「図解 すごい立地戦略」を2025年07月24日に読んだ。
目次
- メモ
- はじめに 失敗しない出店戦略 p2
- p5
- ドライバーから見て、「出やすいお店」は? p19
- ドライバーから、いかに「気づいてもらえるか」 p23
- 相乗効果を狙った「ゾーン効果」 p44
- お客様は、看板の前で立ち止まらない? p52
- 道路によって看板の出し方も違ってくる p55
- ターゲットの特徴と立地が噛み合うと…… p78
- 現地調査は、3つの視点でチェックしよう p86
- 立地戦略の異端児、サイゼリヤ p132
- 地方は人口集中地区に出店せよ p142
- 出口の新設で好立地が一転! p152
- スタジアム駅付近にはなぜコンビニがないのか? p155
- 出店時に重視すべきは、何よりもまず○○○ p163
- どんな大手も最後は、数字で決断する p168
メモ
はじめに 失敗しない出店戦略 p2
2017年に好評だった『すごい立地戦略』(PHPビジネス新書)の発刊から6年。
立地をめぐる環境は、大きく変化したと感じます。
その理由の1つは、新型コロナウイルスの影響です。
人の移動が制限され、業種を問わず多くのリアル店舗が苦境に立たされました。
コロナが明けた今も、その影響は続いています。
2つ目は、値上げラッシュ。
都心の地価や物価、電気代の高騰などを受け、「良い立地」を諦める飲食店、小売業、サービス業は少なくありません。
3つ目は、人口減少。
これについては6年前から引き続きではありますが、顧客が減り続ける土地で生き残るのは至難の業です。
こうした現状をふまえ、「資本力に頼らなくても立地戦略を駆使した生き残り方を探る」。
これが、本書の目的です。
本書は、前著『すごい立地戦略』の内容をベースに、「図解とクイズでわかりやすく立地戦略を学ぶ」というコンセプトで情報をアップデートしています。
カフェやそば屋、サロンなど、出店を考えている人はもちろん、企業の店舗開発担当者、店舗出資者を対象に、立地の基本が学べる「入門書」という位置づけで解説しております。
そのため、「これさえ押さえれば失敗しない」という立地戦略のエッセンスに絞って解説しています。
店舗開発は、少なくとも数百万円の資本金が必要です。
苦労して貯めた資金を数カ月で溶かさないためにも、まずは基本だけでもきっちり押さえてほしい。
これが、本書を通じて私が一番伝えたいメッセージです。
基本とは申したものの、立地戦略のエッセンスを押さえれば、失敗しないどころか、家賃の割に儲かる「お宝立地」を探すことも可能です。
本書を通じて、あなたの店舗ビジネスが成功することを祈念しております。
p5
店舗の「売上要因」は、大きく分けて「立地要因」と「商圏要因」の2つに分かれます。
「立地要因」は、狭い範囲で売上に影響を及ぼす要因で、店の立つ土地や建物、周辺の環境などがそれに当たります。
「商圏要因」は、店を中心に半径数キロから数十キロといった広範囲で、売上に影響を及ぼす要因です。
さらに「立地要因」は、店の場所に関わる「立地因子」と、建物や敷地に関わる「構造因子」に分けられ、「商圏要因」は、商売をするエリアに関わる「商圏因子」と、自店のライバルに関わる「競合因子」に分けられます。
それぞれの要素がどうなれば売上が上がるのか、簡単にまとめましたのでひとつずつ見ていきましょう。
①顧客誘導施設――顧客を惹きつける施設のこと。
利用者が多い都心の駅や、大規模商業施設、ショッピングセンター、交通量の多い幹線道路や交差点などがそれに当たります。
顧客誘導施設が近くにあるかどうかで、売上は大きく変わってきます。
②認知性――「どこに店があるか」を示すのが認知性。
通行人やドライバーから店が「見えるか見えないか」を評価する「視界性」と、そもそも店の存在自体を「知っているか知らないか」を評価する「周知性」に分かれます。
当然ながら、看板などによって見えやすく、有名な店舗のほうが売上は上がります。
③動線――2つの顧客誘導施設をつなぐ道を指します。
たとえば、駅で降りた人がデパートへ向かう道筋、それが動線となります。
顧客誘導施設が複数になれば動線も複雑になり、わかりにくく、変化しやすくなるのも特徴です。
人の多く通る動線を把握し、その動線上に出店することが売上アップにつながります。
④建物構造――単純に店の建物だけでなく、店舗の面積や駐車場の台数、入り口の数や位置、座席数なども含みます。
基本的に店舗は広く、駐車台数も多く、店舗も駐車場も複数の出入り口を確保し、メインの道路に面した間口の広い入り口が望ましいです。
飲食店では座席数も重要で、多すぎず少なすぎず、いつもちょうど満席ぐらいがベストです。
⑤アプローチ――店舗や店の敷地への入りやすさ入りにくさを示します。
たとえば店の前の歩道幅が広く、駐車場にターンできるスペースがあると入りやすいため、売上アップが期待できます。
逆に「店に入りにくい」と思わせてしまう場合には、ある理由が考えられるので、これについては後ほど詳しく解説します。
⑥マーケット規模――一般的な「商圏」と同じ概念で、店舗から半径何キロにどれだけの人が住んでいて、働いているか、その量を表します。
一言でいえば人口量です。
店舗の周りに多くの人が住んでいたり、多くの人出があれば、それだけで売上が上がる可能性がありますので、出店の際には絶対に調べるべき指標です。
人が多いのに売上が低ければテコ入れを、人が少ないことがわかれば多い場所への移転や撤退を考えます。
⑦商圏の質――人口量は重要ですが、単純に人が多ければいいというわけでもありません。
その商圏の中に、自店の顧客となるターゲットが多くいるかどうか、つまり人の「質」が問われます。
年齢、性別、職種や家族の人数、収入などが質を調べる指標となります。
自店の顧客層となる人が多い場所に出店してこそ、売上アップが見込めます。
⑧ポイント規模――店の前を歩く人の数を通行量、店の前の道路を走る自動車の数を交通量といいます。
新規出店の際には、⑥マーケット規模とあわせて調べてもらいたい要素です。
曜日や時間帯、天候によっても変わるため、さまざまなパターンでの計測が必要になります。
通行量も交通量も多いほうが売上アップにつながりますが、歩く速度や道行く人の服装もチェックして、⑦商圏の質も同時に確認することが欠かせません。
⑨自社競合――チェーン店の場合は、「扱う商品」「価格」「提供「方法」が同じである自社チェーンの他店が最大の競合です。
ある地域に集中的に出店することでシェアを獲得するドミナント戦略や、フランチャイズ展開を採用しているチェーンは、近隣の同じチェーン店と顧客を獲りあうことにならないか、店舗どうしの影響を考えなければいけません。
自社チェーンのことは忘れがちですが、売上が低いと思ったら自社チェーンの他店に顧客を獲られていないかご注意を。
⑩他社競合――他社と扱っている商品、価格、提供方法の3点が似ていれば似ているほど、売上に影響を受けます。
同業者はもちろん、近年は業種業態間の垣根が低くなり、さまざまな業態の店が競合となる可能性があります。
最近では、ファストフード店のライバルにイートイン・コンビニが加わりました。
⑨自社競合で挙げた3点を比較して競合の強弱を評価し、自店の弱いところは対策を立てて実行する必要があります。
いかがでしょうか?
これらの要素を把握して街を見渡してみるだけでも、これまではただひしめいていたお店の数々を見る目が変わってくると思います。
勘のいい方なら「あの店がなぜ売れているのか」「あのチェーンがどんな戦略をもっているのか」など、わかってしまうかもしれません。
出店をお考えの方、あるいはすでに店舗経営をされている方は、10要素を把握し、チェックすることで、計画的な出店戦略を練ることができます。
新規出店の際にはチェック項目として活用できますし、既存店であればどの要素が足りていないのか、売上が上がらない要因がどこにあるのかを判断するヒントにもなります。
この基本を踏まえたうえで本文を読み進めていただければ、立地戦略とビジネスモデルについて体系的に理解が深まるでしょう。
なお、10要素と売上の関連は、「売上要因分析」といって、実は計算式を使って定量的に表すことができます。
しかし、本書では立地戦略の概略を徹底的に理解し、体感していただくことを目的としていますので、売上要因分析の計算式については省略します。
我々が実際に売上要因分析を行い、新店がどれくらい売り上げるのかを予測する「売上予測」を行う際には、10要素をさらに細分化して60~70ほどの要素を用います。
非常に専門的な内容です。
本書を読んで、さらに深く立地と売上について知りたいと思ってくださった方は、『立地の科学』(ダイヤモンド社)、『店舗出店戦略と売上予測のすすめ方』(同友館)をご一読いただければと思います。
ドライバーから見て、「出やすいお店」は? p19
まず、交差点で交わる2本の道路については、交通量の多いほうを基準に考えます。
自動車が半日で5000台走る道と2000台走る道では、5000台走る道のほうが基準になります。
できるだけ人口が多いところに出店する考え方と同じで、少しでもお客様をつかむチャンスを増やすためには、もっとも交通量の多い道を基準に考えるのです。
ですから、半日で5000台走る道と4000台走る道でも、5000台の道が基準になります。
基準にする道を選んだら、その道の「左側」に照準を絞ります。
対向車がいて、右折しにくいからです。
その時点で、進行方向右側にあるC、Dの立地は候補から消えます。
では、交通量の多い左側にある残りのA、B、E、Fはどこでもいいのでしょうか。
いいえ、そうではありません。
交差点に信号がある場合、信号の手前よりも、信号の先にお店があったほうがいいとされています。
それは、なぜでしょうか?
手前でも奥でも車での入りやすさ・入りにくさは変わらないと思われるかもしれませんが、出るときを想像してみてください。
お店の駐車場から道路に出るときは、信号の奥のほうが出やすいですね。
信号待ちでクルマが連なって止まっていると、手前のAやEのお店からは出られません。
列が途切れたときか、列のどこかに割り込まなければいけないからです。
信号が青になり、車の列が動いたタイミングでようやく道に出られます。
よって、交差点手前のAとEは候補ではなくなります。
これが信号より先のBの場所であれば、渋滞していない限り、信号が赤の間に道路に出ることができます。
道路に出るための障害が交差点手前よりずっと少ないのです。
ドライバーは運転中、視野がギューッと狭まるといわれています。
周りの景色をよく見ているというより、前の車や信号、横を走るバイクなどに注意を向けています。
これが、信号で止まった瞬間にポンと視野が開けてリラックスできます。
信号で止まると一瞬ホッとしませんか?
まさにそのときに、狭まっていた視野が開けて、「あ、信号の先にコンビニがあるな」と認識できるのです。
では、BとFはどちらがいいのか。
2つの立地の違いは、Bが交差点の「角地」にあるという点です。
角地というのは、2本の道路に面している場所のこと。
この図では、5000台が走る道と2000台が走る道です。
そうなると、Bは両方の道からお客様を集められるので、7000台の交通量を持つ立地ということになります。
対してFは5000台です。
よって、より交通量の多いBがベストな立地です。
ちなみに、立地に関わる業界では、Aを「送り角」、Bを「受け角」といいます。
ロードサイドに出店するならば、2つの道に面する交差点の角地の「受け角」を狙うのがセオリーです。
なお、これはコンビニの立地、特にセブン-イレブンに顕著な立地戦略です。
もし「送り角」にセブン-イレブンがあったら、私は「あぁ、今は『受け角』の土地を狙って交渉している最中なんだなぁ」と思うくらい、徹底しています。
お客様の目線で考え、心理的障害物を取り除くことがどれだけ大切か、この例でわかってもらえるのではないでしょうか。
ドライバーから、いかに「気づいてもらえるか」 p23
マクドナルドは立地戦略に基づいて、足並みが揃った出店をしていると感じています。
店舗数は非常に多いのですが、出店場所を細かく分類して、それこそ数百通りほどにも分けて、売上予測を立てていると聞いています。
それだけ綿密な出店をしているマクドナルドは、ロードサイドのカーブの立地に際立った特徴を持っています。
カーブには、アウトカーブとインカーブの2種類があります。
店がカーブの外側にあるのがアウトカーブ、店がカーブの内側にあるのがインカーブです。
マクドナルドは、カーブに出店する場合、どちらに店舗を構えるか決めています。
どちらだと思いますか?
正解は、アウトカーブです。
カーブしている道の外側、カープの中盤から曲がり切るかどうかの場所に出店しています。
なぜアウトカーブなのでしょうか。
その理由はドライバーの目線でわかります。
クルマを運転しているときどちらのカーブの場合も視線はカーブの外側のほうへと動きます。
よって、アウトカーブに店を構えれば、カーブを曲がるとほぼ真正面にお店が見えてきます。
しかも、お店のかなり手前、カーブの曲がりに差し掛かったあたりからお店が見えてきます。
一方で、インカーブに店を出しても、視線はカーブの外側のほうへ動きますので、反対車線のほうを見ていることになり、店には目がいきにくいのです。
ただし、右から左へカーブする道のアウトカーブ側にお店があったとしたら、真正面にお店は見えてくると思うのですが、左側通行のため見えにくいうえ、お店にはかなり入りにくいですよね(図1-2-1)。
よって、マクドナルドはアウトカーブ、しかも二車線道路ならば左から右へカーブしている場所を中心に出店しているのです。
今度、運転されるときは、お店がアウトカーブに多いことを実感していただきたいと思います。
二車線道路の場合、左カーブと右カーブのどちらのお店に目がいくかも、意識して見ていただくと面白いでしょう(ただし、くれぐれも安全運転でお願いします)。
運転しない方は、ショッピングモールでもなんでも、カープしている道を見つけたら、「カーブの内側と外側のお店、どっちが目につくか」を試してみてください。
内側よりも外側のほうが目に入りやすいと思います。
このように、ドライバーの目線まで考慮したうえで、出店先は決められているのです。
相乗効果を狙った「ゾーン効果」 p44
レンタルビデオショップの「ツタヤ」や「ゲオ」などの店舗と、すぐ隣にコンビニがくっついて出店しているような場所をよく見かけます。
それぞれの店舗に来るお客様をついでに取り込む、それぞれの店舗の相乗効果で売上を上げようという考えから、こうした出店戦略を取っているのです。
いわゆる、「ゾーン効果」を狙っています。
映画のDVDを借りたついでに、その映画を見ながら食べるお菓子をコンビニで買う――自然な流れですよね。
最初はそんなつもりがなかったとしても、隣にコンビニがあったら「ついでに買っとくか!」と思う気持ちはわかるのではないでしょうか。
あるいは、複数の店舗がくっついて出店している場合もあります。
たとえばお近くの道路沿いに、バーミヤン(中華)と魚屋路(回転寿司)と夢庵(和食)が並んで建っていたりしませんか?
食事に行こうかというとき、何にするか決める前に「とりあえずあの辺に行ってみて、着いてから考えるか」などと話したことがある方もいるかもしれません。
実はこの3社、すべて「すかいらーく」が経営するお店だからくっついているのですが、扱うジャンルが違うのでこれも自社内でつくり上げたゾーン効果といえます。
自社内でなくとも、複数の企業がいろいろな飲食店を出店する大通りもあります。
どこの店も行列したり賑わっているようならば、それは質と量ともに店舗どうしのバランスがよかったといえます。
これが、ある一定の数を超えてしまうと、今度は競合店による供給過多の問題が起こってきます。
もう人気店だけが儲かって、その他が共倒れになってしまったら「ゾーン効果」はなくなります。
同じ通りにイタリアンが5軒もあったり、お寿司屋さんが3軒もあれば、お客様が偏るのも無理はありませんよね。
人口とのバランスに注意しましょう。
十分な人口量があれば、似たり寄ったりのお店が30店舗あろうと問題ありません。
渋谷や新宿などはそういう街ですね。
安くて気を遣わない居酒屋が、所狭しと並んでいます。
しかし、少ない人口量の場所に30店舗もあったら、これはもう競合過多になってしまいます。
飲食店は、人口とのバランスで出店を考える必要があるのです。
お客様は、看板の前で立ち止まらない? p52
ロードサイドの例から逸れますが、大事なのでお話ししておきたいと思います。
個人でお店を出す場合、気を配っていただきたいのが看板です。
お店の認知度を上げるために、テレビや雑誌、新聞などの広告を使って瞬間的な宣伝を行う方法ももちろんありますが、看板はお店がそこで営業を続ける限り、ずっと宣伝してくれます。
「うちはこんなお店です」と、近くを通る人に訴えかけ続けることができるのです。
そういう意味では、「看板をお客様に見せていますか?」というのが重要なポイントになります。
道行く人に認識してもらうためには、ある程度の大きさで、それなりに派手で目立つ看板にする必要があります。
特に個人店の場合は、オシャレな看板、洗練された看板にしたいと思う人が多いでしょう。
ただ、その前に、その看板を設置して本当に目立つのか、店の周囲に出しても埋もれないものかどうか、客観的に、シビアに考えてほしいと思います。
私は仕事柄、さまざまな店舗の新店オープンの場に立ち会ってきました。
店の前に出て、店舗の入り口上部に取り付けられた真新しい大きな看板の真正面に立ち、その場にいる関係者全員で見上げて、「おお、いいね」「いいですね」と喜び合うことがあります。
「ここからスタートだ」と、身の引き締まる思いがするシーンです。
ですがこのとき、我々は店の前に立ち、看板を真正面から見上げています。
こうしたシチュエーションというのは、実はその店の前を歩く人たちからすると、なかなかないのではないでしょうか?
多くのお客様、通行人は、通りすがりに看板を見るでしょう。
それも、わざわざ立ち止まらず、歩きながら見るはずです。
急いでいれば、看板の文字が小さかったり、特殊な書体を使っていたら読めない可能性もあります。
いくら立派な看板を店の外壁に設置しても、よほど気にならない限り、立ち止まって看板を見る人はほとんどいないのです。
それでは、通行人にお店を認知してもらうためにはどうすればいいか?
答えは簡単です。
通りに対して「垂直に」看板を設置すればいいのです。
店の外壁にベタッと看板を取り付けると、通り沿いの店の場合、店の前を通る通りに対して看板は平行に設置されることになります。
一方、同じ店の建物の外壁でも通りに対して垂直に看板を設置する方法があります。
この看板を「ソデ看板」といいます。
道に飛び出すように、ビルの上部や各階ごとに設置されているのを見たことがあると思います。
ソデ看板と同じく垂直に設置するものには、店の前に立てて置かれる「立て看板」があります。
黒板に手書きで書き込むものや、電光掲示が時間で切り替わるようなものまで登場しています。
裏表の両面が使えるA型の立て看板を、店舗に対して垂直に設置すれば、通りの両側から来る通行人、どちらにもお店を認知させることができるのです。
看板は、色や形にもこだわっていきましょう。
世の中の看板のおそらく9割程度が、四角い長方形ではないでしょうか?
飲食店に絞れば、食欲をそそる色の赤やオレンジ、黄色など曖色系を使っている看板がとても多い。
同じにしては埋もれてしまいますね。
看板によって他社との差別化に成功したのが、スターバックスです。
今では見慣れた緑色の丸い看板も、スターバックスが最初に日本にやってきたときには非常に斬新でした。
もちろん、何か奇抜なことをする必要はありません。
ですが、看板の色や形、設置場所を工夫するだけで、認知度はグッと変わってくるものです。
道行く人にいかにお店を知ってもらうか。
お店に入っていただく前から、潜在的なお客様に対するちょっとした気遣いの工夫ができるかが試されています。
道路によって看板の出し方も違ってくる p55
看板を出すのは、歩道だけではありません。
クルマが1日1万台走る道路にも出します。
ただし、「1日に1万台が走っている道路」とその質はさまざまです。
1万台が速い速度で「通過する」だけの道路もあれば、地元の住民がせわしなく通って1万台の道路もあります。
量は同じ1万台なのですが、質の面ではまったく異なります。
ですから、単純に道路、ロードサイドを交通量の面だけで捉えて、それだけで判断してはいけません。
その道路がどういう道路なのか、長距離移動のための幹線道路なのか、地元住民のための生活道路なのか、きちんと質も見る必要があります。
たとえば、長距離移動のトラックなどが多く走る広域幹線道路というのはスピードを出します。
一方、住宅街にある生活幹線道路は、女性が子どもの送迎や買い物のため、軽自動車でのんびりと走っていることが多いのです。
これら2つの道路では、視界性の観点から考えると看板を出すべき場所が変わってきます。
広域幹線道路のような走行速度が速い道路では、運転していると頻繁に大きな看板を見かけるでしょう。
「マクドナルド、この先3キロ」といった看板です。
このような看板を、「野立て看板」と呼びます。
ロードサイドに看板を設置する場合、店舗まで3キロ、1.5キロ、1キロ、500メートルという4カ所に設置することが多いです。
店舗まで3キロというと、まだだいぶ距離があるように感じますが、3キロ手前からドライバーに認識させ、「行こうかどうしようか」と検討してもらわないと、あっという間に店の前を通り過ぎてしまうのです。
ロードサイドの大型の野立て看板自体は、設置するのにそんなに費用がかかりません。
場所によっては非常に安く、年間3万円ほどの賃料(看板制作費は別)ですむようなこともあります。
その金額であれば、出さないよりも出したほうがいいですよね。
これが生活道路であれば、そんなに広域に看板を設置する必要はありません。
それよりも、しっかり店舗周辺に認知を広げるために「のぼり」の設置や、できればチラシ配布をしたほうがいいでしょう。
ターゲットの特徴と立地が噛み合うと…… p78
このクイズを見て、立地には関係ない、お弁当なら他のコンビニでも十分美味しいのに……と思った読者の方もいると思います。
実は、ポプラの人気弁当「ポプ弁」と出店地域には、意外な関係があります。
どれのそれは追々説明するとして、大人気のポプ弁とはいったい、どんなお弁当なのでしょうか。
正解は、「炊き立ての温かいご飯をその場で好きな量、詰めてくれるお弁当」です。
ポプラの店内には、おかずだけが入ったお弁当が売られています。
レジに持って行くと、先におかずだけを温めて、それから炊き立てのご飯を入れてもらえる仕組みです。
お店で炊いたご飯を最大450グラムまで好きな量を詰めてもらえる「ポプ弁」は、他のコンビニチェーンにはない独自の取り組みとして、多くの人に支持されています。
では、このような特徴のお弁当を売りにするコンビニ、あなたならどんな場所に出店させますか?
炊き立てのお米を、最大450グラム、好きなだけ詰めてもらえるお弁当……。
白米の量が決まっている他のコンビニチェーンの中で、このポプ弁独自のサービスは、特にどんな人たちに人気がありそうでしょうか。
答えは、力仕事をする人たちです。
だからポプラは、肉体労働者の多い湾岸地域や港湾地域に比較的多く出店しています。
独自のサービスと、そのサービスを喜んでくれる客層のいる立地戦略が功を奏すると、強いのは当然です。
特定の地域でポプラが並み居る強豪に負けない出店と人気を誇っているのもうなずけます。
ちなみにポプラだけでなく、都内を見ても、湾岸地域のコンビニは売上高が高い傾向があります。
さまざまな客層の中で最も客単価が高いのは、トラック運転手、あるいは現場作業員といった人たちなのです。
湾岸地域はそういう人が多く集まる地域のため、コンビニの駐車場もトラックが2~3台入れるようなスペースを確保しています。
通常のコンビニの客単価は、600~650円といわれています。
ところが、トラック運転手といった人たちは、1000円以上買う人が多いのです。
まずタバコで400円以上、それから飲み物とお弁当、合間に読む雑誌などを買えば、あっという間に1000円を超えます。
普通の街中の店舗の客単価は、それに比べると低いのです。
パンとコーヒーだけなら300円程度、お弁当も500円程度です。
喫煙率も下がっています。
人気のお客様の層ごとに、どんな商品を選んで客単価はいくらぐらいになるのかは異なります。
こうしたターゲットの特徴と立地がかみ合ったときに、売れるコンビニはできるのです。
現地調査は、3つの視点でチェックしよう p86
2023年2月期の各コンビニチェーンの1店舗あたりの1日平均売上高は、セブン-イレブンが67万円、ローソンが52万円、ファミリーマートが53万円です。
セブン-イレブンとその他のコンビニチェーンでは、1日の売上で10万円も差がついています。
なぜ同じコンビニなのに、10万円も差がついてしまうのでしょうか。
それには、ブランド力やそれぞれの店舗力の差というのもあると思いますが、立地戦略も多分に影響しています。
セブン-イレブンは、「このエリアに出店する」と決めたエリア内で、近くに他のチェーンのコンビニがあっても臆することなく、堂々と出店してきます。
道路を挟んだ向かいや、数軒の家を挟んだ同じ通りなど、本当に真横のような場所に出店することさえあります。
他のチェーンの場合は、他のコンビニのすぐ横に出店するかどうかは躊躇します。
セブン-イレブンの出店は、さながら「ここにセブン-イレブンがあるべきだ。今そこに、何が建っていようと」というような出店の仕方です。
1日10万円の日販差は伊達ではありません。
セブン-イレブンには「どこのコンビニの横に出店しても勝てる」、その根拠となる数字がしっかりあるので、自分たちの分析に自信を持って出店していけるのです。
さて、セブン-イレブンで、個人的にとても気になる立地の店舗がありました。
表参道の路地にあるセブン-イレブン北青山3丁目店です。
たまたま通りかかって見つけたときは、「よくここに出したな」と驚きました。
そのくらい、裏路地のような細い通りにあって、観光客などが通らないような場所です。
どうしてこんなところに出店したのか、その理由が気になったため、何度か店まで足を運び、人の流れや周辺の様子をチェックしました。
現地調査のチェックポイントは主に3点あります。
まずは歩道幅です。
通常、お店の前の歩道の幅は、人がストレスなくすれ違える1~2メートルぐらいがベストです。
幅が狭いと歩く人の速度は速くなるので、お店に気づいてもらえない可能性があるからです。
ふたつ目が、通行人の歩く速さ、「歩速」です。
何時にどこに行くといった時間的制約や、どこで何をするという目的が決まっている場合、歩くスピードは速くなります。
最後が、店の前の通行人の様子です。
服装や持ち物から、ビジネスマンなのか、学生なのか、観光客なのか、近隣住民なのか推測し、どういった属性の人が多く通っているのかチェックします。
この3点を意識してセブン-イレブン周辺を観察してみました。
明治神宮へと続く表参道と青山通り、その大きな通り周辺に、ショッピングビルが並び、大勢の人が行き交います。
ところが、その大きな通りから1本裏の横道に入ると、オフィスの入っているようなビルや低層階のマンション、アパート、住宅などが建ち並んでいて、働いている人やそのあたりに住んでいる人だけが行き交う通りになります。
穴場的なカフェやお店もあるにはありますが、知っている人しか通らないようなところです。
まさにそんな、車も1台しか通れず、歩道も狭くなっている細い道に、そのセブン-イレブンはあります。
ただ、一本道ではなく、ちょうど十字路になっている角地で、四方から人がひっきりなしにやって来ているため、お店は繁盛しているようです。
通行人やお客様は足早に歩く人が多く、買い物や観光で表参道に来たというよりは、通い慣れた様子のオフィスワーカーや近隣この住民のような方がほとんどでした。
そう、ここは、普段から周辺で働いている人、近隣に住んでいる人からすれば、「よくぞここに出してくれた!」と思われるような立地だったのです。
徹底的にエリアを調べ、ニーズがある場所を見つけ出し、確実に出店する。
セブン-イレブンの立地の目の付けどころは、一見すると「そんなところで儲かるの?」ですが、採算がとれると踏んだ場所を着実に選んでいるのです。
立地戦略の異端児、サイゼリヤ p132
新興勢力に押され、苦境に立たされる飲食店がある一方で、ゆるぎない強さを見せる飲食店も存在します。
「サイゼリヤ」は、千葉県市川市で誕生したイタリアンのファミリーレストランです。
驚くほどの低価格で食事からワインまで美味しいイタリアンを楽しめるとあって、知名度は高いでしょう。
主なお客様は、学生を中心とする若者や家族連れです。
本稿執筆段階では全国に1069店舗ありますが、このサイゼリヤの立地戦略は異端といっていいものです。
なんと、2階や地下1階が多い。
普通は敬遠する地上2階以上のフロアや地下に、明らかに臆することなく出店しています。
ビルの2階は1階よりも賃料が安いので収益性も取れますし、ビルの側面を使った広告戦も可能です。
しかしこの出店スタイル、これまでのどの業種、業態、ブランドとも真逆ですよね?
本書でも、「2階より1階」「賃料の安さに目をくらませてはならない」と書いてきました。
しかしサイゼリヤは、これで成功しています。
なぜ、こんなことが可能なのか。
それは、サイゼリヤの商品力の強さです。
普通のファミリーレストランと比べても、ピザやドリア、パスタがとにかく安い。
パスタも500円以下のものがあるくらいで、1000円もあればお腹いっぱいに。
そんなに安いと材料の安全性などが心配になるところですが、サイゼリヤでは野菜などを日本の提携農家(つまり自社農場)から仕入れ、ワインなどは本場イタリアから直輸入しているというから驚きです。
この圧倒的な商品力が、出店場所の選択肢を増やしているのです。
おそらく、ショッピングセンターなどからの引き合いも多いでしょう。
これらを実現しているのは、サイゼリヤの創業者、正垣泰彦氏(現会長)でしょう。
正垣氏は東京理科大学出身、つまり理系で、大学在学中に「サイゼリヤ」1号店をオープンさせ、ここまでに育て上げました。
さすがは理系創業者の企業というべきか、サイゼリヤではフロア清掃の方法までもがデータに基づく改善の末に完成されたというのですから、類まれなるロジカルシンキング、そしてバランス感覚が、立地戦略においても生きているということでしょう。
自店の商品力やターゲットを誤って、賃料の安さにひかれたお店が真似をしても、まずうまくいかないと思ってください。
地方は人口集中地区に出店せよ p142
では、地方では何に注目すればいいのか。
それが、人口集中地区です。
1キロ平方メートルに4000人以上が住んでいるところを、「人口集中地区」と国が定めています。
要するに人が多く住んでいる場所を指すのですが、この地区に注目してほしいのです。
東京都を見てみると、23区はほとんどが人口集中地区になっています。
お近くの埼玉県がどうなっているか見てみましょう。
人口集中地区を見るために便利なのが、国土交通省のサイトです。
図4-2を見るとおわかりのように、埼玉県は非常にシンプル、わかりやすい構造です。
国道122号、川越街道+東武東上線、西武池袋線、そして17号線+京浜東北線、これら4本のラインに沿ったところに色が付いています。
他の地域には色がありません。
つまり、この4本のラインに沿ったところにばかり人がたくさん住んでいるというのがわかります。
街でいうと、川越市、さいたま市、川口市といったところでしょうかしかもこのラインに沿って、南に行けば行くほど人口の集中度が高くなっています。
埼玉県の南ということは、東京です。
ということは、埼玉県に住んでいる多くの人が「4本のラインに沿った東京寄り」に住んでいることがわかりますね。
埼玉県に出店する場合は、このラインに沿って出店すべきということがおわかりいただけると思います。
とてもわかりやすいので埼玉県を例に挙げましたが、他の地域でもこの人口集中地区はあてになります。
地方への出店を考える場合は、県の人口というだけでなく、人口集中地区を調べてみてほしいと思います。
都心のように「駅」といったわかりやすいポイントがない場合も、国道などがポイントになっていることもあります。
その地方ならではの、人が多く住む場所の特性を見分けるためのヒントとなるでしょう。
出口の新設で好立地が一転! p152
実際に、こんな事例がありました(図4-5参照)。
プロ野球チーム東京ヤクルトスワローズの本拠地となっている明治神宮球場。
この球場に最も近い駅が、地下鉄東京メトロ銀座線の外苑前駅です。
明治神宮球場に最寄りの3番出口を出てスタジアム通りをまっすぐ行けば、右手に球場が見えてきます。
この3番出口、実は以前はなかったものです。
最初からあった出口は2番出口でした。
この2番出口と3番出口の間にあるのが、ハンバーガーショップです。
2番出口しかなかった頃、出口を出た人の多くがこのハンバーガーショップの前を通り、立ち寄っていたそうです。
ところが、2番出口よりも球場に近い場所に3番出口ができると、ハンバーガーショップの売上はガクンと落ちてしまったというのです。
多くの人が、目的地により近い出口から出ようと考えます。
3番出口はスタジアム通りに向かって地上に出ることになるので、ハンバーガーショップは振り向かなければわからない位置となってしまいました。
大きな集客力をもつ明治神宮球場目当てのお客様を逃してしまったことで、このハンバーガーショップの売上は下がってしまったのです。
このように、あとからそういった出口ができてしまっては、自分たちではどうにもできない面があります。
しかし、最初からわざわざ人の目が行きにくい場所、人の流れとは反対方向の場所へ出店する必要はないですよね。
特にコンビニやファストフード店などの目的性が低い業態は、立地を考える際に地下鉄の出口の位置や向きにも注意してもらいたいと思います。
スタジアム駅付近にはなぜコンビニがないのか? p155
埼玉スタジアムや味の素スタジアム、日産スタジアムといったサッカーの試合やライブイベントなどが行われる大きなスタジアムがある駅があります。
そしてそれらのスタジアムはたいてい、最寄り駅から少し離れた位置にあります。
数万人を収容するスタジアムとなると、広大な敷地が必要です。
それだけの土地を確保するために、多少郊外の、駅から離れた場所になるというわけです。
だいたいが、駅から徒歩10~15分程度といったところでしょうか。
その間に、「飲み物を買っておこうかな」「中途半端な時間だから食べ物を軽く買っておこう」と思い、道すがらコンビニを探すことがあります。
何万人も収容する大きなスタジアムです。
それだけたくさんの人が同じ目的地に向かっているのですから、コンビニがいくつあってもおかしくないと考えるでしょう。
ところが、なかなかコンビニがない。
ようやく見つけても、コンビニに寄ろうと思った人たちが大勢そのコンビニに詰めかけているため、店内は超満員です。
レジにも行列ができていて、「これに並んでいたら間に合わない!」と、買い物を諦める人もいるでしょう。
「ここにコンビニを出したら、儲かるのでは……」と思いませんか?
スタジアムへ行ったことがある方はわかるかもしれませんが、実はスタジアムの周りには意外と人が住んでいないのです。
多少の住宅街はありますが、スタジアムの周りに田畑や更地が広がっていることも珍しくありません。
最寄り駅も、規模が大きい駅というよりは、比較的こぢんまりした駅のことがよくあります。
そうなると、数多くのコンビニがあっても競合し合ってしまうことが予想されます。
試合やイベントがあるときは大勢の人がやって来るからいいのですが、普段はそんなにお客様がいない、つまりニーズがないという状態が考えられます。
実際、味の素スタジアムの最寄り駅、京王線・飛田給駅近くにあるコンビニは、サッカーの試合やイベントがある日は売上が100万円にもなるといいます。
しかし、それ以外の日の売上は30万円ほどだと聞きました。
差は70万円ですから、日によって売上に相当な波があります。
安定した営業をしたいと思えば、スタジアムの近くだからといって安易にコンビニを出店することはできないのもうなずけるでしょう。
飲食店も同じです。
イベントのない、通常の日の営業はなかなか苦しいものがあると考えられます。
その駅に大きな施設があるからといって、容易に売上が立つわけではないのです。
これも、立地戦略を考えるときに気をつけるべきところです。
出店時に重視すべきは、何よりもまず○○○ p163
立地にまつわるコンサルタントをしていてよく受ける相談に、「東京23区内に出店するなら、港区がいいですよね?」というものがあります。
なぜ、港区なのでしょうか。
それは、年収ランキングによるところが大きいようです。
都内の23区に住んでいる人の平均年収ランキング(リサーチオンライン、【2022年最新】 1位はあの区!? 東京23区の平均年収ランキングより)を見てみると、港区は平均年収1,185万円でランキングでは当然トップ、圧倒的に高い数字です。
これを見て、勘違いをする人がいるのです。
港区に住んでいる多くの人が、年収1,000万円以上なのだと。
港区には、高層マンションが建ち並ぶ地区もあり、年収が高い人が多いというのは確かかもしれません。
しかし、現状は超高額年収を得ている一部の経営者や芸能人などの人たちが、平均値を上げていると考えるのが自然でしょう。
それこそ数千万円、数億円といった年収の人が住んでいる可能性が高く、そういった人たちが平均を引き上げているのです。
しかし、多くの人たちの年収は、400万円や500万円だったりと、他の区とさほど変わらないはずです。
一部のエグゼクティブな人たちを含めたうえでの平均1,185万円だと、認識することが必要です。
多くの人の年収に大差がないとなると、どこの区に出店すればいいのか?
答えは簡単です。
「母数の多いところ」、つまり、人口量の多いところに出店すればいいのです。
港区の人口は約24万人で、23区内で17番目です。
最も多い世田谷区の人口は約90万人。
港区の4倍近くもの人が住んでいます。
どちらに出店したほうが、より成功率が高まるか、明らかですよね。
一方で、飲食チェーンなどであまり人気がないのが、足立区です。
「足立区にはあまり出店したくない」という声を何度も聞いたことがありますが、その理由はたいてい、「あまり高価なものを扱っても売れなさそうだから」でした。
その根拠としては、先ほどの平均年収ランキングで、足立区は357万円だからです。
ところが、実際に足立区に出店すると、単価の高いものやサービスを扱う店でも、繁盛する店が多い。
それは、足立区は人口が多いからにほかなりません。
足立区は23区内で人口5位、約69万人です。
飲食チェーンに人気のある港区の人口の2.8倍も多く、そもそもの母数が大きいわけですから、売上が高くなるのも納得できます。
年収だけで判断したら、足立区に出店は考えないかもしれません。
ですが、平均年収300万円台の区は、23区のうち6区で約4分の1です。
足立区だけが突出して低いというわけではないのです。
流行の最先端をいく高級レストランを出店するのなら、ブランディングからしても港区がいいでしょう。
しかし、自分がどのような店を目指しているのか、富裕層が住む場所でないと儲からない店なのか、よく考えてみるべきでしょう。
基本的には、目先の平均年収だけにとらわれて港区に出店するよりも、人口の多い足立区に出店したほうが儲かる可能性は高い。
これは間違いありません。
出店時に重視すべきは、何よりもまず人口量です。
いくら平均年収が高くても、もともとの人口が少なければ、来店する人数は限られます。
業態によるところもありますが、絶対的に人口の多いところに狙いを定めて出店先を考えていくべきなのです。
単価の高いサービスやものを提供する経営者さんが気にされがちな「お金持ち」というのも、全国各地にいるものなのです。
どんな大手も最後は、数字で決断する p168
データを活用して人口量を調べ、ある程度の出店先エリアを絞ったら、次にしていただきたいのが現地の視察調査です。
地図やデータを眺めているだけでは、その街の実態はつかめません。
実際にそのエリアに足を運び、立地に適した場所を探します。
いくつかの物件に目星を付けたら、交通量通行量を計測します。
道路交通センサスによる交通量調査の結果データなどもありますが、これは主だった道路の結果しかありません。
物件によっては細い道路や路地に面していることもあるので、手動式カウンターを使って、その物件の前をどのくらいの車が通過するのか、何人が通り過ぎるのか、実際に数えてみることをおすすめします。
当たり前のようで、意外にやっていない方が多いです。
個人店を出す場合も、交通量通行量の計測は行ったほうがいいでしょう。
立地的には駅に近くて人が多く通ると思っていても、そうではない可能性があるからです。
銀座などはその典型で、メインとなる中央通りにはたくさんの人が行き交っていますが、たとえば銀座松屋の裏の通りに行くと一気に人が減ります。
同じ銀座ですから賃料も大きくは変わらないでしょう。
ですが通りが1本違うだけで、人の往来は大きく変わります。
地名と立地だけで判断せずに、必ずその場を訪れて人の流れを調べてください。
大手のコンビニチェーンでは、17時間計測というのを行っています。
30分計って30分休憩を繰り返して17時間、その場を通る人の人数を計り続けるのです。
もちろん、平日と休日、どちらの場合も計ります。
アルバイトに依頼することもありますが、開発部隊の人たちが自分たちで計測を行うこともあります。
手動式カウンターの計測は、カチカチとボタンを押すだけの地味な作業だと思われるかもしれません。
しかし、立地戦略に長けたコンビニチェーンでさえ、必ず計測を行っています。
この地道な計測があってこそ、「やはりこの場所だ」という出店の決め手になり、その裏付けがあるからこそ繁盛店へとつながっていくのです。
逆にいえば、めぼしい物件がいくつか出てきたときに、この方法で計測した結果で判断することもできます。
少しでも人通りの多い物件を選べば、その分だけリスクは減らせますし、印象だけでなく根拠に基づいて物件を選べます。
面倒かもしれませんが、ぜひとも一度はカチカチと数えてみてください。
地道な努力なくして成功への道はないのです。