバーバラとジョンのように、新しい仕事をつくり出す秘訣は、人びとがかなえたいと願う希望を見つけ、それを満たすことにあるとケリーは気づいたのだ。

「価値」の本当の意味 p48

ここで、プロローグで触れた「価値」という言葉についてよく考えてみよう。
私たちは深く意味を考えずにこの言葉を頻繁に使っているが、一体全体、価値とは何なのだろうか。
基本的な定義はこうだ。

価値 = 交換や努力によって生じる、望ましく役に立つもの

さらにシンプルに考えることもできる。
つまり、価値とは、「人びとの役に立つこと」だ。

マイクロビジネスを立ち上げたいと考え、誰かの役に立とうと努力しはじめるなら、あなたが進んでいる方向は正しい。
つまずいたときは、自分に問いただしてみよう。

「どうすればもっと価値を提供できるだろうか?」

あるいはもっと簡単に、「どうすればもっと人の役に立てるだろうか?」

大切なのは、「価値」は消費者が感じる「感情的な必要性」に結びついているということだ。
売り手はよく、「私たちの商品の特徴は……」と語るが、客が受け取るべネフィットについて語るほうがはるかに説得力がある。

戦略②顧客をヒーローにしよう p52

インドで私はプルナ・ドゥギララの話を聞いた。
プルナは、「エクセルの達人になる」トレーニングをビジネスにしている。
私は表計算ソフトにはあまり興味がなかったが、プルナの財政状態には関心を引かれた。

調査書の「昨年度の純利益」欄に、プルナは13万6000ドル(1360万円)と記入していたのだ。
アメリカでさえこれは相当な金額だが、これまでに旅した経験から考えて、インドでは途方もない収入といえるだろう。
しかも次の年(起業して3年目に当たる)は、20万ドル(2000万円)を超える見込みだという。

プルナの顧客は彼の熱烈なファンだ。
グーグルで検索すると、トレーニングの利用者の1人が、「エクセルの大恩人」とコメントしていた。
さて、彼はいったい何をしているのだろうか。

プルナは数年前に自分のウェブサイトを始めたが、最初は家族や日々の生活について書き込んでいるだけだった。
2009年になると本腰を入れ、エクセルを使って仕事の能率を上げるコツや使い方をウェブサイトで教えはじめた。
重要なのは、プルナがインド人だけでなく、世界中の見込み客を対象にしたことだ。
また、彼はアフィリエイト(広告収入)をあてにしなかった。
そのかわり、製品とサービスを自分でつくり出し、ダウンロード可能なガイドと継続的なトレーニングを提供した。

優秀なコピーライターでもある。
スプレッドシートに数値を入力するのはひどく退屈な仕事と思われがちだが、顧客が得られるコア・ベネフィットは単なる数値ではなく、もっと力強いものだと彼は強調する。

「私のトレーニングプログラムの利用者は、上司や同僚の前でヒーローになれます」
作業が楽になるばかりでなく、複雑な業務を単純化したことで周囲から認められ、評価されるはずだと。

ビジネスアナリストだったプルナは、この新しいビジネスでより多くの収入が得られるとはっきりした時点でもとの仕事を辞めた。
スプレッドシートがこんなにも魅力的になるのだから、他のどんなビジネスでも同じことができるはずだ。
プルナはそう伝えている。

p71

情熱主導型ビジネスを成功させられなかったオーナーたちに欠けているものは、「ふつうは趣味そのもので収入を得ることはできない」という視点だ。

誰かがその趣味を追求する手伝いをするか、趣味に間接的に結びつくものに対してなら収入が得られる。
この違いは重要だ。

注意点その2は、趣味と仕事を結びつけるのが本当に望ましいかどうかという点だ。

趣味や情熱が、毎日の仕事や責任から来るストレス解消のために大切なものだとしたら、趣味に対して常に責任を負う立場になりたいと本当に思うだろうか。

情熱の対象と仕事は分けておきたいと思う人もいる。

ベンジャミン・フランクリンは政治家として活躍しただけでなく、もともとは印刷業で身を起こし、アメリカではじめてタブロイド紙を発行した起業家でもある。
さらに、アメリカ初の公共図書館を設置したり、避雷針やロッキングチェアーを発明したりと万能の活躍をした。
この起業家の大先輩による実に意外な言葉を噛み締めておこう。

「情熱が君を動かすなら、理性に手綱を握らせておけ」

予期せぬ起業家たちに情熱主導型のビジネスモデルについて聞いてみれば、多くの場合微妙な含みのある返事が返ってくる。

「いつでも情熱の導きに従うべきだよ!」と答える人はほとんどいないのだ。

同様に、その考えを即座に否定する人もいない。
答えが微妙になる理由は、情熱に加えてあるものがあってはじめて、実際に利益を生むビジネスになるからだ。

情熱は「ときには役立つ」くらいに心得ておく p72

情熱に加えて必要なものとは、他人の問題解決につながるスキルだ。
それが何を意味するか、次に掲げた表で確認してみよう。

図式化すれば、次のようになる。

(情熱 + スキル) x (問題 + 市場) = ビジネスの機会

情熱は重要だが、この数式の一部でしかないことに注目してほしい。

特典航空券を予約するゲイリーのスキルが突然消えてしまったら、彼がどれほど旅行に対して情熱的であろうと意味がない。
ミーガンがいくらドレスに情熱を傾けようと、それらを買いたいと願う人の市場がなければ、ビジネスは成り立たない。

この章に登場した人たちは、自分のアイデアをお金に変えるために少しずつ異なるビジネスモデルを用いていたことにも注目しておこう。

・ゲイリー:
専門的なコンサルティング・サービスに対して定額料金250ドル(2万5000円)を受け取っている

・ミーガン:
具体的な品物(手づくりのドレスとブライダルアクセサリー)を販売しているが、料金は製品によって異なる

・ミニョン:
広告収入やスポンサーからの資金提供を受けて、視聴者に無料で人気のポッドキャスト番組を届ける

それぞれのビジネスモデルには、特有の強みと欠点がある。
ゲイリーは一度に250ドル手に入る……どんなにややこしい手配をしても、それ以上は受け取れない。

ミーガンはいろいろな製品を売っている(しかもコワーキングスペースを所有している)ため、収入はまちまちしかもウェディングドレスをつくるという主要な仕事は労働集約型だ。

ミニョンのスポンサーは安定した定期的な収入をもたらす……しかし、番組中に視聴者向けの宣伝を入れる義務が生じるので、ある程度自由が制限される。

こうした形態の違いを意識し、自分が提供する商品もしくはサービスに合ったビジネスモデルを考えてみよう。

第5章 顧客の年齢層を調べるな あなたの顧客には共通点がある。ただしそれは古臭い分類には当てはまらない p92

「顧客」や「クライアント」という言葉が頻繁に使われているのを見ると、こんな疑問が浮かんでくるのは当然だろう。

彼らはどういう人たちなのか?

どこにいて、どうすれば見つけられるのか?

これらの疑問について考えるとき、あなたの理想の顧客を従来の人口統計―─年齢、性別、収入など――にあてはめてみれば役に立つかもしれないし、役に立たないかもしれない。

私が最初の本を書いていたとき、出版業界のさまざまな人から、急成長するネットコミュニティの「ターゲット市場」について聞かれた。
私は長くビジネスをしているので、質問の意味はよくわかったが、私のブログを読んでいる多種多様な人たちをどう表現したらいいかわからなかった。

芸術家もいれば、旅行家もいる。

大学に進学するか自立して社会に出るかを迷っている高校生もいれば、第二の人生を計画中の定年退職者もいる。

起業家や個人事業主もいれば、昔からある職業についている人びとも多い。
おまけに、男女比はほとんど半々……。

そうか。
ターゲット市場は一般的な意味での「人口統計」とはまったく関係がないのだ。

聞かれてはじめて、そのことに気づいた。
私の読者の共通項は、自由で新しいスタイルの生活を求めていることだ。
そういう人たちが素性や経歴に関係なく集まっている。
志向でいえば「改革推進派」であり、大きな夢を追うと同時に、他人のためによりよい世界をつくりたいと考える人たちだ。

こうした分析のアプローチこそ、新しいターゲティングといえる。
意味のないカテゴリーに従って読者を分類したり区別したりする必要はもはやない。

戦略①人気のある趣味、流行をつかむ p97

ダイエット法はブームになってはすたれていく。
つまり、常に需要があるわけで、そこに市場があることを意味している。

パレオダイエット(原始人ダイエット)は、特定のもの(肉や生野菜)をたくさん食べ、その他のもの(穀類、乳製品、砂糖など)はごく少量だけ食べるか、まったく食べてはいけないというダイエット法で、広く知られはじめている。

あらゆるダイエットがそうであるように、パレオダイエットにも熱心な支持者がいる一方で、科学的根拠に疑いを持ち、強硬に反対する人たちもいる。
こうした状況多数の賛成派と反対派がいる産業や流行は、常に絶好のビジネスチャンスとなる。

ここでジェイソン・グラスペイに登場してもらおう。
彼はパレオダイエット支持者のための代表的なマニュアル『パレオ・ダイエット(The Paleo Diet)』を読んで、自分でやってみた。
気づいたのは、このダイエット法を守るのは難しい、ということだった。
「自然な食品を食べ、穀類を避ける」というルールは簡単に聞こえるが、計画を立てておかなければすぐに破ってしまう。

何かに興味を持つ人がたくさんいるが、それを日常生活で実行するのは大変だというケースも、絶好のビジネスチャンスを示す兆候だ。

ジェイソンは問題の解決に取りかかった。
本格的なパレオダイエット支持者は女性よりも男性が多く、だいたい25歳から35歳のあいだだとわかった。
こうした旧来型の統計も役に立ったものの、さらに重要な共通点は、「パレオダイエット支持者の経歴はさまざまだが、ダイエットを実行するためにあまり時間をかけられない」という悩みがあることだった。

さあ、ビジネスチャンスだ!
週ごとに何を買い、料理し、食べればいいかを示してあげられればいい。
つまり「魚を与える」のだ(ちなみにパレオダイエットではたくさん魚を食べるが、これはダジャレではない)。

3週間後、ジェイソンは自分のウェブサイトをつくり、ダイエットの実行プランを提供しはじめた。
初期費用は1500ドル(15万円)かかったが、1年以内に月々6000ドル(60万円)を超える利益を上げるようになった。
今、ビジネスの維持のためにかかる時間は……毎週サイトを更新するのに必要な2時間だけだ。

戦略②ほしいものをお客に聞く p99

あなたが「自分のクライアント」を知ろうとするとき、とても大切な事実を忘れないようにしよう。
人は買い物が好きでも、売りつけられるのは嫌いだという事実を。

旧式のマーケティングは「説得」に基づいているが、新しいマーケティングの基本は「誘うこと」だ。

説得型マーケティングとは、サービス内容を説明したり、競争相手よりすぐれている理由を伝えたりして、とにかく人に何かを納得させようとする方法だ。
このマーケティングは、一軒一軒しらみつぶしに訪問する掃除機のセールスマンに似ている。
たくさんのドアをノックすれば、そのうち掃除機が1台売れるかもしれない……だが、そのために費やされる人件費と門前払いの回数は半端ではない。

説得型マーケティングは、これからもなくなりはしないだろうが、今は他のやり方がある。
掃除機を抱えて一軒一軒訪問するのが嫌なら、本書に登場する人たちが顧客のほうから寄ってくるビジネスをどうやってつくったのか考えてみるといい。

あなたは何を売るのだろうか?

第2章の教訓「人がほしがるものを見つけ、それを与える方法を見つけよう」を思い出してほしい。
熱心なファンや忠実な顧客を生みだせば、彼らはあなたからの新しいオファーを待ち望み、それが出るや否や飛びつこうとする。
この方法はただ新しいだけでなく、よりすぐれた方法でもある。

異なるアイデアを検討し、どれがいちばんいいか確信がないときは、商品を買ってくれそうな人や現在の顧客(もしいれば)、あるいは自分のアイデアにぴったりな誰かにズバリ聞いてみるのがいちばん早い。

質問は具体的に何かを「好きか」どうか聞いても、あまり役に立たない。
あなたは単なる趣味ではなくビジネスを始めようとしているのだから、あなたが売ろうとしているものにお金を払ってくれるかどうか聞いてみるといい。
それによって、単に「好き」なのか、実際に「お金を払って買う」かが区別できる。

次のような質問から始めると効果的だ。

・__について、いちばん困っていることは何か?
・__について、いちばん知りたいことは何か?
・__について、どんなことをしてほしいか?

空欄には、具体的な話題や特定のニーズ、あなたが調査している産業を入れる。
たとえば「子育てについて、いちばん困っていることは何か?」あるいは「動画の撮り方についていちばん知りたいことは何か?」という具合だ。
こういった調査――回答者が好きなように答えられる自由記述式の調査――で面白いのは、それまで考えてもみなかったことが学べるところだ。
それはまた、新製品の大々的な売り出し、あるいは市場への再導入のきっかけにもなる。

一対一で質問してもいいし、グループを対象にしてもいい。
より広範囲に回答を求めるなら、私は「サーベイモンキー(SurveyMonkey.com)」が提供する有料のサービスを利用するが、「グーグルフォーム(グーグルドキュメント内にある)」を使って、見た目は劣るが無料のアンケートをつくることもできる。
回答者にメールであなたの考えを伝え、協力を依頼しよう。
質問はごく簡単なものにして、知る必要のあることだけを尋ねる。
私たちはみなヒマではないが、アンケートがよくできていれば、回答率は50パーセントを超えるだろう。

p114

見知らぬ客がインターネットのどこかからリンクをたどって、ニックの写真を50ドル(5000円)で買ったという。
「たいしたことないじゃないか」と思ったあなたは、これまで自力でものを売ったことがないのだろう。
私はそうは思わない。
新しいビジネスで何かが売れたら、数に関係なく、それはすごいことなのだ。

計画で未来を埋めるな! p118

考えすぎて足踏みをしないために、プランはA4用紙1枚以内にまとめておこう。
次の問いに1文で答えていくだけで、売り出しに必要なことはすべてそろう。
A4用紙1枚のビジネスプラン

概要
何を売るのか?
誰が買うのか?
このビジネスアイデアは誰を助けるのか?

お金
いくら請求するのか?
どうやって支払いを受けるのか?
このプロジェクトで稼ぐ方法は他にあるか?

売り込み
顧客はどうやってこの製品について知るのか?
どうすれば口コミで広めてもらえるだろうか?

成功の基準
次の指標を達成すれば、このプロジェクトは成功だ。
顧客数__または年間純収入__
(あるいはそのほかの指標)

障害と問題
このプランの具体的な懸念は?




懸念に対して考えられる解決策は?




期日
このプロジェクトを__までに立ち上げる。
最後に、プランニングの骨子を明確化するため、1文でミッション宣言をつくってみよう。

140字がちょうどいい。

これはツイッターでアップできる最大の文章量で、自分の考えを絞り込むためにぴったりの量だからだ。
140字のミッション宣言

盛り込むのはあらゆるビジネスに共通する2つの特徴だけ。
製品またはサービスと、それを購入する人たちのグループである。
この2点をまとめれば、次のような基本形ができあがる。

私たちは[製品またはサービス]を[顧客]に提供する
これをベースに肉付けしていく。
必要なのは説明的な特徴ではなく、あなたのビジネスのコア・ベネフィットだ。
すると、次のようになる。

私たちの[製品またはサービス]は[顧客]が[主要なベネフィットを]するのを/達成する役に立ちます。

このように焦点を絞り込めば、中身のない「会社用語」を避けられるし、顧客との関係から見たビジネスの本当の目的を掘り下げられる。
次にいくつかの例をあげてみよう。

あなたが犬の散歩サービスを考えているのなら、特徴は「私は犬を散歩させる」になる。

ベネフィットは「忙しくて犬と一緒に過ごせない飼い主が、安心して犬を預けられる。

手編みの帽子の図案を売っているなら、顧客のベネフィットはこんなふうになる。
「自分や親しい人のために、世界に1つだけの帽子を手づくりできます」

断れないオファーをつくろう p134

ポイントを押さえたところで、あなたもオファーをつくってみよう。

適切な相手に、適切な約束を、適切なタイミングで――これがそろえば断れないオファーの完成だ。

基本
何を売るのか?
いくらで売るのか?
このオファーに対してすぐ行動するのはだれか?

顧客のベネフィット
プライマリー・ベネフィット(決定的購買動機)は__
重要なセカンダリー・ベネフィット(副次的購買動機)は__

反対意見
このオファーに対する主な反対意見は?




これらの反対意見にどう反論するか?




タイミング
なぜこれを今買う必要があるのか?
このオファーにもっと説得力を持たせるために何を付け加えられるか?

「よくある質問(FAQ)」はPRのためにある! p136

オファーをもっと説得力のあるものにするには、さらに3つの追加条件がある。
1つは「よくある質問」のページ(あるいはどこでもいいが、よくある質問に答える場所)、もう1つは信じられないほどすばらしい保証、そして最後に、顧客の期待以上のものを与えることだ。
順に詳しく見てみよう。

追加条件①よくある質問――または「私があなたに知ってほしいこと」 p136

「よくある質問(FAQ)」のページは、質問に答えるためにあると思っていないだろうか。
とんでもない!
それは違う……少なくとも、それが唯一の役割ではない。
よくできたFAQのページには、もう1つ非常に重要な目的がある。
「反論つぶし作戦」と呼べるものだ。

つまり、潜在的な買い手に安心を与え、反論を抑えるのだ。
あなたは、予想される反論を先取りして考え、あらかじめそれらに対処しておかなければならない。

どんな反論が寄せられるだろう?
それは、「具体的なもの」と「一般的なもの」の2つのカテゴリーに分類される。
具体的な反論は個々の製品やサービスに結びついたものだから、それぞれのオファーを確認しなければ、どんな反論が来るのか予想もつかない。

しかし一般的な反論は、ほとんどあらゆる商品の購入にともなって同じものが現れるから、ここで知っておこう。

a 本当に効果があるとどうしてわかる?
b あなたに自分のお金を任せていいかどうか確信が持てない
c 他の人はどう思っているだろうか?評判は?
d お金を払わなくても手に入るのではないか
e オンラインで個人情報を送るのは心配だ(あるいはその他のプライバシーに関する懸念)

これらの反論を1つずつ見ていくと、本質的な問題は信頼と権威に行きつく。
反論を克服するには、顧客の信頼を育てなければならない。
オファーをつくるときには、あらかじめ反論についても考え……それを自分に有利なように方向転換させよう。

具体的には、次のようにする。

a これは実際に効果があります。なぜなら…… 
b 私たちを信頼してお金を預けてください。なぜなら……(あるいは、私たちを信頼する必要はありません。なぜなら私たちは実績のある第三者機関と提携して……)
c 他のお客様からは高く評価され、このようなコメントをいただいております……
d この製品やサービスは無料では手に入りません(あるいは、無料のバージョンは品質が劣ります。自分で手に入れようとすると大変な手間がかかります)
e セキュリティは万全で、過去に一切、そうしたトラブルは起きていません

ポイントは、言い訳がましくならず(なんとしても避けたい)、顧客の懸念に積極的に対処することだ。
自分のオファーを説明するときは、次の「すごい!フォーマット」を使うとよい。

①この商品はとてもすごい!(プライマリー・ベネフィット)
②こんなことまでできる。冗談抜きですごい!(セカンダリー・ベネフィット)
③しかも、あなたは何も心配する必要がない(懸念に対する対処)
④ほら、本当にすごいでしょう。何をぐずぐずしているんですか?(行動を促す)

準備しておけば万全とは限らない――ときには最初の販売プロセスの最中に、実際の顧客から新しい反論が届くかもしれない――それでも、最初にもっとも重要な反論に対処しておいたおかげで、何もしなかった場合よりもはるかにいいスタートが切れるだろう。

追加条件②信じられないほどすばらしい保証または「ご心配いりません」 p139

売り物が何であろうと、多くの見込み客が抱える最大の懸念は常に決まっている。

「気に入らなかったらどうしよう?お金を取り戻せるだろうか?」

この懸念を解消させる一般的かつ効果的な方法は、満足保証を提供することだ。

ここからが重要。
保証を複雑で面倒で嫌気のさすものにしてはいけない。
顧客にあまり考えさせないように、シンプルで簡単なのがいちばんだ。
スノーボードのレッスンプログラムを運営しているネプ・ラップウッドは、「120パーセントの保証」を提供している。
もしプログラムに満足できなかった場合、費用の100パーセントを返金し、さらに迷惑料として20パーセントを支払うというものだ。

すべてのビジネスが、「信じられないほどすばらしい保証」を提供できるわけではないが、条件をわかりやすくするのは最低限必要だ。

逆に、製品やサービスをあえて保証しないで、その点を強調するのも1つの手だ。
保証がないという点で顧客はふるいにかけられる。
合わない顧客は遠ざかっていくだろうが、そのかわり、それでもいいという顧客の購入は増加するだろう。

つまり、信じられないほどすばらしい保証を提供するか、さもなければ一切保証しないほうがいい。

追加条件③期待以上のもの――または「マジ?ここまでスゴイとは思ってなかった」 p141

何かを購入した直後、私たちはしばしば不安に襲われる。

「いい買い物だったかな?損してないかな?」

ネット注文などの場合、こうした不安を払拭し、「買ってよかった」という気持ちを強化するもっとも簡単で効果的な方法は、できるだけ速く商品を届けることだ。

一歩進んだ上級編もある。
期待以上のものを届けることだ。
手書きの礼状を添える、おしゃれな袋に入れる(これらは店舗で売る場合にもできる)、などの方法が考えられる。

これら3つの追加条件に共通するのは、「顧客の不安を取り除けば、それはアピールポイントに変わる」という、魔法の力だ。

それから、最後にもう1つ。
サービスにプラスアルファの魅力を生むのはいつでも、「小さくても意味のあるもの」だということも、一緒に覚えておいてほしい。

話すに値するものをつくり、話せ p161

この章では「売り込み」について、言い換えれば「プロジェクトに関する情報を広める方法」について取り上げる。

売り込みとは何を意味するのだろうか?
この問いに答える方法はいくつかあるが、私はジョーイ・ロスが考えた上のモデルから考えるのが好きだ。

3つの図は、何かを売り込みたがっている人物またはビジネスのタイプ(またそれぞれの成功の可能性)を表している。
「ペテン師」は口先だけで、主張を裏づけるものが何もない。
「殉教者」はひたすら不言実行で、話すに値するいい仕事を十分しているのに、話をするつもりがないか、できない。
「やり手」はこの2つのタイプの理想的な組み合わせで、話と仕事が融合している。

図の「やり手」のイメージは、私が物書きや起業家として毎日やろうとしていることに近い。
つまり、ひたすら創造し、ひたすらコミュニケーションする。
コミュニケーション(言い換えると、話)は、必ずしも今やっている仕事に関係があるとは限らない――ときには他人の売り込みを手伝っている場合もある。

さて、さっきの分類を別の角度から見ると、次のようにもいえる。

中身のない表現 = こけおどし
(残念だが、こういう輩は誰からも尊敬されない)

表現のない中身 = 無名
(知っている人からは尊敬されるが、多くの人に広がることはない)

中身のある表現 = 影響力
(目指すのはこれ!)

「100万円かけた宣伝」と「自力で無料の売り込み」、勝ったのは? p170

「将来、マーケティングはセックスと同じようになるだろう。そのためにお金を払うのは負け犬だけだ」

あまりにも有名なこの言葉は、2010年12月のファスト・カンパニー誌に初登場した。
いいことを教えてあげよう。
時代はとっくにそうなっている。

負け犬に限らないかもしれないが、マーケティングにおいて、有料の宣伝の役割はずいぶん前から様変わりしている。
私が聞いたケーススタディのほとんどは、有料の宣伝をまったく使わずに顧客ベースをつくっていて、その多くを口コミに頼っていた。

p172

私はそう思うが、これにはいくつかのただし書きがつく。

まず、私には他の人にはないコネがあって、そのコネのおかげで1時間当たりの売り込み価値が高くなったのだろう、と思われるかもしれない。

この指摘は部分的には正しい面もある。
しかし売り込みで肝心なのは、自分の持っているコネが何であれ、それをうまく利用することだ。
誰もが1時間の売り込みで756ドル(7万5600円)稼ぐのは無理かもしれない。
しかし場合によっては、もっと売り込み価値を高くできた可能性さえある。

また、売り込みに無限の時間をかけられないというのも事実だ。
もし私の使えるお金が1万ドルではなく10万ドル(1000万円)だったら、状況は変わっていたかもしれない。
売り込みと有料の宣伝(くどいようだが、厳選したもの)の組み合わせが、人によっては現実的な選択肢になるだろう。

自分で売り込みをすることは、あなたを前進させる力になる。
ビジネスを周囲に広めたいと思うなら、まず売り込みを考え、有料の宣伝は(もしやるとしても)あとからにしよう。

話すに値するものをつくって、それについて話す。

あなたは誰を知っている?

その人たちはどんなふうに力になってくれる?

その答えは、あなたがどれくらい人の役に立っているかによって決まる。

p178

「ビジネスの目的は利益だってことを忘れちゃダメです。
好かれること、ソーシャルメディアで目立つ存在になること、誰も買ってくれないすごい製品をつくることではありません。
見た目のいいウェブサイト、完璧なメールマガジン、超人気のブログを持つことでもありません。

大企業ならば、株主への説明責任というものがあります。
株主に『フェイスブックではこんなに人気があるんですよ!』と言ったって、そんなことでは満足してもらえません。
ビジネスは人気コンテストじゃないんですから、利益を示さなければいけないのです。

あなたの小さなビジネスでも同じなんです。
あなたは自分のビジネスの大株主だし、投資したお金を守る必要があります。
日常の行動ができるだけ直接、お金儲けにつながるようにしないといけないのです」

ナオミは正しい。
お金儲けに関係ないことをやりたければいくらでもできる――しかし、そのせいでやるべきことを忘れないように注意しよう。

意欲的なビジネスオーナーの多くが犯す過ちが2つある。
しかもその2つは関連している。
1つはプロジェクトを始めるためのお金をどこで手に入れるか考えすぎること、そしてもう1つはビジネスによる収入がどこから入るのかほとんど考えないことだ。

これらの問題を解決する(あるいはそもそもそういう問題を避ける)には、簡単な方法がある。
できるだけ出費を少なくし、できるだけたくさん稼げばいい。

p180

ヘザーのストーリーは、2つの重要な、しかも両方ともお金に関係のある原則を示している。

まず、ビジネスは常に利益を重視しなければならない。

次に、起業時の借金、あるいは多額の投資は、必ずしも必要ではない。
この点は本書の他の登場人物たちも証明してきたが、ヘザーは、不必要だったものに多額の投資をしてしまった苦い経験も教えてくれた。
効果がわからないなら、大金を投じないほうがいい。

借金は、リスクを抑える手段があり、自分がやっていることをよくわかっている場合だけ許される、望ましくない選択肢だと肝に銘じておこう。

p182

これらはけっして極端な例ではない。
本書の調査対象となった1500人の起業コストの範囲をグラフで見てみよう。
初期投資の平均額は610ドル60セント(6万1060円)だった。

マイクロビジネスを始めるのはきわめて簡単だ。
だから、ビジネスのやり方を心得るまで、あるいは心得ない限り、マイクロビジネス以外に手を出すのはやめたほうがいい。

スモール・イズ・ビューティフル。

たとえ大規模なビジネスをするだけの資金があるとしても、小さいほうがメリットのある場合が多い。

収益性をたちまち高める3つのルール p183

繰り返すが、起業資金を借りるより、まずはお金が入るようにすることのほうがはるかに大切だ。
ケーススタディをよく観察した結果、収益性を高める(起業してすぐに収益を上げるか、ビジネスが成長するにつれてもっと収益を上げる)方法は、3つの基本原則に集約できることがわかった。

次にあげるその3原則は、私自身のビジネスにも当てはまるものだ。
本書を書きながら、意識的にそれらに集中してみると、私のビジネスはさらにうまくいくようになった。

原則①コストではなく、ベネフィットに基づく価格 p183

第2章で、特徴とベネフィットの違いについて考えた。
復習すると、特徴は説明的なもの(「この服は体にぴったりでよく似合います」)を指し、ベネフィットはその製品から人が受け取る価値(「この服はあなたを健康的で魅力的に感じさせます」)を指す。

オファーの特徴よりもベネフィットを強調すべきなのと同様に、オファーの価格もベネフィットに基づいて考えるべきだ。
製品やサービスを生み出し、完成させるためにかかる時間と実際のコストに基づくべきではない。
それは、買い手にとってまったく関係ないことだからだ。

実際、価格を決定する最悪の方法は、それをつくるのにどれくらい時間がかかるか、あるいはあなたの時間にどれくらい「価値があるか」を考慮することだ。
あなたの時間にどれくらいの価値があるかは、完全に主観的な問題だ。
ビル・クリントンはたった1時間のスピーチで20万ドル(2000万円)稼ぐ。
家族で集まってステーキを食べる夜、あなたはクリントン(あるいは別の大統領でもいいが)に20万ドル払ってスピーチしてほしいとは思わないだろうが、理由はどうあれ喜んでそれだけの金額を投資する会社もあるのだ。

提供するベネフィットに基づいて価格を決めるときは、一歩も引かない覚悟をしよう。
いくらにしようと、高すぎると文句を言う人は必ずいる。
これまで会った人たちのなかで、「新しいビジネスが成功しているのは業界最安値をつけているからだ」と言った人は、ほとんどいなかった。

出血大サービスの戦略がウォルマートでうまくいくからといって、おそらくあなたや私にとってはうまくいかないだろう。
価値で競うほうがはるかにいい。

すでに紹介したように、ゲイリー・レフは、多忙な人が旅行の予約をするのを手伝って、250ドル(2万5000円)の一律料金を請求している。
調査と予約にかなりの時間がかかる場合もあれば、運よくほんの数分の調査と10分程度の電話でカタがつくときもある。

だが、予約を頼む人にとっては、数分で終ろうが2時間かかろうがどうでもいいということを、ゲイリーはよくわかっている。
依頼人は、希望のフライトを確保する彼の専門知識にお金を払っているのだ。

わかりやすくまとめると次のようになる。

・時間コスト:大きく変動するが、平均すれば1回の予約あたり30分
・ベネフィット:世界中の観光地に行くファーストクラスまたはビジネスクラスの航空
・報酬:250ドル(時間コストに応じて変化しないことに注目)

この原則は、本書に登場するほとんどすべてのストーリーのなかに読み取れる。
特に極端な例はオンライン講座を含む、情報やハウツーを売るビジネスだ。
販売費用が実質的にゼロに近い講座が、1000ドル(10万円)を超える値段でいくらでも売れているが、それらは妥当な値付けなのだ(開発と初期のマーケティング以外に費用はかかっていないにしても)。

新しいプロジェクトの価格を考えるときは、「このアイデアは顧客の生活をどのように改善し、その進歩は彼らにとってどれくらいの価値があるだろうか?」と考えてみよう。
そのオファーに重要な価値があるなら、それにふさわしい価格をつけなければならない。

原則②(限定的な範囲で)何種類かの価格を提案しよう p186

顧客のベネフィットに基づいてサービスの初期価格を選ぶのは、もっとも重要な原則だ。
だが、収益性を最大化するためには、オファー内容に応じた何通りかの価格を用意したい。
なぜなら、そうすることによって顧客を増やさなくても、収入を増やせるからだ。

代表的な例が、ご存知アップルだろう。

アップルの出す製品の数は限られていて、価格競争をしないことはよく知られている。
しかし、その少ない製品に必ず何通りかの価格とオプションが用意されているのがポイントだ。

iのつく最新の電子機器を買いたければ、初心者用(それでもアップル製は高いが)、中級用、「スーパーユーザー」用の最高機種から選べるようになっている。
アップルの経営陣は、こうした価格設定により、はるかに多くの収入を得られると知っているのだ。

最大の理由は、ふつうの機種より値段がはるかに高くても、かならず最上位機種を買う顧客がいることだ。
このような買い手によって、全体の販売価格は引き上げられる。
また、最高機種を提示することにより、「基準となる価格」が生まれる。
私たちは極端に高い価格を見ると、それより低い価格が手頃に見えてしまい、心の中にお買い得感が生まれる。
頭の中はこんな感じだ。

「いやあ、マックブックに3000ドル(30万円)は高いな。
だけどこっちの1500ドル(1万円)のモデルだってすごくいいじゃないか」

p190

この戦略で肝心なのは、価格の種類を限定することだ。
混乱を招くほど多くはないが、購入者に合理的な選択を与えられる数にする。

さらに多くの種類の価格を用意するときは、ゴールド、ファーストクラス、デラックスなどのバリエーションや、同じ製品の付属品付き版、あるいは数量限定などの方法が使える。
また最下位に、サービスの一部を顧客に無料体験してもらう「お試し版」を追加するのも有効な方法だ。

p191

実は、ほとんどすべてのビジネスで、こうした「継続プログラム」をつくれる。
たとえば、「毎月1回」と銘打ったものをあげてみよう。

本を届ける「今月の1冊(ブック・オブ・ザ・マンス)」のほか、「今月のピクルス」「今月のオリーブオイル」「今月の犬のおやつ」まである。
私の友人のジェシーは「今月のカップケーキ」クラブを運営している。

盆栽が趣味で、すぐに枯らしてしまうのが悩みの種なら、毎月新しい鉢が届く「今月の盆栽」クラブがオススメだ。
ただし、4つの競合する会社がそれぞれ異なるサービスを提供しているので、どれか1つを選ばなければならない。

繰り返し稼ぐのがなぜ大事か、その理由はごく単純なものだが、念のためまとめておこう。

第一は、大きな収入が得られるから、そして第二は外的要因に左右されない安定した収入になるからだ。
さらに、顧客を定期的なモデルに誘い込めば(そして彼らが満足し続けるように注意すれば)、他の製品もあなたから買ってくれる可能性が高くなる、という利点もある。

一方、注意点も心に留めておかなければならない。
顧客の多くは定期サービス契約に乗り気ではないことだ。

なぜならそのサービスを利用しなくなっても請求が続いたり、やめようとしてもしつこく引きとめられたりするのが心配だからだ(2番目の問題を解消するために、私は自分のサイトに「手間のいらない」キャンセルボタンをつけた)。

これらの点を念頭において、顧客が支払いを続けてくれる限り、必ず価値を提供し続けよう。

第11章 収入を倍増させる微調整 順調に進みはじめたときこそ、やり方を見直そう p196

ケーススタディの対象者たちは、「ビジネスを育てるのは、始めるのに比べればよっぽど楽だ」と繰り返し言う。
よく聞くのはこんな言葉だ。

「うまくいくものを見つけるまでは時間がかかる。
だけどいったん動きはじめたら弾みがついて、あとはとんとん拍子さ」

第6章に登場したニックが写真を50ドル(5000円)で売って大感激したように、最初の販売はいちばん難しいが、最上の喜びを感じさせてもくれる。
何人もが同じことを口にした。

「はじめて売れた日、このビジネスはきっとうまくいくと確信しました。
あとのことは全部、その確信を一層深めたにすぎません」

私はそれを、「最初の1ドル25セント(126円)がいちばん難しい」の法則と呼んでいる。

1ドル25セントの理由?
何年も前のある日、私がブリュッセルで乗り換え待ちをしているあいだに、新しいプロジェクトで、はじめて稼いだ金額だからだ。
ベルギーワッフル1つ買えなかったが、未来は明るいと感じたのを覚えている。

「ツイークで稼ぐ」方法・基本編 p199

既存のビジネスで収入を増加させる半ば公然の秘密は「ツイーク」だ。
ツイークとは、「大きな変化につながる細かい修正」を指す。

ある製品がいつもは1.5パーセントのコンバージョン率(見込み客のうち実際に購入した人の割合)があるとして、それを1.75パーセントに引き上げられたら、その金額差は時間がたつにつれてみるみる大きくなる。

あるいは、あるビジネスがふつうは1日4人の新規顧客を呼び込める場合、それが5人になったら、その影響は計り知れない。
単に収入が25パーセント増加するばかりでなく、
顧客ベースも多角化するからだ。

ステップ②コンバージョン率を上げる p201

そして次がこれ。
この順番を間違えないようにしよう。

あなたのビジネスに関心を持つ人びとを一定数確保したら(オンラインの場合、サイトへのアクセス数などで判断できる)、次はコンバージョン率に注目してみたい。
この数字を上げる古典的な方法に、いくつかのキャッチコピー(あるいはオファー、見出しなど)を実際に試して、結果がいいほうを残すというものがある。
A/Bテストだ。

アクセス量の確認 → A/Bテスト → 結果を比較

結果が出たらまた次のテストを実施し、常に「最善のアイデア」をもう1つのアイデアと比較していく(「グーグルオプティマイザー」を使えば無料でテストできる)。

これは実にすぐれた戦略だが、注意事項が1つある。
いったん現れた顧客をどうやって購入者に変えるかより、顧客がどういう人たちなのかをじっくり観察するほうが重要かもしれないということだ。

「テストは重要ですが、もっと重要なのはアクセス元ですよ」

作家で起業家のラミット・セティは語っている。

「つい見出しやキャッチコピー、デザイン、そして小さなボックスにいたるまでスプリットテストをしたくなるものですが、アクセス元を分析したほうがもっといい結果が得られます」

「ツイーク」で稼ぐ方法・応用編 p204

ビジネスオーナーにどんなツイークに取り組んできたか聞いてみると、多くはこんなふうに答える。

「いちばん大事なのは行動し続けることだよ」

毎朝、実際の経営にとりかかる前に、ビジネスの改善に集中して取り組む時間を30分つくっているという人もいる。

応用ステップ④考えられるいちばん強力な保証をつける p207

ほとんどのビジネスは保証がありきたりでつまらない。
この点については第7章のオファーの話でも触れたが、ツイークの段階でも見直してほしい。

新しい例をあげよう。

靴のインターネット販売で急成長した「ザッポス」は、試し履きをせずに靴を買う不安を取り除くために、配達時も返品時も送料無料サービスを始めたことで知られている(競争相手の多くがこの先例にならわなければならなくなった)。

ちなみに、ザッポスが、気前のいい返品ポリシーを悪用したお客を排除することはほとんど知られていない。

CEOのトニー・シェイが私に語ったところによれば、もしずうずうしい顧客が返品ポリシーにつけ込んで――たとえば365日の返品期間のうち、364日目に履き古した靴を返してきたとしたら――ザッポスは一度だけ「謹んで返金を」させてもらうが、その顧客には二度とザッポスで買い物をしないように丁寧に伝えるそうだ。
もっとも、トニーはこう付け加えることも忘れなかった。

「幸い、ほとんどのお客様は正直だよ」

応用ステップ⑤逆に、保証をつけない点を売り物にする p208

信じられないようなすばらしい保証をつけるかわりに、まったく保証をつけない――そしてその事実を宣伝するという手もある。

ただし、この戦略は、ふつうは高額商品に向いている。
全体の売上は減るかもしれないが、購入する人の思い入れの度合いは高くなる。

高額商品を買う人は、あらゆる点で上客になる傾向がある。
さまざまな価格で広範囲の製品を売っている経営者は、「安物買いのお客ほどたちが悪い」と言う。

「10ドル(1000円)払って何でも思い通りになると思っているお客さんは、1000ドル(10万円)払うお客さんよりはるかに苦情が多いんだ」

私も同じような経験をしている。
廉価版を購入した人は、高級版を買った人に比べてカスタマーサービスに問題を持ち込んでくる率が大幅に高いのだ。

p212

また、値上げを考えている他のサービス提供者へのアドバイスも求めてみた。
するといちばん多かったのは、値上げがごく自然な行動になるように、定期的な値上げを習慣にしておくといいという返事だった。

最良のソーシャルメディア戦略は「面白いことをする」 p212

ツイッターや他のソーシャル・ネットワークでフォロワーを増やすには、他人の仕事を宣伝すればいい――あなたも、そんなアドバイスを聞いたことがあるのではないだろうか。

自分のことばかりずっと話している人の話は誰も聞きたがらないというが、本当だろうか?

これは善意のアドバイスだし、表面的には正しそうに聞こえる……。
しかし残念ながら、間違いだ。
他人の仕事を宣伝し、面白そうな記事へのリンクを共有するのはいいが、それだけでフォロワーを増やしたり、関心を集めたりできると期待しないほうがいい。

人があなた(またはあなたのビジネス)をフォローするのは、あなたに興味があるからだ。
私がバスケットボール選手のシャキール・オニールのツイートや投稿をフォローするのは、彼の言うことに興味があるからだ。
もし彼が四六時中他の人や彼のファンについて話していたら、私はそれほど興味を持たないだろう。

オンラインで何を話せばいいのだろうか?
答えは簡単。
あなたとあなたのビジネスについて、だ。
本当に。
あなたの行動や発言が気に入らない人は離れていくが、もしかすると失った以上のフォロワーを獲得できるかもしれない。

付け加えると、オンライン・ソーシャル・ネットワークは単にオフラインの現実を投影したものにすぎない。
ツイッターのフォロワーを増やしたい?
だったら何か人の興味を引くことをしよう……ツイッターから離れて。

水平に広げるか、垂直に掘り下げるか p213

この章の最後に、「2種類の成長スタイル」について触れておきたい。
ビジネスを成長させるには、次の2通りの方向性がある。

1つは水平方向への成長。
異なる人びとを対象に異なる製品をつくって、幅広いビジネスを展開する方法だ。

もう1つは垂直方向への成長。
特定の顧客とのあいだに浅いものから深いものまで階層的なつながりを築き、深く掘り下げたビジネスをする方法だ。

どちらのやり方が適しているのかはビジネスによって異なるが、いずれにしても、あなたはさらに上を目指し、ツィークを駆使して収入を増やし、ビジネスを成長させることができる。

p236

それは作成する書類に基本的なフォーマットと見栄えのいいレイアウトを加えることだ。
競争相手のほとんどは、自分の仕事はただ書類を書き起こすことだと割り切って、デザインには一切手をつけようとしない。
エリカのクライアントには起業家や自営業の人が多く、作成された書類を受け取ったあと、それをグラフィックデザイナーやレイアウト担当に引き継げるとは限らなかった。

この「ほんのちょっとした差別化」は功を奏した。
方針を変え、宣伝を始めて3か月後には、1人ではこなしきれない量の仕事が舞い込んで、エリカはチームを拡大する決心をした。

エリカはそのときもう1つ重大な決断をした。
従業員を雇わずに、請負業者だけを雇うことにしたのだ。

請負業者だけでチームをつくれば、市場のニーズに応じて柔軟に人数を増やしたり減らしたりできる。
この業界の仕組みから考えて重要な点だった。

最近のサイクルでは、11月から5月までエリカの予定はぎっしりで、180人のクライアントの仕事をこなすために14人のトランスクリプショニストを雇い、さらに全員のスケジュール管理のためにアシスタントも依頼した。

しかし夏場はトランスクリプションを必要とする仕事が激減するため、チームは4人に縮小する(請負業者はみな、この仕事には波があって、将来のプロジェクトが保証されていないのを理解している)。

最近では、エリカは自分では実際の書類作成業務をせず、マネジメントだけに徹している。
柔軟性のあるビジネス構造をつくり上げたおかげで、彼女は窮屈な思いもせず、何もかも1人でやるときのような負担も感じないで、市場の変化に応じることができるのだ。

第13章 大きくなるのはいいこと?事業を成長させるべきか、させざるべきか。 p242

ここはシアトルのダウンタウンの、とある工場。
ミシンがうなりを立てる。
中国系アメリカ人の女性たちが、リュックやパソコン用のバッグにせっせと布を縫いつけているのだ。
その多くは、もう何年もその工場で働いているベテランたち。
私はその工場をオーナーのトム・ビンと、トムのビジネス・パートナーであるダーシー・グレイとともに見学した。

20人を超える従業員と工場を経営するトムは、事業の拡大を望んでいない。
有名な小売業者たちが彼のバッグを自分たちの店で売りたいと持ちかけ、繰り返しパートナーシップを申し込んだにもかかわらず、トムはこの最大の成長のチャンスをすべて断った。
私はこの決断に興味をそそられ、トムとダーシーにメールでもっと詳しく教えてほしいと頼んだ。
すると次のような返事が来た。

「僕たちは最初に、自分自身がメーカーであり、直接取引をする小売店であろうと決めました。
そのほうが面白いからです。
いわば自分たちのたたくドラムに合わせて行進しているようなものです。

カッコイイ製品、カッコイイ顧客、カッコイイ従業員がそろった、カッコイイビジネスをつくりたい。
自分たちのブランドの確固たる地位を築き、それがずっと続くようにしたい。
でも、それはたくさん売ることとイコールではありません。

全国の大型店で売って仮に儲かったとしても、ブランド・アイデンティティの強化にはほとんど役に立ちません。
そのうえ、自分ではコントロールできない会社に自分の運命を託すことになります。
彼らがうまくいかなくなれば、僕たちも巻き添えを食います。

それより、未来は自分たちの行動と決断にかかっている、というのがいいんです」

自分のたたくドラムに合わせて行進するのはさぞや面白いだろう。
それだけでなく、ビジネスモデルとしてもそのほうがすぐれているかもしれない。

彼らのビジネスはたくさんの個人顧客からキャッシュフローを得ているので、大型店が彼らの製品を置くのをやめる(あるいは債務不履行に陥る)心配をしなくてもいい。
1か所でしか買えないからこそ、トム・ビンのバッグはありふれた日用品とみなされずにすんでいる。

その強みを十分に把握し、市場を拡大しないほうが利益を上げ続けられることも、きっちりと計算しているのだ。

「うまくいかない日や、いやな経験はなかった?」――この質問へのトムの返事は、私の頭にずっとこびりついている。

「うまくいかない日には共通点があります。何をすべきかが自分でわかっていたのに、誰かの口車に乗せられてそれをしなかったときです」

少なくともパートナーシップについては、トムは誰かの口車に乗せられることはなかった。

エピローグにかえて――もっと知りたいあなたは…… p268

どんな楽しい時間にも終わりはある。
もしあなたがこの本をここまで読んでくれたのなら、いい時間の使い方だったと思ってもらえればうれしい。

もっと知りたい人は、 100startup.com を訪れてほしい。
そこには他の読者や1万円起業家たちが集まるコミュニティがある。

本書に掲載されている穴埋め式のプランづくり(「今日からできるコンサルタント・ビジネス」、「A4用紙1枚のビジネスプラン」など)に加えて、最終稿に入れられなかった多数の情報も見ることができる。

・調査から得たデータとサンプル・インタビュー。書き起こしとオーディオ・ファイル付き
・ベニー・ルイス(第4章)、ジェンとオマール(第6章)、カロル・ガジャ(第8章)のインタビュー・ビデオ 
・ブログ定期購読者の経済学。平均的なブロガーはどれくらい稼いでいるか
・利益を増やすために利用できる、定期購読料、上位商品販売、価格体系に関する分析

これらの情報はすべて無料で、登録しなくてもOKだ。
また、コミュニティ・フォーラムも開かれているし、さらに多くのケーススタディや具体的なビジネス戦略など、有料の情報も用意されている。

最後に、本書を読んで面白いと思ってくれたら、自由に感想を教えてほしい。
私のメインのウェブサイト、 chrisguillebeau.com から直接メッセージが送れる。

ここで、私は本書で紹介したビジネスモデルを追跡調査もしていて、執筆したものやビジネスの少なくとも80パーセントを定期的に無料で公開している。

twitter.com/chrisguillebeau
facebook.com/artofnonconformity