「エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする」を 2,023 年 04 月 04 日に読んだ。
目次
メモ
ジャーナリストの目を手に入れる p102
日記をつける
現代の職場はカオスだ。誰もが声を張り上げて、私たちの注意を引こうとしている。
そんな環境だからこそ、誘惑に惑わされず、本質をつかみとらなくてはならない。
自分の内なるジャーナリストを呼び覚ますための方法を、いくつか紹介しよう。
ジャーナリストという言葉は、ジャーナル(日記)と語源を同じくしている。
もともと ジャーナリストとは「日々の記録をつける人」というような意味だ。
だからジャーナリストの目を手に入れるには、まず日記をつけてみるといい。
人は忘れやすい生き物だ。せっかく体験したことを、片っ端から忘れていく。
たとえば、先々週の木曜日の夕食が何だったか、思い出せるだろうか。
3週間前の月曜は、どんな会議に参加していた? たいていの人は、まったく思い出せないはずだ。
日記は、脳のバックアップ装置のようなものだ。
誰かが言ったように、「どれほどすぐれた記憶力も、鉛筆一本にかなわない」。
私は10年前から日記をつけている。継続の秘訣は、書きすぎないことだ。
いざ日記を始ると、張り切って何ページも書いてしまう人が多い。
すると2日目には気が重くなり、3日目には投げ出してしまう。
そんなにたくさん書こうと思わず、「より少なく、より良く」書いたほうがいい。
日記の習慣が根づくまでは、意識して減らすことが大切だ。
日記をつけたら、2 ~ 3ヵ月ごとに読み返す習慣をつけよう。
といっても細かいことは気にせず、大きな流れを把握するのだ。
1日、1週間、1ヶ月で、あなたの人生に何が起こっただろうか。
日々の小さな変化は見逃しやすいが、まとめて見ると大きな違いに気づくはずだ。
授かり効果 p183
所有という概念は、人の心に大きく影響する。
わざわざ買おうと思わないようなものでも、いったん所有してしまうと失うのが怖い。
「授かり効果」という心理的バイアスのせいだ。
ノーベル賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンが、授かり効果に関するおもしろい実験をしている。
カーネマンらは、ランダムに選んだ被験者の半数にマグカップを与え、残りの半数には与えなかった。
マグカップをもらったグループ(つまり、所有しているグループ)は、「いくら払ってもらえばそのマグカップを手放すか」という質問を受けた。
残りの人は「そのマグカップを手に入れるのにいくら払うか」という質問を受けた。
その結果、マグカップを持っているグループの答えが最低でも5ドル25セントだったのに対し、
マグカップを持っていないグループの答えは2ドル25セント~2ドル25セントにとどまった。
所有しているという理由だけで、何の変哲もないマグカップの価値が3ドル分も高く感じられたのだ。
自分の生活を振り返ってみても、いざ手放すとなると価値が高く感じられるものがあるのではないだろうか。
たとえば、何年も読んでいない本。箱に入ったままの食器。誰かにもらって一度も袖を通していない服。
何の役に立つわけでもないのに、所有しているという理由だけで、失うのがもったいないと感じる。
まだ持っていないとしたら、わざわざ買わないはずなのに。
途中でやめることはなぜ難しいのか p183
サンクコストバイアスにかぎらず、非エッセンシャル思考の人が陥りやすい罠はいろいろとある。
次に紹介するような罠に出会ったら、損失を最小限にとどめて、上手にそこか脱け出してほしい。
ゼロベースで考える p190
会社や部門で予算を立てるとき、普通は前年度の実績をもとにして考える。
だが、前年度までの予算を無視して、ゼロから考えるという方法もある。「ゼロベース予算」というやり方だ。
手間のかかるやり方だが、メリットも大きい。
現状にとらわれず効率的なリソース配分ができるし、過大な予算申請に気づきやすい。
業務の非効率な点も見えてくるし、各部門が予算の利用目的を明確に意識できる。
こうしたゼロベースの考え方を、自分の仕事や生き方に当てはめてみよう。
たとえば、今の時間の使い方をいったん忘れて、何も予定のない状態にする。
そして、今日やるべきことをゼロから考えてみるのだ。
これはお金の使い方や人間関係など、あらゆることに応用できる。
まっさらな状態から、時間やお金やエネルギーの使い方をあらためて考えてみよう。
ただ惰性でつづけていることは、すぐにやめるべきだ。
見積もりは1・5倍で考える p227
私の知り合いで、いつも最短記録をベースに見積もりを立てる人がいる。
たとえば家か店まで行くのに、以前5分で行けたことがあるからといって、5分で行ける前提で動くのだ。
実際は10分以上かかることが多いというのに。
買い物に行くだけなら、とくに困らないかもしれない。
だが何事もそんな調子なので、すっかり遅刻魔の評判が定着してしまった。
本人も悪いと思っているし、つねに時間に追われてストレスを感じている。
あまりに長いあいだその行動スタイルで生きてきたので、ストレスのない状態が思い出せないほどだ。
それでも、やはり5分で店に行けると信じて疑わない。
会議は30分で終わるし、大規模な報告書は1週間で終わると信じている。
ときどきは、うまくいくのだ。だが遅れることのほうが多いし、そのせいで周囲を困らせ、罪悪感に苛まれる。
いくらかバッファをとるだけで、今よりずっとうまくいくはずなのだが。
あなたにも、仕事の見積もりが甘すぎて、いざやってみると締切に間に合わなくなった経験があるのではないだろうか。
そういう傾向はけっして珍しいものではない。
計画錯誤(プランニング・ファラシー)という言葉もあるほどだ。
計画錯誤とは、ダニエル・カーネマンが1979年に提唱した言葉で、作業にかかる時間を短く見積もりすぎる傾向のことを言う。
以前やったことのある仕事でも、なぜか実際より短く見積もってしまうのだ。
ある実験では、3人の学生に対し、卒業論文の執筆に何日間かかるかという質問をした。
「すべてがうまくいった場合」の見積もりは、平均で2・4日間。
「何もかもうまくいかなかった場合」の見積もりは、平均で4・6日間だった。
ところが実際、執筆にかかった平均時間は55・5日間と、最悪の場合の見積もりを超えていた。
当初予想した時間内で終わらせた学生は、たった3割だった。
おもしろいことに、見積もりが甘すぎる傾向があることはみんな認めるのだが、
それでも目の前の仕事を見積もる段になると甘すぎる見積もりをしてしまう。
なぜ実際より短く見積もってしまうのかという理由については諸説あるが、
「周囲によく見られたいから」という説はなかなか興味深い。
匿名で見積もりをさせた場合には、計画錯誤が起こらなかったという報告もある。
自分の見積もりが周囲に知られる場合にだけ、実際より早くできると言ってしまうということだ。
理由はどうあれ、私たちは何をするのにも、当初の想定より遅れる傾向がある。
最小限の進歩を重ねる p250
「完璧をめざすよりまず終わらせろ」という言葉がある。
シリコンバレーでよく耳にする言葉だが、これは別に品質を無視しろという意味ではない。
瑣末なことに気をとられず、本質をやりとげろという意味だ。
似たような意味で、スタートアップ界隈ではMVP (minimum viable product : 実用最小限の製品)という言葉もよく使われる。
「顧客にとって有用なことを最低限実現するには?」と考え、よけいなことをしないというやり方だ。
これらを応用し、「実用最小限の進歩」というやり方を取り入れてみよう。
「重要なことをやりとげるために、最低限意味のある進歩は何か?」と考えるのだ。
この本の執筆にも「実用最小限の進歩」を利用している。
まだ書きはじめる前の構想段階では、アイデアの切れ端をツイッターで公開することを最小限の進歩に定義した。
もしも反響があれば、それをブログ記事に発展させた。
この小さな進歩の繰り返しによって、自分のアイデアと人びとのニーズとの接点を少しずつ探っていったのだ。
アニメーション制作会社のピクサーも、同じやり方をしている。
脚本を書きはじめる前に、彼らはストーリーボードという一種の紙芝居を作成する。
場面を簡単な絵で表現し、それをつなぎ合わせて流れをつくっていくのだ。
ピクサーではこの作業を、小さな単位で何百回も繰り返す。
やがて映画ができると、少人数の人に見せてフィードバックをもらいながら改善していく。
少しずつ進むから、無駄な努力をしなくてすむ。
ピクサーとディズニーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーをつとめるジョン・ラセターは、こうコメントしている。
「映画を完成させるわけじゃない。解放するんだ」
未来を頭の中に抱えない p276
頭のなかに未来のことが詰まっていると、今この瞬間に集中できない。
先ほどの例でいえば、私は今すぐやることを決めたあと、「今すぐ必要ないけれど重要なこと」をリストアップすることにした。
刺激的な1日のあとで、やりたいことのアイデアがひしめいていたのだ。
私は日記の新しいページを開き、「この先やりたいことは何か?」に対する答えを書いた。
うまく形になっていなくてもいいから、とにかく頭の中にあるものを紙に吐き出していった。
紙に書くことには、2つの効果がある。
ひとつは、有用なアイデアを忘れないこと。
そしてもうひとつは、「覚えているうちに何かやらなくては」という漠然とした焦りを感じなくてすむことだ。
優先順位をつける p277
今すぐやるべきことのリストができたら、優先順位の番号を振って、順番に片づけていこう。
一度にひとつのことに集中し、終わったら線を引いて消す。
おかげで私は今すぐやるべきことをすべて手際良く終え、安心して眠りにつくことができた。
メンバーの役割をあいまいにしない p301
最近会ったあるCEOは、経営チームの役割分担をあいまいにしたばかりに、組織全体がひどい非効率に落ち込んだと話していた。
このダメージを修復するために、彼は組織の明確化に全力を注いだ。
自分の直属の部下を4人に絞り込み、それぞれの責任範囲を明確に分けて、組織運営を立て直したそうだ。
PayPal(ペイパル)の創業者ピーター・シールは異端児として知られているが、そのエッセンシャル思考の突き詰め方も半端ではない。
彼はペイパルの社員たちに、「最優先の役割をひとつだけ選べ」と言い、それ以外の仕事はするなと指示する。
ペイパル元副社長のキース・ラボワは、そのやり方について次のように語っている。
「ピーターは全社員に、それぞれたったひとつの仕事だけをやらせました。
最優先の仕事以外のことで相談に行っても拒否されます。
年次評価のシートにも、会社に対してもっとも貢献したことをひとつだけ書くという欄がありました」
こうしたやり方のおかげで、社員は自分のやるべきことを明確に意識し、
会社に貢献するために頭を使って自発的に動けるようになったそうだ。
謝辞 p306
すべてを与えてくれた父と母。