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「しょぼい起業で生きていく 持続発展編」を読んだ

投稿時刻2024年2月5日 15:00

しょぼい起業で生きていく 持続発展編」を 2,024 年 02 月 05 日に読んだ。

目次

メモ

p16

生活がどんどん豊かになっていく実感(あるいは「希望」と言い換えてもいい)がある限り、多少不自由な暮らしが続いても人間はなんとか踏ん張れます。
でも「どうもこの先、そんなによくなることはなさそうだ」と感じたとたん、気持ちは投げやりになり、仕事を広げていくどころか、現状を維持する気力さえ失ってしまうことでしょう。

もっと言えば、やや暗い話にはなりますが「人はいつまでも若くない」というシビアな現実もあります。
誰でも少しずつ老いていき、年を重ねるごとに無理がきかなくなる。
昨日までできていたことが、きょう突然できなくなったとしても何の不思議もないのです。

p22

確かに、一度これと決めた商売に専念し、すぐ投げ出さないのは大切なことです。
でも、立派なオフィスを構えて社員がおおぜい働くようになった会社組織でさえ、設立当時とは別の本業を営むところが半分を占めるのですから、何が当たるかわからない最初のうちの商売替えなんて、あって当たり前です。
スタートアップ界隈でも「ピボット(旋回)」と言ったりしますよね。
※株式会社帝国データバンク「“本業”の現状と今後に対する企業の意識調査」(2015年7月14日)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p150703.pdf

p34

要は「人情に甘えられるだけ甘え、むき出しの競争を避けることであいまいにやっていける」のが、実店舗を営むしょぼい起業の強みだということです。

古くさいやり方と侮ってはいけません。
自然な心情に働きかけて人を動かすテクニックは「ナッジ」と呼ばれ、行動経済学の最先端分野になっています。
あなたも実店舗を構えて、科学的にも検証された「古きよき義理人情」を味方にしましょう。

p60

10年以上の下積みが珍しくない寿司職人界に対し「修行よりセンス」「うまい寿司屋の大将もYouTubeで勉強してる」と、ホリエモンこと堀江貴文さんが異を唱えてから、かれこれ5年が経とうとしています。

楽器演奏からダンス、家のリフォーム、入ってはいけない宗教の見分け方(←私のYouTubeチャンネルで見られます)に至るまで、ありとあらゆる技術の解説動画が出回る現在、「動画見て覚えろ」という主張に、もはや意外性はないでしょう。
何度でもタダで見返せるYouTube動画から学び、本当にお客が喜ぶレベルの食べ物が出せるなら、初期投資を膨らませず早めに開店したいしょぼい起業勢にとって、これほど心強いことはありません。

p70

そうは言っても、では実際にどうやってシナモンロールの製法をマスターしたのでしょうか。
中嶋さんは「レシピ本も集めたけれど、いちばん参考になったのはYouTube」と断言します。

これは、未知のスキルを体得する上で「レシピの分量」のような文字どおりの部分よりも、「生地をうまく伸ばし、きれいに丸めるコツ」といった言語化しにくいポイントを理解するのが大切だからとのこと。
中嶋さんは「動画は圧倒的に情報量が多いので、繰り返し見て、よく観察することが大切。
ほとんど毎日のように試作していた私も、好みのドイツ風シナモンロールを現地の人がつくる動画などを参考にしていました」と明かします。

p110

では、難しくない仕事の方法をなんとか整えたとして、次にそれを学習するマニュアルはどうやってつくればよいでしょうか。

あなたが生真面目な努力家タイプであれば、考え抜いた結果をあれもこれも、漏れのないようにと何ページものテキストにしたため「次の出番までに読んどいて」などと言って手渡すのかもしれません。

ただ正直なところ、あなたほど真剣でない相手が、それをまともに全部読む可能性など、まずありません。
後日になって当然のごとく違うやり方をされれば「書いてあったのに、読んでないの?」などと内心いら立ったりするわけです。

p111

さらに、ここで思い出してほしいのが、本格シナモンロールのつくり方をYouTubeの海外動画を観てマスターしたという、第2章での中嶋さんのエピソードです。
あなたの店で共有したい作業手順も、実際の様子をスマホ動画で撮影して、そのままYouTubeにアップしてしまいましょう。

「URL QRコード」で検索すれば、動画に直接飛ぶQRコードをつくれる無料サービスがいくつも出てきます。
それらを使ってできたQRコードの画像を共有するなり、印刷して壁に貼るなりすれば、書いたり読んだりする手間を省いた、簡単便利なマニュアルの完成です。
あとは適当にヒマな時とか、もう一度確かめたい時とかに、自分のスマホで観てもらえばいい。
誰かが既に上げている動画をそのまま使えるなら、撮影する必要さえありません。

p115

あなたが責任者である限り、あなたの意見ですべて決められるのですから、基本的には秘密をつくらず、手伝ってくれる人には何でもオープンにして構いません。
ただし、1つだけ例外があります。
「材料をいくらで仕入れているか」を、店の経営権がない人には決して教えてはいけません。

手伝ってくれる人に仕入れ値を明かすということは、店番で丸わかりになる売上との差し引きで粗利が計算できることを意味します。
家賃や光熱水道費、消耗品といった経費も、そうそう隠すわけにはいかないでしょうから、結果的に経営者であるあなたの取り分が、一生懸命店番を手伝っている人の報酬よりも多いことが、はっきりわかってしまいます。

経営者としてリスクを取っている事実に理解があれば、これは当然のこととして納得できるはずですが、現実はそううまくいきません。
「自分だけいい思いをして」とモチベーションを下げられてしまうか「ノウハウをつかんだらさっさと辞めて、よそで同じことをしよう」と逃げられてしまうか、そこまでいかなくても休憩時におごるジュースにあまり感謝されなくなるか。
いずれにしてもいいことはありません。

借り入れをしないしょぼい起業では融資元もいないので、店の収益構造を全部明かしていいのは「この人となら一緒に経営できる」と確信できた仲間だけです。
逆に言えば、仕入れ値を教えてもいいと思える相手には、早めにあなたの右腕になってもらうべきでしょう。

チラシを配ろう p117

「しょぼい喫茶店」の事例から学ぶべき2つのポイントのうち、ここまでは1つめである「自分以外の人に任せること」について、あれこれ掘り下げて書いてきました。
では、もう1つの「地域に根付くための活動」についてはどうでしょうか。

借りた物件の町内に商店会があれば、事務所で教えてもらったキーパーソンのところへ菓子折を持って挨拶に行き、そこから芋づる式に交流を広げるのが手っ取り早い方法です。

新しい店主を歓迎するエリア(空き店舗が増えた商店街など)では、向こうのほうから様子を見に来てくれることもあるようですが、反対に、誰がまとめ役なのかよくわからない地域もあることでしょう。
それでも町内のお祭りなどがあれば、格好の接点となるのですが、こうした催しも少子高齢化にコロナ禍がとどめを刺す形で、完全に廃止されてしまうケースが珍しくないと聞きます。

では、どうするか。
私がお勧めするのはチラシです。
最初はデザインも印刷も頼まず、手書き原稿のコンビニコピーで全然構いませんから、店の前や最寄り駅、ショッピングセンターの周辺などでチラシを配りましょう。
ソーシャルディスタンスに配慮しながら、地元住民と直接コンタクトを取るのです。

安売りは怠慢である p120

「しょぼい喫茶店」の池田さんは「自分がやらずに『子ども食堂』を批判するよりは」と、閉店するまで18歳未満の飲食代を無料にしていました。
その姿勢が素晴らしいのはもちろんですが、ある程度余裕がなければ、個人経営の店ではやりたくてもできない取り組みでもあります。

しょぼい喫茶店でそれが可能だった最大の理由は「自家焙煎のコーヒー500円」「スパゲティ850円」など、ちゃんとした商品をきちんとした値付けで提供していたからです。
この点ではしょぼい起業勢の中でもかなり成功した事例だったと、私はいまでも考えています。

一般に、安売りはいいことのように思われがちですが、実際のところそれは、スケールメリットを出せる大資本が企業努力をした場合に限られます。

あえて厳しく言いますが、究極の零細事業者であるしょぼい起業のオーナーが安売りを選ぶのは、店の存続を危うくする自殺行為であるばかりか「高く売れる価値を探さない怠慢経営」という点で、恥ずべき行為です。

p124

では、しょぼい起業でもし失敗したらどうするか。

あくまでも現時点でのベストとして、私は「Uber Eatsで“保険”をかけろ」と回答したいと思います。
あなたが開いた店のフードデリバリーにUber Eatsを使え、というのではありません(使っても構いませんが、売上の35%を手数料として取られますから、しょぼい起業としてはまず割に合わないでしょう)。
目指すべきは「店主として稼げないときは配達員になって補う」というハイブリッドな経営です。
ハイブリッド車が、エンジンのトルクが出ない低速にモーターを使うことでエコに走るかのごとく、「その時々、どちらかで稼げば無理なくやっていける」という自信を持つことで、長期的な成功に向かう足元を固めるのです。

p127

念のためにUber Eatsの仕事内容を説明しますと、専用アプリで指定される店に行って受け取った料理(中身が傾いたりこぼれたりしないよう、お店側がかなり工夫しています)を、同じくアプリで指定された場所(アクセスがわかりにくい場合、チャットや通話で注文者と連絡が取れます)に持っていって渡すだけです。
必要に応じて地図アプリも見るくらいで、よほどの方向音痴でない限り、とくに難しいことはありません(「配達先に路上を指定される」といった謎オーダーもちらほらありますが、そのうち慣れます)。

配達1件で得られた報酬は500円ほど。
私の脚力や地理感覚は、まあ人並みと自覚していますが、店も注文も多く数がさばける都心部を選んだこともあり、マイペースにやっても1時間あたり最低2件、運と努力で4件近くまでこなせました。

これはつまり「時給1000円以上はほぼ確実、頑張れば2000円が見える」ということですから、週5日・8時間稼働まで覚悟すれば、路頭に迷うようなことはまずありません。
「特別な知識・経験がなくても、好きなとき・好きなだけできる仕事」の対価としては満足な水準と感じます。

さらに言えば「勤務中の事故などをカバーする保険が自動でつく」「最短3日・遅くとも1週間強で入金」という条件も、こんにち個人事業主に提示される内容としては普通に良心的な部類でしょう(むろん、こうなるまでに待遇改善を求めて声を上げた人々の尽力があったことは忘れてはなりません)。

p130

もちろん、よいことばかりではありません。
「注文の入り具合には地域差が大きく、効率よく稼げるエリアばかりではない」「長時間配達するなら、自転車やバイクにそれなりの投資が必要」というのも事実であり、実際のところ慣れない荷物をして、普段使いのママチャリを走らせた私は、ほどなく腰痛に見舞われました。
坂の少ないエリアで、しかも1日4時間だけの稼働にもかかわらずです。

住む場所、予算、かけられる時間、それに体力もまちまちですから、万人向けのアドバイスは難しいところです。
ただもし、私が池袋エリアでUber Eats配達員を長く続けるなら、月2000円(と、30分を超えるごとに100円)で電動アシスト自転車が借りられるシェアリングサービスを試しながら、似たような中古を相場の3~4万円で買って元を取る戦略を考えたと思います。

p149

思った以上の経済的自由を手にした今井さんは現在、山積みの本と愛猫に囲まれた自宅で終日過ごすことも珍しくありません。
学生起業という言葉から連想されるギラつきは感じられない代わりに、「高等遊民」とでも呼びたくなる優雅さが漂います。

「一時期収入源だった“冷蔵庫商人”に時間を割くこともなくなりました。
しょぼい起業と出会って、人生が好転した。えらいてんちょうには頭が上がりません」
※廃棄すると高額なリサイクル料金がかかる冷蔵庫を無料で引き取って持ち帰り、クリーニング後フリマアプリで販売すること。
引き取りを無料で行う場合、古物商の許可は不要。

p155

しかしながら、究極の零細事業者であるしょぼい起業は、油断すればすぐなめられるのが常であり、面と向かって異を唱えられない臆病者では、周りの商売敵に好き放題されかねません。
よしんば自分1人の店ならそれも自己責任ですが、何人もの命運を預かる店舗オーナーである以上、みんなのために戦わなければならないのです。

「相手が誰であれ、不当な妨害には毅然とした対応を取ります」と警告する機会が、そう滅多にあるわけではありません。

ただ「経営責任者として共に働く仲間の後ろ盾になる」ということは、必要とあらば外部にこうした攻撃性を露わにし、身内に対して「守られている」という安心感を提供できる準備をしておくことでもあるのです。

理性だけでは務まらない、ある種の動物的本能も求められるのが(しょぼい起業以外も含めた)オーナー業の特性といえるでしょう。
「性格的に、自分はどうしても強く出られない」ということであれば、初めから手を出さないのが賢明です。

まったくの素人からはじめて、代金をもらうプロになるためのコツはあるか? p180

・最初はもう「この価値がわかる人だけ買えばいい」くらいの考えでいく。
通常の人なら未完成と言いそうなものでも、これでもうできている、完成しているんだと言い張って、思いきって値段をつけて売るんです。
いくら何でも、すべてが間違いではないだろうと。

・プレハブの屋台、へんぴな立地、大してサービスしないような店でも、それなりに売れるのは間違いない。
だから、いきなり形から入らないことが大事。

・こんなの誰が買うんだろうかと思うようなものでも、結構売れたりする。
実際に売れれば、自己肯定感が少しずつ積み上がっていく。
自信が持てればもっと売れるから、さらに自信が強化される。
その繰り返しですね。

「思いきって値段をつけて売る」のは大事だが、本当にそれができるのか。例えば「ケプリ」のチキンカレー390円は、いくら何でも安すぎではないか? p182

・みんなに安く食べてほしいというのももちろんあるし、働くことのハードルを下げたくてやってる面もある。
自分以外に店番を任せることとか、誰でもカレー屋をはじめられるようにとか考えると、仕込みと提供の簡単さは譲れない。
店で煩わしいことはしないと決めている。

・材料全部を分量どおり入れて煮れば、あとは盛ったライスにかけるだけ。
ケプリで使うこのカレーミックスは、他店に卸しているのとまったく同じもの。
接客にしても『あまり熱心にしないで』と言ってある。
そんな調子でもそこそこ美味ければ安さで口コミが広がるから、広告費を払ったんだと思って割り切っている。

・時給900円でアルバイトスタッフに店番してもらっている間に、僕はちょくちょく日給9000円とかで外のバイトをして、生活費を稼いでいる。
『経営者こそアルバイトするべき』だと、僕は思ってる。
9000円分の利益を全部自分の店で出そうとしたら、いったいカレーを何杯売らないといけないか。
そんなことしてるより、経営者が時間の半分くらい店を任せてバイトに出たほうが、よっぽど早いこともある。

p230

国破れて山河あり、自然の一部をなすわれわれ人間の生活も、成功と失敗を繰り返しながら脈々と受け継がれていくものです。
私はこれからも誰かを支え、誰かに支えられながら、ぼちぼちやっていくつもりです。