コンテンツにスキップする

「経済評論家の父から息子への手紙」を読んだ

投稿時刻2024年11月3日 17:02

経済評論家の父から息子への手紙」を 2,024 年 11 月 02 日に読んだ。

目次

メモ

株式性の報酬には複数の魅力がある p38

自社の株式ないしストックオプションで報酬を得る方法を説明したが、こうした「株式性の報酬」はどこがいいのだろうか。
実は、有利なポイントが多数ある。

①規模拡大による利益のかけ算(面的な拡大)
会社というものは、いったんうまくいき始めると、商品の生産を増やす、店舗を増やすといった形でビジネスを何倍にもスケールアップできる。

例えば、1人の社員の「利益生産額-人件費」をプラスにする仕組みができると、社員を100人、1000人、1万人と増やしていくことによって、利益を比例的に拡大することができる。
この利益は当然のことながら、自分1人の稼ぎよりも遥かに大きなものとなり得る。

成功した会社の株式を持つことによって、この利益拡大の一部を得ることができる。

②将来利益が今評価される時間方向のかけ算(時間方向の拡大)
株価とは、大まかには一株当たりの将来の予想利益を現在価値で評価したものだ。

つまり、今年の利益だけでなく、来年、再来年……、さらに将来に稼ぐであろう利益を成長率に対する予想も織り込んで評価したものを「今の価値」として評価して取引する。
事業が軌道に乗った会社の株式は、「面的な拡大」×「時間方向の拡大」の両方向からかけ算が働いて評価され、さらにしばしば成長率への「夢」までが加味された評価が生じる。

株式が公開できて上手くいった場合のアップサイドは極めて大きい。

③成功報酬は評価が甘くなりがちだ!
株式性の報酬の多くは、会社や個人の稼ぎの成果に応じて支払われる。
つまり、「成功報酬」の性格が強い。
実は、この成功報酬が曲者で、受け取る側から見ると条件が甘くなりがちなのだ。

お金の運用の世界では、「一定額(比率)の手数料の下に頑張ります」という固定手数料と、「利益を獲得したらその〇〇%を貰います」という成功報酬手数料の2種類の手数料の取り方があるが、成功報酬手数料の価値を金融論的に固定手数料に換算して評価すると、固定手数料の何倍にもなっていることが多い。
しかも、成功報酬の実質的価値は、リスクを大きくすることで意図的に拡大することができる場合がある。

いわゆるヘッジファンドの運用者が、旧来のファンドマネジャーよりも大金持ちなのは成功報酬型の手数料のおかげだ。
率直に言って、成功報酬で契約する客が愚かな面もあるのだが、世の中に成功報酬型の契約は少なくない。

株式性の報酬は成功報酬的に与えられることが多く、固定的な給料の形で受け取る報酬よりも大幅に有利になりがちだ。

なお、「成功報酬」の価値がリスクをより大きく取ると拡大することは、ビジネスパーソンの世界で近年強調されることの多い「成果主義」にも当てはまる。
成果主義では、無難を目指すよりも、リスクを大きく取る方が有利だ。
このマインドセットがあるかないかは、将来の報酬を大きく左右するはずだからよく覚えておけ。

④株式の報酬はキャッシュの報酬よりも甘くなりがち
株式性の報酬は、支払う側が気楽なので条件が甘くなりやすいことも見逃せない。
成長期の企業は事業拡張に投資したいので、人件費の形でキャッシュが流出することを好まない。
そこで、報酬の一部を株式性の権利で支払うと、キャッシュの流出を抑制できる。
そして、ただちにはキャッシュの負担をもたらさない支払いなので、キャッシュで支払う報酬よりも条件が甘くなることが多い。

⑤株式のリターンは賃金上昇率よりも大きい
詳しい仕組みは次章で説明するが、株式のリターンは賃金の上昇率よりも大きくなりがちだ。
株式性の報酬は貰った瞬間には換金できない場合が多いが、その間にもリターンを稼いでくれる公算が大きい。

単純な借金は危険過ぎる p44

後で紹介するインデックスファンドへの投資は、他の手段と比べてリスクと比較したリターンの効率がいい。
しかし、リターンの期待値は「短期金利(無リスクの金利)+年率5%くらい」という、これでも十分ありがたいのだが、現実としては地味な水準だ。
資産の成長スピードは速くない。

ここで、一つのアイデアは、借金を使って投資額を増やすことだろう。
例えば1億円を無利息で借りることができて、インデックスファンドの期待リターンを5%とすると、「期待値としては」税引き後で約4%、金額にして約400万円の利益を年間に得られると皮算用できる。

しかし、年利4%の複利で1億円を運用して2倍にするには、約18年間かかる計算だ。
1億円作るために(2億円のうち1億円は返さなければならない)18年はいかにも遅い。

しかも、相手は株価であり、年間に3割くらいは平気で下落することがある。
仮にお金を借りた翌年に3割下落が起こり、マイナス3千万円の時点で「借金を返せ」と請求されたら自己破産するしかないかもしれない。
3千万円の借金はいかにも重い。

また、そもそも、「使途は株式投資」または「使途自由」という条件で、個人が大きなお金を無利息または低利で借り入れることは難しい。

不動産投資は楽なものではない p46

個人がリーズナブルな金利で大きな借り入れが可能なのは、主として住宅ローンを用いた不動産投資だ。

しかし、大きな借金を背負い、特定の不動産物件に資産を集中させるリスクを負い、投資対象の換金性が良くないなど、この方法で資産を作ろうとするといくつか大きな問題がある。

投資用の不動産物件で借入金利や経費、税金などを差し引いた上で、実質的な利益の利回りが投資額に対して十分見合うと考えて計算が立ち、アパートなどに投資したとしよう。
しかし、物件が不人気で空室が埋まらなかったり、家賃保証会社が倒産したり、物件にトラブルがあったりして、物件を売却して問題を解決しようとした時には、仮に売れたとしても、価格は投資額を大きく下回るだろう。
すると手元に借金が残る。

そもそも、不動産投資が、「大丈夫」なものでも「有利」なものでもないことは、不動産業者が自ら物件を保有するのではなく、客を探して売っている状況が雄弁に物語っている。
「サラリーマンでも大家さん」「不動産投資で不労所得」といった甘言に乗るのは賢くないから、気をつけろ。

p54

父としては、本当は、「資本主義」という曖昧で手垢の付いた言葉を安易に使うのが好きではないのだが、ここでは生産手段(≒資本)も私有が許される経済を広く「資本主義」だとしておく。
「経済」が、「人間」と「資本」を巡ってどう動いているのかを理解することが重要だ。
世の中の「○○資本主義」がどうしたとか、「資本主義経済の行き詰まり」といった議論の多くは相手にしなくていい。
理解が不正確でうるさいだけだ。

あらかじめ結論を言っておくと、資本主義経済は、リスクを取りたくない人間から、リスクを取ってもいい人間が利益を吸い上げるようにできている。
この点がよく分かったことは、今回この本を書いてみたことによる、父の個人的収穫であった。
そして、利益を吸い上げる際に介在するのが「資本」であり、資本に参加する手段が現代では「株式」だ。
一度スッキリ分かっておくと、働く上でも、投資をする上でも、見通しが良くなるはずだ。

お金の運用について必要な「基本」はこれだけ p56

さて、君が稼いだお金の増やし方だ。
手短に結論から述べよう。
お金を効率良く増やすには、次のようにするといい。

(1) 生活費の3~6カ月分を銀行の普通預金に取り分ける。残りを「運用資金」とする
(2) 運用資金は全額「全世界株式インデックスファンド」に投資する
(3) 運用資金に回せるお金が増えたら同じものに追加投資する。お金が必要な事態が生じたら、必要なだけ部分解約してお金を使う

投資する金額の決め方、投資対象の選択、「買い」「売り」のタイミングについて説明したので、お金の運用について必要な「基本」はこれですべて説明したことになる。
簡単だろう?

「父ちゃんは、長年お金の運用を専門にしてきて、本もたくさん書いているのに、これだけかよ?」と君は言いたいかもしれない。
だが、本当にこれでいいのだ。
この運用法を上回ることは、運用の専門家にとっても簡単なことではない。

現実には、例えばNISAやiDeCoといった制度を利用すると得なので、使える制度は最大限有効に使うといいが、これらは、お金を運用する際に利用したら有利な置き場所であり、言わば「器」だ。
その利用法は「基本」を実行する上でのアレンジに過ぎない。
すべて、「全世界株式インデックスファンド」ないしは、これに類似する運用商品に投資したらいい。

本書では、これらの制度について説明しない。
制度は時々で変化するし、利用法は常識で分かるはずだからだ。

運用資金は全額「全世界株式のインデックスファンド」でいい p59

運用資金の全額を「全世界株式インデックスファンド」に投資していい。
インデックスとは株価指数のことだが、全世界の株式で構成されたインデックスに連動する投資信託に投資するのだ。
今なら、通称「オルカン」こと「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」でいい。
理由は、有利な形で分散投資されていて、運用の手数料が安いからだ。

手持ちの運用資金のすべてを株式に投資することに抵抗感があるかもしれない。

インデックスファンドに投資した場合の株式投資のリターンは、100年に二、三度クラスの「最悪の場合」でも1年に3分の1くらいの損失、同じくらいの確率の「幸運な場合」では4割くらいの利益、平均的には短期金利がほぼ0%なら年率5~6%くらい、だと実務の世界や学者の間では考えられていて、父も「そんなものだろう」と思っている。
正確な数字は誰も知らない。

本書の執筆時点の日本の短期金利はほぼゼロなので、これプラス5%と見て、株式投資の期待リターンをおおむね「年率5%」くらいだと考える。
現在の日本の税制では、実現した利益に対して約2割の税金が掛かるので、実質は年率4%くらいとなる。

この条件に、運用資金のすべてを投入することに君は抵抗感があるだろうか?

確かに、「3分の1の損失」に当たると痛いし、日々の株価の変動が気になるかもしれない。

しかし、考えてみよう。
特に、若いころの運用資金額はたかがしれたものであるはずだ。

これに対して、自分自身のその他の経済的リスクを考えると、会社やビジネスの浮沈、給与・ボーナスの変動や、転職などによる収入の改善や逆に減少、健康状態の変化、家族や周囲の状況の変化、など多くのリスクに直面しながら、これらに「何とか対処している」はずだ。
例えば、お金が足りなくなれば、より多く働いて稼いだり、あるいは生活費を節約したりして、何とかなっているのではないか。

しかも、運用資金は「当面使わないお金」だ。
数字で表れていて分かりやすいからといって、金融資産の損得にばかり注意を向けるのはバランスが良くない。

では、月日が経って投資が進み、金融資産の額が大きくなった時にはどうなのか。

この場合、「3分の1の損失」の金額は、収入のアップダウンよりもかなり大きなものになっているかもしれない。
しかし、金融資産の額がそもそも大きいということは、それだけ経済的な余裕が大きくなっているということだ。

やはり、「運用資金」を全額「全世界株式インデックスファンド」で持っていて問題がない場合が多いはずだ。

お金を引き出そうとした時に、株価が大きく下がっているような事態が「結果的に」あるかもしれない。
その時には残念に思うだろうが、「意思決定時点の(事前の)選択として正しかった」けれども、運が悪かったのだと考えて納得せよ。

その損失は「サンクコスト」(埋没費用。既に発生していて取り返しが不可能なコストのことで、意思決定上は無視するのが正しい)だ。
それ以上の意思決定はできなかったのだし、株価はコントロールできない。

人生にあっては、コントロールできないことについて悩んでも仕方がない。
できることは確率・期待値的に良い選択をして、後は好結果を祈るだけだ。
それ以上はない。

しかも、損をしても、幸い「お金で済む話!」だ。
命を取られたり、信用を失ったりするような問題ではない。

どうしても損が嫌なら「個人向け国債変動金利型10年満期」 p63

本当は教えたくないのだが、「絶対に損をしないお金」を別途確保しておきたい場合は、「個人向け国債変動金利型10年満期」にお金を置くと、低利回りだが安全で無難だ。

商品の詳細は財務省のホームページで調べろ。
銀行、証券会社、ゆうちょ銀行などの窓口で買える。
十中八九、他の商品を勧められるだろうが、売る側が手数料の高い商品を買わせたいだけなので、窓口でのセールストークはすべて無視せよ。

p67

各種の投資・運用のプロや金融界は、経済や相場を分析してコメントを出し続けているが、これは仕事の都合上そうしているだけだ。
運用の役には立たない。
父もコメントすることがあるが、信じてはいけない。

インデックスファンドなら何でもいいわけではない p70

なぜ「インデックスファンド」がいいのかを次に説明する。

まず、言葉の定義だが、インデックスファンドとは何らかの「指数」(株式の場合は「株価指数」)に連動するように運用される資金のことだ。
個人が利用するのは、公募の投資信託かETF(上場投資信託)などの投資信託だろう。
原則として、指数を構成する銘柄と構成ウェイトをなぞるように運用される。
一般に、販売手数料(近年はゼロが主流だ)や運用管理費用が安く設定されている。

一口に株価指数と言っても多くの種類があり、それらの中のいくつかが個人の運用に適している。
例えば、S&P500やTOPIX(東証株価指数)はまあまあ運用に適するが、日経平均やNYダウ(ニューヨークダウ)などは中身の偏りが大きい。
運用には適していない。

アクティブファンドがダメな理由は「平均投資有利の原則」 P73

最終的には株式市場の平均、現実問題としてはインデックスファンドに、アクティブファンドが勝てない理由は、父が「平均投資有利の原則」と名付けた市場の仕組みにある。

平均投資有利の原則を言葉で説明すると、市場での運用競争にあっては、ライバルの平均でもある「市場の平均」を持ってじっとしていることが有利であるということだ。

余計な取引コストを払わずに平均を持ってじっとしていると、売り買いのたびに売買コストが生じるアクティブ投資家は運用競争上不利であって、平均投資家は有利だというのが、動かぬ原則なのだ。

市場の平均に近い構成のインデックスを参照するインデックスファンドは「平均投資」に近い分、運用上アクティブファンドよりも有利で、さらに商品としての運用手数料が安いので、ますます有利になる。

「全世界株式」を選ぶ理由も「平均投資有利の原則」 p74

さて、残る説明は、なぜ「全世界株式のインデックスファンド」を選ぶのかだ。

本書執筆時点での全世界株式の大まかな内訳は、米国株式が約6割、日本の株式は6%弱などとなっている。

世界の資産運用は、近年ますますグローバル化が進んでいて、市場間の連動性が強まっている。
厳密に閉じた空間での運用競争がはっきり存在するわけではないが、世界の大機関投資家(国家ファンド、大型年金基金、大学基金など)は、世界各国の株式市場に分散投資するようになっている。
こうした場合、彼らの運用の平均像は全世界の株式市場を平均した状態に近いものであるはずだ。

仮に、全世界の株式を運用競争の空間だと考える場合、平均的な全世界株式ポートフォリオの中の比率が6割である米国を100%持とうとすることは、かなり極端なアクティブ運用だ。
タイミングを図って米国株式への投資比率を増減しようとするような運用も、平均投資有利の原則に照らすと、有利なものとは言えない。

運用競争のトレンドに対して、少し先回りし過ぎかもしれないが、特定の組み合わせよりも世界株式の運用競争の「平均」を表すインデックスをターゲットにするインデックスファンドを選ぶことにした。

なお、全世界株式インデックスファンドは、日本株も含むものに投資することが好ましいが、日本株抜きの全世界株式、あるいは先進国株式といったインデックスも内容が近い。
手数料の十分安いものであれば、投資して構わない。
細かい差にこだわる必要はない。

「全世界株式インデックスファンド」の具体的な運用商品例
現在、投資していい条件に該当する全世界株式のインデックスファンドは複数あるが、代表的なものを2つ挙げておく。

〈公募の投資信託〉
・「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」

〈ETF (上場投資信託)〉
・「MAXIS 全世界株式(オール・カントリー)上場投資信託」

どちらも三菱UFJアセットマネジメントの商品だが、特にこの会社に義理がある訳ではない。
資産残高が大きくて代表的な商品として挙げた。

前者は、投資家の間で通称「オルカン」と呼ばれている。
比較的早くからこの分野の商品に力を入れ、運用コストの引き下げにも熱心だったこともあり、本書執筆時点の運用資産残高は1兆円を大きく超えている。
同じく運用管理費用(信託報酬)は年率0.05775%以内だ。

つまり、現在、おそらく最善の運用商品が、運用資産100万円当たり年間578円以下の手数料で利用できるのだ。
運用は、お金を増やそうとする行為だ。
例えば、アクティブファンドに年率1%(100万円に対して1万円)もの手数料を払うことがどれだけアホかは、考えてみなくても分かるだろう。

後者のETFは、一部の投資家には投資しやすいだろうし、東証の上場商品なので、対面営業の証券会社でも取り扱いがある。
こちらの信託報酬は年率0.0858%(税抜き0.078%)以内だ。

他社からも、似た属性の商品が出ているし、今後も新しい商品が出る可能性がある。
手数料はすでにかなり下がっているので、顕著な改善のある商品が出る可能性は乏しいが、他の商品に投資しても構わない。

p83

「資本」とは会社の雑多な財産の集合体に貼られた単なるラベルのようなものだ。

「資本」自体に固有の意思や運動法則がある訳ではない。
右も左も、経済学の多くの議論は、資本という言葉を曖昧に使って現実の説明に失敗しているというのが父の意見だ。

リスクを取りたくない労働者が安い賃金で我慢する p86

先の、2万円の生産に貢献して1万円しかもらわない労働者が、不満で不本意なのかというと、そうでもない。
彼(彼女)は、たとえ1日に1万円でも、安定した雇用と安定した賃金を求めているからだ。

安定(=リスクを取らないこと)と引き換えに、そこそこの賃金で満足する。
合意の上の契約だ。
彼らこそが、世界の養分であり経済の利益の源なのだ。

世の中は、リスクを取りたくない人が、リスクを取ってもいいと思う人に利益を提供するようにできている。

「取り替え可能」な労働者は立場が弱い p87

労働者は、もう少し高い賃金を求めて雇用者側と交渉するかもしれない。
しかし、この交渉が上手くいくとは限らない。

この労働者と同じような貢献をすることができる「取り替え可能な労働者」が他にもたくさんいて、彼らが1日1万円でも雇ってほしいと思っているなら、雇う側には取り替え可能な労働者を選ぶ選択肢がある。
賃金を上げなければならない必要性は乏しい。

会社側は、なるべくこのような状況が可能になるように、社員の仕事の設計を行うだろう。
「ずるい!」と言いたいかもしれないが、これは普通の経営努力だ。

一方、働く側から見ると、自分自身が「他人と取り替え可能な労働者」にならないような工夫が必要だということだ。
労働者に限らず、エ夫のない人は損をする。
これは、責任論以前の経済の現実だ。
他人と同じであることを恐れよ。
無難を疑え。

資本家と債権者の力関係は変化する p88

資本のプールに貯まった利益を取り合うに当たって、銀行など資金を提供する側の立場が強ければ債権者の取り分が多いだろうし、銀行同士が競合するなどで立場が弱い場合は、株主側、つまり資本家側の立場が強くなるだろう。
力関係は、状況によって変化する。

なお、安全を志向する債券の保有者や、絶対に回収できるような条件の下に低利の融資を行う銀行なども経済全体から見ると「リスクを取りたくない参加者」だ。
彼らが諦めたリターンを、リスクを取ってもいいと思って資本を提供している資本家が手にする。

経済は「適度なリスクを取る者」にとって有利にできている。
大事なことなのでしっかり覚えておけ。

株価は将来利益の割引現在価値だ p96

株価、すなわち株式の価値はおおむね将来得られる一株当たりの利益の割引現在価値の合計として計算できる。
便利な計算式を一つ紹介しよう。
「第一期にEで毎期gの率で成長するキャッシュフローを割引率rで割り引いた時の、第一期から無限の将来までの割引現在価値の合計P」は次の式で計算できる。

高校を卒業すればみな知っているはずの等比級数の和の公式から導くことができる。
大学生の君には簡単だろう。

P=E/(r-g)

例えば、発行株数1億株で今期の予想純利益が100億円(一株当たり利益は100円)の企業の利益が年率1%でずっと成長するとしよう。
この将来利益を年率6%の割引率で現在価値に直す時、今期から将来のすべての利益の割引現在価値の合計は2000円である。

P=100/(0.06-0.01)=2000

お金の問題は感情を排して理屈と計算で考える p103

手持ちのお金を増やすための資産運用をはじめとして、お金の問題には誤解しやすい罠や、誤った俗説が多々存在している。

誤解が存在する主な理由は、お金の問題は人間の「感情」に働きかけやすいので、本来、論理や計算で処理されるべき問題の答えを間違えやすいこと(行動経済学的理由)と、金融ビジネス業界が自ら儲けるために流している誤解や俗説の影響が方々に存在すること(ビジネス的理由)の二つだ。

他人の話を真に受けたり、ビジネスに影響された書籍や記事の影響を受けたりすると、お金の扱い方で間違いを犯しやすくなる。

一つひとつの問題に直面した時に、自分の頭を使って論理と計算で解決することが肝心だ。
お金の問題は、金額で正否が評価できるので正解を確認することが比較的簡単だ。

保険とは「損な賭け」のことである p105

働き始めたいわゆる社会人の初期に意思決定を間違いやすいものに生命保険がある。
セールストークに乗せられて、あるいは保険会社に就職した友人に付き合って不要な保険を契約しがちなので注意しよう。

保険については二つの大原則を押さえておけ。

第一に、保険は「滅多に起こらないが、起こった時の損失が壊滅的な事象」に備えて「仕方がなく加入する」ものだ。

第二に、保険は保険会社が得で加入者が損をするようにできているものだ(そうでなければ保険会社が潰れる!)。

漠然と「安心するために」保険に入るのは愚かな行為だが、セールスする側はその心理につけ込もうとしてくる。
感情に流されるな。

若いビジネスパーソンがどうしても必要な保険は、自動車を運転する場合の任意保険、火災保険、それにお金が十分ない状態で子どもが生まれた場合に稼ぎ手に掛ける死亡保障の生命保険(子どもが成人するまでの期間のシンプルな保険。必ず掛け捨てで、保険料の安い保険を選ぶ)くらいだ。
相続の際に使う保険について考えるのは、将来でもいいだろう。

ちなみに、父は最近癌にかかったが、健康保険に加入していれば、民間のがん保険は不要だと改めて確認した。
治療に掛かった費用は健康保険を利用すると普通の貯金で十分に賄える金額だった。
つまり、保険を使う必要はなかったということだ。

「事後的には」がん保険に入っていれば入院費や交通費などが保険から出て、その方が得だった可能性はあるが、癌になるかどうかが分からない意思決定段階の「事前の問題としては」、がん保険は加入者側が損で保険会社側が儲かる賭けなのだから(確率は保険会社が考えて計算してくれている)、がん保険には入らないことが正解なのだ。

この「事前」と「事後」の区別が分からない人は、おそらく保険以外にも多くの分野で「カモ」になり続けるにちがいない。

自分の人材価値を中心に考える p118

働く上での大きな考え方として、自分の「人材価値」を育て、守り、活かすことを中心にするといい。
これはこれからの時代でも有効であり続ける考え方だろう。

かつてであれば、組織に帰属していることが頼りとなったが、これからの時代はそれだけでは心もとないし、不利でもある。

人材価値は、仕事の「能力」と、能力を実際に仕事に使った「実績」とで評価されて、これに、今後の「持ち時間」が加味される。
数式にすると次のようになる。

人材価値=(能力+実績)×持ち時間

知識や資格など仕事の能力があっても、実際に仕事に使ったことがなければ人材として十分評価されない。
能力の獲得にも、仕事の実績作りにも「時間」が必要だ。
時間が関わると、プランニングが必要になり、有効にもなる。

そして、同じ能力・実績の人であれば、より若くてこれから能力を使える「持ち時間」の長い人の方が人材価値は高い。
歳を取ることは、ビジネスパーソンにとってつらいことなのだ。

ちなみに、非常によく頑張っている人の場合で、人材価値のピークはだいたい35歳くらいに訪れる。

最初の仕事は「興味が持てて」、「倫理観に反しない」もの p120

自分の適職は、多くの場合、実際に働いてみないと分からない。
職業選択は一種の出会いの経験だ。
まず、時間を使って夢中になることができるような興味を持てる仕事か、次に、自分の倫理観に反しない仕事か、の2点で仕事を選んで働いてみよう。
合わなければ転職するといい。

興味を持って面白いと思える仕事でないと、ライバルに勝つための努力が続かない。
これは競争上決定的に不利だ。

また、自分の倫理観に反する仕事は、いざという時に頑張りが利かない。
例えば、個人向けの証券営業の仕事を、「工夫すると数字が上がる仕事で、世の中のためにもなっている」と感じる人もいれば、「数字を上げるために嘘をついているようで嫌な仕事だ」と思う人もいる。

さて、君はどんな仕事を選ぶのだろうか。
いい仕事に出会えるといいな。

時間の値段を意識する。「年収1千万円は時給5千円」 p124

自分の時間にも、相手の時間にも、経済価値があることを意識するべきだ。
例えば、年間250日、1日に8時間働くとして、年収1千万円なら時給は5000円、2千万円なら1万円だ。

そして、実際に仕事に使える時間の価値は、たぶんこれよりもかなり高い。

一つの分野への自己投資の目処は「2年」 p124

学問でも仕事でも、2年間集中的に努力すると「素人とはちがうレベル」程度に達する。
この段階で、その分野が自分に向いているかどうかを判断するといい。
有望なら時間と努力の投資を続けるといいし、2年やってダメなら、たぶんその分野は自分に向いていない。

「頭のいい奴」、「面白い奴」、「本当にいい奴」と付き合う p125

人間関係は重要な資産だ。
一般に、自分を変える方法は、付き合う人間を変えるか、時間の使い方を変えるかの2通りだと言われている。

付き合うと好影響をもたらす「頭のいい奴」、センスが良くてチャンスを引っ張ってくる「面白い奴」、真に心を許せる「本当にいい奴」、と積極的に付き合おう。
そのためには、自分が3種類のどれかの人間になる必要がある。

人間関係の基本は「時間厳守」と「爽やかな挨拶」 p126

なぜ重要かは知っているはずだ。
引き続き実行せよ。

勉強会は幹事を引き受ける p126

人脈と知識を拡げる上で「勉強会」は有力な手段だ。
自分で主宰するか、幹事を引き受けよう。
自分が主導する勉強会だと、テーマ、講師、スケジュール、勉強会のメンバーを自分に都合良く選ぶことができる。
また、会の連絡などを通じてメンバーとの人間関係を強く結ぶことができるし、会の世話を通じて多少の「恩」を売ることもできる。

父は遅くまでこのことに気づかなかった。
勉強会には、もっぱら「呼ばれる人」で、それで満足していた。
ビジネスパーソンとしてはうかつだった。
今になって反省している。

小さな話なのだが、息子には伝えておきたい。

会食は手抜きをするな p127

政治家の動静を見ると、彼らは毎日のように会食している。
重要な話を進める上で会食は大切なセッティングだ。
「仕事は会食や飲酒なしにできる」と言う人の多くは、たいして重要な話をしていないだけだ。

仕事でもそれ以外でも会食にあって重要なことは「手を抜くな」に尽きる。
大変だと思うかもしれないが、慣れの問題だ。

場所を設定する幹事になった場合は、使用する店に必ず一度は行っておけ。
ネットの情報だけで選んだ店をいきなり使うと、残念な食事や場所であるケースが多々ある。
また、重要な会食の場合、事前にメニューを知り場所に慣れておくことが大事だし、有利な材料になることがある。
一度訪ねておくと店側からの印象が良くなる点も見逃せない。

食事にあっては、個々の参加者がどのくらい飲んだり食べたりしていて、どういう気分と状態にあるかを常に把握することを習慣としよう。
自分の飲食ペースを調整しつつ、飲み物の追加注文や、食事の取り分けなどで、気を利かせるといい。

そこまでするか?
するのだ!
大丈夫だ。
慣れると自然にできる。

なお、初めて訪れた店や紹介された店が気に入った場合は、間を置かずに(1ヶ月以内に)再訪して、「前回が美味しかったのでまた来た」と言うと、たいていは顔と名前を覚えてくれる。
向こう1年間は有効だ。

キャリアプランニングで意識する「28歳」、「35歳」、「45歳」 p131

かつてと今とで、働き方は変わったが、人間の方は大きくは変わってはいない。
組織人を前提としたキャリアプランニングで意識すべき3つの年齢は今も案外変わっていない。
命令形で箇条書きにすると以下の通りだ。

・28歳までに、自分の「職」を決めよ
・35歳までに、自分の人材価値を確立せよ
・45歳から、セカンドキャリアについて準備せよ

28歳は、30代前半を活かすためのタイムリミット p132

ビジネスパーソンの能力上の全盛期はズバリ30代の前半だ。
仕事を覚えていて、体力もあり、まだフレッシュな感覚が残っている。
組織人でもフリーランスでも、この時期には仕事のチャンスが多く、仕事の実績を作るのに適した時期だ。
この時期を仕事を覚えてから迎えたい。

新しい仕事を覚えるには「集中的な努力で2年」と考えると、自分の「職」となる専門分野を決めるタイムリミットは30歳-2年=28歳だ。
また、28歳くらいから全く新しいことへの適応能力が目立って衰えることが多い。

就職後にも「職」選びに試行錯誤をしていいが、28歳くらいまでを目処と考えておきたい。

35歳で人材としての評価が定まる p133

30代になると、能力上も実績上も個人差が大きく開く。
そして、組織内でも、業界内でも、「この人物はできる(できない)」、「大物である(小物である)」といった個人の人材価値に対する評価が定まるのは、ほぼ35歳だ。
大組織の場合、出世などで目に見える差がつくのはもう少し後だが、人材評価は35歳くらいの時点でほぼ固まっている。

35歳までに人材としての価値を完成させることを意識したい。

45歳がキャリアの曲がり角 p134

人生は、一つの組織や仕事に頼るにはいささか長い。
会社や役所の「定年」は60歳、65歳かもしれないが、その先が長い。
そして、組織が用意してくれる機会は先細りでつまらないものが多い。

45歳くらいから、高齢期の働き方を見据えた「セカンドキャリア」の準備が必要だ。
準備が遅れると、できることの範囲やスケールが小さくなる。

準備として必要なのは、仕事に必要な「能力」と、自分の仕事を買ってくれる「顧客」の2つだ。
いずれも獲得には時間が必要だ。
準備は早くから始める方がいい。

ワークライフバランスは「ほどほど」に p141

成功者が、十分成功した後に「人生には仕事よりも大切なものがある」と語るのはよくあることだ。
その話に嘘はないが、スタートアップでの成功者の大半の若いころは「仕事の虫」だ。
成功を収めるためには、夢中になって高度に集中する時期が必要なのが普通だ。
もちろん、健康や家族などとのバランスも大切だが、ワークライフバランスは「ほどほどに」と言っておく。

仲間内の賞賛には高い価値がある! p154

人間の幸福感は「モテ」にかなり近い場所に根源があるらしいが、別の例を考えてみよう。

よくある疑問だが、「経済学部の最優秀に近い学生は、実業界に就職したら大いに稼げるだろうに、どうして経済学者を目指すことがあるのだろうか。それは、経済原理に反していないか?」。

論理の上では、効用関数は融通無碍なので「経済原理に反する」ということはないのだが、不思議な現象ではある。

それは、「経済学の研究に加わっている自分と、仲間内からもらえる賞賛」に大きな価値があると感じるからだろう。

「フェラーリを一台貰うよりも、いい論文が一本書けて最高レベルの学術誌に掲載され、仲間に賞賛される方が遥かに嬉しい」と思う経済学者は少なくあるまい。

「仲間内の賞賛」は、大きな経済価値の期待値に勝る喜びなのだ。

さて、「仲間内の賞賛」に価値が高いことは、経済学者の世界だけに
限るわけではない。
他の学問でもそうだろうし、各種の芸事やスポーツ、文学やアートの世界でも同様だ。

「私は、仲間の評価ではなく、自分自身の作品(研究)に満足しているので、他人の評価は自分の幸福感に関係ない」と言い張る人がいたら、「それは勘違いでしょう。もう少し素直に考えましょうよ」と言いたい。