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「デザインの言語化」を読んだ

投稿時刻2025年3月5日 11:24

デザインの言語化」を 2,025 年 03 月 03 日に読んだ。

目次

メモ

言語化の第一歩はコンセプトの提案から p8

デザイナーにとって「言語化能力」がいかに重要かについて、まずは、「デザインコンセプトづくり」から考えてみたいと思います。
コンセプトとは、デザインする上で最初に決める地図であり、羅針盤。
デザインワークに迷ったらコンセプトに立ち戻れば、自分の立ち位置を確かめることができます。
進むべき方向を見失ったときの心のよりどころとなる大事な存在です。
Q
クライアントからこんな依頼を受けたとしましょう。
この場合、どんなデザインコンセプトが考えられるでしょうか。
ボーダレスな空間を目指したビジネスホテル『HOTEL B』を開店します。
年齢、性別、国籍関係なく、宿泊者同士が交流できる広い共用部(全体の33%)が特徴です。
そこで、開放的で心地よい空間を想起させるWebサイトの制作をお願いしたいです。

POINT ① クライアントの思いを読み解く p9

上のコンセプト案1は、共用部分の割合である「33%」をデザインに落とし込み、3×3に分解して9つのグリッドでデザインしたものです。
一般的に共用部が30%以上を占める施設は高級ホテルと位置づけられるので、ビジネスホテルで33%という数字は大胆な特徴だと言えます。
このように、わかりやすい特徴を、そのままシンプルにデザインコンセプトに落とし込むのは王道の手法です。
他にも、33という数字を使ってグラフィック展開する方法が考えられますね。
ただ、“ボーダレス”という数値化できない特徴を打ち出したいところで、数字を使ったデザインをするのは、やや違和感があります。
クライアントの思いとズレてしまっているかもしれません。

デザイナーが言葉の力を使って最初にやるべきことは「クライアントの思いを読み解くこと」です。
これを怠ると、このあとのデザインワークで修正が頻発します。
だから、キックオフ時のクライアントへのヒアリングがとても重要なんです。
急がば回れ、というやつですね。

POINT ② このデザインにした理由を言葉で説明できるように p10

ボーダレスな雰囲気もあり、一見よさそうに見えますね。
状況によっては、このコンセプトでもいいと思います。
ただ、ぼくの経験上カラーに特化した「カラーコンセプト」と、デザイン全体に影響を与える「デザインコンセプト」は明確に分けたほうがいい結果につながることが多いです。
それでも、色をデザインコンセプトにしたいときには、少なくとも、その理由を説明する必要があります。

なぜグラデーションなのですか?
なんで7色なんですか?

このようにクライアントに質問されたら、言葉で答えなくてはいけません。

さまざまな人がコミュニケーションで溶け合うイメージを表現しています。
7色は多様性を想起させるからです。

これでも説明できているように感じられるかもしれませんが、クライアントに納得してもらうには、もう少し具体的な説明が必要です。
デザインコンセプトは、デザイナーの考えを言語化したもの。
それと同時にクライアント側が「自分の思いがデザイナーに伝わったのか?」を確認するためのツールでもあるからです。(色の言語化はp.068を参照)

デザインチーム内で全員が「いける!」と確信していたアイデアが、クライアントの反応が悪くやり直しになった。
デザインあるあるです。
でもそれは、デザインが悪いのではなく、伝え方が悪かった可能性もあるんです。
クライアントに「おっ、こいつオレが言ったことよくわかってるじゃないか」と思ってもらわないとデザインが先に進みません。
だから、デザインコンセプトは、クライアントが理解しやすい言葉で伝えなくてはいけないのです。

「ひとことで全部伝えるなんて無理だよ~」と思う人もいあるかもしれませんね。
もちろん、ひとことで全部伝えなくても大丈夫です。
写真や図などのビジュアルの力も使いながら、クライアントに伝わる言葉を重ねていけばいいんです。

POINT ③ 相手の言葉を使って伝える p12

このコンセプトをクライアントに説明するとしたら、どう言語化すればよいと思いますか?
疑似プレゼンをしてみましょう。
デザインコンセプトは「infinity」、無限や永遠を意味する言葉です。

私はいただいた依頼内容から「ボーダレス」がもっとも重要なキーワードだと感じました。
心の境界線を解放し宿泊者同士の交流が生まれるシーンを表現したコンセプトワードが「infinity」です。

また、共用部の開放的で心地よい空間、それが HOTEL B 最大の魅力。
それを境界なくつながるビジュアルで表現したいと考えています。
縦スクロールに合わせて展開していくWebデザインがいまのトレンドですが、今回はあえて横スクロールを基調としたデザインがいいと思います。
年齢、性別、国籍に関係ない宿泊者同士の交流は対等でフラットな関係のはず。
そこを横基調の連なるビジュアルで表現したいんです。
これまでより、クライアントが聞きやすい内容になっていると思いませんか?

プレゼンで一番大事なのは、相手が知りたいことを伝えることです。
自分が伝えたいことは、その次です。
そして、クライアントが知りたいことは、ただひとつ。

自分が依頼した内容をこの人はどう解釈したんだろう?

これに尽きます。
ぼくはプレゼン時に、クライアントが依頼時に使った言葉をなるべく使うようにしています。
そうすることで共通言語で議論ができるんですね。

間違っても専門用語を駆使して相手をけむに巻いてはいけません。
「あえてビジュアルヒエラルキーをつけずにボーダレスな世界観を演出します。パララックスを使ってフラットながら効果的な強調表現にトライしたいです」
なんてここまで偏った言い方をする人はいませんが、必要以上に横文字を使うデザイナーっていますよね。
専門用語を使いすぎるのは、逆効果だと覚えておいたほうがいいでしょう。

POINT ④ いいコンセプトはアイデアを加速させる p14

デザインコンセプトには、デザインの方向性を決めプロジェクトを円滑に進める役割の他に、アイデアを加速させる機能もあります。
いいデザインコンセプトはクリエイティブな発想を刺激し、ときにそれはデザイナー以外の人へも波及します。

「ラウンジの内装、大きな鏡を入れて空間の広がりを強調したいね」
「バーで出すオリジナルカクテル、“永遠イライト”というネーミングはどうかな?」

自分が考えたコンセプトが、Webという世界を超えて広がっていったら、こんなにうれしいことはないです。
デザインの言語化は、とても難しい。
でも、魅力的な考えを力ある言葉で表現できたときは、めちゃくちゃ気持ちいいです。
自分でもほれぼれするような絵が描けたときと同じくらい達成感があります。

書いて、描いて、また書いて。
よいデザインをするために、書くトレーニングも大事だなと感じる毎日なのです。

説得力のあるコンセプトの作り方 p16

ここからは、「デザインコンセプト」を作るための、さらに具体的なコツについて考えてみたいと思います。
コンセプトを作る簡単な方法があると言ったら、どうしますか?
魅力的なコンセプトを作るだけなら、じつは簡単なんです。
Q
「安くておいしい、ボリューム満点のステーキハウス」。
どこかで聞いたことのあるフレーズですが、つい行ってみたくなりますよね。
でも、実際にはそういうお店は少ない。
なぜでしょうか?
答えは、実現するのが難しいコンセプトだからです。
「安い」と「おいしい」という相反する要素を両立しながら、利益を確保することは困難です。
どんなにすばらしいコンセプトでも、実現できなければ意味がありません。
コンセプトを作るときには、ちゃんと実現性を考慮しなくてはいけないのです。

POINT ① コンセプトの鉄板「A&B構文」は3種類ある p17

コンセプトを表現するカタチはさまざまですが、ぼくが鉄板だと思うカタチがA&B構文です。

A&B構文とは、「Cute & Pop」のようにふたつの言葉を「&」でつないで表現するものです。
このカタチは、キャッチコピーでもよく使われます。
見た目がよく、音読したときリズムがいいのが、A&B構文の特徴です。
ふたつの言葉を組み合わせるだけで、コンセプトらしくなる便利な構文ですが、注意が必要なカタチでもあります。
ただ闇雲に言葉を置いてはダメなのです。

A&B構文の代表的な3つの型を例にして、どのような場面で使うべきか。
その効果と注意すべきことを書きたいと思います。
1 商品やサービスのコンセプトに有効な「動詞型」
レジなしスーパーというコンセプトを世界で初めて打ち出し実用化した、米国のAmazonが展開する「Amazon Go」。
店舗コンセプトの「Grab & Go」は動詞型の代表格です。
ふたつの動詞を「&」でつなげ、商品やサービスの魅力を伝えるものです。

「商品をつかんで(Grab)、そのまま店外へ(Go)」。
通常、スーパーでこの行為をするのはタブーです。
万引きですからね。
しかし、Amazon Goは、無数に配置されたAIカメラによる画像解析を駆使してこのコンセプトを実現しました。
レジがない無人決済システムを導入している店舗は最近よく見かけるようになりましたが、Amazon Goのコンセプトが発表された2016年は流通業界が騒然となりました。

動詞は、その商品やサービスがどんなものなのかユーザーが想像しやすいのがメリットです。
言葉もキャッチーになりやすい。
でも、どうやって実現するのか、具体的な方法がない場合は使ってはいけません。

「開発費を融資してほしい。新しい移動装置のコンセプトは、『Attach & Fly』。頭に付けるだけで、誰でも簡単に空を飛べる夢の装置です!」と言っても、誰も融資してくれませんよね。
「ドラえもんがお好きなんですね」と軽くあしらわれるのがオチです。
逆に、アイデアに具体策があるときは、A&B構文の動詞型を使うとアイデアを伝えやすくなるのでおすすめです。
2 キャッチーではないが信頼感ある「同義型」
同義型とは「Soft & Warm」のようにイメージが近い言葉を「&」でつなげるものです。
個々人のイメージにブレがなく、安定感があります。
デザインを出したときに先方とのギャップが少ない半面、キャッチーさには欠けます。
定番商品のキャッチコピーでよく目にするカタチですね。

表現に新規性が乏しく、コンセプトにはいまいち使いづらいように感じる同義型ですが、効果的な場面もあります。
たとえば、初めてのクライアントとの案件です。

ある食品メーカーからWeb制作を依頼されたとします。
初回の打ち合わせでクライアントが目指したい世界観や伝えたいメッセージをヒアリングし、2回目の打ち合わせでサイトのコンセプトを提案する場面を想像してみてください。

前回、御社が商品の品質に強いこだわりをおもちなのがわかりました。
もうひとつ、私が感じたのは「食の安全性」へのこだわりです。
前回の打ち合わせ後、各種媒体の御社の記事を拝見しました。
社長の○○さんが、安全への思いを語られていたインタビュー記事がとても印象的でした。
サイトのコンセプトは、「Quality & Safety」しかないと思います。

「Quality & Safety」は、それほどキャッチーな言葉ではありません。
しかも、Webのトンマナやカラーにも展開しづらい言葉です。
でも、このコンセプトの狙いは別にあります。
それは「御社の理解を深め、表層的なデザインではなく、本質的なサイト構築からお手伝いしたい」とアピールすることなんです。

とかく、デザイナーは見た目をきれいにする人と思われがちです。
たとえば「Fresh & Clear」という当たり障りのないコンセプトで、見栄えのする色を多用し、きれいなWebサイトをデザインするのもひとつのアプローチだとは思います。

でも、社長のインタビューを見つけ熟読し、自分たちが大事にしている「食の安全」というキーワードをデザイナーが提示してくれたら「このデザイナーは信頼できる」と思うクライアントは多いはずです。
事業方針や企業文化を徹底的に調べて生まれたコンセプトは、たとえ平易で見栄えがしない言葉でも、相手の心を動かします。
そういう場面では、ためらわずに同義型を使っていいと思います。
3 魔法の構文、どんな言葉も魅力的に見える「対語型」
「Traditional & Modern (伝統的だけど新しい)」のように、相反する言葉を「&」でつなげるのが対語型です。
どんな言葉でも、魅力的に見える魔法の構文です。

たとえば、「塩しょっぱいおせんべい」と「甘じょっぱいおせんべい」があったら、どちらを食べたいですか?
大多数の人が「甘じょっぱい」を選ぶでしょう。
相反する言葉を組み合わせると聞こえのいい、魅力的な言葉になるんです。
「Sweet & Bitter」「High & Low」など、キャッチーな言葉を作りやすいのがA&B構文の王様、対語型です。

前のページにあるABふたつのコンセプトを提示されたら、Bを選ぶ人が多いのではないでしょうか?
なぜなら、Bを実現するほうが難しいからです。
実現が困難なことは魅力的に見えるんですよね。
Aのほうは、同義型に近いですね。
Webデザインにも落としやすいコンセプトですが、既視感がありキャッチーな言葉とは言いがたいです。

コンセプトより大事なことは、最終的にできあがるデザインが、クライアントの期待を超えることです。
対語型のコンセプトは、簡単にクライアントの期待値を飛び越えることができます。
でも、気をつけないと、「コンセプトはよかったけど、デザインは……」とクライアントをがっかりさせてしまいます。
それでは逆効果ですよね。

POINT ② コンセプトは目的地へ向かうための「地図」 p22

コンセプトは、あくまで商品やサービス、そしてデザインの方向性を絞り込むためのものです。
勝負は、あくまで最終アウトプット。
デザイナーならデザインで。
プランナーなら、その企画が実現したときにエンドユーザーがハッピーな気持ちになれるのか?
それが一番大事なんです。

打ち合わせをスムーズに進めるためだけに、聞こえのいい言葉でキャッチーなコンセプトを提案してはいけません。
サービスも、商品も、デザインも、よりよいカタチでエンドユーザーに届けることが、最大で唯一の目的です。

失敗しないペルソナ設定の方法 p24

「ペルソナ」という言葉を聞いたことがありますか?
もともとはマーケティング用語で、デザイン業界でも古くから使われていますが、最近では新規事業開発や提案型の営業など、さまざまな場面で目にするようになりました。

ペルソナとは、製品やサービス、コンテンツ開発などの際にターゲットとして想定する「仮想ユーザー」のことです。
ユーザー像を突き詰めてリアルに描くことで、ユーザーへの理解を深め、潜在ニーズを探るための手法です。
一般的には、年齢や住所、職業や年収などの「定量データ(数値化できる情報)」と、感情や趣味、好みにつながる「定性データ(数値化できない情報)」を集め、それらをもとにペルソナシートを作成します。

ただし、ペルソナを設定する上で陥りがちな失敗もあります。
それは、ユーザー像をリアルにしようとするあまり、情報が羅列されただけの「使えないペルソナ」になってしまうこと。
ペルソナ設定で一番大切なことは、自分たちが誰のために開発しているかを、チーム内で共有することです。
そうすることで、ユーザーが必要としていることが明確になり、開発の方向性も定まります。
情報の密度が高ければいいわけではありません。

ここでは、どうすれば「使える」ペルソナが作れるのか?
集めた情報を言語化、見える化するときの注意点を事例とともにご紹介します。
Q
新規サービスのデザインを任されたあなた。
まずは、どんなユーザーに向けたサービスなのか、ペルソナを設定する必要があります。
どんなシートを作ればよいでしょうか?

POINT ① イメージが共有できる言葉を使うこと p25

いつも周りを笑顔にして、その場の雰囲気を明るくする人のことを「太陽みたいな人」と表現することがあります。
もちろん、実際には太陽より明るい恒星もありますが、「彼はピストル・スター(太陽の数百倍明るいとされている恒星のこと)みたいだね」とは、決して言いませんよね。

いくら仮想ユーザーを的確に表現できるからといって、あまり知られていない言葉でペルソナを作るのでは意味がない。
自分がイメージしやすいからといって「このペルソナのモデルは、友だちのAさんです」と言っても、相手に伝わらないのと一緒です。

ペルソナは、自分たちのサービスや製品の方向性を議論するために作るもの。
そして議論を活発化させるためには、プロジェクト内でイメージを共有できる、みんなが知っている言葉を使わなくてはいけません。

POINT ② 余白を残して議論を活発化させる p26

もうひとつ大事なことは、ペルソナに余白を残しておくことです。
上の例のように、はじめからガチガチに言葉を置いてしまうと、ユーザー像が固まってしまい、議論の余地がありません。

「ペルソナはなるべく詳細に情報を記述すべし!」という意見もありますが、やりすぎは逆効果です。
最初は箇条書きで構いません。
むしろ、そのくらいの言葉の密度のほうがいいです。
その箇条書きを持ち寄り、企画や営業、そしてデザイナーと立場が異なる人が意見を出し合い、みんなで議論してペルソナシートを完成させることが大事なんです。

逆にペルソナを前にして議論が進まない、偏ったアイデアしか出てこない……。
そんなときは、その資料に余白が少ない証拠です。
ペルソナを見直して、余分な情報を間引いたほうがいいでしょう。

POINT ③ 3N(NEW・NEO・NEXT)はNGワード p27

ペルソナを作るとき、その人をひとことで表すキャッチフレーズを決めることがあります。
先ほどの例だと、「自分らしくシンプルに暮らしたい、バランス型、バリキャリ系」がそれです。

このキャッチフレーズに、はやり言葉を使うと、共通のイメージをもちやすくなります。
ただ、はやり言葉は、使い方によってはユーザー像が曖昧になる「危険な言葉」でもあるため、注意が必要です。

たとえば、「アクティブシニア」という言葉があります。
趣味にも仕事にも熱心で、健康意識が高い高齢者をさす言葉ですが、数年前、この言葉がマーケティング分野で大流行したことがあったんです。
旅行や洋服、お菓子に住宅まで、あらゆる企画がアクティブシニアの文字で埋め尽くされました。
結果、さまざまな業界がこぞって自社サービスのペルソナを「アクティブシニア」とし、供給過多になり、市場は飽和しました。
いくら時間的にも金銭的にも余裕があるユーザー層とはいえ、使えるお金は限られていますよね。

はやり言葉でペルソナを作るときは、「競争の激しいレッドオーシャンじゃないのか?」を意識をもたなくてはなりません。
さらにやってはいけないのが、新規性を出そうとして「ニュー・アクティブシニア」のように抽象度が高い言葉を作ってしまうことです。
「ニュー」を付けただけでは、いままでと何がどう違うのか、わからないですよね。
これでは議論も活発化しないし、企画も通らないでしょう。

「ニュー(New)」「ネオ(Neo)」「ネクスト(Next)」。
この3つは、ペルソナづくりのNGワードです。
使うことで抽象度は上がってしまうし、そこから新たな想像もしづらい言葉なので、使わないほうがいいと思っています。

一方、同じアクティブシニアを表すとしても、「デジタルシニア」や「DXじいちゃん」だったらどうでしょう?
Webショッピングを楽しんだり、SNSで積極的に発信しているなど、いまの時代にあったアクティブシニアのイメージが湧いてきませんか?

POINT ④ ビジュアルで物語を伝えよう! p29

ユーザーの潜在ニーズに迫る「生きたペルソナ」を作るには、定量データ(数値化できる情報)と定性データ(数値化できない情報)の両方が必要だと冒頭に述べました。
そして、定性データをもとにペルソナに命を吹き込むのが、「ストーリー(物語)」です。

無料で配布されているペルソナシートのフォーマットの多くに、「ストーリー」や「エピソード」という欄があります。
ユーザーがどのような人なのか、その解像度を高めるための大事な項目です。
一方で、ペルソナづくりで一番悩むのもこの項目でしょう。
基本情報や行動情報は、アンケートなどの定量情報をもとに書けますが、ストーリーに関してはそうもいきません。

ふだん、文章を書きなれていない人にとっては、まるで「小説を書きなさい」と言われているようで、ハードルが高いですよね。
だからといってペルソナから「ストーリー」の項目を外してしまうと、履歴書みたいな人間味のないペルソナになってしまいます。

そこで、文章を書くのが苦手な人におすすめなのが、「ビジュアルでストーリーを伝える」手法です。

服装や部屋のインテリアには好みが出るものですが、そこの人の個性をもっとも感じるのはかばんとその中身でしょう。
人目に触れるかばんのなかに、ふだん見せない意外なアイテムが入っていたりするものです。

そんなかばんをペルソナづくりに使わない手はありません。
サンプル画像を見ているだけで、ユーザーへのイメージがくっきりしてきませんか?

「メガネはどんなときにかけるのかな?」
「リンゴを丸ごと、かばんに入れてるの!?」

……こんな感じで、その人をよりリアルに感じる物語が頭に浮かんでくるはずです。

これがビジュアルで語るストーリーの力です。
しかもこの手法は、デザイナーでなくても簡単にできるところがポイントです。
ユーザーの生活を思い浮かべながら、使っていそうなアイテムを切り貼りするだけなので、誰でも簡単にできます。
ペルソナづくりに欠かせない「ユーザー起点で考える」ことを自然にできるんです。

本棚やスマホでよく使うアプリなど、かばん以外にも、その人らしさを表現するアイテムはたくさんあります。
企画に合わせて最適なアイテムを選んで、みんなでアイデア出しをしてみてください。
言葉だけでなく、ビジュアルを使うとペルソナの議論が盛り上がりますよ!

POINT ① テーマは「出発点」、コンセプトは「手段」

じつはこの話、「テーマ」と「コンセプト」の違いがわからないと、何が問題なのかわからないんです。

一般的に、デザインにおける「テーマ」とは主題です。
デザインを考える出発点ともいえます。
たとえばデザインコンペのテーマが「暮らしを豊かにする置き時計」ならば、置き時計以外の応募は認められません。

一方、デザインにおける「コンセプト」は、そのテーマを具体化する手段です。
「マグカップのふたになる置き時計」や「壁にも付けられる置き時計」……というように、デザインの方向性を決定するものがコンセプト。
ひとつのテーマに対してコンセプトはいくつでも考えられます。

でも、驚くべきことにファッションの世界では真逆だったんです。
「コンセプト」は、ブランドコンセプトのことを指し、基本的にはひとつしかありません。
たとえば、かの有名なルイ・ヴィトンのコンセプトは「旅」。
創業以来変わらない、ブランドの核として存在する言葉です。
かばんからアパレル、アクセサリーにいたるまで、すべてのアイテムにその思想が反映されています。
そして「テーマ」は、「ゲーム・オン」や「タイムクラッシュ」などといった具合に、毎シーズン変わるんです。
つまり、ひとつのコンセプトに対して、その時代を反映したテーマに移り変わっていくのです。

同じ言葉をまったく違う意味で使っているふたりが、ただ会話するだけでは永遠にわかり合えないですよね。
異業種のデザイナーとの仕事は、相手の業界への理解が重要だと痛感したできごとでした。

POINT ③ 新しいアイデアは組み合わせで生まれる p46

アメリカの実業家、ジェームス・W・ヤング氏はこんな言葉を残しています。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」。
ひらたく言えば「自分が知っていることをやったことのない方法でつなげる」ことです。
このときの仕事でいえば、初めて聞いたシャギーという言葉と起毛塗装の知識を、置き時計の外装で使うことは、「やったことのない方法」でした。

同じ業界でずっとデザインしていると、経験値とともにデザインが洗練されていきます。
ただ、気をつけないと自分の得意パターンに頼るようになってしまうんですよね。
たとえば、「高級感を出したいときは青色と金色を組み合わせる」みたいなヤツです。
自分でも知らないうちに、既成概念という枠を作ってしまうことってあるんです。
そして、その枠は居心地がいいから厄介です。
外に出るのがおっくうになってしまう。

その枠を強制的に壊してくれるのが、異業種デザイナーとのコラボです。
デザイナーは主張が強い人が多いので、衝突することもあります。
言葉を丁寧に重ねていかないと理解しあえない。
正直めんどうなこともあります。
でも、その先にひとりでは考えつかないワクワクするデザインが待っているとしたら……。
伝えるための言葉を磨いて、外へ飛び出してみたくはなりませんか?

「どうしてこのレイアウトにしたのか?」と聞かれたら p52

「どうして、ママが作ったお味噌汁はおいしいの?」
「愛情がいっぱい入っているからよ」

昔のホームドラマやCMに出てきそうなセリフですね。
もちろん、家族のために愛情込めて作るお味噌汁はおいしい。
でも、そのおいしさの秘密はダシと味噌のバランスなんです。
家族の好みに合わせて、毎日作るお味噌汁。
ダシと味噌のおいしいバランスはお母さんが積み重ねてきた経験から生まれているんですね。

では、クライアントから「どうしてこのバランスでレイアウトしたのですか?」と質問された場合はどうでしょう。
「愛情込めてきれいなレイアウトにしました!」と答えても、けげんな顔をされるだけですよね。

ここからは、レイアウトの言語化についてお話しします。
あるクライアントにプロモーション用のポスターを提案したときのことです。
素材がよかったのでデザインはシンプルに、基本に忠実なレイアウトで提案しました。
すると、クライアントからこんな質問が。

文字はどうして、この位置なのですか?

こう質問されて、ぼくはきょとんとしてしまいました。
デザイナーにとってはとても基本的なことを聞かれてびっくりしたからです。
トイレが終わったあと、「なぜ手を洗うのですか?」と聞かれた感じに似ています。
一瞬の間を置いて、ぼくはこう答えました。

三分割法でレイアウトしているからです。

POINT ① レイアウトの原則をわかる言葉で説明する p54

三分割法とは、画面を9等分し、その線上や線同士の交点を基準に配置すると、バランスが取れたレイアウトになるという平面構成の基本です。
レイアウトする上でもっとも大事なセオリーとも言えます。
デザイナーが何気なくイアウトした構図も、無意識に三分割法を使っていることがあります。
デザイン経験の浅い人が、レイアウトの理由を聞かれ「これが一番きれいだと思ったからです!」と答える場面を何度か見たことがありますが、その説明ではクライアントは納得してくれませんよね。
デザインの基本的なことこそ、しっかりと言語化しておく必要があります。

文字配置の理由をぼくに質問したクライアントは、「三分割法」という言葉を聞き安心していました。
クライアントもデザインに文句を言いたかったわけではありません。
「キャッチコピー周辺の余白が多いな、なんでだろう?」と疑問に思っただけなのです。

その疑問に、デザイナー本人しかわからない感覚的な言葉で答えるのはよくありません。
相手が理解しやすい言葉で説明するのはプレゼンの鉄則。
クライアントのOKをもらいやすくなる上に、デザイナーへの信頼感も増します。

POINT ② あえてセオリーを崩すのも手 p55

ただし、セオリーどおりにデザインしても、いつもうまくいくとは限りません。
毎回同じ構図でデザインしていては、クライアントに既視感を与えますし、自分の表現力も上がっていきません。
三分割法は、バランスがよく落ち着いた印象を与えますが、逆に動きのある画面にするには工夫がいる構図です。

オーソドックスな手法に、注視点(前述の図の丸部分)を使って画面に強弱をつけるやり方があります。
もっとも視線が集まるオレンジ色の丸部分に大きいものを、黄色の丸部分に小さいものを配置すると、画面に奥行と動きが出せます。
セオリーに沿ったアレンジなので、失敗が少ないやり方ですが、大胆な構図にはなりづらい。

では、もっと大胆な構図にするにはどうしたらいいのでしょう?
その答えのひとつが、セオリーを崩すことです。
いわゆる「型破り」ですね。

下記のデザインはモチーフこそ最初のデザインと同じですが、随分印象が違いますよね。
もちろん、地図を削除して文字数を減らすなど、よりミニマルなデザインにするエ夫がしてあります。
でも、最初のデザインともっとも違う点は、三分割法のセオリーを崩している点です。

メインモチーフであるスイーツの中心は、右上の注視点とズレています。
左下のテキストもボックスの枠に収まっていません。
このちょっとした崩しが、画面に動きを与えているんです。
セオリーを崩しすぎると、バランスが悪いデザインになってしまう。
程よい崩し方は、数式で求めることはできません。
デザイナーの積み重ねた経験による「センス」から生み出されるものです。

では、センスとはいったい、何なのでしょう?

POINT ③ センスとは「平均値」を知ること p57

「服装のセンスを磨きましょう」と言われたら、まず何をしますか?
多くの人が、センスがいいといわれている服を見まくるのではないでしょうか。
雑誌やセレクトショップで流行の服の情報を集めて、センスがいいといわれているサンプルを収集することに必死になるはずです。
でも、それだけじゃダメなんです。

センスを磨くには、いいものも悪いものも含めて、さまざまなサンプルを知ることが必要だとぼくは思っています。
「センスがいい」と言われるものは、多くの人が共感するもの。
つまり、その分野の平均値なんです。
ファッションショーでしか見ない、奇抜で尖ったデザインの服を着て街を歩く人がいたら、「すごい!」とは思っても、「センスがいい」とは思わないですよね。

デザインのレイアウトも同じです。
誰も見たことがない尖ったレイアウトは、アート性はあっても一般の人に共感してもらいにくい。
いくら斬新だからといっても、ぐちゃぐちゃしたバランスの悪いレイアウトでは、当然ですが嫌われます。
多くの人が美しいと感じる「レイアウトの平均値」が、三分割法に代表されるレイアウトのセオリーなのです。

デザイナー同士で話をするとき、「どこまでデザインを「飛ばそうか?」という会話をすることがあります。
これも、その分野の平均値を知っていて、セオリーを共有できているから成り立つ会話なんです。
車を飛ばすにしても、一般道と高速道路では平均速度が違いますよね。
一般道を100kmで走っては危ないし、高速道路を40kmで走ったら迷惑です。

クライアントから「飛ばしたデザインにしてください」と言われ、提案してみたら「もっとコンサバにお願いします」と返される場面はよくあります。
これも、お互いが考える平均値の差から生まれるコミュニケーションギャップなんです。

POINT ④ セオリーとの距離感を意識してみよう p58

先人が作った、その分野のセオリーに沿ってデザインすることは、「型」を覚える上で意味があります。
でも、さらにその上を目指すならば、型を崩すことに挑戦しなくてはなりません。
そのためのトレーニングとして、世のなかにあふれるさまざまなデザインが、型どおりなのか、型破りなのかをふだんから意識して見ることをおすすめします。

デザインコンペで優勝するような優秀な作品は、みんながぎりぎり許容できる絶妙な距離でセオリーを外しているものです。
逆に、もしあなたのデザインがダメ出しされてしまったのなら、少しセオリーから外しすぎていたのかもしれません。

レイアウトのセオリーには、三分割法以外にも「日の丸構図」や「三角構図」といったさまざまなものがあります。
いいデザインはどれくらいセオリーを崩しているのか?
もしくはセオリーどおりのデザインなのに感動するのはなぜか?
セオリーとの距離感を意識してデザインを見る訓練をすると、センスが磨かれていくのではないかと思います。

主観的な意見に説得力をもたせる p60

いきなりですが、「エモい」を言語化できますか?
「言葉にできないからエモいって使うんでしょ?」と言われそうですが、クライアントから「エモい感じのグラフィックでお願いします」と依頼されることもあるかもしれません。

では、「エモい」のような「なんとも言い表せない感覚」を説明しなくてはいけないときはどうすればいいのでしょうか?
クライアントに「エモいデザインにしてきました~」とは言いづらいですよね。
なぜなら、「エモい」という感情は主観的なものだからです。
もっと具体的に説明してください、と言われたら困ってしまうでしょう。

ここからは、デザインのプレゼンで重要な主観と客観のバランスについてお話しします。
Q
「90'sベスト100」という音源の告知ビジュアルのデザインをプレゼンしている場面を想像してみてください。
あなたなら、どんなふうに伝えますか?

POINT ① 主観に偏った言葉は共感を生みづらい p61

お互い目をそらしながら照れ合って、片耳ずつイヤホンで曲を聴いてるのって……エモくないですか?

うーん、これだと自分の好みを告白しているみたいで赤面しちゃいますね。
でも、説明の仕方を変えれば印象はガラッと変わります。

いまはワイヤレスが主流なので、有線のイヤホンをふたりで分け合うシーンは少ないでしょう。
でも、今回のターゲットである30代、40代にとって、ノスタルジーと共感を生むビジュアルになると思います。

どうでしょう。
同じビジュアルの説明でも受ける印象がまったく違いませんか?

前者は、デザイナーの主観だけで語っていて共感を生みづらい説明です。
後者は時代の流れを客観的に捉え、主観を交えて語っているので説得力があるんです。

POINT ② 客観的すぎると冷たく感じる

クライアントへのプレゼンで気をつけなければならないのは、デザインの説明を客観的にしすぎないことです。

たとえば、Webサイトのリニューアルデザインでは、いまあるサイトの「PV(閲覧数)」や「クリック数」などのデータをもとに、ボタンの変更やナビゲーションの構成を考えていくので、デザインの説明も、それに伴って数字が入った客観的なものになることが多いです。
そしてそれは、クライアントの要望とも合っています。

しかし、新規事業立ち上げのWebサイトで同様の説明をしたらどうでしょう。
色、配置、導線に至るまで、そのデザイナーの経験から導き出された数値をもとにロジカルにデザインが語られる。
新しいビジネスを始めようと情熱を燃やしているクライアントにとっては、少し熱量が足りないように思うかもしれません。
客観的すぎる説明は、ときに評論家のような冷たい印象を与え、マイナスになることがあるんです。

POINT ③ 客観と主観をうまく混ぜ合わせる p62

たとえば、仮想のEC店舗を例に考えてみましょう。

オーダーメイドのクロワッサン専門店のWebデザインをお願いします。
小麦粉の種類、トッピングや焼き加減まで、自分好みのクロワッサンをネットで簡単に注文可能。
前日12時までに注文すれば、翌朝焼き立ての商品が自宅に届くのが売りのサービスです。

このような依頼に対して、次のAB2つのデザインを提案するとしたら、どうプレゼンするのがよいでしょうか。
①Webアンケートの結果、「Aのほうがおいしそう」と回答した人は100人中90人でした。
自信をもってA案をおすすめします。

②社内のデザイナー全員が「Bのほうがお店の特徴が伝わる」と同じ意見になりました。
自信をもってB案をおすすめします。

たぶん、①②どちらもクライアントの反応はよくないと思います。

①は客観的視点が100%で、デザイナーの意見がありまません。
9割の高評価を得たビジュアルは、たしかにすばらしい。
でも、アンケートで答えたとおりにお客様が動いてはくれるとは限らないのです。
アンケートに関する教訓めいたこんな小話があります。

ある食器メーカーが定番商品の新色に関するアンケートを行った。
ターゲットである主婦層を集め「オーソドックスな白いお皿とモダンな黒いお皿、あなたならどちらを買いますか?」と聞いた。
すると、参加者全員が「斬新な黒を買います」と答えた。
アンケート後、謝礼としてお好きな色のお皿を1枚もって帰っていいですよ、と伝えると全員が白いお皿をもって帰った。

つまり、アンケートはあくまで参考データです。
そこから何を読み取り、どう戦略を立てたのか、クライアントは依頼したデザイナーの意見を聞きたいんです。
とくに新規事業や新しい店舗を始めようとしている経営者は、不安がいっぱいです。
デザインに関することは、デザイナーに背中を押してほしいもの。
それなのに、数値だけでデザインを語られては、心に響かないのも当然ですよね。

②がよくない理由は、主観に偏っているからです。
デザインを決める上で、絶対にしてはいけないことが多数決だとぼくは思っています。
この説明では、クライアントも反論しづらいし、相手にゴリ押し感を与えてしまいます。
もし、クライアントがOKを出しても腹落ちしていないでしょう。

大事なのは説得力、そして納得感です。
この人に頼んでよかったと、思ってもらわなければ次の仕事はもらえませんよね。
客観100%でも、主観100%でもいけません。
主観と客観をうまく混ぜ合わせることがポイントなんです。

POINT ④ デザイナー自身の言葉が心を動かす p65

では、先ほどのメインビジュアルは、どのように説明するとよいのでしょう?
もちろん正解はないですが、主観と客観を混ぜたひとつの例がこの説明です。

B案を推します。
お店のコンセプトがより伝わるのはB案だと、デザイナー全員の意見が一致しました。
とても珍しいことなので、ぼくも驚きました。
でもそれは、お店のコンセプトが多くの人の共感を生む、魅力あるコンセプトだからだと思います。
あえてシズル感(おいしそうな感じ)のある写真を使わずに、素材をアピールする。
新しいクロワッサンの価値を届けたいという、お店のメッセージが伝わるのはB案だと思います。

最初に結論を言い、次に事実を述べその理由を説明し、最後にB案を推す理由を伝える。
プレゼンは、客観だけででも主観だけでもいけません。
そして、気持ちが込もっていない客観も、根拠のない主観も共感されません。
客観的根拠とともに語られる、デザイナー自身の言葉だけが相手の心を動かせるのです。

ぼくは最終案を複数提案するときに、捨て案を出さないようにしています。
どのアイデアが選ばれてもいい、最高の選択肢を提案するのがデザイナーの役目。
最後の選択をするのはクライアントの役目だと思っているからです。

ただ、初めて仕事をするクライアントには、自分のおすすめを必ず伝えています。
判断を相手に委ねるのは信頼関係ができてからです。

このデザイナーは、自分がいいと信じているデザインだけを提案してくれるんだな。

こう思ってもらえてからがスタートです。

初めて仕事をくれたクライアントは、期待と不安が入り交じった気持ちでデザイナーの提案を待っています。
その期待を、数字で固めたロジカルな言葉でねじ伏せるのではなく、説得力ある言葉で相手に納得してもらいたい。
それは、どんな仕事にも共通することではないかなあ、と感じています。

「色」の言語化に必要なことは1つだけ p68

デザインを言葉にすることは、論理的にデザインを語ることだと思われがちです。
でも、感性で語らなくてはいけない場面もあります。

とくに、好き嫌いで判断されやすい「色」は、感性で語代表格です。
「渾身の力で提案した色が、クライアントの好みで変更になってしまった……」なんて経験、デザイナーなら一度はしたことがありませんか?
どのデザインジャンルでも共通して求められることのひとつが、この「色の説明」ですよね。

なぜこの色にしたのですか?

これはデザイナーであれば、よくされる質問かもしれません。
「このデザインはここがよくないですね」と理由付きではっきり指摘できる人は少ないですが、「この色はちょっと……」という意見なら言える人は多い。
なぜなら、色は、デザイナーでなくても自分の判断軸をもちやすいんです。

日々の生活のなかで、色の選択をする場面は多岐にわたります。
服や家具に雑貨、コンビニで買うお菓子のパッケージまで、何色を買うか毎日迷っていると言ってもいい。
その過程で自分の好きな色、嫌いな色、いまのトレンドカラーを肌で感じています。
だからこそ、デザイナーはプロ目線でその色を使った理由を説明できなくてはいけません。

はじめにお伝えしたとおり、色を言葉で説明するのは自分の感性が入るため、難しいです。
でも、しっかり言語化できるようになると、デザインに説得力が増し、結果的にクライアントからの信頼を得やすくなるはずです。

ではここから、具体的な例をもとに考えてみましょう。
Q
あなたは、『北斎と印象派の巨匠たち』という展覧会のテーマカラーを決める会議で、高貴な色だと感じる紫色を使いたいと思いました。
紫色を使う理由について、どのように説明すればよいでしょうか?
高級感を狙いたいので、皇族のみが着用できたという紫色にしたいと思います。

上記のような「皇族のみが着用できる」という説明だと、展示のメインである葛飾北斎と皇族が結びつかず、引用したエピソードがちぐはぐな気がしてしまいます。
また、「高級感を狙いたい」だけでは説明不足も否めません。
では、次の説明だと、どうでしょう。

今回は赤みが強いパープル(purple)よりも、青みが強いバイオレット(violet)がいいと思います。
バイオレットは江戸紫と呼ばれる色に近い色です。
江戸時代に活躍した北斎に影響を受けた印象派の画家たち、その展覧会のテーマカラーにぴったりな色です。

POINT ① 色の説明には、エピソードが役立つ p71

「バイオレットは江戸紫と呼ばれる色に近い色です」という説明が加わっただけで、紫色に対する見方が深まり、説得力が増したと思います。

「色」の言語化で大事なことは、色に関する知識を深めることです。
「赤は情熱的、青は誠実」などの色のもつイメージはもちろん、色にまつわるエピソードの知識を深めることが、「色」の言語化には不可欠なんです。

この説明のポイントはふたつあります。
ひとつは、①バイオレットをテーマカラーに選んだ理由を知識に基づいた説得力ある言葉で伝えること。
そして、②専門知識をさりげなく伝えることです。

しかし、説明を次のように始めてはいけません。

パープルとバイオレットの違いをご存じですか?

声のトーンにもよりますが、これでは百害あって一利なしです。
まず、相手が違いを知らなかった場合、バカにされたと感じ、気分を悪くする可能性があります。
逆に、相手が知っていた場合は最悪です。
「赤みと青みの差ですよね?」と返されたら説明のリズムがとぎれてしまう。

専門知識はさりげなく相手に伝えるほうがいいです。
ドヤ顔で説明すると聞き手がしらけてしまうので、要注意。

POINT ② 言語化できないときは先人の言葉を借りよう p72

デザインする対象をリサーチし、コンセプトを練り、具体化する。
デザイナーは常に順序立ててデザインをしているわけではありません。
テーマを聞いた瞬間に、アイデアがピーンとひらめくこともありますよね。
でも一瞬でひらめいたアイデアを言語化するのは難しい。

以前、ある食品のパッケージデザインを依頼されたときのこと。
商品の特徴、ターゲットユーザーを聞いた瞬間、ぼくの頭のなかに紫色が思い浮かびました。
「今回のデザインのメインカラーは紫色しかない!」と初回の打ち合わせで強く思ったことを鮮明に覚えています。

ただ、その食品では紫色がタブー視されていることも知っていました。
理由は簡単。
「紫色を使うと売り上げが伸びない」という過去データがあったからです。
でも、どうしても紫色を使いたい。
その商品のパッケージは神秘的なイメージのある紫色以外には考えられませんでした。

しかし、今回のデザインの肝である紫色の説明の仕方だけがどうしても思いつきません。
デザインワークに入る前にデザインの方向性をクライアントと合意しておきたい。
いっそのこと、「エモい雰囲気にしたいから紫色を使いたいです」と言ってしまおうかとさえ思いました。

悩んだ結果、次のようなムードボードをクライアントに見せました。
ムードボードとは、アイデアやコンセプトをまとめてコラージュしたものを指します。

ムードボードは通常、いくつもの写真やイラスト、カラーパレットをコラージュして作成します。
「simple」「warm」などのキーワードを入れることはあっても、文章は使いません。
デザインのムード(雰囲気)を共有するのが目的のため、文章を使うとイメージが固まってしまい発想が広がらなくなるからです。

でも、このときはあえて文章を使いました。
むしろ、文章が主役で、写真やカラーパレットはおまけと言ってもいいくらいです。
引用した文章は、夏目漱石の小説『虞美人草』の一節。
主人公のはかない未来を予感させる、不思議な魅力をもった言葉です。
名文には、想像力をかき立て、読む人に幾重もの情景を見せる力がある。
そして、名文は自分で書かなくていいんです。
語り継がれる言葉を引用すればいい。

正直に言うと、これは賭けみたいなものでした。
クライアントの反応が悪かったら、デザインの構想をやり直す覚悟で出したムードボードです。
ところが、3人いた担当者全員が「この雰囲気、いいですね!」と共感してくれました。

想像していなかった方向だけど、アリかもしれません。

クライアントの想像を超えたデザインを提案し、喜んでもらう。
デザイナー冥利につきる瞬間でした。

POINT ③ どんなインプットも糧になる p74

デザインの言語化は、自分の言葉で語ることが基本です。
でもそれは、プロジェクトを進めるための手段であって、目的じゃない。
目的はただひとつ、自分がいいと信じるデザインを実現することですよね。
誰かが書いた名文を引用することがベストなら、迷わず使うべきです。

色の言語化に必要なのはただひとつ、「知識」です。
見、デザインと関係ないジャンルの知識でも、いつか役に立つときが来る。
小説、映画、マンガ、花言葉や星占い。
デザイナーはどんなジャンルのものでも、貪欲な姿勢でインプットしておいて損はないでしょう。

POINT ③ 発想の手助けをしてくれる p79

メタファーにはデザインの発想を助けてくれる力もあります。
ある図書館のWebデザインを依頼されたとしましょう。
クライアントからは以下のように言われました。

デザインはお任せします。

「お任せします」ほど怖い依頼はないですよね。
「お任せしますとは言いましたが、好きなようにデザインしていいとは言っていません!」という未来の会話が聞こえてきそうです。
それを避けるには、明確でわかりやすいデザインコンセプトが必要です。

先方の要望がない場合、自分でいちからデザインを構築しなくてはいけません。
オーソドックスな手法としては、「図書館」からイメージできる言葉を列挙していき、デザインに落とし込めそうなキーワードを抽出していくやり方があります。

本、学ぶ、歴史、趣味、信頼、静か、落ち着く、憩い、コミュニティー……。

シンプルに本をモチーフにするアイデアもありますが、ち着くなどはグラフィックでは表現しづらい言葉です。
そもうひと工夫ほしい気がしますね。
でも、信頼、静か、落んなときこそ、メタファーの出番です。
抽出した言葉から図書館の世界観を「見立てる」何かを探してみましょう。

ぼくは、こんなメタファーを思いつきました。

枯山水です。
枯山水とは、水を使わず石や砂で川や山を表現した庭園様式のことです。
寺院の庭園を囲む縁側や部屋に大勢の人が静かに座っている。
そこにいるだけで心が癒やされるような、それでいてりんとした空気に包まれている。

どことなく、図書館で感じる雰囲気に似ていませんか?
「静かで落ち着く」を絵で表現してください、と言われたら困ってしまう。
でも、「枯山水を絵にしてください」と言われたら、多くの人ができるはずです。
同心円と帯のような線を組み合わせれば、それっぽい絵になります。

このサンプルでは、「砂紋(白い砂に描かれた線)」と本をアイコニックにしたグラフィックを組み合わせてデザインを構成してみました。

POINT ② 意外性を大切に p86

3R(Reduce:減らす、Reuse:繰り返し使う、Recycle:再資源化するの頭文字)という言葉があります。
リサイクル関連のロゴマークで、Rの文字や循環する矢印を使ったデザインをよく目にしますがわかりやすい半面、見慣れた印象を与えてしまうのが悩ましいところです。

奇をてらうのはよくないですが、誰かに言いたくなる意外性のある物語は、共感を生みやすい。
たとえば、人間がもっとも美しいと感じる黄金比。
パルテノン神殿やパリの凱旋門も黄金比で設計されています。
身近なところだと名刺の縦横比も1:1.618の黄金比です。

でも、日本人にとって、黄金比より慣れ親しんだ美しいバランスがあります。
それが白銀比と呼ばれる1:1.414の比率です。

白銀比は、正方形を基準に構成される木造建築から始まったと言われています。
ではなぜ、正方形が基準なのか?
それは丸太からもっとも無駄なく木材を切り出せる形が正方形だからです。
つまり白銀比に美しさを感じる根底には、日本人特有の「もったいない」という価値観があるんです。

現存する世界最古の木造建築物である法隆寺にも白銀比が使われています。
日本人は黄金比よりも白銀比や正方形を好むという調査結果(中村滋『フィボナッチ数の小宇宙 改訂版』日本評論社、2008年)もあります。
茶室や風呂敷、折り紙など日本人の生活に美しいカタチとして溶け込んでいるのが、白銀比であり正方形なのです。

ロゴマークに正方形を使った理由として、白銀比と「もったいない」の関係を伝えたら、クライアントも興味をもってくれると思いませんか?

POINT ③ 最初から言葉でデザインを考えてみる p89

デザインの言語化能力を高める一番効果的な方法は、発想段階からデザインを言語化して考えること。
つまり、いきなりデザイン画を描き始めないことです。

デザインを始めるとき、まっさきに画像収集サービスのPinterestなどで「ロゴマーク」と検索してはいけません。
見た目がいいな、と感じたデザインをアレンジしただけでは、クライアントの心に響きません。
後付けしたコンセプトは、相手に伝わってしまうものです。
ぼくは現場で「いきなりイラレで絵を描くのはやめようね」と呪文のように言っています。

そしてこれが、最終的に作成したデザインサンプルです。
とてもシンプルなデザインですが、デザイン要素のすべてに明確な理由があります。
「もったいない」の物語と関係する正方形を基調に、穏やかなイメージを暖色のグラデーションで表現しました。
「愛」が循環する意味を込めて、四角形の一部に「I(アイ)」の文字を組み込んでいます。

ロゴデザインは、トレンドに強く影響されます。
でも、時代に関係なく受け入れられる唯一の要素が「シンプル」です。
シンプルなデザインを提案するのは、勇気がいります。
手抜きだと思われないか?味気なく見えてしまわないか?と不安になるものです。
でも、言葉でしっかりと考えられたデザインには、人を引きつける力があるとぼくは信じています。

「デザイン」と「アート」から考える言語化の大切さ p92

ここまで、デザインをどのように言語化すればよいか考えてきましたが、「そもそもデザインの言語化って本当に必要ですか?」と聞かれることがあります。
この本を書いているのに恐縮ですが、じつはぼくも、デザインの言語化があらゆる場面において常に必要とは思っていません。
それでもやはり、クライアントのためにも、自分のためにも、言語化は大切だと考えています。

そこで、デザインの言語化がなぜ大切なのか、「デザインとアートの違い」を交えてお話ししたいと思います。
Q
「デザインの言語化が常に必要とは思っていない」と書きました。
では、言語化がいらないデザインとは、どのようなデザインでしょう?

POINT ① アートは受け手側に解釈を委ねるもの p92

ぼくはアートに近いデザイン領域での言語化は、必ずしも必要だとは思いません。
その代表例のひとつが「テキスタイルデザイン」です。

テキスタイルデザインとは、服やインテリアに使われる布のデザインをすることです。
素材や加工方法など機能面を含めた幅広い知識と技術が求められますが、柄や配色といった、アートに近い要素が商品の魅力に直結するデザイン分野です。
たとえば、上の柄がなぜ「かわいい」のか、言語化するのは難しいと思いませんか?
テキスタイルデザインは、人によって受ける印象が違うからです。
この柄を見て、「かわいい」という人もいれば「美しい」と感じる人もいます。
「かっこいい」と思う人もいるでしょう。

POINT ② デザインは説明できなければいけない p94

では、アートとデザインの違いはどこにあるのでしょうか?
ぼくは以下のように考えています。
デザインとアートの違い
デザインアート
課題解決目的自己表現
客觀的視点主觀的
重要伝わること重要ではない
ある説明責任ない
最大の違いは、目的です。
デザインは「課題解決」のために存在しています。
世の中の人が、何も困っていなかったら、デザインは必要ありません。

「座りやすくて美しい椅子が欲しい」「片手で簡単に開けられる缶詰があれば便利なのに」「この商品をもっと多くの人に買ってもらうにはどうすればいいのだろう?」……

デザインの起点には、何かしらの課題があります。
デザインとは、課題解決のための手段なのです。

課題を解決するとき、そこには必ずプロセスがあります。
プロセスを説明できなければ、課題が解決できたのは偶然だと思われても仕方ありません。

たとえば、歯が痛くて歯医者に行ったとします。
治療後、「どう治したかは説明できないけど、もう大丈夫ですよ」と言われたら、あなたはどう思いますか?
普通の人なら、「ふざけるな!」と怒るでしょう。
もう二度とその歯医者には行かないですよね。

課題解決を頼まれた人には、クライアントに対する説明責任が生まれるんです。
歯医者の治療、水道管の修理、塾での指導方針……。
もちろん、デザインも例外ではありません。
そして、説明するためには言葉にしなくてはいけない。
つまり、言語化が必要なわけです。

課題解決型のデザインを依頼されているのに「これが自分のデザインの特徴なんです」と言うのは変ですよね。
もし、「デザインの言語化なんて必要ない」と感じている人がいたら、自分が依頼された仕事が、「課題解決型」か「アート型」かを考えてみるといいと思います。

POINT ③ デザインと「自己表現」は別もの p95

「デザイナーはこだわりをもたなくちゃいけないよ」。
新人デザイナーのとき、先輩たちに言われた言葉です。
当時は言葉の意味を取り違えて、こだわり=自己表現だと思っていました。

でも、違うんですよね。
自己表現はアートの領域なんです。
ぼくたちデザイナーは、ユーザーが言葉にできない思いを表現する、代弁者でなくてはいけません。
デザイナーがこだわるべきは、ユーザーの声を正しく伝えること。

たとえば、Webデザインを依頼されたとしましょう。
もし「このページに50個の広告を入れてほしい」と要望されたら、いくらクライアントの意向だとしても、きちんとユーザーの気持ちを代弁しなくてはいけません。
「過度な広告表示は使い勝手が悪いだけでなく、離脱を促すのでやめましょう」と勇気を出して、主張するべきです。

POINT ④ アートとデザインの融合は起こる p96

基本的にアートとデザインの世界は交わりません。
でも、ごくまれに高いレベルで融合し、すばらしいデザインが生まれることがあります。
Appleの製品は、アートに近い領域でデザインされている代表例ですよね。

いまでもはっきり覚えている、ぼくのなかで「最高のデザインとは何か?」を言語化できた瞬間があります。
いまから10年以上前の話です。

iPhoneが日本で初めて発売された日、同僚が徹夜で並んで買ったiPhoneを会社にもってきてくれたときのことです。
話題のプロダクトを目の前にして、チームメンバーは興奮していました。
見せて見せての大合唱です。
箱から取り出された、真新しいiPhoneを目にしたとき歓声が上がりました。

「かわいい!」「かっこいい!」。
同時にふたりのデザイナーが声を上げました。
そのときぼくは思ったんです。
最高のデザインとは、「かわいい」と「かっこいい」が両立するデザインなんじゃないかと。

「きれいなデザイン」を作るのは、じつはそれほど難しくはありません。
それは、「きれい」の判断基準は個人差が少なく、老若男女でそれほど変わらないからです。
努力は必要ですが、多くのデザイナーが「きれいなデザイン」を作ることができます。

でも、「かわいい」と「かっこいい」の基準は、個人差が大きい。
性別や年齢はもちろん、さまざまな要因で基準は変わります。
100人いたら、100種類の基準があると言ってもいい。
だから、「かわいいデザイン」や「かっこいいデザイン」を作るのはとても難しい。
ましてや、「かわいい」と「かっこいい」が両立するデザインとなると至難の業です。
でも、だからこそやりがいがあるとも言えます。

POINT ⑤ 言葉にすることは自分のためにもなる p97

「デザインは、クライアントへ説明する責任があるため、デザインの言語化が必要です」と書きましたが、理由はそれだけではありません。
自分のなりたい姿や理想とするデザインを、言葉にして明確にすることは、自己成長にもつながります。
つまり、デザインの言語化は自分のために必要なことでもあるんですね。

デザインの価値は、定量的に表せません。
営業職なら明確な数値目標が立てられますが、デザイナーの仕事は数値化するのが難しい。
去年と比べて、自分がどれくらい成長したかも数字では表しづらいですよね。
ときどき、このままのやり方でデザイナーとして成長できるのだろうか?と不安になります。

その不安を払拭するためにも、明確な言葉で目標を立てることは、有効な手段のひとつです。
「いいデザインをする」という漠然とした言葉ではなく、自分を鼓舞する言葉で目標を立てるのです。

このように、デザインの言語化は、自分の軸を決めることにも使えます。
誰のためでもなく、自分のために。
理想のデザインを言語化しておくことは、デザイナーとして活動していく上で、必要なことだと思います。

この節で改めてデザインを言語化する必要があるのか考えてみることで、デザイナーにとって言語化は欠かせないものだと感じてもらえたのではないでしょうか?
いいデザインができたと思っても、うまく伝わらなければボツになることもありますよね。

課題解決のためにも、いいデザインを実現するためにも、次の章以降、さらに実践的に使える言語化の方法を具体的に説明していきます。

ぼくの考える「いいデザイン」 p177

ぼくは、「いいデザイン」とは「相手が受け取れるデザイン」だと考えています。

どういうこと?と思った人もいるかもしれません。
補足して説明しますね。
本書では、たびたび「相手に伝える」ことの重要性について書いてきました。
自分がデザインした意図を第三者に伝えるために、言語化は必要です。
この「伝える」を一歩進めた考え方が、「受け取れるデザイン」です。

「伝える」の主語は自分。
「受け取れる」の主語は相手になります。

同じ行為でも、主語が変わるだけで印象が変わると思いませんか?
「伝える」は一方通行です。
しかし「受け取れる」は、双方向でないとできません。

デザインは、恋愛に似ているのかもしれません。
片思いの人に、一方的に思いを伝えても相手は受け取れませんよね。
いきなり「結婚しよう!」と言っても、うまくいくわけがありません。
だから、まず相手のことを知ろうとします。
そして、自分のことを知ってもらう努力をする。
そして、時間をかけて相手が自分の気持ちを受け取れる関係を目指していきます。

クライアントや、その先にいるエンドユーザーとの関係も同じなんです。
伝えよう、伝えなきゃ、と一方通行で考えている限り、仕事は前に進みません。
でも、意識を少し変えるだけで相手の受け止め方は変わります。
主語を自分ではなく相手にして、「どうすれば相手が受け取れるデザインになるのだろう?」と考えるのです。