「ナルコスの戦後史」を 2,023 年 07 月 15 日に読んだ。
目次
メモ
恋愛、SFと並ぶコンテンツ p5
ここでもう一つ映像作品について触れておきたい。
動画配信サービスNetflixオリジナルドラマとして公開された『ナルコの神』である。
韓国ドラマとして制作された本作は2022年9月9日に配信されると同サービス内のテレビジョン部門で視聴時間第3位を記録、10月に韓国で行われた「2022 コリアドラマ アワーズ」では大賞を受賞したという報道があった。
コリアドラマアワーズはその年に韓国で放送されたドラマ作品を対象にしたイベントで、同ドラマは映画、ドラマいずれも世界的に評価されつつある韓国で最も栄誉のあるグランプリを獲得したということになる。
驚くべきはそれほど世界を席巻したドラマの題材として扱われているのがドラッグの密売だという点だ。
いまやドラッグは恋愛やSFのように世界共通のコンテンツとなりつつある証明なのかもしれない。
キムチ・プレミアム p100
この薬物汚染にもインターネットが関与している。
日本同様に韓国のSNSでも麻薬の売買いが平然と行われ、若者を中心に爆発的な広がりを見せている。
「自宅で、SNSにより麻薬をピザ1枚の値段で直接購入するのが現状だ」
国内の麻薬捜査を取り仕切る大検察庁の李沅石検事総長は自国の麻薬事情をそう表現した。
この指摘とそ韓国の麻薬密売の実情とも言える。
特に覚醒剤の流行は著しく、それを象徴するように「キムチプレミアム」なる言葉まで登場した。
もともと「キムチプレミアム」は暗号資産の業界で使われていた専門用語である。
韓国では国境を越えた資産移動を制限する独自の規制によって、相対的に暗号資産の国内相場が海外よりも割高になる傾向にあった。
当然、世界の相場よりもお得な暗号資産は韓国でも人気を博し、この特殊な現象をプレミアがついた韓国の暗号資産という意味を込め「キムチ・プレミアム」と総称するようになったのである。
だが、同じ取引が覚醒剤でも起こっていた。
近年、韓国では麻薬の中でも覚醒剤の需要が高まり、末端価格は1グラム25万ウォン(約2万5800円)まで高騰。
覚醒剤文化が根強い日本には及ばないにしてもこの相場は諸外国に比べても明らかに毛色が違う。
アメリカではおおよそ3万5000ウォン(約3600円)、タイにいたっては3万ウォン(約3100円)程度が末端価格とされており、韓国とは8倍近い開きが生まれている。
この様相を暗号資産の世界にたとえ「キムチプレミアム」と呼ぶようになったのである。
しかし、上乗せ分は犯罪組織が決めた幅に過ぎず、まやかしというほかない。
覚醒剤における「キムチ・プレミアム」は暗号資産業界とは似て非なるものである。
むしろプレミアムがついてしまったのは韓国市場のほうだった。
諸外国よりも高値で売れるマーケットは国際組織にも狙われ、中国や東南アジアをはじめとする犯罪グループが続々と進出。
外よりも高価となった暗号資産は麻薬売買での支払いに使われるようになり、犯罪組織にさらなる利鞘を与える結果にもなっている。
2021年の外国人による薬物事犯は前年より約20%増となる2339人と史上最多を記録。
韓国は今、暴利を求める犯罪集団の格好の狩り場となってしまっているのだ。
かつての製造国は好景気と引き換えに国際組織から狙われる巨大なブラック・マーケットに変貌したのである。
忍者もナルコスを p174
摂取とそしないが、日本でも古くから神事に使われているナルコスがある。それが大麻だ。
大麻と人類との関係性は深く長い。
大麻は1万2000年前にはすでに中央アジアで広く栽培されていたとの記録があり、日本でも福井県若狭町の鳥浜貝塚遺跡から縄文時代早期に作られたとされる麻の縄が発見されている。
ところが、神事や衣料繊維用の麻を栽培していた農家が「アサ(麻)酔い (大麻成分を吸い込んで起きる症状)」を起こすことがあった。
そのため、1948年に制定された大麻取締法では農家への影響を配慮して使用罪が除外されたのである。
一方、江戸時代前期にまとめられた忍術書「万川集海」の「火器」編に、日本人が大麻を毒として利用していたことを窺わせる記述がある。
「麻の葉 日に干し、末にして薄茶三服ほど用いれば、心虚けてあほうになると云う、麻の葉、七月に取り宜し」
(※訳: 大麻の葉を乾燥して粉末にし、薄茶にして三服ほど用いると心が空虚な阿呆になる。麻の葉の収穫は7月がよい)
真偽を確認する術がないが、忍者たちは大麻の作用を十分に知っており、
相手を酩酊させる武器(毒薬)として大麻茶を使っていたのかもしれない。