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「農家が教える 緑肥で土を育てる」を読んだ

農家が教える 緑肥で土を育てる」を2025年07月24日に読んだ。

目次

メモ

はじめに――今、緑肥に注目する理由 p1

緑肥とは、作物に養分を供給することを目的に、青々とした状態で土壌にすき込む植物のことを指します。
よく緑肥として使われるのは、ライムギなどのイネ科植物と、ヘアリーベッチなどのマメ科植物です。
イネ科緑肥は大きく育つため土中に多くの有機物を供給でき、マメ科緑肥は空気中のチッソを肥料分として土中に取り入れることができるなどの特徴があります。

1940年代ころはチッソ肥料の値段が高く、その代替えとしてレンゲ・青刈りダイズなどのマメ科緑肥が盛んに栽培されていました。
やがてチッソ肥料が割安になり緑肥の栽培面積は減少しましたが、その後、緑肥作物の種類や機能が増え、ふたたび利用が拡大しました。

そして今、化学肥料の高騰、国の「みどりの食料システム戦略」での有機農業拡大方針、世界的な農地の炭素貯留推進によりふたたび緑肥への関心が高まっています。
緑肥の栽培期間中は畑を空けなければいけませんが、近年は栽培期間を短くする工夫も生まれてきました。
また、新規就農者は遊休農地を借りることが多く、そこに緑肥を作付けて畑を改善してから作目の栽培をスタートさせることが標準化してきています。
加えて、2015年に環境保全型農業直接支払交付金の対象となった(10a当たり6000円、2023年5月現在)ことなどからも再注目されています。

『現代農業』では、新しく借りた畑の診断に緑肥を用いる技術や、播種・すき込みのコツ、緑肥が短いうちにすき込む技術、すき込まずにもはや折るだけで地面を被覆する技術など、農家ならではの今どきの緑肥の活用法を紹介してきました。
本書ではこれらの技術のほか、緑肥の種類や選び方、メーカーの垣根を超えた品種や効果一覧などを合わせて記事を再編集しました。

緑肥で畑を診てムラ直し p10

4月下旬、すき込み前のライムギ。
畑も播種日も同じなのに、ずいぶん生育差がある
上の畑で草丈の比較のためにスカスカのところとワサワサのところに立ってもらった。
武内さんのいる場所(奥)は胸まであるのに、齋藤さんのいる場所は膝までしかない。
このままでは次につくる作物も不揃いになる
掘ってみると、深さ20cmほどで粘土のかたまりが出てきた。
こういうところは土の物理性に問題があると考えて、堆肥の大量投入、サブソイラでの耕盤破砕などで、そこを念入りに改善する
緑肥のクロタラリアのあとにつくったニンニク。
根張りがよい。
地力チッソのおかげで、肥料は通常の3分の1
緑肥のライムギのほか、多くの有機物がすき込まれると、微生物が殖え、団粒構造が発達し、土がフカフカになる。
踏んでみると、足跡が深くつく

ひとまず緑肥で様子見 p12

3月上旬撮影。
借りたばかりので、「土の中を可視化する」ため、10月にヘアリーベッチを播種したが、育ち方がまるで違う。
左は順調、右ははげあがっている

その後の作付け(5月上旬にすき込んだあと) p12

写真左側
緑肥の生育◯
問題なしと判断し、オクラを栽培。
通路にはリビングマルチのオオムギ(てまいらず)。
どちらも生育順調。
写真右側
緑肥の生育✗
すぐに野菜をつくっても「ダメだな」と思い、有機物補給のため、緑肥のオオムギ(マルチムギワイド)を栽培。
それも生育が悪いので、根気強く畑を改善する予定。

有機の特殊肥料(堆肥) p13

地元の食品残渣や米ヌカなどを発酵させたもので、チッソ2.3%(C/N比19)。
15kgで300円程度。
300kg/10a散布する

エンバク(ヘイオーツ) p13

前年11月播種。
タネは10a10~12kgで6000円程度

p13

今回は草丈30cm程度ですき込んでしまう。
「C/N比は15くらいですかね」と内田さん。
大きくなるほどC/N比は高まり、多くの有機物を投入できるが分解に時間がかかる
すき込んでいるところ。
モアをかけてからすき込む場合もあるが、草丈30~40cmなら直接ロータリですき込める。
7~10cmの浅起こしにし、土中を好気的環境にして分解を早める。
10~14日後に15cm程度で再耕起、その後1~2回耕起して5月上旬ごろにトマトを作付ける
エンバクの根。
途中で切れてしまったが、先端は地下40cmほどまで伸びてガッシリ土をつかむ。
地上部と合わせ、堆肥1~2t/10aと同じ有機物投入効果がある
すでに緑肥をすき込んでしばらくたった畑を掘ってみると、緑肥の残渣に糸状菌の菌糸が回っていた。
今まさに分解されて養分が溶け出ているためか、内田さんの観察では緑肥の残渣に虫や植物の根っこが集中するという
エンバクを引き抜いて根圏をどアップで見ると、ヒメミミズがたくさんいた(矢印)。
菌なども食べる分解者で、土壌の団粒構造をつくる
前作に播いたソルゴーの残渣(矢印)に、エンバクの根がからみついていた。
緑肥の連続作付けも、地力アップ効果が高い
とにかく、裸地にしないことですね。
緑肥などで常に有機物の供給があると、粗大有機物、分解中の有機物、分解された栄養腐植などが混ざって、絶えず栄養が出る畑になります。

地力(ちりょく) p16

土が作物を生産する力。
物理性(作土の深さや透水性・通気性など)、化学性(土壌、土壌中の養分など)、生物性(有機物の分解能力、微生物の量など)の三要素を総合した力。

肥料の三要素(チッソ・カリ・リン酸) p16

栄養素のなかでも、作物が特に必要とするチッソ、リン酸、カリ(カリウム)。

炭素率(C/N比) p16

有機物中の炭素(C)とチッソ(N)の割合。
C/N比ともいう。
炭素率が20より小さい(チッソが多い)と分解が早く、すみやかにチッソが放出され、大きい(炭素が多い)と分解が遅く、チッソが微生物に取り込まれる。

根粒菌(こんりゅうきん) p16

マメ科植物の根に根粒をつくる土壌微生物。
大気中からチッソを取り込んでアンモニア態に変換(チッソ固定)し、宿主の植物に供給する。
宿主からは光合成産物が供給され、共生関係を築く。
土壌中に無機態チッソが多いと、着生数や働きが低下する。
また、チッソ固定に使うエネルギーを得るのに酸素が必要なため、通気性も重要。

団粒(だんりゅう) p16

土壌粒子などの小粒の集合体。
ミクロ団粒と、それが集まってできたマクロ団粒とが「団粒構造」を構成する。
団粒構造の発達した土は水はけも水もちもよく、微生物も活動しやすい。

耕盤(こうばん) p16

トラクタの踏圧やロータリのすき床で土が練られることによって、地下の土が固まってできた層。
排水性が悪くなって大雨で滞水したり、干ばつ時には耕盤に遮られて地下水が上がってこれなくなる。

腐植(ふしょく) p16

土壌中にある有機物のうち、生きている微生物や新鮮な植物遺体などを除くすべての有機物。
土壌有機物と同じ意味で使われることもある。

輪作 p16

同じ畑で異なる作物を順につくること。
輪作で土の養分の偏りを防ぎ、土壌病害虫の防除効果も期待できる。
そのしくみは、①性質の違う作物を入れて病原菌の増殖を抑える、②おとり作物や対抗植物で積極的に病原菌の密度を下げる、の2点。
緑肥の栽培も輪作として有効。

不耕起 p16

耕さずに、作物をつくり続けること。
手間減らしはもちろん、排水性と同時に保水性もよくなり、干ばつにも長雨にも強くなる。
また、全層に肥料を混ぜ込むことができないため、部分施用となり、肥料も減らせる。

可給態チッソ p16

微生物などに分解され、作物にゆっくりと供給される有機態のチッソ。
「地力チッソ」ともいう。
緑肥や堆肥などの有機物を投入することで、土壌に蓄積されていく。

土壌流亡 p16

豪雨などが原因で、土壌が圃場の外に流れ出てしまうこと。
作物の生産性が下がり、河川の水質の悪化なども引き起こす。
耕盤を抜いて排水性をよくすることで抑えられる。

リビングマルチ p16

野菜をつくっている畑で、同時に緑肥など別の植物を育てて、地表を覆うこと。
雑草を抑える効果がある。

センチュウ p16

糸状の微小な動物で、漢字では「線虫」と書く。
畑ではネコブセンチュウやネグサレセンチュウ、シストセンチュウなどの植物寄生性センチュウの被害が多く、連作障害の原因にもなる。

下層土までやわらかくなる、透水性も保水性も改善 p18

緑肥をすき込むことで、作土にはたくさんの有機物が供給されます。
緑肥は堆肥よりも分解しやすいものの、1年後に土の中に残る有機物の量から判断すると、たとえば草丈2.2m、地上部の乾燥重が1.3t/10aのソルガム(ソルゴー)なら、牛糞堆肥1.4t/10aをすき込んだのと同じ効果を期待できます(図1)。
緑肥の導入によって土壌中の有機物が増えると、団粒が形成され、作土がやわらかくなったり、保水性や透水性が良好になったりします。

緑肥の根は深さ約1mまで伸びることも多いため、地上部がすき込まれる作土(表層の十数cm)だけでなく、より深い土(下層土)にも影響を及ぼします。
通常、下層まで耕したり、下層土に有機物を入れたりすることはできませんが、緑肥の根の働きで、下層土をやわらかくしたり、水はけをよくしたりする効果も期待できます。

チッソ p19

マメ科緑肥は根に共生する根粒菌の働きで、空気中のチッソガスを養分として利用できます。
マメ科緑肥には多くのチッソが含まれ、それを次の作物に供給できるため、減肥につながります。
一方、イネ科などの緑肥にはチッソ固定能はありません。
ただ、野菜畑などでは、収穫後に無作付けの期間があると、吸い残しのチッソが降雨で地下深くに流れ、肥料として使えなくなりますが、収穫後にイネ科緑肥などを栽培すると、地下に流れるチッソを吸い上げ、次の作物に養分として供給できます。
このため、マメ科以外の緑肥のあとでもチッソ施肥を減らせます。

カリ p19

カリも雨が降ると地下深くに流れてしまいますが、緑肥を栽培することで、これを吸い上げ、次の作物が利用できるようになります。
特にイネ科緑肥などでは、すき込み後に作土の交換性カリが高まり、多くのカリ減肥が可能になります。

リン酸 p19

リン酸はチッソやカリと異なり、地下深くに流れにくいため、これを吸い上げる方法では減肥できません。
ただ、緑肥に含まれるリン酸が次の作物に利用され、また、緑肥をすき込むと作物のリン酸吸収を助ける様々な土壌微生物が増えるので、リン酸施肥も減らすことができます。

菜の花の緑肥 p34

景観作物として古くから利用されてきた菜の花は、きれいな花を咲かせるだけでなく、炭素率(C/N比)が20前後で緑肥としての働きも兼ね備えている。
菜の花の仲間であるキカラシやシロカラシは生育が早くきれいで、排水性のよい畑なら短期多収をねらうことができる。
北海道の畑作農家などでは輪作体系に組み込まれているようだ。
ただし、根こぶ病に感染してしまう、分解が早くほかの緑肥作物に比べて減肥効果が薄いなどの問題もある。

また、花を咲かせる緑肥作物は景観をよくするだけでなくハチの蜜源にもなる。

新規就農者には緑肥がおすすめ p37

新規就農者はいい畑になかなか恵まれません。
私もそうですが、耕作放棄地や化学肥料で疲弊した畑しか借りられない場合も多いようです。
そういう人には緑肥がおすすめです。

緑肥栽培は野菜づくりに比べれば簡単で、誰でも畑の良し悪しがわかります。
そして、有機農業に欠かせない有機物の補給といった観点でも、緑肥は非常に重要です。

また、緑肥を栽培しておけば、雑草対策にもなります。
緑肥は生長が早いため、雑草が日陰になるのです。
ヘアリーベッチに至っては、アレロパシー効果(他感作用)で雑草を抑制します。

緑肥の経費は種類にもよりますが、タネ代が1kg500~800円として、1ha播種しても2万~3万円(播種量は10a3~4kg)。
肥料代を考えれば安いものです。

緑肥の使い分け p38

農場では新規の畑以外でも「作付け前の緑肥」を原則にしています。
ヘイオーツのほか、クロタラリアやソルゴー、ライムギ、ヘアリーベッチなどを野菜の種類や季節によって使い分けています。
ニンニクの作付け前には、根粒菌によるチッソ固定やリン酸補給をねらってクロタラリア。
冬場に空いている畑ではライムギ。
土壌の物理性改善にはソルゴー。
ウネ間や株間の雑草対策ではヘアリーベッチといった具合です。

これらの緑肥は花が咲く前の栄養豊富な状態で粉砕します。
このとき、業を効率的に進めるためにも、ハンマーナイフモアが欠かせません。
粉砕後は1週間ほど置き、完全に乾燥しないうちにロータリですき込むのがポイントです。
そうすることで緑肥の分解を早めます。

緑肥を育てれば、土壌の状態を分析できる p44

就農当時を振り返ると、最初に借り受けた畑は計1.4haでした。
20年間草を生やさないように耕耘を続けていたやせた畑や、石灰過剰でpH7.5以上の畑もありました。
その後、耕作放棄されて雑木の茂った畑や、抜根後の茶畑なども借り受け、現在に至ります。

就農当時は現在のような国からの補助などもなく、どんな畑でも年に1回は作付けしないと生活を持続できません。
がむしゃらに作付けしました。

作物をつくりながら、各畑の土壌の状態についてある程度の情報は得られました。
ただ、作物がうまく育ったときに、土壌条件だけでなく、ウネの高さ、栽植密度、管理の仕方、天候などたくさんの要素がありすぎて、何がよかったのかがなかなか分析しにくい。
逆に、うまく育たなかったときも然り。

その点、作付け前に緑肥を育てると、同じ畑の中でもあからさまにところどころで生育の違いが現われ、物理性や生物性、地力の違いなど、作付けにあたっての大変重要な情報が得られます。

やせた土地には豚糞+緑肥 p45

緑肥を播く前には、土壌診断で化学性を見て、バットグアノや貝化石といった天然系のミネラル資材を補給することもあります(作業の都合で緑肥すき込み後になることも)。

このとき、ミネラルの量が不足したやせた畑は、土づくりのチャンスと捉えます。
私の地域には良質な豚糞堆肥があります。
豚糞堆肥には様々なミネラルがバランスよく含まれ、炭素も多い。
そこで、まず診断結果をもとに豚糞堆肥を1~3t投入したうえで、緑肥を播きます。

緑肥は堆肥の栄養分で育ちます。
育った緑肥を土にすき込めば、動物性の肥料分が植物性に置き換わり、短時間で地力がアップします。

総じて動物性の肥料はC/N比が低く、微生物の活動によって有機態チッソが無機態チッソに変化しやすく、速効性があります。
一方、植物性の肥料はC/N比が高めで無機態チッソが供給されるのに時間を要する緩効性です。

作物はゆっくりと根を張り、チッソ分を使って体をつくり、炭素分で頑丈な細胞壁をつくる。
病害虫の発生を抑制する効果もあると考えます。

千葉康伸さんの土づくり p45

①土壌分析による化学性の補正
1~3月の作付けが少ない時期に、全圃場で土壌分析を実施。
結果に応じてミネラルを補給する。
圃場ごとに化学性は違うので、ゆっくり時間をかけてバランスを整えていく。

②有機物により、物理性・生物性を改善
栽培で出る植物残渣や、堆肥、緑肥や雑草などを土にすき込み、微生物が殖え、食物連鎖が活発に進み、土が団粒化されるしくみを構築。
特に、緑肥を中心に組み立てている。

①、②を毎年繰り返すことで、土に炭素が蓄積し、地力が年々増加するしくみを時間をかけて構築していく。
ニンジンでは緑肥にムギ類を使用。
当初の反収は2t弱だったが、現在は4tほどと地力がついた。

p50

鈴木さんのエダマメの根にはたいがい根粒がついている。
「正直なもんで、樹を見て調子悪いなぁと思うものは、抜いてみると根粒少ないです。
それから、根粒がたくさんついた畑は間違いなくその後のレタスがよくできます」

連作障害は微生物欠乏!? p51

根粒菌って唯一、目に見える微生物じゃないですか。
エダマメの根を抜くたびにビッシリついてるのが見えて「菌がどんどん成長できる畑になったんだなあ」って快感ですね。
きっと他の微生物もたくさんいるってことだと思う。
土壌消毒剤も除草剤も使わないできたおかげですよ。

よく連作障害でレタスができなくなってる産地の話も聞きますけど、微量要素欠乏とか、もっといえば微生物欠乏なんじゃないかなあ。
うちはまだ歴史が浅いから何も言えないけど、このやり方でやっていけば、この先もきっと大丈夫なんじゃないかなあと思ったりしてるんです。

根粒菌がチッソを固定するしくみ p52

「根粒菌はチッソを固定する」と一言でいうが、マメ科の根に入り込んでチッソを固定するまでには巧妙なしくみがある。
マメ科作物は、根粒菌に糖などのエサを分けてやりながら、たくさんの空気中のチッソを肥料にしてもらっているのだ(ダイズの場合、最大で45kg/10aともいわれる)。

根粒菌とマメ科の共生チッソ固定のしくみ p53

マメ科作物は、エサを与えて根粒菌を飼い慣らしながら、固定チッソを横取りしているようなもの
マメ科に共生した根粒菌は、根粒の中で「バクテロイド」という形になって、チッソ固定を始める。
固定したチッソはすべて作物へ
共生根粒菌(バクテロイド)は、マメ科作物から与えられたエサ(糖・アミノ酸)を食べながら酸素呼吸。
それでできたエネルギーをもとに、チッソ固定する。
ニトロゲナーゼは、チッソガスをアンモニアとして固定するための酵素

緑肥の細断とすき込み p58

フレールモア(ハンマーナイフ式)細断(Y)



1回目の耕起
表層10cmほどの浅起こし。
好気的な環境をつくり、好気性微生物による発酵を促す。
この際、有機質肥料などを混ぜることも多い。

↓ 10日~2週間後

2回目以降の耕起耕耘土層(15cmに設定)にすき込んでいく。
緑肥の大きさにもよるが、30~40日の間に3~4回耕耘し、分解を進めてから次の作物を作付ける。
積算温度で900~1200°Cが分解にかかる目安。

※緑肥を数年間栽培すると、それを分解する微生物が殖えるためか、すき込み後スムーズに分解され、初年度より早い段階で土化するようになる。
※すき込んだ直後は発酵臭がするが、落ち着くと放線菌のニオイとなる。

土壌の診断と改善のイメージ p59

借りた畑では、主に物理性と化学性を診断する。
まず、畑の植生のムラなどを見ながら、数カ所をスコップで深さ70~80cmまで掘り、土層や土質、耕盤の有無や雑草の根張りなどの物理性を確認。
化学性としてはpHや硝酸態チッソ、アンモニア態チッソなどを測定。
借りたばかりの放棄地では、硝酸態、アンモニア態チッソがいずれもゼロのことが多い。
この場合、植物性の堆肥を2~4t/10a散布し、その後緑肥を育てる。

ソルゴーで炭素蓄積 p59

10a当たりソルゴーのタネを5kg播種し、草丈2.2m時点で地上部乾物重1.3t分土壌に入れると、1年後には150kgの炭素を蓄積できる(農研機構のデータ)。
これは1.4tの牛糞堆肥をすき込んだ場合と同じ量。

地力チッソも増えていた p59

神奈川県農業技術センターと共同で調べたところ、ソルゴーやエンバクなどの緑肥や堆肥を組み合わせた栽培を数年続けていくと、年々地力チッソ(可給態チッソ)が増えていくことがわかった。
4mg/100gを超えると、減肥可能だと判断できる。
2022年収穫のハクサイ圃場では、地力チッソが高く8割減肥したがちゃんと結球した。

約40町で県平均の倍の収量 p60

「もう10年くらいやってるから、これはいいものだ、ということはハッキリしてます」と小野正一さんが太鼓判を押すのは、小麦に使うダイズ緑肥。
マメをとったあとの残渣ではない。
「エダマメの手前くらい」の青々と茂ったものを、小麦の播種前にすき込むのだ。

当初は「マメは食うもんだ。すき込むなんてもったいない!」などさんざんに言われた。
でもできた小麦を見るにつけ、だんだんと周囲の目も変わってきた。
なにせ収量は400kg以上(ゆきちから)と県平均の約2倍。
品質もタンパク質12~13%で「ここらでもこんないいムギがとれるんだ」とパン屋さんなどに驚かれるくらい。
しかも小野さん個人の話でなく、農事組合法人・アグリパーク舞川の約40町ものムギの話だ。

ダイズ緑肥は小麦と相性ピッタリ p60

小麦は連作するほど地力が落ちる。
指導では「堆肥を入れて地力の維持を」と言われるが、何十町歩もの面積になると堆肥を確保するだけでもたいへんだし、散布するのもかなりの手間。
そこで代わりに夏場に緑肥をつくって有機物を補おうということになった。
様々な種類を検討したが、もっとも小麦と相性がよかったのが若いダイズだったというわけだ。

ダイズは、ソルゴーやヒマワリほどのガサにはならないのですき込むのがラク。
だが夏場の生長は早いから、小麦の刈り取り後、ゆっくり準備をして7月下旬に播いても1カ月もすれば圃場を覆いつくすまでに生長、次の小麦を播種する10月までには十分余裕をもってすき込めるというわけだ。

無肥料・無農薬で240kg、等比率70%以上 p63

ダイズを緑肥にする人がいれば、ダイズのために別のマメ科緑肥を使う人もいる。
今、全国各地の転作ダイズの産地で静かなブームになっているのが、ヘアリーベッチ緑肥だ。

10年ほど前からいち早くヘアリーベッチ緑肥を導入した白戸昭一さんや山崎政弘さんらのいる秋田県大潟村でも、特に昨年以降、ヘアリーベッチのタネがかなり売れているらしい。

ブームの背景にあるのは、やはり資材高騰。
というのも白戸さん・山崎さんともに、ダイズにはヘアリーベッチ緑肥以外に肥料はいっさい使わない。
農薬だって使わない。
にもかかわらず収量は240kgを超え、一等比率も70%以上。
平均収量約180kg、一等比率は20%にもなかなか届かない大潟村の中にあって、抜群にいいダイズをつくっているのだ。

いつのまにか耕盤ができた p68

スイートコーンを40a、借りた4枚の畑で栽培しています。

4枚のうちの1枚(7a)の畑は、以前から排水性の悪さで困っていました。
地下20~30cmは砂の層ですが、その下はスコップで掘るのも難儀するほどの粘土層。
長雨が続くと水の抜けが悪くなりました。
また、畑には傾斜はあるものの中央部分がすり鉢のように若干低くなっているので、雨後はそこが田んぼのようにぬかるんでしまう。
結果、中央部分だけは毎年生育が芳しくなく、房が小さすぎて出荷できませんでした。

スイートコーンは根が強いので、栽培当初は耕盤ができないと思っていました。
しかし、近年主流のウルトラスーパースイート種は根が弱いようで、収穫後の株を掘ってみると根はすべて耕盤の上に張っていました。
どうやら10年ほど栽培するうちに、4枚すべての畑で耕盤が形成されてしまったようです。

ヤマカワプログラムも試したのですが効果を感じられず、サブソイラで物理的に耕盤を壊すことにしました。
特に7aの畑では、水が傾斜の下方向に流れるようにサブソイラを何回もかけたのですが……、なかなか排水性はよくなりません。
そこで、2020年は直根が80~100cm伸びて排水改善効果があり、耐湿性にも優れているというマメ科のセスバニア(品種は「田助」)を使ってみることにしました。

水が溜まるところだけピンポイント播種 p69

セスバニアは5月下旬、スイートコーンと同時期に播種して生育期間を確保しました。
また、畑全面だとスイートコーンの作付け面積が大幅に減ってしまうので、播種は一番水が溜まる中央部分だけ(写真上)。
スイートコーンのように、マルチの穴に直播(5~6粒)しました。

8月下旬、スイートコーンの収穫残渣は刈り倒しましたが、セスバニアはできるだけ直根を伸ばしたいのでそのままにしておきました。
すると、10月には草丈が3m以上になり花をつけました。
通常だと結実した種子の落下による雑草化が心配されますが、標高約850mあるこの畑では11月上旬には霜が降りるので種子は結実しないと思い、年内はそのままにしておきました。

その後、雪が解けた翌年の3月に、冬の間に枯れてバリバリになった状態のものを、収穫機澄や後作緑肥のソルゴーなどと一緒にロータリですき込みました。

根が耕盤を突き抜けた! p69

効果は、さっそく21年シーズンに出ました。
7aの畑の中央部分は大雨のあとでもぬかるむことなく、スイートコーンも出荷できるサイズまで房が育ちました。
掘って確認したわけではありませんが、セスバニアの根が耕盤を突き抜けて、排水性がよくなったのだと思います。

セスバニアの根が開けてくれた縦穴暗渠が塞がらないように、今年は再度同じ場所にセスバニアを播く予定です。

緑肥は地力チッソを増やすから減肥になる p78

何年か緑肥をすき込み続けていたら、肥料がなくても野菜が育つ畑になった。
そんな農家が増えている。
緑肥から供給されるチッソの量だけでは説明がつかない。
じつは、肥沃な畑になっていく理由は「地力チッソ」の増加に関係があるようだ。

作物が吸えるチッソと吸えないチッソ p78

そもそもチッソは様々な状態に姿を変える。
作物が吸収できるのは主に無機態チッソ(硝酸態チッソやアンモニア態チッソ)だ。
だが、土中にあるチッソの9割以上は有機態チッソで、作物は基本的には吸収できない(一部吸収されることもある)。

有機態チッソもやがては微生物に分解され、無機態チッソに変わっていく。
ただし、そのほとんどは分解まで長い時間がかかり、すぐには作物が吸収できないので非可給態チッソと呼ばれる。

有機態チッソの一部は分解されやすい状態にあり、可給態チッソと呼ばれている。
これがいわゆる地力チッソだ。
だが、やはり土中にある量は多くない。

そのため、農家は元肥や追肥として無機態チッソを含む化成肥料を撒き、作物に必要なチッソ量を補っている。

緑肥で可給態チッソが増える p78

だが、逆に考えると、可給態チッソを増やすことができれば、施用するチッソ量をもっと減らせるはず。
そこで大いに役立つのが緑肥だ。

炭素を豊富に含む緑肥を土中にすき込むと、じっくり分解されながら、腐植と呼ばれる有機物へと変わっていく。
この腐植がエサとなり、微生物の増殖が進む。
また、土壌に炭素が豊富にあると、微生物の活動も活発になる。

つまり、緑肥をきっかけに微生物が殖え、それまで使われていなかった土中の非可給態チッソが徐々に分解され、可給態チッソが増えることで、チッソ肥料を入れなくても作物が育つ畑になっていくというわけだ。

病気の原因は通路にある!? p103

「土を裸にしない」。
これは自然農を実践するうえで重要な教えの一つである。
自然農ではなくても、微生物を大事にする人の多くはこの教えの通りに、「ウネの上」を草マルチやワラマルチで覆っていることだろう。
しかしじつは、ウネの上だけでなく、「通路」の土を裸にしないことも重要なのだ。

それはなぜか?
答えはシンプル。
野菜にとっては、ウネの上も通路も同じ大地だからだ。
そこに本来、境目はない。

実際に、野菜の根は通路のほうまで伸びていく。
もしそこで通路の土がかたく締まっていたら、空気がなく水はけも悪いために病気になる。
野菜の病気の約8割は、フザリウム菌などの湿気を好むカビ菌だ。
通路の排水が詰まっていれば、晴れでも雨でも、常に水はけが悪いせいで病気になってしまう。
梅雨や台風によって病気や虫食いが発生する理由が、じつは通路にあることも多い。
自然農にチャレンジしているのに、なかなかうまくいかない……という人は共通して通路に気を配っていない。

通路に緑肥を播く p103

そこでオススメなのが、通路に緑肥を播くことである。
特に、自然農を始めたばかりの畑やかたく締まっている畑には、イネ科のライムギやソルゴーがいい。
条件がよければ根が1m以上深くまで耕してくれる。
耕盤層がなければ、イネ科の中では根が浅めのエンバクでも十分だ。
前年や秋冬野菜にネコブセンチュウの被害があった場合、エンバクはセンチュウの忌避効果を発揮してくれる。

ウネと違って通路はよく人が通るため、土がかたく締まりやすい。
そこで、踏圧に強いイネ科の緑肥だ。
踏まれるたびに地上部が分けつし、地下部の根は新しい根を増やして、締まった土を勝手にどんどん耕してくれる。
こうして植物の力を利用して耕すことを「自然耕」という。

通路が常に耕され水はけがよくなると、乾燥が好きなトマトや、うどんこ病が発生しやすいウリ科野菜なども、弱ることなく長生きする。
これから始まる梅雨時の病気対策にもなる。

益虫のすみかにも p103

通路の緑肥に期待できる効果はほかにもある。
バンカープランツとして害虫を引きつけて、多くの益虫を呼び寄せるのだ。
私たちが畑をいちいち見回らなくても、益虫たちが通路とウネを行き来してパトロールをしてくれる。
自然農では虫を敵としないだけではなく、仲間として招き入れもする。

緑肥が大きくなると風通しが悪くなるので、高さ10~20cmに抑えるように草刈り機などで管理する。
刈り取った草はウネの上で草マルチとして利用してもいいし、通路にそのまま置いておいても構わない。
通路に枯れ草を敷いておくと、ここにも益虫がすみ着くうえ、分解が進めば追肥のような効果にもなる。
緑肥の地下部は新しい根が増えるたびに古い根が枯れて、土中生物のエサとなる。
こうして茎葉や根が虫や微生物たちに分解され、団粒構造のよい土になる。
わざわざ人間が有機物を入れて耕したりする必要はない。

ウネと通路はつながっている p105

最初に述べたように、ウネと通路を分けて考えているのは人間だけである。
野菜にとっても、虫にとっても、微生物にとっても、ウネと通路にはっきりとした境目はなく、すべてがつながっている。
もちろん、空気や水だって同じことだ。

日本の文化は「間」を大切にする文化だといわれている。
農業界ではこの通路のことを「ウネ間」と呼ぶ。
また、一般的な緑肥の使い方は輪作であり、メインとなる野菜の「合間」をつなぐ。
そして、メインの野菜の隙間に植えることを「間作」という。
間は余計なものでもなければ、いらないものでもない。

この間に生物多様性を生み出すことが、自然農を成功させる秘訣である。
自然農では、野菜をつくるのは人間ではなく土であり、畑である。
つまり、野菜をつくるのではなく畑をつくる。
野菜にとってイキイキと生長する場を整えるのが野良仕事なのだ。

緑肥は速効性をあまり感じられなくても、あとからじわじわとその効果を発揮する。
その効果が少しずつ積み重なると少しずつ生物多様性が回復し、少しずつ野菜の収量が増えてくる。
小さなゆっくりとした解決策が、一番持続可能な方法である。

「ウネと通路で3-3式輪作」のしくみ p107

ウネでの栽培作物が3作、通路での雑草・緑肥づくりが3作の計6作を1サイクルとする輪作。
6作の中に必ず1回はイネ科とマメ科の植物を組み込むことで、AM菌や根粒菌の力を借りた土づくりが可能になる。
ウネと通路の幅はともに1m。
前作で使ったウネ(「栽培」部分)は今作で通路とし、前作の通路は今作のウネに切り替える
通路にしたときにイネ科やマメ科の緑肥を必ず播く。
イネ科とマメ科を混播してもよい
通路にしたときの雑草や緑肥はイネ科マメ科以外のものでもOK

ウネと通路で交互に作付け p108

実際の作物栽培においては、作物を優先させる「栽培」部分(ウネ)と、雑草や緑肥を優先させる「通路」部分を区分けし、それぞれ1mずつ交互に設けるパターンを作付けの基本型とする草生栽培(リビングマルチ)を行なっています。
次作は、「栽培」部分と「通路」部分を入れ替える(中心を1mずらす)ことで、雑草・緑肥による継続的な土づくりが可能となります。

さらには、ウネ3作・通路3作の間で少なくとも1回はイネ科およびマメ科の作物または緑肥を組み込んでいます(「3-3式輪作」)。
イネ科作物は土地を選ばず育ちやすく、根量が多く、多量の有機物を土に還元できるために、菌根菌をはじめとした様々な土壌微生物の増殖が期待できます。

この輪作体系なら、アブラナ科などの作目を連続して植えても、通路にイネ科やマメ科を組み込めばよく、品目選択の自由度が高まります。
それでいて、腐植(可給態チッソ)が増え、有用微生物も殖えて、総合的な地力アップも同時にできます。