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「スモールビジネスの教科書」を読んだ

投稿時刻2023年10月21日 16:57

スモールビジネスの教科書」を 2,023 年 10 月 21 日に読んだ。

目次

メモ

スモールビジネスに向いていない人 p18

スモールビジネスに向いていない人の特徴を最初に挙げよう。
・信頼を大切にしない
・自律性がない
・好奇心、学習意欲がない
・リスク選好性があまりに低い

これは裏返せばそのままスモールビジネスに向いている人の特徴になる。
何故これらの要素が重要なのか簡単に説明しよう。
信頼を大切にしない
技術などで決定的な差別化手段を持たないスモールビジネスにとって、人とのつながりは最重要とも言える差別化要素になる。
人との信頼を積み上げることが出来ない場合、スモールビジネスの経営は非常に難しいものになる。
自律性がない
スモールビジネスオーナーは自らタスクを考え、こなしていく必要がある。
それが出来なくても叱ってくれる人はいない。発注がなくなるだけである。
タスクがないと昼まで寝てしまうような人はあまり向いているとは言えないだろう。
好奇心、学習意欲がない
永続的なビジネスは存在しない。
1つのビジネスが成功したとしてもスモールビジネスの寿命は数年である。
常に新たな機会を探索し取り組む必要がある。
そのために好奇心、学習意欲は必須なのだ。
リスク選好姓があまりに低い
ベンチャービジネスのように大きなリスクは取らずとも、安定したスモールビジネスは絶え間ない投資活動により実現する。
動いていないから安定するのではなく、細かい投資を繰り返すことで安定するのだ。
この状態を目指すにあたり、数十万円の投資も許容出来ないほどリスク選好姓が低いことは致命的である。

基本条件 3 属人性がある p23

一般にはスケール (拡大) しづらいという観点でビジネスの敵とされる属人性であるが、スモールビジネスにとっては味方である。
そもそもスケールすることを目指していないからである。

属人性が強いビジネスであることは素晴らしい。
属人性があるからこそ、スケールが求められる大企業やベンチャーは参入しづらいのだ。

ただ、スモールビジネスが全く拡大しないかというとそんなことはなく、
自分 1 人で売上を十分に立てることが出来るようになれば、属人性を低下させるために投資を行い、自分の業務量を徐々に減らすことも出来る。

属人性があるビジネスのため、当然、一定規模以上にスケールさせようとすると苦労するだろう。
しかし、スモールビジネスを目標地点としているのならこれでよいのだ。

基本条件 4 称賛されない p24

取り組んでいること自体を称賛されるビジネスはその時点でかなり危うい。
まず称賛されるビジネスは、市場機会に対し過剰な参入を招く。
さらに言えば、困難な課題に挑むことが称賛される場合が多く、これは成立しづらいビジネスであることを意味する。

ビジネス全般に共通であるが、「褒められたい」という、ビジネス自体に不要な欲求を経営者自身が排除することにより、成功率を高めることが出来る。
褒められたところで全く儲からない。
不必要な感情からは自由になり、素直に利益のみを追求しよう。

用語説明 p38

ここから先ではサービスを考えるにあたり、いくつかの用語が登場する。
これらの重要用語の使い方を予め説明しよう。

ビジネスモデル:
何に対して売上を立てるのか、何を支払うのかという売上およびコストの構造

市場:
特定の課題を満たすために類似サービスを類似コスト構造により提供している企業群に支払われる費用

顧客セグメント:
「性別」「年齢」「収入」「地域」など、外部から観測可能な情報により絞り込まれた同一とみなせるニーズを持った集団のこと

コンテンツ:
ビジネスモデルを通じて顧客に対して提供される内容

事業領域:
ビジネスモデル×コンテンツで規定される領域

サービス・商材:
ビジネスモデル×コンテンツにさらに価格体系や付随サービスなどを加え、詳細化されたビジネスの内容

サプライヤー:
原材料の供給元

ポジション:
ビジネスモデル×コンテンツの領域内で上位の立場

バーニングニーズ:
持っている人は少数であるが、周辺サービスの品質の悪さなどに目をつむってでも解決したい、燃えるような強いニーズ

マイナーチェンジコピー品:
既に成功しているビジネスを、自分が特化するセグメントのニーズに向けてマイナーチェンジ (根本的には変えないが少々変更する)させたコピー品のこと

3 つの競争力 p44

さて、競争力の発生源が理解出来ただろうか。次は自分の競争力を分析していこう。
基本的には以下の3点が個人としての競争力と言えるだろう。

・能力
・ネットワーク
・専門知識

この3つについて説明するが、注意してもらいたいのは現在の競争力のみでスモールビジネスの戦略を判断しようということではない。
あくまで出発点としての整理である。
スモールビジネスに取り組む中で、自分自身が持つ競争力は急速に上がっていくことを念頭に置いておこう。
能力
これは言わずもがなである。
自分が金を生む能力を持っていれば当然それを武器に戦ったほうがよい。
ポイントはその能力は業界内で上位である必要はないという点である。

例えば、投資銀行業界の中でエクセルが得意と言えなくとも、金融に詳しいエクセル講師として成功している人などが参考になるだろう。
コンサル業界内部でパワーポイントが得意でなくともパワポ講師として成功している例もあるだろう。

おそらく、業界内部からは揶揄されると思う。
「あいつ在籍時は活躍してなかったくせにエクセルなんて……」と。
しかしこんな意見は、スモールビジネスに取り組む者としては歓迎しよう。
スモールビジネスの基本方針は、「他人がやりたがらないことをやる」であったことを思い出して欲しい。
プライドの高い投資銀行の人たちは、「金融に詳しいエクセル講師」をやろうと思えば出来るがやりたがらない。
それならばそのポジションを取れば圧勝出来ることを意味する。

そのポジションを取るだけの能力があればよいのだ。
決してその業界内部においてチャンピオンでないと、能力を活用したスモールビジネスとして成功しないというわけではない。
能力のみで戦うのではなく、能力を使ってポジションを取るのだ。
ネットワーク 
初期段階では必ずしもなくてよいが、ネットワークはスモールビジネスに取り組む上で必須となる。
スモールビジネスの場合は1つの法人内で出来ることは多くない。
だからこそ、顧客が求めるアウトプットを提供するには多くの人や企業と密接な協力関係を築く必要がある。

この密接な協力関係の束がネットワークである。

序章でスモールビジネスに向いていない人は「信頼を大切にしない人」と書いた。
これは顧客に対しては勿論であるが、協業相手に対してもそうである。
自分が間違ったときは謝る、約束は守るなど基本的なマナーが出来ないとネットワークは大きくならず、競争力は向上しない。
誠実な人間としてネットワークを拡大させていこう。

既に特定の業界でネットワークを持っている人がスモールビジネスを始める場合、それが大きな武器になる。
專門知識
専門知識は能力と似ている概念であるが少し違う。

例えばあなたがエクセルの能力に長けていても、それだけでは多くの人の中に埋もれてしまう。
どうすれば「Xと言えばこの人!」というポジションを顧客の頭の中に築くことが出来るのか。
汎用性のある能力だけでポジションを取ったり、突出した No.1 になったりすることは不可能に近い。
最初から諦めたほうがよい。

ではどうすればよいか?
能力は専門知識と掛け算することで、ポジションの要塞を与えてくれる。

エクセル×金融、エクセル×管理会計、エクセル×特定業界の収益性シミュレーション、エクセル×小売の在庫分析など、能力と専門知識を掛け算しよう。
専門知識はやはり、「外部からは一見理解しづらいが、分かる人には分かる」というものであればあるほどよい。

ちなみに専門知識と言われると、構えてしまう人も多いと思うがその必要はない。
例えばあなたが、広告のビジネスに携わっていたとすれば、特定のセグメントにおける収益性が高いことくらいは知っていて、 CAC (顧客1件あたりの獲得コスト) や主要媒体の特徴も頭に入っているだろう。

このように、美味しい領域と競合を認識しているだけで、出発地点としては十分な優位性がある。

ネットワークから事業領域を絞る p49

例えば信頼出来るフリーランスデザイナー30人を知っていたとしよう。
この競争力を活用すればデザイン会社を作ることが出来る。
自分が営業フロントに立ち、顧客を獲得して知人に仕事を渡し品質保証をするというビジネスである。
この場合デザイナーであるフリーランスを束ねたビジネスが探査対象ということになる。
フリーランスマッチング×デザインということになろう。

「儲かっている」会社を探すための情報チャネル p54

私が企業情報を得るために常に使っている情報チャネルをいくつか紹介する。
ここで紹介する情報チャネルを活用し、自分が対象とする事業領域で儲かっている会社を調べ尽くそう。
ここで儲かっている会社を探すことが出来なければ、その事業領域は基本的にだめである。
他人が出来ないことは自分も出来ない。
「自分は他人とは違うから儲けられる」なんて考えるのはやめよう。
人間としての基本性能が特異であり、他人をアウトパフォーム出来る人間なんて私を含めほぼいないし、成功者を見わたしても人間としての基本性能が成功要因であったと考えられる人間は見当たらない。
情報チャネル 1 IR
上場企業は、投資家用に財務情報の詳細から今後の方針までを開示する義務を負っている。
これは宝の山である。
ビジネスの検討対象領域を定めたら、業界内の上場企業のIR資料は全て見よう。

さらに、常に新しいトレンドをキャッチするために、
新規上場企業についての情報は検討の対象領域とも目を通す習慣を身につけるとよいだろう。

決算説明資料からは財務情報でどの程度儲かっているのかを素早く把握出来、変動要因に対する説明からは市場内部のトレンドを把握することが出来る。
儲かっている企業が何故売れているのか、何故高い利益率を上げることが出来ているのかを調べよう。

企業によっては詳細に説明しているが、IRには財務数値だけしか掲載されず、競争力を十分に探れないことも多い。
その場合は、後述する営業資料や LP (ランディングページ) という実際の顧客向け情報を見よう。
そこには必ず何故他社ではなく自社を選ぶべきなのかについての記述がある。

セグメント別の売上や営業利益だけでなく、結局何がいくらで誰に何故売れているのか、ということを知る必要がある。
これに対して自分はパンチを浴びせるのだ。
調査段階から「この商品を買っているのはこのような理由だと思いますが、私の提案のほうが良いですよ。何故なら……」などと、どう語るかを意識して調査を進めるべきである。

また他にも、IRで注目するべきポイントがいくつかある。
まず注目したいのは売上規模・利益率およびその額、コスト構造である。
コスト構造とは何にコストがかかっているかの分析である。
これを見ると、そのビジネスをコピーするには何が必要か把握出来る。

次に変動要因である。
IRには変動があった項目に対して要因の説明がなされている。
売上が大きく進捗したのであれば何故進捗したのか。
販管費が上がっているなら何故上がっているのか。
これらについての記載がある。

売上進捗要因を見ると、何をすれば成功するか教えてくれるわけだ。
販管費が上がっているなら、その市場では競争が過熱しており顧客獲得が厳しくなっているという市場環境を示しているのかもしれない。

さらにIRには今後の方針も出ている。
その企業は少なくともこの先、その方針を取ると儲かると思っているということだ。
これが完全に正しいとは言えないが、自分が取るべき方針に対する大きなヒントになるだろう。
情報チャネル 2 非上場企業の決算
非上場企業の場合はどの程度儲かっているのか、外部からの把握が難しい。
ただこの場合でも、官報に掲載された決算情報から入手出来る場合がある。
情報は上場企業よりも少なくなるが、検討対象領域の企業業績は可能な限り調べよう。
儲かっていないことが分かったら、その理由についても把握し、同じ失敗をしないようにするべきだ。

官報から入手可能な決算情報はかなり断片的である場合が多く、単体では結論を出すことが難しい。
私が主に注目しているのは純利益・利益剰余金あたりで、他の項目は単体で意味を持ちづらい。
情報チャネル 3 投資情報
どこかに投資がなされているのであれば、そこには何らかの根拠が存在していることを意味する。
特に、大規模な投資が実行される場合には、根拠となる数値が必ず存在する。

ベンチャーに対する投資や非上場企業による投資活動の場合、数値自体は導入社数など部分的にしか確認出来ない場合が多い。
だが、そこには「何らかの投資の根拠となる数値がある」と理解しておくとよいだろう。
ただしベンチャー投資の場合は注意が必要だ。
ある程度の調達がなされたとしても、ベンチャービジネスの成功率は高くないため、必ずしも儲かるチャンスがあると保証するものではないのである。
情報チャネル 4 企業によるリリース
企業は営業やマーケティング、投資を集めるためなどの目的で自社の状況を部分的に開示する。
例えばある企業の商品やサービスの単価を営業資料から把握し、導入社数をマーケティング用のWebサイトなどから把握することが出来れば、おおよその売上が推定出来る。

ただ、マーケティング用のWebサイトにある情報はほとんどの場合誇張されているため、実態はかなり割り引いて評価する必要がある。
「導入社数 (デモを含む) 」となっている場合も珍しくない。

これらの企業が出す情報の収集は、出来る限りやるべきである。
営業資料のダウンロードやデモ利用は当然として、知人経由でもサービスの実態に関する情報を集めよう。
全力で収集すれば、相当多くの情報が入手出来ることに気付くだろう。

注意点であるが、投資家向け・採用広報向けに出される情報と実態の情報はかなり差がある。
基本的にはやはり誇張されているのだ。
情報チャネル 5 業界紙
一般的な新聞や経済メディアに掲載されている情報は、事業を検討するために十分なものではない場合が多く、検討の契機を与える程度に留まることがほとんどだ。
しかし業界紙の場合は読者を業界内部の人間に限定しているため、事業を検討するための詳細な情報を入手することが出来る。

外部から情報収集を進めづらいマニアックなビジネスを検討する場合、業界紙は安価な情報代だと考えぜひ活用して欲しい。
私は新しい業界への参入を検討する際、関係がありそうな業界紙や業界本をひとまず10冊ほどは購入することが多い。

p69

このストーリーの信頼度を上げたいと考えるなら、次に調査するべきは顧客の購買行動である。
このストーリーは「地方生活者に特化」しているという時点で、後述する顧客セグメントの選択条件である「緩い予算を取れ」に適合しないため、
私なら検討を止めてしまうが、敢えて検討を進めるとするなら類似のサービス (必ずある) 、ジモティー・メルカリの特殊な利用のされ方から調べるだろう。
何よりも見るべきは行動なのである。

このニーズに対して人は金を使っているのか?
いないならばそれは取るに足らないと、少なくとも顧客自身は考えているということだ。
ここで重要なのは、あなたではなく、顧客自身が金を使うほど重要なニーズだと思っているか否かである。
ついつい事業に自己表現のエゴイズムを載せ過ぎると、他人は気付いていないが自分は素晴らしい洞察力により気付いてしまったと思えるニーズを狙いがちだ。
何故かというと格好良いからだ。
インサイト、デザイン思考、 IDEO 、ポスト・イット おしゃれじゃないか!
この手法を使ってビジネスを成功させたいという欲望に抗えないのだ。

手法がおしゃれなのは分かる。
ただ、重要なのはビジネスの検討プロセスではない。
成功することなのだ。
ニュートンの万有引力発見の契機となったリンゴの話は、晩年の創作であることはよく知られているが (諸説ある) 、人気のエピソードである。
歴史は勝者によって作られる。
まずは勝つことを何よりも優先させて欲しい。
後述の「市場への参入戦略」で詳しく解説するが、最初は無理やりにでも市場にねじ込めればよいのだ。
日本でも今は非常にクリーンな見せ方をしているが、創業当初はとても人に話せる事業のやり方をしていない人や会社など大量に存在する。
どちらかというとこちらが標準である。

言動やアンケートは信頼に足らぬ。
極端なことを言えば、本音を把握するには行動以外見る必要はない。

調査では徹底的に行動を調べなさい!

課題 p74

課題解決という考え方は、前述の自動運転の例で挙げた通り、課題自体が技術的な類のものなど明確であり、明らかに金を支払われる課題ならよい。
しかしその他のケースにおいて、このアプローチは結構危険である。

第一に言わなければならないのは、課題からビジネスが成立するためには以下の条件が必要である。

・顧客は課題を認識している
・課題は解決出来る
・顧客はその課題解決に金を払う

この3条件が成立することはかなり稀である。
そしてこれが成立するケースはほとんどの場合、既に他の誰かが発見している。
さらに自分が第一発見者であるからといって劇的に儲かるかと言えば、その確率は決して高くない。
Apple のスマホや Google の検索エンジンは後発である、という例を出すまでもな
コンセプトの第一発見者である必要は全くないのだ。

それならば、既に成立しているビジネスのマイナーチェンジを考えればよい。
スモールビジネスであればなおさらである。
顧客の課題を考えるなど無駄なのである。

ごく稀にこの3条件を満たす方法が発見されることはあるが、
日本のスタートアップやスモールビジネスが第一発見者であったというケースはこれまでにほぼ見られず、基本的には米国発ビジネスのローカライズ版である。

イノベーションと表現されるビジネスも見せ方はキャッチーであるが、
アフィリエイト、仲介商社、古いシステム屋などが行ってきたビジネスと比べて大きく変化しているかというとそんなことはないし、またその必要もない。
ビッグビジネスを目指す場合は別であるが、少なくとも売上目標が20億円程度であればまず特異な取り組みはしないほうが安全である。

新たなビジネスモデルの第一発見者でありたい、その手法で成功したいと願うのはビジネスの成功を妨げる。
成功例をマイナーチェンジさせるという考えに徹しなさい!

このように顧客の課題に注目し、ゼロベースで解決手段を模索しようというアプローチは、私がスモールビジネスに対して最も推奨しないアプローチである。
何度その思考を巡らせても時間だけが経過していく。
仮に実行まで至ったとしても、メディアは一時的に持て囃してくれるが、利益率が低過ぎる、営業で苦労する、などの壁へ早期にぶち当たり、失速することが多いだろう。

自分がしそうな失敗は既に他人がしてくれている。
多くの淘汰を経た結果としてビジネスモデルが存在するのだ。
他人が落ちた落とし穴にもう一度あなたが落ちる必要はない。
ゼロベースで課題解決案を考えるという思考は、プロ中のプロのみに許された道である。
素人が挑むには危険過ぎる方法なのだ。

参入のポイントはバーニングニーズに注目しよう! p84

顧客セグメントの規模は小さくてもよいので燃えるような欲望、バーニングニーズに注目しよう。

ニーズは大量にあるが、全て相手にする価値はない。
相手にする価値のあるニーズとは「細かいことはいいからとにかくやりたい!」というニーズの中の燃え盛る欲望、ニーズの王者である、バーニングニーズである。
これを私は欲望と表現することもある。

非常に有名なビッグビジネスの話で恐縮であるが、私がよく挙げる事例は Airbnb の最初の顧客である。
彼らは Airbnb 創業者のオッサン3人がルームシェアしていた家の空き部屋にエアマットを放り出しただけというモグリの宿に宿泊した。

何故最初の顧客はこのような劣悪な条件を受け入れたのか。
それはそうせざるを得なかったからである。
この客はデザインのイベントに参加するため、なんとしてもサンフランシスコにその期間中に宿泊する必要があった。
しかし、宿を探し始めたときには既に高額な部屋しか空きはなかった。
そこでブログなどを含め探していたところ、金額として条件に合う場所がこのオッサン3人のルームシェア部屋しかなかったのだ。

なんとしてもこの時期にサンフランシスコに泊まる必要がある。
そうすると特定の時期・予算内での宿泊というサービスに「燃えるようなニーズ」が生まれる。
これがバーニングニーズである (図5) 。

このとき、部屋のきれいさ、予約のしやすさ、ホスピタリティなど、通常はホテルの購買決定要因に挙げられる項目なんて関係ない。
オッサン3人がルームシェアする空き部屋のエアマットという条件でも受け入れられたのだ。

「特定の時期・予算内に宿泊したい」というのは燃える欲望なので、詳細なんてどうでもいい。

これが新たなサービスを作る際に注目すべき要素である。

細かいことはいいからとにかくしたい!という燃える欲望 (バーニングニーズ) に注目しなさい!

p92

特定セグメントを対象としたアイデア→特定セグメントに売れているサービスの調査→
そのサービスが普及する発端になった価値およびセグメントを把握→鋭いバーニングニーズおよびそれを持つセグメントの把握 (サービスの着火点) といった流れである。

ちなみに人間の欲望は無限なので「特定のサービスにより既に満たされてしまっているので根源的な欲望は消えた」なんてことは起こらない。
人間は常に「もっと」を求め、足るを知ることはなく、欲望に突き動かされ無限の事業機会を生み続ける。
売れているサービスの原点を辿り普遍的なバーニングニーズを把握しなさい!

p94

結局のところ、商品が売れるということは機械的な現象ではない。
意思決定しているのは人間であり、心理的な把握を抜きに考えることなど出来ないのだ。
人は「コストとベネフィットを比較し、コストに対してベネフィットが優位」などという単純化されたモデルで考えてはくれない。
法人の意思決定でさえ結局は意思決定権を持つ者の心理的現象である。
「多くの企業が取り組んでいるので時代遅れだと思われたくない」
「社員から“過去の成功を引きずっている不確実な時代の不適切なリーダー”と思われたくない」

2022年現在、中期経営計画にはDXという言葉が溢れているが、その背景にはこのような人間心理があるのだ。
さらに言えば、法人でさえ機械的な意思決定はしないのである。

消費者向けでも法人向けでも、意思決定者の感情のシミュレーションなしに確信度の高い事業を企画することは出来ないだろう。

また、エリートは非エリートの感情シミュレーションを出来るようになるべきである。

「成長意欲がない人の気持ちなんて分からない」「費用対効果が合わないものが売れている理由が分からない」などという言葉を発している間は、エリートの殻に閉じこもり甘えている。
理論と現象があるなら常に現象が正しい。

対象セグメントの感情をシミュレーション出来るようになりなさい!

p96

逆に言えば、顧客基盤を持っているというだけでも大きな強みになる。
顧客基盤はそのまま参入障壁となり競合の参入を防いでくれるのだ。
顧客基盤だけで生きている会社など大量に存在する。
新しいセグメントの顧客を開拓するというのは不確実性が高く、労力もかかる。
あなたの周囲にも同一の顧客群だけを10年以上相手にしているような人はいないだろうか。
私はこういった人を多く知っている。
それだけ顧客基盤というのは強く、反対に異なるセグメントを跨ぐことは容易ではないのだ。

特殊な技術開発を含まないスモールビジネスにおいて、顧客基盤は長期間あなたに安心感を与えてくれる要塞だ。

この要塞を間違った場所に構築せず、利益の源泉が湧き出る場所に構築することが出来れば、時代が変わり1つの商品の寿命が終わろうとも、安心して次の商材を作れる。

金を出さない間違った場所にパンチを繰り返しても石にパンチを打つようなものである。
いくら努力しても穴は開かない。
商売をしていると、提供サービスを変えなくても場所を変えただけで湯水のように利益が湧き出るという体験をよくするだろう。
とにかく顧客セグメントは大変重要なのだ。

p98

上級者向けの方法としては、非常に有望な市場を発見したら飛び地であるがとにかく参入するという方法がある。
だが、本書では基本的に自分の競争力を基軸に考えることを推奨する。

補足的に触れると、私が飛び地に参入する際は、業界の水先案内人であるパートナーとともにビジネスを作る。
パートナーに求めるのは業界の深いナレッジおよびコネクションである。
戦略の構築や実働はこちらで主導するという方法をよく選択している。

ナレッジがあれば戦略を構築出来、コネクションがあれば初期顧客の獲得が格段に容易になるのだ。
当然、パートナーには一部の株式を渡すなどのメリットを提供するが、単独で行うよりも格段に早く、また広い領域でのビジネスの展開を可能にするのだ。

私自身は「100%自分一人で行うが展開出来る領域は限定される」といった方法よりも、多くのパートナーを巻き込み幅広い展開を迅速に出来る手法を好む。

パートナーを活用し、自分の領域を出た飛び地での戦闘が出来るようにやがてはなりなさい!

スケーラビリティなど無視しよう p99

スモールビジネスでは革新的なビジネスモデルなんて求めないし、特殊な技術も必要としない。
十分に他社が努力し実証したビジネスモデルにコンテンツを付与し、美味しい顧客セグメントに当てはめるだけである。

特定のコンテンツ、特定の顧客セグメントに特化してしまうと、拡張性がないと懸念するだろうか?
これは反対に歓迎しよう。
何故なら拡張性がないということは同時に、他の領域との壁が高く簡単には参入されないことを意味するからだ。

スモールビジネスでは、ビジネスモデル×コンテンツで規定された非常に狭いマスを1つ抑えるだけで十分過ぎる利益が期待出来る。

これはスモールビジネスのみならず一般的な事業検討でもそうなのだが、
大きな市場規模があり、成長性があり、自社の強みが活用出来、
参入時に将来の収益性に対する十分な根拠があるなどという夢のような事業を発見することは不可能に近い。
スモールビジネスの場合は市場規模と成長性に目をつむることで、事業機会の発見を容易にするというアプローチである。

現実を直視し、高い壁に囲まれた要塞を見つけなさい!

軸がニーズを区分しない p101

「年齢×性別」などの典型的な顔で特定の集団をカテゴライズしていることはよくある。

しかし、何故年齢が違うとニーズが異なると言えるのか。
ここに必然性はない。
80代と20代が同じニーズを持っている場合も当然ある。
このような方法でニーズのカテゴライズをしようとすると、飛び地だらけのセグメント図となる。
何が間違っているのかと言えば、軸が違うのだ。

軸とはニーズを区分するものでなければならない。
年齢のように、すぐ思いつくが適切にニーズを区分出来ない場合は、ターゲットとする集団を有効に特定出来ないだろう。

ターゲットを有効に特定出来ないとマーケティングが出来ない。
80代、50代、20代の女性といったバラバラの年代の人たちに対してマーケティングを行おうとすると、極めて効率的となる。

例えば、分類として正しい軸は「地域×所得水準」かもしれない。
大雑把ではあるが、「地域×所得水準」が共通している20代と80代の女性のニーズは、ある程度重なってくると推察出来る。
このように明確な特徴を持ってターゲットセグメントを抽出出来ないと、すぐにマーケティングの計画が立案出来ず、行き詰まってしまうだろう。
あなたの顧客は誰か。
それはどのような特徴で絞り込むことが出来るのかという軸の設定は注意深く行おう。

顧客セグメンテーション事例 p103

「ニーズでくくる」と考えると、どのようなグルーピングでもありに聞こえてしまうが、ここではセグメントごとに購買決定要因でカテゴライズ出来ているかと考えてみよう。
購買決定要因とは要は「そのセグメントは何とどのように比較してそのサービスを買っているか」である。

安さなのか、納品の早さなのか、質なのか。
様々な要因が商材ごとに抽出出来るだろう。

ここであるべきシンプルなストーリーは
「このセグメントはとにかく安さで選んでいます。
だから我々は安さで戦います。
他のセグメントは質で選んでいます。
だから我々はそちらでは戦いません」だろう。

p105

ここでの購買決定要因が「母集団の大きさ」、「迅速な紹介」などしか出てこなければ、
規模が大きい会社のほうが有利なため、スモールビジネスは太刀打ち出来ない。
諦めよう。

スモールビジネスに適した特異なニーズとは、
例えば「基盤は東京に持ちながらも大阪に転勤することをいとわない層が欲しい」といったものである。
この場合の購買決定要因は、「東京にいるが大阪に転勤してもよいと考えている母集団の大きさ」となり、特異性が発生する。

このような一見奇妙なニーズを発見することがスモールビジネスでの最重要ポイントなのだ。
奇妙なニーズは大手からすると特化する価値がない。
そんな小さな事業機会獲得のために、マーケティングで使う訴求メッセージをぶれさせたくないのだ。

「引っ越し支援、東京との往復費用会社負担!大阪なら競争は緩め!
大阪でキャリアを切り開け!東京人が大阪に住む支援まで充実!
大阪への転勤なら迷わず弊社へどうぞ!」などというメッセージを大手企業は出したくないのだ。

大手企業のWebサイトのメッセージやCMのコピーは、社内の部署間で行われる壮絶な戦いを経て打ち出される。
誰もそんなことを高頻度でやりたくない!
効果が不明確である内容を起案して社内を説得するという業務は、非常に面倒なのだ。

金払いが悪く要求が多い p106

二重にだめではないか!と思うかもしれないが、困ったことに世の中では「金払いが悪い」と「要求が多い」が両立している顧客が多い。
このような顧客の要望に付き合っていたところで未来はない。

私の経験上このような顧客は、「周囲に批判者がいないため、自分をお山の大将と思いやすい中小企業のオーナーや店舗系ビジネスの店長」に多い。
良い商材を投資として買う考えがないので、過剰要求と値下げ要求ばかりをする。
結果、顧客自身のビジネスも成功しているとは言い難い。
さらには自分の地位を高いと思いたい傾向が強く、会食などに誘ってきて自らの力を大きく見せようとする。
こうしてこちらの時間までも浪費され、精神疲労の原因にもなる。

私も過去、このような顧客セグメントを誤って狙ってしまったことがある。

「君の商材はこの機能がないからまだ買えないんだ、今はまず安値で使わせて欲しい。効果が出てきたら払うからさ」

私はこの言葉を信じ、徹夜の連続で開発を続けた。
しかしこちらが必死で機能を追加しても、顧客自身はいつまでたっても本気で使おうとしない。
今思えば要求された機能も全く的外れなものであった。
当然、結果として誰も儲からなかった。
肉体と精神の疲労だけが残った。

最悪の思い出だ!二度とこのトラップにハマるものかと強く考える契機にもなった。

よかったら払うからさ、と言って安値での提供を求める顧客は経験上、悪い顧客である。
その金は永遠に支払われることはない。

良い顧客は提供されるサービスの自分のビジネスへの有効性を判断出来る。
そして良いものは買うのだ。

悪い顧客はビジネスへの有効性が理解出来ないので値下げ要求をするのみである。
早めに見切りをつけよう。
ゴルフや会食への付き合いもやめたほうがよいだろう。

ノービジョンサラリーマン p108

これについてはスモールビジネス参入時には避けたほうがよいが、後半のボリュームゾーンであることは留意しつつ読んで欲しい。

参入時は実績に乏しいばかりか、自分の提案内容も固まっていないケースが多い。
そのときにノービジョンサラリーマンを狙うと「実績は?」「イメージが出来ない」などの言葉に跳ね返されることになる。
なので最初はビジョンだけで握れるような顧客を対象とすべきである。
そこで十分な実績を蓄えてから、世の中のボリュームゾーンであるノービジョンサラリーマンに訴求すべきだ。

また、共に実現したい姿であるビジョンで握れる顧客とノービジョンサラリーマンでは、訴求方法を変える必要がある。
「あなたの工数は増えません、丸投げ出来ます」
「流行の施策なので周囲は全員やってます、やらないと時代遅れですよ」
「十分な信頼と実績がありますので、失敗してもあなたが咎められることはありませんよ」
ノービジョンサラリーマンにはこのように訴求しよう。

高参入障壁セグメント p109

初手として狙うのはハードルが高いという点で医療や金融を挙げよう。
この 2 セグメントは人々の生活への影響度から、新たなサービス導入やオペレーションの変更に関する障壁が他の業界とは格段に違う。
入ると美味しいとも言えるため、体力をつけて長期戦で挑む場合は勿論ありだが、迅速・小規模な参入を目指すスモールビジネスには不適合な場合も多い。

狙うのであれば人材や調査など、直接的に患者・顧客に触れるのではない周辺的なサービス提供に留めるビジネスがよいだろう。

コストが叩かれ続けている業界 p110

5forces 分析 (業界の収益性を決める5つの競争要因から、業界の構造分析を行う手法のこと / 「競争の戦略」 マイケル・ポーター著、ダイヤモンド社)を考えるまでもなく、
業界自体が成熟しており、ひたすら顧客から値下げを要求されている場合は、当然サプライヤーへの要求も厳しくなる。

差別化も出来ない、値上げも出来ないとなればサプライヤーを叩かない理由はない。
新規性の高い提案なんて受け入れている場合ではないのだ。
とにかく叩かれる。

このように新規投資をしていない業界をターゲットにするのは、基本的にやめておいたほうがよい。
成熟した市場内部で新規投資が抑制されると、現場には課題が蓄積されていく。
これを見て、自分がその課題を解決しようなんて考えないほうがよい。
沈没していく船は人力で止めようがないのだ。
市場の栄枯盛衰は宿命であり、個人の努力で変えられるものではない。

「見える課題を解決する」ことがビジネスになるとは考えないほうがよい。

多くの人の目に触れる業界 p111

ビジネスとは「金が払われるようなニーズを発見し、そこにサービスを当てはめて金を取る」というプロセスで成立する。
多くの人が特定のニーズが存在することを知っている業界の場合は、サービスを作って参入しようという者が増加する。
機会に対して競争が激しくなる傾向があるのだ。

だから私はBtoBのビジネスが好きだ。
BtoCのビジネスでも、一般的な生活をしていては気付きづらいセグメントのニーズを狙った商売が好きだ。
一見理解すら出来ないが売れている商品が好きだ。

アパレル、不動産、小売、飲食など自分が一般的な生活をしている中で観測出来てしまうニーズには基本的に向かわないほうがよい。
市場規模に対して参入者全員が冷静になり、競争環境を判定し、参入可否を検討すれば、そのセグメントでのみ競争が激しくなることはないのだが、多くは雰囲気で参入する。
だからいつまでたってもラーメン屋の参入もカフェの参入も収束はしない。
永遠に雰囲気で参入し、激しい競争環境の中で戦い抜けず撤退を余儀なくされるというプロセスを繰り返してしまうのだ。

さらに言うなら、一般の人々に触れるビジネスは多くの人に自慢出来る。

「あのサービスは私が作った」「20店舗展開するカフェのオーナー」など、魅力的に聞こえるだろう。
これが目立ちたがり屋の過剰参入を招く。

スモールビジネスにとって、一般人からの称賛など市場の危険シグナルを示す毒物でしかない。

やりたいから参入するのではなく成功するから参入しなさい!
成功するものをやりたいと感じるようにしなさい!

高利益率 p115

これは私がサラリーマン時代にも感じたことであるが、やはり儲かっている業界の金払いは利益率2%のような業界と全く異なる。
製薬、通信、インフラなどの業界の金払いと製造小売では全く違う。
相手も儲かっている認識がある。

儲かっていない業界は会社全体にとにかくサプライヤーを叩こうというプロセスが存在してしまうのだ。

参入者が少ない p115

参入者が少ない、知名度が低い顧客セグメントは素晴らしい。
これはマイナー業界のみならず、地域でも切ることが出来る。
東京では過熱している市場であっても、地方都市に提案へ行くと競合がいないため、提案が歓迎されることはよくある。

狙う予算の選び方 p117

企業や消費者が「何のための費用」と認識しているのかは極めて重要である。
金には色があるのだ。

今回の場合は人材紹介費用という予算を例として考えてみた。
この予算は比較的値下げのプレッシャーが弱いどころか、強い採用ニーズを持つ顧客に採用という成果をもたらし続ければ、値上げの余地すらある。
狙う予算によりこのプレッシャーは全く異なるものになる。
常に価格交渉をされ続けるような費用もあれば、「何故結構ぼったくっているのに受け入れるのだろう」と、売るこちらが不思議になるほど緩い予算もある。

当然であるがプレッシャーが弱い予算を狙うべきである。

プレッシャーが強い予算とは、メーカーにとっての直接的な製品原価、業務委託の人日単価、単純制作業務の請負費用などである。

逆に緩い予算には十分に比較しづらい品質重視の新規施策系などがある。
以前に面白いと思ったのは、エンジニアを人月単価400万円で売っていた事例である。
この企業はこのサービスを「アルゴリズム作成費用」とし、これを「エンジニア」ではなく「サイエンティスト」として販売することで高い単価を正当化していた。
これが「ログインシステム」などであれば単価は一気に下に引っ張られただろう。
アルゴリズム作成?
こんなものそもそも比較出来ない。
価格を叩こうにも叩くロジックもない。
素晴らしいターゲット予算である。

プレッシャーの強さは自分が提供するサービスの代替性、購買決定プロセス、顧客セグメントの性格に大きく左右される。

代替性 p118

自分が誰からでも買えるコモディティ品を提供するとしよう。
大手メーカーの牛乳を小売店が売ろうとする際に、何か代替不可能性を付与出来るだろうか。
これはかなり困難である。

結果、キャンペーンを打つ、抱き合わせ販売をする、配送を無料サービスにするなど自らの体力を削る施策しかない。
代替性の高い商品を提供しようとすると過剰サービス、過剰労働、値崩れという結果がすぐに訪れる。
私も過去にこれで痛い目にあったことがあるので、サービスの代替性を構築出来ないビジネスには強い恐怖を感じる。

p120

この把握の方法であるが、私は主に事例調査およびインタビューを使っている。
法人向けのビジネスにおいては多くの成功事例が存在し、それが企業のLPなどで紹介されている。
その商品やサービスを何故検討したか、どのような観点で誰が比較したかなどの意見が掲載されている。

留意点として、成功事例はトップ5%ほどであると考えておこう。
事例紹介を見ると素晴らしいプロダクトのように見えてしまうが、成功率が高いプロダクトはそれほど多くない。
上澄みのことであると認識しよう。

実際のところ、導入した顧客の中央値としては、様々な不満を抱えながら仕方なく、また、特段の理由を持たないまま使い続けているものである。

インタビューとは、要は直接聞けばよい、ということである。
誰がどのように検討しているかを聞ける相手がいれば難しくないだろう。
場合によってはビザスク (業界や業務に関するその道のプロに時間単位で相談出来るサービス) などで金を払って情報を仕入れてもよい。

業界習慣 p122

会社や業界とは1つの村である。
村の内部には合理性のない掟が多数存在する。
人間は集団になると必ず序列が発生し、その序列を正当化するため掟を多数発生させるのだ。
「私は偉い、何故なら掟を守っているからだ」と言いたがるため合理性のない、つまり顧客視点では特に意味を持たない掟が大量発生するのである。

顧客に対して冷静に「この掟を無視すれば価格を3分の1に出来ますが掟は大事でしょうか。
それとも価格のほうが大事ですか?」と聞くと「そんな掟は不要である。
それよりもコストを下げたい」と返ってくる場合が多い。

例えば、顧客から見れば意味のなさそうな資料作成ルールなどの掟は多数ある。
業界内部にいるとこの掟に絡め取られ、守っている村民がいる手前自分では除去しづらい。
ここを新規参入者は狙うのだ。
新規参入者はこのしがらみから自由であり、顧客視点でサービスを企画出来るからこそ強い。
つまり顧客の要望にストレートなのだ。
会社を殺すのはいつも社内事情である。

小さな市場を選ぶことが出来る p126

大手企業もベンチャーも小さな市場を積極的に選ぶことは出来ない。
成功しても売上100億円のビジネスプランには大手企業も VC (ベンチャーキャピタル) も投資出来ない。
無限の欲望を持つ血気盛んな若手起業家は勿論参入しない。

そうすると誰がいるのか?基本的に情熱のあるプレイヤーは極めて少ない。
熱のある新規参入者が稀に見られるが、ここに特化するということはほぼない。

そこに情熱を持って参入するのである。
この構造的に競合が手薄になる市場を狙い撃ちにするのが、スモールビジネスの基本戦略である。
自分が参入する際には、競合が十分に弱いかを見てみよう。
十分に弱い相手に対しては戦略的勝利を狙う必要はなく、正面から衝突して腕力で倒せばよい。

間接的なコストが極端に低い p127

大手企業はスモールビジネスから見ると、驚くほどの間接費を使っている。
価値を生まない社員の人件費、マネジメントコスト、豪華オフィスの賃料、ブランディング広告の費用、長期的な投資など挙げればきりがない。
大手企業の請求にはこれら全てが乗っている。

コンサルティングのような人月ビジネスで考えると分かりやすいが、売値の月額と人件費の差分を考えれば、どの程度直接的なコスト以外のものが乗っているか分かるだろう。

スモールビジネスの場合はそのような間接費を除去することが出来る。
そのため大手企業であれば赤字案件と呼ぶような案件でも、積極的に獲得するという戦略を取れる。
プレミアム価格を狙いに行くことも出来るかもしれないが、初心者にとっては間接費が低い分、低価格で顧客に提供する低価格戦のほうが取り組みやすいだろう。

属人戦略が取れる p128

人性のある戦略は大手企業にしてもベンチャー企業にしても、スケーラビリティを追求しなければならないという観点から歓迎されない。
スモールビジネスの場合は逆である。
属人性の存在はスモールビジネスを成立させる素晴らしい条件なのだ。

新しいサプライヤーを利用する p130

新規参入者であり、他社に利用されていないサプライヤーを早期に使用するのは定番のパターンだ。
これは媒体でもフリーランスマッチングなどでも同じであるが、このサプライヤーは新規参入のために価格は割り引き、サービスも過剰気味に行う。
信頼性を重視する大手との取引につなげるために、実績を蓄え値上げ機会をうかがっているのだ。

このサプライヤーを利用する際、まともな仕事をしてくれるのか見極められないと痛い目を見るわけであるが、スモールビジネスの場合は、このようなサプライヤーを少数でも見つけることが出来れば成立する。
新規サプライヤーを使い、このサプライヤー側が 1 ~ 2 年実績を蓄え値上げをするタイミングで切るというプロセスを繰り返し、成長し続けている企業もある。
積極的に新規サプライヤーを開拓しよう。

発掘に手間がかかる小規模サプライヤーを利用する p130

大手企業のサプライヤーになるにはそれなりの規模の原材料を安定供給する必要がある。
この理由から小規模なために利用されていないサプライヤーは大量にいる。
これはスモールビジネスにとってはむしろ歓迎したいサプライヤーである。
新しいサプライヤーと同様、見極めに手間は必要であるが、良質な小規模サプライヤーをネットワークするだけでもビジネスは成立する。

社内教育で安価なリソースを創出する p131

前述の2つはこちらから積極関与しない外部企業と考えて挙げた。
第3の機会としては内部教育がある。
例えば良質な人材が市場価格月額100万円で取引されていたとしても、30万円の給料と会社の監督コスト10万円、合計40万円のコストで同等の価値が実現出来るとしたらどうだろうか。

このように高級人材の属人業務と考えられていたものを低コストな手法で実現出来ると大きな競争力になる。
社員教育は余裕のある大手企業のみならず、スモールビジネスにとっての生命線でもあるのだ。

提供サービス・機能を絞り価格を下げる p134

家電製品や企業向けソフトウェアの例を挙げるまでもなく、世の中にある製品には無用な機能ばかりが付いている。
それは、企業が「競合との差別化を図るために機能を追加し続ける」という意思決定をしているからである。

よく考えれば、誰も追加機能など求めていないのだが、企業は機能追加を停止して別のビジネスを模索するというハイリスクな判断はしたくない。
特に追加機能なんて求めていない顧客側から見ても、重要度は低いしおそらく使わないが「ないよりもあったほうがよい」という観点で製品を選び始めるところがある。
あらゆる競合がこのような考えのもとに同じ動きを取ると、不必要な機能が永遠に追加され続ける。

誰かが「本当に必要な機能しかありませんが価格は他社の5分の1ですよ」と言ってやるべきなのだ。
これをあなたがやってみよう。

サプライヤーを変更し価格を下げる p136

今までは正社員の仕事と考えられていたものを副業人員で出来るようにしたとしよう。
これだけで強いスモールビジネスの完成だ。
この副業人員の活用により、利幅を拡大させるのみではなく、事業のスケーラビリティを向上させるという効果も得られる。

マーケティング軽視業界でマーケティングを最適化する p137

製品には全く特長がないが、成長している企業は数多く存在する。
Amazonで充電器を探してみれば、基本性能は全く変わらない製品が大量に並んでいるだろう。
充電器のようなメジャー領域では既に競争が進んでいるが、マイナー製品ではまだチャネル別のマーケティングが最適化されておらず、マーケティングのみで勝てるビジネスが数多く存在する。
このような領域と最適化するべきチャネルを発見し、普通の製品で勝ち抜こう。
徐々に製品自体に特長を加えることも出来る。

顧客の課題が解決されていない理由 (何故先行他社はその課題を解決しないのか、出来ないのか) p153

あなたが顧客の未解決の課題を発見したとしよう。
しかし考えてみて欲しい。
あなたは第一発見者では当然ない。
先行者は大抵の場合既にその機会の存在を知っている。
また、顧客自身も課題解決のために動いているはずだ。
だが何故、そこに突然やってきたあなたにまだ利益を得る余地が残されているのだろうか。

最も多い理由は、まともな課題解決が出来るプレイヤーにとってそれは機会ではないからだ。
決してあなたしかその課題を解決出来ないからではない。

まず大手企業の間接費が原因で価格が高止まりする。
この膨大な間接費が理由となり、実質的に大手企業が顧客の制約条件内の価格で解決手段を提供出来ないのである。

顧客への売値の中にはブランディング広告費用、研究開発費用、新卒採用費用、
教育費用、豪華なオフィスの賃料、無駄な経費、価値を発揮しない社員を食わせてやるための費用、全てが含まれているのだ。

顧客は高額な費用の代わりに大手企業から買っているという安心感、社内稟議での言い訳 (失敗した際にも大手から買ったと言えば言い訳にはなるが、
リスクを取って自分の意思でマイナーな企業から買った場合失敗の責任は自分にのしかかる) 、一定の品質保証を手にしている。

重要なプロジェクトの場合は安心感を買うのもよいだろう。
それでは重要度が徐々に下がってくるとどうだろうか。高額な費用を毎回払いたいだろうか。そんなはずはない。
払える費用が徐々に減ってくると大手企業の売値と合わなくなる値が存在する。
ここに必ずスモールビジネスの活きる道がある。

大手企業は自ら価格を引き下げるインセンティブを持たない。
平均単価 500 万円で売っていたものを 200 万円に引き下げたら何が起こるか。
今まで 500 万円で売っていた顧客からの値下げ交渉である。
500 万円で継続的に売れている商品があるなら、自ら価格破壊を主導したりしない。
そんな施策をしてスモールビジネスを攻撃しても、大手企業にはダメージのほうが大きくなるため、攻撃するインセンティブを持たないのだ。
彼らにとってスモールビジネスは体力を使い、足を上げて踏み潰すにも値しないのだ。

さて、大手企業の平均単価から間接費を引いて直接的な費用のみから考えた値付けをしてみよう。
2分の1どころではない価格になるだろう。
しかし、他の個人事業やスモールビジネスとの競争が発生するはずだ。これはどうするか。

まず参入時は個人の実力、つまり腕力で勝っている必要がある。

不安になるかもしれないが、これは市場選択を間違えなければ難しくない。
まともな実力を持った個人事業主やスモールビジネスは、市場規模に対して極めて少ない。
少なくとも2022年現在の日本国内市場の現状を見ても、まともな腕前を持ったフリーランスの稼働が空いているという現象はほぼない。
目立っており参入が容易であるライターやデザイナー市場においても、法人と戦える水準の実力を持ったフリーランスの稼働は埋まっている状況にある。

品質がクラウドソーシング水準だとかなり厳しい戦いになるが、法人の下位互換程度の実力があると思えば安心して参入してよいだろう。

現在は需要に対して供給が足りない市場が多い。
そこに参入すれば、優れた個人の供給自体が足りないため十分に戦える。
先程は儲かっているサービス・会社を調べたが、自分が参入する際のために、似たような小規模事業者が十分な利益を上げていそうかを調べると安心につながるだろう。

あなたが提供する商品・サービス p156

さて、いよいよ商品コンセプトである。
ここまで調査出来れば、課題は存在しているが捨てられたセグメント、そこに対して参入している個人や他のスモールビジネスの情報を掴むことが出来るだろう。
基本的にはコピー品のマイナーチェンジで問題ない。

コピー品で差別化が出来るのか?
そう思ってしまう人は差別化の病にかかっている。

差別化、明確な強み、これはあるに越したことはないが世の中で売れている製品を見てみよう。
差別化という観点でクリアに語れるものはどの程度あるか。
何故その商品を選んだのか聞かれた顧客は、差別化という観点でどの程度語れるのか。

「偶然紹介されて……」
「最初に見つけたから……」
「営業の寄り添い具合が違った……」

そんな言葉が返ってくるだろう。
「XXという3つの観点で比較し、市場に提供されているサービスを網羅的に調査したところ……」などというある種模範的な回答をする顧客は非常に少ないのだ。

そもそもそこには供給が足りないのだ。
供給が足りていないところに参入するのだから商品やサービスは普通でよいのだ。
そこに特異性を追求しようとすると、顧客が求める真ん中という意味での普通からずれ始める。
普通に求められているものを普通に提供する。
差別化はあとからかけるふりかけのように飾りでよい。

私自身様々なサービスを開発、運営してきたがそのどれもが「他では本当に出来ないのか」と問われればそんなことはない。
「他社でもやれば出来るだろうが、あなたの前に存在する選択肢の中では悪くないと思う」

そんなもので数十億円の売上には至るものなのだ。

差別化の病にかかり普通からずれた結果、特異だが求められていないものを作ってしまうという症状から脱却しよう。
普通でありなさい!

コンセプトで差別化するというのは普通からの逃げとしてもよく使われる。
顧客が求める真ん中という意味での普通を貫くのは難しい。
普通のものを安定・安価提供することに努力するべきで、コンセプトでの差別化に逃げるべきではない。

何故あなたは未解決の課題を解決出来ると主張出来るのか p158

これは営業・マーケティングに対するメッセージのまとめである。
ここまで来ると以下の内容が徐々に見えてきたのではないだろうか。
・顧客が持つ制約条件
・普通に顧客が欲しいものの具体像
・あなたがそれを出来ると顧客が信じる理由

特にここでは「あなたがそれを出来ると顧客が信じる理由」を重視して欲しい。

自分の経歴や過去実績で顧客の信用を勝ち取れると、戦いを極めて有利に進めることが出来る。
営業資料やコーポレートサイトに過去実績が盛大に盛られているものをよく見ると思うが、あれは営業シーンで極めて有効である。
過去実績がさらに実績作りの機会を呼び、特定の実績が雪だるま式に膨らんでいく。
膨らんだ過去実績は様々な市場への展開チャンスを与えてくれる。
これがスモールビジネスを牽引する個人として、意識すべき基本動作である。

過去実績の雪だるまで戦いなさい!

売値は競合商品と比較して妥当か p159

売値は何によって決まるのか?
結論を言えば相場と習慣である。

その金額を支払うことで得られる利益など計算不能であり、計算されもしない。
他社と比較してどうなのか。
これが焦点である。

間違ったアプローチの典型例としては「自社サービスを購入した結果、工数が減る。
1 時間あたりの工数を X 円と仮定すると、自社へ支払う Y 円は妥当である」という架空の計算による値付けである。
これは全てフィクションだ。
顧客がそう考えてくれる可能性は極めて低い。

それよりも、大手企業の3分の1です!
他の小規模事業者と比較して同じくらいの値段です!

これでよい。

p162

革新的なものを作りたいと考えるのは真に結構であるが、求められていないものを作ったとしても、あなたがもたらすのは解決よりトラブルである。
顧客、関係者、自分自身に多大なる苦労を強いることになる。

それでも本当にやるべきなのだろうか。
それはあなたが「革新的なものを作って革新的な人間だと評価されたい」という欲望が生み出した産物ではないだろうか。

そんな欲望は今すぐ捨て去って欲しい。

どうすれば儲かるかという課題に対して誠実に向き合う一方で、「革新的だと思われたい」という欲望を除去して欲しい。
人間は人間社会で生きる以上「どう見られたいのか」という観点から自由になることは出来ない。

これについては「誠実に商売に向き合う誇り高いスモールビジネスオーナーと見られたい」というふうに考え直して欲しい。
イノベーティブ、リスクテイク、リーダー、そんなキーワードからは選択的に離れるべきなのだ。

「自分は普通に求められているものを普通に納品する」

これでよい。
当たり前と言われることが出来れば実は世の中の上位 0.1% くらいにはなれる。
いや、さらに上位かもしれない。

スモールビジネスの運営にイノベーティブやリスクテイクなど全く必要ないのだ。
普通に努力して欲しい。

素人から「それって他社と何が違うの?」と問われることがあると思う。
端的に答えることが出来ず、素人相手の説明には苦労するが、売れているものがよいものだ。

そもそも現実世界というものは 2×2 のマトリクスやポジショニングマップなどの図表で表現出来るほど、単純には出来ていない。
これらは思考の整理にはよいが、それは大いなる誤解である。

「それって他社と何が違うの?」に対しては「あまり変わらないと言えば変わらないけど普通に安いし、品質も安定している。
僕は顧客や代理店に対しても誠実に対応しているからそこそこ売れている」

これを目指しなさい!

フレームワークでの整理は成功を保証せず p170

世の中には様々なビジネスの分析手法やフレームワークがある。
5 forces 、ビジネスモデルキャンバス、セグメント、バリューカーブなど様々である。

これらの意味について注意して欲しい。
フレームワークに美しく表現出来ることはビジネスの成功を全く保証しない。
整理出来ることは最低条件中の最低条件程度である。
フレームワークが素晴らしいのは 1 万の可能性から 100 まで絞ってくれるという点である。
また、その分析を誰でも出来るように整理してくれているという点も評価出来る。

ただ、実際のビジネスを成功させるためにはフレームワークの整理だけでは不十分である。

p174

論理というのは、現実世界を戦う武器として非常に頼りないことを重々承知して欲しい。
特に論理的思考力が高い人は、論理というものに価値を置き過ぎる傾向がある。

論理という虚構よりも現実から始めなさい!

反対に論理的思考力が低い人でも成功者は多い。
どちらかと言えば、ビジネスでの成功者はこちらのケースのほうが多い。
話を聞くと大体が目の前で儲かることを始めた、努力して顧客の信頼を獲得し、また目の前に登場した儲かることをつないでいった結果、今があるというストーリーである。
最初から成功した地点を思い浮かべて逆算で入ったわけではないし、それは実質的に不可能に近い。

目の前で儲かるものをつないでいきなさい!
儲かるものが登場したら食らいつきなさい!

何故儲かるかは理解出来たほうがよいが参入時点では必須条件ではない。
儲かるビジネスが目の前に登場した際に飛びつけるかが、まずは勝負なのだ。

戦略がタスクまで分解出来ない p181

売りたい商材は思いついた。
攻めたい顧客もなんとなく分かる。
しかし実行計画が描けない!
こんなケースはよく見る。
これに足りないのは頭脳ではない。
知識である。

例えば営業に関してであるが、私もビジネスを始める前は、セールスレターを使ったアボの取り方なんて知らなかった。
ここでいくら賢い人がウンウン考えても手紙を書くという案は出てこない。

そんなときは同じようなビジネスを行った人に聞けばよいのだ。
自分がゼロから考えるよりも格段によい。
私はよく少々の謝礼を支払って有効な実行計画の立案を経験者に手伝ってもらっている。
数万円程度の謝礼で実行計画の精度は格段に向上し、時間も節約出来る。
戦略を外部から買うことは難しいが知識は買おう。

市場への参入戦略「強引にねじ込みなさい!」 p181

歴史は勝者によって作られる。
過去から沿革を改変することなど恐れるべきではない。
それよりも失敗を恐れるべきである。

ビジネスに関してもこれが言える。
当初はグレーゾーンから参入し、あとから毒抜きをしてクリーンなビジネスに展開するという手法は大量に存在する。

最近の国内での例で言えば、名前は挙げづらいがナンパ方法、情報商材などを多く取り扱うコンテンツプラットフォームが成長した。
このコンテンツプラットフォームはあとからナンパ・情報商材のBANを開始し、企業向けブログのようなクリーンな用途に使えるように方針を変え、成長を続けている。

有名な事例ではDMMがある。
この企業を押し上げたのはAV販売事業である。
AVの版権を取得し家庭用ビデオレコーダーで大量に原盤をダビングし、ビデオ販売店にビデオを送り売れた分だけ支払ってもらうという仕組みであった。
今では CM やチームラボとの展示でリブランディングを実施し、新卒採用も行うようになっている。

最初はとにかく売れることを重視するべきである。
その観点では事業開始を華々しくSNSでアナウンス出来るようなものではないほうが望ましい。
また、 SNS で事業開始をアナウンスしたとしてもメリットはほぼない。
そこでの称賛など求めないほうがよい。

強引な手法でも、あとから後ろ指を指されるような手法でも、とにかく最初は生き残るために市場にねじ込むべきだ。
多くの企業が競争を繰り広げる中、きれいな参入をしようなどと思っていては、市場をこじ開けることは出来ない。

強引に割り込みなさい!

先行優位性 1 スイッチングが起きづらい p184

一度導入してしまったら他社製品が使いづらいという特徴を持った製品は、先行優位性が機能する。
iOS端末を一度使い始めてしまうと、途中からファイルや周辺サービスを全てAndroidに移行するというのは大変面倒だろう。

法人向けでも一度何らかのツールを導入すると、そのツールに合わせて自社および取引先のオペレーションが最適化されてしまう。
これを変えるというのはよほどの理由がなければしたくないのだ。

だから企業は、スイッチングコストを上げるため独自企画を作り、スイッチングさせないよう必死になる。
このようなビジネスは基本先手必勝である。
あとから逆転するには、一般に多額の投資を必要とする。

顧客が1つのサービスにロックされるビジネスは意外と多くないので、慎重に判断すべきである。

誰も知らない山を注意深く登ろう p190

業界紙の活用についての解説で「外部から情報収集を進めづらいマニアックなビジネス」について言及した。
このような業界はスモールビジネスには最高だ。
外部から見ると謎が多過ぎて現実的な参入戦略を作りづらい。
情報収集を十分にせず参入すると、機能しない戦略を作ってしまい死滅していく。
部分的に見える情報から無策な参入を行って失敗するというのは、不動産業界や医療業界で特に大量に見られる。

Web系の人がやりがちなのは特定の業界で未だに紙・FAX・電話を使ったオペレーションが多く、
Web業界との差異を感じてクラウドサービスなどを作ったが、
結局現行の方法が一見非効率に見えるが効率的であり、失敗するというケースである。

この失敗には2つの要因があるように思える。

まず1つ目はやや精神論ではあるが、アナログのオペレーションが残る業界に対する敬意がない。
間抜けだから紙を使っていて、そこに自分が福音をもたらすようにデジタル化を推進すれば業界が変わると思い込んでいる。
ここに強い傲慢さを感じる。

そんなことはないのだ。
どの業界にも賢い人はいて、効率化の動きは常に進められている。
なされていないとすれば、なされていない理由があるのだ。

2つ目は傲慢さに起因するところではあるが、情報収集を行わないことにある。
少し調べれば自分と同じ失敗をした例など大量に出てくるのだ。
それにもかかわらず自分だけは違う、やってみなければ分からないなどと考え、調査をサボってしまうのだ。
その結果、失敗する戦略を実行し、下手すると数年間を無駄に過ごすことになる。

スモールビジネスからの参入 p192

松本社長が最初に取り組んだのは比較サイトの構築であり、これこそまさにスモールビジネスである。
はてなブックマーク、SEO、広告営業など地道な努力を積み重ねてこの比較サイトを大きくしていった。
その先に今のラクスルがある。
この印刷比較サイトはリリース当日に20万円、その翌月には百万円以上の広告費を稼いだ。
成功するビジネスとはこういったものだ。
最初から打球感が違うのだ。
全然儲からないけれど特定のビジネスをとにかく追求すれば救われる、という考えは極めて危険だ。
数年間を無駄にしたという結果になるのが大多数だろう。

打球感を見極めなさい!

楽に儲かっている会社を地道に攻撃し続ける p194

印刷比較.com (ラクスルの創業事業の名前) がすぐに広告費を稼いだということは、おそらく印刷業界には広告費を払う習慣がそれなりにあったのだろう。
ということは、誰かが儲かっていたことを意味する。
当時の状況については調べる手段がないのだが、 印刷比較.com は日本初の印刷比較サイトではないだろう。
一定の収益を生んでいた競合がおり、そこを撃破していったというシナリオであると思う。

儲かっている会社を発見しなさい!
攻撃対象を定めて徹底的に叩き、収益を奪いなさい!

儲かるセグメントを発見する p194

また、これも推定であるが、広告費を積極的に出してでも顧客が欲しいという印刷会社は多くないだろう。
おそらく成長に対して意欲的なネット印刷系の会社が広告費の出どころだったのではないだろうか。
そしてネット印刷というのは当時においては新たな業態であった。
先にも書いたように新しい顧客セグメントは大量の事業機会を生む。
その1つが集客媒体だったのだ。

投資意欲旺盛な顧客セグメントを見極め、注力しなさい!

強みを活かす p195

この 印刷比較.com では、どのような属人的な強みが活用出来たのだろうか。

1つは営業であろう。
参考記事の中で「営業が好きだった」と書かれているが、アフィリエイトの仕組みが整備されていない印刷広告市場を突破するには、広告営業が必須であった。

立ち上げ時に営業が苦手だと、デジタルで閉じた世界の勝負しか出来ない。
メディアはデジタルの事業であるが広告主がいないことには成立しないため、成功には営業が必須だったのだ。

属人性を強みに出来る事業を始めなさい!

このあとは、得られたユーザー獲得チャネルや印刷業界への顧客基盤を使い、
印刷業へのプラットフォーム事業であるラクスルへと、VCからの投資を活用してシフトした。
スモールビジネスでの成功を経由し、ビッグビジネスに踏み出したのだ。

特定の業界に興味を持ったらスモールビジネスを経由し、ビッグビジネスに乗り出しなさい!

【参考記事:
https://globis.jp/article/7609
https://recruit.raksul.com/story/raksul-story-02/】

代理店・パートナーに甘えるな! p200

私がアドバイザーとして事業に携わる際によく見られるのは、代理店を含む「パートナー」に頼りたいという姿勢である。
これは戦略的にパートナーシップを考えているのではなく、自分では出来ない・やりたくないから甘えている状態であるケースが多い。

そもそも自分が売れないものは他人にも売れない。
このような姿勢のまま、幸運にもパートナーを獲得出来たとしても、強い交渉力を持たれて常に事業の首根っこを押さえられた状態になる。
基本的には直販で戦略立案出来、代理店はさらに加速・拡大させるためのものと考えよう。

自分で売れないものは他人にも売れない p201

代理店が売りたがるものとは何だろうか。
「1枚の資料で済むような、説明が短時間で可能なもの、かつ十分な信頼度を持っているもの」である。
複雑なもの、特にコンセプトを語る必要がある商材を実績が少ない状態から代理店に売らせるという戦略は成立しづらい。
代理店は勝ち馬にフリーライドしたいのだ。

顧客との信頼関係 p215

特にコンサルなどの無形商材において、顧客は信頼出来る供給源探しに苦労しているケースが多い。
そうすると決定的に下手を打たない限り、顧客との取引は拡大する傾向になる。
顧客にとっては自社のことを理解しており、普通に納品してくれるというだけで十分なのである。
そこにさらに「特定分野に特化している」という強みがあれば、取引が拡大しないほうが難しいくらいである。

こうすると「特定顧客群との取引が豊富で、それと連動して特定分野に詳しい」という強みが持続的に強化され続け、競合優位性は強くなる。

パートナーとの信頼関係 p215

代理店や金融機関など、特定のビジネスを成功させるために重要な役割を持つパートナーとの信頼関係は大きな武器になる。
代理店であれば「売りさえすればあとの納品は安心して丸投げ出来る」会社を常に探しており、発見することは容易ではない。
その関係を強化し続ければ、代理店内における地位が簡単に揺らぐことはない。
このようにネットワークを拡大させることで、簡単には覆せない強みを作ることが可能である。

特定セグメントに特化した体制 p216

スモールビジネスに適した領域を選定し、コンテンツ作成に熱意がある集団を作れば、この体制自体が大きな強みになる。
何らかに特化した熱意を持った集団を作ることは、競合企業と言えど簡単ではない。
その上、大手企業は対象が小さ過ぎるため、スモールビジネスが軸足を置くコンテンツ領域に注力するインセンティブを持たない。

例えば、私自身がスモールビジネスに関するコンテンツ発信を続けることで一定プレゼンスを持つように、
特定の領域に絞ってコンテンツを生成し続ける体制を作るというだけで、強みになり得るのだ。
障壁とは最初からあるものではなく、ビジネスを運営する中で作り出されていくものである。
自分の武器は参入の切り口にするにはよいが、切り口が競合に対する強い防壁になるのではない。

スモールビジネスの安定は前進が作る p217

スモールビジネスは顧客基盤や属人性などの要塞に守られているとはいえ、勿論永遠ではない。
時代の主役である事業領域と比較すれば、格段に競争は緩いのだが、競争は存在する。
1つのビジネスに安住は出来ない。

どうすれば他社に恐れることなく、安定着実なスモールビジネスを運営し続けることが出来るのだろうか。

答えは前進である。
常に新規顧客を獲得し続けると同時に、顧客が持っている欲望に沿って、階段を登るように多数のサービスを作り続けていくのである。

謝辞 p226

本書は多くのビジネス書、私自身の経験、諸先輩方や同僚からのアドバイスをもとにして出来ている。
今まで私が関わった全ての事業関係者にお礼を申し上げたい。

特に書籍化を提案頂いた 事業家bot 様、編集に多大なご協力を頂いた白戸様、
草稿に対して丁寧なフィードバックを頂いたスモールビジネス研究会の皆様 (海保けんたろー様、奈良晃太様、クロウバー様、 Onodera・Y 様をはじめとした方々) に深くお礼を申し上げたい。

今後も皆様のご指導助力のもと、スモールビジネスの発展に貢献する研究発信活動を継続していく所存である。

解説 事業家bot 経営者・『金儲けのレシピ』著者

拙著『金儲けのレシピ』を上梓させて頂いてから1年以上が経った。
幸いにもビジネス書としてはヒットと言っていい部数が売れ、様々な業界の方から好評を頂いたが、
なかには「この本を読んだだけで金儲けができるわけではない」という極めて頭の悪い感想を Amazon レビューなどに投稿する方もいた。

最初は「本を読んだだけで金儲けできるわけないだろうが」と心のなかで悪態をついていたものの、
しかし盗人にも三分の理、乞食にも三つの理屈とはよく言ったもので、
たしかに本を読み、そして書いてある通りにビジネスを進めていって金を儲けることができればそれが理想的であることは言うまでもない。

そこで、私が旧知の仲であり大学時代の同級生でもある武田氏に「スモールビジネスの教科書」という企画を持ちかけ、武田氏に応じて頂いてできたのがこの本だ。
では、なぜ、今、スモールビジネスなのだろうか?
それは本書の中にも書かれているが、現在の日本のベンチャーシーンは、ベンチャーキャピタルを中心とした村社会的なコミュニティが形成され、華やかな経歴や分かりやすいテーマ、
あるいは「世界を変える」というような大上段に振りかぶったテーマを掲げた会社に注目が集まるという状況になっている。

非上場のうちに、176億円もの調達を行った「メルカリ」などが典型的な事例だ。
もちろんメルカリのような成功事例が素晴らしいことは言うまでもないが、そのメルカリですら海外事業は (2022年2月現在) 未だに赤字である。
一方、丸亀製麺は“MARUGAME UDON”として既に 600 店以上もの店舗を海外に出すことに成功している。

私は、ビジネスは元来、大上段に振りかぶったテーマよりも、一杯のうどんをお客さんに出す、
そしてお客さんがそれを美味しいと感じて喜ぶ、その喜びが世界に伝播していくというところに本質があると考えており、
「ビッグビジネス」を最初から狙う、ベンチャーキャピタル的なアプローチは、本来のビジネスの王道とは離れているのではないかと考えているのである。
AKB48など数々のヒットコンテンツをプロデュースしてきた秋元康氏は、
「これからは最大公約数ではなく、最小公倍数的に考えてコンテンツを作っていく時代だ」というような趣旨のことを述べているが、
私はまさにビジネスにも同じことが当てはまると考えている。
ビジネスは、まず目の前の1人を喜ばせる「スモール」なところに全ての始まりがある。
そして、ビジネスとは本来、不確実で、泥臭く、地味で、汚いものなのだ。
それこそがビジネスの王道なのである。

この本を手に取り、そして最後まで読んだ読者はその本質を理解したに違いない。
まずはスモールに、しかし確実に始めよう。
冷静に、しかし情熱的に!