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「リモートワークの達人」を読んだ

投稿時刻2024年7月25日 16:56

リモートワークの達人」を 2,024 年 07 月 25 日に読んだ。

目次

メモ

通勤は人生の無駄づかい p18

通勤時間が好きな人なんていない。

朝は早く起きなくてはならないし、家に帰ってくるのも遅くなる。
時間の無駄だし、イライラする。
夕食をつくる余裕もなくなり、毎日レトルト食品やファストフードという人も多いだろう。

ジムに行く気力はなくなり、子どもの顔は寝顔しか見られない。
家族とまともに話すことすら面倒だ。

そんなふうに日々はすぎていく。

通勤の被害を受けるのは、平日だけじゃない。

土曜日のあなたを待っているのは、毎日の長い通勤時間のせいで後回しになった用事の山だ。

部屋を掃除して、クリーニングを取りにいき、ホームセンターで掃除用品や電球を買い、公共料金の支払いをしているうちに、週末の半分は終わってしまう。

そして何よりつらいのは、通勤時間そのものだ。

どんなにいい車に乗っていても、朝の渋滞はけっして楽しくない。
ましてや、混みあった電車やバスに乗るなんて最悪だ。

ひと息ごとに疲れきった人びとの体臭を吸い込み、残り少ないエネルギーを吸い取られる。

通勤が体に悪いことは、科学的にも明らかになっている。
通勤時間の長い人は太りやすく、ストレスが多く、ゆううつな気分になりやすい。
通勤時間の短い人でさえ、やはり運動をしない人よりも幸福度が下がっている。

通勤は肥満やストレスだけでなく、不眠や肩こり、腰痛や高血圧などの病気を引き起こす。
心臓発作やうつ病のリスクも高まり、さらには離婚率まで上がるそうだ。

それでは、もし仮に、通勤が体に悪くなかったとしよう。
環境にも悪くなかったとしよう。
それなら、通勤は許せるだろうか?

単純な計算をしてみよう。

片道分かけて通勤している人の場合、1日に1時間半が動に消える。
1週間で7時間半だ。
1年にすると300時間から400時間が、通勤のためだけに消えていくことになる。

400時間。
けっして少なくない時間だ。

僕らの会社の主力製品であるベースキャンプは、ちょうど400時間の工数で完成した。

もしも400時間が自由に使えたら、いったいどれだけのことができるだろう?

通勤は身体や環境や家庭生活を壊すだけじゃない。
ビジネスにとっても、大きな害になる。

そろそろ、やめてもいい頃だ。

都会の終焉 p28

都会には、才能ある人間が集まっている。

昔の資本家たちが、こんなふうに考えたからだ。
「なるべくたくさんの人間を狭いエリアに押し込んでおけ。そうすれば、いくらでも工場の働き手を確保できるぞ」

さすがはお偉いさんだ。
考えることがえげつない。

そうやって街の人口密度が上がると、工場以外にもたくさんのメリットが生まれてきた。
都会には立派な図書館や映画館ができ、レストランやスタジアムなども続々と建てられた。

文化が集まってきたのだ。

それと引き換えに、僕らは狭苦しいアパートに閉じ込められることになった。
ちっぽけな部屋をでて、ぎゅうぎゅうづめの電車に乗り、ごちゃごちゃしたオフィスの小さなデスクに向かう。

僕らは便利さと娯楽のために、広い土地や新鮮な空気を犠牲にしたのだ。

ただし最近では、技術の進歩のおかげで、田舎に住むことのデメリットはほとんどなくなっている。
どこにいても最新の映画が見られて、あらゆる本が手に入り、どんなマニアックな曲でも聴けて、スポーツの試合も生中継で見られる。

そんなことを1960年代の人間にいっても、きっと笑い飛ばされただろう。
80年代の人間だって、信じてくれなかったはずだ。

でもいまでは、それが当たり前になっている。

さて、ここで議論を一歩すすめてみよう。

どこにいても最新の文化や娯楽が手に入るなら、なぜ都会なんかに住みつづける必要がある?

バカみたいに高い家賃、混みあった通勤電車、狭くてうるさいオフィス。

それらに耐えてまで、あなたは都会に住みたいだろうか?

たいていの場合、答えはノーだ。

僕らの未来予測――今後20年以内に、都会を離れて住むライフスタイルが人気になるだろう。
といっても、画一的な郊外住宅地のことじゃない。
世界中のどこでも、好きな場所に住めばいいのだ。

豪華なオフィスはもう古い p31

高層ビルの最上階にある、おしゃれなオフィス。
会社の経費で買ったレクサスに、専属の秘書。

昔は一流企業の勝ち組といえば、そんなイメージだった。

ただし、最近のポップな一流企業だって、そんなに変わったわけじゃない。
シェフが調理する無料の社食に、クリーニングやマッサージ、ゲーム機でいっぱいのプレイルーム。

やっていることは、古くさい一流企業とほぼ同じだ。

会社でぜいたくができることと引き換えに、社員は1日のほとんどをオフィスですごすようになる。
家族や友人と会う時間は減り、趣味からも遠ざかってしまう。

リタイアしたら好きな場所に行って好きなことをやろうと夢見ながら、ささやかなぜいたくになぐさめられる日々だ。

でも、なぜリタイアを待つ必要がある?

スキーがやりたいなら、いま雪山に行けばいい。
歳をとって足腰が弱るまで待つ必要はない。

サーフィンがやりたいなら、いま海に行けばいい。
わざわざ海のない街に住みつづける必要はない。
田舎に住む家族と一緒にいたいなら、いま引っ越してしまえばいい。
何時間も離れた街にいる意味なんてどこにもない。

これからは、働きながら好きなことをやる時代だ。

歳をとるまで待つ必要はない。
好きなことをやれる環境で、仕事と趣味を両立すればいい。

何十年も先のことを待ちつづける人生に、何の意味がある?

働けるうちは仕事に専念し、リタイアしてから好きなことをやるという考え方は、もう捨てよう。

これからは仕事も趣味も、同時に楽しめる時代だ。
「仕事さえなければ」という思い込みから自由になれば、人生はもっと生きやすくなる。

宝くじに当たるのを待つより、そのほうがずっと現実的だ。
いまの会社で出世して役員になるとか、ストックオプションで大儲けするとかいう夢はもう捨てよう。

そんなものを待っていたら、手遅れになってしまうからだ。

好きなことをやって生きるのは、難しいことじゃない。
ものすごい幸運も、人並みはずれた努力も必要ない。
働く場所と時間を選ぶことさえできれば、いますぐに人生を思いきり楽しめる。

といっても別に、スキーがやりたければ家を引き払って雪国に引っ越せといっているわけではない。
もっと簡単なところからはじめればいい。

たとえば、3週間だけ雪国にステイしてみるのはどうだろう?

すべてを捨てる必要はない。
柔軟にやっていけばいいのだ。

これからは、場所と時間を自由に選べることが、本当のぜいたくになる。

いちどそんな自由を経験したら、最上階のオフィスや豪華な社食なんかにこれっぽっちの魅力も感じないはずだ。

〈場所の魔法〉という迷信 p35

シリコンバレーの技術者や、ハリウッドの映画クリエイター、ニューヨークの広告マン。
彼らと話していると、みんな決まって同じことを口にする。

場所の魔法が、すごい仕事を生むというのだ。

でも気をつけてほしい。
そんなのはただの迷信だ。
才能を狭い地域に押し込みたいやつらがいっているだけだ。
「迷信なんかじゃないさ、これまでの歴史を振り返ってみろよ」と彼らはいう。

たしかにシリコンバレーでは数々のすばらしい技術が生まれたし、ハリウッドは名作をどんどん生みだしてきた。
それは認める。

ただし、過去は過去だ。

金融商品の説明にも、かならずこう書いてあるじゃないか。
「過去の実績は、将来のパフォーマンスを保証するものではありません」

そこで、僕らの(平凡な)未来予測――今後20年のあいだに、シリコンバレーが生みだす最新技術のシェアは減っていく。
映画の名作もハリウッド以外の場所からどんどん登場してくる。

すぐれた才能の持ち主は世界中にいるし、彼らがみんなシリコンバレーやハリウッドに移住したいわけじゃない。

僕らの会社「37シグナルズ」は大成功をおさめたソフトウェア会社だが、本拠地はアメリカ中西部のイリノイ州シカゴだ。
西海岸のシリコンバレーからは遠く離れた場所で、アイダホ州やオンタリオ州の精鋭たちが最先端のサービスを生みだしている。

世の中のソフトウェア会社は、みんなシリコンバレーに行って、スーパーハッカーを探しだそうと躍起になっているようだ。
僕らがイリノイ州で起業したのは、結果的にちょうどよかったのかもしれない。

人材を探すハンターたちがひしめきあい、みんなiPhoneの曲順を並べ替えるくらい気軽に職場を転々とするような土地で戦うのが得策だとは思えないからだ。

徒歩圏内に何十や何百の競合企業がひしめいている環境では、大事な社員が近所の企業にふらりと転職したって何の不思議もない。

その点、業界の聖地から離れていれば、そんな心配はほとんどない。

隣の芝生を眺めて転職のチャンスをうかがう日々よりも、落ち着いていまの仕事に全力をつくせる環境のほうがきっと健全だ。

ひとり1万ドルの節約効果 p40

リモートワークは、お金のためじゃない。

でも、結果としてお金が節約できるなら、それに越したことはない。
コスト削減の話をすれば、頭の固い人間だって耳を傾けてくれるはずだ。

とくに経理や財務の人間を説得するには、お金の話が何よりも効果的だ。
具体的な数字を見せれば、彼らの顔色が変わる。
あなたは通勤から自由になれるし、相手もお金が節約できてハッピーになれる。

お金の話をするときは、大企業を例に挙げるといい。
そのほうが、説得力が格段に増すからだ。

ここで超一流企業の代表格であるIBMの事例を紹介しよう。

IBMは1995年からリモートワークを推し進め、オフィス面積を7800万平方フィート(およそ725万平米)削減することに成功しています。
不要となったオフィスのうち約7割は、19億ドルで売却しました。
賃貸している分については別の企業に転貸し、10億ドルを超える賃料を得ました。
アメリカだけで年間1億ドルの経費削減となっており、ヨーロッパでも同等かそれ以上の経費削減が実現されています。

数十億ドルの節約に、魅力を感じない人はいないだろう。
日ごろからコピー用紙の節約を口うるさくいっている人ならなおさらだ。

しかも、得をするのは会社だけじゃない。
会社がオフィスのコストを節約できる一方で、社員は通勤のコストを節約できる。
ヒューレット・パッカード社の「テレワーク・カルキュレーター」によると、SUV車で往復1時間の通勤をしている人の場合、トータルで年間1万ドルの節約効果が期待できる。

さらにいえば、環境に対するコストも大きく減らせる。
先ほどのIBMの研究によると、2007年の1年間で同社は500万ガロン(1892万リットル)の燃料削減に成功し、二酸化炭素排出量を45万トンも抑えることができた。
アメリカ以外の国も含めれば、この数字はもっと大きくなる。

会社はコストを削減できて、社員の出費は減り、地球環境にもやさしい。
リモートワークは、いいことずくめだ。

会社は昔からリモートだった p50

あなたの会社も、気づかないところでリモートワークをすでにとりいれているかもしれない。

たとえば、弁護士や税理士。
それに、給与計算などのバックオフィス業務や広報を外部の会社にまかせていることも少なくないだろう。

法務、会計、給与、広報。
どれもビジネスに絶対欠かせない業務だ。
これらがなければ、会社は成り立たない。
そんな大事な仕事が、オフィスの外でおこなわれているのだ。
会社のネットワークから切り離され、マネジャーの目も届かないところで。
それでも、業務はうまくまわっている。

この手のリモートワークはどこにでもあるし、誰も疑問を抱いたりしない。
税理士がオフィスの外にいるからといって、危険だとか無責任だといって責める人はまずいない。

外部の人間には、安心してリモートワークをまかせているわけだ。

それなのになぜ、社員にリモートワークをさせるというと、みんな眉をひそめるのだろう。

弁護士が別の街で働いていても気にしないのに、自分の雇った社員がオフィス以外の場所にいると、どうして不安になるのだろう?
おかしな話だ。

さらにいえば、オフィスに勤務している人たちだって、実はリモートワークと同じようなことをしていたりする。
すぐそこの席の人にわざわざメールを書いたり、メッセージを送ったり。
あるいは集中のためにヘッドフォンをつけて外界を遮断してみたり。

そんなことをしているのに、わざわざオフィスに行く意味があるのだろうか?

会社のなかを見まわしてみれば、仕事が外部にだされている例や、対面のコミュニケーションが避けられている例はいくらでも見つかるはずだ。

会社というのはすでに、僕らが思っている以上にリモートな場所なのだ。

ひらめきは会議室で生まれる? p53

みんなで机を囲み、その場で思いついたアイデアをどんどん重ねていく。
ひらめきの波が伝わり、いつもより頭が冴えてくる。

あなたもきっと、そんな感覚を肌で知っていることだろう。

そういう「場」の魔法があることは事実だ。
でもその魔法を起こすのに、物理的に同じ部屋にいる必要はあるのだろうか?

必要はあると仮定してみよう。
画期的なアイデアは、顔をつきあわせて話しあうところから生まれるのだ、と。

もし仮にそうだとしても、やはり疑問は残る。

そもそも、ひとつの会社はどれくらいの画期的なアイデアを処理できるのだろう。
それほど多くはないはずだ。

ほとんどの仕事は、すでにあるアイデアをさらに洗練させるプロセスだ。
アイデアを形にし、より使いやすく磨き上げていく。
それこそが、仕事の本質だ。

ひらめきの瞬間を期待してブレインストーミングばかりやっていると、みんな疲れはててしまう。
新しいアイデアをだすということは、前回のすばらしいアイデアを捨てるということだからだ。
あるいは、これから実現すべき仕事の数をいま以上に増やすということだからだ。

未消化の仕事があまりに増えすぎると、仕事の流れはよどんでしまう。

だから僕らの会社では、アイデアだしのミーティングをめったにやらない。
最初の料理をちゃんと平らげてから、次の皿に手をだす。
それが僕らのやり方だ。

僕らの会社で、全員が顔をあわせるのは年にたった3回程度。
それでもちょっと多すぎるくらいだ。

「だけどやっぱり、すごいアイデアが降りてくる瞬間を逃したくないじゃないか」

そんなふうに思うなら、すこし冷静になったほうがいい。
そもそも会議の場で「すごいアイデア」だと思ったからといって、本当にすごいアイデアであることは多くない。

その場の興奮で、すごい気がしているだけだ。

それに、ひらめきの連鎖は会議室以外でも起こる。
必要なのはたった2つ。
音声がつながっていて、画面が共有できればいい。

たとえばオンライン会議ツールを使うと、リアル会議とほぼ変わらない感覚で会話ができる。
会議室が100%再現できるとはいわないが(1%や2%のリアルさは失われる)、思った以上に違和感なく話しあいが進められるはずだ。

顔をあわせる会議には、たしかに価値がある。
会議の数を減らせば、その価値はさらに高まるだろう。
レアだからこそ、特別な時間が生まれるのだ。

顔をあわせるというぜいたくは年に数回だけにしておいて、それまでのあいだはいろいろなツールでしのげばいい。
それでもきっと、十分すぎるほどのアイデアがでてくることだろう。

上司が見張っていないと仕事をさぼる? p56

多くの会社がリモートワークに二の足を踏むのは、社員を信頼していないからだ。

経営者やマネジャーはこんなふうに考える。
「自分の目が届かないところにいたら、みんな働かなくなるんじゃないか?つねに会社にいて見張っていないと、みんなさぼって、1日中ゲームをしたり適当なサイトを見て遊びだすに決まってる!」

そんなあなたに、見たくない現実を教えよう。

ゲームやネットサーフィンがやりたいと思えば、会社にいても十分にできる。
実際、多くの人が会社でゲームやネットサーフィンをしているという調査結果はたくさんある。

たとえば大手百貨店のJCペニーでは、4800人の従業員を抱える本社のインターネット接続状況を調査した結果、トラフィックのおよそ30%がYouTubeの視聴に使われていることがわかった。

会社に来ているからといって、つねに仕事をしているという保証はどこにもないのだ。

人は、周囲の期待にあわせて動く生き物だ。

「部下は怠け者だ」という前提でマネジメントをしていると、部下は本当に怠け者になる。
逆に、放っておいても成果を上げられる一人前の大人として扱えば、部下は期待に応えようとしてすばらしい働きを見せてくれる。

ITコレクティブ社のクリス・ホフマンは、次のように説明する。
「部下が信用できないなら、それは人材採用が正しくできていない証拠です。
成果のだせない社員や、自分の作業スケジュールを管理できない社員は、会社に必要ありません。
それだけの話です。
我々はスキルの高いプロフェッショナルだけを採用します。
自分のスケジュールを管理し、組織に貢献できる人間だけが生き残ります。
わざわざ会社で子守りをする余裕はありませんから」

部下のことをつねに見張っていないと不安なら、それはマネジメントができていない証拠だといっていい。
マネジャーではなく、ただの子守り。
リモートワーク以前の問題だ。

でも、そこを勘違いしている人は意外と多い。
たとえば生体認証のアキュレイト・バイオメトリクス社では、インターガードという監視ソフトを使って社員のコンピュータ画面を逐一見張っている。

残念なことに、こうした傾向は徐々に広がっているようだ。
インターガードの導入企業は1万社に達するといわれている。
また有名調査会社ガートナーによると、2015年には企業に勤める人の6割が何らかの監視システムに見張られることになるという。

監視社会の到来だ。

シンプルに考えよう。
あなたが上司なら、信頼できない部下を雇わないほうがいい。
あなたが部下なら、信頼してくれない上司のもとで働かないほうがいい。

リモートワークをまかせられない人間に、何をまかせられるというのだろう。
つねに見張っていないと仕事ができないダメ社員に、顧客と話をさせるなんておかしいじゃないか?

ヴァージン・グループ創設者のリチャード・ブランソンは、次のように語っている。
「他人と協力して仕事をするためには、おたがいに対する信頼が不可欠だ。
信頼するということは、相手がどこにいようと関係なく、自分で仕事をやりとげてくれると信じることだ」

もっと部下のことを信頼しよう。
それが無理なら、別の人間を部下にしたほうがいい。

セキュリティを守るにはオフィスが必要? p64

「インターネットは危険」と思い込み、社員のインターネット利用を厳しく制限する一方で、経営陣は暗号化されていないノートパソコンに機密情報をたっぷりつめこんで持ち歩く。
そんな会社は、意外と多い。

どんなに高い城壁を築いても、門が開けっぱなしなら意味はない。

セキュリティはとても重要な問題だ。
ただし、ほとんどの問題については、解決策がちゃんと用意されている。
そうでなければ、誰もオンラインで銀行振込をしたり、アマゾンにクレジットカード情報を入力したりしない。

僕らの会社では、セキュリティの基準として次のようなチェックリストをつくり、すべての社員に遵守させている。

(1) ハードディスクはかならず暗号化する
暗号化ソフトを使って、ハードディスクを暗号化しておく。
たとえばMacなら、デフォルトで入っている「FileVault」という暗号化ソフトを使えばいい。
暗号化しておけば、ノートパソコンをなくしても、ちょっと困るだけで大問題にはならない。
もしも暗号化していないマシンを紛失した場合、全社で早急にパスワードを変更したり、漏洩した可能性のある情報を特定したりと大騒ぎになる。

(2) 自動ログインを使わない
スリープから復帰するとき、かならずパスワードを要求するように設定する。
また、10分ほど使っていないときには自動でロックがかかるようにしておく。

(3) ウェブサイトを見るときは、暗号化通信を使う
サイトの閲覧は、かならず暗号化された通信(SSLやHTTPS)でおこなう。
アドレスバーの最初のところに鍵マークがついていれば、暗号化されているという意味だ。
とくにGmailなど大事な情報を扱うサイトの場合、これを守らないと命取りになる。

(4) スマートフォンやタブレットにはパスワードをかける
画面ロックの解除にはかならずパスワード入力が必要なように設定する。
さらに紛失にそなえて、遠隔操作でデータを消せるようにしておく。
iPhoneなら「iPhoneを探す」機能をオンにしておけば、離れたところからデータを消去できる。

このルールは、個人所有を含めたすべての端末に徹底しなくてはならない。
スマートフォンやタブレットから仕事メールやプロジェクト管理ツールにアクセスすることは避けられないからだ。
そうした端末はパソコンと同じくらい慎重に扱う必要がある。

(5) パスワードは長くて複雑なものにする
パスワードは十分に長くて複雑なものにする。
それぞれのサイトに別々の複雑なパスワードを設定し、頭で覚えるかわりに「1Password」などのパスワード管理ソフトを使って管理するといい。

「123456」のような覚えやすいパスワードは、すぐに破られてしまう。
一方、複雑にしようとして「UM6vDjwidQE9C28Z」のようなパスワードをがんばって覚えたとしても、すべてのサイトで使いまわすのでは意味がない。
ひとつのサイトでパスワード情報が漏れたら、ほかのあらゆるサイトにアクセスされてしまうからだ(そういう事件は世の中でしょっちゅう起こっている)。

(6) Gmailの2段階認証を利用する
Gmailの2段階認証を設定し、パスワードと携帯電話の2つがなければログインできないようにする。
そうしておけば、誰かにパスワードを知られたとしても、すぐにメールを盗み見されることはない。

メールのセキュリティは最重要。
メールアカウントにさえログインできれば、それを使ってほかのあらゆるサイトにログインできるからだ。
「パスワードを忘れた」ボタンを押せば、パスワード再設定の情報がそのメールアドレスに送られてくる。
あとは何でもやり放題だ。

セキュリティはとても複雑な問題だし、セキュリティのプログラムをつくるのはとても高度な仕事だ。

でも、それを利用するのは難しくない。
ちょっと時間をとってセキュリティの基礎知識だけ学んでおけば、わけのわからない不安にビクビクしなくてすむのだ。

現代人にとって、セキュリティは基本的なマナー。
シートベルトをしめるのと同じように、自分の情報を守るくらいはしておこう。

大企業はそんなことやってない? p71

世の中の大企業は、驚くほど古くて非効率なやり方のまま、何年も生き残っている。

既得権益という武器があるからだ。
いったん巨大な牧場をつくって立派な柵をこしらえたあとは、無駄にたくさんいる見張り番たちがダラダラしていても、それなりに儲けは確保できる。

逆にいうと、昔ながらの大企業のやり方を見ていても、生産性については何も学べないということだ。

イノベーションというものは、これまでのやり方をぶち壊すためにある。
ちがうやり方をしなければ、既存の大企業に太刀打ちできるわけがない。

だから、どこかの巨大な多国籍企業がリモートワークを禁止したからといって、まったく気にする必要はないわけだ。
むしろ、彼らが古いやり方にこだわってくれるほうが、僕らにとってはありがたい。
そのほうが、こちらに勝ち目があるからだ。

もしもあなたが大企業で働いているなら、このことを利用しない手はない。
大企業はたいてい、足並みそろえることが大好きだ。
だから業界の中で抜きんでるには、ほかとちがうことをやればいい。

必要なのは、自信を持つこと。
業界の大物たちが既存のやり方を賛美しているなかで、「自分のやり方のほうがスマートだ」と信じることだ。

新しいアイデアはいつも、そうやって生まれてくる。
はじめはただの異端児だが、すぐれたやり方はやがて世の中に広く浸透する。

リモートワークも、そういうアイデアのひとつだ。
近いうちに、リモートワークは当たり前の働き方になるだろう。
でも、みんながやるまで待っていたら、せっかくのアドバンテージを失ってしまう。

既存のやり方を壊すのは、もちろん簡単なことじゃない。
ラクして常識を変えるなんてことはありえない。

しかし大企業のなかにも、新たなやり方に挑戦している先駆者はいる。
IBMにアクセンチュア、eBayなど、超有名な大企業たちが続々とリモートワークを取り入れているのだ。

さあ、あなたはいつはじめる?

いますぐ質問できないと困る? p80

みんなでひとつのオフィスにいると、いつでも質問できるという空気ができあがる。
相手の都合にはおかまいなく、集中モードの最中に「ちょっとすいません」といわれて作業を中断。
ようやくまた集中モードに入っても、別の誰かに質問される。

オフィスで仕事が進まない、最大の原因だ。

みんながこういう働き方に慣れてしまうと、聞きたいことをすぐ聞けない環境にフラストレーションを感じるかもしれない。
どんなささいな質問でも、思いついた瞬間に答えを聞かないと気がすまなくなってくる。

質問したい相手が目の前にいないなんて、考えられないというわけだ。

でも考えてみてほしい。

その質問は、本当に緊急なのだろうか?

いますぐ知らなくてもいいことのために、誰かの貴重な時間を無理やり奪うなんて、このうえなく失礼な行為だ。
緊急の質問もあれば、いつでもいい質問もある。
まずはそこの区別をはっきりさせることだ。

そのうえで、数時間待てる内容の質問なら、メールで投げておく。
数分以内に返事がほしいなら、インスタントメッセージ。
本当に一分一秒を争う緊急事態なら、電話をかけて作業を中断させればいい。

こうやって優先度を分けてみると、だいたい80%の質問はそれほど急ぎではないことに気づく。
わざわざデスクに行って声をかけるより、メールで送ったほうがいい内容だ。
それに、メールならやりとりの履歴が残るので、いつでも検索して確認できるというメリットもある。

15%ほどの質問は、チャットやインスタントメッセージで処理することになるだろう。
チャットで長文を書くのは面倒なので、やりとりが手短になる。
直接話していたら15分かかる内容でも、チャットなら3分ですむかもしれない。

そして残りの5%が、本当に緊急の問題だ。
これについては、電話を使う。
たしかにボディーランゲージは伝わらないが、気にするほどのことでもない。
ややこしいレビューや誰かを解雇するといった話でもないかぎり、言葉さえ伝わればコミュニケーションはうまくいく。

以上のルールを、チーム全員に徹底しよう。

最初の数日間は、すぐに返事がもらえない状況に戸惑うと思う。
「いますぐ返事がほしい」にどっぷりつかっているからだ。
メールで質問を送っても返事が10分以内にこなかったらイライラしてしまうかもしれない。

でもいったん慣れてしまえば、あまりの快適さに驚くはずだ。
むしろ、四六時中誰かに質問される環境で仕事していたこと自体、信じられなくなるだろう。

まるで禅のような静謐さ。
急げ急げと騒ぎ立てる混乱は消え、相手の準備ができたタイミングで自然に答えが返ってくる。

そのように落ち着いた環境なら、仕事の効率も一段とアップするはずだ。

うちの会社には向いてない? p89

リモートワークの話をすると、こんなふうに一蹴されることがある。
「いいと思うけど、僕らの業種にはあわないな」
「小さい会社ならいいけど、うちの規模になるとさすがに無理だよ」

でも、本当にそうだろうか?

リモートワークに向く業種は、思ったよりもたくさんある。
ほんの一例を挙げてみよ

・経理/会計
・金融
・広告
・コンサルティング
・カスタマーサービス
・保険
・デザイン
・ハードウェア
・映画製作 
・行政
・法律
・マーケティング
・人材紹介
・ソフトウェア

また、小規模な会社にしかあわないと考えるのもまちがいだ。

たとえば医療保険大手のエトナ社は、3万5000人の従業員のうちおよそ半数を在宅勤務にしている。
また世界最大規模の会計事務所であるデロイト社では、従業員の86%が、少なくとも勤務時間の20%をリモートで働いている。
あの有名企業インテルでも、従業員の82%はリモート勤務者だ。

政府系機関でさえ、リモートワークを広く取り入れている。
アメリカでは、特許商標庁職員の85%、NASA職員の57%、環境保護庁職員の67%が(完全にではないにせよ)リモートで働いているのだ。

リモートワークを取り入れている企業の例を、左のとおり従業員数別に挙げてみた。

リモートワークが向かない会社は、実はそれほど多くない。
「うちの業界にはあわない」などと思い込んで、チャンスを逃さないように気をつけよう。

コアタイムを決める p95

リモートワークを成功させるコツは、共通のコアタイムを決めることだ。
完全に勤務時間を自由にすると、メールの返事を翌日まで待たなくてはならないこともある。
それでも仕事はまわるかもしれないが、不便なことは否めない。

僕らの経験上、毎日4時間はみんな同じ時間に働いたほうがいい。
そうすればコミュニケーションもうまくいくし、チームの一体感がでてくるからだ。

といっても、簡単にそれができるとはかぎらない。

同じ街で働いているなら問題ないけれど、たとえばシカゴとコペンハーゲンでチームを組む場合、時差が問題になってくる。
そこで僕らの会社では、通常よりいくらかずらしたコアタイムを設定した。

コペンハーゲンのコアタイムは、現地時間の午前11時から午後7時まで。
シカゴのコアタイムは、午前8時から午後5時までだ。
こうすれば、ちょうど4時間は同じ時間帯に仕事ができる。

1日の半分だけしかコミュニケーションができないけれど、それはそれで意外とうまくいく実をいうと、そのほうがずっと仕事がしやすいくらいだ。

なんといっても、朝から晩まで質問や割り込みに対応しなくてすむのが助かる。
仕事の前半(または後半)を、じっくりと自分の作業にあてられるのだ。
それに、こういうスケジュールなら、朝か夜に自由な時間がたっぷりとれる。
その時間を家族とすごしてもいいし、趣味に打ち込んでもいい。
早朝や夜のほうが仕事に集中できるという声も多い。

上海とロサンゼルスのように時差が大きすぎる場合は、同じ時間に働くことは無理かもしれない。
そうなったら、リアルタイムのやりとりはあきらめるしかない。
ただし、できればそれは避けたほうがいいと思う。
コミュニケーションがとれないデメリットが大きすぎるからだ。
なかにはうまくやっている会社もあるけれど、コストに見合うだけのメリットがないとやっていけない。
リアルタイムのコミュニケーションを犠牲にしても、十分に価値があるかどうかを考えてみよう。

単に人件費を節約するという目的なら、地球の裏側とコラボレーションするのはやめたほうがいい。
すれちがいによるコストのほうが大きくなるからだ。

もしも地球の裏側にすばらしい才能の持ち主がいるなら、検討してみる価値はある。

同じ画面を見つめる p98

リモートワークに対する大きな誤解のひとつは、相手の作業内容が見えないというものだ。

ひと目見ればわかることを、電話越しに何分もかけて説明する。
うんざりする作業だ。

でもありがたいことに、世の中には離れた場所でのコラボレーションを助けてくれるツールがたくさんある。
遠隔地と画面を共有して、同じものを見ながら話しあうことができるのだ。
これならプレゼンも問題なくできるし、ウェブサイトの変更点をひとつひとつ確認することもできる。
フォトショップで一緒に画像をつくったり、テキストファイルを見ながら一緒に編集したりすることも可能だ。

慣れてしまえば、同じ部屋にいるのと同じ感覚で作業ができる。
リアルタイムに同じものを見ているのだから、隣の席にいるのとほとんど変わらない。
「ビデオ会議なら昔からあったじゃないか」と思うかもしれないけれど、僕らがいっているのはそういうことじゃない。
ウェブカメラで相手の顔を映すだけでは、コラボレーションは進まない。

画面を共有するということは、同じスクリーンを見つめるということだ。
まるで相手が隣にいて、1台のコンピュータやプロジェクタを見ているかのように作業ができる。

つまり人の顔色よりも、仕事そのものにフォーカスするということだ。

リアルタイムでなくても、このやり方は役に立つ。

たとえば新しい機能のデモをするとき、僕らがよく使うのは、スクリーンで実際に動かしている様子を記録することだ。
口で説明しながら、画面上で操作をおこない、それをスクリーンキャストにする。
スクリーンキャストとは要するに、画面上に見えるものをそのまま動画にしたものだ。
この動画を再生すれば、誰かが隣で操作してくれているような感覚で説明を受けられる。

新機能のデモだけでなく、売上状況の報告やマーケティング戦略の説明など、使い道はさまざまだ。

そんな最新のテクノロジーなんて、自分には使いこなせないと思うだろうか?

でも安心してほしい。
そうしたツールの使い勝手は、驚くほど簡単になっている。
コンピュータが苦手な人でも、難なく使いこなせるはずだ。

Macなら、コンピュータにもともと入っているアプリケーションだけでスクリーンキャストを撮ることが可能だ。
クイックタイムを立ち上げ、ファイルメニューから「新規画面収録」を選ぶだけでいい。
あとは内蔵マイクに向かって説明しながら画面を操作すれば、立派なスクリーンキャストのできあがり。
みんないつでも同じ画面を見て、同じ説明を聞くことができる。

スクリーンキャストなんて、軽い気持ちでどんどんつくってみればいい。
立派な映像作品をつくろうと思うと面倒だが、ちょっとしたメモ程度ならすぐにできる。
いいまちがえてもそのまま続ければいい。

情報を伝えるには、それで十分すぎるくらいだ。

進み具合を共有する p108

みんなと一緒にオフィスで働いていれば、社内のできごとはだいたい耳に入ってくる。

朝のコーヒーを淹れながらうわさ話をしたり、ランチに行って最新情報を仕入れたり。
黙っていても情報はどんどん入ってくる。

少なくとも、そんなふうに感じられる。
だからみんな安心できる。

でもリモートで働いていると、まわりの様子が見えないことがある。
プロジェクトマネジャーからのメールには関係者の進捗が書かれているけれど、それはあくまでもプロジェクトマネジャーとしての見方だ。
チームの一体感を強めるためには、みんながおたがいの様子を知っておいたほうがいい。

僕らの会社では、週に一度「最近やっていること」というテーマで話しあいの場を設けている。
全員が、この1週間でやったことと翌週にやることを手短に書き込んでいくのだ。
進捗を正確に述べる必要はないし、その場で作業の調整をしなくてもいい。

単純に、みんなで一緒に進んでいるという感覚を持ってくれればいい。
大海原にひとりきりではなく、みんなで大きな船に乗っていると感じられるようにするのだ。

こういう進捗共有の場は、「仕事を進めなければ」というおだやかなプレッシャーにもなる。
「今週はビザを食べながらドラマを一気見していました」なんていう報告をするのは気まずいからだ。

誰だって、チームの人間を失望させたくはない。
上司の目はごまかせても、同僚の目はなかなかごまかせないものだ。
技術に疎いプロジェクトマネジャーに対してなら、30分で片づく作業を1週間かかる大仕事に見せかけることも可能だろう。
でもプログラマ仲間に見られたら、嘘をついていることはバレバレだ。

進捗をみんなと共有することは、仕事をしようというモチベーションを生む。

話のわかる仲間に進み具合を披露するのは、けっこう気分のいいものじゃないか?

印象よりも中身を見る p110

リモートワークのメリットのひとつは、仕事そのものが評価の基準になることだ。
1日中そばにいて見張っている環境では、ささいな勤務態度が成績評価に影響してくることも多い。
「9時ぴったりに席についていたか?」
「休憩が多すぎないか?」
「通りかかるたびにフェイスブックを開いている気がするぞ」

マネジャーはいつも、そんな些細な問題に気をとられてしまう。
仕事ではなく、印象でその人の評価が決まってしまうのだ。

でもリモートワークなら、そんなことは気にならない。

大事なのは「今日何をやりとげたか?」ということだけだ。
何時に出社して何時に帰ったかは問題じゃない。
どんな仕事をしたかが問題なのだ。

あなたがマネジャーなら、部下に「今日やった仕事を見せてくれ」というだけでいい。
給料に見合うだけの仕事をしているかどうか、その目でたしかめるのだ。
それ以外のささいなことは、会社にとってはどうでもいい。

とてもシンプルで、明快だ。

こういう物の見方をしていれば、誰が会社に貢献していて、誰が足を引っ張っているのか、本当のところが見えてくる。

ひとつの場所に依存しない

システムの世界には、SPOF(Single Point of Failure)という言葉がある。

その部分が壊れたらシステム全体が止まってしまうような、致命的な弱点を指す言葉だ。
システムの信頼性を高めるには、SPOFを事前に発見して取り除くことが重要になってくる。

どんなに頑丈なものも、いつかは壊れる。
だからその部分が壊れてもいいように、バックアップを用意しなくてはならない。
ひとつが壊れたとたんにすべてが終わるようでは、あまりにも危険すぎるからだ。

社員全員を毎日オフィスに来させるのは、会社にとってのSPOFだといっていい。

オフィスの電源が落ちたり、ネット環境やエアコンが壊れたりしたら、みんな仕事ができなくなるからだ。
オフィスの外でも仕事ができるように練習しておかないと、オフィスにトラブルがあったとたんに顧客へのサービスが停止してしまう。

とくに自然災害の多い地域では、致命的な問題だ。
吹雪やハリケーン、竜巻など、出勤が不可能になる状況はいくらでもある。
それでも、業務を止めるわけにはいかない。

保険会社のアメリカン・フィデリティ・アシュアランス(AFA)がリモートワークを取り入れたいちばんの理由も、災害時にサービスを止めないためだった。
天候などの理由でオクラホマシティのオフィスが閉鎖されても、社員はみんな家から仕事ができる。
顧客はいつもと同じように、サービスを受けられるというわけだ。

AFAでは、リモートワークを選択しない社員にも、月に1日か2日は家で仕事をさせている。
何かがあったときのために、訓練しておくのだ。
また、インフルエンザが流行っているようなときにも、通勤を避けて家で仕事することを推奨している。

自然災害よりもさらによく起こるのが、個人のトラブルだ。

風邪をひいたり、子どもが病気をしたり、水道の調子が悪くて修理屋を待っていなくてはならなかったり。
仕事ができないわけではないのに、家を離れられないという状況はいくらでもある。

普段からリモートワークに慣れておけば、何があっても困らない。
大嵐がやってこようと、家で業者を待つはめになろうと、いつもと同じように仕事ができる。
オフィス依存をやめることが、業務を止めないための大きな強みになるのだ。

自由は屈従になりうる p127

「自由は加従である」
ジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』にでてくる言葉だ。

この有名なスローガンをあえて曲解すれば、リモートワークの落とし穴のことをいっているようにも聞こえる。
自由すぎて、仕事とプライベートのバランスがとれなくなるということだ。
9時5時という縛りがないぶん、うっかりするとつねに仕事に縛られている状態になってしまう。

はじまりは些細なことだ。
朝起きて、ベッドのなかで仕事メールをチェックする。
そのまま何通か返信を書く。
それから簡単なサンドイッチをつくって、昼休みもとらずに仕事をする。
夕食を食べたあと、気がかりなことを1件思いだして同僚に連絡をとる。
そうこうしているうちに、勤務時間は朝7時から夜9時にまで延びている。

やる気のある人ほど、こうした罠に陥りやすい。

リモートワークに慣れていないマネジャーは、部下が働かないのではないかと心配する。
でも本当は、働きすぎることを心配したほうがいい。
部下の様子が見えないので、気づいたときには完全に燃え尽きていたということにもなりかねないからだ。

これをふせぐ方法は、仕事しすぎない文化をつくることだ。
僕らの会社の推奨勤務時間は、週に4時間。
それ以上働いても、誰にもほめられない。
ときにはスパートが必要なこともあるが、普段は長距離走を意識して働いたほうがいい。
無理なペースで走っていると、かならずどこかで反動がくるからだ。

つい働きすぎてしまう人は、「1日分の仕事」という区切りをつくろう。
1日の終わりにその日の作業を振り返り、「1日分の働きをしたか?」と考えてみるのだ。
たいていはイエスと答えられると思う。
プロジェクトはまだ終わっていなくても、たっぷり1日分は働いている。
だから、すっきりした気持ちでその日の仕事を終えられる。

もしも答えがノーなら、その日は不調だったということだ。
そんなときは無理に残業するよりも、いったん落ちついて「5つのなぜ」を考えてみるといい。
なぜ仕事が進まなかったのか?それはなぜか?それはなぜか?と5回繰り返して問いつめるのだ。

仕事が進んだ日は、気分がいい。
きちんと1日分の仕事が終えられたら、きっと次の日も同じペースで走りつづけられる。
そんなふうに自分のペースがつかめたら、あとは自然にうまくいくものだ。

起きてから寝るまで仕事漬けよりも、そっちのほうがずっといい。

自宅にも快適さが必要 p130

家で仕事をする場合、決まった席にいる必要はない。
キッチンで仕事をはじめ、ソファでつづきをやり、天気がよければ庭でひなたぼっこをしながら仕事を終わらせてもいい。

ただし、長期的にリモートワークをやりたいなら、人間工学的な視点を取り入れたほうがうまくいく。

要するに、快適な環境をつくるということだ。
ちょうどいい高さの机、座りごこちのいい椅子、大画面の高解像度ディスプレイ。

ぜいたくに思えるかもしれないが、ケチって体を壊しては元も子もない。
固い椅子で腰を痛めたり、安っぽいディスプレイで目を悪くしたりしたら、仕事をつづけることが苦痛になる。

アクセンチュアでは、社員の81%が多かれ少なかれリモートで働いている。
そのため、「プロフェッショナルのための人間工学」という社内講座を用意して、正しい知識を広めるとりくみをしている。
人間工学的にすぐれた製品をリストアップし、さらに人間工学の専門家による個別のアドバイスも取り入れているそうだ。

普通のオフィスでは、みんなと同じ机と椅子で我慢しなくてはいけない。
でも家で働くなら、自分にぴったりあう環境をつくりあげることが可能だ。
机と椅子でなくてもいい。
僕らの同僚もいろんなスタイルで働いている。
バランスボールに座ったり、立って仕事をしたり。

気分に応じて、いくつかの環境を使い分けるのもいいだろう。
人の体は、1日8時間も同じ姿勢でいつづけるようにはできていない。
だから、場所や姿勢をときどき変えたほうがいい。
オフィスでは自席に縛られているかもしれないが、家なら自由に動きまわれる。

快適さといえば、もうひとつ忘れてならないのが服装だ。

スウェットの快適さは人間工学の極み。
他人の目を気にしなくていいのだから、好きなだけ部屋着でくつろげばいい。

ただし、ランチ休憩でリアルな世界にでていくときには、服装のチェックを忘れずに。

運動不足の恐怖 p133

典型的なサラリーマンの生活は、あまり健康的とはいえない。

朝起きて、電車や車で通勤し、8時間じっと椅子に座って、それから家に帰って、ソファに座ってテレビを見る。
そんな生活をしていたら、太るのは当然だ。

でも、もっとひどいことにだってなりうる。

家で働く場合、よほど意識していないと、まったく体を動かさなくなってしまう。

通勤もないので、とにかく歩かない。
1日1万歩なんて遠すぎる目標に思えてくる。
通勤があれば、駅や駐車場まではとりあえず毎日歩く。
オフィスのなかでも、多少は歩きまわっているはずだ。
昼休みには行きつけの店まで歩くし、帰宅前に寄り道をすることだってある。
いくつかの調査によると、平均的なオフィスワーカーの歩く量は、1日2000~4000歩程度だ。

もちろん、平均的なオフィスワーカーの運動量が十分だというわけじゃない。
みんなの体つきを見ればそれは明らかだ。
でも、家で働くよりはずっとマシかもしれない。

ベッドをでて、隣の部屋の机まで行くのに、どれだけ歩くだろうか?
ためしに万歩計をつけてみたら、恐ろしい結果になるはずだ。

医療保険会社のエトナ社も、この問題に直面した。
エトナでは、3万5000人の社員のおよそ半数がリモートで働いている。
そして調査の結果、リモートワークをしている社員は、通勤している社員よりも体重が増えていることがわかった。
エトナはこの問題に対処するため、オンラインのパーソナルトレーナーを雇って社員の健康促進にとりくんでいるところだ。

僕らの会社でも、社員の健康にはかなり気をつけている。
社員全員に月額100ドルのスポーツクラブ手当を支給しているし、会社の経費で地元の農家から新鮮な野菜やフルーツを毎週届けてもらっている。

家にいて動く必要がないなら、動く理由を何かつくったほうがいい。
たとえば、家でありあわせの昼食をとるかわりに、カフェやサンドイッチ店まで歩いていく。
犬を飼って、毎日散歩に連れていく。
仕事の合間に10分の休憩をとってルームランナーで走る。

通勤時間をまるごと節約しているのだから、その時間を使って運動をしたり、体にいい料理をつくるくらいはしてもいいじゃないか?

顧客の不安をとりのぞく p139

僕らの会社はソフトウェア開発をやっているけれど、以前はウェブデザインのコンサルティング会社だった。
サイトのリニューアルや新規オープンにあたって、デザインのアドバイスをする仕事だ。

1999年から2005年にかけて、実にたくさんの企業から依頼を受けた。
ヒューレット・パッカードやマイクロソフトのような巨大企業もあれば、数人でやっている小さな会社もあった。

そんな忙しい日々だったけれど、直接会って話をしたクライアントは数えるほどしかいない。
ほとんどの会社は、遠く離れた場所にあったからだ。
わざわざ飛行機に乗ってあいさつに行くことはめったになかった。
つまり、リモートで仕事をしていたわけだ。

僕らの仕事は、数百万ドルの売り上げを生んだ。
なぜ、シカゴにある変な名前(37シグナルズ)のちっぽけなデザイン会社が、それだけの成功をおさめることができたのだろう。

いったいどんな秘密が隠れていたのだろうか?

正直にいうと、秘密なんてない。
でも、ちょっとしたコツならある。

まず1つめのコツは、営業をかける段階から、僕らが遠く離れた街にいる事実を知らせておくことだ。
あとでいうより、最初から正直にいっておいたほうがいい。
契約がまとまる直前になって「そういえば、シカゴにいるのでロサンゼルスの御社と毎週会って打ちあわせをするのは無理です」なんていうべきじゃない。

2つめのコツは、過去の顧客と話をしてもらうこと。
「何を聞いてもらってもかまいませんよ」といって、こちらから連絡先を教える。
はじめての相手とリモートで信頼関係を築くのは簡単ではないが、同じ状況で成功した顧客の声が聞こえてくれば安心できる。

3つめのコツは、こまめに成果を見せること。
顔が見えない不安をとりのぞくには、この方法がいちばんだ。
聞いたこともない会社に高い料金を支払うのだから、契約を結んだとたんに不安になるのも無理はない。
だから、なるべく具体的な成果を見せるといい。
形になっていることが見えてくれば、顧客も安心して仕事をまかせられる。

4つめのコツは、いつでも連絡がとれるようにしておくこと。
直接会えないぶん、電話やメールやメッセージをこまめに返す。
これはビジネスの基本だが、リモートで働くときにはなおさら重要だ。
顧客の心理として、遠くにいるほうが不安になりやすいからだ。
近所の会社なら、いざとなったら直接乗り込んでいけるという一種の安心感がある。
でも離れている場合、連絡がとれなくなったらおしまいだ。
だから顧客を不安にさせないように、積極的にコミュニケーションをとったほうがいい。

最後に、5つめのコツ。
顧客をどんどん巻き込んで、一緒に仕事を進めていこう。
当事者としてプロジェクトに参加してもらうのだ。
たしかに僕らはデザインの専門家だが、ビジネスをよく知っているのはその顧客自身だ。
だからオンラインの共同スペースをつくり、スケジュールを共有して、進捗をいつでも確認できるようにしておこう。
こまめにフィードバックを求め、意見を聞き、タスクを割り振っていこう(あるいは、タスクの割り振りに参加してもらおう)。

自分がプロジェクトの一員だと感じられれば、不安よりも期待のほうが大きくなる。
何かをやりとげようという空気が生まれるはずだ。

法律と税金の罠 p143

「社員を自宅で働かせるのって、そもそも合法なの?」

そんなふうに聞かれることがある。
答えはイエス。
もちろん合法だ。

でもたしかに、気をつけたほうがいい。
法律はとてもややこしく入り組んだ世界だ。
払うべきお金に気づかなかったりしたら、面倒なことになる。

アメリカの法律では、社員はどこで仕事をしてもいい。
会社のある場所でもいいし、遠く離れた町でもいい。
週の何日かは家で働き、残りは会社で働いてもまったく問題ない。

ただし、別の国に住んでいる人を雇う場合は、話がもうすこしややこしくなる。
実際やってみればそれほど大きな問題ではないけれど、ちょっと面倒なのは事実だ。

国外の人間を雇う方法は、基本的に2つ。
現地法人をつくるか、業務委託の形にするかだ。
現地法人をつくるにはそれなりにお金と手間がかかる。
税金も余分にかかってくる。
完璧にやるなら、弁護士などの助けも必要だ(これがかなり高くつく)。

その国で何十人も雇うなら、それも仕方ないだろう。

でも、たいていはそんな面倒なことをしなくていい。
大がかりな橋を建設する前に、まずは小さな橋をつくってみるのだ。
つまり、社員ではなく業務委託にすればいい。

どんな国にも、業務委託に関するややこしい独自の決まりは存在する。
でも基本的には、だいたい似たような制度だ。
業務委託を受ける人は、会社の指示ではなく自分の裁量で仕事をする。
また彼らは、個人事業主または法人として登録していなければならない。
正社員のような福利厚生は一切受けられない(その分報酬に上乗せしてあげればいい)。

あなたがリモートワーカーとして海外の企業で働こうと考えているなら、そのあたりの制度のことを知っておく必要がある。
といっても、個人でやる程度なら請求書も確定申告もとくに難しくはない。
ただし、報酬をどちらの通貨で受け取るかということは明確にしておこう。
為替のリスクがあるからだ(このあたりはほかの契約と同じく、交渉でなんとかなる)。

そんなわけで、国境を越えたリモートワークに、それなりの面倒があることは事実だ。
法律や税金のリスクも覚悟しなければならない。
でも、野心的な企業はどんどんリスクをとっている。
すばらしい人材を雇うために必要なことだからだ。

リスクをとるのが不安なら、専門家にとことん聞けばいい。
ちょっとしたハードルにおじけづいて、目の前のチャンスを逃すのはもったいない。

長い目で見れば、きっと挑戦する価値があるはずだ。

人材は世界中にいる p147

企業がリモートワークを導入するとき、はじめは国内だけに目を向けることが多いと思う。
「国内でそこそこ優秀な人材が見つかるなら、わざわざ海外に手を伸ばすことなんてないじゃないか?」

そんなふうに思っているのだ。

僕らの会社は、はじめから国境を越えていた。

デイヴィッドはコペンハーゲンで、ジェインはシカゴ在住。
遠く離れた2つの国で、僕らのプロジェクトははじまった。
場所に縛られないスタイルのまま会社は発展し、世界中の優秀な人材を雇いつづけている。

リモートワーク導入にともなうゴタゴタは、オフィスを離れた時点で避けられないものだ。
どこにいるかは関係ない。
同じ街だろうと、遠い国だろうと、面倒の度合いはとくに変わらない。

そして、いったんリモートワークに慣れてしまえば、距離のことなんてまったく関係なくなる。
みんなが実際にどこにいるかなんて、すぐに忘れてしまう。
いつもはロシアにいる人が、タイで働いていても気にならない。
仕事をするうえでは、何のちがいもないからだ。

世界に目を向ければ、すばらしい人材を獲得できるチャンスは格段に広がる。
それに、外国で商品を売るときの強みにもなる。
外国の細かな慣習を知っておいたほうが有利だからだ。
たとえばソフトウェア開発でいえば、カレンダーは何曜日からはじまるのか。
日曜日に固定してしまうと、月曜日からはじまる国で売れなくなる。
カレンダーのアプリをつくるとき、そういうことに気づく人がいてくれると心強い。

世界的な視野を手に入れれば、顧客によりよいサービスを提供することにもつながる。
コペンハーゲン在住の起業家アレックス・カラビはウェブデザイン会社を経営しているが、北欧の人材だけでなく世界中から人を雇っている。
といっても、デザインのできる人間が不足しているわけじゃない。
多様な視野をとりいれたほうが、顧客を獲得しやすいと気づいたからだ。
テキサスやロンドンやニュージーランド出身の人間がいれば、より多様なデザインを顧客に提供できる。

ただし、すでに述べたように、外国の人材を雇うときには多少面倒なこともある。
時差に対応しなくてはならないし、法律や会計の制度にも気を配る必要がある。

それ以上に大変なのが、言葉の壁だ。
リモートワークでは、文字によるコミュニケーションが中心になってくる。
そこそこ外国語がしゃべれる人でも、文章はからっきしだめかもしれない。
だから外国の人材を雇うなら、その人のライティングスキルを重視したほうがいい。

世界はどんどん狭くなり、マーケットはどんどん広がっている。
取り残されないために、外の世界に目を向けよう。

なぞなぞで仕事の質は測れない p161

ちょっとしたクイズに答えるだけで、その人の能力が一目瞭然。
職歴を調べたり何度も面接したりしなくても、一発で合否を決められる。

人材採用の担当者なら、そんな夢を見たことがあるだろう。

マイクロソフト社は90年代、謎かけやクイズで候補者の能力を測っていた。
『ビル・ゲイツの面接試験――富士山をどう動かしますか?』という本が売れに売れ、クイズでクリエイティブな人材が発掘できるという考え方は世界的なブームになった。

でも、そんなのはデタラメだ。
架空の問題を解く能力があるからといって、会社で活躍できるとはかぎらない。
なかにはクイズが得意で仕事もできるという人はいるだろうが、クイズだけ得意で仕事ができない人も同じくらいたくさんいるはずだ。

それから、適性検査というのもあやしい慣習だ。
ずらりと並んだ質問に答えさせて、その人の性格傾向を判断する。
そういうテストが役に立たないとはいわないが、せいぜい面接で会ったときの印象を補足するものにすぎない(念のためにいっておくと、リモートの採用でもやはり面接は必要だ)。

クイズや適性検査は、候補者の資質を間接的に映しだすツールにすぎない。
はっきりいって、大学の成績程度にも参考にならないと思う。
なぜ、そんな回りくどい方法をとるのだろう?

コピーライターを採用するなら、実際にコピーを書いてもらえばいい。
コンサルタントなら、レポートや分析結果を見せてもらう。
プログラマならコードを、デザイナーならデザインを提出してもらう。
そのほうが、クイズなんかよりずっとわかりやすい。

リモートワーカーを雇う場合、こうしたやり方がとりわけ重要になってくる。
実際の仕事でも、成果物を通したコミュニケーションが中心になるからだ。
仕事の質が悪ければ、ひと目でわかる。

クイズやら何やらで推測を重ねても、肝心の成果物の出来が悪ければ何の意味もない。

デザイナーやプログラマなど、目に見えるものをつくる仕事なら、サンプルを提出してもらうのは簡単だ。
でも、なかには目に見えにくい仕事もある。
その場合は、実際の職場で出会う問題をシミュレーションすればいい。

たとえば僕らの会社では、カスタマーサポートの候補者に次のような質問をして、メールで回答を送ってもらう。

・プロジェクト管理ツール「ベースキャンプ」には、タイムトラッキング機能がついていますか?
・ベースキャンプの最新版は、英語以外の言語にも対応していますか?
・どの製品を選ぶべきか迷っています。ハイライズとベースキャンプにはどんなちがいがあるのでしょう?
・ベースキャンプのクラシック版を何年も使っていますが、新しいバージョンがでているのを知りました。新しいバージョンにすると、何がよくなりますか?

これらは、サポートに日々寄せられるリアルな質問だ。
もちろん選考の段階でこういことを暗記している必要はないが、ちょっと製品について調べればすぐにわかる内容になっている。
仕事のできる人なら、うまく答えられるはずだ。

世界各地からたくさんの履歴書が送られてくるのだから、無駄なことに時間を費やす余裕はない。
まずリアルな仕事をやらせてみて、できる人だけを面接に進ませたほうがいい。
ちょっと職歴が魅力的なくらいで、はるばる面接に来てもらうのは効率が悪すぎる。

肝心なのは、仕事ができるかどうか。
仕事の成果に注目し、その他の小細工は放っておこう。

有能な社員の見分け方 p168

リモートワークでは、能力をごまかすことが難しい。

同僚とおしゃべりをする時間が減って仕事の成果が注目されるし、オンラインのリポジトリで成果物を集中管理するようになれば、作業の記録がすべて残るからだ。
誰がどれくらいの時間で何をやったか、いつでもひと目で確認できる。

謙虚で仕事ができるタイプの人は、もう悔しい思いをしなくてすむ。

従来のオフィス文化では、大声で自分の成果を自慢しなければうまく評価されなかった。
でもリモートの環境なら、黙っていても成果物があなたの能力を証明してくれる。
一方、口先ばかりで仕事をしていなかった人は、もう逃げ場がなくなるはずだ。

リモートワークは、これまであまり注目されてこなかった真実を明るみにだすことになる。

リモートで仕事ができる人は、もともと仕事ができる人なのだ。
『ジョエル・オン・ソフトウェア』の著者ジョエル・スポルスキーは、「有能」かつ「仕事をやりとげる」人材に価値があると説いている。
まさにリモートワークに求められる資質だ。

みんなの成果が目に見えるようになれば、誰が本当に有能なのかは一目瞭然。
言葉にしなくても、暗黙のうちに共通の理解ができてくる。

もしも成果物が欠陥だらけなら、その人が有能でないことは明らかだ。
時間がかかりすぎるなら、仕事をやりとげる力が足りないということになる。

毎日オフィスにいると、そういうことが見えにくい。
仕事以外の印象で評価が決まることも多い。

〈遅刻や欠勤をしない〉+〈いい人〉=〈仕事ができる〉という、まちがった回路ができてしまうのだ。

もちろん、オフィスで働いていても、いずれは化けの皮がはがれてくる。
ただし、問題が深刻になるまで放置されることがほとんどだ。
だから多くのオフィスは、愛想と出勤態度だけは文句なしの、凡庸な人材で埋めつくされてしまう。

リモートワークになれば、使えない人材はすぐに明らかになる。
経営はまず人選ありき。
不適切なメンバーをすみやかにバスから降ろし、適切なメンバーをバスに乗せよう。

文章力のある人を雇う p171

リモートワークには、文章力が欠かせない。

メールやチャットや掲示板で話しあいをするのだから、文章で相手に伝える力が必要だ。
あなたが採用する側の人間なら、候補者の文章力を判定基準に入れたほうがいい。

採用活動をするときには、履歴書や職務経歴書よりも、カバーレター(添え状)を重視しよう。
たいてい実際以上によく見せようと工夫されている。

どんなにす ぼらしいが書かれていても、あなたの会社で活躍してくれるかどうかはわからない。

その点、カバーレターの文章なら、その人が必要条件を満たしているかどうかがひと目でわかる。
リモートワーカーを雇うなら、まともな文章も書けない人はすぐに候補から外すべきだ。

昨今の採用活動は厳しい世界だ。
僕らの会社でも、募集をかけたとたんに一気に150人も押し寄せてきたりする。
それだけの人を選別するのに、じっくり時間をかけているわけにはいかない。
では、1人あたり何分くらい考慮するのだろうか?
実をいうと、30秒もかければ長いほうだ。
10秒かからないこともある。

応募者が多すぎて、それが精いっぱいなのだ。
そして僕らの場合、カバーレターをざっと見てその人の合否を決める。

文章力に自信がない人も、落胆しないでほしい。
練習すれば、文章はうまくなるからだ。

生まれつき文章がうまい人なんてめったにいない。
誰だって、何かしらの形で練習を積んできたのだ。
そもそも、ヘミングウェイみたいな文豪になれといっているわけじゃない。
ある程度のレベルまでなら、いまからでもなんとかなる。

ただし、本気でやらなければけっして成功しない。

文章がうまくなる方法はただひとつ、読むことだ。
上手な文章を読みまくって、いいたいことを伝える方法を研究しよう。
文体は二の次でいい。
まずは明晰さだ。

さらに本気で文章がうまくなりたいと思うなら、文章術の本を読んでみるのもいいだろう。

テストプロジェクト p174

人材採用は、仕事の能力で決めるべきだ。
それはオフィスでもリモートでも同じ。
履歴書では、その人の能力はわからない。

そこでありがちなのが、過去のプロジェクトの成果を見て採用を決めようという考え方だ。
実際、履歴書よりも具体的な仕事のほうが参考になる。
ただし、そこには落とし穴もある。

その仕事は、いったい誰の成果なのだろう?
ひとりでやったのか、それともチームでやったのか。
そこにはどんな制約があったのか。
期待されるより早く仕上げたのか、時間がかかりすぎたのか?

わからないことが多すぎる。

候補者の仕事ぶりを知るためのベストな方法は、実際に試してみることだ。
本格的に採用する前に、1週間か2週間だけお試し採用をして、小さなプロジェクトをやりとげてもらうのだ。
もちろんタダ働きではなく、ちゃんと給料を払う。
僕らの会社では、ひとり1500ドルくらいを支払っている。
タダで働かされるほど嫌なことはないからだ。

現在仕事をしていない人なら、1週間そのプロジェクトに専念してもらう。
就業中の人なら、期間は2週間。
夜や週末を利用して、働きながらとりくんでもらうからだ。
プロジェクトの内容は、職種によって異なる。
デザイナーなら、たとえばウェブサイトや製品の新しいデザインを考えてもらう。
プログラマなら、1週間で何か新しいアプリケーションをつくってもらう。
ライターなら、実際に文章を書いてもらう。

内容が何であれ、リアルなプロジェクトをやるというのがポイントだ。
いま僕らが直面している課題にとりくんでもらうのだ。
空想上のパズルを解いてみても、仕事ができるかどうかはわからない。

現実の問題を解決するほうがおもしろいし、ずっと有意義な結果になるはずだ。

ランチで人柄を見る p177

あなたが採用担当者だとして、リモートで人を採用するには、どうしたらいいのだろう?

これまでの採用活動と、何がちがうのだろうか?

候補者のスキルや経験が求める基準に達しているなら、次は会社の文化にあう人間かどうかを見極めるフェーズだ。
そのためには、実際にその人と会ってみる必要がある。
リモートワーカーを採用する場合でもそれは同じだ。
相手の性格は、実際に会ってみないとわからない。

時間を守れるか。
態度は礼儀正しいか。
人柄はいいか。
他人にやさしいか。
チームのみんなと気があいそうか。

直接会って話してみれば、そういうことが肌で感じられるはずだ。

僕らの会社では、まず大量の応募者のなかから、書類の段階で2~3人に絞り込む。
それから、飛行機のチケットを買って1人ずつシカゴの本社に来てもらう。
もう仕事のスキルがあることはわかっているので(そうでなければわざわざシカゴに招待しない)、見るべきは相手の人柄だ。

つまり、その人のことを好きになれるかどうかだ。

まずはランチを食べながら、カジュアルに話をする。
ランチの相手はマネジャーではなく、一緒に仕事をすることになる同僚たちだ。
今後仕事をするうえで、マネジャーよりも同僚とやりとりする時間のほうがずっと長い。
チームのみんなと気があわなければ、仕事をうまくやっていくのは難しい。

ランチから戻ってきたら、今度はマネジャーと軽く話をする。
そのあとは、1日オフィスで自由にすごしてもらう。
仕事を手伝ってもいいし、ただ眺めていてもいい。
一緒にやっていけそうかどうかを、おたがいに判断するための時間だ。

そして候補者が帰ったあと、一緒にランチに行ったメンバーから印象を聞く。
感じはよかったか、一緒に働きたいと思ったか、店の人に対する態度はどうだったか、他人を見下していないか、うちの会社の雰囲気にあいそうか。
未来の同僚になるメンバーたちに、率直な感想を聞かせてもらう。

もしも本社にいるメンバーが少ないなら、リモートで同じようなことをしてもいい。
たとえばグループのビデオチャット(グーグルハングアウトなど)に集まって、雑談をしてもらうのだ。
直接会うのが理想だが、できない場合はオンラインでもなんとかなる。

そして最後に、その人の能力と人柄について話しあい、最終的な判断をくだす。
めでたく採用になったら、最初の数週間はシカゴのオフィスに呼び寄せて、しばらくみんなと一緒に働いてもらう。
いきなりリモートにするよりも、そのほうがチームになじみやすいからだ。
メンバーの顔と名前を覚え、雰囲気を肌で感じてもらう。

そうやって雰囲気や仕事の進め方に慣れておけば、スムーズにリモート勤務を開始できる。

短期契約で相手を知る p180

リモートワークの練習法でいちばんいいのは、しばらくフリーランスで働いてみることだ。

フリーランスで仕事をするためには、さまざまな管理スキルが必要になる。
自分で無理のないスケジュールを立て、定期的に進み具合を報告し、あいまいな要求をきちんと成果物に落とし込まなくてはならない。

これらはすべて、リモートワークに必要とされるスキルだ。

一定期間の業務委託契約は、雇う側にとっても働く側にとっても都合のいいやり方だ。
おたがいに、相手とこの先やっていけるかどうかを試すことができる。

あわてて社員になる前に、まずはフリーランスで契約してみて、ダメな会社だったらさっさと手を引けばいい。
契約期間が切れれば、あなたは自由だ。
いやな会社に縛られることなく、すぐに次の会社を探しにいける。

ちなみにフリーランスの人たちに聞いてみると、世の中にはどうしようもない発注元があふれているようだ。
運良くまともな会社にめぐりあったら、しっかり関係を築いておこう。

いくつかの会社から仕事を受けてみて、失敗を重ねるうちに、リモートワークに向いた会社の特徴がつかめてくるはずだ。

リモートワークを成功させるためには、しっかりした信頼と、効率的な仕事の進め方が不可欠だ。
だからリモートワークがうまくいく会社なら、概して働きやすい会社だと考えていい。

1対1で話をしよう p200

社員1人ひとりと話をすることは大切だ。
とくにリモートワークの場合、意識して頻繁に声をかけたほうがいい(どうせオフィスワーカーとはしょっちゅう顔をあわせているのだから)。

僕らの会社では、2ヵ月に一度くらいのペースで、リモートワーカー1人ひとりに電話をかける。
本当は毎月できるといいのだが、いまのところこれで問題なくまわっている。

こうやって話をすることを、僕らは「ワン・オン・ワン」と読んでいる。
1対1という意味だ。
ポイントは、リラックスしていろいろな話をしてもらうこと。
特定の議題について話すのではなく、「最近調子はどうだい?」という感じでゆるく話をする。

時間は1人あたり20~30分といったところだが、念のために1時間は予定を空けておいたほうがいい。
話が盛り上がってきたところで、無理に切りたくはないからだ。

ワン・オン・ワンの目的は、コミュニケーションの扉を開けておくこと。
フランクに何でも話せる機会をつくっておけば、気づかないうちに不満が溜まって爆発する事態は避けられる。

やる気というのは、脆いものだ。
ちょっとした不満で、まったく仕事が進まなくなることもある。
だから、とくにリモートワークの場合は、相手の様子を定期的にチェックしたほうがいい。
半年や1年に一度の査定面談しか話すチャンスがないのでは、あまりにも少なすぎる。

それに、年に一度の査定面談では、日々の細かなことについて話しにくい。
たいていは翌年の目標や、昇進と給与の話だけで終わってしまう。
でも本当に重要なのは、日々のささいなことだ。
いろんなタイミングで持ち上がってくる不満や懸念を、そのまま放置してはいけない。

ありがたいことに、どんなに離れたところに住んでいる人でも、みんな電話の使い方は知っている。

とりあえず受話器をとって、何でもいいから雑談しよう。
用事なんかなくてもいいから、様子をチェックしてみよう。

きっと、驚くほど多くの問題が見えてくるはずだ。

p206

僕らの会社では、承認や手続きを極力減らすため、いくつかの思いきった手段をとった。

たとえば、社員は全員、会社のクレジットカードを持っている。
「常識的に使ってほしい」という以外は、とくに何の制約もなし。
だから必要な備品を購入するのにも、経費申請の面倒なプロセスを経なくていい。
レシートをメールで送ってもらうだけだ。

また、休暇の申請も必要ない。
いつでも好きなだけ休暇をとることが可能だ。
社員にお願いしているのは3点だけ。
(1) 妥当な範囲内にとどめること、 (2) カレンダーに予定を入れること、(3) チームに迷惑をかけないように調整すること。

そうやって一人前の大人として扱えば、彼らもけっして無茶はしない。
期待に見合うだけの、責任ある行動をとってくれるはずだ。

p210

僕らの会社では、働きすぎをふせぐためにユニークなしくみを用意している。

たとえば5月から10月にかけては、週の休みを1日多くする。
気候のいい時期に、なるべく外にでて息抜きをしてほしいからだ。
また社員の趣味活動を支援しているし、クリスマス休暇にはさまざまな企画旅行をプレゼントしている。

働かないチームはいらないが、仕事ひとすじのチームも困りものだ。
うまく息抜きできる人のほうが、長く安定して成果をだしやすい。

働きすぎず、休みすぎず。
週40時間くらいが、ちょうどいい目安になるだろう。

モチベーションの高め方 p226

頭脳労働には、モチベーションが欠かせない。

モチベーションが最大のときには、半日で1週間分の仕事ができることがある。
逆に、モチベーションが落ちているときには、1週間かけて1日分も進まないこともある。

でも、どうすればモチベーションが維持できるのだろう。

あなたがマネジャーだとしたら、離れた場所にいる部下のモチベーションを、どうやって引きだせばいいのだろう。
甘いアメを与えるか、それとも鞭で脅せばいいのか?

評論家のアルフィ・コーンは著書『報酬主義をこえて』のなかで、アメも鞭も役に立たないことを明らかにした。
報酬や脅しでモチベーションを引きだすことはできず、
むしろ生産性を大きく引き下げてしまうという。

頭脳労働者のモチベーションを引きだす唯一の方法は、楽しい仕事を、楽しい仲間とやらせることだ。
それ以外に近道はない。

眉をひそめている人もいるかもしれない。
「仕事は遊びじゃないんだ」という声も聞こえてくる。

たしかに、仕事は遊びじゃない。
でも、やりがいがあっておもしろい仕事はたくさんある。
「遊びじゃないんだ」といって仕事の楽しみを否定する人は、いい仕事をやりとげたときの知的な喜びを知らないのだろうか?

モチベーションは、小手先のテクニックで上げたり下げたりできるものじゃない。
そうではなく、仕事の質と環境を測るバロメーターだと考えたほうがいい。

モチベーションが上がらないということは、つまり仕事に問題があるということだ。
やるべき理由が不明確だったり、あるいはチームの仲間と気があわなかったりするのかもしれない。

もしもあなたがリモートで働いていて、一向に手が進まないと感じたら、それは注意信号だ。
いまの仕事の何が問題なのかを明らかにして、すみやかに改善したほうがいい。

モチベーションが上がらないとき、たいていの人はまず自分を責める。
「ああ、また先延ばしの悪いクセだ」
「なんでこんなに集中力がないんだろう」

でも、ほとんどの場合、本当の問題は自分じゃない。
仕事が悪いのだ。

仕事のせいでモチベーションが上がらないなら、自分に鞭打ってみても意味はない。
勇気をだして問題点を指摘し、ネガティブな仕事をポジティブな方向に変えていくべき

もしもあなたがマネジャーで、部下の誰かがモチベーションを失っていることに気づいたら、直接話しあって問題点をはっきりさせよう。
仕事が簡単すぎるのか、それとも難しすぎて挑戦するのが怖いのか?
問題点を特定し、それを改善する方法を探っていこう。

組織の問題かもしれないし、その人自身の問題かもしれない。
がんばりすぎて糸が切れたのかもしれない。
部下がそばにいないと、疲れに気づいてやれないことがある。
2週間ほど休ませるだけで、すっかりリフレッシュして元気に働きはじめるかもしれない。

僕らの会社では、3年以上働いている社員に1ヵ月のリフレッシュ休暇を与えている。
もちろん会社によって向き不向きはあると思うが、部下のモチベーションがなぜか下がっていると感じたら、試してみてもいいだろう。

ちょっとした休日ではなく、たっぷりと休暇をとれば、仕事から離れて自分や家族のことを考えられる。
仕事に集中できない理由も、何か見えてくるかもしれない。

モチベーションは、心の健康に不可欠だ。
健全なチームづくりにも欠かせない。

注意信号を見逃さないように、気をつけよう。

p271

本書は、二〇一四年一月に単行本『強いチームはオフィスを捨てる――37シグナルズが考える「働き方革命」』として早川書房より刊行された作品を改題、文庫化したものです。