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「金儲けのレシピ」を読んだ

投稿時刻2023年10月1日 18:36

金儲けのレシピ」を 2,023 年 10 月 01 日に読んだ。

目次

メモ

金儲けのレシピとは p1

私は東京大学を中退し、そして自分がオーナーとして、企業を年商10億円以上にまで成長させてきた。
その中で、商売の法則は"15の原理原則"にまとめられることを発見した。

成功者が必ずしも成功のノウハウを持っているわけではない p2

私は東大在学中に起業し、複数の、いわゆる成功した企業オーナーから投資/融資を受けて自分の事業をスタートした。
起業してすぐに感じたことは、成功者の中でもそれぞれアドバイスの内容が全く違っており、しばしば相互に矛盾するということである。
例えば私は某大手アパレルチェーンの創業者から出資を受けていたが、その創業者は服のことになるととても詳しいが、
私に対するアドバイスは「事業家bot君、これからはインターネットの時代だよ、全ての服屋がHPを持つようになるよ」というものであった。

このアドバイスは1998年くらいであればとても有用なものであったが、ときは2010年であった。
私はつくづく、「成功者はあくまで自分のビジネスにおいて成功した、その事業ドメインに詳しいだけであって、
『汎用的な事業成功の秘訣を知っているわけではない』」ということに気がつくとともに、
「成功者に金を出してもらって、ついでにノウハウも盗もう」と思っていた自分の甘さに辟易とした。

こういうビジネスは儲からない p4

マキャベリは「天国へ行くのにもっとも有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」と言ったが、
これを金儲けに応用すると「儲かるビジネスを作るもっとも有効な方法は、儲からないビジネスについて熟知することである」ということになるだろう。

従って、まず、金儲けについて考えていく前に、「金儲からない」についてしっかり考えていきたい。

「誰でも、簡単に、必ず儲かる」はあり得ない p5

まず、ビジネスにおいて、「誰でも、簡単に、必ず儲かる」というのは絶対に存在しない。
というのは、儲かるビジネスというのは基本的に、「需要に対して供給が少ない」状況が発生していて、だからこそ超過利益が発生するわけである。

しかし、「誰でも、簡単に、必ず儲かる」ことになれば、一気に参入者が爆増してしまい、限界利益がゼロになるまで参入者の増加が続くはずである。
これは、まさにタピオカ屋が儲かるとなったら一気に参入者が増え、そして一気に潰れてしまったのと全く同じ現象である。

初期の資本投資が重すぎるビジネスはダメ p6

まず、資本主義の原理原則として、ピケティが『21世紀の資本』(みすず書房)において喝破した r (資本収益率) > g (経済成長率) (図1) という不等式がある。
資本というのは資本を再生産する性質を持っており、例えば公開株なり不動産なりに投資していけば、年間 3 ~ 5% 程度の収益を安定的に上げることは可能である。

この前提をおくとすると、商売を立ち上げるときにおいて、「やたらと初期投資の多いビジネス」は最悪である。

店舗ビジネスも代表的なそのビジネスの1つで、まず、店舗ビジネスというのは固定費がかかる割にアップサイドが小さい。

アップサイドが小さい理由としては、
1 席数に上限がある
2 決まった時間帯にしか客が来ないのでアイドルタイムが発生する
3 回転速度に限界がある
の3つが挙げられる。

つまり、店舗ビジネスは「損をするときは大損するが、うまくいったときもボロ儲けにはならない」という非対称構造を持っていることになる。

さらに店舗ビジネスの構造が悪い理由として、店舗の内装や敷金など、初期投資がかかることが挙げられる。
初期投資をかけて「儲かるか儲からないかわからない」ことをするよりは、
例えば不動産屋、大型の上場株など、安定的に資本に対して利回りが出るもののほうが勝率のいい賭けと言えるだろう。

自分が詳しくないビジネスはダメ p8

事業を立ち上げる際に、意外とありがちなのが、「自分が全く詳しくない領域で起業してしまう」ということである。

実際、私が役員をしていた某フランチャイズチェーンにおいてもよく観察されたが、
大企業を退職したおじさんが今までビジネスを自分でしたこともないのに、退職金を開業費にぶちこんで店を始めるというパターンがある。

これまで大企業で管理職をしていたからといって、
それは会社のブランドや役職の力で仕事をしていただけで、ビジネスそのものがわかっているわけではない。

それどころか、当該業界に対する理解も全くないので、
入会金と開業費で 2,000 万円、追加で日本政策金融公庫などから 3,000 万円程度借金をし、
全て溶かしたところで退場、というのが1つの定型パターンであった。

まず、事業を立ち上げる際に数千万円かけて立ち上げようとする、というのが好手とは言えないが、
それ以上に、「自分がそのビジネスや商品について詳しくない領域で起業する」というのがそもそも失敗のもとである。
何よりも「自分がよく知っていること」をビジネスにするのが一番である。

「自分がよく知っていること」の定義は、別に「その業界で働いていた」ということとは限らないし、そうでなくてもいい。

例えば、ブルーボトルコーヒーを創業したジェームス・フリーマン氏は、
コーヒー好きが昂じて自分の自宅のガレージで自家焙煎豆を販売し始めたことが、創業のきっかけである。

このように「自分がこの商品を欲しいから作る」ということでも全くかまわないし、
自分自身がターゲットユーザーであるがゆえに、より深くニーズを理解することができるのである。

金儲けは最強のスキルだ p10

巷には、「すごい仕事術」というような類のノウハウ本があふれている。
もちろん、仕事ができることは重要である。

しかし、我々の生きる世界が資本主義社会である以上、仕事ができる=会社の収益への貢献度というKPIで測るのが適切であろう。

要は金が稼げればいいだけなのである。
エクセルでうまく計算ができたり、パワーポイントでキレイなプレゼン資料を作れたり、英語ができたりすることは、本質的な仕事の能力とは全く関係ないのだ。

資本主義と向き合って生きろ p11

私たちの社会のパラダイムは、あなたが好きか嫌いかにかかわらず、「資本主義」によって動いている。
資本主義というのは、ざっくり言うと金を媒介として、財やサービス、権力、そして個人の時間や性までもが売買される世界だ。

資本主義は残酷で、資本そのものが意思を持ったかのように、
「資本主義に組み込まれていないもの」を金銭的価値に換算し、市場化しながら拡大していくというモメンタムを持っている。

例えば、これまでは家族で行っていた介護が、商業化され、
人に金を払ってやってもらうものに価値観の転換が起きたのもその代表的な例と言えるだろう。

私は、この資本主義というパラダイム自体に対しては、価値中立的である。

ただ、圧倒的現実として、資本主義のパラダイムは、これまでも拡大してきたし、これからもさらに拡大していくだろうということだ。
この間違いない事実をもとに、そのパラダイムの中で自分がどう意思決定するか、のほうが重要である。

「ポスト資本主義」や「資本主義経済から評価経済へ」といったことが、2010年頃には叫ばれていたが、
その結果として起きたことは、SNSにおけるフォロワーのマネタイズ、要はファンコミュニティを装った広告ビジネスの拡大であった。

読者の皆様には、「資本主義」そのものに疑念を差し挟む暇があったら、
その中で生き残り、そして勝利するためにはどうすればよいか、という点に知恵を絞るとむおすすめする次第である。

まともに商売をやれば最終的に時給1000円になる p20

まず、強調しておきたいのは、普通に商売をすると、最終的に自分の労働コスト分しか手残りが残らないことである。

というのは、経済学の原則から考えると、完全競争市場においては利潤はゼロになる。
つまり、全ての商品の売値が公開され、消費者が自由にアクセスできる状態になれば、利益は自分が働いた分しか残らないのである。

故・中内功氏が「for the customers」「いい品をどんどん安く」を掲げて拡大したダイエーは、ついに消滅してしまったが、その理由もまさにここにある。

つまり、ダイエーは、メーカーや卸が価格をコントロールしている状況から、
消費者が自由にモノを選べるように、グループの拡大を通じてのコントロール力を高め、
価格統制権を消費者に渡す、というのをビジョンに掲げてきたわけである。

しかし、そのビジョンが真に実現されてしまうと、ダイエー側には利益がほとんど残らない。
ダイエーの消滅は、存在意義がほぼ達成されたから消滅した、と考えられるわけである。

従って、儲けるためには、「特殊な理由で「完全競争市場」にならない市場」を発見し、また作り出す必要がある。

商売を成功させるには、普通でないやり方をすることで、通常の経済活動の枠の中から抜け出し、特殊な構造を作り上げる必要があるのである。 

商売の正しい見方 LTV > CAC p21

さて、巷のビジネス本や事業計画の解説本を見ると、まず、 PL (損益計算書) についての解説が載っていて、
「固定費を少なくし、変動費をコントロールしましょう」みたいなことが書いてあるのが精々である。

しかし、ビジネスモデルを真に解析するとき、
もっとも重要なのは、 LTV (ライフタイムバリュー) と CAC (顧客獲得コスト) のバランス (図2) である。

LTV とは、平たく言うと、「1人の顧客を獲得するといくら儲かるねん?」であり、
CAC は「そいつ連れてくるためにいくらかかるねん?」ということである。

例えば、一回の客単価が1万円の美容室があるとする。
人件費原価が 3000 円で、儲けは 7000 円。
この客が、年間、平均すると10回通ってくれるのであれば、1人あたり平均の儲けは7万円ということになる。

もちろん冗費があるので、1人7万円かけて集客していたら商売は成り立たなくなってしまうが、
概念的には「7万円/1人、以下のコストで集客すれば儲けが出る」ということになる。

PLというのは、あくまで単月でビジネスを切ったものなので、「将来の顧客獲得のためにコストをかけた」赤字も、
「定常的な赤字」も、同じように赤字という見え方でしか現れない。

従って、時系列でビジネスを切って、良い・悪いを判断することに本質的な意味はないのである。
以上の理由から、ビジネスを判断する本質的な軸は、「顧客あたりの収益性」ということになるのである。

消費者に売るビジネスと消費者から買うビジネス p26

一般的に「商売」としてイメージされるのは、スーパーマーケットや飲食店のような、「消費者に売る」ビジネスである。
一方で、バイクの買い取りの「バイク王」や、「ブックオフ」、質屋のように、「消費者から買う」ビジネスも存在する。

この二種類のビジネスを比較したときに、「消費者から買う」ビジネスのほうが圧倒的に事業構造がいい。

何故ならば、消費者というのは文字通り消費者なので、消費のプロフェッショナルなのである。

10円安い卵を求めて、1キロ離れたスーパーに行く主婦、というのも決して珍しい存在ではないことからもそのことがわかるだろう。
価格感応度が高いのである。
一方で、消費者が「売る」ときはプロフェッショナルではない。
実際、ブックオフに本を持っていき、「全部1円です」と言われても、持ち帰るのがめんどくさいので全て売ってしまう人間がほとんどである。

消費者が「売る」ときは、売却の一回性が働くので、価格相場に詳しくなりようがない。
一方、買取業者側は複数回の取引をしているので、相場観を理解しているわけである。

ガリバーという中古車屋は、「買取専業」という新しいビジネスモデルで大きく成長した。

これは、利益の源泉が「消費者からの買い取り」にあることを見抜き、
そこにフォーカスすることで利益率を高めることに成功したからなのである。

なぜ労働力取りまとめ業のニーズがあるのか p29

ここまで読んできた皆さんは、単純な疑問が湧くだろう。
それは、「何故、直接雇用しないのだろうか」ということである。
直接雇用してしまえば、仲介業者への手数料を支払う必要がないため、2割程度は支払いを削減できるはずである。

労働力取りまとめ業の本質的な価値、それは、
1 労働者の質のスコアリング
2 すぐに、大量に手配できる
3 解雇規制への対応
の3点である。

日本市場においては特に、 3 労働者保護のための解雇規制が極めて厳しい。

このことが逆に、派遣業への強いニーズを生んでおり、労働力のニーズがなくなる可能性がある場合、
その仕事に対して正社員を雇用したくない、というニーズが働くのである。

また、正社員であればAさんの給料を、同じ部署のBさんの給料の3倍にする、というのは実質的に極めて困難であるが、フリーランスであれば可能である。

このような、流動性の提供とダイナミックプライシングが、法人にとっての労働力取りまとめ業のニーズであると言えるだろう。

客が組み立てをするIKEA p34

家具屋として一世を風靡した企業に、IKEAがある。
IKEAの大きな特徴は、単なる板とネジと棒を、「組み立てれば棚になるので棚だ」と言い張って暴利を貪っていることである。

冷静に考えると、家具のコストのうち材料のコストというのはさほど高くなく、
むしろ組み立てにかかる労働コストのほうが重いはずなのだが、IKEAは「DIY」という文脈に乗せて、組み立て作業を客に押し付けている (図4) 。

本能的に何かを作ったり、組み上げたりする作業が好きな人間は世の中に一定数いるので、
そのような人間にとって、IKEAはぴったりのお店というわけである。

集めて売るか、分けて売るか p42

そもそも、この世界に存在する財は、「集めると高くなるもの」と「分けると高くなるもの」が存在している。
例えば、集めると高くなるものの典型は「土地」である。日本を代表するデベロッパーである森ビルのビジネスモデルは、
10年以上の時間をかけて、細かい民家が密集したエリアの土地を買い集めていき、再開発を行い、巨大ビルを建てるというものである (図5、6) 。

なぜ土地を集めると高くなるか、それは、狭い土地であれば2階建ての民家しか建てられないところ、
まとまったエリアがあれば50階建てのビルを建てられる、即ち4階分は生み出されるキャッシュフローが増大することになるからである (土地の行政区分等については捨象し単純化しているが、ご容赦いただきたい)。

一方、分けると高くなるもの、の代表例は、例えば肉や魚である。
肉や魚は、塊やサクの状態よりも、切り身になっているほうが値段が高い。
実際のところカットする工数というのは大したことがないのだが、一手間かかっているという認知が働き、高い支払いを消費者が許容するわけである。

これに限らず、世の中の大半の財は、「まとめると高くなる」「切り分けると高くなる」に分割できるので、
目の前の財に対してもその分類ができないか、思考実験してみることが肝要なのである。

スケールメリットとスモールメリット p45

ビジネスを行うときに見逃せないのが、当然、種銭の大きさの効果である。
種銭がデカいことの効果は非常にシンプルで、例えば自動車会社を作ろうと思うと、
工場から含めて数千億円という巨額の資金が必要で、結果としてグローバルで見ても数十社というオーダーに競争相手が限定される。
つまり、資本が大きければ大きいほど、参入できるプレイヤーが限定され、結果として競争相手の数が減るわけである。

また、製造業においては多くの場合、投下資本量によって工場がどの程度効率化できるかが決まる。
即ち、資本の量が決定的な競争優位の要因になることが多いのである。

単純に説明すると、これがスケールメリットである。

一方、スモールメリットというのも存在する。

例えば人材紹介エージェントは、1人の凄腕エージェントが成約報酬200万円×20人で年間4000万円の売上を立てることは可能である。
このエージェントが、本社機能を作らずに、自宅マンションを本社としてビジネスを行っていけば、4000万円がほぼまるまる自分のポケットに入るわけである。

しかし、この会社を組織化し、本社機能を作るとする。
たいてい、雇い入れるエージェントは本人よりもかなりランクが落ちるエージェントである。
当然、人件費の他に、指導にかかる時間、オフィス費用、PCなどの備品費用などが増大し、基本的に利益率は逓減するモメンタムが働く。

つまり、個の力で食べていくことができる類のビジネスは、強いプレイヤーが1人で個人商店として営業するのが一番効率がいいのである。
これがスモールメリットだ。

ベンチャーを興すとき、商売を始めるとき、あなたが大富豪の息子でもない限り、基本的には資本がほぼゼロという状態からスタートする。
その場合、スケールメリットではなく、スモールメリットが働くビジネスを行うのが原則なのである。

高級品というイメージを利用する p47

「鮨」もまた、「まとめると高くなる」商品の代表例である。
鮨は、冷静に考えると「魚の切り身一切れ+少量のご飯」の塊でしかないのだが、高級店になると一貫1000円というところも珍しくない。

また、回転寿司が「一皿100円~」と書いてあると安く感じるが、そもそも「魚の切り身一切れ+少量のご飯」の塊の値段としては、妥当ないし少し高いといったところである。

求職者からも金を受け取っているビズリーチ p60

ハイクラス転職ですっかり業界大手として定着した感のあるビズリーチだが、
元々のビジネスモデルは、「転職したい人」にも金を払わせるという、日本においてはかなり新規性のあるビジネスであった。

というのは、転職仲介は、求職者の年収の25~35%程度を仲介者が受け取ることが可能な、
それなりに利益率の高いビジネスであり、そこにあえて新しいキャッシュポイントを持ち込む必要がなかったからである。

しかし、旧来のビジネスモデルには、企業側が手数料を払うことにより、求職者の望む企業ではなく、
手数料の払いがいい企業に仲介者が誘導してしまうという問題があった。

そこで、求職者に金を払わせることにより、「真に求職者に寄り添った転職仲介」が可能になる、
という仕掛けを持って、成熟市場に切り込んだのがビズリーチであったわけだ。

また、企業側からみても、求職者が「金を払うほど転職したい」ということは、
「転臓を真剣に考えている層だけが集まっている」「キャリアチェンジに対してお金を払ってもいいと考えている優秀層が集まっている」などのメリットがあった。

麻薬販売は国家の独占的な金脈だ p66

皆さんは「たばこと塩の博物館」をご存知だろうか?
私が子どもの頃、まだ「たばこと塩の博物館」は渋谷公園通りにあった(現在は墨田区)。

子ども心に、「何故、"たばこと塩"なのだろう?」と疑問に思ったものだった。
答えとしては、たばこと塩は、いずれも「専売公社」により独占的に販売されていたのだ。

また、代表的な合法ドラッグである酒も、国家により酒税が課せられている。
「塩」は生活必需品であると同時に、塩分が強い食事には中毒性がある。
また、たばこや酒は合法であるものの、紛うことなきドラッグである。

要は、中毒性がある嗜好品の販売業というのは、原則として非常に儲かるため、国家が集中管理を行う対象となっているわけである。

p69

余談だが、タピオカブームが起きた後は、バブル崩壊、リーマンショックと不況に見舞われている(図7)。

これは、好景気が最終局面まできた結果、給料の伸びや株価の上昇が起き、
トリクルダウンによって女子高生のお小遣いまで増加した結果、タピオカミルクティーの販売量が増える、という現象とも関連付けることができる。
「靴磨きの少年が株の話を始めたら、売り」という教訓に似た話とも言えるだろう。

p70

商売人であるあなたが考えるべきことは、「どう砂糖を食べさせるか?」という問いである。

例えば、鮨で考えてみても、旧来の江戸前を踏襲している銀座久兵衛などに比べて、新興系で成功している鮨屋はかなりシャリが甘い。
要は、シャリに砂糖をかなり混ぜている店が多いことに気づかされる。

しかし、鮨を食べているときに、「砂糖を食わされている」ことに気づく客はほとんどいないため、
ただ「美味しかった」という感想を抱いて再訪することになるわけである。

p77

損失回避性を利用しているビジネスは、高額ハイテク製品などでも、
○○円払うと保証を1年延長できます、というようなパッケージが付いていることがあり、
このパッケージももちろんメーカー側に有利なように設計されていることは言うまでもないが、
「高額商品が壊れたら嫌だ」という強い損失回避性を刺激して、顧客を獲得することができる。

非合理な意思決定をさせる p91

ビジネス本にはよく「相手に得をさせれば自分も得をする」という記述がある。
これはもちろん真実の側面もあるが、一方でやや綺麗事に過ぎるようにも思う。
というのは、営業の局面を想定すると、同じ商品、例えば新築一戸建てを6000万円で売るか7000万円で売るかによって、
差額1000万円が会社側のゲインになるか顧客側のゲインになるかはゼロサムゲームだからである。

つまり、個別の営業局面を想定した場合、当然ながら、
なるべく相手に非合理な意思決定をさせ、会社がたくさん儲かるようにしたほうが有利なわけである。

特に、取引の一回性が強いビジネスでは、リピートが想定されていないため、
1人の顧客からなるべく多くの利益を搾り取るという方向性でビジネスを展開したほうが有利である。

また、非合理な意思決定をしたからといって、顧客の満足度が下がるかというと実はそうでもない。
家であれば、家を買う理由や、あるいは、営業マンが信頼できそうかどうか、といった定性的なファクターのほうが顧客の満足度に対する寄与度が高いと考えられる。

「安く仕入れて普通に売る」か「普通に仕入れて高く売る」か p98

ビジネスは、大別すると2種類ある。
「安く仕入れて普通に売る」ビジネスと、「普通に仕入れて高く売る」ビジネスである。

この2種類のうち、私は「安く仕入れる」ことに競争優位性を置くほうがいいビジネスであると考えている。
理由としては、「高く売っている」ということは外部から観測されやすく、結果として競合の参入を招きやすいからである。

例えばスターバックスのコーヒーがドトールより高く、プレミアムが取れていることは、
明らかに公知の事実であり、結果としてドトールによるエクセルシオールという新ブランドの立ち上げや、タリーズコーヒーの日本参入などが起きている。

これに対して、「安く仕入れる」タイプのビジネスは、何故安く仕入れることができるのか、
何故この値段で利益が出るのか、という点について秘匿しやすく、結果として、儲かっているという事実を長期間隠すことができるのである。

つまり、商売のうち、継続的差別化要因を作りやすいのは、商売の工程において上流に差別化要因があるほうが良く、
販売よりは仕入れ、流通などにおいて差別化が設計されているほうが望ましいのだ。

p102

実際のところ、最重要な差別化要因は「高品質を支える3つ星レストラン出身のシェフ(かつ彼/彼女らの給与は不当に安いことが多いので、少し給与に色をつければ引き抜くことができる)の雇用」という点にあった。

つまり、俺のイタリアンの究極的な差別化要因は「料理人の仕入れ」という点にあり、
差別化要因がいきなり!ステーキよりも数段深いところに設計されているのである。

もっとも、この戦略は坂本氏の著書によってほぼ公開されているので、
今後同様の戦略を取る飲食ベンチャーの参入による競争激化も予想されることである。

p110

逆に、商売を考えるときは、「他人にプレゼントするための商品を作る」というのは狙いの1つと言っていいだろう。
私がよく人に贈答品を送る際に利用するのが、「ROYAL BLUE TEA」である。
ROYAL BLUE TEAは、ボトリングされた高級紅茶や緑茶を 5000 円 ~ 3 万円という価格帯で販売している。

お茶は酒を飲まない人にもあげられるし、「茶」というカテゴリの中でもっとも高い価格帯の商品なので、贈答品として使いやすい。
5000円のワインをもらってもワイン好きにとっては全く嬉しくない、むしろ安物のワインになってしまうが、ボトル5000円のお茶は高級品、珍品として受け取ってもらえるのである。

会社のカネも他人のカネだ p111

さて、「他人のカネを狙う」ことを考えたときに、見逃せないのが「会社のカネ」である。
わかりやすく言うと、BtoB ビジネスのことだ。

法人で何かサービスを購入する際に、「自分のカネと同じように丁寧に扱っている」会社は極めて少ない。

仮に決裁が社長まで上がったとしても、
年間数億円、数十億円単位で外注している会社が100万円、200万円単位の支払いまで細かくチェックするコストはかなり高く、
実際のところ不可能であると言ってもいい。

また、仮に決裁者が社長だとしても、オーナー社長であるとは限らない。
サラリーマン社長であれば、むしろ「問題を起こさないこと」「慣習から外れないこと」を重視する経営者が多く、自分のカネほど丁寧に使っていない経営者がほとんどだろう。

また、オーナー経営者であったとしても、ビジネスである以上、一定の利潤を残す必要があることを理解していることも多く、
何でもかんでも値引きしてくる、というよりは、「いいようにやってください」というスタンスの経営者もそれなりに散見される。

従って、BtoBでサービスを提供するビジネスで、一定程度の利潤を確保することは、 BtoC のビジネスよりも容易と考えられる。

一方で、自らが経営する会社においては、「1円から自分のカネのように使う」というのが経営の要諦なのである。

借金させて売れ p112

営業マンが高給取りになることのできる業種の代表的な例は、やはり不動産業である。
では、不動産業がなぜ特別か。

それは、「客に借金をさせてモノを買わせることができるから」に尽きる。

つまり、不動産というのは担保価値があるため、仮に客が100万円しか持っていなかったとしても、
900万円分は不動産の担保価値という建て付けにして、客に押し込めば、1000万円の売上を立てられるからである。

また、実際に不動産に設定されている担保価値がなかったとしても、
客の属性が堅い業種のサラリーマンであったり、親が公務員などであれば、銀行側としても回収漏れの確率は低くなる。

結局、個人相手に合理性のみで商売をしようとしても儲けられる金額には自ずと限界がある。

不動産が代表的なものだが、担保価値を利用した借り入れで客側の信用をレバレッジさせることによって、儲けを最大化することができるのである。

顯示的消費 p116

経済学では、「値段が下がれば需要は増えて供給が減る、値段が上がれば需要が減って供給が増える」というのが基本的な前提である。

しかし、ヴェブレンが喝破したように、「顕示的消費」においてはこの前提は成り立たない。
簡単に言ってしまえば、高級時計や高級スポーツカーなど、いわゆる奢侈財は、
「自分が上流階級であることを示す」ための商品であり、それゆえ、「高いからこそ意味がある」という側面があるわけである。

商売人にとって、これほどありがたいことはない。
普通、客は「少しでも安く」と求めてくるのに対し、奢侈財になると「高いからこそ買う」というスタンスで商品を選びにきてくれるのだ。

つまり、顕示的消費の局面においては、価格低下圧力という重力がかからない場所で商売を展開できるわけである。

因果の逆転 ~ 高いからいいものだ p117

「高級品」を売ることには別のメリットもある。

人間には「認知的不協和の解消」という特性がある。

つまり、矛盾する情報を同時に自分の中に抱えたとき、それを不快に感じるため、
事実を捻じ曲げて自分の都合のいいように解釈しようとする、という特性である。

キリスト教からサイバーエージェントまで ~宗教に共通する構造 p133

「信者ビジネス」を構築すると儲かる、と言ったところで、宗教構造を構築できないと話にならない。

そこで、宗教構造について検討してみたい。
宗教構造を作るときに必要なのは、「教祖」「教典」「教会」である。
キリスト教にせよ、イスラーム教にせよ、仏教にせよ、この基本構造は大きくは変わらない。

キラキラ系IT企業の代表として名高いサイバーエージェントでも、実はこの構造が取り入れられている。
サイバーエージェントは、「グループ総会」という全社員集会を行い、そこで教祖たる藤田晋社長が全社員に向かってメッセージを発する。
そして、「マキシムズ」という教典を社員全員が持ち、トイレにまで貼り出すことでその浸透を図っている。

サイバーエージェントの社員は、年収が50万円~100万円ほど上がる転職条件でも、なかなか転職しないことで定評がある。
実際、私も有利な条件での引き抜きに失敗したことがある。

そのような強い忠誠心を持った組織を作る基本構造として参照すべきなのが、宗教構造なのである。