「HARD THINGS」を 2,023 年 04 月 25 日に読んだ。
目次
- メモ
- p17
- p24
- p95
- p98
- p98
- 困難な問題に取り組む頭脳は多いほど良い p103
- そもそも、親友の代わりに誰かを雇うべきなのか? p122
- なぜ部下を教育すべきなのか p154
- 数字で厳しく管理することはぬり絵キットに似ている p189
- 経営的負債 p192
- 重要な社員が引き抜かれそうなので、不相応な雰酬を与える p195
- 社内政治を抑えるテクニック p212
- 例2 信頼性のなさ p234
- 個人面談 p246
- ドアの板でつくったデスク p253
- 何を壊してもいいから全速力で動け p255
- 職場でヨガができたりするのは企業文化ではない p256
- p371
- p376
- スカイプ、フェイスブックなどへの投資で超有力ベンチャーキャピタルに p383
メモ
p17
この経験は何事であれ、表面で判断してはならないことを私に教えた。
人でも物事でも、よく知る努力をしない限り、何も知ることはできない。
知ることに近道はない。
特に個人的な経験によって得られる知識に近道はない。
努力なしの近道や手垢のついた常識に頼るくらいなら、何も知らないほうがよほどましだ。
p24
ちょうどそのころ、私のふたり目の子供、マリアが自閉症と診断され、状況をさらに困難にした。
この状態で私がスタートアップで働き詰めになるというのは、家族に非常に大きな負担を強いることになった。
p95
この章では経営陣のクビを切ったり、社員をレイオフしたりする方法といった深刻な話題も扱うが、
私はあえて大失敗のあとの悪戦苦闘という課題を最初に持ってきた。
そうするために、私は「武士道」――戦士のとるべき道――の第一原則に従う。
それは、「常に死を意識せよ」だ。
戦士が常に死を意識し、毎日が最後の日であるかのように生きていれば、自分のあらゆる行動を正しく実行できる。
同じように、CEOがこの章で紹介する教えを守っていれば、雇用、教育、企業文化の形成において、常に視点を正しく保てるだろう。
p98
ほとんどの人は、そこまで強くない。
スティーブ・ジョブズからマーク・ザッカーバーグまで、どんな偉大な起業家も苦闘に取り組み、困難を乗り越えてきた。
だからあなたはひとりではない。
しかし、ひとりでないからといって、あなたが成功するという意味ではない。
うまく行かないかもしれない。
だからこそ、苦闘なのだ。
苦闘は、偉大さが生まれる場所である。
p98
単純なゲームではない。
苦闘は戦略が必要なチェスだ。
ITビジネスは、とてつもなく複雑になってきた。
テクノロジーが動くとライバルが動き、市場が動き、人が動く。
その結果、スタートレックの3次元チェスのように常に打つ手はある。
売上200万ドル、社員340人の会社を上場して、翌年7500万ドルを売り上げるという方法はどうだろうか。
私の打った手がまさにそうだった。
2001年、IT企業が上場するには史上最悪の時期だと誰もが考えていたとき、私はそうした。
6週間分の現金しか残っていなかった。
打つ手は必ずある。
長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない。
テクノロジーゲームでは、明日は今日とまったく違う。
明日まで生き延びれば、今日はないと思えた答えが見つかるかもしれない。
被害者意識を持つな。
困難は、おそらくすべてあなたの責任だろう。
人を雇ったのも、決断したのもあなただ。
あなたは、リスクがあることを知っていた。
誰でも過ちを犯す。
どのCEOも、無数の過ちを犯す。
自分を評価して、「不可」を付けたところで慰めにもならない。
良い手がないときに最善の手を打つ。
偉大になりたいならこれこそが挑戦だ。
偉大になりたくないのなら、あなたは会社を立ち上げるべきではなかった。
困難な問題に取り組む頭脳は多いほど良い p103
すばらしいテクノロジー企業を築くには、驚くほど賢い人々を大勢集めなくてはならない。
たくさんの大きな脳を最大の問題に使わないのは、大いなる無駄遣いだ。
脳は、たとえどんなに大きい脳でも、知らない問題は解決できない。
オープンソースコミュニティがこう言っている。
「十分な数の目玉があれば、どんなバグも洗い出される」
そもそも、親友の代わりに誰かを雇うべきなのか? p122
必ず最初に思い浮かぶ疑問はこうだ。
「本当に親友の代わりに誰かを雇う必要があるのか。
これほど懸命に働き、会社のために血を流せるような人物がほかにいるのか」。
悲しいかな、その質問をしているのがあなたなら、もう答えを知っているに違いない。
グローバルなセールス部門をつくるなら、その友人はほぼ間違いなく最良の選択ではない。
あなたは、まず全社員のことを考えるべきであり、友達はその次だ。
個人の利益は、全体の利益のために犠牲にならなくてはならない。
なぜ部下を教育すべきなのか p154
私はネットスケープで働いていたときに、スタートアップが社員教育をすべき理由を学んだ。
マクドナルドの従業員がそれぞれの仕事のための教育を受けているのに、
それよりはるかに複雑な仕事をする人たちが教育を受けないのはおかしい。
マクドナルドへ行き、訓練されていない店員の列に並びたいだろうか?
プログラム全体が何をするか教えられたことのないエンジニアの書いたソフトウェアを、あなたは使いたいと思うだろうか?
多くの会社が、社員は優秀なので教育は必要ないと考えている。
ばかげた話だ。
この体験に基づき、ラウドクラウドを立ち上げて以来、私は教育に多大な投資をしてきた。
あの投資のおかげで、会社の最終的な成功があったと私は考えている。
そして、そのすべての始まりは、自分の部下を教育するというありふれた決断と、さらにありふれた教材だった。
数字で厳しく管理することはぬり絵キットに似ている p189
促進する対象には、定量化できるものとできないものがある。
定量的な目標についてばかり報告して、定性的な目標を無視していれば、
定性的な目標は達成できない――たとえそれがもっとも重要な目標であったとしても。
純粋に数字だけによるマネジメントは、数字通りに色を塗るぬり絵キットのようなもの――あれはアマチュア専用だ。
HPでは、会社が現在と将来の両方で高い売上を求めていた。
完全に数字だけに集中している今のHPは、将来を犠牲にして成り立っている。
大きな売上の数字だけでなく、次のように役に立つ定性的な目標がもっとあったはずだ。
対ライバルの勝率は、上がっていたか下がっていたか?
顧客満足度は、上がっていたか下がっていたか?
わが社のエンジニアたちは、この製品をどう思っていたのか?
組織をブラックボックスのように扱った結果、HPのいくつかの部門は将来の競争力を犠牲にして現在に最適化した。
会社は、会社にとって良くない方法で短期目標を達成したマネジャーたちに、褒賞を与えた。
ここでは、ホワイトボックス・テストをすべきだった。
ホワイトボックス・テストでは、数字だけでなく、組織がどうやってその数字を生み出したかにも注目する。
短期のために将来を犠牲にするマネジャーにはペナルティが科され、
将来に投資するマネジャーは、たとえ測定が困難な投資であっても報われる。
経営的負債 p192
最初のウィキをデザインしたコンピュータ・プログラマーであるウォード・カニンガムのおかげで、
「技術的負債」という比喩が一般に通用する概念になった。
行き当たりばったりの汚いコードを書いて一時的に時間を借りることはできても、最終的には利子を付けて返済しなくてはならない。
このトレードオフが理にかなっていることもあるが、トレードオフの存在を常に意識しておかないと、深刻な事態に陥る。
あまり認知されていないが、これとよく似た概念がある。
私が「経営的負債」と呼ぶ概念だ。
技術的負債と同じく、経営的負債は、一時しのぎの短期的な経営判断が、高くつく長期的災いを招く。
技術的負債と同じく、トレードオフは時として理にかなっているが、多くの場合そうではない。
さらに重要なのは、予期しないまま経営的負債を生じさせた場合、最終的に経営破綻を起こすことだ。
技術的負債と同じく、経営的負債のあらゆる形態を詳しく語るには種類が多すぎるが、いくつか特徴的な事例を挙げて概念を説明しよう。
スタートアップによく見られるタイプの事例を 3つ挙げる。
1 ひとつの役職にふたりを据える
2 重要な社員が引き抜かれそうなので、不相応な報酬を与える
3 実績管理も従業員フィードバックのプロセスもない
重要な社員が引き抜かれそうなので、不相応な雰酬を与える p195
ある優秀なエンジニアが他社から高給を提示されたので、辞める決心をした。
さまざまな理由により、CEOが払っていた報酬は低かったが、他社が提示した金額は自社のどのエンジニアよりも高かった。
ただし、そのエンジニアはCEOにとって最高のエンジニアではなかった。
それでもそのエンジニアは重要なプロジェクトの一員であり、失うわけにはいかない。
そこでCEOは他社の提示額に対抗した結果、プロジェクトは救ったが負債を増やした。
支払い期限はこうして迫ってくる。
CEOは自分の対案を秘密情報だと思っているかもしれない。
そのエンジニアには秘密を守るよう誓約させたからだ。
しかし、彼女には社内に友達がいる。
他社から提示を受けたときに、彼女は友人たちに相談した。
親しい友達のひとりは、他社の提案に応じることを勧めた。
会社に残る決断を下したとき、彼女は助言を無視した理由を友達に説明しなければならなかった。
さもなければ、自分が信用を失うからだ。
彼女は友達に話し、秘密を守るよう約束させた。
友達は秘密を守ることを誓ったが、そのエンジニアが当然の昇給を得るために辞めると言って会社を脅迫しなければならなかったことに憤慨した。
さらにCEOが彼女に相応以上の待遇を提示したことにも怒っている。
よって何人かの友人にこの話をしたが、彼女の名前を伏せることで秘密は守った。
そして今やエンジニアリング部門全員が、給料を上げる一番の方法は、ほかの会社に高給を提案させ、辞めると言って脅すことだと知っている。
この負債の返済には、かなりの時間がかかりそうだ。
社内政治を抑えるテクニック p212
CEO時代に私は、社内政治を抑制するためにいくつか有用なテクニックを身に着けた。
第一は、「正しい野心を持った人材を採用する」ことだ。
会社をアメリカ上院みたいな政治の場にしたければ、間違った野心を持つ人間を雇うのがてっとり早い。
長年インテルを率いたアンディ・グローブによれば、「正しい野心家」というのは
「会社の勝利を第一の目標とし、その副産物として自分の成功を目指す」ような人物だという。
それに反して「悪い野心家」は、「会社の業績がどうあろうと自分個人の成功が第一」というタイプだ。
例2 信頼性のなさ p234
ときおり、非常に頭がいいにもかかわらず、まったく信頼できない人間がいる。
オプスウェアでロジャー(仮名)という天才級の人物を採用したことがある。
彼が担当したのは、普通のエンジニアなら生産性を発揮できるようになるまで少なくとも3カ月はかかるような分野だった。
ところがロジャーは、たった2日ですべてを習得してしまった。
そこで3日目にロジャーを1カ月はかかりそうなプロジェクトに就かせたら、3日でほとんど完璧な出来栄えで仕上げてしまった。
もっと正確に言えば、彼は72時間ぶっ通しで働いて仕上げたのだ。
その間、休みも眠りもせず、ひたすらプログラミングを続けた。
ロジャーは最初の3カ月でわれわれが採用した中で、最高の能力の社員とわかった。
われわれはすぐに彼を昇進させた。
ところがそこから、ロジャーは変わり始めた。
何度も無断で欠勤する。
1週間以上欠勤することもたびたびあった。
やっと出社してくるとひどく謝るのだが、勤務態度は改まらなかった。
仕事の質も落ちた。
仕事に不注意になり、ぼんやり過ごす時間が長くなった。
あれほどのスター社員がなぜこうなってしまったのか、われわれには理解できなかった。
ロジャーのチームはロジャーに何ひとつ任せられなくなり、マネジャーは解雇しようとした。
でも、私は止めた。
ロジャーの天才性はすっかり失われたわけではないと考え、それを取り戻す方法が見つかると期待したからだ。
しかし、それは見つからなかった。
結局、ロジャーは双極性障害である上に、二重の薬物問題を抱えていることがわかった。
つまり (1) 双極性障害の薬を嫌って服用しない、 (2) コカイン中毒であるのだ。
われわれはロジャーを解雇するしかなかった。
今でも、どうして彼はああなってしまったのかと考えると胸が痛む。
信頼性のない人間がすべて双極性障害だというわけではない。
ただ、極端に信頼性を欠く人物はなにか根本的な性格上の問題を抱えていることが多い。
その理由は、自己破壊的な衝動であったり、薬物乱用であったり、秘密の内職であったり、さまざまだ。
会社というのはチーム活動だから、本人にどれほどの才能があろうと、
チームメンバーとして信頼されなければその才能を成果には結びつけられない。
個人面談 p246
私が個人面談についてブログに書くと、読者からのフィードバックが大量に押し寄せた。
コメントの半分は批判的で、「個人面談などは大した役に立たないから、そんなことに長い時間を費やすのは無駄だ」というものだった。
ほかの半数の読者は、個人面談の効果的なやり方についてもっと詳しく知りたがった。
私には、どちらの反応も同じコインの裏表だと思えた。
ドアの板でつくったデスク p253
アマゾンの創業者兼CEOのジェフ・ベゾスは、アマゾン・ドット・コムをスタートさせた直後から、
この会社は「顧客に価値を届けることで収益を上げるべきであり、顧客から金を搾り取ることによって収益を上げるべきではない」というビジョンを抱いていた。
この目標を実現するには、価格面でもカスタマーサービスでも長期的にトップに立たねばならないと考えた。
金を無駄遣いしていては、その実現は不可能だ。
長年にわたって口やかましく支出を検査し、浪費した者を見つけるたびに雷を落とす代わりに、
ベゾスは驚くほどシンプルな手法で「質素」という企業文化を一気に打ち立てた。
ベゾスはホームセンターからドアを買ってこさせ、脚を釘付けにしてデスクをつくらせた。
ドアでつくったデスクは人間工学的に優れているとは言えないし、1000億ドルを超えるアマゾンの時価総額ともマッチしない。
しかし、新入社員はドアでつくったデスクで仕事をしなければならないことにショックを受ける。
「なぜこんなことをするんですか」と驚いて尋ねると、「われわれは最低のコストで最高のサービスを提供するためにあらゆる機会をとらえて1セントでも節約しなければならないからだ」という答えが必ず返ってくる。
ドアでできたデスクで仕事をすることが耐えられない社員は、遠からず辞めていくことになる。
何を壊してもいいから全速力で動け p255
マーク・ザッカーバーグは、イノベーションを何よりも重視する。
彼は大きなリスクなしに大きなイノベーションは成し遂げられないと確信している。
そこでフェイスブックの初期の時代に、ザッカーバーグは「何を壊してもいいから全速力で進め」というショッキングなモットーを掲げた。
CEOが「何を壊してもいい」と言うなんて! 本気だろうか?
このモットーは、すべての社員に立ち止まって考えさせるだけの衝撃力があった。
そうして社員たちは、「イノベーションを起こすことを最優先にして全速力で動けば、何かを壊すことになるのは避けられない」という事実を認識した。
社員には往々にして、「これはブレークスルーになるかもしれないが、やるべきだろうか」と自問するときが来る。
うまくいけばすばらしい結果が得られるが、短期的には問題が生じるかもしれない。
そうしたときにザッカーバーグのモットーは答えを与えてくれる。
間違いを恐れてイノベーションを後回しにするような人間は、フェイスブックには無用なのだ。
ただし、ショック療法の前に、その本質が会社が目指す本質的な価値と正確に一致することを確認しておく必要がある。
たとえばモバイル支払システムのスクエアを創立したジャック・ドーシーは、会社のデスクをドアの板でつくらない。
なぜならスクエアの場合、質素倹約よりもデザインのエレガントさのほうが、会社にとって重要な価値だからだ。
スクエアのオフィスを訪問すると、ドーシーたちがデザインを本当に真剣に考えていることが伝わってくる。
職場でヨガができたりするのは企業文化ではない p256
今日のスタートアップは、ありとあらゆる方法でライバルと差別化を図らねばならない。
その中にはすばらしい特長もあれば奇抜な思いつきもあるが、それらの大部分は企業文化を形づくるのには役に立たない。
休憩時間にヨガができる設備があれば、ヨガの好きな社員は喜ぶだろう。
ヨガの好きな社員同士の連帯を高める効果もあるかもしれない。
しかし、そういうものは文化ではない。
こういうものは長期にわたって会社のビジネスをコアとなって支えるような価値を生み出しはしない。
会社が実現しようとしている価値に直接の関連を持たないからだ。
ヨガができることは文化ではない。福利厚生の一環だ。
社員のひとりがキュービクルにピットブルを連れてきているのを見たら、ショッキングかもしれない。
この会社では動物好きな人間は歓迎されること、あるいはたいていの勝手が許されることはわかるだろう。
しかし、そのことは会社が目指す価値とは直接の関係がない。
賢い会社は社員を優遇する。
福利厚生はその重要な要素だ。
しかし、福利厚生は文化ではない。
p371
組織のデザインができると、次には起業家に広くわれわれの独自性を知ってもらう必要があった。
これは難問だった。
これまでベンチャーキャピタルは、マーケティング活動など一切して来なかったからだ。
ベンチャーキャピタルがマーケティングやPRを嫌うのは何か理由があってのことだろうと、われわれはいろいろ探ってみた。
そうしてついにマーク・アンドリーセンが理由を発見した。
ベンチャーキャピタルがスタートしたのは1940年代から50年代にかけてで、
彼らはJPモルガンやロスチャイルドのような投資銀行をモデルにしていた。
こういう投資銀行もまたPR活動をしようとしなかったのだが、それにはもっともな理由があった。
投資銀行は伝統的に戦争の資金を出していた。
しかも往々にして、戦っている双方に金を貸していたのだ。
そういう事情ではPR活動が賢明でないのは明らかだ。
こうした発見と、なんであれ既成勢力がやっていることの反対をやりたがるわれわれの性分が合わさって、
われわれはアンドリーセン・ホロウィッツのスタートを派手なファンファーレで飾った。
われわれのベンチャーキャピタルの最大の問題は、われわれがベンチャーキャピタリストとしてゼロだったことだ。
実績ゼロ、投資中のポートフォリオ企業ゼロ、なにもかもゼロからの出発だった。
しかしテクノロジー業界ではわれわれ特にマーク・アンドリーセンの名前は非常によく知られていた。
そこで私は「新しいブランド名をつくるより、われわれの名前というブランドを使ったらどうだ?」とマークに勧めた。
マークもそれは良い考えだと認めた。
しかし、「アンドリーセン・ホロウィッツ (Andreessen Horowitz)」という長い名前ではURLをタイプするのがおそろしく面倒だろう。
そこで思い出したのが、コンピュータ言語が内部的に国際化をサポートする前によく使われた略語だった。
プログラムを別言語で作動させようとすれば、プログラマーは手作業でコードを国際化 (internationalization) しなければならなかった。
われわれは単語の始めと終わりの文字を取って「I18N」と略した。
Iの文字のあとに 18文字続いて最後がNの文字という意味だ。
同様にローカル化 (localization) なら 「L10N」 と略された。
そこでわれわれはアンドリーセン・ホロウィッツの愛称を「al6z」とすることにした。
Aで始まり、16文字が続いてZで終わるというわけだ。
われわれはマーケティング・エージェントとしてアウトキャストと契約し、
敏腕の創業者、マーギット・ウェンマカーズにメディア対策を任せた。
「PRをしない」という伝統的なベンチャーキャピタルのあり方に反旗を翻したわれわれは、
何をしようとしているのかできるだけ多くの人々に知ってもらわねばならないと考えた。
マーギットはドイツ生まれで豚を飼っている農家の娘だったが、とうていそういう背景は想像できなかった。
頭が切れて洗練されているマーギットは、言ってみればPRのベーブ・ルースだった。
彼女は2009年にアンクル・サムに扮したマーク・アンドリーセンをフォーチュン誌の表紙に登場させ、
大きなカバーストーリーにしたことがある。
そうした努力の甲斐があって、アンドリーセン・ホロウィッツは一夜にして大反響を巻き起こしたが、
依然として社員はマークと私のふたりだけだった。
ラウドクラウドとオプスウェアで合わせて8年の経験を積んだおかげで、チームづくりの重要性と難しさは嫌になるほど知った。
私は採用は強さを伸ばすために行うべきで、弱さを補うために行うべきではないことを学んだ。
また、人間には相性があることも学んだ。
頭がいい人間が世の中に大勢いるが、頭の良さだけがすべてではない。
私が必要とする面において、私が尊敬できるような資質を備えた人物を探した。
自分が就いた職をとことんやり抜く意欲のある人物が必要だった。
シリコンバレーをこれまでより起業しやすい場所にするという使命に心から共感し、その実現に打ち込んでくれる人物が必要だった。
p376
CEOになった当初、こんな苦しみを味わっているのは私だけだと本気で思っていた。
他社のCEOはみな、自信にあふれ、すべてを掌握しているように見えた。
彼らの会社のビジネスはいつも「ファンタスティック」であり、
彼らの調子はいつも「絶好調」だった。
共産主義者の祖父母の元でバークレーに生まれ育ったことが会社の経営者として私のハンディキャップになっているのかもしれないとさえ思った。
しかし、「ファンタスティック」で「絶好調」のはずの多くの会社が倒産し、
あるいは二束三文で買収されるのを何度も見るうちに、苦闘しているのは私だけではないらしいと徐々に気づいた。
その後次第に、私の特異な生い立ちがむしろCEOという職をやり遂げるために役に立っているのではないかと思うようになった。
それがビジネスに対してほかの誰とも違う独特の視点とアプローチを与えてくれるのに気づいた。
たとえば私は、高校時代に出会った偉大なフットボール・コーチ、チコ・メンドーサからチームにショックを与え、
奮い立たせる独特のテクニックを借りることができた。
それが肌の色や一見した性格の下にある本当の人物を見極め、
たとえばオプスウェアがEDSの契約を失いかけたとき、ジェイソン・ローゼンソールとアンドルーライトを協力させ、会社を救う役に立った。
私のマルクス主義的生い立ちがもっとも資本主義的な仕事のために役立った。
私の祖父の墓石には、「人生は苦闘だ」というマルクスの言葉が引用してある。
私はこの言葉こそ起業家にとって、もっとも役立つ教えだと思う。
苦闘を愛せ。
今、私は日々起業家と接しているが、一番伝えたいのはこの教えだ。
自分の独特の性格を愛せ。
生い立ちを愛せ。
直感を愛せ。
成功の鍵はそこにしかない。
私は彼らに前途に待ち受ける困難さを伝えることはできるが、困難に直面したときに何をすべきかは、彼が自ら判断する以外ない。
私にできるのは、それを見出すための手助けだけだ。
私はCEOでいる間、一度も心の平和を得られなかったが、運が良ければ時にはそれも得られるだろう。
しかし、世界中の助言と後知恵を集めても困難な物事は困難なままだ。
最後に私は、困難に立ち向かうすべての人々に「幸多かれ、夢の実現あれ」という言葉を贈りたい。
スカイプ、フェイスブックなどへの投資で超有力ベンチャーキャピタルに p383
ベン・ホロウィッツが共同創業者、ゼネラル・パートナーとして指揮を執るアンドリーセン・ホロウィッツはシリコンバレーに本拠を置くベンチャーキャピタルだ。
調達資金総額は40億ドル以上と大型で、2011年にはCNETのアメリカのベスト・ベンチャーキャピタルに選ばれている。
ただ、ベンチャーキャピタルという存在はわが国ではIT業界以外ではまだ馴染みが薄いかもしれないので、その仕組みを簡単に紹介する。
ベンチャーキャピタルは他の投資家や富裕な個人から資金を募り、
有望な未公開ベンチャー企業の株式を購入してハイリターンを狙う投資ファンドだ。
たとえばベンチャーキャピタルAがベンチャー企業Xの株式の100パーセントを10万ドルで購入したとする(Aはこの時点でXの 企業価値を100万ドルと評価したことになる)。
Xが急成長し3年後に株式上場に成功し、時価総額が2000万ドルになれば、Aの株式持ち分は200万ドルの価値となる。
つまり10万ドルの投資に対して20倍のリターンだ。
しかし逆にXが事業不振で倒産すればXの株式は紙くずとなり、Aの投資は全額が損失となる。
ベンチャーキャピタリストは、機関投資家のように数字をにらんでいるだけでは務まらない。
投資の成功の可能性をいち早く、正確に見抜く能力が必須だが、
それに加えていったん投資したあとも自ら投資先企業の取締役となるなどして経営に関与し、成長を助けねばならない。
アンドリーセン・ホロウィッツは2009年にインターネット通話サービスのスカイプが親会社のイーベイから分離した際に5000万ドルで2パーセントの株式を取得した。
当時のスカイプには問題が多く、この投資は無謀として業界から強い批判を受けたが、
スカイプは2011年にマイクロソフトに買収され、アンドリーセン・ホロウィッツの株式持分は一躍1億5700万ドルとなった。
わずか1年半で1億700万ドルの利益を得たことになる。
この記録的な成功で、アンドリーセン・ホロウィッツは一挙に有力ベンチャーキャピタルと認められるようになった。
アンドリーセン・ホロウィッツの投資先にはソーシャルネットワークのフェイスブック、ツイッター、
共同購入のグルーポン、ソーシャル写真共有のインスタグラムなど短期間で爆発的に成長して上場ないし巨額で買収された企業がきら星のように並ぶ。
投資先のソーシャル宿泊紹介サービス、エア・ビー・アンド・ビーは未上場だが、企業評価額100億ドル以上だ。
現在ではアンドリーセン・ホロウィッツは、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルの地位を確固たるものにした。