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「手づくり油読本」を読んだ

手づくり油読本」を2025年08月06日に読んだ。

目次

メモ

はじめに p9

デパートなどの食品売り場に足を運ぶと、じつにたくさんの種類の食用油を目にする。
サラダ油や天ぷら油も「健康」をうたい、パッケージにはリノール酸、リノレン酸、オレイン酸などの油脂成分の言葉が並ぶ。
油を搾る原料としての植物の名前を大きく打ち出した「しそ油(えごま油)」「ごま油(セサミイル)」「亜麻仁油」「なたね油」「紅花油(サフラワー油)」「オリーブオイル」、さらにはあまり耳にしたことがなかった「アボガドオイル」「グレープシードオイル」などなど、油はまさに百花繚乱の時代。
戦後の食生活改善に沿ったフライパン運動によって油脂類の消費拡大が進められ、一九七〇(昭和四五)年には、消費量は一〇〇万を超えた。
平成の世に入って油脂類の消費量は横ばい状態だが、食用油のバラエティはますます豊富になってきている。

これだけ豊富になった食用油だが、国産原料から搾った油となるとこころもとない。
米ぬか油こそほぼ自給率一〇〇%だが、そのほかの油となるとほとんどが輸入原料を日本国内で搾ったものか、粗油として輸入して日本で精製・調製したもの。
食用油脂に国内産原料を使用した油の自給率は三・七%(農林水産省二〇一〇年油糧生産実績表より計算)に過ぎない。
おまけに、食用油への原料原産地表示は義務づけられていないため、たとえばサラダ油を例にとると、表示は、品名が「食用調合油」で、原材料名は「食用なたね油、食用大豆油」だけ。
原料として使用されているナタネが、遺伝子組換え品種なのかそうでないのかの表示義務はない。

現在は世界各国から原材料を集めてきて作られた食用油の豊かさだが、わが国の油作物を歴史的に紐解くとじつにバラエティ豊かだ。
縄文遺跡からはハシバミ、クルミ、カヤ、大麻、大豆、エゴマ、ゴマなどが発掘されており、その後、イネが渡来し、室町時代にはワタ、ナタネ、トウモロコシ、江戸時代はベニバナ、ラッカセイ、明治に入ってからはヒマワリ、オリーブなどが渡来して食用に用いられてきた。

本書は、そんな地域の豊かさを笑顔とともに取り戻していくことを願って、『現代農業』に特集された「地あぶら」の動きや、『農業技術大系作物編』および『地域資源活用食品加工総覧』の油脂類、ヒマワリやナタネ、ゴマ、エゴマなどの記事をもとに、それぞれの油作物の起源や栽培法、さらには個性的油の健康機能性、さらには少ない量でも搾油することができる道具や搾油所情報などを収録した。
油を搾れば、有機農業には欠かせない「油かす」肥料が残る。
使い終わった廃油からはバイオディーゼル燃料(BDF)も作ることができる。
そんな情報が満載です。

おりしも、東日本大震災による福島原子力発電所の事故による土壌の放射能汚染に対して、その修復に向けてヒマワリやナタネが力を発揮するともいわれている。
夏にはヒマワリ、冬にはナタネ、そして各地に眠っている油作物たちが、復興に向かって元気をもたらしてくれることを願っています。

油搾って「高度利用」の助成金 p23

だが福間さん、最初から油を搾ろうと思っていたわけではなかった。

が、営農組合の仕事としてヒマワリを咲かせるとなると、耕うん播種など労賃もかかる。
タネ代もかかる。
「花を見てきれい」だけのために、時給一五〇〇円の人件費を捻出するのは営農組合の経営としてもあまりいいことではない。
福間さんは組合長として、せめて何らかの転作助成金がヒマワリにつかないだろうか、と模索し始めた。

通常の転作助成金はすでにムギでもらっている……そうだ、ムギとダイズをつくった場合は高度利用加算があるのだから、ムギとヒマワリだって高度利用になるのではないか?
役場にかけあってみると、「そうだねえ、花を見て終わるんじゃなくて、収穫まですれば、高度利用も認められるかも……」という話。

ヒマワリを収穫……。
そうか、油だ!
調べてみると、ヒマワリ油は日本ではそれほどなじみがないが、ロシアやヨーロッパでは普通に食べている油であり、ナタネやダイズ、ヤシなどと並んで「世界四大油」に入っていることがわかった。
栽培していた品種は、幸いにも油がとれる「ハイブリッドサンフラワー」(カネコ種苗)。
その年はさっそく種子の収穫までして、隣の出雲市にある製油所に持ち込み、油を搾ってもらった。

苦労して美味しいヒマワリ油誕生 p23

だが、最初は何が何だかよくわからなかった。
搾ってもらっただけの「原油」は、天ぷらをしてみたら泡だらけになってしまった。
炒めものをしてみたら煙だらけ。
これはどうやら不純物が多いのが原因らしい。
油は搾っただけではダメで、しっかり漉さなくてはいけなかったのだ。

自分たちでコーヒーフィルターや濾紙を使って何回も漉してみた。
ロウ分があるので静置して上澄みをとる必要もあった。
だが、そうやって苦労して苦労してようやく完成した油は、なかなかに美味しかった。
天ぷらはカラッとあがるし、卵焼きは焦げない。
市販の抽出油とは違って、ただ搾っただけの本物の油!

ひまわり祭りにお客さん二万五〇〇〇人 p24

ペットボトルに油を入れて、役場にも持っていってアピールした。
菜の花プロジェクトのバイオディーゼルのテレビ番組があったので、それも録画して持っていった。
営農組合で「ひまわり祭り」もやって、お客さんを二万五〇〇〇人も集め、地域全体の盛り上がりにつながることもアピールした。
油も売った。

かくして、ヒマワリの栽培は「高度利用」に認められ、国からの助成金一万円と町からの助成が五〇〇〇円つくことになった。
ムギでもらっていた六万五〇〇〇円と合わせて、全部で八万円の助成が認められたのだ。
さらに、この過程を通じて、町と農協がヒマワリに本気になってしまったのがビックリだ。

ヒマワリあとのムギが収量増 p24

だが、じつはまだ、営農組合全体として「ヒマワリで儲ける」という段階にはほど遠い。
農協の買い取り価格は一kg二〇〇円だが、なかなか収量が上がらない。
さらに今年からは米政策改革大綱によって全体の助成金が減ってしまい、町がヒマワリを大事にしたとしても、昨年までのようには助成金はもらえないだろう。
油も、まだまだ「試しに商品化してみた」という程度で、昨年の不作で絶対量がない。
農協も本気で油を売り込もうという気持ちはあるのに、商品がなくてなかなか動けないという段階だ。

でも、福間さんたち「みずほ営農組合」にとって、ヒマワリはすでに必須重要品目になってしまっている。

というのも、ヒマワリのおかげとしか考えられないことが起こっていたからだ。
みずほは後作のムギの収量がここ数年、町内ダントツなのだ。
ビールムギは収量が低く、平均二〇〇~三〇〇kgしかとれないことが多いのだが、今年などは四〇〇~四五〇kgくらいとれたのではなかろうか。
「ヒマワリの根にはVA菌根菌がついて、後作のリン酸吸収を助け、増収効果がある」と聞く。
「ヒマワリは今のところ直接カネにはならないけど、その分くらいはムギで稼いでるね」。

ヒマワリ油に含まれる機能性成分 p36

いくら栄養があり美容によいといっても、その味がおいしくなければ、食品としては失格である。
ヨーロッパの国々でヒマワリ油がいちばん親しまれているのは、揚げ物をする場合にも、ドレッシング用など生食で食する場合にもひじょうに適した油だからである。

揚げているときの香りはよく、食欲を減退させるような油臭さもないし、サラダの場合にも、わずかに香ばしい風味が口に広がり、明らかに他の植物油と区別しうる油である。

――「サラダ油」って、一体なんですか? p47

調合サラダ油、コーンサラダ油、綿実サラダ油といろいろあり、精製度のグレードが高い油のこと。
サラダ用に作られたもので、加熱しなくても食べられるように、また、冷却しても凍りにくいようにロウ分が取り除かれています。
天ぷらに使ってもいいですよ。

――精製って何をやるんですか? p47

ガム質・遊離脂肪酸・色素・におい・微細なきょう雑等の不純物を、製品の種類や使用目的に合わせて除去します。
精製しないと、オリが沈殿するおそれがあります。
「脱ガム」もそうで、性状がガムっぽいからこう呼ばれています。

――搾法、抽出法、圧抽法……三つの搾り方があるようです。 p47

圧搾法とは、原料に圧力をかけて物理的に搾油する方法で、油分を多く含むナタネ油(キャノーラ油)、ベニバナ油(サフラワー油)、ゴマ油などで用います。

抽出法とは油分の少ないダイズ等で用います。
圧扁・破砕したダイズにノルマルヘキサンという溶剤を加えて油分を溶剤に移す工程です。
油脂の溶けた溶剤を蒸留すると、溶剤は揮発性なので溶剤と油分が分かれて油がとれます。

圧抽法とは、圧搾と抽出とを併用している方法です。
ナタネやベニバナ等の油分を多く含む原料に行ないます。

――圧搾法で歩留まりを上げるには、どうしたらいいんでしょう? p47

なるべく多く搾るために、搾油する前に原料を加熱したり、破砕・粉砕や圧扁するなどの前処理を行なうわけです。

――前処理の目的は、原料の歩留まりを上げたり、酵素の働きをとめることなんですね。 p47

独特の風味と香りをつける目的もあります。
ナタネはふつう一〇〇°C以下で軟化する程度に焙煎します。

ゴマなんかもそうですよね。
およそ淡色なら一七〇~一八〇°C、濃色は二〇〇°C以上で焙煎します。

――脂肪酸の働きは? p47

ツバキ油なんかも他の植物油と脂肪酸組成がまったく違って、オレイン酸七五%と非常に高いために、酸化しにくく、保存性の高い油です。
オレイン酸が数%違うと保存性はかなり変わりますよ。
同じナタネでもふつうのナタネならオレイン酸六〇%、オレイン酸が高いハイオレック種だと七二%と一二%違います。
ハイオレック種のほうが安定性がよいのです。

咲かせよう幸せの菜の花を 直径100m 菜の花とムギのピースマーク 静岡県焼津市 小畑幸治 p67

菜の花栽培を始めたきっかけは、二〇年ほど前に一の本と出会ったことでした。
ワールドウォッチ研究所のレスター・ブラウン氏による『地球白書』です。
環境問題が深刻化するこの時代に平和な環境を維持するためには、私たち一人一人が立ち上がらないわけにはいかないと確信したのです。

私が住む焼津市には、歴史上消すことのできない過去があります。
私が生まれる二年前に起きた「第五福竜丸事件」です。
平成十六年、事件から五〇年経つことを機に平和への願いを発信したいと思い、菜の花とムギで田んぼにスマイルのピースマークを描くことを思いつきました。
市内の高校生や幼稚園児にもタネ播きや麦踏みに協力してもらい、菜の花の中に緑のムギで描いた直径一〇〇mの笑顔が浮かびあがるようにしました。

近くの高草山の中腹からピースマークを見下ろす散策会には、五〇年前に第五福竜丸に乗っていた見崎吉男漁労長も見にきてくれました。
小さな子どもたちもおり、「この子どもたちが大きくなっても今のままの焼津であってほしい、地球であってほしい」と見崎さんの目が微笑んでいるように見えたのが印象的でした。

今年も例年同様五haほど菜の花を播きます。
このナタネ油を天ぷら油で走るトラクタやコンバイン、トラック、ワゴン車などの燃料にも使います。

日本ではイネ刈り後の田んほのほとんどは、遊んでいるのが現状です。
「播こう幸せのタネを咲かせよう菜の花を」をキャッチフレーズに、菜の花稲作が広まったらいいと思っています。

【ナタネ栽培の手順】 p69

播種
適期は10月上旬~11月中旬。
条まき、ばらまきが主流で、手まきである。
水分を嫌うので、排水は十分注意する。
なお、多収を目指したテストとして、ポット苗の移植も試みている。
肥料
意外と肥料食いの作物である。
平成19年初冬の播種のときには、全体(5ha)で完熟堆肥80tを投入。
その後も、10a当たり1.5~2tの堆肥施用を基準としている。
基肥は有機化成40kg/10a、追肥は有機化成20~30kg/10aである。
ただ、普通期の水稲の収穫後に堆肥を施用すると、ナタネの播種適期ギリギリとなってしまうのが悩ましいところである。
管理
発芽後、生育状況を見て、カルチベータで中耕除草、培土を行なう。
ただ、直播の場合は管理機が使えないので除草作業が大変だが、農薬散布はまったく行なっていない。
収穫
汎用コンバインの収穫が基本ではあるが、面積の少ない農家は、個別に手刈り収穫する人もいる。
コンバイン収穫の委託費は6,000円/10a。
乾燥・調製
栽培農家ごとに、ナタネにもっとも適している天日乾燥を行なうのを基本としている。
2008年度から、組合では乾燥機(平型)を用いた機械乾燥も可能になった。
種子の最適水分は10~13%である。

前処理から製品までの実際 p71

平成一九(二〇〇七)年度は、男性作業班から、女性部による作業班へと移行した。
荷受け業務から搾油、製品化、さらには販売まで、責任ある立場で活躍する女性部の姿は、地域の活性化に大きな力となっていった。
なたね油搾油の手順は次のとおりである(図6)。
組合の施設で、無エルシン酸品種ななしきぶだと種子量の約二〇%のなたね油が製品として採取できる(在来品種の場合は二七~二八%の搾油率)。

前処理 p72

自ら地域で生産した原料の場合は、事前の原料調製が大切になる。
乾燥・調製(主に天日乾燥・唐箕選)は生産者が行ない、買い上げの際、泥や石などの混入がないか、またカビなどが生えていないかを点検している。
種子の水分は一〇~一三%でお願いしている。
収穫後さっと天日で乾燥する程度でこれくらいの種子水分となる。
一〇%以下にまで水分が下がると、搾るときに加湿しなければならないので手間がかかる。
きちんと調製されていない場合は持ち帰って再調してもらうが、最近ではそうした事例は少なくなっている。

ナタネ種子にカビが発生している場合には、さっと水洗いして天日乾燥しなければならない。
水洗いすることで、油の中に含まれるガム物質や小さなゴミも除くことができる。

水洗いするのは、次の二つの場合がある。
一つは原料がひどく汚れている場合(収穫・調製作業での泥汚れ)で、ナタネの種子(原搾油料)を水洗いする。
もう一つは搾油後の原油の水洗いで、搾油した原油に沈澱物などが多く見られ、通常ろ過作業しても透明感が得られないと予想される場合である。
その洗浄時にガム物質を除去できる。
ただし、一般搾油受託では、経費がかさむため原油の水洗いはしていない。

搾油 p72

搾油機の上部にあるホッパーに種子を投入する。
加熱(焙煎)はしていない。
油の出方と油かすの状態を見ながら、搾油する圧をレバーで調整する。
圧力メーターは備えていないので、このあたりはカンである。
搾油した油は、搾油機の右側の樋を伝って、搾油量がわかるように目盛りの刻まれたステンレス製の桶(ふた付きの学校給食用)に流れ落ちるようになっている。

〈ブランド力を高めるもうひと手間〉 p72

二〇一〇年から試しているのは、こうして搾油した粗なたね油を、加熱する前にいったんお湯で洗って、不純物を取り除く方法である。
こうすることで、油の透明度がはっきりと向上するのがわかる。
方法は、粗なたね油にお湯を注いでミキサーにかけて、二日間ほど静置し、分離した油分だけを取り出す。
宮地岳産なたね油のブランド力を高めることができないかと考えている。

粗なたね油の加熱 p72

粗なたね油の加熱、ろ過、充填作業は、搾油室の隣の部屋で行なう。
加熱作業は、粗なたね油に含まれている水分を蒸発させ、同時に雑菌などをなくす(除菌・殺菌)ために行なう。
また、油の温度を上げることで粘性を和らげてろ過効率を上げることにもつながっている。

加熱には業務用のガスコンロを用い、いったん油温を一〇〇°C以上に上げて水分除去と除菌を行なう。
加熱終了時の油温は一一〇~一三〇℃である。
衛生上からは八五三分間と義務づけられているが、組合ではそれ以上に厳しい操作をしている。

ろ過 p72

ろ過するための和紙を上段の円筒にセットし、その中に加熱した粗なたね油を注ぎ込む。
その後、下段の圧力を減圧していく。
圧力メーターが付いていないうえ、原料の違いによって異なるため、上段の油の減り方などを確認して、そのままろ過を続ける。
ろ過がすんだら、上の段を取り外したのち、下の段のコックをひねって貯まったなたね油を取り出す。
二〇Lの粗なたね油をろ過するのに要する時間は約一五分である。

ろ過装置に油を移すときは危険を伴う。
お母さんたちが行なうのだから、ろ過は一回に一〇L程度とし、油温が四〇~五〇°Cに下がってからにする。

充填 p73

容器は、六〇〇gと一・六kgの二種類の市販ペットボトルを使用している。
ペットボトルの種類としては、材質が劣化しにくい食用油、調味料の専用容器である。

封栓 p73

封栓作業は人手で行なうため、誰でも簡単にできることが大切である。
木槌でたたくだけで封栓できるプラスチック製のものを選択している(図7)。
きちんと封栓できていないと、上のふたがしまらないようなっているので確認しやすい。

ラベル貼り p73

手づくりのラベルで、正面には、商品名として「ヴァージンオイルななしきぶ」、内容量として六〇〇gと一・六kgの二種類、そのほか「平成〇〇年産なたね油一〇〇%」、「生産者名」と「賞味期限」「金額」などが記載された紙を貼り付ける。
裏面には、「名称/食用なたね油」「原材料名/食用なたね油」「内容量」「賞味期限(搾油封栓後二年を目安に記載)」「保存方法/直射日光を避けて保存してください」、あとは製造者名を印刷している。

終了後の整備と油かす肥料採取 p73

なお、搾油機は搾油作業が終了したら、毎部品のすべてをエアーガンで付着物を吹き飛ばし、その後きれいにふきあげて、最後はカバーをかけておく。
こうしておかないと、翌日の搾油のトラブルや、なたね油の劣化に結びついてしまう。

搾油後に、機械の下に落ちた油かすを集めて粉砕し、なたね油かす肥料として袋詰めする。

/### ぬか漬には花蕾を食べるタイプのナバナ p93

菜の花(ナバナ)の品種としては、主に花蕾を食するタイプと主に葉茎を食するタイプがある(ナタネ油用の品種もある)。

花蕾を食するタイプとしてはサカタ88、花陽、冬華などがある。
葉茎を食するタイプとしてはオータムポエム、三陸つぼみ菜などがある。
菜の花のぬか漬に向いたものは前者の花蕾を食するタイプである。

またとうが立ったものを利用するという意味では、ハクサイのナバナがおいしく、ぬか漬にも向いている。
ただし脇芽は細くなってくるので、あまりに細くなったものはぬか漬に向かなくなる。
またキャベツ、ダイコンのナバナは硬く、ぬか漬に向かない。

いずれにせよ、漬けたときの見栄えがよいように長さ一五cmぐらいのものがほしい。
花蕾を食するタイプは花が咲きやすいので、収穫時期は慎重にする。
花が咲いてしまったものは苦味がかなり出るので生で漬けるぬか漬には不向きである。

ぬか床には新鮮なぬかとよくできたぬか床の種菌を使う p94

米ぬかは酸化しやすいので、できるだけ新鮮なものを使用する。
水は湧き水など自然な水がよく、一月十五日前後の寒の時期の水ならベストである。
この寒の時期の水は雑菌が少ないため腐りにくいので、ぬか床が悪くなりづらい。

ぬか漬はよい菌の発酵が重要なので、うまくできている人のぬか床を種菌にするのが間違いない。
ヨーグルトを使用するのも同じ意味である。

ゴマ油の九九・九%は輸入 p109

日本で消費されるゴマの九九・九%は輸入に依存している。
二〇〇七年には約一六万九五五六tを輸入しているが、主な輸入元はナイジェリア、パラグアイ、ブルキナファソ、スーダン、タンザニア、中国、ミャンマーなどである。

日本各地にゴマの在来品種は残っているが、その作付けはわずかである。
多様な色や莢の形のものが知られており、金ゴマ、ビロードゴマ、茨城黒、愛知白、愛知白などさまざまな名前の在来品種が報告されている。

だれでもどこでも栽培できる p119

エゴマはどこでも栽培ができる。
光合成には強い光を必要としないため、果樹園などの下に植えてもよい。
とりわけ冷涼な気候を好み、排水がよくて適度の保水力のある、肥沃な壌土や砂壌土が適する。
土壌酸度に対する抵抗性は強く、水田の後作や酸性の開墾地、リン酸の少ない火山灰土壌でもよく生育する。
転作田でもよくできる。

吸肥力が強いため、どんなやせ地でも栽培でき、多肥にするほど茎葉の生育は促進される。
窒素、石灰を多用するほど生育は促進され、収量は増加する。
ただし、倒伏しやすいので過剰な施肥は避ける。

日本で油といえばエゴマ油だった p119

日本では縄文時代の遺跡からエゴマのタネが見つかり、食用にしていたと思われる。
司馬遼太郎の「国盗り物語」には戦国時代のエゴマ油の話がある。
油座による独占の時代。
このころ油といえばエゴマ油で、それを扱う京都の油屋を手に入れようと若き斎藤道三が策謀する。

江戸時代の後期に、水田裏作の奨励でナタネの栽培が進み、ワタの栽培も盛んになり、ナタネ油、綿実油の利用が広がっていく。
エゴマは、これらの油に取って代わられるまで、食用、そして、乾きが早い性質を利用して、雨よけの目的で雨合羽、雨傘などに塗り、また油紙の加工用にも使われ、搾り粕は肥料となる。
近代以降はペンキや印刷用インキ、床敷の材料であるリノリウムの原材料など工業用に用いられていた。
現在ではエゴマの利用は食用が主体となっている。

エゴマ油は淡黄色。
「乾性油」であるが、さらさらした状態ではなく、べたっとして、すぐに固まり、こびりつく。
α-リノレン酸の多いエゴマ油は、一般の食用油に比べて引火しやすい。
高温での加熱には注意する。

油を搾る p122

油を出やすくするために適当な水分と熱を与えてやる。
焙煎や、せいろ(こしき)での空蒸しをする。
電子レンジを使うと簡単だ。
そして、コーヒーミルやミキサー、フードプロセッサーで軽く粉砕しておく。

これを小型の搾油機にかける。
搾った油は、広口で底の深い容器に入れる。
翌日にはごみなどが底に沈むので、上澄みの油を取り出し、栓がしっかり締まるガラスびんなどに入れる。
このとき、びんの口のところぎりぎりまで油を入れて空気を追い出し、しっかり栓をして、酸素による酸化を抑える。
日の当たらない涼しいところで保管する。

エゴマを焙煎して搾るかどうかで、焙煎法生搾り法の二つの方法がある。

十分に実入りのある白種では三〇〇ml前後、黒種では三六〇ml前後の油が一kgのエゴマから出る。
酸化しやすい油なので、冷蔵庫で保管する。
ビンの容量を三〇〇ccと小さいものにすれば、早めに使い切れる。

搾油所に水に沈んだエゴマのタネを持ち込んだ人がいた。
エゴマのタネには油がたくさん含まれ、水より軽いので水に浮く。
でも、イネの種もみの塩水選では、沈んだものが充実し、浮いたものは捨る。
それと混同して、浮いたエゴマのタネを捨て、腐って水に沈んだタネを持ち込んだのだ。
これは笑えない笑い話だ。

搾油を依託するには、ゴミが混ざっていない、乾燥しているなど、油が搾りやすいかたちでタネを持ち込む。
料金や作業完了日を委託時点で確認する。
また、粕の引き渡し希望などがあれば対応可能かも聞いておく。

油粕をじょうずに利用 p123

エゴマから圧搾法によって原料重量の三〇%ほどの油が搾れ、残り七〇%は油粕となる。
エゴマ油粕は、家畜のエサや肥料として使われている。
ボカシ肥料などの材料の一部としても利用できる。

パウダーにしておけば、そのまま料理にふりかけたり、和えたりできる。
そのほか、パンやうどんに混ぜたり、ドレッシングやつゆに混ぜたりと、いろいろな用途で簡単に使える。

つくりやすく健康によく、タネから葉まで、油から油粕まで、利用の範囲が広いエゴマの栽培と利用の輪が広がっている。

ツバキは捨てるところなし p124

ツバキは古くからさまざまな分野で活用されてきた。
よく知られているのが材、油、灰、炭の利用である。

ツバキ材は、櫛、箸、こま、ロウソク立て、湯のみ、盆などの小物の木工品に利用されてきた。
ツバキ油は女性の髪油、金属のさび止め、機械油、染色、刀剣油などに使用されていた。
さらにツバキの灰は、媒染剤としての利用や酒造用種こうじづくりへの利用(次ページのカコミ参照)、陶器の釉薬などとしても利用されてきたし、また火の粉が飛ばない炭として火鉢用や茶の湯の炉の炭に使われてきた。

最近では、木酢の採取が行なわれたり、精製したツバキ油がアトピー性皮膚炎に効果があることがわかり注目を集めている。
また、草木染にツバキの花を使った花びら染や果実の殻を使う方法が考案されているほか、種子を使ったアクセサリーなども製作されている。

酒造用種こうじへのツバキ灰利用 p125

日本古来の酒づくりのための「種こうじづくり」にツバキ灰が役立っており、しかもそれは奈良時代からではないかと推測されている。

坂口謹一郎氏は『日本の酒』(岩波書店)の中で、ツバキ灰について、「蒸米に灰をかけて麹を造ると、麹菌はそんな条件下でもよく生えるが、アルカリに弱い雑菌は生えることができない。
灰はこのように害菌を防いで、麹菌のみを純粋に生やす力があるばかりでなく、灰の中のリン酸やカリ分が麹菌を強く育てる養分となる。
また銅、亜鉛のようなミネラルが胞子を多産し、しかもその色をよくする力のあることが判った」としている。

また「京都で三〇〇年前から続いている「種麹屋」さんによると、灰にはツバキ灰が最良で、種麹の緑色を深くして美しくあがる。
しかし、残念ながら量不足で、普通にはナラ、クヌギの灰を使う」と述べている。

ツバキこぼれ話 p126

ツバキとサザンカは同じツバキ科で、なかなか判別がむずかしい。
見分ける方法は、なんといっても花の散り方を見ることである。
サザンカの花は花びらが一枚ずつ散るが、ツバキは雄しべのついた花冠ごと散り落ちる。

ツバキの散り方について、物理学者の寺田寅彦は随筆の中で「上向きに散り落ちるツバキの花」と書き、落下している椿の花は上向きのものが多いとしている。
一方、夏目漱石の句に次のようなものがある。

落ちざまに蛇をふせたるツバキかな

この句は、ツバキの花が下向きに落ちて、蛇を閉じ込めてしまった、ということを詠んだものである。

さて、どちらが正しいか、実際にツバキの花を落下させて統計をとって確かめてみてはどうだろう。

オリーブという植物 p128

オリーブは、五月下旬から六月初旬にかけて直径三mm程度の白色の小花を無数につけるモクセイ科の常緑高木である。
樹齢はきわめて長く、南欧においては一〇〇〇年以上のオリーブ樹が見られる。
生長はすこぶるよく、成木になると樹高が一〇m以上にも及ぶ。
葉は革質披針形の単葉で対生につき、品種により大きさ、形態、葉色、毛茸の多少などが異なる。

オリーブは有史以前から油料作物として地中海沿岸諸国で栽培されており、古代ギリシャではブドウとともに最も重要な農作物とされてきた。
現在、オリーブが栽培されているのはヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカ、オーストラリアの各大陸の、緯度から見て三〇度から四五度付近の地域である。

日本でのオリーブ栽培の始まりは江戸時代末期で、フランスから苗木を導入し横須賀に植栽された。
その後、明治政府は殖産興業施策の一環としてフランス、イタリアなどから苗木を輸入してオリーブ栽培を試みた。
しかし、いずれもオリーブの栽培は産業として定着することなく終わった。

一九〇八(明治四一)年農商務省の指定試験のため、三重・香川・鹿児島の三県で栽培が試みられたが、これは日清・日露戦争で獲得した広大な漁場から得られるイワシなどの魚介類を国内自給のオリーブオイルで缶詰にし外貨を確保すること、また国民の栄養源にすることなど、水産局から要望があったことによる。

オリーブオイルが化粧用に使われ始めたのは一九六〇年前後(昭和三〇年代半ば)であった。

p133

ブドウの種からも油を搾ることができる。
グレープシードオイルとかブドウ油などの名前で売られている。
ブドウ九〇kgから一〇〇ml程度しかとれない。

必須脂肪酸であるリノール酸が多く含まれており、チリ、イタリアおよびフランスなどで製造され、日本に輸入されている。
クロロフィルが含まれるために油は緑色で、さらさらとしてくせがなく、食品の素材をそのまま生かせる食用油といわれている。

ブドウの観光農園を営む神之田益一さんは、ブドウのタネから油が搾れて、そのうえ、人間の身体では作れないリノール酸が多く含まれていると書いてある本を読み、「ブドウならたくさんあるぞ」と思い、さっそくタネを集めることに。

が、この集めるのがけっこう大変で、お客さんが試食したブドウの食べカスから毎日夕ネだけを取り出しては洗って干して…を何日も繰り返して、ようやくバケツ一杯ほどのタネを集めた。
これを搾ってもらったところ、一升ぐらいの油がとれた。
予想以上の歩留まりのよさ、さらに、透明な薄緑色のきれいな色にもビックリしたそうである。

田んぼを“油田”にかえて燃料自給率一〇〇% p138

角田健土農場は、四軒の専業農家が平成七年に立ち上げた有限会社。
受託も含め、水田経営面積は一〇〇ha近い。

社長の小野健蔵さんは、八年ほど前からある構想を練り続けてきた。
それは農場の運営に必要な燃料を完全に自給するというもの。

最近、炭酸ガス排出削減の観点から注目されているBDF(バイオ・ディーゼル・フューエル)とは、食用油をディーゼルエンジンでも使えるようにした燃料である。

これまでも角田健土農場は地元NPO「エコショップかくだ」に参加し、家庭から回収した廃食用油を名取市のBDF製造業者に納入、替わりに一l 一〇〇円でBDFを売ってもらいトラクタに使ってきた。

しかし小野社長はそれでは飽き足らず、自分たちで栽培したナタネから油をとり、それをBDFとして機械の燃料に使えないかと、三年前から計画を進めてきた。

BDFは農家がやるから面白い p139

現在全国で広まりつつあるBDFプロジェクト(菜の花プロジェクト)は廃油の回収率の悪さがネックになっているようであるが、農家と組めばその心配はないと小野社長はいう。
農家は畑を持っているから、ナタネを播いただけ油はとれる。
廃油回収が不十分でも、BDFの原料には困らない。
軽油が高騰する中、農家にとってもBDFのメリットは大きい。
BDFプロジェクトは農家と組むからこそ面白い。

本物のナタネ油を食べて欲しい p139

小野社長がナタネ栽培に踏み出した理由は三つある。

一つは、本物のナタネ油を消費者に食べて欲しいから。
大手スーパーや商社は外国からどんどん安くて悪いものを輸入して、まともに太刀打ちできないような底値で毒入り野菜や毒入り米を消費者に売っている。

「せめてね、自分たちのお米を食べてくれる人や地元の人には、本物のナタネ油を食べさせてあげたいんです」

三割転作でナタネを播けば年間に使う燃料は確保できる p139

二つ目は、燃料の自給だ。
化石燃料はいつかなくなるわけだが、このまま燃料の高騰を指をくわえて見ているか。
軽油が二〇〇円/lになる時代が必ず来ると小野社長はいう。
もしそうなったらいよいよ農業は続けられない。

稲作一haの農家なら、トラクタとコンバインに使う年間の油は約二〇〇l。
ナタネの収量は二〇〇~三〇〇kg/一〇aだから、減反が三〇%なら最低でも六〇〇kgのナタネが収穫でき、そこから二〇〇lの油が搾れる。
これをBDFにすると五%ほど目減りするが、ほぼ二〇〇lの油が確保できるので、機械を動かす量がピッタリ自給できる。

播きっぱなしで収穫できる p139

三つ目は、ナタネは栽培に手間がかからないということ。

九月中旬頃、湿害がないような畑ならどこでも播種できる。
雑草と一緒に生えてきても霜が降りれば雑草だけ枯れる。
生き残ったナタネの春の生育はいいので除草剤いらず。
肥料もほとんどいらない。
播きっぱなしでも次の年の七月にはちゃんと収穫できる。

イノシシが見向きもしないので、山間部の耕作放棄地にもピッタリだ。

馬力は同じ不具合もない p140

現在BDFを使うのは、専用のトラク夕一台だけだが、今後はBDFの確保ができれば使える機械も増やしていくつもりだ。

「軽油と比べて、馬力はまったく変わりません。
軽油のようなニオイも黒煙もないのでとにかく快適です」

BDFはゴムや樹脂など一部の部品を劣化させる(左ページのカコミ参照)そうだが、今のところ不具合は感じていない。
部品はこまめに点検、交換。
BDFはなるべく早く使うようにしている。

搾油もBDF化も自分たちで

地域の担い手育成にナタネを普及するという目標を掲げ、市に掛け合い続けて二年間、ようやく七月に搾油機が導入できた。
焙煎機、搾油機、精油機など合わせて六八〇万円。
精油業者に頼んでいたときは三〇%きっかりしか搾れないと決まっていたが、自分たちで搾ったら、三五~四〇%は搾れた。

油を搾ったあとのナタネ粕は、刈り草や牛糞と一緒に良質の堆肥になって田畑に還元される。

小野社長、いずれはBDF化の設備も揃えたいと考えている。
ナタネ油を直売所で販売し、廃油を回収してBDFにすれば、完全に油が自給できて、地域でエネルギーが循環する。

「ここには、お米、野菜、味噌、梅干し、それから天水がある。
ないものといったら油くらいなもん。
油が自給できれば、生きていくためのものは何でも作れます」

よそ者に頼らないでも暮らしていけるむらの力を取り戻す。
小野社長の夢をのせ、天ぷら油の香りを漂わせたトラクタが今日も走る。

BDF使用上の注意点 p141

BDFの長期利用により起きる不具合と、安全に使用するためのポイントについて、BDF利用の現場を調査している(社)日本農業機械化協会の唐橋需先生に伺った。

◆BDFは腐食性がありメッキなどが剥がれる可能性がある。
液だれしたらそのままにせず、すぐに拭き取ること。

◆寒くなると流動性が低くなり、エンジンがかかりにくくなる。
BDF濃度を下げて使うか、軽油に切りかえる。

◆冬場に使わないからといってBDFを入れっぱなしにしておかない。
秋口に使い終わったら、BDFを抜いて軽油を満タンにしておくとよい。

◆品質にもよるが、BDFは劣化や酸化が早いので、なるべく早く使うこと。
1か月以内なら問題ないが、品質のよいものなら半年でも使用可能である。
保管は空気の接触をなるべく避け、直射日光の当たらないところで保管する。

◆部品の点検と交換の目安
①燃料キャップ、燃料こし器…1年
②燃料配管…6か月
(交換内容)ゴム製燃料配管、配管継ぎ手部のOリングやゴム製パッキン
③燃料フィルター…BDFの使用開始後は50時間ごとに2回、100時間後からは100時間ごとに交換
④エンジンオイル…取扱説明書記載の交換サイクルの1/2
⑤エンジンオイルエレメント…取扱説明書記載の交換サイクルの1/2

p147

兼吉製油所
茨城県下妻市大園木254-1
〒304-0801
TEL 0296-44-4739
ナタネ、ヒマワリを搾油。
加工料は、原料1kg当たり80円で油と油カスを引き渡し
スクリュー式の圧搾機で生搾りし、沈殿させて和紙でこす
油カスの販売もしている

肥料・農薬に頼らず、燃料も自給 p152

「『食べもの』をつくる農業は、本来自前でずっと続けていけるものでなければ意味がない」。

相馬一廣さんは、そんな強いポリシーを持っている。
どこの誰かも知らない人が作った資材を買って使うことで成り立っているような農業では、資材が買えなくなったら崩壊する。
そんなのおかしいと、堆肥と米ぬかボカシで土をつくり、マメ科作物や緑肥を取り入れた輪作も組み合わせることで、化学肥料や農薬に頼らずとも、丈夫な作物を生産し続けられる農法を作り上げてきた。

それでもどうしても超えられない壁が、燃料の問題だった。
堆肥を運ぶトラックにも、緑肥をすき込むトラクタにも燃料がいる。
いかに有機農業に取り組んでも、燃料が買えなくなったらやっぱり生産は止まってしまう。

そこで七~八年前から燃料の自給に向けての挑戦を開始。
いろいろ検討した結果、もっとも手軽に作れて安心して使えたのが、廃油から作るバイオディーゼル燃料(BDF)だった。

そして、一人でも効率的に量産する方法についても試行錯誤を重ねた結果、なんと今では年間三〇〇〇L、必要な燃料全体のおよそ半分にあたるBDFを生産できるまでに。
いよいよ燃料の自給も見えてきた。

BDFづくりは誰でもできる p152

そもそもBDFは、そのままでは燃えにくくてベタつく油に、メタノール等のアルコールを混ぜて反応させることで、ディーゼル燃料に使えるくらいサラサラで燃えやすくしただけのもの。
相馬さんに言わせれば「こんなもの誰でもできる」というくらい、手順は単純である。

ただし燃料として安定したものに仕上げるには、いくつか気をつけるべきポイントがある。

ポイント1 廃油は一か所からもらう p153

第一のポイントは、原料になる廃油を一か所から確保すること。

一口に廃油といっても、じつはもらうところによって「ほとんど別物」というくらい性質はさまざま。
まるで新品のように澄んでいたり、真っ黒でコテコテだったり……。

でも燃料としてのBDFは性質がバラバラではまずいから、油の状態が違えば、混ぜる触媒の割合、ろ過方法なども変える必要がある。

そんな手間はかけられないから、相馬さんは、一か所のトンカツ屋からもらってくる廃油しか使わない(廃棄物処理法の関係でタダでもらうことはできないが、格安の値段で譲ってもらう)。

ポイント2 気温が暖かくなってからつくる p154

第二のポイントは、つくる時期。

相馬さんがBDFをつくり始める時期は、五月下旬からと決まっている。
それより遅くなることはあっても、早くなることはない。
温度が低いと、油の粘性が高すぎて反応もうまく進まないし、ろ過もうまくできないからだ。

ポイント3 触媒はミキサーでよく溶かす p154

第三のポイントは、触媒の溶かし方。

触媒とは、油とメタノールをスムーズに反応させるために必要な物質。
ほんの微量なのだがこの役割は重要で、よくメタノールに溶かしてから油に混ぜないと、ぜんぜん反応が進まない。
相馬さんは、「今までBDFに挑戦したけどうまくいかなかったって人は、たいてい触媒を溶かす段階で失敗してるんじゃないかな」というほどだ。

いろいろ試した結果、一番うまくいったのが、メタノールと触媒をミキサーで混ぜてしまうことだった。
二~三分もかければ、跡形もないくらいキレイに溶ける。
こうなれば、油に混ぜた途端に反応は始まる。

ポイント4 ネル+コスロンでキッチリろ過 p155

第四のポイントは、キッチリろ過すること。

原料はトンカツを揚げた廃油だから、当然揚げカスなども入っている。
さらにメタノールと反応させることで、グリセリンなどの不純物も生まれてくる。
これらを取り除いてキレイな液体にしてやらないと、たちまちトラクタ等の燃料フィルターが詰まってエンジンが止まってしまう。

そこで単純かつ十分使えるくらいのレベルのBDFに仕上げる方法として相馬さんが採用しているのが、布と油こし用フィルターによる二回ろ過。

一回目のろ過に使う布は、コーヒーのドリップやスープの出汁をしたりするときなどに使われる「ネル」生地。
これだけでもかなりキレイにろ過できるが、二回目のろ過に油こし用フィルター「コスロン」(台所で使われる油こし器用のフィルター)を使うとより細かな不純物まで取り除ける。

一L約五〇円、一〇〇%使用でも壊れることはまずない p155

こうしてつくったBDFにかかるコストは、一L約五〇円くらい。
今や一〇〇円以上する軽油に比べればかなり安い。

最初は「あんまり使ったらエンジンが壊れるんじゃないか」と心配して、恐る恐る数%、燃料に混ぜる程度で使ってみたそうだが、壊れることはまずないことがわかり、五~六年前からはトラクタ・コンバインなどの農機、そしてトラックやワゴン車も、一〇〇%BDFでガンガン走らせている(自動車にBDFを使う場合は、陸運局への届け出が必要。簡単な書類を提出するだけ)。

冬場と国産車には相性が悪い? p156

あえて問題点を挙げるとすれば、まず冬場での使用。
東北の厳しい寒さのなかでは使えないことだろう。

BDFでも、キッチリ精製すれば、かなり寒いところでも使えるとも聞く。
でも、ろ過した程度では、気温が低いと油が凝固したりするため、そのままでは使いにくい。
農機はどうせ冬場には使わないので問題ないが、ワゴン車やトラックは、冬場はBDFを使わず、軽油を使うようにしているそうだ。

あとは、なぜか国産トラクタとの相性が悪い点。

あくまで相馬さんの経験上の話だが、国産トラクタと外国製トラクタでBDFを使った場合、国産のほうが明らかに燃料フィルターが詰まりやすいという。
「国産車は、最高に精製された燃料を使う前提でつくられてるからか、燃料フィルターの構造がちゃち」。
コンバインやトラック・ワゴン車等は国産でも問題ないので使ってみなければわからない点ではあるが、今のところトラクタについては、BDFを使うのは外国製に限っているそうだ。

また一般的に「BDFは腐食性が強いので、燃料ホースやパッキン等は、穴があかないようこまめに点検したほうがいい」とも言われている。
相馬さんも、一度古いワゴン車の燃料ポンプのシールが傷んで燃料が漏れたことがあるらしい。
でもほかではとくに問題は出てきていないので、これも機種によって違いがありそうだ。

特別注意して点検しているのは、燃料フィルターくらいだという。
さすがに軽油と比べるとフィルターは汚れやすいので、一か月に一回は点検して、汚れは取り除くようにしている。

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廃油で作ったBDFを持つ相馬一廣さん。
約28町の田畑でだだちゃ豆や赤カブ等を生産、漬物加工・販売も行なう(有)月山パイロットファームの取締役

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相馬さんの手作りBDFプラント。
1回目のろ過器は一斗缶にネルを張ったもの、2回目のろ過器は漬物用カートンの底に油こし用フィルターを付けたものなど、すべて身の回りのものでつくれる。
作業もすべて人力だが、1時間半程度の作業で約120lのBDFをつくることができる

p153

BDFの材料(10L分)
廃油…10L
メタノール…2L
触媒(水酸化カリウム)…49g
廃油は漬物取引先のトンカツ屋から一斗缶10円程度で購入、メタノールは2600円程度/14kg、水酸化カリウムは900円程度/500gで近くの商社から購入。
多少割高になるが、どちらも薬局でハンコを一つ押せば買うこともできる。
触媒は水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)のほうが安いが、相馬さんは廃液を堆肥に混ぜて使うため、カリ補給の意味も兼ねて水酸化カリウムを使っている

誰でもできるBDFのつくり方 p154

① 廃油の沈殿物を除く
しばらく置いて不純物を沈殿させた廃油の上澄みだけを10L、別の一斗缶に測りとる。
沈殿物で色が濁ってきたらすぐ注ぐのをやめる

② メタノールに触媒を溶かす
メタノール2L、触媒(水酸化カリウム)49gをキッチリ測ってミキサーに。
触媒が完全に溶けるまで(2~3分)かき混ぜる。
この液は肌や目などにつくとたいへん危険なので、ゴム手袋は必須

③ ②の溶液を廃油に入れてよく混ぜる
メタノールにちゃんと触媒が溶けていれば、廃油に混ぜた途端に色が黄色っぽく変わる

よく混ぜたほうが反応は早く進むので、生クリームを混ぜるときなどに使うハンドミキサー(柄を長く改造)でかき混ぜる。
その後2曰くらいおいて十分に反応させる

④ ③を布でろ過する
2日経った③の液を1回目のろ過器に注いでろ過。
このときも、油とメタノールが反応した結果できたグリセリン等の不純物が沈殿しているので、色の濁った沈殿物が見えてきたら注ぐのをやめる。
ろ過に使うネル生地は、大型のものが厨房用品を扱う店などで売っている

⑤ ④を油こし用フィルターでろ過する
さらに2日経った④の液を2回目のろ過器に注いでろ過すればできあがり。
写真は2回目のろ過器の一段目カートンの底に取り付けた油こし用フィルター(商品名:コスロン)。
これも台所用品を扱う店などで売っている

できあがったBDFは、キレイに透き通った鮮やかなオレンジ色。
エンジンをかけると、辺りはトンカツのにおいに包まれる

廃食用油の発生量と利用の実態 p167

家庭での植物油脂の消費量は、平成2(1990)年が47万t、平成16(2004)年は39万tで17%減少した(『我が国の油脂事情』農林水産省、2006)。
とくに1998年頃から減少に転じたのは、一人当たり消費量の減少と消費量の少ない高齢者の割合が増加したためと推定される。
植物油の一家庭当たり使用量は年間当たり8.0kgであり、そこから推定される廃食用油の発生量は25%の2.0kgとなる(政策科学研究所、2006)。
したがって、市町村単位での廃食用油発生量はこの数値から概算できる。
家庭での廃食用油の処理・処分方法をみるとほとんどは可燃ごみとして出しており、「回収に出す」はわずか3%足らずである。
図での廃食用油発生量は約10万であるから、回収量は3,000tとなる。

これに対して業務用の廃食用油は、外食産業食品工業などから多種類の油脂が大量に発生しているが、長年にわたって関連業界によりほとんどが回収され、再生工場で精製・調製され、資源リサイクルに大きく貢献している。
処理方法としては、廃食用油専門回収業者に委託するのが78%となっている。