コンテンツにスキップする

「小山昇の“実践”銀行交渉術」を読んだ

小山昇の“実践”銀行交渉術」を2025年07月17日に読んだ。

目次

メモ

「武蔵野」が受けた貸し剥がしの実態 p2

4億3460万円。

この数字は、「株式会社武蔵野」が、ある銀行から受けた貸し剥がしの金額です。

銀行はいま、中小企業への貸出に慎重です。
新たな融資を断ったり、融資を引き揚げたりしています。
銀行の体力によって差はあるにせよ、とくに、都銀における「貸し渋り」、「貸し剥がし」は深刻化しています。

常に「なぜだろう」と問いかける p6

私が小学生だったころの話です。
私には、信用金庫や銀行に勤める親戚がいました。
お正月には親戚が集まる。
そうすると、大人たちはお酒の勢いも手伝って、手形が落ちるとか落ちないとか、××銀行の支店長が不正を働いたとか、△△会社が倒産しそうだとか、本音で話しはじめます。
私はコタツに入りながら会話に耳を傾け、よくわからないながらも、「銀行は、清く正しく美しい場所だとはかぎらない」、「支店長は、聖人君子ばかりではない」ことを知りました。

社会に出て、最初に勤めたのは経理事務所です。
私はこの事務所で、「裏帳簿」をつくる仕事をしていました。
この事務所で経理の基礎を覚えましたが、帳簿のつくり方より勉強になったことがあります。
それは「なぜ?」と考える習慣が身についたことです。

計算して数字が「9円違う」ときは、多くの場合、54と45の書き間違いです。
ようするに、数字がおかしいときには、その理由が必ずあります。
おかしいと思ったら、そのままにしない。
「なぜそうなったのか」を考える。
私は常に「なぜだろう」と考え、思考を積み重ねてきた。
この習慣が、貸す側のしくみを知るうえで、大きく役に立っています。

お金は、「借りるもの」ではなく「買うもの」 p27

多くの社長が、お金は「借りるもの」と考えています。
ところが、私の考えは違います。
お金は、「借りる」のではなく「買う」のが正しい。
1000万円借りるのは、「1000万円を借りるサービスを、金利をつけて買っている」と考えるのが基本です。

ではなぜ、「借りる」と表現するのか。
それは、「返さなかった人、約束を守らなかった人がいる」からです。

さかのぼると、金貸し(金融業)にはおよそ4000年の歴史があり、その歴史のなかで「貸したものを返してくれなかった人」がいた。
したがって金貸しは、返してくれそうもない人に「質札」という担保をとった。
そして、金額が大きくなるにしたがい、「質札」が「土地の担保」へと代わった。

本来お金は、金利をプラスして買うものだった。
けれど、「お金を借りるサービス」を受けていた人が、約束を守らなかった。
だから「借りる」という考え方が定着してきたのだと思います。

貸すも親切、貸さぬも親切 p31

銀行にとって、「不良なお客様」は、倒産するのが正しい。

不良な会社が倒産すれば、不良資産を償却できて自己資本比率が上がるし(自己資本比率が上がれば、銀行の経営が安定する)、不良な会社がなくなってもマーケットの大きさは変わらないので、結果として「優良な貸付先」が増える。

「不良なお客様」を無理に延命させると、社長も社員も、その家族も、立ち直れなくなる。
だから、出直しができるうちに倒産させたほうが良心的だといえます。

困っている人に手を貸さないのは、道義にもとると思われがちですが、ギリギリまでお金を貸し、自己破産まで追い込んでしまうことのほうが、道義にもとる。

貸すも親切、貸さぬも親切です。

p34

銀行の融資担当者は、サラリーマンです。
サラリーマンである以上、支店長や頭取の方針にしたがわざるを得ない。
会社組織は、トップの命令によって動くのだから、トップが「貸し剥がしをしろ」、「貸し渋りをしろ」と言えば、するしかない。
現場の担当者に責任はありません。

業績の悪い会社は、貸し剥がしにあわない p35

銀行は、どのような会社から貸し剥がすのでしょうか。

「武蔵野」が4億3460万円もの貸し剥がしにあったのは、業績が良かったからです。

多くの社長は、このことがわかっていない。
「業績の良くない会社から剥がす」と思っている。

業績が悪い会社から剥がすとどうなるか。
倒産します。
倒産するとどうなるか。
負債が残ります。
だから、「業績の良い会社から剥がす」のです。

いわゆる「老舗」も、貸し剥がしの対象です。
本業の業績が少々悪くても「含み資産」を持っているため、剥がすことができる。

銀行が老舗に人を送り込むのは、表向きは「会社を再建させるため」ですが、実態は、「資金を回収するため」。
とくに地方の老舗は、地価の高い土地を保有していることが多いので、貸し剥がしやすいのです。

2代目社長&3代目社長も、貸し渋り、貸し剥がしのターゲットになりやすい。
なぜなしたた2代目、3代目は、初代ほど強かではないから。

赤字で返済に苦しみ、銀行から定期預金の解約を勧められ、なんの疑問もなく応じるお人好しが多いです。

2代目、3代目はよく勉強をしているし、ITにも詳しい。
けれど、コミュニケーションスキルが低く、営業力も不足気味。
人にだまされやすい一面もある。
つまり、人間的に弱くて、脆い。

ですが初代(親)は、自分の息子、娘がかわいいから、そのことに気がつかない。
親は、他人を見る目は厳しくても、我が子を見る目は甘くなるのがまともです。
銀行からしてみれば、強かさに欠ける2代目、3代目は、狙い目となります。

貸し渋りは、会社を改革する絶好のチャンス p39

貸し渋りや貸し剥がしは、利益体質を抜本的に改善する「千載一遇のチャンス」です。

お金を貸してもらえないなら、貸してもらえるように体質を改善する。
「甘えの構造」から脱却する。
私は常々、「外圧があったときこそ、変革のチャンス」だと考えています。
コップの中に半分水があるのを見て、「半分しか入っていない」とするか「半分も入っている」とするか、とらえ方によって会社の結果は変わります。

外圧に見まわれるたび、「武蔵野」は変革を遂げてきた。
だから小山昇は、強かです。

2008年、「武蔵野」は過去最高益でした。
過去最高の増収増益でした。
でも、冬の賞与の支給額は90%。
支払い金額は50%でした。

なぜかというと、「武蔵野」が持っていた現金は、過去最低だったから。
現金がないのだから、払いたくても払えません。
ない袖は振れない。
坊主は髪を結えません。

社員は、期待していました。
だから、こう言いました。

「銀行からお金を借りてきた人がいたら、払ってあげる」

私は、社員全員を集め、事実を伝えた。
貸し渋りにあっているのも事実で、会社の業績が良いのも事実。
賞与をたくさん払いたいのも事実で、お金がないのも事実。
だから「半分だけ賞与を支払い、残りは、お金を借りられてから支払う」ことを説明した(残りは翌年6月に支払いました)。

2008年12月といえば、景気の停滞がいちじるしいときです。
どの会社も、一様に厳しかった。
世間が厳しいときに、お金を無理して支払ったら、社員は甘くなる。
増収増益でもお金が借りられないことがわかれば、社員の考えも変わります。
お金がないのを銀行のせいにして、社員を引き締めるのも社長の手腕です。

p41

社長が社員を辞めさせると「可哀想だ」と非難される。
でも、社員を辞めさせても会社を潰さない社長は、「良い社長」です。
社長の責務は、会社を残し、健全化を図ることです。
「辞めさせるのは可哀想だ」と対策を打たないのは、「悪い社長」。
あげくに会社を潰し、全員が仕事を失うほうが、よほど卑怯だと私は思う。
1割を切り捨てて9割残すか、1割を残して全員で沈むか。
卑怯なのは、全員が沈むことです。

銀行に「ブレーキ」の役割を持たせる p44

銀行に融資を申し込んで、もしも「全行貸してくれない」となったら「会社を変えるチャンス」です。
不平不満を言わずに「貸してくれないなら、会社を変えよう」と割り切れるかどうか。
割り切れる社長は、立ち直る可能性が高い。

ところが、多くの社長は「イケイケどんどんタイプ」。
アクセルは踏むけれど、ブレーキを踏みたがりません。
社員も社長に対し、「この事業はやめるべきです」とは進言しにくい。

ブレーキを踏まないと、いずれ衝突してしまう。
だから私は、銀行を「ブレーキの役割」として活用してきました。

私は、「どこも貸してくれなかったら、その事業はやめる」と決めています。
貸してくれなくても銀行を恨まない。
むしろ「自社を変えるチャンス」と建設的に考える。
貸してくれなかったら、ギヤを入れ替えたり、ブレーキを踏んだりして、現状路線で行く。
だから「武蔵野」は生き残ることができた。

銀行は常に「その事業が伸びるか」、「融資しても大丈夫か」を考えている。
だから私は、銀行に客観的な判断を仰ぎます。

15年ほど前のことです。
半期が終わって収支計算をしたところ、売上は118%伸びていたが、人件費や経費がかさみ、赤字になっていた。
私は常務の清岡照比古と銀行を訪問し、各行に「武蔵野」の現状を伝えた。

「このまま伸びると、125%まで成長します。来期もお金を貸してくれますか?」

銀行の答えは、すべて「NO」でした。
恨み言のひとつも言いたくなりましたが、私は各行の判断を受け入れた。

会社に戻ると、清岡が「どの銀行からも融資を得られなかった」ことを会議で報告。
この報告を受け、幹部社員に危機感が芽生えました。
そして、一気にブレーキがかかった。
新規事業への投資を縮小。
さらに営業所の統合閉鎖を行ない、かろうじて黒字にした。

翌月、私は役員の斉藤健一とともに銀行を訪問し、斉藤から「拡大路線を中止したこと」を報告させた。
その結果、再び融資が行なわれた。

銀行は「社長は、ごまかすのがうまい」と考える。
だから、「武蔵野」の本気を伝えようと、職責下位の斉藤に「拡大路線の中止」を説明させた。
すると銀行は「拡大路線の中止はごまかしではない。
武蔵野は本気で対策を講じている」と信用した。

私はよく、サポート会員の社長から「新規のプロジェクトに投資したい」と相談を受けます。
その際、「銀行が一行でも貸してくれるなら、やりなさい。
一行も貸してくれないなら、やめなさい」と答えます。
銀行は、採算が合わないことにはお金を貸してくれない。
一行も貸してくれないのは、その事業に見込みがないからです。

社長は「撤退」ができて一人前 p46

「お金が借りられない」ことを、銀行のせいにしてはいけない。
銀行を「敵」と見ていると、目先のお金にとらわれる。
改革する努力が足りません。

私は、「困ったときの銀行頼り」をしない。
困ったときは、自分で努力する。

かつて「武蔵野」は、居酒屋3件と中華ファミリーレストランを経営していた時代があります。
藤本寅雄創業社長から、ファミリーレストランの再建を託された私は、店に足を運んで、仰天した。
社員がまかない食に、「ふかひれの姿煮」を食べていたからです。
「ふかひれの姿煮」は、お客様に食べていただくメニューです。

私は、レストランの店長、部長、料理長を呼び、「給料を倍にする」という条件を与え、かわりに「店の立て直しに力を貸してほしい」と頼んだ。
ところが、彼らから色よい返事を聞くことはなかった。

私がとった対策は、「店の閉鎖」です。
当時、入院療養中だった藤本社長は、「もう少しがんばれ」と閉鎖に反対したが、私は無視した。
脱兎のごとく閉鎖の手配を進めた。

閉鎖をして、毎月250万円の赤字がなくなりました(250万円黒字が増加)。
保証金も戻り、資金繰りが良くなった。
銀行にお金を借りて、首の皮一枚の状態で赤字事業を続けるよりも、撤退するほうが効果的だった。

やることなすことすべてうまくいく会社などありません。
社長は撤退ができてこそ、一人前。
銀行は、撤退したことのない社長よりも、失敗や撤退を経験した社長を信用します。

社長は「いまが最高の状態」と思ったときに、努力を忘れる p50

経営サポート会員の社長は、私が「銀行からお金を借りるときは、担保も、個人保証もしなくていい」と言うと、驚きます。
「あり得ない!」と目を見張ります。
なぜ驚くのか。
どの社長も、無知だからです。

人間は「いまが最高の状態だ」、「いまが当り前の状態だ」と満足すると、成長しません。
「個人保証するのは当り前」、「担保を提供するのは当り前」、「金利が高いのは当り前」と思ったときから、努力を怠ります。
なかには「奥さんの個人保証も当り前」と納得している社長もいる。

本来、借りる側と貸す側は、対等であるはずです。
むしろ、銀行にとって借り手はお客様ですから、「借りてください」と頭を下げる立場です。
けれど、「お金は借りるもの」という意識が強い社長は、自分の立場を下に見て「貸してください」と先に頭を下げる。
だから銀行は「貸してあげる」と強気に出る。

「武蔵野」は、過去最高で16億円借りていました。
もちろん、無担保です。
個人保証は2案のみ(相続対策のため、個人保証でお金を借りた。相続対策の経緯は、『社長!会社を継がせたいならココまでやっておかなくちゃ!』(すばる舎)を参考にしてください)。
100%プロパーで、信用保証協会付はゼロ。
借入金の内訳は、すべて「長期借入金」。
「短期借入金」はゼロ。

私が知るかぎり、無担保で16億円借りられた社長は、私以外いない。
これは「超異常」なことであり、小山昇と「武蔵野」がいかに銀行交渉に長けているかがわかります。

段階的に「根抵当権」を外した小山昇の戦略 p52

1990年、私が「武蔵野」の社長に就任して1年が過ぎたころ、私は創業者・藤本寅雄の息子を呼んで、尋ねました。

「オレのあと、「武蔵野」の社長をやるか?」

息子は「やらない」と答えた。

そこで私が、息子の代わりに「武蔵野」の株を取得することになった。
藤本夫人から、株の売却にあたって「借入についている担保を外してほしい」、「今後は保証人にならない」との条件を提示され、私はその条件を受け入れました。

当時、「武蔵野」には7億円の借入がありました。
創業者の藤本は、本社の土地や自宅を担保として銀行に差し出していて、すべて「根抵当権」がついていた。

銀行が設定する抵当権には、「抵当権」と「根抵当権」があります。
「抵当権」は、返済が終了すると解除されますが、「根抵当権」は、解除されません。

銀行は、「根抵当にしておけば、毎回担保を設定しなくてよい」と説明します。
では、1億円の土地に根抵当権をつけて5000万円借入をする。
無知な社長は、「まだ5000万円借りられる」と思う。
もちろん、業績が良いときは借りられますが、業績が悪ければ、借りられません。

私は、運が良かった。
ツイていました。
ときはバブル。
「武蔵野」の業績は上り調子。
銀行はイケイケどんどんで貸す時代です。
向こうから「借りてください」と頭を下げてきます。
私は取引のある全銀行からたくさん借入をして、借入金額のもっとも少なかったA銀行の借入を全額返済した。

返済に際して、私はA銀行の支店長に「今後は厳しい経営をやりたい」と伝えた。
「武蔵野」の経営計画に見込みを感じた支店長は「小山社長、いいですね。ぜひ、厳しい経営を期待します」と賛同してくれました。

私はすかさず、話を続けた。
「ついては、根抵当権を外してください。根抵当権がついていると、経営が甘くなる。借入のときは、その都度、きちっと判子を押したい」。

支店長としても、経営計画を評価した手前、「甘い経営でいい」とは言えません。
しかたなく根抵当権を外してくれました。

銀行は、お金を返済すると、今度はお金を貸してくれる」ようになります。
お金を返せるのは、その会社に返済能力がある証拠です。
銀行は、「返してくれない会社」には貸したくないが、「返してくれる会社には貸したい」と考える。
だから返済をすると、会社の信用が高まり、再び貸してくれます。

5000万円全額返済すると、「5000万円貸していた会社」から「5000万円借りてくれる力のある会社」に変わります。
そんな力のある会社を他行に奪われるのはもったいないので、また貸したくなります。
そこで私はA銀行から再びお金を借りて、さらに別の銀行から借りたお金と合わせて借入金額を増やし、2番目に借入金額の少ないB銀行の返済を行ないました。
そして、A銀行と同じく「厳しい経営をしたいので、根抵当を外してください」とお願いしたのです。
このようにして、C銀行、D銀行と一行ずつ交渉し、数年かけて根抵当権をすべて外していった。

事業の目的は、お客様の数を増やすこと p60

多くの社長が、「銀行に支払う金利がもったいない」と考えます。
「金利を安くできるなら、担保を提供してもいい」と考えます。
ですが、この考えは間違いです。

社長は、目先の金利ばかり気にしてはいけない。
会社を経営するうえで大切なのは、金利ではなく「金額」です。
ここが、多くの社長が間違うところ。

私は、「少々金利が高くても、額を借りるほうが大切」だと考えています。
経営にとって先決なのは、規模の拡大です。
すなわち、お客様の数を増やすこと。
そのためには、金額を投入しなければなりません。

神戸クリニック(兵庫県)は、レーシック手術で知られています。
神戸クリニックは、「金利5%」の超高金利にもかかわらず額を借りた。
額を投入してお客様を増やし、やがて、業界3位にまで上り詰めた。
その後2年間で収益を上げ、借入金を繰上げ返済しています。

神戸クリニックの吉田圭介理事長の判断は正しかった。
ようするに、事業の最大の目的は「お客様を増やすこと」であって、目先の金利を低くすることではありません。

私は、税理士からこう言われてきました。
「小山社長、金利がもったいないです」と。
税理士の欠点は、事業をやったことがないことです。
経営の実態がわかっていないから、「もったいない」と決めつける。
そして無知な社長は、税理士の言葉を鵜呑みにして「金利は安いほうがいい」と信じて疑いません。

規模の拡大をするために、設備投資をするために、ライバルに差をつけるために、お客様へのサービスを向上するために、何よりも額を借りなければいけない。
「金利が高いから借りない」では、いつまでたっても会社は成長しません。

社長は、不測の事態があっても、困らないようにしておくことが大切です。
不測の事態に見まわれたとき、「金利が損だから」といってギリギリの資金しか持っていない社長と、私のように、少々金利は高くても資金に余裕のある社長では、どちらが対応できるか。
答えは明らかです。
金利を払っても、資金に余裕があって、事業に専念するほうが正しい。

金利は、会社を強くするための必要経費 p62

今日の「武蔵野」があるのは、目先の金利にとらわれなかったから。
事実「武蔵野」の金利は、他に比べて1%ほど高い。
それでも利益は過去最高(第45期)です。

金利は安いけれど業績が下がるほうがいいか、金利が高くても過去最高益がいいか……。
経営サポート会員の中には、金利ばかり気にする社長もいます。
そんな社長に私は言います。

「そんなことだから、あなたの会社は強くなれないんですよ。強くなることを目的としたほうがいいですよ。だから、低金利よりも額ですよ」

金利は、会社を強くするための必要経費と考えるべきです。
会社を強くするには人員を増やさなければいけない。
新製品を出さなければいけない。
設備投資をしなければいけない。
そのためにお金を借りたら経費がかかる。
だから金利は、会社にとって必要経費です。

借金は罪悪ではない p63

多くの社長は、「借金は罪悪」と考えています。
私も親に「銀行から1億円借りた」と話したときは「おまえ、大丈夫か?返せるのか?」と心配されたものです。
一般的に、「借金」=「うしろめたいこと」と思われています。

では、会社が大きくなることは罪悪ですか?
会社の利益を出すためにお金を借りることは、うしろめたいことですか?
「罪悪だ」と考えるのであれば、企業経営から足を洗ったほうがいい。
上場を目指すとか、業界ナンバーワンを目指すなんて口に出さないほうがいい。

お金は、いわば会社の血液です。
止まると倒産します。
心臓が止まって人間が亡くなるのは、血液が止まるからです。
会社も同じです。
現金が回らなければ、生きてはいけない。
経営は、現金に始まり、現金に終わる。
だから借入をしないかぎり、生き残れません。

かつては企業の数も少なく、スピードを求められなかった。
けれど現在は、時代の変化が速すぎる。
お客様のニーズは、刻々と変化しています。
変化に対応するには、「利益が出てから設備投資をすればいい」と悠長に構えていてはダメ。
のんびりした社長は時代に取り残されてしまう。

借入は、罪悪ではない。
会社が一定の規模に成長するまでは、借入すべきです。
中途半端でやめてしまうと、会社が存亡の危機に陥ります。
途中でやめると、そのとたん、ライバル会社にマーケットを奪われます。

ライバルとの企業間戦争に打ち克つには、ランチェスターの法則に則って「ライバルとの差が3倍」になるまで、戦力を増強する。
そうでないと、いつ逆転されるかわからない。
完全に勝負がつくまで気を抜いてはいけません。

製造業は設備投資、サービス業であればお客様を増やす。
そのための借金は、未来への投資です。

ナンバーワンになるにも、現金が必要 p64

日本の税法上、無借金経営はあり得ません。

もし無借金経営が正しいのであれば、金融機関はたくさん必要ない。
金融機関が繁栄するのは、「無借金経営はあり得ない」からです。

無借金経営が可能なのは、ひとつは弁護士事務所や会計事務所といった役務の会社。
あとは、地域ナンバーワン、業界ナンバーワン、オンリーワンの会社。
トヨタ自動車のように世界に名をはせる会社になれば、無借金になれるでしょう。
その地位を確立すれば、利益が出る。
利益が出れば、無借金になりやすい。

ですが、ナンバーワンになる過程で、どうしてもお金が必要になる。
ナンバーワン、オンリーワンになるためには規模の拡大が必要であり、そのためには、借金をしなければなりません。

コンサルタントや税理士は、「無借金経営のほうが財務体質はいいから、いざというときにお金を借りやすい」と勘違いしています。
しかし、いままで一度も借入のない会社が、急に融資を申し込んできたら、銀行はどう思いますか?

「この会社は、よほど追い込まれている、回収に不安があるかもしれないから、新規の融資は見合わせよう」と警戒する。
銀行は保守的で、過去の実績に対してお金を貸します。
未来の事業や新規取引には必要以上に慎重です。
過去の経営状況、過去の借入・返済実績、そして担保を見て融資を決定しています。

現金は明るさの象徴 p66

現金がない社長は、1ヵ月の大半を資金繰りに奔走し、事業に専念できません。

「社長、2000万円足りません」と言われたら、シュンと落ち込んでしまう。
ですが、どんなに赤字でも、銀行からお金を借りることができれば、「なんとなく裕福な感じ」になるものです。
事業にも専念できるから、気持ちも前向きになれる。

社員もそう。
「賞与を支払うけれど、会社に貸付けておけ」と言われたらみんな暗くなる。
たとえ評価がC評価、D評価と芳しくなくても、賞与支給日にみんなニコニコと明るいのは、現金で支払われるからです。

現金は、明るさの象徴です。
明るくて強い会社をつくりたいなら、現金を持つこと。
「額を持つこと」が大切です。

借りたお金のほとんどを普通預金に残しておく p73

借入は、短期借入よりも長期借入がいい。
そのほうが格付けが上がり、同じ額の借入なら、長期間のほうが毎月の返済額が少なくてすみます。
けれど、長期借入は、会社の業績が悪いと応じてくれないので、普通は資金運用が安定しません。

では、どうすれば長期借入ができるのでしょうか。

いまから15年前(平成7年)、三菱銀行(当時)が新規で営業に来ました。
「短期で5000万円貸す」というのです。
私は「5000万円なら借りない。1億円なら借りる」と答えた。
銀行は、「借りたい」と言うと、貸さない。
「借りない」と言うと、貸します。

ちょうどお金に困っていた時期だったので、私は短期で1億円を借りることにしました。
当時、経理部長だった滝石洋子は、「これで資金繰りができる」と大喜びです。

しかし私は「使っていいのは、2000万円だけ。残りの8000万円は一度他行に資金移動し、2日後にまた三菱銀行の普通預金に戻すこと。戻した8000万円には、一切手を付けてはいけない」と命じた。

意図的に「晴れている状態」をつくる p74

いったん他行に資金移動したのは、そのままにしておくと、銀行側が「使用目的のないお金を貸した」、「銀行が無理やり貸した」と勘ぐられ、金融庁から指導を受けるから。
2日後に三菱銀行に8000万円戻したのは、「武蔵野にはお金が余っている」ように思わせるためです。

「晴れていれば傘を貸し、雨が降れば傘を取り上げる」のが銀行だから、意図的に「晴れている状態」=「お金に余裕のある状態」をつくった。

銀行は、「武蔵野」に8000万円の普通預金があることを知っています。
そして、資金に余裕のある武蔵野には、返済能力があると見なす。
だから当然、銀行も貸したくなります。

1年後、短期借入した1億円を返済したとき、銀行の営業は「また借りてください」と言ってきました。

こちらから「貸してください」と申し出たわけではないので、立場は「武蔵野」が上。
私は即座に「短期では借りない」と断り、結果的に「金利は短期とほぼ同じで、3年間の長期融資」を受けた。

「武蔵野」の借入が、100%長期借入なのは、このように時間をかけて、短期から長期に切り替えてきたからです。

最初の融資は「お見合い」のようなもの p75

一般的にサラリーマンは、収入が安定しています。
定年まで勤めるのであれば、それまでは収入が保証されています。
だから住宅ローンも、長期で貸付けできる。

ところが、企業は安定性がありません。
社会変動に影響されやすい。
業績が上がったかと思えば、いきなり下がる。
リーマンショック以降は、どの会社もヨタヨタしています。
だから、信用できない。
だから、短期で貸付ける。

銀行との最初の取引は、いわば「お見合い」のようなもの。
銀行は慎重で、焦げつくのを嫌います。
だからはじめは短期で取引をして、「この会社と末長くつき合っていけるか」を見極める。
そして「信用できる。返済能力がある。長くつき合っていける」と判断すれば、長期の借入となる。

信用してもらうには、滞りなく返済すること。
「返済は、絶対に遅れない」。
これが鉄則です。

お金がなければ、他行から借りてでも返す。
借りて返すのは、遅れではありません。

頭取が訪ねて来る会社は、地域ナンバーワンの証拠 p96

銀行は、専務や常務といった各役員がブロックに分かれて、お客様を訪問します。
そのとき、数年に一度、頭取がお見えになることがある。

頭取が支店に来ると、支店長が「この管轄でナンバーワンの会社」と認めた会社に訪問を勧める。
そして、「頭取が訪問した会社は倒産させない」という暗黙のルールがあり、これを「頭取銘柄」といいます。

数年前、「武蔵野」にも頭取をお迎えするチャンスがありました。
ところが私は、千載一遇のチャンスを逸してしまった。
どうしても日程を動かせないセミナーの予定が入っていた。
本当に残念なことをしました。
頭取が来ることがわかったら、社長はできるかぎりお迎えしたほうがいい。
アポロ管財株式会社(橋本真紀夫社長)は2年前「頭取銘柄」となりました。
社長からどのように迎えたらよいか聞かれたので、環境整備の行き届いた会社をそのまま見ていただくのが一番と答えた。

銀行に腹を立てても意味がない p98

銀行は、中小企業にとって「敵」なのでしょうか?
「味方」なのでしょうか。

「敵」だと考えて喧嘩を売り、「武蔵野」のように支店長に嫌われでもしたら、融資は受けられない。
融資を受けられなければ、規模の拡大はままならず、会社は伸びません。
かといって「味方」と考え、銀行に頼ってばかりいては、経営が甘くなります。

「敵か味方か」というよりも、「ビジネスパートナー」と考えたほうが健全です。
金貸しの歴史は4000年。
銀行を敵に回したところで、向こうのほうが一枚も二枚も、三枚も四枚も上。
勝てるわけがありません。

私も過去、銀行に腹を立てたことがある。
理不尽な思いをさせられたこともある。
けれど担当者だってサラリーマンですから、支店長や頭取の方針にしたがわざるを得ない。

だから社長は、理不尽なことがあっても、貸し渋りや貸し剥がしにあっても、困らないように対策を練っておくべきです。
銀行に腹を立てるのは筋違い。
悪いのは銀行ではなく、むしろ対策を講じなかった社長自身です。

もし私が無知・無策のままでいたら、「武蔵野」はとっくに潰れていた。
「武蔵野?小山社長は案外いい人だったね」と、過去の人になっていたでしょう。

銀行と中小企業は、WIN-WINであるべき p99

銀行を「敵」と見なしてしまうのは、社長が努力をしていないから。
目先のことだけにとらわれているからです。

自社を良くしようと思っていない社長に、銀行はお金を貸しません。
もちろん、社長はみな「自社を良くしたい」と思っている。
でも現実的にはどうか。
「痛み」をともなうほど真剣に変革する社長は、少ない。

銀行に見放されたら、会社は潰れます。
資金調達できなくなり、手形を出している会社は、確実に潰れます。

ライバル会社が潰れるまで安売りを続け、最後の最後まで生き残るしかない。
でもこの方法は、「どちらが先に潰れるか」を競う体力勝負なので、中小企業にはむずかしい。

銀行の支援なくして、経営は成り立ちません。

銀行もまた、融資先の成長なくして収益は上がりません。

銀行と中小企業はビジネスパートナーですから、WIN-WINの関係を築くことが大切です。

無理して都銀とつき合わなくてもいい p101

いまから20年ほど前、私はA社(大分県)の社長に、次のように注意をしたことがあります。

「社長、一行主義はやめたほうがいいですよ。一行だけでなく、いくつかの銀行と取引したほうがいいですよ」

当時A社は、□□銀行とだけしか取引をしていませんでした。
社長は「□□銀行とはずっと長く取引をしているので、何があっても困ることはない」と耳を貸さなかった。
その結果どうなったか。
バブル後、A社は資金繰りがショートして倒産しました。
A社は、他行との融資・返済実績がなかった。
だから他行は、貸してくれなかった。
□□銀行から融資を断られたとたん、資金調達ができなくなった。

売上が5億円以下の中小企業が、都銀としかつき合っていなかったら、その会社の社長は、無知そのものです。

「都銀は金利が安い」という理由で、都銀とつき合う社長もいます。
しかし、都銀は、「中小企業を支えていく」という感覚が薄い。
大切なのは目先の金利ではなく、借りられる額。
都銀は、5億円以下の中小企業をそれなりにしか思っていないのが実態です。

経営計画発表会を開催したとき、5億円の会社に支店長は来ない。
支店長が出席するとしたら、売上が10億円以上の会社です。

H社(長野県)は、長野県では優良な会社です。
H社の社長は、「三井銀行(当時)の本店と取引している」と言うので、私は「いくらあなたの会社が地元で優良でも、三井銀行はなんとも思っていない」と忠告した。
3年後、私が忠告したとおり、H社と三井銀行の取引はなくなりました。
融資を受けるなら、「自分の身の丈にあった銀行」を探したほうがいい。

自社の実力に応じて、バランス良く銀行とつき合う p102

銀行との取引は、一行だけに絞ってはいけません。
地銀や信金、政府系も含めてバランスよく取引をする。
「武蔵野」は11行と取引があったため(8、9行に絞り込む予定)、4億3460万円の貸し剥がしにも耐えることができた。
都銀の貸し渋りにあっても、地銀や信金から借りて対応できた。

もし一行しか取引がなかったら、「武蔵野」は倒産しています。

中小企業の場合「都市銀行1、地方銀行1、信用金庫1、政府系金融機関1」が基本です。

あとは、自社の規模や地域における金融機関の数に応じて、都銀を増やしたり、地銀を増やしたり、信金を増やしていけばいい。
売上が5億円以下の会社なら、都銀は一行でいい。
売上が1~2億円の会社であれば、無理して都銀とつき合わず、地銀がメイン銀行のほうが座りがいい。

3行から融資を受けるなら、一行からたくさん借りない。
バランス良く借入れる。
1億円借りるのに、A銀行9000万円、B銀行500万円、C銀行500万円の割合で借りてしまうと、一行(A銀行)から借りたのと変わりません。
メインバンクからの借入を、全体の55%以内に留めるようにします(私の経験上、適正は、35%です)。

基本的には、ひとつの案件につき、一行から借りるほうがいい。
ただし、会社の業績が悪いと、一行からの借入が、「満額」に満たない場合があります。
1億円借りたくても「5000万円しか貸せませんね」と断られる。
満額に届かないときは、他行から借りて不足を補う必要があるので、「一行主義」では対応しきれません。

マーケットには、お客様とライバルしかいません。
市場の変化は、会社の都合を待ってくれない。
マーケットの変化に迅速に対応するには、資金を潤沢にして、ライバルより先に投資をする必要がある。
そのためには、つき合う銀行は多いほうがいい。

メインバンクは、頻繁に変えないほうがいい p107

メインバンクは、「頻繁に変えない」のが基本です。

もちろん商取引なので、変えても構わない。
メインバンクには、金利や手数料など、それなりの対価を払っているから、銀行と会社はフィフティーフィフティー。
いつも蕎麦屋で食事をしていた人が、カレー屋に行ったからといって、蕎麦屋から訴えられることはありません。
銀行取引もそれと同じで、自社の規模に応じて、軸足を変える(取引する銀行のバランスを変える)必要があります。

ですが、それは長期的な展望に立って行なうべきで、「A銀行が気に入らないからB銀行」、「今日はこの銀行、明日はこの銀行」と、頻繁に変えない。
銀行と会社は、「WIN-WIN」であることを忘れてはいけません。

また、社長の個人的な口座は、メインバンクをはじめ、取引のある銀行には置かないほうがいい。
私は、「武蔵野」と取引のない銀行に口座があります。
なぜか。
社長の資産が丸見えになってしまうからです。

担保の価値は、銀行によって変わる p110

土地と建物を合わせて1億5000万円(土地1億円:建物5000万円)で購入したとします。

このとき、建物の担保価値は0円です。
なぜなら、売れないから。

銀行は、減価償却費としての価値は認めても、転売するときの価値としては認めていません。
社長は、「建物にも5000万円の価値がある」と考えますが、それはあくまで会社の都合であって、銀行はそうは思っていない。

土地は、時価総額で転売できるので、路線価格などから担保価値を計算し、その金額に応じて貸出をします。

担保価値は、銀行によって変わります。
このことを、多くの社長は知らない。
1億円の土地の担保価値は、平均すると、都銀で7000万円(0.7倍)、地銀は1億5000万円(1.5倍)、第二地銀や信金は2億円(2倍)まで貸してくれる。
しかし、金利は高くなる。

中小零細企業が、都銀に軸足をおいて経営をすると、担保価値から考えても得策ではない。
金利は高くても、額を借りられる銀行を優先すべきです。

銀行は「社長の奥さん」にまで個人保証をつける p111

ある会社に1億円融資した。
土地の担保価値が8000万円だった。
万が一返済してもらえなかったら、銀行は2000万円損してしまう。
そこで銀行は社長と社長の奥さんに個人保証をつけて「残りの2000万円」を回収します。

では、どうして「社長の奥さん」にまで個人保証をつけるのでしょう?

会社が倒産する3日前に社長と奥さんが離婚します。
財産の半分は奥さんのものになるので、社長からしか銀行は取り立てできない。
ところが奥さんにも個人保証をつけておけば、たとえ離婚しても、双方から取り立てできます。

銀行が奥さんにまで個人保証をつけるのは、離婚をしても、貸したお金を回収するためとします。

無手形無借金だと、バイタリティーがなくなるおそれも p122

宮城県にある株式会社アオバヤ(高橋亙社長)は、「無手形無借金」の会社です。
この会社は、自己資金を使って設備投資をしています。
借入金はありません。

アオバヤは、いくつかの県にまたがって複数の会社を持っているため、内部留保がある。
ひとつの会社が設備投資をするとなれば、各会社から現金を借りて対応しています。
それぞれの会社の利益を一カ所に集めるやり方で「無借金」を実現しています。

アオバヤのように、いくつかの会社の内部留保で設備投資できれば「無手形無借金」も可能ですが、一社ではむずかしい。
一社で「無借金」に固執すると、大きな設備投資がかないません。

また、借金がなくなると、不思議と会社のバイタリティーがなくなります。
「借入金がないから、我が社は安心だ」という甘えが育ちはじめる。
この甘えが会社を弱くします。

銀行は、過去の実績を重んじるため、「無手形無借金」でも、「有手形無借金」でも、「有手形有借金」でもなく、「無手形有借金」がもっとも信用を得やすい。

借りたお金の使い道を報告する義務がある p126

会社は、上司が部下に仕事を命令すれば、部下は上司に「その結果を報告する」のが当り前です。

同じように、銀行からお金を借りたら、「そのお金がどのように使われたのか」を報告するのが当り前です。
だから私は、銀行訪問を続けています。
定期的に銀行を訪れ、「武蔵野」の現状(売上・経費・利益・今後の事業展開など)について報告しています。

ところが多くの社長は、当り前のことができていません。
報告の義務を怠っています。
融資を申し込むときだけ「お願いします」と平身低頭して、融資を受けたとたん、「あっかんべ〜」と袖にする。
貸してもらうときは三顧の礼をもって迎えるのに、借りたら知らん顔をする。
感謝の気持ちのない社長に、銀行は手を差し述べようとは思わない。
借りる前も借りたあとも、礼を失した振る舞いは慎むべきです。

かつてある社長は、「銀行に報告などしない。
自分は○○銀行の支店長と毎月ゴルフをしているので、融資の申し出にもすぐ応えてくれる」と豪語していました。
ところが、支店長が別の支店に異動。
彼は資金繰りに困窮し、あえなく倒産しました。
私は、彼のように「人」とつき合うことはなく、「支店」とつき合うことを心がけている。
したがって、定期訪問を怠らない。

私は、10年ほど前までは、毎月銀行訪問をしていました。
現在は取引銀行の数が多くなったため、3ヵ月に1度、定期訪問をしています。

銀行訪問は、回数が多いほど、銀行から信用されます。
回数が多くなるほど、社長は「嘘がつけない」からです。

年に1回だと、悪い報告をごまかすこともできる。
ですが、1ヵ月に1回(もしくは3ヵ月に1回)のペースで訪問すれば、ごまかしがきかない。
銀行は、「定期訪問する会社は、「嘘がない」ことをわかっています。
虚偽の報告はいずれ数字の辻褄が合わなくなり、銀行に見透かされてしまう。

「毎月訪問する」と意気込んでも、よほど熱意のある社長でないかぎり、続きません。
「小口の融資だからかえって負担になる」、「毎月の訪問は荷が重い」のなら、3、4ヵ月に1度でもいいので、定期的に銀行訪問することが大切です。

そして、嘘をつかず、会社の現状を報告する。
定期的な報告こそ、銀行の信頼を得る最良のしくみです。

訪問日には、シャッターが上がる前から待つ p128

銀行訪問は、いつ行くか。
一般的に銀行は、月始1日、月末、五十日(5と10のつく日)が忙しい。
反対に、16日~19日は時間にも余裕がある。
忙しいときに訪ねても相手にしてもらえませんから、銀行訪問は、銀行が暇なとき(16日~19日の間)に行ないます。

銀行が閉まるのは、午後3時。
閉店間際は銀行は忙しくなります。
ましてや、支払手形が落ちない会社があると、行員は殺気立ち、さながら戦場の様相です。
社長の相手をしている余裕はありません。
では、何時に訪問するか。
私は毎回、午前中に訪問しています(1日3行程度)。
午前中はそれほど慌ただしくないので、銀行も時間をつくりやすい。

一行目の訪問は、開店時間の午前9時。
私は、開店5分前に銀行に着き、シャッターの前で開店を待ちます。
それも、シャッターが上がったときに、「目の前に支店長が立っている位置」で待つように心がける。
こうしておけば、まっさきに「小山昇」が支店長の目に留まり、挨拶もできます。
支店長の立ち位置がわからないときは、事前に社員を銀行に向かわせ、調べさせる念の入れようです。

一行目の訪問は、開店してからでは意味がない。
シャッターが上がる前から待っていることが大切です。

銀行訪問は、うかがう日時をあらかじめ伝えておくが、必ずしも支店長がいるとはかぎりません。
そのときは、副支店長でも、担当者だけでも構わない。
定期報告が目的ですから、支店長に会えないからといって訪問を取りやめなくてもいい。

おもしろいことに支店長のなかには「お金を貸したい」ときは同席し、都合が悪いときは留守にする支店長もいるようです(会社の規模が小さい場合は、支店長は対応しないことが多い)。

銀行訪問に費やす時間は、一行につき「20分以内」 p144

私は午前中に3、4行の銀行を訪問しますが、一行に費やす時間は、「20分以内」と決めています。

1時間も2時間も話し込む社長だと、銀行の担当者もその後の予定が立てにくい。
ですが、「必ず20分で帰る」ことがわかっていれば「会おうか」という気になる。

多くの社長は「長く話せば話すほどいい」と思っていますが、そうではない。
銀行にとって「必要最小限のことだけ話して帰る社長」がいちばん好まれます。

ちなみに私は腕時計をはめていませんが、応接室の掛け時計や、銀行の担当者の腕統計に目をやりながら時間を計っています。

新規の飛び込み営業を追い返してはいけない p146

最終的に「融資するか、しないか」を判断するのは、銀行本店の審査部です。
審査部には、支店での実務体験のある行員が配属されますが、「貸しても平気だと思うが、不安が残る」と迷うときがある。
「貸すか、貸さないか」のジャッジが微妙な会社の場合は、稟議が通らないこともあります。
ところがこのとき、「融資したくなる資料」が添付してあると、かなり高い確率で融資が決まります。

では、「融資したくなる資料」とは何か。
「武蔵野」では、経営計画書と経営計画資料(人員・資産・資金・情報・時間をどのように活用するかを数字で表した管理資料)、そして「他行の提案書」を利用します。

ときおり、取引のない新規の銀行が「御社に融資をしたい」と飛び込み営業に来ることがあります。
このとき「うちはすでに○○銀行とつき合いがあるので、新規は考えていません」と追い返してはいけない。
電話のアポイントも同じです。
にべもなく電話をきってしまうのは無知の極み。

飛び込み営業といっても「たまたま飛び込んでくる」わけではありません。
銀行には、早期退職した元支店長経験者などで構成された調査セクションがあり、「この会社なら大丈夫そうだ」と調べたうえで飛び込んできています。
ですから、必ず面会してください。
面会するのは、経理担当者で構いません。

ウェルカムの気持ちで、三顧の礼をもって迎え入れ、コーヒーやお茶を出し、もてなします。
そしてひととおり話を終えたら、最後に「融資の提案書」をお願いする。
提案書には、金融機関名、融資額、期間、金利、担保などの条件、月々の返済額が具体的な数字で書いてあれば十分です。

取引のある金融機関に融資を申請する際、この提案書を添付する。
「他行が貸す」ということは、「貸しても大丈夫な会社」というお墨付きとなります。
したがって審査部員の迷いも晴れる。
「貸そう」と決める。
他行が貸すつもりなのに自行が貸し渋れば、お客様に逃げられてしまうからです。

親の七光りを利用して融資を受ける p162

親(初代)は、息子に会社を継いでもらいたい。
ところが親と喧嘩をして、家を飛び出す息子がいる。
飛び出した息子は、自分で事業をはじめようとして、銀行に融資を申し出た。
このとき、「親と喧嘩をした」と正直に明かすと、銀行に信用されません。

私は、ビルメンテナンス業を営む、株式会社成和の中嶋健芳社長にこう説明させた。

「父親から『外に出て仕事をしてみろ。独立して自分でやってみろ』と勧められた」

独立をほのめかすと、銀行はたいがいお金を貸してくれます。
まして、父親の会社が優良企業であれば、とりっぱぐれがない。
息子の言い分を信用して、1000万円を貸してくれた。
実際に、親の七光りを利用して事業資金を調達し、社長になった息子が何人もいます。

先代が亡くなったら、死亡診断書より先にお金を下ろす p163

こんな例もあります。

先ほどの中嶋健芳社長から、「たったいま、親父(初代)が亡くなったのだけれど、どうしたらいいか」と電話があって、私は即答した。

「それは違う。お父さんは、まだ亡くなってない!!」

電話口の中嶋社長は、きっと驚いたことでしょう。

亡くなったかどうかは「心臓が止まったか」で判断されますが、法律上で解釈すれば「死亡診断書」が書かれるまでは、亡くなっていない。

そこで私は、「家族や親戚は呼んでもいいが、医者を呼ぶのはもう少し待て」と指示し、中嶋社長を銀行に向かわせたのです。

お父さんの心臓は止まっていても、法律上はまだ生きています。
生きている間は、代理の者でもお金を下ろせる。
けれど亡くなると、口座が凍結されてしまう。

中嶋社長は、医者が死亡診断書を書く前に父親の口座からお金を下ろし、別口座に移した。

打つ手はたくさんあるのに、多くの社長は経験が少ない。
だから立場が弱くなる。
だから銀行の言いなりになる。
だから「夢はかなわない」とあきらめる。

夢は逃げません。
逃げているのは自分です。
「うまくいかない」とあきらめたのは、自分です。
打つ手がわからなければ、わかっている人に聞いて、そのとおりに「真似すればいい」のです。

「自分のまわりには『わかっている人』がいない」のなら、私のところに来ればいい。

実際、私のもとには、毎日のように、経営サポート会員の方々から、銀行交渉に関する相談が寄せられています。

「銀行から社債を使った借入の提案があったのですが、良い提案なのか悪い提案なのか、判断がつきません」

「長期借入金2本のうち1本が完済するので、長期1億円の借入をあらためてお願いしたら、はじめて担保を要求されたのですが……」

「銀行の副支店長に、『営業利益が出ていないので、プロパーでの融資は無理』と言われてしまい……」

「××銀行と○○銀行の土地に対する評価額が半分以上違ったのですが……」

私は、アドバイスを送り(ボイスメールを使い、会員が情報を共有できるようにしています)、相談者は、私のアドバイスに基づいて銀行と交渉しています。
その結果、多くの会社が自社に有利な融資を引き出している。

病床の父親のサインをもらうには p165

株式会社キンキゴム(京都府)の長谷川哲也社長は、個人保証に悩まされていましたが、粘り強く銀行と交渉した結果、会長だった父親と、自分のサインがあれば個人保証を外せるところまで話を進めることができました。

ところが、です。
そんな矢先に、父親が病気で入院。
手を動かすこともままならぬ状態で、病の床に臥してしまったのです。

長谷川社長は、焦りました。
「会長のサインがなければ、個人保証は外せない」。

そこで、長谷川社長は苦肉の策を思いつきます。
「父親の字を真似して自分が代筆しても、バレないのではないか」。

私は、長谷川社長の揺れる気持ちを知り、次のようにアドバイスしました。

「そんなことをしたら、あなたは嘘をつくことになる。
嘘をついたら、わだかまりが残る。
絶対に後悔する。
ならば、父親にペンを持たせ、あなたの手を父親の手に添えてあげて、あなたが手を動かす。
そうすれば、父親が書いたサインです」

長谷川社長は私の提案に喜び、無事に個人保証を外すことができました。

しばらくして会長は亡くなりましたが、長谷川社長は、そのときのことを振り返ります。

「会長と社長の、そして父親と息子の“最後の共同作業”ができました。
おそらく、小山社長はそこまで考えたうえで、『手を添えろ』とアドバイスしてくれたのでしょう。
小山社長の深い思いに、とても感謝しています」

「接待はしない」、「恩は売らない」が基本 p167

私は、基本的に銀行の支店長(担当者)を接待しません。
接待をされたときは、行く。
でも自分から接待することはない。
銀行と会社は、ビジネス上のパートナーです。
アフター5までつき合う必要はありません。

支店長が別の支店に異動し、直接的な利害関係がなくなったときは、例外的にお会いしたことがあります。

私の出張先に、かつてお世話になった支店長が赴任していれば、「一杯行きましょうか」と声をかけることがある(ただし、一対一でしか会わない)。

直接的な利害関係がなければ、私も「あのときは、どのように判断したのですか?」と質問できますし、支店長も私から経済の状況を知ることができる。
それはお互いにとってメリットです。

私は接待をしないし、「銀行に貸しをつくっておこう」とも考えない。

いまから25年くらい前までは、銀行に頼まれるまま定期預金に協力したり、クレジットカードに入会したこともありましたが、いまは時代が違う。
銀行も、そんなことは求めていません。

支店長に「どこかに優良な融資先はないか」と尋ねられれば、融資先を紹介することがあります。
私は、経営サポート会員のB/Sに目を通し、財務内容も把握しているので、小山昇の紹介先なら(たとえ現状が赤字でも)安心して貸し出せる。

それでも私は、支店長に恩を売ったつもりはありません。
「かけた恩は水に流す。受けた恩は石に刻む」。
これが私のスタンスです。

金融庁に相談するときは、銀行にひと声かける p168

「貸し渋り」や「貸し剥がし」が横行したり、銀行がリスケ(リスケジュール)に応じてくれず、「WIN-WINの関係」が築けなくなったら、どうするか。
打つ手がなくなってしまったらどうするか。

金融庁に相談するしかありません。
金融庁には、金融サービスの利用者の情報(貸し渋り・貸し剥がしの情報)を受け付ける相談窓口があります。

銀行がもっとも怖れるのは、「金融庁から指導が入ること」です。
ただし、金融庁に相談する前に、「金融庁に相談していいですか?」とひと言断っておくこと(このひと言で、状況が改善されることがある)。

いきなり金融庁に駆け込むのは、ルール違反。
仁義を通さない考え方は、銀行を敵に回すだけです。

銀行からのアポイントは「3回」断る p173

銀行からアポイントが入ったら、「3回くらい」は断ります。
のどから手が出るくらいお金が必要でも、「すいません、いまちょっと忙しいので」とか「お客様と約束があるので」と言って断ります。
3回断ってもまだ連絡のある銀行は「本気」です。
「本気で貸したい」と思っています。

ランチェスター戦略では、「訪問回数が多いほど営業力が高まる」、「7回訪問すれば、相手はYESと言う」と考えられています。
私は、資金需要がなかったときに、それが本当かどうか、試したことがありました。

都銀の新任担当者が飛び込みで来たとき、「小山の著書をご覧になったことありますか?」、次に来たときは「では、あの本の内容をどう解釈しましたか?」、「どのような感想をお持ちになりましたか?」、「○○○○についてご存じないと、小山と会っても話になりませんよ」などと言っては、毎回、帰るときに宿題を与え、次に来られるようにしました。

先方は、すぐに小山に会いたい。
けれど会えない。
普通なら途中であきらめてしまうところですが、この担当は半年間、私を訪ねて来ました。

訪問回数を重ねるうちに、「武蔵野がどのような会社か」がわかってきて、「本気で貸したい」と思ったのでしょう。

在庫の整理に踏み切れたのは、B/Sを見ていたから p182

2008年に倒産した上場企業のうち、じつに3分の2が「黒字倒産」でした。
「赤字」だから倒産したのではありません。

「黒字なら倒産しない」、「赤字だから倒産する」と短絡的に考えるのは、経営をP/L(損益計算書)だけで判断しているから。
B/S(貸借対照表)ベースで経営を実践すれば、「現金がなければ倒産する」しくみに気がつくはずです。

【P/L(損益計算書)】
1年間の業績をまとめて「いくら儲かったか」、「いくら損をしたか」を知るための決算書。
いくら売上があって、いくら経費を使って、最終的にいくら利益(損失)が出たかがまとめてあります。
P/Lは「見解」です。

【B/S(貸借対照表)】
決算日現在の会社の財産状況をまとめた表。
資本金や利益剰余金(純資産)がいくらあって、いくらお金を借りていて(負債)、どのように運用されているか(資産)を示しています。

「資産の部」と「負債および純資産の部」に分かれていて、「資産の部」と「負債および純資産の部」の合計が同じ額で「バランスがとれている構造」になることから、バランスシート(Balance Sheet)と呼ばれています。
B/Sは「現実」です。
「現実」とはすなわち、「現金」です。

命の次に大切なお金のことを知らないで、つまり、B/Sを見ないで経営を行なうのは、鉄砲を持たないで戦争に行くようなもの。
勝てっこありません。

黒字でも会社が倒産するのは、現金がないからです。

銀行から借入ができている間は、血液が回っているので倒産しません。
事業経営は、利益を出すことがいちばんではなく、「お金が回ること」がいちばんです。
では輸血してくれるところはどこか。
銀行しかありません。

会社が潰れる最大の原因は、社長が「資金音痴」だからです。
それに尽きる。

資金音痴の社長は、P/Lベースで経営計画をつくる。
したがって、自社の事業構造をけれどB/Sを見ていれば、社長の打つ手が決まります。

p186

売れない商品は、値引きしてでも早く資金に変える。
在庫は、お金と同じです。
商品を売り損ねてしまったら、お金を捨てることになります。
「損をするから」といって値引きをしないと、結果的に、もっと大きな損をします。

短冊に、社長みずから数字を書き込む p188

多くの社長が、「勘定科目や数字の意味がわからない」と言ってB/Sを見ません。
経理や会計士に任せっきりです。

p190

中小企業の社長の90%以上が、B/Sが読めません。
それどころか、銀行員の半分はB/Sが読めないし、経理事務所の職員も半分は読めません。
「B/Sの計算ができる」ことと、「B/Sの数字を読み解く」ことは違います。

「武蔵野」の経営サポート会員は現在、336社。
倒産した会社はありません。
「倒産ゼロ」なのは、私が、P/Lではなく、B/Sベースで指導するからです。

現金は現実です。
「資金を調達するには何をすべきか」、「格付けを上げるためには何をすべきか」を現実的に対策しているからこそ、銀行がお金を貸してくれる。

自社ビルは持たないほうがトク p195

「資金運用」とは、意図的にB/Sの勘定科目を変えることです。

「資金運用」とは、会社を潰さないための社長の方針です。

「資金運用」をすれば、会社の格付けが上がります。

「武蔵野」は、できるだけ固定資産を持たないようにしています。
本社ビルも賃貸です。
毎月の家賃は経費です。

土地を購入して本社ビルを建てると、「経費」ではなく「資産」になる。
資産の返済は、「利益」で行ないます。

経常利益4000万円の会社が、自社ビルを買うとします。
年間の返済額は1000万円。
現在借りているオフィスの賃料も、同じく年間1000万円です。

【賃料の場合】
経常利益 4000万円 (すでに賃料の1000万円は経費として引かれている)
税金 (50%) 2000万円
予定納税 (25%) 1000万円 (計3000万円)
残った現金 4000万円-3000万円=1000万円

【購入した場合】
経常利益 5000万円 (家賃の経費1000万円がなくなったので5000万円に)
税金 (50%) 2500万円
予定納税 (25%) 1250万円 (計3750万円)
自社ビル購入の返済 1000万円
残った現金 5000万円-3750万円-1000万円=250万円

購入した場合、賃料に比べ、現金が残りません(その差750万円)。
自社ビルを購入すると、税金を多く払ううえに、資金繰りも危うくなる。
土地は償却できない。
建物は減価償却費と経費に変わるのに時間がかかる。
固定資産には税金もかかる。
けれど家賃なら、利益を圧縮できるので、税金が安くなる。

無駄な資産を持たず、総資産を圧縮すると、自動的に負債が減少します。

会社の土地は、社長の個人会社に売却して借りる p197

すでに土地や資産を持っているのなら、社長の個人会社に売却してもいい。

会社が3億円の土地を持っています。
この3億円の土地を売る。
では、どこに売るか。
社長が個人会社をつくって、その会社に土地を売ります。
この土地を社長個人の所有にして、今度は、会社が土地を借りる。
そうすると、資産(B/S)だった土地が経費(P/L)になる(社長には個人資産が残るので、相続のときに有利)。

社長の個人会社には借金は残るので、実態は変わりませんが、土地の売却(土地の含み損の償却も一緒にできる)で土地購入の借入金を返済すると、資産と借入金が減り、格付けが良くなります。

決算書の内容は変えられない。
過去と他人は変えられない。
でも、自分と未来は変えられます。
社長は、土地や建物を個人会社に売却したり、在庫や売掛金を圧縮して、B/Sの勘定科目を意図的に変えることが大切です。

経常利益の目標額は、適当に決める p200

何事も「逆算」したほうがうまくいきます。
結婚が決まったら、はじめに何を決めますか?
結婚式の日にちを決める。
日にちを決めて、会場を決めて、仲人を決めて、いつ案内状を出すかを決めて、ウエディングドレスを決めて、席次を決めて……と、最初に「ゴール」を決め、逆算します。
大学入試も同じで、試験日から逆算する。
試験日がわかれば、いつから、どのように勉強をはじめればいいか決まります。

経営計画も「逆算」が基本です。
最初に結果(来期の利益目標)を決めてから、結果を得るための手段を決めていく。

多くの社長が、経常利益よりも先に「売上」を決めます。
今期の対前年比5%増、10%増と売上を設定してから、仕入はいくらで、粗利益はいくらで、給与はいくらで、経費はいくらで……と考え、経常利益は最後。
これでは、なかなか利益が出にくい。

私は逆です。
経常利益をいちばん先に決定しています。

では、経常利益はどうやって決めるか。

経常利益の数字は、「適当に決める」のが正しい。
根拠も、正当性もいりません。
社長が「いくらほしい」と決めればいい。
とりあえず「数字」を決めて、不都合が生じてから修正すればいいだけのことです。
今期の経常利益の10%増でも、倍増でもいい。
社長が「これだけの経常利益を出す」と決めれば、それが目標額です。

経常利益の目標は、社長の「思い」で決まります。
私の思いは「重い」ので、いつも目標額の半分しかいかない。
経常利益の目標額が1億円なら、実績は5000万円。
目標額が2億円なら、実績は1億円。
私の場合はまさしく「話半分」ですが、経営は、「率」ではなく「額」。
話半分でも、前年を超えていることが大切です。

赤字の会社であれば、経常利益はゼロでもいい

「実践経営塾」に参加する社長から「経常利益をいくらに設定すればいいかわかりません。どのくらいの数字にしたらいいですか」と質問されることがあります。

このとき私は、いつも決まってこう答える。

「だったら、ゼロにしましょう」

すると社長は、
「いやいや、ゼロだと困るんです。せめて3000万円はほしい」

ほとんどの社長は、すでに答えを持っています。
細かな数字までは把握していなくても、大まかな数字を持っている。
赤字の会社なら、経常利益はゼロでもいい。
赤字が3000万円の会社であれば、「ゼロ=3000万円の純利益」と同じです。

「武蔵野」の経営計画は、いい加減につくられている p204

「武蔵野」の短期計画は、じつにいい加減です。

私が「今期は、いくらの利益にする」と決め、その数字を各役員に割り振ります。
役員たちから「どうしてこの数字なのですか?」と質問されたら、「根拠はありません」と答える。
これが私のいいところです。
「根拠はないけど、この数字で計画しなさい」と。

すると役員は部長を呼んで「根拠ないけど、この数字で計画をつくってほしい」と数字を割り振り、割り振られた部長は課長を呼んで「オレも、役員も、それどころか社長も根拠はないんだけど、とりあえずこの数字で計画をつくって」と割り振っていく。
このようにしてできた計画を合算して、短期計画ができ上がっています。

いい加減な計画でも、ある会社とない会社では、天国と地獄ほどの違いがあります。
たとえ計画がいい加減でも、「何%できているか、どれくらい達成しているか」がわかれば、次の判断がしやすい。

多くの社長が、正確さを求めるあまり、結局は計画が立てられません。
私は、正しさよりも速さを大切にしているので、適当に計画を立てています。

適当でもいいからスタートしてみて、マーケットの状況に合わなければ、そのときに修正すればいいだけの話です。

長期経営計画は、「5年後に倍増」を目指す p205

「経営計画書作成合宿」では、各社長に「5年後に売上を倍増にする長期経営計画」を立てていただきます。

「5年後に売上倍増」を掲げるのは、「いままでと同じやり方では会社は成長しない」ことに気づいてもらいたいからです。
不採算部門から撤退するとか、IT化を進めるとか、新規事業をはじめるとか、「いままでとは違うやり方」を取り入れることで、会社にバイタリティーが生まれます。

私がはじめて「長期事業構想書」をつくり「5年で売上倍増」の長期計画を発表したとき、部長の狐塚富夫は言いました。

「本当に達成するんですか?」

私が、「達成するはずがないだろう」と答えると、狐塚は「やっぱり」と納得しました。

ところが、狐塚の予想を裏切り、5年後に売上は倍増しました。
新規事業を立ち上げ、不足分の売上を補った結果、売上が倍になった。

株式会社山崎文栄堂の山崎登社長(東京都)やドクターリセラ株式会社の奥迫哲也社長(大阪府)など、経営サポート会員のほとんどが(5年以上かかることはあっても)「売上倍増」という、とてつもない計画を達成しています。
彼らもまた、新しいやり方を模索し、努力し続けたからです。

ホッピービバレッジ株式会社(東京都)の石渡美奈社長に至っては、なんと4倍です。
詳しくは『社長が変われば、社員は変わる!』(あさ出版)を参考にしてください。

新規事業は成功する確率が低い。だから融資を受けにくい p207

賞与資金については、一度融資実績・返済実績をつくれば、それ以降もたいがい借りられます。

納税資金は、多くの銀行が喜んで貸してくれます。

M&Aは、同業の場合や本業の強化につながる場合は無条件で貸してくれます。
ですが、新規事業だと警戒されます。

設備投資は、本業強化の設備投資なら貸してくれる。
飲食店で新店舗を出すときなどは、貸してくれます。
一方で、新規事業をはじめるための設備投資には、融資を受けにくい。
なぜなら、新規事業は成功する確率が低いからです。

あのイチロー選手でさえ、10回打席に入って、ヒットを打つのは3回程度。
事業も同じで、腕のいい経営者でも、新しい事業を10はじめたら、利益を生むのは3つくらい。
私もいろいろな事業に関わってきましたが、通算すれば、打率は2割程度です。

ですから、新規事業をはじめるときは、「本業が儲かっているとき」でなければいけない。
ところが多くの社長は、本業が下り坂のときに新しいことをはじめようとします。
本業が安定していなければ、銀行は融資に応じてくれません。

「武蔵野」の経営サポート事業部が成果を出しているのは、本業(ダスキン)が安定していたときにスタートさせたからです。

経常利益は、新規事業、社員教育、インフラ整備の順に使う p208

経常利益は、「前年より少し多くする」のが基本です(目標額は、適当でいい)。
経常利益が倍になるときは、知恵を絞って節税します。
では、利益が出そうなときは、どのようにお金を使うのが正しいと思いますか?

1番目は、新規事業や新規開拓など、「お客様の数を増やすこと」に使います。
最高の節税です。

2番目は、社員教育。
社員教育をしたからといって、すぐに効果が出るわけではありません。
本来は無形固定資産ですが、無形固定資産として計るモノサシがないから、社員教育は全額「経費」。
利益が出ている会社が社員教育をすると、節税になります。

「武蔵野」は、社員教育に時間とお金を惜しみなく投入します。
2002年度は、経常利益と同額をつぎ込みました。
サービス業は、人の成長なくして会社の成長はあり得ません。

3番目はインフラの整備。
経営サポート会員から「IT化の開発費はどれくらいですか?」と聞かれたとき、私は「聞かないでください」と答えた。
利益が出れば、こりずに使ったからです。

インフラを整備した結果、最高7500万円だった通信費が3000万円を下回りました。
さらに、本社と各営業所間の専用回線をインターネットにしたことで、毎月40万円の経費が削減できています。
削減できた費用は純利益です。

4番目は経常利益です。
そのほか、従業員満足とお客様満足のためにも使います。
従業員満足とお客様満足は、B/Sには載らない「含み資産」といいます。
含み資産が多いほど、いい会社です。

「武蔵野」が増収増益を続けているのは、経常利益を最初に決めているから。
「今期はいくら利益を出す」と決め、それ以上の利益が出たら、すべて使います。

それどころか、利益が出ることがわかったら、先行投資する。
利益が出てから、ではなく、出る前にお金を借入れて、(1番目から3番目のために)お金を使っています。

利益が出るのを待っていると、チャンスを逃す。
売る時期に売らないと、売り損ないが出てしまう。

だから、お金を借入れ、先行投資。
「利益が出てから」ではなくて、「利益を出すために」先にお金を使っている。

会社都合の繰り上げ返済をしてはいけない p211

返済期間は、長ければ長いほどいい。
「金利が高くても、返済期間は長く」が借入の基本方針です。
ですが多くの社長は「金利は安く、返済期間は短く」しているから、資金繰りが苦しくなる。
いちばんいいのは、途中で借換えをさせてもらうこと。
ようするに、残債(返済していない借入の残高)の何本かを1本にまとめてもらい、期間の長い追加融資を受ける。
このような返済計画(借換え)に応じてくれる銀行は良心的です。

返済するときは、会社の都合だけで返済期間を繰り上げてはいけません。
繰り上げ返済すれば「銀行の利益が減る」からです。

せっかく高い金利で貸しているのに、期限より前に返済されると、銀行は期限の利益を失うことになります。
約束したとおりに返済するのがルール。
自社の都合だけで返済を決めれば、築き上げた信用をなくすことになります。

銀行からの返済要求をプラスにとらえる p212

銀行から「早く返してくれ」と言われた場合は、繰り上げてもいい。

おもしろい話があります。
政府系の金融機関からお金を借りていた社長の話です。
株式会社小田島組(岩手県)の小田島直樹社長は、あるとき金融機関の担当者から「決算書を出してほしい」と言われた。
社長が「何に使うんですか?」と問いかけても、明快な返事が戻ってこなかったので社長は、決算書を出しませんでした。

担当者は、言いました。
「決算書を出さないなら、貸しているお金を返済してほしい」。
売り言葉に買い言葉で、社長も言った。
「わかりました。返済します」。

返済を迫られた小田島社長ですが、内心は「渡りに船」と思った。
なぜなら、返済を求められた借入金は20年も前のもので、金利が高かった。
そこで社長は、別の金融機関から安い金利で借換えをして、返済に回した。
金利が安くなるため、社長にとっては「渡りに船」だったわけです。