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「FIRE 最強の早期リタイア術」を読んだ

投稿時刻2024年11月4日 17:30

FIRE 最強の早期リタイア術」を 2,024 年 11 月 02 日に読んだ。

目次

メモ

p20

お金持ちになるのは簡単なことではありません。
ただ、シンプルで再現可能なことではあります。
再現可能だということが、私の物語の価値を高めてくれているといまでは理解しています。
私がFIRE(Financial Independence Retire Early の略)を発見し、そのやり方を説明したブログ Millennial Revolution を立ち上げたとき、瞬く間に早期退職者コミュニティの間の情報源になりました。

ブログの読者は私のアドバイスを実行に移し、うまくいきました。
「家を買うべきですか」、「キャリアを変えるために借金をするべきですか」といった質問に対する答えは、その行為にかかる費用をほかの誰かのために働く時間に換算すればすぐに明らかになりました。
結局、大切なのはお金ではなくて時間なのです。
できる限り充実した人生を送るために、いかに時間を賢く使うかなのです。

「欠乏マインド」とは何か? p24

欠乏マインドを理解してもらうために、時代をさかのぼってみましょう。

ときは1945年。
その年の1月2日、ソ連軍がアウシュビッツに侵攻し、ナチス最大の死の収容所から7000人の老若男女を解放しました。
現場の状況を見た兵士は思わず自分たちの食料袋を開けて、「これを食べてくれ、全部食べてくれ!」と囚人たちに声をかけました。

ところが、彼らの行動は裏目に出ました。
囚人たちは食べ物をお腹いっぱいに詰め込んでしまい、ひどく体調が悪化したのです。
中には死にかけた人もいました。
当時は認知されていなかったのですが、飢えている人に大量の食物を与えると、血糖値が急上昇し、電解質が危険な水準まで失われてしまうのです。
後にリフィーディング症候群として知られる症状です。

終戦が近づいたころ、ミネソタ大学の科学者たちが飢えている人を最も安全に手当てするにはどうしたらいいのかという研究を行いました。
3人の被験者が同意のもとで寮に入れられ、飢えさせられ(死ぬほどの飢えではない)、観察されたのです。

まず、座ることがひどい苦痛になりました。
あまりに脂肪がなくなってしまい、お尻が痛むため、お尻と椅子の間には座布団を敷かなければなりませんでした。
さらにフグのようにが膨れ上がりました。
余剰水分が肌の下で貯留(浮腫と呼ばれる症状です)し始め、体に何かが押しつけられると、半永久的なくぼみができました。
あまりに体が弱っているため、シャワーさえ浴びられませんでした。
エネルギーが枯渇していたのです。

ただ、最も衝撃的な変化は彼らの脳に起こりました。
継続的に食事が十分に与えられない状況に陥ったことで、精神に異常をきたしたのです。
彼らは食べ物のことしか考えられなくなりました。
芽キャベツが嫌い?
好き嫌いなどもはや関係ありません。
どんな食べ物でも被験者の前に置かれると瞬く間に平らげられ、皿まできれいに舐められました。
料理本や地元のレストランのメニューを持ってきて、繰り返し読んでいる被験者まで現れました。
新聞を熟読し、トマトと卵の値段を記憶して比較したりしたのです。
映画の見方まで変わりました。
物語の筋や登場人物は覚えておらず、彼らが何かを食べているシーンだけ鮮明に覚えていました。

研究室で行われた最近の研究では、被験者が昼食を食べた人と食べていない人に分けられました。
「TAKE」、「RAKE」、「CAKE」などの単語が13分の1秒間点滅する画面の前に座らされると、昼食を食べていない被験者は、対照群の人たちよりも食べ物に関する単語をより多く正確に認識していたことがわかりました。

何かが不足しているとき、それはあなたの生活において最も重要なものになります。
それ以外はすべて二の次です。
実験は被験者の体だけではなく、精神をも変えてしまいました。

これこそが、欠乏マインドです。

飢えているとき、彼らの脳は欠乏している食べ物のことを除いて、ほぼすべてのことを無視するようになるのです。

p28

飢饉が一番ひどかった時期に、父は親友であるウェンシャンに命を救ってもらいました。
彼は畑で見つけた半分腐ったサツマイモを一口、父に分け与えたのです。
政府が収穫物を押収したときに取り忘れていったもので、もし見つかっていれば、彼は死刑に処されていたでしょう。
いまでもサツマイモは父の大好物の1つです。

ウェンシャンは父のほかの多くの友人と同じように、餓死しました。
飢饉が1962年に終息する数ヵ月前でした。

それ以降、父は満腹を経験するという望みを叶えることができました。
ただ、食べ物はいまでも父の強迫観念になっています。
私は一度も食べ物を粗末にさせてもらえませんでした。
動物は頭から尻尾まで、すべて食べなければなりません。
骨髄まで骨からきれいに吸い取らなくてはならないのです。
欧米のスーパーで鶏肉が「もも」、「むね」、「手羽」などとパッケージングされているのを見て、父が不思議に思うのはそのためです。
この鶏の頭はどうした?首は?足は?
これらの不要部位が捨てられていると考えるだけで父の心は痛むのです。

p31

聞いてください。
私は悲惨な子ども時代に同情してほしいわけでも、いまにいたるまでの努力を称賛してほしいわけでもありません。
私はミリオネアになるためには恵まれた境遇で育つ必要はないということを示したかったのです。

子どものときには、ミリオネアが何かすら理解できませんでした。
戸棚がいっぱいか、それとも空っぽか?
私がお金に関してわかっていたのはその程度です。

私の家族はもともと、底辺の1パーセントでした。
そうした境遇が、不足しているものを過度に重視するよう私の脳の配線に影響を与えました。
欠乏マインドによって、私は何よりも経済的な安全を優先するようになったのです。
いまの私、上位1パーセントの私があるのはまさにこの欠乏マインドのおかげです。
いまではゴミの山を漁ることはなく、35歳の早期退職者として世界中を旅しています。
ハンディキャップを与えたどころか、欠乏マインドは大切な3つの教訓を教えてくれました。
結果的に、そのおかげで私はミリオネアになれたのです。

お金こそが、世界で最も大切なものです。

お金は、犠牲を払う価値のあるものです。

お金は、血を流して得る価値のあるものなのです。

p33

ビジネス書は、欠乏マインドを批判したがります。
「あなたを後ろ向きにする」と言うのです。
持てる可能性のあるものではなく、持っていないものを重視すると、目の前にある機会に気づかなくなるという考え方です。

確かに起業家という文脈では、的を射たアドバイスかもしれません。
ただ、これらのビジネス書の著者が理解していないのは、誰しも望んで欠乏マインドに従って行動しているわけではないということです。
そうせざるを得ないのです。
十分な資源を手にしていない状況では、欠乏マインドのおかげで生き残れるのです。
欠乏は必ずしも悪いものではありません。
前向きなものになり得るのです。

欠乏が私を強くした p36

私は決してヘミングウェイではありませんが、その小話が彼の才能を明らかにしているように、貧しく育ったことが私の才能を解き放ってくれました。
貧困はいまでも役に立っている4つの重要なスキルを与えてくれたのです。
それらのスキルをCRAP(うんこ)と呼んでいます。
creativity(創造力)、resilience(回復力)、adaptability(適応力)、perseverance(忍耐力)です(これらのスキルを習得するために、実際にあらゆるうんこのような経験を切り抜けなければならなかったので、この頭文字はぴったりの比喩と言えます)。

p52

正直に言って、コンピュータ・エンジニアリングの学位を取るために大学に行くというのは心躍る経験ではありません。
私が子どものころから書きたかったのは物語です。
プログラミングコードではないのです。
ただ、私にはお金がありません。
両親も私にこれ以上、金銭的な負担を増やしてほしくありませんでした。
私は難しい選択を迫られましたが、数字が教えてくれた選択が正しかったのです。

「心から好きなことをする、充実した人生を送るといった話はどうなったんですか?私に幸せになってほしくないんですか?」。
あなたはそう言うかもしれません。
もちろん、私はあなたに幸せになってもらいたいです。
ただ、情熱に従うことが人生のカギだといった言葉こそが最大の嘘なのです。

統計的に見ると、情熱に従った先には、失業や不完全就業が待っているのです。
貧しく育っ私たちは知っています。
次の食事にはどうすればありつけるのか、今月は電気と温水のどちらを取ろうかなどと悩んでいるとき、人は毎日ウキウキした気分で朝を迎えることなどできません。

「あなたの資産」が倍になるのにかかる時間は? p61

アインシュタインは次のように述べたと言われています。
「複利は世界で八番目の不思議だ」。
あなたがお金を稼いで貯めると、貯めたお金がお金を生み出し、生み出されたお金はさらなるお金を生み出します。
文字通りあらゆるお金に関する本が複利の話を載せており、それは非常に良いことだと誰もが口をそろえます。

ただ、もしそれが非常に良いことでなければどうなるでしょう?
もしそれが非常に非常に悪いことだったら?

誰もが E=MC² という公式を見たことがあると思います。
それではここで、ルカ・パチョーリの72の法則を紹介させてください。

以下がその法則です。
あなたが稼いでいる投資のリターン(例えば、年間6パーセント)を、72で割ってみてください(72/6=12)。
その答えこそが、あなたの資金が2倍になるまでにかかる年数です。
もし私が1000ドル投資して、年間リターンが6パーセントであれば、12年後には1セントも追加投資しなくても2000ドルに増えます。
お金がお金を生み、そのお金がさらなるお金を生み出すため、時間とともに残高は増えていきます。

もしあなたが投資家であれば、72の法則はあなたのお友だちです。
あなたのお金を増やしてくれる法則です。
一方、もしあなたが借金を背負っていれば、72の法則はあなたの敵に変わります。
なけなしのお金をかっさらう法則なのです。

借金はそれほど恐ろしいものなのです。
もし殺してしまわなければ、借金という猛獣はすべてを食い尽くすまで際限なく成長していきます。

猛獣をそこまで成長させてはいけません。
いますぐに殺さなければならないのです。

自分の脳が悪い p82

あなたの脳は複雑な機械です。
神経科学者でさえようやく理解し始めたところです。
彼らが比較的よく理解しているのは、脳の報酬系の一部である中脳辺縁系路です。
渇望や空腹、性欲、快楽などの感覚を引き起こす経路を含んでいます。
お腹が空いたときには食べ物を求め、喉が渇いたときには水を求めるよう促してくれます。
ほしいものを得たときに正の強化を感じるのも、中脳辺縁系のおかげです。

ここでドーパミンの話になります。
「快楽物質」であるドーパミンは中脳辺縁系路を通る代表的な神経伝達物質です。
何か良いことが起こるとドーパミンが放出され、私たちは快楽を感じるのです。
少なくとも、そう信じられてきました。
実際は、もう少し複雑です。
中脳辺縁系路には側坐核と呼ばれるドーパミンを処理する構造も含まれており、側坐核はドーパミンに敏感な神経経路を内包しています。
これこそが真の快楽と幸福への入口なのです。
この違いによって、「より多くのドーパミン=より高い幸福感」という命題が実際には成り立たないのです。

2006年、ドイツの神経学者たちは側坐核に関するある実験を行いました。
彼らがその実験で発見したことが、ヘドニック・トレッドミルの仕組みを解明してくれました。
被験者は円や三角など単純なものを識別するゲームをするよう依頼されます。
もし彼らが勝てば、1ユーロがもらえます。
もし負ければ、何ももらえません。
ゲームを始める前に、彼らには勝つ確率が教えられます。

ゲームに勝ってお金さえもらえれば、被験者はご機嫌になると思っていませんか?
違います。
fMRIを見ると、勝つ確率が高い(100パーセントなど)場合は、いくらゲームに勝っても側坐核のドーパミン受容体の活動は活性化されなかったのです。
逆に、勝つ確率が低いとき(25パーセントなど)にゲームに勝つと、同じドーパミン受容体が急激に活性化されます。
一方、勝つ確率が高い(75パーセントなど)ときにゲームに負けてしまうと、ドーパミン受容体の活動は低下してしまいます。

側坐核は正の刺激だけではなく、その刺激への期待にも反応するのです。
つまり、快楽は脳に放出されたドーパミンの絶対量ではなく、側坐核において期待した量と比較した相対量によって決まるというわけです。
絶対ではなく、相対です。

p84

コカインやアンフェタミンなどの麻薬は、ドーパミンの再取り込みと再吸収を途絶させることによって作用します。
ドーパミンが中脳辺縁系路に大量にあふれ、快楽を司る機構を狂ったように刺激するのです。
ただ、側坐核もかかわってくるため、脳はニューノーマルにリセットされます。
そのためコカインの利用者が次にコカインを吸ったときには、以前ほど強烈なハイにはならないのです。
基準値が調整されたため、同じくらいハイになるためにはもっとコカインを吸引しなければなりません。
そうなると、利用者の行動は二手に分かれます。

麻薬の効果が減退したことで飽きて利用をやめるか、吸引量をもっと増やすかです。
依存症者の間では「最初のハイを追いかける」と表現されます。

ヘドニック・トレッドミルは同じように作用します。
高額の商品にお金を使うたびに、あなたは少しハイになります。
側坐核が前向きな変化を探知しているからです。
ところがそのハンドバッグやテレビ、Xboxを買った後には、側坐核は順化してしまいます。
同じようなものを買うたびに、快楽レベルが徐々に低下するのです。
刺激は同じですが、脳の期待値が上がるからです。

すべての支出が平等ではない p85

通常では、ここでお金を使いすぎている人を注意すべきところですが、残念ながら私の考えは違います。
ここで私が伝える教訓は、あなたが想定しているようなものではありません。

幸福のメカニズムを理解したとき、私はあることに気づきました。
この現象はモノの所有だけに言えることであり、経験には当てはまらないのではないかということです。

子ども時代にほとんど小さな村から出ずに過ごしたからだと思いますが、私はずっと旅行が大好きです。
働いているときは、夫のブライスと年2回の休暇を計画し、欧州かカリブ海で過ごしました。
それぞれ平均で2500ドル(決してはした金ではありません)かかっています。
そして毎回、最高のときを過ごせます。
合間には旅行ガイドを読んだり、『アンソニー世界を喰らう』[米国の旅と食事の番組]を見たりしながら、次の休暇を楽しみにしています。
やがてそのときがくると、私たちは「すごい、ローマにいるよ!」といった感じになります。
その後、旅行中に撮った写真を何度も見て、心温まるあいまいな記憶を交換し合います。
何が言いたいのかというと、旅行は行くたびに価値がある経験だったと思えるということです。
モノにお金を使ったときと同じような幸福度の低下はありません。
だからこそ私たちは旅行を続けているのです。

それと同時に、私は友人や家族の間に共通する奇妙なパターンがあることに気づき始めました(ブログを始めて、読者が分析を求めて経済状況をメールで送ってくれるようになると、その思いはより強くなりました)。

より多くのモノを所有するほど、人はより不幸になり、よりストレスを抱えるということです。
逆に、より少ないモノを所有し、旅行や新たなスキルの習得など経験によりお金を使うほど、人はより幸福になり、より人生に満足するのです。

モノの所有は最初はドーパミンがあふれますが、側坐核が順化するにつれて減っていきます。
そしてあなたは最初のハイを求め続けるようになります。
経験にお金を使った人の方が、より高い幸福度を得られるのです。

p88

アート作品を集めている私の友人のことを考えてみてください。
最初の買い物で彼は大きな幸福感を得ます。
ところが側坐核が順化することによって、次第にその幸福感は薄れていきます。
もし高額の支出によって保険や維持にかかる費用が発生してしまうと、その支出は彼を幸福にはしません。
むしろ逆の効果をもたらします。

経験にお金を使った人のケースでは、全く同じ経験などないため、あなたの幸福感はお金を使うたびに上がります。
それだけではなく、経験を終えても手元には何も残りません。
保管する必要がなく、想定外の費用が派生することもないのです。

なぜ家は最悪の投資なのか p100

家には人の正気を失わせる何かがあります。
私の両親のような合理的な人でさえ、見境なく借金する人に変わるのです。
ただ、私は彼らを責めません。
結局、不動産のマーケティングが非常に巧みなのです。

賃貸はお金をドブに捨てるようなものだ。

持ち家は自分への投資だ。

男にとって家は自分の城だ。

これ以上、宅地は造成されない。

住宅価格は必ず上がる!

私たちは漏れなくこうした宣伝文句を耳にしたことがあると思います。
一見もっともに聞こえるため、家を持つことが成人への通過儀礼だと思ってしまうのです。
ただ、恐怖の家の事件を見てから不動産についていろいろ調べてみると、ある衝撃的な数字がはじき出されました。
家を持つ(買うだけではありません)と、信じられないほどお金がかかるのです(私の計算は米国の数字に基いたものですが、北の国境を越えたカナダでもほぼ同じような数字になります)。

心の準備はよろしいでしょうか?
ではいきます。

米国勢調査局によると、米国の家族は平均しておよそ9年間、同じ家に住み続けます。
また、彼らは自分たちの純資産の大半を不動産の形で保有します。
不動産は必ず価値が上がる、優れた投資だと思っているのです。

その9年間に平均的な米国の家族に何が起きるのか、見ていきましょう。

歴史的に見ると、住宅はインフレ率と同じペースで価格が上がっていく傾向にありますが、この例えでは高い下駄を履かせて、株式市場と同じペース、つまり年間6パーセント上昇すると仮定しましょう。
その場合、50万ドルで買った住宅は9年間で84万4739ドルに上がります。
合計で34万4739ドルもの利益です。
その家族が家を売るころには大きな儲けが期待でき、みんな大喜びです!
素敵な話ですよね?

ところがそうでもないのです。
問題は、家を所有するには物件の購入価格以上の出費が伴うということです。
家を買ったり、売ったり、ローンを借りたり、査定してもらったり、保険をかけたり、毎年維持するのにお金がかかります。
頭では理解しているものの、頭金を調べているときには念頭にありません。
私もいくらで売れるかばかりで頭がいっぱいで、そうした費用を計算に入れていませんでした。

ところが、そうした費用はものすごい金額だということがわかりました。
第一に、家を買う際に手数料がかかります。
買い手は登記所で、その不動産の権原調査をしなければなりません。
平均およそ100ドルかかります。
さらに不動産を登記するのに150ドルの手数料がかかります。
州によっては弁護士にお金を払って代行してもらわなければならず、およそ1000ドルかかります。
これだけで計1250ドルです。
まだ大した金額ではないとお思いでしょう?
『ジュラシック・パーク』のサミュエル・L・ジャクソンの不朽のセリフを使えば、「Hold on to your butts (驚くのはこれからだ)」。
家には保険をかける必要もあります。

保険料は都市や州によって異なりますが、平均費用は住宅価格のおよそ0.5パーセントです。
毎年払えば、9年間で50万ドル×0.5%×9=2万2500ドル。
固定資産税も払わなければなりません。
米国全土の平均税率はおよそ1パーセントです。
50万ドル×1%×9=4万5000ドル。

どんどん増えていませんか?
さらに維持費までかかります。
屋根は崩れ落ち、排水管は破裂し、南北戦争の兵士たちの亡霊が地下室に住みつきます。
不動産業者はあなたの住宅価値の1~3パーセントを維持費として用意しておくよう勧めます。
控えめに見積もっても、50万ドル×1%×9=4万5000ドルです。

9年が経つころには、この平均的な米国の家族は家を売りたくなります。
売却にもお金がかかります。
まず、仲介手数料を払わなければなりません。
通常の手数料は6パーセントです。
購入価格ではなく、最終的な売却価格に基いて計算されます。
84万4739ドルの6パーセントで5万684ドルです。
市役所に納める土地譲渡税も忘れてはなりません。
都市によって、ほぼゼロ(コロラド州では0.01パーセント)から高めの税率(ピッツバーグでは4パーセント)まで幅があります。
国全体の平均はおよそ1.2パーセントです。
84万4739ドルの1.2パーセントは1万137ドルとなります。

さらに、弁護士費用の1000ドルを売るときにも払わなければなりません。

数字が多すぎて頭が混乱しているのは、あなただけではありません。
105ページの表にそれらの費用をまとめています。

この家族は家を所有するためだけになんと、総額で17万5571ドルもの費用がかかったのです。
期待している34万4739ドルのキャピタルゲインは、その51パーセントがこうした費用にもっていかれるのです!

不動産の価格上昇に伴うキャピタルゲインのうち、あなたの手元に残るのはたったの49パーセントです。

もしかしたらあなたはこう思っているのかもしれません。
そんなに悪くないな。
それでも6桁[10万ドル以上]の利益じゃないか。
忘れてもらっては困るのですが、この分析では家族がキャッシュで家を買ったと想定しています。
ご存じのように、そんなことをする人は誰もいません。
住宅ローンとしてお金を借りるのです。
では、その費用を追加してみましょう。
初めての家を買う際の頭金は通常、10パーセントです。
残りの差額を埋めるために、その家族は地元の銀行に行って住宅ローンを借ります。
2018年時点では、住宅ローンの利息は控除の対象とはなりません。
2017年税制改革法で標準控除が引き上げられ、60万ドル未満の住宅ローンでは控除が受けられなくなったからです。

9年後には、この典型的な家族は銀行に利息を16万2033ドルも払っていることになるでしょう!
これは二度と取り戻せないお金です。

それでは、その利息分を費用に加えましょう。

この典型的な家族は自分たちの家を買う喜びのために、33万7604ドルもの代償を払うことになります!
想定されるキャピタルゲインの98パーセントもの金額です!

手元に残るのはほんの少し、たったの2パーセントです。

忘れてはならないのは、この計算が不動産価格が株式市場と同じ6パーセントの率で上昇するという非常に楽観的な想定に基いているということです。
住宅価格の上昇がもっと緩やかであれば、
この家族は資金を減らすことになるのです。
だからこそ純資産のほとんどを不動産の形で保有する典型的な家族は、決してお金を貯められないのです。
不動産価値の上昇を見て資産が増えていると思い込んでいますが、利益の大半がなくなるほど追加費用が積み上がっていることに気づいていないのです。

家は優れた投資になり得ますが、それは不動産業者、政府、保険会社、銀行にとっての話にすぎません。
持ち主を除いた全員にとっての話なのです。

持ち主にとっては、家は最悪の投資資産です。

ここではっきりさせておきますが、私はプライマリー・レジデンス(主な居住用の不動産)についてお話ししています。
つまり、あなたが買って実際に住む家のことです。
誰かに賃貸しする目的で買えば、住居は優れた投資資産になり得ます。
ただ、賃貸用不動産はまた別のトピックであり、本書の範疇を超えているため、ここでは深入りしないことにします。
このトピックに関する本は巷にあふれています。
もし興味があるのであれば1冊手に取ってみてください。

「150の法則」を使って持ち家か賃貸かを決める p106

ここで自ずと、次のような疑問が湧いてきます。
家を借りるのではなく買うことは果たして割に合う行為なのでしょうか?

これまでの計算を見る限り、その答えはノーのように思えるかもしれませんが、誰もが住む場所は必要です(もちろん、住宅ローンだと月1ドルなのに家賃だと100万ドルかかるような極端なケースでは、どんなに追加費用がかかったところで家を買った方が割に合うでしょう)。
賃貸よりも持ち家の方が有利になる分岐点はどこにあるのでしょうか?

不動産業者であれば、毎月の住宅ローンの返済額が家賃に等しい場合、大家にお金を払うよりは家を買って自分自身にお金を払った方がいいと言うでしょう。
ところが、このロジックは私がこれまで説明してきた持ち家に伴う追加費用を都合良く無視しています。
9年という期間で見ると、平均的な米国の家族にとって不動産の売買や所有、保険にかかる費用は通常の住宅ローンの利息に等しいことを私たちはすでに知っています。

また、標準的な30年ローンの場合、最初の9年間は返済額のおよそ5割が利息の支払いにまわることも知っています。
家を買うことが割に合う分岐点を解明するためには、利息の支払いに持ち家に伴う追加費用を加算した上で、その金額を家賃と比較しなければなりません。

ここから150の法則が生まれました。
持ち家に伴う追加費用は9年という期間では住宅ローンの利息にほぼ等しく、利息はその期間の住宅ローンの返済額のおよそ5割を占めるため、毎月の住宅ローンの返済額に150パーセントをかけることになります。
これがあらゆる支出を勘案した、持ち家に伴う毎月の実際の費用です。
もしその150の法則を使ってはじき出した毎月の費用が家賃を上まわれば、賃貸の方が割に合うということになります。
もし下まわれば、家を買う方が割に合うということになります。
この話の教訓は、絶対に家を買ってはいけないということではありません。

家を買う前に、「しっかりと計算しよう」ということなのです。

私たちが家を探しているとき、150の法則ではじき出された数字は家賃として払っている金額(ワンベッドルームのマンションで月850ドル)を大きく上まわりました。
「しっかりと計算した」上で、私は住宅市場に見切りをつけ、資金を貯めておくことにしたのです。

具体的に何にお金を払っているのか? p116

私が投資について学び始めたとき、当初は株の個別銘柄を選ぶことこそが投資だと思っていました。
アップルの株を10ドルのときに買い、足元で取引されているようなものすごく高い価格で売却するのです。
ただ、それだと競馬場で競争馬に賭けるのと同じくらい気持ちが落ち着きません。
私はギャンブルをしませんし、これからもするつもりはありません。

その悪習がいかに人々の人生を狂わせるのかをじかに見てきましたし、父もギャンブルは最もお金のかかる中毒だと教えてくれました。
アルコールだと意識を失う前に飲める量はたかが知れていますが、ギャンブルだとそれまでの蓄えをすべて失いかねません。
個別銘柄選びは私にはしっくりこないやり方でした。

そんなとき、私はインデックス投資を知りました。
ベストセラーとなった『父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え』の著者であり、JLCollinsNH.comの創設者であるJL・コリンズから初めて学んだのです。
その後、私は直接彼と会って感謝を述べる機会にも恵まれました。
投資が割に合う行為だと思えたのは、彼のおかげだったのです。

私たちは毎日、起きて歯を磨き、仕事に向かいます。
その労働(どんな労働でも)は会社に利益をもたらします。
私が会社のためにしている仕事が、ほかの人が会社のためにしている仕事より価値を生み出しているのかどうかなど誰にもわかりません。
わかっていることは利益を稼いでいるということです。
インデックス投資はどの会社の株価が上がるのか下がるのかという当て推量をやめて、株式市場全体の成長に賭けるのです。

それなら、私にも支持できます。
どんなレースでも、私はどの馬が勝つのか負けるのかなど見当もつきません。
だから個々の馬には賭けたことがありません。
ただ、そのカジノに賭けるかと問われれば、もちろん答えはイエスです。
どの馬が勝とうが負けようが、カジノはお金を儲けられるからです。
インデックス投資では、そのカジノに賭けることができるのです。

投資資金はゼロにはならない p118

みなさんにとって、投資に対する最も大きな不安は何でしょうか?
お金がすべてなくなることではないでしょうか?
少なくとも、私にとってはそうでした。
私の資金を運用している男が倒産する株を選ぶことです。
インデックス投資には、その問題がありません。
指数にはすべての株が含まれているので、ゼロになることはあり得ないのです。
個々の企業は倒産するかもしれませんが、すべての企業が同時に倒産しない限り、指数は決してゼロにはならないのです(そうなるのは、おそらく映画『インデペンデンス・デイ』のようにエイリアンが地球を侵略してきたときです。そんなときに誰が401kの残高など気にするでしょうか?)。

インデックス投資は、時価総額に準じて保有銘柄の割合が決まるというすばらしい特徴も備えています。
つまり、もしある会社の価値が上がれば、指数におけるその会社の割合が高まるのです。
その逆も然りです。
株式市場全体の指数の算出方法としては最も直感的なアプローチであり、だからこそ株式市場を代表する500社で構成されるS&P500など、メジャーな指数の多くはそのやり方で算出されているのです。

ある会社がクールな新スマートフォンを発売すれば、その株価は急騰し、指数は自動的にその銘柄の割合を引き上げます。
もしほかの会社が市場に参入し、両社の株価が急落すれば、それらの銘柄の割合は下げられます。
S&P500においては、ある会社の価値が500番から501番に転落すれば、その会社は指数から外されてしまうのです。

JL・コリンズはこれを「自浄」メカニズムと表現しました。
まさにその通りです。
指数を保有するということは、最も大きくて最も健全な会社だけを保有し、悪い会社の株は価値がゼロになる前にポートフォリオから確実に排除できるということです(この算出方法を採用していないメジャーな米国の株価指数はダウ平均だけです。同指数は時価総額ではなく株価でウェイトづけがなされています)。

インデックス投資は手数料が安い p119

アクティブ投信を評価する上で最も大きなフラストレーションの1つは、個別銘柄の選別方法を説明してくれないことです。
「機密のアルゴリズム」や「ハイアルファとローベータ」といった専門用語をやたらと使いたがりますが、ファンドマネジャーは結局、何も教えてくれません。
もし手のうちを見せれば、彼らが職を失うからです。

インデックス投資の魅力はそのシンプルさにあります。
おそらく、あなたでさえインデックスファンドを運用できます。
株式市場のすべての会社をスプレッドシート上で時価総額の順に並べ、上位500社を選びます。
ただそれだけです。
インデックスファンドのできあがりです。
あまりにシンプルなため、あなたがお金を払うファンドマネジャーもいません。

米国では、アクティブ投信は年間1パーセント以上の経費率手数料を取ります。
カナダではもっと高額で、典型的な投資信託の手数料はおよそ2パーセントです。
ところが米国株式市場と連動する典型的なインデックスファンド(NYSE:VTI)の手数料はたったの0.04パーセントです!アクティブ投信の手数料の25分の1です。

運用手数料の姑息な部分は、年末にきちんと請求書を受け取らないことです。
もし請求書が送られてくれば、「待てよ、1000ドルも払わなくちゃいけないのか?何のためにだ!?」とあなたは言うでしょう。
それから銀行に怒りの電話をかけるはずです。

ところが運用手数料は、あなたの資産から毎月こっそりと引かれているのです。
決して請求書を受け取ることはなく、明細書にも記入されていません。
手数料は織り込まれているのです。
毎月少しずつあなたのポケットからお金を盗み、あなたが気づかないことを狙っています。
実際、運用してもらっているファンドと指数を比較しない限り、手数料の影響をその目で見ることはできません。

次ページの上のグラフがS&P500の2013~18年まで5年間の価格の推移です。

では次に、1パーセントの運用手数料を加えてみるとどうなるか見てみましょう。

5年後には、その1パーセントが非常に大きな違いを生みます。
2013年初頭に1万ドルを投資した場合、900ドル、つまり初期投資額のおよそ10パーセントを失うことになるのです!
それだけあれば、コーラが何缶買えるのか想像してみてください!
年月が経つにつれて、マイナスの影響はさらに大きくなります。
現時点では1パーセントなど大したことないように思えるかもしれませんが、25年という標準的なリタイアまでの期間を考えると、雪だるま式に影響が拡大していきます。

1万ドルを25年間投資する場合、1万3500ドルもの違いが生じます!
もはやコーラで表現できる金額ではありません。
初期投資額を上まわる金額なのです!

インデックス投資は大半のアクティブファンドを上まわる p123

そして、これが極めつけとなる最も癪に障る事実です。
高額な手数料を請求しているにもかかわらず、アクティブファンドのパフォーマンスは決して良くないのです。
もしあなたが数千ドルを払って家にペンキを塗ってもらえば、きちんとペンキを塗ってもらえると思うでしょう。
もしあなたが数千ドルを払って車を修理してもらえば、きちんと修理されると思うでしょう。

ところがファンドマネジャーにお金を払っても、彼らがあなたを儲けさせてくれるとは限りません。
ファンドの成績がプラスであろうがマイナスであろうが、彼らはお金をもらえるのです。

少し考えてみてください。
もしあなたの仕事が椅子をつくることで、初日にうっかり火をつけて椅子を何脚か燃やしてしまったとしましょう。
あなたは製品の数を増やすどころか減らすことになります。
あなたは給与をもらうに値しますか?
おそらく値しないでしょう。
仕事を続けるに値しますか?
おそらく値しないでしょう。
ところが多くのファンドマネジャーの場合、良い仕事をしようが悪い仕事をしようがお金をもらえるのです。
それも、あなたの貯めたお金からです。

そして、そんな手数料を払った結果、あなたにはどんな価値がもたらされるのでしょう?
実は大した価値ではないのです。
株式市場を出し抜こうとしているアクティブファンドマネジャー全員を調査すれば、およそ半数は指数をアウトパフォームし、残りの半数がアンダーパフォームするとお思いかもしれません。
ところが、実際はそうはなりません。
理由は、運用手数料のせいです。
アクティブファンドマネジャーはタダ働きしているわけではないのです。
彼らは自分たちがもらう手数料分を埋め合わせるために、指数を1~2ポイント、アウトパフォームしなければなりません。

手数料を差し引いて、どれくらいのアクティブファンドマネジャーが指数をアウトパフォームしているのか知りたいですか?

15パーセントです。

そうです。
手数料を差し引くと、たったの15パーセントのファンドマネジャーしかベンチマークの指数をアウトパフォームしていないのです。
どのファンドマネジャーがその15パーセントに入るのかを知る術はないため、指数をアウトパフォームするアクティブ投信を前もって選ぶことはできません。
特に、ファンドマネジャーがあなたに会ってすらくれなければ。

この事実を知って、私はやるべきことがシンプルであることに気づきました。
インデックス投資をすれば、85パーセントのアクティブファンドをアウトパフォームしてくれるのです。

ウォール街からお金を奪う方法 p125

もし、バンカーが冷や汗をかく姿を見たいのであれば、これを試してみてください。
銀行に行って販売員を呼んでもらい、あなたの預金をインデックスファンドに投資するようお願いするのです。
最高に面白いリアクションを見られるはずです。

なぜ、インデックスファンドがアクティブファンドをアウトパフォームするのか理論武装をした上で、私はそれを実行しました。
きちんと宿題は済ませています。
論文や研究を知り尽くし、統計も熟知しています。
インデックスファンドを売ることで販売員が受け取る販売手数料も調べました。
ゼロです。
すばらしい見世物を私は期待していました。

すると、期待通りの慌てふためきようでした。
その販売員は私がいかに大きな過ちを犯しているのか、次々と話をでっちあげてきました。
私は彼の過ちを証明するために、次々とグラフを机に叩きつけるのです。
最終的に、彼は完全なる嘘に頼ってきました。
この口座ではそのタイプの資産は買えないとハッタリをかましたのです。
私が彼の上司に話をさせてほしいとお願いすると、彼はついに折れました。
私は口座を開設してもらい、無事インデックスファンドに投資できたのです。

つまり、こういうことです。
ウォール街はインデックスファンドが嫌いなのです。
あのまぶしいガラス張りの高層ビルの中は、株式トレーダーであふれています。
数千人のアナリストが長時間働き、すべての上場企業のプレスリリースや決算資料を隅々まで熟読しているのです。
そしてそれらの情報をまとめて、参考資料としてトレーダーに渡します。
その情報に基いて、トレーダーは売買の注文をするのです。
ある企業の株価がその本質的価値を下まわっているという情報であれば、トレーダーは買いを入れます。
株価が本質的価値を上まわっているという情報であれば、トレーダーは売りを入れます。

もちろんこれは複雑なシステムを過度に単純化した説明ですが、ウォール街の仕事とは突き詰めれば、企業の株式の価値がいくらなのかを見極め、株価との乖離を見つけてお金を稼ぐことです。
こうした彼らの仕事の結果が、個別銘柄の株価や株式市場全体の日々の動きとなって現れているのです。
そのため時間が経てば、株価にはその企業の本質的価値が反映されるようになります。

ただ、誰かがこうした仕事の対価を払わなければなりません。
そこでアクティブ投信の出番です。
運用資産額の一定のパーセンテージを手数料として請求するような形にし、投資家に1~2パーセントなど大した金額ではないと錯覚させることで、トレーダーの読みが正しかろうが間違っていようが、ウォール街のファンドマネジャーはお金を稼げるのです。
良い仕事をしているかどうかは関係なく、ファンドマネジャーとその取り巻きのスタッフは(あなたのお金で)給与がもらえるわけです。

インデックス投資は違います。
株式市場全体に賭けることで、トレーダーが個別銘柄を調べて価格をつけようとする努力にうまく便乗できるのです。
ファンドマネジャーなどいないため、彼らや彼らを取り巻く多くのスタッフに手数料を払う必要はありません。

インデックス投資を利用することで、ウォール街からお金を取り戻せるのです。

私はその日、妙な満足感を胸に抱いて銀行を後にしました。
販売員のオフィスで椅子に座ったとき、彼は私をだます気満々でした。
彼が強盗でした。

ところが銀行を後にするときには、私が強盗になっていたのです。

現代ポートフォリオ理論とは? p129

現代ポートフォリオ理論では、資産は2つの指標で表されます。
期待リターンとボラティリティです。
期待リターンとは、ある資産の期待年率リターンのことで、パーセンテージで表されます。
ボラティリティとは、その資産の日々の変動率のことで、標準偏差で表されます。
標準偏差が高いほど、その資産の変動性が高いということです。

2つの資産を見てみましょう。
株式(S&P500とします)と債券です。
これら2つの資産をリスク/リターンを変数としてグラフ上にプロットすると、次ページの上のグラフのようになります。

縦軸が期待リターンで、横軸が標準偏差です。
S&P500が位置する右上の部分は高いリターンと高いボラティリティを示しています。
債券が位置する左下の部分は低いリターンと低いボラティリティを示しています。

それでは、これら2つの資産の日々の価格推移を次ページの下のグラフで見てみましょう。

黒い線がS&P500、明るい線が債券の指数を表しています。
グラフを見ると、2つの点にすぐに気づきます。
第1に、長期的にはS&P500のリターンが債券を圧倒するということです。
株式の高い期待リターンを表しています。
第2に、S&P500の方が債券の指数よりもかなり変動が激しいということです。
株式の高いボラティリティ、つまり標準偏差を表しています。

それでは、これら2つの資産を合わせたポートフォリオをつくるとどうなるのか見てみましょう。
まず株式100/債券0のポートフォリオから始め、株式0/債券100まで少しずつ割合を変化させていきます。

132ページの上のグラフは、現代ポートフォリオ理論において効率的フロンティアと呼ばれる曲線です。
これらのポートフォリオを価格のグラフに移し替えると、132ページの下のグラフのようになります。

これこそが現代ポートフォリオ理論において2番目に重要なポイントです。
つまり、あらゆる資産は期待リターンとボラティリティによって数値化され、それぞれの資産のアロケーションを調整することによって、許容できるボラティリティの範囲をコントロールできるのです。

株式の割合を高めると長期的なリターンは高くなりますが、上下の変動は激しくなります。
債券の割合を高めると長期的なリターンは低くなりますが、日々の変動はより緩やかになります。

ポートフォリオをデザインする p133

現代ポートフォリオ理論を学び、その理論をインデックス投資と結びつけたことが私にとって大きな「アハ」の瞬間でした。
ついにお金持ちの人の考え方がわかったのです。
インデックス投資は私にとっては安全に株式市場に参入し、ポートフォリオがゼロになる事態を避け、長期的な運用パフォーマンスを引き下げる不快な手数料を払わないための手段でもありました。

そして、現代ポートフォリオ理論のおかげで、ブライスと私は自分たちに合った投資ポートフォリオを構築することができるようになったのです。
ついに従うべき青写真を手に入れました。
それは、次のようなステップを踏みます。

ステップ1:株式のアロケーションを選ぶ p134

株式の比率を高めると長期的なリターンは高くなるが変動率が大きくなることを理解した上で、最初にしなければならない大きな決断は株式と債券をそれぞれどのくらいの割合で保有するかです。

年齢と同じ割合の債券を保有するというのが、これまでの投資アドバイスでした。

あなたがまだ若いときには、差し迫ってお金を必要としていないため、ボラティリティはそれほど気にする必要がないという考え方です。

株式の高い期待リターンがもたらす複利効果の方が重要なのです。
ただ、60代、70代になると、あなたは生活のためにお金が必要となります。
そのため、資産の安定性をより気にしなければなりません。
ボラティリティを下げることがより重要になるのです。
また、若いときはあなたのポートフォリオの規模も小さいです。
ポートフォリオが5万ドルのとき、価値が50パーセント下落したところでそれほど大きな痛手ではありません。
ただ、例えば歳をとって資産規模が50万ドルになれば話は違います。
はるかに大きな痛手を被るのです。

いずれも説得力のある議論で、理論的には理解できます。
ただ、問題もあります。
初めて投資について学んでいるとき、あなたはまだ経験が浅く、ナーバスです。
年齢と同じ債券の割合というルールは、人々が20代のときは長期的な視点で運用するため、ポートフォリオの価値が半減してもかまわないという前提に立っています。

ただ、それでは困るという人も中にはいます。

私です。

ブライスはこのルールに従って、株式8割/債券2割を提案してきましたが、私は彼よりもずっと用心深く、株式5割/債券5割を望んでいました。
私たちふたりは落としどころを見つけ、当初のアロケーションの目安を株式6割/債券4割としました。
また、私の不安が次第に解消されれば、債券の割合を徐々に年齢まで引き下げるつもりでした。

株式6割/債券4割というアロケーションは結果的には正しい判断となりましたが、それは全く想定していないことが起きたからです。
そのことについては後で詳しく説明するので、まずは次のステップについてお話しします。

ステップ2:指数を選ぶ p135

株式/債券のアロケーションを決めた後は、指数を選ぶ番です。
あなたが米国人であれば、おそらく「えっ、そりゃS&P500に決まってるだろ」とお答えになるでしょう。
そんなあなたに対して、私はホームカントリーバイアスという概念を紹介しておきたいと思います。

ホームカントリーバイアスとは、投資家が自国市場をオーバーウェイトする傾向のことで、十分な裏づけがなされています。
「米国人は自分たちのことを世界の中心だと考えていると説教したいのか」などと非難される前に断っておきたいのですが、ホームカントリーバイアスに陥るのは米国人だけではありません。

調査によると、世界中の投資家が自国に投資することを好み、株式のおよそ75パーセントを自国に投資するというのです。
当たり前のことですが、私たちはなじみのある市場に投資する傾向があるからです。
米国ではニュースを見るたびにダウ平均やS&P500の日々の動きについて耳にすると思いますが、TSXやFTSE100についてはおそらく聞いたことがないでしょう。

米国は世界最大の経済大国です。
そこに疑問の余地はありません。
そのため、米国人にとって株式の大半は米国株であるべきです。
ただ、それはほかの世界を無視してもいいという意味ではありません(その理由はすぐにご説明します)。

幸いなことに、米国とカナダ以外の先進国をカバーしているMSCI EAFE Indexという指数があります。
MSCIは指数を運営する会社で、EAFEは「Europe(欧州)、Australasia(オーストララシア)、Far East(極東)」の頭文字です。
S&P500のように、北米を除く先進国の時価総額でウェイトづけした指数としてうまく機能しており、1969年につくられた最も古いグローバル株式指数です。

世界中の企業を時価総額で順位づけしたFTSE Global All Cap Indexなどのグローバル企業の指数を見てみると、米国企業がおよそ半分を占めます。
つまり、もしグローバルでバランスを取り、リスクを軽減したいのであれば、米国株が株式ポートフォリオに占める比率は世界の中の米国経済の比率と同じ(米国5割、グローバル5割)にしなければならないのです。

もしあなたが米国以外に住んでいるなら、ホームカントリーバイアスを避けることはより重要になります。
米国は第二次世界大戦以降、誰もが認める世界一の経済大国です。
仮に米国人が自国企業をオーバーウェイトしても、彼らのポートフォリオへのダメージはそれほど大きくありません。
米国はナンバーワンだからです。
悪くても、ナンバーツーになるくらいでしょう。
大した問題ではありません。
ところが経済規模がそれほど大きくない国にとっては、愛国的な投資をしたいという誘惑がいくら強くても、国内株をオーバーウェイトする悪影響は極めて大きくなります。

私は第二の祖国を愛しています。
カナダにはいくらでもコーラがあり、家族を殺めようとする共産党員もゼロです!
本当に最高です!
ただ自分の資産運用の話となると、カナダの人口がおよそ3724万人であるという事実を忘れてはいけません。
カリフォルニアだけでも4000万人います。
カナダ全体の経済規模が米国の1つの州の規模と変わらないのです!
私は現実的にならなければいけません。
全資産をカナダに投資するのは愚かな行為です。
カナダはほかの世界に比べるとほんの小さな国です。
ただ、カナダを完全に無視するのも理に反します。
国内株に投資すると税優遇を受けられるからです。

ステップ3:投資ファンドを選ぶ p139

指数と資産のアロケーションを決めたら、次は具体的なファンドを選ぶ番です。
私たちが投資を始めたときは、投資信託がほぼ唯一の選択肢でしたが、最近ではもっと良い選択肢が登場しました。
上場投資信託、つまりETFです。

ETFは複数の株式や債券に投資するという点で投資信託と似ていますが、投資信託とは違い、オープンな株式市場で取引されています。
それによって、2つの利点が生まれます。

1. 手数料が安い。
投資信託を買う(売る)場合、運用会社で働く誰かがその注文を処理し、買った人に割り当てなければなりません。
ETFの場合は、証券取引所がプロセスを代行してくれるのです。
取引はコンピュータによって自動化されており、手数料はずいぶん安く済みます。

2. 誰でも買うことができる。
通常、もしある銀行の投資信託を買いたい場合、その銀行に口座を開設して投資しなければなりません。
そうなると、銀行はあなたをだましやすくなります。
あらゆる種類の手数料をあなたの口座に請求しようとするでしょう。
ETFは株式を取引できる証券口座であれば、どの口座でも取引できます。

ただ、ETFにも1つだけ欠点があります。
投資信託は通常、取引ごとに手数料はかかりませんが、ETFはかかる場合があります。
証券会社は取引ごとに5~20ドルの売買手数料を課しますが、投資信託はその料金が経費率(MER)に織り込まれるからです。

私たちが投資を始めたときは、給与のたび(2週間に一度)に資金をポートフォリオに移動させていたので、買いが頻繁でした。
結果的に多額の手数料がかかったため、私はインデックス投資を選んだのです。

ただ、最近ではETFの売買手数料が無料の証券口座も多いため、もはや投資信託を利用する理由がほとんどありません。
では、どのETFを買うべきでしょうか?
それは、あなたが選んだ指数と連動する最も安いETFです。
私たちインデックス投資家は、一番腕利きのファンドマネジャーを探しているわけではありません。
すでにどの指数と連動させたいのかを決めているのであれば、最も手数料の安い最良のETFを探しましょう。

参考として、いくつか人気のあるETFを前ページに挙げておきます。

あなたが買える商品の中から、シンプルに最も手数料の安いETFか投資信託を選びましょう。

ステップ4:リバランシング p146

現代ポートフォリオ理論には第4のステップがあります。
比較的単純に聞こえる作業ですが、その裏には多くの細かい理屈が隠されています。
世界金融危機の間に私たちを救ってくれたのがこのステップでした。
それでは詳しく説明します。

現代ポートフォリオ理論では、資産のアロケーションを決めた後、時間とともにどのように変動していくのかをしっかり把握しておくことが必要です。
資産が目安としているアロケーションから大きく逸脱し始めたとき、リバランシングをしなければなりません。
例えば、私の資産のアロケーションが次ページの円グラフのように当初の目安から逸脱してきたとき、現代ポートフォリオ理論に従えば、私はその下の表のような売買をしなければなりません。

このリバランシングという単純な行為はささいなことのように見えるかもしれませんが、結果的に投資家は非常に賢明な措置を講じていることになります。
第1に、リバランシングをすることでお金を失い続ける最悪の事態を回避できます。
株式市場は毎日上げ下げを繰り返しますが、長期的には指数は右肩上がりです。
S&P500の開始当初からの推移は148ページのグラフのようになります。

この期間には、1950年以降に起きた東西冷戦やキューバ危機、9・11などあらゆる災難が含まれています。
指数はそのたびに回復してきたのです。
仮にインデックス投資家が下落相場に巻き込まれても、資金を取り戻すには待てばいいだけです。
直感に反するように聞こえるかもしれません(市場が下落しているとき、本能的には売りたいと思うものです)が、実際はそのまま投資を続けることが常に最も賢明なアプローチなのです。

ブライスは2008年のあの日にそのことを知っていました。
下落時に売って、回復期に利益を逃すことこそが、お金を失い続ける唯一のパターンなのです。
リバランシングを行うことによって、そうした事態を回避できます。
あなたがある資産を売るのは、その資産のアロケーションが目安を上まわるときだけです。
つまり、売るのは上昇した資産だけなのです。
下落した資産を売ることはありません。

2番目に、リバランシングを行うことで、正しい投資行動が強要されます。
すでに述べたように、あなたは上昇した資産だけを売ることができます。
逆を言えば、目安を下まわっている資産だけを買うことが許されるのです。
つまり、下落した資産しか買うことができないということです。

安く買って、高く売る。
株式市場でお金を稼ぐための鉄則です。

最後に、リバランシングを行うことで、投資につきまとう2つの大きな感情に投資行動が左右されなくなります。
強欲と不安です。
感情に左右されないことがどうして重要なのか理解できないのであれば、暴落時に何が起こるのかを見てみましょう。

2008年の金融危機のとき、株式市場は数日ごとに胃をかき混ぜられるような500~700ドルもの下落に見舞われました。
私の資産は半分以上が株式だったため、ポートフォリオ全体が下落することになります。
ところが、アセットアロケーションを引っ張り出してみると、次ページの円グラフのようになっていました。

私のポートフォリオ全体は下落していましたが、債券の保有額は上がっていたのです!
これは金融危機が起きると、お金がリスク資産(株式)から安全資産(債券)へ流れるからです。
不安感をあおる見出しを毎日のように目にし、ポートフォリオがどんどん減っていくのを目の当たりにしながら、私の中のあらゆる本能は資産をすべて売却し、悲鳴を上げながら森の中へ逃げ込み、二度と投資をしないよう訴えていました。

ところが現代ポートフォリオ理論が求めている行為は違いました。
火事になっていない唯一の資産(債券)を売却し、株式市場が下落を続ける中で株を買い増せと言うのです。

当時はわかりませんでしたが、これがまさしく取るべき行動だったのです。

リバランシングの限界 p151

先に進む前に、このアプローチの限界をまず、お話ししておく必要があります。

第1に、現代ポートフォリオ理論はポートフォリオに株式と債券の両方を抱えているときのみ有効なアプローチです。
過度に1つの資産に偏りすぎていると、システムは機能しません。
例えば、私たちが経験したような株式市場の暴落のとき、もし私の資産が株式100パーセントであれば、リバランシングは機能しないのです。
株式市場が下落する中で、補完的な役割を果たして上昇する資産がありません。

つまり、私のアセットアロケーションは変わらず、リバランシングの対象となる資産がないのです。
だからこそ、私はいかに積極的な投資家でも、株式の保有を8割以上にしないように勧めているのです。

2番目に、現代ポートフォリオ理論は、あなたの資産がすべてインデックスファンドである場合に最も有効に機能します。
ポートフォリオに1つでも個別銘柄があれば、トラブルになりかねません。

インデックスファンドがゼロになることはあり得ませんが、個別銘柄がゼロになるのはあり得ることです。
もしそうなったら、リバランシングでは下落している株を買い増すために、ほかのすべての資産を売るよう指示します。

保有している資産がその株だけになり、その会社が倒産するまでその売買を続けることになるのです。
気づけば、あなたの貯蓄はすべてなくなってしまいます。
現代ポートフォリオ理論に従って運用するポートフォリオでは、個別銘柄を保有してはいけません!

暴落を乗り切る p152

ボロボロになるポートフォリオを見つめながら、私のあらゆる本能は損切りして逃げるように訴えていましたが、調査の結果(とブライス)はもっと買い増すように指示していました。

これまで数字とブライスに裏切られたことはありません。
私は指示に従うことにしました。
2週間に一度、ブライスと私は給与を合算し、食費や家賃にいくら必要かを計算した上で、残金をすべて暴落している株式市場に投じました。
ある日、1000ドル分のインデックスファンドを買い増しましたが、すぐにポートフォリオが1000ドル分下落してしまいました。

「私のお金はいったいどこに行ったのよ?」。
私はスクリーンに叫びました。

お金をただ燃やしているように感じましたが、実際は保有しているインデックスファンドの口数は増え続けていました。
パニックの霧の中で、それが見えなくなっていただけなのです。

株式市場が底を打ったのは2009年3月で、そこから回復局面が始まります。
株式市場は天井から底値まで約5割下落しましたが、私たちのポートフォリオのうち株式市場に投資していたのは6割だったため、ポートフォリオの下落は半分の20~25パーセントで済みました。

宴はそこから始まります。
私たちは下落局面の株式市場に買い向かっていたため、そのころには、投資を始めたときよりもかなりインデックファンドを買い増していました。
しかも、非常に割安な価格でした。
結果的に、下落相場よりも上昇相場により積極的に参加していることになったのです。
S&P500が金融危機以前の水準に戻るまでには3年半を要し、2012年4月までかかりました。

一方、私たちのポートフォリオが元の水準に戻るのにかかった期間は、上のグラフのようになります。

世界金融危機が始まってわずか2年後には、新聞がまだ世界経済の混乱を喧伝している中で、私たちは資金を完全に取り戻していたのです。
ウォール街は青息吐息でしたが、私たちは1セントも失うことなく苦境を脱したのです。
インデックス投資と現代ポートフォリオ理論を駆使することで、私たちはプロのヘッジファンドマネジャーの大半を彼らの専門領域で負かしました。

その日、ブライスは青と銀のポンポンを手に持って振りながら、玄関で私を迎えました。
「どうしたの?何で?」と訊くと、彼は損益トントンになっている私たちの証券口座を見せてくれました。

「おっ」。
私は驚いて叫びました。
「うまくいったのね!」

4パーセントルールとは? p166

4パーセントルールは、退職プランと経済理論を研究したトリニティ大学における論文が基になっています。
著者は記録が残っている株式市場と債券市場の価格データを用いて、あるシミュレーションを行いました。
一定額の貯蓄を持っている退職者がポートフォリオから毎年、一定割合の金額を引き出しつつ、残りの資金をそのまま投資しておいた場合、ポートフォリオがどうなるのかを調べたのです。
元本に手をつけることなく老後を全うできる退職者の数と、一文なしになって空のキャットフードの缶に囲まれた路地でひとりぼっちで亡くなる(すいません、そこまで細かい描写はありません)退職者の数を数えたのです。

1975年にリタイアしたアレンという男性を想像してください。
アレンは50万ドルの貯蓄を持っており、毎年の生活費が5万ドルです。
つまり、アレンの引き出し率は10パーセントとなります。
彼は資金を株式市場に投じ、その年の生活費のために毎年1月に資産の一部を売却します。
彼の資金は亡くなるまで持続するでしょうか?
それともいつか底をついてしまうでしょうか?

1982年にリタイアしたベティーもいます。
ベティーの資産は65万ドルで、毎年の生活費は2万6000ドルです。
つまり、彼女の引き出し率は4パーセントです。
彼女も株式市場に資金を投じ、毎年必要な分のお金を引き出します。
彼女の資金は亡くなるまで持続するでしょうか?

何時間も計算機と格闘して(もしくは、貧しい大学院生に作業をやらせて)、研究者たちはその答え、95パーセントの成功率を誇る引き出し率を割り出しました。
つまり、100人の退職者のうち95人が一文なしになることなく、老後を最後まで全うできる引き出し率です。
上のグラフがその100人の退職者を表しています(FIRECalc.comのツールを使いました)。

それぞれの線が100人の退職者のポートフォリオの推移を表しています。
リタイアした時期はそれぞれ異なります。
横軸の太い線は、退職者の貯蓄が底をついたことを表す境界線です。
縦軸はその人のポートフォリオの金額で、毎年ポートフォリオの4パーセント(インフレ調整済み)を引き出します。
横軸の太い線を割り込んだ人が一文なしになった退職者で、割り込まなかった人は貯蓄が最後まで持ちこたえた退職者です。
20人のうち19人(9パーセント)は、亡くなるまでポートフォリオの元本には手をつけませんでした。
実際、ほとんどの退職者はリタイア直後よりもお金が増えていたのです!
研究者たちは4パーセントが合理的な安全引き出し率、SWR(Safe Withdrawal Rate)だと結論づけました。

つまり、ポートフォリオの4パーセントの資金で1年間の生活費を賄えれば、貯蓄が30年以上持続する可能性が95パーセントだということです!
そうなった時点で、あなたは働く必要がなくなるのです。
上司に中指を立て、ボンゴ[ラテン音楽に用いる小型太鼓]のように彼の頭を叩き、栄光の宇宙船に乗って飛び立つことができるのです!

これを読んだとき、私の頭はほぼ爆発しかけました。
早期リタイアして、嫌いな仕事から永遠におさらばするために必要な金額を計算するには、単純に年間の生活費に25をかければいいのです。
それで目標とすべきポートフォリオの規模がわかるのです(年間生活費を4パーセントで割るという計算は、25をかけるという計算と同じです)。

これは最初の出発点としてはすばらしいですが、まだ完璧ではありませんでした。
この研究は30年分の資金が必要となる65歳でリタイアする人を対象になされたものです。
私は30代でリタイアするので、もっと長い時間軸が必要となります。
老後生活が頓挫してしまった不幸な5パーセントのひとりにはなりたくありません。
幸いなことに、「終わりなき再リタイア」[リタイアを何度も繰り返すという意味]と私が名づけたプロセスを利用することで、リタイア後の期間がどんなに長くてもこの法則が応用できることがわかりました。
このプロセスについては第13章で説明します。
また第11章では、5パーセントの失敗の可能性を排除するためにブライスと私が考案した利回りシールドという解決策についてお話しするつもりです。

4パーセントルールの発見は、誇張なしで私の人生を救ってくれました。
私に努力すべき目標を与えてくれたのです。
もはや嫌いな仕事を永遠に続ける必要はありません。
ゴールが視野に入ったのです!
私たちの生活費(年間およそ4万ドル)に25をかけると、目標とするポートフォリオは100万ドルになります。
それだけあれば私は牢獄のようなオフィスの仕切られたデスクから抜け出し、沈み行く夕日に向かって車を走らせることができるのです。

もちろん100万ドルは小さな額ではありません。
私たちは夫婦ともにコンピュータ・エンジニアリングの学位を持っており、ふたり合わせた税引き後年収は働き始めた当初から12万5000ドルでした(もしあなたの年収が遠く及ばなくても気にしないでください。それでも経済的自立には到達できることを第17章で詳しくお話しします)。
私の欠乏マインドが功を奏し、私たちは年収の大半を貯蓄にまわしていましたが、目標とするポートフォリオに到達するにはどれくらいの年数がかかるのでしょうか?

どうしてお金=時間なのか? p169

リタイアまでの期間は、あなたの年収に左右されるわけではありません。
あなたの貯蓄に左右されるのです。
これは直感的にわかると思います。
年収100万ドルでも年に100万ドル使えば、あなたは決してリタイアすることができません。
生活費の100パーセントを仕事に頼っているからです。
蛇口を閉めればそれで終わりです。
全く貯蓄にまわしていないのです。

一方、年収4万ドルでも年に3万ドルしか使わなければ、あなたはゲームで先行できます。
年収だけ立派なミリオネアの貯蓄率はゼロですが、そこそこの収入の人の貯蓄率は25パーセントになるというわけです。

貯蓄率を基準にリタイアまでどれくらいの年数がかかるのかをプロットすると、上のグラフのようになります。

これは私が根拠なくでっち上げたグラフではありません。
4パーセントルールを基につくられたグラフであり、計算の導出過程を補足Aに載せているので、データオタクの人はぜひ参照してみてください。

このグラフでは横軸があなたの貯蓄率となっており、5~100パーセントの幅があります。
縦軸はリタイアまでの年数で、貯蓄金額ゼロから始めたと仮定しています。
それぞれの曲線があなたの退職金ポートフォリオの異なる年間リターンを表しており、1~10パーセントの幅があります。

米国人の平均貯蓄率は5~10パーセントです。
もし投資ポートフォリオのリターンが年間6~7パーセントであれば、リタイアまでの年数は40~50年になることがグラフから見て取れると思います。
リタイアの年齢が「通常の」65歳の人がこれに当たります。

このグラフからは、いくつか興味深い点が読み取れます。

第一に、収入がどこにも見当たりません。
つまり、あなたの年収が5万ドルであろうが50万ドルであろうが関係ないのです。
重要なのはあなたの貯蓄率だけです。

二番目に、曲線の形です。
曲線を見てわかるのは、あなたは貯蓄率を上げる際に2つのことをしているということです。
生活費を下げ(目標とするポートフォリオの規模を縮小します)、投資金額を増やしています。
つまり、より速く走りつつ、ゴールラインを近づけているということです。
これによって式が対数になり、直線ではなく曲線がつくられるのです。
さらに、貯蓄率の小さな変化がリタイアまでの年数に驚くほど大きなインパクトをもたらすことになります。
特に、グラフの左側に顕著に表れています。
貯蓄率を10パーセントから15パーセントに引き上げるだけで、働く年数が5年以上も短くなるのです!

三番目に、投資リターンの違いを表すそれぞれの曲線は左側では間隔が大きくなり、右側で収束するということです。
第8章で、運用手数料のわずかな違いが長期的にはあなたの資産に大きな影響を与えることを説明しました。
まさに同じ効果です。
もし貯蓄率が低く、リタイアまでの期間が長い(40年以上)場合、複利効果によってリターンの違いがリタイアまでの年数に大きな影響を与えます。
つまり、左側の人にとっては、ポートフォリオを適切に運用することが極めて重要になってくるということです。

これらの人々にとっては、ポートフォリオのリターンが6パーセントから4パーセントに下がるだけで、リタイアまでの年数が最長10年遅れる可能性があります。
逆に右側の人(超貯蓄型の人)にとっては、運用パフォーマンスはリタイアまでの期間にそれほど影響を与えません。
お金を貯める能力が極めて高いため、リターンが小さくても影響が相殺されるのです。

これは極めて重要なポイントです。
過去に大きな経済問題を抱えていても、まだ全く貯蓄がない40代、50代の読者でも、これから貯蓄を大幅に増やすことで過去の穴埋めができるのです。
純資産ゼロで始めても、明日から収入の6~7割を貯蓄にまわせば、およそ10年後にはリタイアできます(大きな数字に聞こえるのはわかりますし、実際に大きい数字ですが、第17章で貯蓄を増やす戦略についてお話しします)。
貯蓄率と比較すると投資リターンはそれほど大きな影響がありません。
預金口座にどんどんお金を貯めていけば、あなたはまだ勝つことができるのです。

フリーダムマインド p173

これこそがフリーダムマインドです。
生きるか死ぬかの状況ではなくなったとき、お金を使って自由を買うことができます。
あなたが貯蓄のやり方さえ知っていればですが。
4パーセントルールで計算した目標とするポートフォリオの金額に到達すれば、あなたはもはや働く必要はないのです。
その瞬間、あなたは経済的に自立します。
オフィスの仕切られたデスクの中を二度と見る必要がなくなるのです。

この事実を発見したとき、私はめまいを覚えました。
自分がグラフの左側よりも右側に近いのではないかと思えていたのです。
私は欠乏マインドのおかげで、貯蓄に取りつかれていました。
ブランドもののハンドバッグの衝動買いをした時期もありましたが、普段は服を買うことすらめったにありません。
ぜいたくなものも持っていませんでした。
住宅の頭金を貯めようと、ずっと小さなワンベッドルームの部屋に住み続けていました。

その夜、自分の支出を細かく記録しておくために作成したスプレッドシートをじっくり見直しました。
ブライスはいつもやりすぎだと思っていましたが、このおかげで過去を振り返って貯蓄率を計算することができたのです。
私たちのそれまでの貯蓄率は、52~78パーセントであることがわかりました。
初年度が12万5000ドルだった税引き後年収から、たったの6年で50万ドル貯めたのです。
幸いなことに、そのお金を住宅には投資していませんでした。

つまり私たちは働き始めてから、気づかないうちに9年でリタイアできる道を歩んでいたのです。
計算通りに行けば、リタイアまでたった残り3年です。

その夜ブライスが帰ってきたとき、私は玄関で彼にこう言いました。

「ねぇ、私たち30代でリタイアできるわよ」

4パーセントルールの大きな問題点 p178

4パーセントルールの最も大きな問題点は、必ずしも成功が保証されていないということです。
インフレ率を調整した上で毎年ポートフォリオから4パーセントの資金を引き出しても、95パーセントの確率で30年間ポートフォリオの資金は底をつかないというのが4パーセントルールの正式な定義となっています。

言い換えると、4パーセントルールに従ってリタイアしている人の5パーセントは失敗する、つまりリタイア後のどこかの時点で資金が底をつくということです。

すべてが運に左右されます。
もしあなたが好景気の直前にリタイアすれば、最初に10年間の上昇相場、その後に5年間の下落相場を経験するかもしれません。
最初の10年間でかなりの収益を上げているため、下落相場の間の損失も開き直ることができます。
ところが不景気の直前にリタイアしてしまうと、風景はガラリと変わります。
ポートフォリオが大きく目減りしていくのを横目に見ながら、さらに生活費のためにお金を引き出すのです。

これこそが最悪のシナリオです。
個別銘柄とは違い、インデックスファンドがゼロなることはありません。
そのため下落相場が始まっても、待つこと(もしくは買い増すこと)が正しいことです。
絶対にやってはいけないことが売ることです。
ただリタイアしている場合、どこかの時点で資産を売ってお金に換えなければなりません。
そうするとポートフォリオを大きく毀損してしまい、回復局面に入っても資金を取り戻せません。
あなたは窮地に陥る5パーセントの退職者のひとりになってしまうのです。

この2つのシナリオの唯一の違いは、リターンを得る順序(シークエンス)だけです。
そのためファイナンシャル・プラニングの世界では、シークエンス・オブ・リターン・リスクと呼ばれています。
ある特定の時期の株式市場のパフォーマンスを予測することはできません。
だからと言って、神に祈り、自分が退職者の95パーセントに入ることを願うだけでいいのでしょうか?
その勝率でかまわないという人もいるかもしれませんが、悲観論者である私はそうではありません。

この問題を解決するために、私たちは2つの戦術から成る体系的な方法を編み出しました。

現金クッションと利回りシールドです。

改めて言いますが、早期退職者にとって株式市場の暴落がもたらす最大のリスクは、株価が急落しているときに資産を売却しなければならないことです。
それをすると損失が確定してしまい、次に必ずくる回復局面で資金を取り戻すために必要な手持ち資産の保有数量が少なくなるのです。
理論上は、戦略は極めてシンプルです。
下落しているときに売ってはいけません。
ただこれは言うは易く行うは難しです。
もしあなたがまだ仕事でお金を稼いでいれば問題ありません。
不安をあおる新聞の見出しを無視して、資産を売らずに可能であれば買い増しましょう。
私たちはそのようにして、2008年の株式市場の暴落を資金を失うことなく乗り切りました。
ただ、もしあなたが完全にリタイアしており、食費でさえポートフォリオから引き出しお金に頼っている場合、その選択肢はありません。

こんなときに役に立つのが現金クッションです。
現金クッションとは、金利の高い預金口座に貯めておく現金のことです。
下落相場になったときに、この現金を緊急時用の資金として活用すれば、生活費のために資産を売却する必要がなくなるのです。
準備金のようなものです。

どれくらいの現金クッションが必要なのかを把握するために、私は過去に株式市場が暴落から立ち直るのにどれくらいの年数がかかったのかをさかのぼって調べました。
年数の中央値は2年であることがわかりました。
世界恐慌(史上最悪のケース)のときには、配当を考慮に入れておよそ5年かかりました。
2008年の金融危機のときには2年かかりました。
つまり、5年分の現金クッションさえあれば、どんな嵐も乗り越えられるということです。

年間の生活費が4万ドルの人が早期リタイアしようとしている場合、単純に4万ドル×5=20万ドルの現金クッションが必要だと思うかもしれません。
ただ、これは用意するにはかなり大きな金額です。

朗報です。
実際に必要な金額はそれよりもずいぶん少なくて済みます。
もう1つの戦術、利回りシールドがあるからです。

どのようなETFにも分配金(保有しているETF1単位につき支払われるお金)があります。
通常は毎月、もしくは四半期に一度支払われます。
債券ETFの場合、これは組み入れられている債券が支払う毎月の利子です。
株式ETFの場合、会社が株主に支払う配当が原資になっています。

運用会社がそれぞれのETFに対して1口当たりの分配金として支払います。
例えば、毎月1口当たり0.03ドルが支払われ、18ドルで取引されているETFの場合、分配金利回りは次のような計算になります。

0.03ドル×12/18ドル=2%

それぞれのETFにこうした利回りがあり、あなたのポートフォリオは複数のETFで構成されているため、あなたのポートフォリオにも利回りがあります。
ETFが毎月分配金を支払うごとに、利回りはどんどん貯まっていきます。
証券口座で分配金を自動的に再投資する設定をしていない限り、この利回りは余剰資金となります。

株式市場が上昇していても下落していても、分配金は支払われます。
そのお金を手にするには、単に当座預金口座に移してください。
株式市場の動きに左右されるポートフォリオの資産価値とは違い、分配金はETFを買った時点で必ず支払われるものです。
だからこそ貴重な収益なのです。
ポートフォリオ全体の価値が下がっても、分配金利回りはほとんど変わりません(補足Cを参照してください)。
つまり、100万ドルのポートフォリオに対する利回りが3.5パーセント、もしくは3万5000ドルであれば、下落相場でポートフォリオの価値が90万ドルに下がっても、利回りは変わらず3万5000ドルのままです。

リタイア後に資金が底をつく5パーセントのひとりになるリスクが最も高いのは、下落相場で資産を売却してしまったときであることは覚えているでしょう。
ただ、下落相場のときに余剰資金を活用できれば、資産を売却する必要はありません。
分配金については口座から引き出して使っても安全です。

ポートフォリオの分配金利回り(配当+利子)を計算に入れると、あなたに必要な現金クッションは次のような計算になります。

現金クッション=(年間支出年間利回り)×年数

ブライスと私がリタイアに向けて用意したポートフォリオを思い出してください(142ページ)。

それぞれのETFの分配金利回りは、次ページの表のようになります。

ポートフォリオ全体で見ると、分配金利回りは2.5パーセントです。
つまり、年間の生活費が4万ドルでポートフォリオの規模が100万ドル(4パーセントルールに基いて計算)の退職者の場合、必要な現金クッションは次のような計算になります。

{4万ドル-(100万ドル×2.5%)}×5=7万5000ドル

もともと必要だと考えていた20万ドルよりはずいぶん少ない金額です。
ただ、7万5000ドルでもFI(経済的自立)に必要な資金にさらに上乗せして貯めるには、ずいぶん大きな金額です。
私はもっと減らす方法がないか検討してみました。

その結果、利回りシールドという戦術にたどり着きました。
利回りシールドとは、一時的にポートフォリオの資産の中心を高利回り資産に置き換えるという戦術です。

「一時的に」というキーワードに注目してください。
長期的には、あなたの投資ポートフォリオは低コストのインデックスファンドを中心に構成するべきです。
どうしてかと言うと、それが、トリニティ大学の研究がなされた前提条件だからです。
その前提条件からあまりに離れすぎると、4パーセントルール自体が破綻してしまいます。
ただ、リタイア直後の最初の5年間だけ利回りシールドをつくることで、4パーセントルールにつきまとう最も大きな問題を解決できるのです。

最初に、すでにあなたのポートフォリオに入っている資産と類似した高利回り資産を選んでください。
それからポートフォリオの利回りを上げるために、戦略的にこれまでの資産を高利回り資産に置き換えていくのです。
ポートフォリオのボラティリティも上がりますが、このプロセスでは高いボラティリティと引き換えに高い利回りを手に入れているのです。

資金が途中で底をつく5パーセントの人が失敗した原因は、リタイア直後の最初の5年にあります。
その危険性の高い期間に下落相場がきても、資産を売却する必要がないように備えておくことが大切なのです。
5年間だけ利回りシールドをつくって身を守りましょう。
最初の5年を無事に乗り切れば、亡くなるまで資金が持続するという自信が持てるはずです。

では、どの高利回り資産を使って利回りシールドをつくればいいのでしょうか?

優先株 p185

まずは、優先株です。
優先株は株式と債券をかけ合わせたような金融資産です。
普通株と同じように株式市場で取引されていますが、普通株とは違って議決権がありません。
会社を所有する目的の資産ではないのです。
実際、企業側から見るとほとんど債券と同じような位置づけで、資金調達の手段として優先株を発行します。
ただ債券と比べると、支払いの優先順位が低いです。
会社の手元に十分な現金がないとき、まず最初に未払いになるのが普通株の配当で、続いて優先株、最後に債券という順番になります。
つまり、企業の資金繰りが厳しいとき、優先株の保有者は債券保有者よりは資金の分配が後まわしにされますが、普通株の保有者よりは優先されます。

そのような欠点を補う形で、優先株の利回りはずいぶん設定されています。
株式インデックスの利回りは2パーセントですが、優先株の利回りは4~6パーセントにもなります。
ボラティリティは債券よりも高いですが、株式よりは低いです。
つまり、ボラティリティを極端に上げることなく利回りを上げられるのです。

私は個別銘柄は買わない方がいいとアドバイスしましたが、優先株にも同じことが言えます。
優先株は個別で保有するとなると複雑です。
同じ会社から発行されたものでもいろいろな種類があるからです。
累積型[ある期に支払われなかった配当の未払い分が次期以降に支払われる可能性があるもの]と非累積型、普通株に転換できるものとできないもの、固定金利と変動金利のものがあります。
ここですべての用語を定義するのは本書の範疇を超えていますが、私は株式と同様に優先株もインデックスETFの形で保有することを優先株をお勧めします。
そうすれば、個々の銘柄の詳細について頭を悩ませることなく市場全体を保有できるからです。

参考として、優先株インデックスに投資しているETFをいくつか挙げておきます。
私が利回りシールドをつくるときに買ったファンドはXPFです。
ほかにも米国の類似商品を買いました。
実際に購入する前に、有資格のファイナンシャル・アドバイザーに相談しましょう。

不動産投資信託(REIT) p187

私の不動産嫌いを知っている読者の方は、私が不動産を所有していると知って驚かれたかもしれません。
ただ、ほかの人とは所有の仕方が違います。

不動産投資信託、つまりREITとは、不動産を所有・運用している投資法人です。
ただ、高値で売り抜けることを目的に所有しているわけではありません。
オフィスビル、ショッピングモール、老人ホーム、アパートといった投資用不動産を所有・運用しているのです。
REITはそれらの不動産を買い、テナントを探し、日々の管理を任せる人を雇います。
毎月家賃を集め、利益を投資主に還元します。

REITは投資家に分配金をもたらすためにつくられたので、利回りは株式市場よりも高いです。
さらに、REITの保有には特有の楽しみもあります。
REITは米国とカナダにある多くの商業ビルを所有しているため、個々の不動産を調べれば、あなたの好きなショッピングモールや映画館、もしくはあなたが働いているビルも見つかるかもしれません。
REITを保有することで、それらのビルの一部の所有者になれるのです!

優先株と同じで、インデックスの形でREITを保有することも可能です。
つまり、個々の商品を選別するのではなく、セクター全体を保有できるのです。
参考として、いくつかREITのETFを挙げておきます。

ちなみに、私が保有していたファンドはXREです。

社債 p188

名前が示唆するように、社債は国債と似ていますが、発行主体が政府ではなく企業です。
優先株と同様に資金調達目的で発行されますが、債務の序列としては債券は支払いが最も優先されます。
企業の手元に現金があるときは、債券保有者に最初に利子が支払われます。
次が優先株の配当で、普通株への配当はその後です。
そのため、社債は優先株よりは安全で、国債よりはリスクがあると考えられています。
結局、企業の方が政府よりも資金不足に陥りやすいからです。
社債は国債よりもボラティリティが高いため、利回りも高くなり、およそ1~2パーセントです。

では、社債と高利回り債の区別について説明します。
ムーディーズやスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)などの格づけ機関は企業の財務健全性に基いて社債を評価し、格づけを与えます。
高校の成績のように、Aはすばらしく、Bはまあまあで、Cはひどいです。
AAはAよりもすばらしく、AAAが最高の格づけ(基本的にリスクゼロ)となります。
「社債」という言葉には「投資適格」、つまり(S&Pの格づけを使えば)BBB-、もしくはそれよりも高い格づけの債券であることが示唆されています。
それ以下の格づけの債券が「高利回り」債、つまりちょっと汚い言葉を使うと「ジャンク」債と見なされます。

私はジャンク債を保有していましたが、非常にボラティリティが大きかったです。
利回りは国債を大きく上まわりますが、価格が激しく変動します。
空運や石油、鉱業、テクノロジーなどの業種の会社が含まれており、利回りは高くても株式のように価格が変動するのです。
私は最終的にはあまりお勧めしません。
投資適格の資産だけに投資しましょう。

この市場に連動するETFをいくつか挙げておきます。

ちなみに、私はXCBを保有していました。

高配当株 p190

最後に高配当株です。
高配当株とは平均よりも配当の高い普通株のことです。
通常、事業に成功して広く周知されていますが、成長の余地が限られる飽和市場で営業活動をする大企業です。
ジョンソン・エンド・ジョンソンやコカ・コーラを思い浮かべるといいと思います。

テクノロジー系のベンチャー企業など若くて成長率の高い企業であれば通常、稼いだ利益を事業の拡大に再投資したり、新しく人を雇ったり、工場を増設したりするのに使います。
ところがコカ・コーラなどの成熟企業の場合、稼いだ利益の使い道がないという問題に直面します。
リスクが高かったり、投機的な事業に投資するよりは、稼いだお金を株主に還元する傾向にあるのです。

その後あなたもその株主のひとりになりたくありませんか?

この市場に連動するETFをいくつか挙げておきます。

ちなみに、私はXDVを保有していました。

すべてまとめると p191

これまでに挙げた資産が利回りシールドの4本柱です。
それでは、ここでまとめに入りましょう。
これら4本柱をあなたがすでに保有している資産と突き合わせ、似ている資産同士を置き換えていきましょう。
確かにポートフォリオのボラティリティは大きくなりますが、ボラティリティに慣れる練習にもなります。
ポートフォリオの価値が大きく変動しても、余剰現金の形で安定的な利回りを確保できるので、生活費のために資産を売却する必要はありません。
これは私の早期リタイアのプランに大きな影響を与えました。

この作業をする理由は、退職プランに失敗する5パーセントのひとりになるリスクを極力抑えることにあります。
資産の一部を高利回り資産に置き換えることで、利回りシールドを強化するのです。
その結果、現金クッションとして必要な資金は抑えられます。
以下の公式を覚えてください。

現金クッション=(年間支出-年間利回り)×年数

184ページの表が私の当初のポートフォリオです。

利回りシールドを強化したことで、私のポートフォリオは上の表のようになりました。

表の利回りは私が利回りシールドを強化した時点の数字であり、あなたのときには変わっている可能性もあります。

新しいポートフォリオの利回りを見てください。
何と3.5パーセントです!
その結果、私の現金クッションの規模がどうなったのか見ていきましょう。

現金クッション=(4万ドル-3万5000ドル)×5=2万5000ドル

一時的に資産を置き換えることで、私の現金クッションの額は20万ドルからたったの2万5000ドルに減りました。
利回りシールドを強化したポートフォリオの詳細と2008年のパフォーマンスについては、補足Cを参照してください。

ブライスと私は、ふたりの生活費を4万ドルと見積もりました。
つまり、FIのために必要な金額は100万ドルとなります。

100万ドルという数字を聞くと、途方もない金額のように聞こえるかもしれません。
私にはそう聞こえました。
ところが私はPOTスコアの高い仕事を選び、欠乏マインドのおかげで支出の最適化ができ、さらに(ここが最も重要です)不当に高い持ち家にも手を出していなかったため、9年間働いただけでその金額に到達できそうでした。

ある日、ブライスが私の職場に電話をかけてきました。
特別な日のために、おしゃれなレストランの予約を入れておいたと言うのです。
特別な日?
私には心当たりがありませんでした。
私の誕生日ではありません。
私たちの記念日でもありません。
ただ、私のお気に入りのレストランだったので、私は調子を合わせました。

レストランでの食事を終えた後、ブライスから何枚かの紙を手渡されました。
私たちの銀行の明細書です。
1枚目の紙には付箋が貼られていました。
「TOTAL(総額)」という文字がマーカーペンで走り書きされ、ある数字の上に貼られています。

私はその数字を見てぽかんと口を開けた後、彼を見上げました。

「ホントに?」

ブライスはにっこり笑い、シャンペンの入ったグラスを持ち上げました。
「おめでとう、ミリオネアの仲間入りだ」

インフレーションはリタイア計画の悩みの種 p230

インフレは複雑怪奇な現象です。
その仕組みのテクニカルな側面については、数え切れないほどの本が書かれています。
ただ読者を退屈させたくはないので、その部分についてはここでは割愛させていただきます。
とりあえず、インフレとはあなたの生活費が毎年どれくらい上がるのかを表す指標だと思っておいてください。
スターバックスに立ち寄ってコーヒー1杯の価格が上がっている(1年前より0.25ドル高い)ことに愚痴を言うときだったり、祖父が見せてくれた昔の百貨店のカタログに掲載されていた芝刈り機の価格が5ドルであるときなど、日常でインフレに気づく場面は多々あります。

インフレはリタイアを計画している人にとっては悩みの種で、それはどこの国でも同じです。
若いときは株式に重点的に投資し、歳を取るにつれて徐々にアロケーションを債券などのフィクスト・インカムに移行するというのがリタイアメント・プラニングのこれまでの定説でした。
すなわち、65歳になるとポートフォリオの大半が債券となるため、フィクスト・インカムのリターンが生活費の上昇に追いつかず、リタイア後の急激なインフレが大きなリスクだったのです。

私の投資戦略では、こうしたリスクとは無縁になります。
私の場合、フィクスト・インカムへの移行ではなく、利回りシールド、現金クッション、バケツ・アンド・バックアップの組み合わせによって収入の安定を図ります。
私のポートフォリオはフィクスト・インカム中心のアロケーションには移行しないのです。
リタイア後も一貫して株式に投資し続けるため、自然とインフレに対するヘッジができています。

つまりこういうことです。
企業は消費者に財を売ります。
インフレによって消費者が企業の財に支払う金額が上がれば(あの1杯のコーヒーのように)、企業の稼ぎも増えることになります。
ほかの条件がすべて同じなら、インフレは企業の利益に反映され、それが株価の上昇に反映され、最後にはあなたのポートフォリオに反映されることになります。
株式に投資すれば、ポートフォリオの価値はインフレと足並みをそろえて上昇していくのです。

私がインフレについて気づいたもう1つ興味深いことがあります。
それは住む場所によって変わるということです。
米国で公表されるインフレ率は、米国だけに当てはまる事象です。
ポルトガルや南アフリカ、香港、日本で起きているインフレとは完全に無関係です。
インフレは州ごとで異なることもあります。
中央銀行が発表するインフレ率は国内の平均であり、インフレ率が平均を上まわる州もあれば、下まわる州もあります。
サンフランシスコで生活費が急騰しているからといって、デモイン[アイオワ州の都市]で同じことが起きているとは限りません。

こんな単純な発見が、リタイアメント・プラニングに大きな影響を与えます。
リタイアした後は職場への通勤が必要なくなるため、自由に都市を移動できるようになります。
インフレ自体はコントロールできない要因で起こりますが、あなたがそれに対して受け身である必要はなくなるのです。
あなたはインフレをコントロールできます。
いま住んでいる都市では生活費の上昇ペースが速すぎる?
次の年には東欧を旅してみてはどうですか?
もしそれが極端というのであれば、インフレ率があなたの都市の数分の1に収まっている都市や州に引っ越せばいいのです。

これこそが地理的アービトラージのもう1つの顔で、あなたの経済状況に大きな影響を与えます。
4パーセントルールとは、インフレを調整した上でポートフォリオの4パーセントを引き出すという意味です。
あなたがインフレ率に合わせて支出額を増やすことを想定しています。
もし、インフレに合わせて引き出す額を増やさなければ、あなたの成功の確率は大いに高まります。
実際、旅行を始めて以降、私たちの個人的なインフレ率は毎年横ばいかややマイナスです。
私たちはコツをつかみ、リタイア後は毎年前年よりも支出額を減らしてきました。

利回りシールドと現金クッションを活用して下落相場のときに資産を売却しないようにし、さらにインフレをコントロールするために各地を旅行することによって、私たちのリタイア生活の健全性は3年後には95パーセントから何と100パーセントまで上昇したのです。

保険について p233

保険は人々が恐れているもう1つのものです。
私もその理由はよくわかります。
保険業自体が人々の恐怖を餌に成立しており、買い手は最も悲観的なセールストークを聞かされます。
「この保険に入っておいた方がいいですよ。いつあなたの身に不運な出来事が起こるかわかったもんじゃありません。この保険に入っていなければ、大変なことになりますよ」

こんな悲観的な考え方であれば、パーティーの席でも落ち着いて楽しめないはずです。

このセクションでは、3つの最も一般的な保険、住宅所有者保険、自動車保険、生命保険についてお話しします。

住宅所有者保険 p234

家を持っていれば、住宅所有者保険は必須です。
家は多くの人にとって純資産の最も大きな部分を占めるもので、漏電による火災、洪水、竜巻が一度でも起きれば、あなたの富の大部分が失われます。
家に保険をかけないのは、宇宙にお尻を叩いてとお願いしているようなものです。

第7章でお話ししたように、住宅所有者保険は毎年平均して家の価値の0.5パーセントの保険料がかかります。
毎年保険の更新のたびに、最もお得な契約条件を探すよう心がけましょう。
住宅所有者保険のコストから逃れる方法は2つしかありません。
保険をかけない(お勧めしません)か、そもそも高額の家を持たずに賃貸で済ませること(こちらをお勧めします)です。

賃貸にすれば、保険は問題ではなくなります。

自動車保険 p234

自動車保険はより強制的なものです。
保険に入らずに車を運転することは違法だからです。
つまり、逃れることができないのです。
ただ、コストを下げる方法はあります。
車に盗難防止装置を施せば、保険料は下がります。
すでに減価償却が進んでいる古い車については、総合補償にしないという手もあります。
あなたの会社や同窓会の知り合いを通じて保険に入るというのも良いアイデアです。
ただ、コストを抑える最良の方法はそもそも車を所有しないことです。
改めて言いますが、旅行をすればいいだけの話です。
海外を飛行機で飛びまわっていれば、車など必要ありません。

ただ、そうは言っても車が生活に不可欠な場合もあります。
公共交通機関が整備されていない小さな町だと特にそうです。
ただ朗報と言えるのが、小さな町は住居費も安い傾向にあるということです。
私に相談のメールをくれた人には、次のようにアドバイスしています。
持ち家と自動車の負担が両方大きくてお金に苦労しているのであれば、それはそもそも生活の仕方を間違っています。
会社から離れた場所にもっと安い家を買うか、自家用車をあきらめて、会社の近くに住むための住居費にお金をかけましょう。
両方を求めてはいけません!

カーシェアリングのサービスを使うという解決策もあります。
特定の時間に車を予約しておき、家の近くのあらかじめ指定された場所に行き、車の鍵をもらって運転するのです!
自動車を買い、メンテナンスし、ガソリンを入れ、保険をかける費用を負担することなく、車で買った物を運ぶことができます。
私たちが働いているときに使っていたサービスは月に平均40ドルしかかからず、年間8000ドルの節約につながりました。
北米ではZipcarが最も有力なカーシェアリングサービスですが、いたるところに同様のサービスが立ち上がっています。

生命保険 p235

生命保険もよくわかっていない人が多い支出です。
非難するつもりはありません。
定期生命保険、終身生命保険、ユニバーサル保険(貯蓄型生命保険)など、あまりに多くの契約の種類と複雑な但し書きがあり、誰もが崖から飛び降りたくなります(まだ生命保険に入っていないので、それをやってしまうと家族は路頭に迷います)。
自分のニーズを把握しようとして、保険の販売員の話を聞いては絶対にいけません。
一番やってはいけないことです。
私が投資口座について銀行の窓口で質問したときと同じです。
「どの生命保険を契約すべきでしょうか?」と質問すれば、「ここで売っている一番高い生命保険です」という答えが返ってきます。

ただ、生命保険に入らないのは無責任なように思えます。
特に子どもがいたり、一家の大黒柱だった場合はなおさらです。
結局、多くの人はグズグズと決断を先延ばしにした上で、大きくため息をつきながら近くの銀行の支店まで重い足を引きずり、月に数百ドルもする理解できない保険を契約する羽目になります。
私の読者も概ねこのパターンです。

彼らがあなたにひた隠しにしている保険業界の大きな秘密をお教えします。
早期リタイアすれば、生命保険は必要ないのです。

生命保険に入る目的は、あなたがアイスクリームのトラックにひかれたときに家族が路頭に迷うことがないよう、あなたなしでも生きていける十分なお金を給付してもらうことです。
つまり、何か不測の事態が起きたときに家族の生活費をカバーするのが目的です。

もうおわかりですよね?
経済的自立に到達しているということは、十分な資産を築いており、適切に運用することで働く必要がないほど十分なパッシブインカム[不労所得]を稼いでいるということです。
まさに生命保険と同じ役割を果たしています。
家族の大黒柱はポートフォリオであり、あなたがいようがいまいが関係ありません。

このような見方をすれば、生命保険業界全体をシンプルな計算問題に落とし込めます。

4パーセントルールを使えば、リタイアにいくら必要かがわかります。
さらに、いまいくら持っているのかを計算してください。

いくら必要か-いくら持っているか=あなたに必要な保険金の額

例えば、私の現在の生活費を4万ドルとします。
4パーセントルールに従えば、私はリタイアするために4万ドル×25=100万ドル必要となります。
私は現在10万ドル持っています。
つまり、私に必要な保険金は100万ドル-10万ドル=90万ドルという計算になります。

この金額があなたが不測の事態で亡くなったときに、あなたの家族が経済的に自立するために必要な金額ということです。
生命保険が必要なくなる将来の時点が計算でわかっているため、生命保険の契約の大半は考慮の対象外になります。

あなたにとって唯一必要なのは、定期生命保険(特定の期間、例えば5年間契約するもの)です。
5年契約の生命保険に入れば、その保険はちょうど5年間有効です。
その後は更新するか、新たな保険に加入しなければなりません。
いくら保険でカバーしなければならないのかは、前述の公式で計算できます。
定期生命保険は最も安いタイプの生命保険です。
保険会社は契約期間内にあなたが亡くなる確率を計算していますが、その確率が低いからです。
ほかのタイプの保険は亡くなるまでカバーする設計であるため、契約期間内のどこかの時点であなたが亡くなることを想定しています。

つまり、終身生命保険やユニバーサル保険であれば、保険会社は最終的には保険金を支払うことになります。
一方、定期生命保険であればおそらく支払いません。
だから安いのです。
本書を書いている時点では、90万ドルの定期生命保険の保険料は月15~30ドルです。
月数百ドルかかるほかのタイプの生命保険と比べてみてください。

また、もしあなたが経済的自立にできるだけ早く到達したいのであれば、できるだけ短い期間の定期生命保険に加入し、毎年更新した方が合理的です。
歳を取るほど生命保険の保険料は上がる一方、経済的自立の目標額に近づくにつれて、保険でカバーする必要のある金額は少なくなります。
90万ドルだったのが80万ドルになり、さらに70万ドルと減っていくのです。

必要な保険金の額が少なくなるため、最終的に経済的自立に到達してリタイアするまで、すでに割安な保険料はさらに安くなっていきます。
リタイアしてしまえば保険業界とは永遠におさらばできます。
強欲な彼らと二度とかかわる必要がなくなるのです。

p271

経済的に自立するということは、必ずしも嫌いな仕事を辞めて世界を旅するということではありません。
選択肢を持つということです。
もし仕事を愛しているなら、ぜひその仕事を続けてください。
FIREとは「Financial Independence Retire Early (経済的自立、早期リタイア)」の略です。
ただ、「RE」の部分はあなた次第です。
好きな仕事を失ったり、うまくいかなかったときにあなたを守ってくれる鎧をつくるのは「FI」の部分だけです。

経済的に自立するということは、好きなように人生をデザインするということです。
4パーセント取り崩すだけで1年間の生活費を賄えるほど大きなポートフォリオを構築すれば、仕事は必須ではなく選択肢になります。
私たちのように完全にリタイアして世界を旅したいのであれば、そうしてください。
もし自分の仕事が好きなら、より柔軟なスケジュールで働き続けてください。
もし子どもや家族、ペットともっと長い時間を過ごしたければ、そうすることもできます。

サイドFIREという方法 p277

経済的自立とは身にまとう鎧です。
一文なしにならないようあなたの身を守り、安心して夢を追いかけることができるようにしてくれるのです。
ただ、その鎧をあなたの全身にまとう必要はありません。
100パーセント経済的に自立していなくても、役に立つのです。
例えば、子どものころから作家になる夢があっても作家の収入では生活できない場合(それが普通です)、フリーランスライターとして年間2万ドル稼いでいれば、必要なポートフォリオの金額を2万ドル×25=50万ドル分減らすことができます。

私たちがサイドFIREと呼ぶやり方です。
「リタイア」後もサイドハッスル(副業)を持てば、100パーセント経済的に自立しなくてもFIの果実を享受できます。
サイドハッスルの力を借りて夢を追いつつ、ポートフォリオからの収入によって生活費を助けてもらうやり方です。
前述の例えで言うと、ポートフォリオからの収入が4万ドルの生活費の半分をカバーし、サイドハッスルからの収入が残りの半分をカバーするということです。

フルタイムで働いている間にサイドハッスルを始めることで、実質的には一石三鳥になります。
収入を増やして貯蓄率を上げ、新たなスキルを習得し、さらに9時5時の仕事とおさらばするのに必要なポートフォリオの金額を少なくできるのです。

税引き前で年間6万2175ドルの家計所得を稼ぐ夫婦に戻って話をすると、彼らがもしフルタイムの仕事を辞めた後もパートタイムの仕事やサイドハッスルで年間2万ドル稼げば、ポートフォリオからのパッシブインカムとして必要なのは4万ドル-2万ドル=2万ドルだけになります。
4パーセントルールで計算すれば、サイドFIREに到達するために必要なのは2万ドル×25=500万ドルになるのです。

税引き後収入の24パーセントを貯蓄にまわすと、計算は275ページの表のようになります。

サイドハッスルで年間2万ドル稼げば、その夫婦は経済的自立に到達するまでの期間を9年間短縮できます。
私が無事に小説家になったときでさえ、小説からの収入では生活するには足りなかったと言ったことを覚えていますか?

年間5000~1万ドルと聞くとはした金のように聞こえますが、サイドFIREに到達し、それが補足的な収入であればそこそこの金額です。
5000ドル分のパッシブインカムが必要なくなるのです。
4パーセントルールに従えば、フルタイムの仕事と別れを告げるために必要なポートフォリオの金額が12万5000ドル分も少なくなります。
それだけのお金を貯めるのにどれほどの年月が必要か考えてみてください。

サイドハッスルは、それ単独では経済的自立を実現できないものの、パッシブインカムを生み出すポートフォリオとの合わせ技で、人生を一変させるのです。
もし、あなたのサイドハッスルがあなたの情熱を傾けられるものであれば、三重においしいです。
必要なポートフォリオの金額を少なくし、情熱を追いかけることができ、さらに副収入を生み出します。
自由になるためには100万ドルも必要ありません。
リタイア後に稼ぐ収入を十分に補えるだけのポートフォリオが必要なのです。

サイドハッスルでどのようにお金を稼げばいいのかについては、グラント・サバティエの『FIRE最速で経済的自立を実現する方法』やクリス・ギレボーの『1万円起業』をぜひお読みください。

パーシャルFI p280

サイドハッスルに興味がない?
仕事は楽しく、もう少し柔軟に働きたいだけ?
家族や友人と一緒に過ごす時間がもっとほしいだけ?
そんなあなたにはパーシャルFIがあります!
完全に経済的に自立しようとした場合、ポートフォリオがもたらすパッシブインカムだけで生活費をすべて賄わなければなりません。

一方、働く時間をパートタイムに抑えたり、ミニリタイアやサバティカル[使途に制限がない長期休暇]を選択できるコントラクター[個人請負業者]になれば、パーシャルFIによってそのような柔軟な働き方や自由が可能となります。
看護師など資格を維持するために一定の労働時間が義務づけられている仕事をしている人には、特にこうした道が合っています。

あなたが、家計所得の中央値と同じくらい稼いでいるとします。
パートタイムになったり6カ月だけの雇用契約にすれば、税引き前の収入は年間およそ3万1000ドルに下がるでしょう。

税率区分も下がるため、手取り収入は2万8000ドルほどになります。
年間の生活費を4万ドルとすると、収入と支出の差額を埋めるのに必要なのはたったの1万2000ドルだけです。
それだけのパッシブインカムを生み出すのに必要なポートフォリオは1万2000ドル×25=30万ドルとなります。

この人の場合、パーシャルFIに到達するのに15年ほどしかかかりません!

純資産ゼロから始めて平均的な年収しか稼げなくても、10年ちょっとあればパートタイムの仕事をしたり、セミリタイアにするだけで、経済的自立の自由や柔軟な働き方を享受できるというわけです。

地理的アービトラージ p281

サイドハッスルなんて自分には合わない?
パートタイムの仕事なんてしたくない?
安心してください。
それでも地理的アービトラージを活用すれば、経済的自立に到達できます。
地理的アービトラージとは強い通貨の国(米国など)で収入を稼ぎつつ、弱い通貨の国(メキシコ、ベトナム、マレーシア、タイ、ポーランドなど)でリタイア後の生活を送るという考え方です。
そうすれば収入が高くなくても、母国の同世代より何十年も早く経済的自立に到達することができます。

タイのビーチでゆっくりとくつろぎ、メキシコのソカロ[中央広場]でタコスを食べ、ポーランドのタトラ山脈でハイキングする。
そんな生活を魅力的だと感じるあなたには、地理的アービトラージはお似合いの戦略かもしれません。
私たちがベトナムで泊まったAirbnbのホストだったオーストラリア出身のスティーブとエラインはまさにそんな生活をしていました。
彼らにどうしてベトナムに移住したのか訊いてみると、「オーストラリアで落ちこぼれながら戦い続けるのか、それともベトナムに移住して有利な立場で生活するのか、そのどちらかだとわかったんだ」と答えました。

スティーブにとっては簡単な選択でした。
彼は胸の真ん中にある恐ろしい開胸手術の跡を見せてくれました。
重度の心臓発作を経験したことで、ストレスまみれのITの仕事に死ぬほどの価値はないと悟ったのです。
彼とエラインは退職金貯蓄を使い、思い切って行動に移すことにしました。
ふたりはいまではゆったりとした生活を楽しみ、スティーブの体調はかつてないほど良くなっています。
エラインはすでに22人の孤児を育ててきた孤児院を運営し、新たなコミュニティに貢献しています。

ベトナムやタイを旅行しながら、私たちは有利な為替レートのおかげで月1130ドル、年に直すと1万3560ドルでぜいたくな生活ができることに気づきました。
ベトナムの平均月収はおよそ150ドルであるため、1130ドルでも地元の基準で言うと途方もない金額です。
パッシブインカムで年間1万3560ドル稼ぐのに必要なポートフォリオは1万3560ドル×25=33万9000ドルです。

年収が中央値の6万2175ドルで、そのうち1万2724ドルを貯蓄にまわした場合、地理的アービトラージFIに到達するまでにかかる年数は16年と半年です!
さらにデジタルノマドや英語教師などのサイドFIREと組み合わせれば、年間1万ドルを稼ぐだけで必要なポートフォリオの金額が(1万3560ドル-1万ドル)×25=8万9000ドルとなり、期間はさらに短くなって何と6年でFIに到達できるのです!

オプティマイザー p291

オプティマイザーは執拗に支出を抑えて財産を築く人です。
普通の仕事をして、そこそこの給与を稼ぎ、ほとんどの部分で一般的な生活を送っています。

特異なのは使ったお金の把握の仕方です。
自分が使ったお金を尋常ではない時間と労力をかけて1セント単位で把握しているのです。
レジの人から「レシートはご入用ですか?」と尋ねられると、答えは必ずイエスです。
そのレシートはファイルにきちんと収められ、スプレッドシートに記録され、不老不死の解明につながるかもしれない未知の微生物のように徹底的に分析されます。

お気づきでない方もいるかもしれませんが、私は誇り高きオプティマイザーです。

私たちオプティマイザーは「ケチ」というレッテルを貼られたり、しみったれた生活を送っているように見られると、非常に不快に感じます。
私たちの頭の中には百科事典のように価格データが収められており、どうすれば半額でその食料品が手に入るのかがわかっています。
つまり、私たちは少ない費用でほかのみんなと同じ(もしくはより良い)人生経験ができる達人なのです。
ブライスと私はいままで3年間ずっと旅を続けていますが、私たちのポートフォリオの金額はその間に減るどころかむしろ増えました。
それがしみったれた生活に思えますか?

ただ、私たちオプティマイザーにも弱点はあります。
第一に、極度にリスク回避的な傾向があります。
起業したり、夢を追いかけたりすることには向きません。
幸せになれる可能性があっても、お金を失うかもしれないリスクを取りたがらないのです。
2008年の株式市場の暴落や同僚がデスクで亡くなりかけたときのように、私がパニック発作に陥りやすいのはそうした損失への恐怖があるからです。

また、損失への恐怖は投資を困難にします。
ポートフォリオの価値が下がったときに大きな恐怖を感じ、すぐにお金を布団の下にしまいたいという衝動にかられるのです。
私は一度どころか二度の市場の暴落を耐え抜いたことで、一時的な下落はあくまで一時的なものにすぎないと信じられる自信を得ましたが、正直な話をすると、初めてインデックスファンドの買い注文を入れたときは恐怖で震えました。
その恐怖を克服することは、これまでの人生で(大学のコンピュータ・エンジニアリングの教育課程をやり切ることを含めて)最も難しいことでした。
ただその恐怖を克服していなければ、いまの私はいないのです。

もしあなたもオプティマイザーであれば、本書を読むことで自分の性格や行動の由来を理解してもらえるよう願っています。
自信を持ってください。
それはすばらしい特性なのです。

著名なオプティマイザー p293

・私
・Mr. Money Mustache ことピート・アデニー
・JL・コリンズ

再現性のマジック p295

そうは言っても、すべての道が平等なわけではありません。
私はミリオネアのタイプの中で最も多いのはオプティマイザーであることに気づきました。
ほかのアプローチとは違い、オプティマイザーのやり方は数学的に再現性が高いからです。

私は自分がやったことを具体的にお話しできますし、もしあなたが私の行動をまねすれば、あなたもミリオネアになれるでしょう。
ハスラーや投資家の場合、そうはいきません。

もし、あなたがスティーブ・ジョブズの伝記を読んで、彼がやったことをすべてまねしても、残念ながらアップルはすでに存在しています。
同様に、もしあなたがウォーレン・バフェットと同じ銘柄を買っても、彼と同じ富を得ることはありません。
彼が投資した銘柄は当時とは価格が違うからです。
ハスラーや投資家はほかの誰も通ったことのない自分独自の道を見つけなければなりません。
その道は一度発見されれば、二度と同じ道ではなくなるのです。
一方、オプティマイザーはみんな本質的に同じことをしても、毎回うまくいきます。
それこそが再現性の力なのです。
私が自分の成功の秘訣を授ければ、あなたもきっとうまくいくでしょう。

貧困の力 p296

もう1つ印象的だったのは、ミリオネアの中には私のように貧困からはい上がった人が珍しくなかったということです。
実際、よくある話なのです。
ただ、貧しい環境で育ったことがどのような影響を与えたのかはそれぞれ違います。
私の場合、貧困は創造力、回復力、適応力、忍耐力を授けてくれました。
一方、両親が夢にも見なかった困難なチャレンジに挑戦するよう鼓舞してくれる場合もあれば、欠乏の恐怖を味わうことで、それを二度と経験したくないと思わせる場合もあります。
いずれにせよ、貧困はそこから抜け出すためには何でもやるという強い気概を与えてくれるのです。

私と彼らの違いは、私が自分の子どものころの不快な経験を公の場で話すことを厭わないというだけです。
ほとんどの人は恥ずかしいと思っているのか、その時期を楽しい思いで振り返れないのか、そうしたがりません。
いずれにせよ詳しく調べてみると、彼らは貧しく育ったにもかかわらず成功したのではなく、貧しく育ったからこそ成功したのです。

私は貧困を誇りに思っています。
貧困から学んだ教訓を誇りに思っています。
そして、いまの私になるために必要だった多くのスキルを貧困から学んだと思っています。
私は裕福な家に生まれたわけではなく、多くの独立独歩のミリオネアもそうではありません。
貧困は弱みではなく、強みなのです。

もし、あなたが私の子どものころと同じような経験をしているのなら、あなたはひとりではありません。
お前は絶対にお金持ちにはなれないと、他人に言わせてはなりません。
私は言わせませんでした。
そして、いまの私があるのです。

p300

FIの主唱者であるJL・コリンズ、ここであなたの名前が挙げられている理由はおわかりでしょう。
あなたが「絶対に書いた方がいい。私を信じてくれ」とおっしゃるまで、私たちは本書の執筆を真剣には捉えていませんでした。
いまの私たちがあるのはあなたのおかげです。
私たちはマゾヒストです。
あなたのように。
あなたの友情、サポート、指導に感謝します。
ジョン・グッドマンのものまね、最高でした!