「科学的な適職」を 2,024 年 12 月 06 日に読んだ。
目次
- メモ
- 直感で考える人の人生は「自己正当化」に終わる p84
- 一流アスリートほど大事にするたった一つの習慣とは? p109
- 工程の川上から川下まで関わることができるか? p128
- ネガティブはポジティブより600%強い p154
- お金で幸せはどこまで買えるか? p51
- 年収400~500万からの幸福度アップは費用対効果が悪い p55
- 給料アップの効果は1年しか続かない p58
- 専門家の予想精度はチンパンジーのダーツ投げと同じ p61
- 「10年後の仕事はこうなる!」はどこまで本当か? p63
- 私たちは自分の変化すら正しく予想できない p65
- エニアグラムの本質はタロット占いと同じ p75
- 30年にわたって批判を浴び続けてきたMBTI p78
- RIASECの予測力はほぼゼロ p79
- どんな天才でも2割は間違えるクイズとは? p201
- p211
- p280
メモ
直感で考える人の人生は「自己正当化」に終わる p84
「直感と論理のどちらが優秀か?」という問題については、過去の研究である程度の決着がついています。
2014年にボーリング・グリーン州立大学が行った研究では、274人の学生にアンケート調査を行い、彼らの意思決定スタイルを調べました。[23]
これは人間が生まれつき備え持つ意思決定の様式のことで、次の5つに分類されます。
①合理的:論理的に考えて選択する
②直感的:直感や感覚で決定する
③依存的:他者のアドバイスをもとに決定する
④回避的:決定を引き延ばそうとする
⑤自発的:できるだけ早く決定を終わらせようとする
状況によって意思決定スタイルが変わることはありますが、多くの場面において、たいていの人は特定の様式を守り抜くことがわかっています。
その後、研究チームは学生たちの友人や家族にもインタビューを行い、被験者が過去に行った選択とその精度もチェックしました。
「かつてどのようなバイトをしたか?」や「どのような学科を選んだか?」といった選択を調べ、果たして良い成果を得られたかどうかを調べたわけです。
そしてすべてのデータを総合したところ、結果は「合理的」な意思決定スタイルの圧勝でした。
どんな場面においても、論理的にものごとを考えるタイプの学生がもっとも大きな成果を収めていたのです。
一方で、直感的なスタイルを持っている学生は、自分では「私の選択は正しかった」と答えたわりには、友人や家族からの評価が低い傾向にありました。
どうやら直感に頼った選択は自己正当化につながり、他人からの客観的評価も低くなるようです。
この現象は他の研究でも一貫して確認されており、ほとんどの人生の選択においては、論理的に考える人のほうが人生の満足度が高く、日常のストレスも低いとのこと。[24]
やはり感覚には頼らずに合理的な精神を貫くのが、人生を成功に導くコツなのでしょう。
一流アスリートほど大事にするたった一つの習慣とは? p109
オリンピックの水泳で28個のメダルを獲得したマイケル・フェルプスは、試合前にいつも同じ行動を取ることで有名でした。
レースの2時間前になると必ずストレッチで全身をほぐし、それからプールで45分のウォームアップを行ったあと、今度は本番までヒップホップを聴いて過ごすのです。
コーチのボブ・ボーマンは、これらの行動について「レース前のささいな行為が勝利の感覚を与えてくれる」と表現しています。
ストレッチやウォームアップなどの行動を終えるたびにフェルプスは確実な達成感を得ることができ、そのおかげで自信を持ってレースに挑めたわけです。
このような「小さな達成」の重要性は、昔からスポーツの世界ではよく知られていました。
一流のアスリートほど「今週はフォームの改善を目指し、次の週は筋力アップに集中する」といったサブゴールを定め、1週間ごとに細かく達成感を積み上げていくケースが多かったからです。
近年では、科学の世界でも「小さな達成」が仕事のモチベーションを大きく左右することがわかってきました。
関連する研究は山のように存在しますが、一番有名なのはハーバード大学が行った調査でしょう。
「仕事のモチベーションを高める最大の要素とは何か?」との疑問に答えを出すべく、研究チームは7つの会社から238人のビジネスマンを集め、全員のパフォーマンスの変動を12000時間にわたって記録し続けました。[6]
仕事の“やりがい”について、ここまで徹底的に調べた研究は他にありません。
その結論をひとことでまとめれば、
・人間のモチベーションがもっとも高まるのは、少しでも仕事が前に進んでいるとき
のようになります。
仕事のやる気を左右する要素はいろいろあるものの、ずば抜けて影響力が大きいのは「ものごとが前に進んでいる」という感覚だったのです。
工程の川上から川下まで関わることができるか? p128
現代において「多様」の考え方をもっとも実践している企業といえば、「トイストーリー」シリーズで有名なピクサーでしょう。
同社にはピクサーユニバーシティーという教育施設が存在し、すべての社員は複数のスキルを無料で学ぶことができます。
スキルの内容は「絵の描き方」や「実写映画の撮り方」まで幅広く、ここで身につけた技術は、再び新たなプロジェクトに使うように指導されるのです。
この制度は、ピクサーから人材の流出をふせぐために始まりました。
当初はピクサーも社員の役割を完全に固定していたのですが、少しずつスタッフのあいだに退屈感が広まり始め、やがて優秀な人材がヘッドハンティングで引き抜かれる事態が続出。
これを重く見たピクサーは「多様」の考えを取り入れ、スタッフの飽きをふせぐシステム作りを始めたわけです。
従来の経営理論からすれば利益を下げかねない取り組みですが、おかげでピクサーの離職率は大幅に減ったとのこと。
結局は優秀な人材が残ったのだから、長期的には大成功と言えます。
残念ながらピクサーほど「多様」を重んじる会社は簡単には見つからないでしょうが、それでも次のポイントはチェックしておいてください。
・プロジェクトの川上から川下まで関与できるか?
たとえば、あなたが衣服の販売員としてアパレルの会社に入った際に、新しい服の企画会議にも参加でき、デザイナーに要望を伝えられ、完成した商品を売り広める段階まで関わることができれば、たんに「君は客に服を売ればいい」とだけ言われるよりも確実にモチベーションは上がるでしょう。
プロジェクト全体の流れが見わたせるおかげで責任感が生まれ、そこに仕事の意味を見出しやすくなるからです。
重要なのは、仕事の「始まり」から「終わり」までの工程に、どこまで関わることができるかです。
さすがにプロジェクトの全行程にからめるような仕事は少ないでしょうが、適職選びのポイントとして押さえておいてください。
ネガティブはポジティブより600%強い p154
「悪は善より強い」
科学の世界には、昔からそんな格言があります。
社会心理学者ロイ・バウマイスターの論文で有名になったフレーズで、ネガティブな経験はポジティブな経験よりも心に残りやすく、頭から取り除くのが困難になってしまう事実を指したものです。
この現象は人生のあらゆるエリアで確認されており、たとえば男女の恋愛関係においては、ネガティブとポジティブの強度の比率はおよそ5:1であることがわかっています。[1]
つまり、もしカップルが喧嘩を1回した場合は、プレゼントや旅行といった前向きなイベントが5回起きないと、ネガティブな感情を埋めあわせできないわけです。
ビジネスの世界ではさらに厳しい数字が出ており、ネガティブとポジティブの比率はだいたい6:1になります。[2]
仕事でミスを1回犯したら、その埋め合わせには6回の成功が必要だというのだから、なんとも大変な話です。
お金で幸せはどこまで買えるか? p51
どうせ働くなら誰でもお金は欲しいもの。
収入の多さで仕事を選びたくなるのは自然なことですし、「とりあえず給料が高い求人から優先的に探す」という人も少なくないでしょう。
ところが、こちらも幸福度アップの点では問題があります。
給料が多いか少ないかは、私たちの幸福や仕事の満足度とはほぼ関係がないからです。
代表的なのは、フロリダ大学などが行ったメタ分析でしょう。[6]
メタ分析とは、過去に行われた複数の研究データをまとめて大きな結論を出す手法のことです。
大量のデータを分析するぶんだけ精度も高くなるため、数ある研究手法のなかで現時点でもっとも正解に近い結論を出すことができます。
フロリダ大学のメタ分析は「お金と仕事の幸福」について調べた先行研究から86件を精査した内容で、アメリカ、日本、インド、タイなどのあらゆる文化圏から集めたデータを使っています。
お金と幸福に関する調査としては、現時点でもっとも精度の高い結論と言えるでしょう。
その結果は次のようなものです。
・給料と仕事の満足度は「r=0.15」の相関係数しかない
相関係数は2つのデータの関係を表す指標で、この数が1に近いほど関係が強いとみなされ、多くの場面では0.5以上の値を取れば「関係がある」と判断されます。
一例をあげると、多くの人が生まれつきの性格に沿った行動を取りやすいのは当然の話でしょう。
内向的な人は積極的にパーティには参加しないでしょうし、好奇心が強い性格に生まれた人は海外旅行や美術展などへ積極的に出向くはずです。
両者の関係性を調べた研究によれば、性格と行動の長期的な相関係数は0.9でした。[7]
人は性格どおりの行動を取る」という考え方は実に当たり前なだけに、やはり実際にも高い数値を弾き出すわけです。
これに比べると0.15という数値はかなり小さく、統計的には「ほぼ無関係」と言えるレベルです。
日常的な言葉で言い換えれば「給料が高くなれば仕事の満足度はほんの少しだけ上がるかもしれないものの、現実的にはまず意味がない」ぐらいの意味になるでしょう。
「金で幸せは買えない」とは言い古されたフレーズですが、科学的にはまぎれもなく真実だったようです。
年収400~500万からの幸福度アップは費用対効果が悪い p55
「年収800万円が幸福度のピーク」との説を聞いたことがある人は多いでしょう。
ノーベル賞受賞者であるダニエル・カーネマンの研究で有名になった事実で、あらゆる職種の年収とメンタルの変化を調べると、およそ年収が800~900万に達した時点で幸福度の上昇は横ばいになります。
これは世界中どこでも見られる現象で、アメリカでも日本でも幸福になれる金額の上限はさほど変わりません。
もっとも、この数字はあくまで「それ以上はいくら稼いでも幸福度がほぼ変わらなくなる」最大値を示したものであり、現実的にはもっと手前から幸福度は上がりにくくなります。
たとえば、令和元年に内閣府が発表した「満足度・生活の質に関する調査」では、1万人を対象に世帯年収と主観的な満足度の変化を比べました。[9]
「100万円未満」5.01点
「100万円~300万円未満」5.20点
「300万円~500万円未満」5.68点
「500万円~700万円未満」5.91点
「700万円~1000万円未満」6.24点
「1000万円〜2000万円未満」6.52点
「2000万円~3000万円未満」6.84点
「3000万円~5000万円未満」6.60点
「5000万円~1億円未満」6.50点
「1億円以上」6.03点
世帯年収300万~500万円のあたりから満足度の上昇が鈍り始め、1億円に達しても大した数値の変化が見られていません。
カーネマンの研究とは指標が違うため単純な比較はできませんが、日本においても世帯年収が300万~500万円を過ぎたあたりから、急に満足度が上がりにくくなるようです。
また、日本をふくむ世界140か国の収入と幸福度の相関を計算した研究では、こんな結論も得られています。[1]
・年収が400~430万円を超えた場合、そこからさらに幸福度を5%高めるには追加で年に400~430万円が必要になる
つまり、すでにあなたが年に400万円を稼いでいるなら、もし年収が倍になったとしてもほんのちょっとしか幸福度は上がらない可能性があるわけです。
もちろん現在の日本人の年収は約350~360万円ぐらいが中央値なのでもう少しのびしろがありますし、各国で税負担の割合やインフレ率などが異なるため、これらの数値は必ずしも正確だとは言えません。
さらに細かいことを言えば地域によっても生活コストは変わるため、大都市と地方でも上限は変わるでしょう。
とはいえ、多めに見ても私たちの幸福度が年収400~500万のあたりから上昇しづらくなる可能性は高いと言えます。
おおまかな参考にしてください。
給料アップの効果は1年しか続かない p58
「お金で幸せが(ある程度までしか)買えない」のには、大きく2つの理由があります。
①お金を持つほど限界効用が下がる
②お金の幸福は相対的な価値で決まる
「限界効用」は経済学で使われる概念で、モノやサービスが増えるほどそこから得られるメリットが下がってしまう現象を表したものです。
何も難しい話ではなく、どれだけ好きなケーキでも本当に美味しいのは最初の一個だけで、矢継ぎ早に2個、3個と食べていけば、やがて味もわからなくなっていくでしょう。
この状態を、ちょっと難しく「限界効用が下がった」と表現しただけです。
限界効用の低下はどの文化圏でも見られる現象で、私たちはいくら贅沢をしようがすぐに慣れてしまい、幸福度はもとのベースラインにもどります。
また、年収に限って言えば、給料アップによる幸福度の上昇は平均して1年しか続きません。
3万3500件の年収データを分析したバーゼル大学の調査によれば、たいていの人は給料がアップした直後に大きく幸福度が上がり、その感覚は1年まで上昇を続けます。
しかし、給料アップの効果が得られるのはそこまでで、1年が過ぎた後から幸福度は急降下を始め、それから3年もすればほぼもとのレベルまでもどっていくようです。[1]
給料から得られる喜びは実に短命です。
そしてもうひとつ、お金から得られる幸福は相対的に決まりやすい、という問題もあります。
年収アップの喜びとは、給与明細の絶対額ではなく他人がもらう給料との比較で決まるのです。
たとえば、もしあなたが百万長者だったとしても、周囲が億万長者ばかりだったら幸福度は上がりません。
苦労して高価な腕時計を買ったとしても、友人がより高い腕時計を持っていれば、そこから得られる幸福感は低下します。
これは心理学で「ランク所得説」と呼ばれる現象で、8万を超す観察研究で何度も確認されてきました。[2]
「他人と自分を比べるな!」とはよく聞くアドバイスですが、どうしても周囲の様子をうかがいたくなるのは人間の本能のようです。
もちろん、以上の話をもって「給料で仕事を選ぶな!」と主張したいわけではありません。
まったく条件が同じ仕事があれば収入が多い職を選ぶべきですし、少なくとも年収800~900万まではジリジリと幸福度は上がり続けるのだから、そこにリソースを投入して生きるのもまた人生でしょう。
が、劇作家のバーナード・ショーも言うように、「20代の頃より10倍金持ちになったと言う60代の人間を見つけるのは簡単だが、そのうちの誰もが10倍幸せになったとは言わない」はずです。
年収アップだけを追いかける人生は、どうしても費用対効果が低くなってなってしまいます。
それならば、数パーセントの幸福度を上げるためにあくせく働くのをやめて、最低限の衣食住を満たしたあとは空き時間を趣味に費やすというのもひとつの生き方でしょう。
すべてはあなたの選択次第です。
専門家の予想精度はチンパンジーのダーツ投げと同じ p61
好きな業界や職種から仕事を選ぶのも、キャリアチョイスの世界ではよく見かける光景でしょう。
「これからはフィンテックが伸びるだろう」や「キャッシュレス決済が来ているな……」のように有望そうな業種で選んだり、シンプルに「なんとなく興味があるから」や「楽しそうだから」といった個人的な興味で仕事を選ぶパターンです。
衰退しそうな業界よりは将来が安心な業界、興味がない職種よりは関心の持てる職種に就きたいと思うのは当然です。
が、この考え方が誤りなのには、2つの理由があります。
①専門家だろうが有望な業界など予測できない
②人間は自分の個人的な興味の変化も予測できない
第一の問題は、専門家の予測がまったく当てにならない点です。
確かに「業界の未来予測」にはつねに一定の需要があり、少し探せば「伸びる業界と沈む業界はこれだ!」や「IRを参考に有望な会社を選ぶ方法」といった情報がいくらでも見つかるでしょう。
なかにはマッキンゼーやオックスフォードといったそうそうたる機関の未来予測も存在し、私たちの気持ちを揺さぶってきます。
ところが、これら専門家の予想は基本的に当たりません。
どれだけ知名度のあるエキスパートだろうが、予想の精度はコイン投げと変わらないのです。
その点でもっとも有名なのは、ペンシルバニア大学のデータでしょう。[13]
研究チームは、1984年から2003年にかけて学者、評論家、ジャーナリストなど248人の専門家を集め、3~5年後の経済や企業の状況、政治などがどうなっているかを予想させました。
専門家の予想が正しいのかどうかを調べた研究としては、現時点でもっとも精度が高い内容です。
最終的に集まった28000超の予測データをすべてまとめたところ、結果は「専門家の予想はほぼ50%の確率でしか当たらない」というものでした。
著者のフィリップ・テトロックは、この状況を「専門家の予測はチンパンジーのダーツ投げと同じ正確性しかない」と表現しています。
それだけ私たちは、未来の予測が苦手なのです。
「10年後の仕事はこうなる!」はどこまで本当か? p63
クリントンやブッシュ政権で国防の任務についたリントン・ウェルズも、2009年に発表した文書のなかで専門家の未来予測を皮肉っています。
当時のアメリカ議会は定期的に今後20年の予測を立てており、未来の経済や政治の状況をつかむために多大な税金を投入していました。
この事態にいきどおったウェルズは、1900年から現代にいたるまでの歴史の流れをまとめ、いかに未来予測が当てにならないかを指摘したのです。
たとえば、こんな具合です。
・1980年ごろアメリカは歴史上で最大の債権国であり、誰もがその状態が続くと考えていた
・1990年代、今度はアメリカは史上最大の債務国に変化。ほとんどの人はインターネットの存在を知らず、物質経済の成長がそのまま続くと思われた
・10年後、情報やバイオテクノロジーなどの分野で革命が起き、産業はさらに予測不可能になった
どんな専門家でも3年先の未来すらまともに見抜けないのだから、10年単位のスパンで経済や企業の変動を見抜くことができる人などこの世に存在しません。
いまとなっては信じがたいものの、1980から1990年代にかけては、多くのエキスパートが「日本はすぐ世界経済のトップになる」と予測していたのは有名な話です。
「10年後の仕事はこうなる!」や「未来の働き方はこう変わる!」といった主張を信じるのは自由ですが、未来の経済や企業の動向を正しく予測できるような人も手法も存在しないのは間違いありません。
私たちは自分の変化すら正しく予想できない p65
あなたがいま興味のある業種や職種に就こうとするのも、問題の大きい考え方です。
専門家の未来予想が当てにならないように、あなたが自分自身の将来にくだす予測もまた当てにならないからです。
一例として、ハーバード大学などが行った大規模なリサーチを見てみましょう。[14]
研究チームは18~68歳までの男女19000人以上を集め、まずは各自の好きな人のタイプや好きな趣味、お気に入りの職業といった幅広いポイントを調べ上げました。
そのうえで、被験者に2つの質問をしています。
①「今後10年であなたの価値観や好みはどこまで変わると思いますか?」
②「過去10年であなたの価値観や好みはどこまで変わりましたか?」
これらのデータセットを照らし合わせたところ、人間の好みの変化には一貫した傾向が認められました。
18~68歳までのどの年齢を取ってみても、ほぼすべての被験者が、10年のあいだで自分の身に起きる変化を過小評価していたのです。
たとえば、あなたが18歳のころに「将来は喫茶店をやりたい」と考えていたとしても、28歳まで同じ希望を保ち続けているかどうかの予測は不可能です。
さらに、28歳になったら今度はマーケティングに興味が出たとしても、その10年後には、過去に存在すらしなかった新しい業種に心を奪われているかもしれません。
被験者のなかには子供のころの夢を追い続けている人もいましたが、そのようなケースはあくまで少数派でした。
若いころに彫ったタトゥーを成人後に消したくなる人や、かつ結婚を切望したはずのパートナーと離婚する人が後を絶たないように、私たちは自分自身の変化すら正確に予想できないのです。
心理学者たちは、このような現象を「歴史の終わり幻想」と呼んでいます。
大半の人は「現在の価値観や好みがもっとも優れている」と思い込み、過去に起きたような変化が未来にも起きる可能性を認めません。
しかし、実際の世界は、専門家も予想できないペースでめまぐるしく移り変わり、その状況に応じてあなたの好みと価値観も変わり続けます。
いま特定の業種・職種を選んだとしても、数年後に後悔している可能性は十分にあるでしょう。
先に見たリントン・ウェルズは、アメリカ議会に宛てた文書を次のように締めくくっています。
「未来の状況はわからないが、少なくともわれわれが想定しているものとはまるで違うことだけははっきりしている。そうした認識に沿って計画を立てるべきだ」
エニアグラムの本質はタロット占いと同じ p75
「何事もきちんとしていたいほうですか?」
「人に何かリクエストするのは苦手ですか?」
就職サイトにアクセスすると、このような質問が並ぶのをよく見かけます。
これは「エニアグラム」と呼ばれる理論にもとづく性格診断の一種で、自分に合った職業がわからずに悩む人が適職を探すためのサービスです。
いくつかの質問に答えると「知的好奇心が強学者タイプのあなたは専門知識を活かせる仕事が適職」といったアドバイスが表示され、あなたの進路に道筋を与えてくれます。
この他にも、「RIASEC」や「マイヤーズ・ブリッグス」といった性格テストが就職サービスの定番でしょう。
いずれも昔から存在する性格理論を採用しており、多くのユーザーに使われていますが、果たしてこれらのテストは適職探しに役立つのでしょうか?
結論から言えば、答えはノーです。
残念ながら、性格診断によって適職が見つかる保証はどこにもありません。
まずは「エニアグラム」から見てみましょう。
「エニアグラム」は、人間を「改革する人」や「達成する人」など9つのタイプに分類する性格診断で、神秘思想家のオスカー・イチャーソによって開発されました。
その点で、「エニアグラム」は根本的にスピリチュアルな背景を持っています。
だからといって必ずしも悪いわけではありませんが、このテストの問題点は、結果をいかようにも解釈できてしまう点です。
「エニアグラム」の考え方によれば、人間はそれぞれが特有の欲望と恐怖のパターンを持ち、その種類によってパーソナリティが分かれると考えます。
たとえば、タイプ6の「信頼を求める人」は安全を求めて孤独を嫌い、タイプ9の「平和を好む人」は安定を好んで葛藤を嫌う、といった具合です。
が、すでにお気づきでしょうが、「安全」と「安定」はかなりのところまで似通った概念であり、両者をハッキリと区別することはできません。
不安になりやすい人がこの分類を見れば、タイプ6とタイプ9のどちらについても「自分のことだ!」と思ってしまうはずです。
おもしろいもので、海外の解説サイトなどでは「エニアグラムにおいては、各タイプの説明をいかに解釈するかを学ぶ必要がある」などと書かれているケースも多くみられます。[1]
こうなると、やっていることはタロット占いと変わりません。
この認識は学問の世界でも広く認められており、「エニアグラム」をまともに調べた事例はありません。
そもそも解釈が主観的なため、再現性を重んじる科学の検証には耐えられないからです。
ちなみに、国内のエニアグラムサイトには「スタンフォードが効果を実証」との主張も見られますが、これは明らかに間違いです。
正しくはスタンフォード大学を修士で卒業した作家がエニアグラムの本を出版しただけで、正式な論文出版のプロセスをふんだわけではありません。
ご注意ください。
30年にわたって批判を浴び続けてきたMBTI p78
もうひとつ日本でよく使われるのが、「マイヤーズ・ブリッグス」(MBTI)です。
こちらは1962年にアメリカの教育者が開発した性格テストで、人間のパーソナリテイを直感、思考、感情などの8つの指標でとらえ、最終的に16のタイプに性格を分類します。
いまでは就職支援の他にも企業研修や人材育成にも使われており、世界でも一二を争う人気の手法と言えるでしょう。
しかし、その人気とは裏腹に、「MBTI」は過去30年にわたって批判を浴び続けてきた手法でもあります。
もっとも問題なのは、テストを受けるたびに違う結果が出てしまう点です。
2000年代に行われた複数の実験によれば、「MBTI」を行った被験者のうちおよそ半分が、5週間後のテストではまったく別のパーソナリティに分類されました。[19]
一貫した結果が出ないのでは、適職選びに使えるはずがありません。
このテストによって仕事のパフォーマンスがうまく予想できたケースも存在しておらず、111の先行研究を調べたミシシッピ大学のレビューでは「MBTIの効果は落胆すべき結果に終わった」との結論を下しています。[20]
実際には「MBTIには適職を見抜く力がある」との結論を出したデータもなくはないのですが、その大半は「MBTI」を推奨する協会や団体が出資者に名を連ねており、信頼性には大きな疑問符がつきます。
現時点では「MBTI」を支持するデータはないと考えて差し支えないでしょう。
RIASECの予測力はほぼゼロ p79
大学の就活カウンセリングなどで、「RIASEC」というテストを使ったことがある人は少なくないでしょう。
心理学者のジョン・ホランドが考案した「職業選択理論」にもとづく適職診断で、「職業レディネス・テスト(VRT)」「職業興味検査(VPI)」「適職診断テスト:CPS-J」「SDSキャリア自己診断テスト」など、さまざまな亜種が生み出されています。
その考え方はいずれも同じで、人間の性格を「現実的」「研究的」「芸術的」などの6パターンに分け、それぞれに最適な職業を勧めるというものです。
たとえば、現実的な人には機械や工学が推奨され、芸術的な人には美術やデザイン系の仕事が向いていると判断されます。
心理学者が考案したと聞くと信憑性がありそうにも感じますが、やはり「RIASEC」も心もとない手法のひとつです。
もっとも決定的なのは2011年にフロリダ州立大学が発表したメタ分析です。[21]
研究チームは過去の「RIASEC」研究から信頼性が高い24件をまとめ、現時点ではもっとも精度の高い結果を出しました。
その結論をひと言で言えば、「RIASECの予測力はほぼゼロ」というものです。
たとえ「RIASEC」が向いていると判断した仕事に就いたとしても、その人が本当に高いパフォーマンスを発揮できるかどうかはまったく予想できなかったのです。
「RIASEC」の成り立ちを考えれば、それも当然でしょう。
そもそも「職業選択理論」とは、ホランド博士が自らのカウンセラー経験のなかで「なんとなく性格と職業には関係があるな……」と考えたアイデアを体系化したものです。
なんらかのデータを用いたわけでもなく、あくまで一個人の思いつきにすぎません。
それにも関わらず、いまも大学やキャリアカウンセリングの世界で実際に使われているのは、まことに謎としか言いようがない事態です。
どんな天才でも2割は間違えるクイズとは? p201
私たちに生まれつき備わったこのバグは、行動経済学では「バイアス」と呼ばれます。
直訳すれば「偏ったものの見方」のことで、「人間はつねに一定の決まったパターンでミスを犯す」という現象を表した言葉です。
バイアスの例として、たとえば次のクイズについて考えてみましょう。
「ある父子が自動車事故にあってしまい、父は近所の病院に送られ、息子は別の病院に送られました。
幸いにも、その病院には天才と名高い院長がおり、その院長がじきじきに息子を処置してくれることになりました。
しかし、病室に運ばれてきた息子を見て、院長は即座に言いました。
『私には彼を手術することができません。彼は私の息子なので失敗が怖いのです』。
どういうことでしょうか?」
果たして、事故にあった父親が母親の再婚相手だったのか?
それともまた別の事情があるのか?
なんとも不可解な話ですが答えはとてもシンプルで、問題の担当医がその息子の母親だったのです。
このクイズは心理学の研究で実際に使われるもので、どんなに知性が高いグループでも、即座に正解できる人は2割もいません。
たいていの人は、問題を聞くとすぐに「院長は男性に違いない」と思い込み、それ以外の可能性を探そうとしなくなってしまうからです。
これがバイアスの基本的な考え方になります。
バイアスにはさまざまな種類が存在しており、現時点で研究で確認されたものだけでもおよそ170件以上。
それぞれのバイアスには、意思決定を誤らせるもの、記憶を歪めるもの、人間関係を乱すものなどがあり、あらゆる方向から私たちを間違った道に誘い込みます。
適職探しにおいてもその悪影響は変わらず、たとえば「確証バイアス」が代表的です。
これは、自分がいったん信じたことを裏づけてくれそうな情報ばかりを集めてしまう心理で、「いまの時代はフリーな働き方が最高だ」と思い込んだ人が、独立して成功を収めた人の情報ばかりを集め、同じような考え方をする仲間とだけ付き合うようになるのが典型例です。
いったんこの状態にハマった人は、大企業の良いニュースや独立に失敗した人の情報には目もくれず、最後は自分と違う生き方を好む人たちを批判し始めるケースも珍しくありません。
カルト宗教の発生と同じようなメカニズムです。
私たちが克服すべきバイアスは山ほど存在しますが、ここでは「確証バイアス」の他に仕事選びのジャマになりがちなものを簡単に見てみましょう。
・アンカリング効果
選択肢の提示されかたによって、まったく異なる決定をしてしまう心理現象です。
たとえば、あなたが転職先を選ぶ最初の段階で「年収500万」の企業にひかれたとしましょう。
すると、この「年収500万」という数字が基準値になってしまい、ステップ1で見たように「お金は重要ではない」と頭ではわかっていても、どうしてもそれ以下の年収では物足りなくなってしまいます。
・真実性の錯覚
くり返し目にしただけの理由で、その情報を「真実に違いない」と感じる心理のことです。
ニュースサイトなどで「これからの働き方は従来のルールが通じない」や「今後は個人の能力が問われる時代だ」といった文言に何度も触れたせいで、そこに数字やデータの裏づけがなくとも事実だと思い込んでしまいます。
・フォーカシング効果
職探しにおいてあなたが重要視するポイントが、実際よりも影響力が大きいように感じられてしまう状態です。
「Googleのように社食が充実していたら最高だろう」と思っていれば社食がもたらす喜びが必要以上に大きく見えますし、「福利厚生だけは譲れない」と考えていれば福利厚生を重んじる会社が実態より良く感じられてしまいます。
・サンクコスト
いままでたくさんの時間とお金を使ってきたからという理由で、メリットがない選択にこだわり続けてしまう状態です。
何年もがんばって働いてきた職場であれば、いかに業績が傾いてきたとしても、すぐに転職を決意するのは難しいでしょう。
過去と自分を切り離すのは容易な作業ではなく、これまたあなたの幸福を下げる要因となります。
・感情バイアス
自分の考えが間違っているという確かな証拠があっても、ポジティブな感情を引き出してくれる情報に飛びついてしまう心理傾向です。
厳しい事実を受け入れるのは誰でも嫌なものですが、ネガティブな感情を避けたいあまりに「好きを仕事にしよう!」や「10年後の有望な企業はこれだ!」といった手軽な情報にばかり意識が向かってしまう現象は誰にでも覚えがあるでしょう。
p211
未来を思うことで判断力が上がる現象のことを、心理学では「拡張された自己」と呼びます。
p280
無計画のまま享楽的に生きるのではなく、かといって適職の幻を追い続けるのでもなく、目の前の選択肢についてしっかりと考えたら、あとは人生の流れに身を任せる。
これがキャリア選択における「人事を尽くして天命を待つ」の正しい姿です。