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「脱サラ農業の教科書」を読んだ

脱サラ農業の教科書」を2025年07月23日に読んだ。

目次

メモ

〈栽培計画の作り方解説〉 p54

1. 基準施肥成分を調べる
農業栽培技術書や都道府県の農政関係のホームページ等より、栽培しようとする作物の「施肥基準値」を調べます。
ほとんどの場合、基準値は、肥料の中に含まれるN(窒素)P(リン酸)K(カリ)成分の10a(1000㎡)あたりの施肥量が記載されています。
同じ作物でも地域により基準値が異なる場合もありますが、その場合、できるだけ自分が栽培しようとする場所から近い地域の基準値を目安にしてください。
2. 栽培面積当たりの基準施肥成分を算出する
1の基準施肥成分量をもとに、自分が栽培しようとする栽培面積に面積換算します。
本例の場合、栽培面積45㎡ですので、45/1000(㎡)を各数値に掛け算しています。
例) N=20x45/1000=0.9
3. 基準施肥量を調べる
1と同様に調べます。
4. 栽培面積当たりの投入施肥量を算出する
2と同様に面積換算します。

参考)肥料袋の裏側に10-10-10などの数字か書かれていますが、これは、N(窒素)P(リン酸)K(カリ)の成分割合を示しています。
例えば、1袋20kgの肥料で10-10-10と記載があった場合、N、P、Kは、それぞれ10%(2Kg)含まれているということになります。
5. 栽培面積当たりの投入施肥成分量を確認する
4の投入施肥量で、施肥成分が基準値と合致しているかどうか確認します。
本例の場合、2の基準施肥成分「元肥N=0.9、P=1.35、K=0.9、追肥N=0.45、P=0、K=0.45」に対して、5の投入施肥成分(元肥合計N=0.9、P=1.35、K=0.9、追肥N=0.45、P=0、K=0.45)が合致していることが確認できます。
6. 使用農薬を調べる
1と同様に調べます。
なお、就農して農業を始める(作物を販売する)場合には、農薬は農薬取締法に従って登録されている農薬のみ、用法に従って使用することが認められていますので、常に最新の登録情報を調べておく必要があります。
最新の登録情報は「独立行政法人農林水産消費安全センターFAMIC」のホームページ(http://www.famic.go.jp/)で検索することができます。
7.栽培計画を作成する
1と同様に調べて作成します。
この栽培計画は、最初は書籍等の情報に頼ることになりますが、毎年、自身の実践(DO)をもとに更新(ACT)していくことで、よりよいものに進化していきます。

〈経営計画の作成方法〉 p58

1. 経営指標を調べる
農業専門書籍や都道府県の農政関係のホームページ等より、栽培作物の「経営指標」を調べます。
ほとんどの場合、10aあたりの経営指標が掲載されています。
2. 栽培面積あたりの指標に換算する
栽培しようとする面積に換算します。
多くの場合、面積が小さくなれば効率が下がり、所得が低くなる傾向となりますが、現時点では、単純に面積比での算出でよしとしておきます。
3. 毎年更新を行なう
本計画は、実践後(DO)、検証(CHECK)を経て、最新の情報に更新する(ACTION)ことを前提としています。
これにより、より精度の高いよい計画になっていきます。

p76

会社を辞めるタイミングなのですが、私が考える最もよいタイミングは「農業が軌道に乗ってから辞める」ということです。
できれば、それまでは「週末農業として、会社勤めは続けてほしい」と思っています。

しかし残念ながら、現行の法律上、原則としては、なかなかそうはいきません。
農地を借りる(買う)には、農業委員会の許可が必要で、許可を得るための条件の中に「農業に常時従事すること」という条件があります。

常時従事とは「およそ年間150日以上農業に従事すること」とされていて、「会社勤めを続けながら週末だけでこの要件を満たす」というのはなかなか困難です。
ただ、原則はこのようになっていますが、作物や地域によって取り扱いは変わりますので、十分に話し合いをしながら進めてください。

したがって、農業委員会の許可を得て農業を開始する場合、会社を辞めるタイミングとしては、原則的には「農地が見つかって、農地取得の許可を得て、営農を開始する時点」ということになります。

もしくは、農業に従事してくれる仲間と一緒に会社を作って農業をするのであれば、現在の会社は辞めずに兼業でも可能となる方法はあります。
この辺は、仲間との役割分担、組織の作り方によります。

その他の方法として、法的には、少しイレギュラーにはなりますが「農地を貸してくださる農家さん(=地主さん)から一定期間農作業の受託をする」という方法も考えられます。

この場合、農地を借りるのではないので農地法の許可は不要になり、週末のみ農作業に携わるということも可能です。

ただ、あくまでも農作業の受託ですので、法的には、主導権は農家さんで、皆さんは農家さんの指示のもとに行なうということが前提になります。
そして、一定期間後、タイミングを見て正式に借り受けます。

もちろん、これは農家さん=地主さんとの信頼関係があっての話にはなりますので、十分な話し合いのもと始めることが大切になります。

いずれにしても、「農業」は、種まきをして、収穫して、販売できて、初めて収入を得ることができるので、収入を得るまでに、どうしても一定期間の時間がかかってしまいます。

設備や資材にも、案外お金がかかりますので、「できるだけ現金収入を絶やさない」という意味でも「会社を辞める時期は、可能な限り遅くする」というのが、よいと思います。

それぞれの地域、農業委員会、地主農家さんと話し合いをしながら、最適な方法を見つけ出し、皆さんの理想のライフスタイルの実現に向け、素敵な農業を開始してください。

農地の壁 p83

農業を始めるには、借りるにしても買うにしても、とにかく「農業ができる土地」が必要になります。

ここで、わざわざ「農地」ではなく「農業ができる土地」としたのは、実は「農地」以外でも、そこで農業を始めても問題はないからです。

例えば、「宅地」に水耕栽培の施設を建設して農業を始めてもよいですし、「山林」や「原野」を開拓して農業を始めても構いません。
(場所により各種の規制にかかる場合もありますが、詳しくは、役所などで確認してください)。

それでは、「農地って、一体何なのだろう?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますので、ここで少しご説明します。

まず、法律的に農地とは「耕作の目的に供される土地をいう」と規定され、耕作とは「土地に労費を加え肥培管理を行って作物を栽培すること」と示されています。
当たり前のことを難しい言葉で表わしていますが、法律は大抵このようなものです。

そして、農地に該当するかどうかの判断は「登記簿ではなく現況で判断する」とされています。
つまり、現況=現在の状況を見て判断するということです。

誰が判断するのかということですが、皆さんも一回は聞いたことがあるとは思いますが、各市町村に設置された「農業委員会」が行ないます。

農業委員会が地域の農地台帳と現況を照らし合わせて、耕作されているかどうか?
放棄されて森のようになってないかどうか?
など、現地で確認して、最終的にその土地が農地なのかどうかを判断します。

とはいえ、大抵の場合、土地の登記簿の「地目」という欄に「田」もしくは「畑」と記載されていて、ここの記載で判断される場合が通常です。

ところで、冒頭で農業は「農地」以外で始めてもよいとお伝えしました。
それでは、「わざわざ農地って、特に他の土地と分ける必要ないじゃない?」「どこでも農業を始めればいいんでしょ」と思われるかもしれません。

実は、その通りです。
もちろん、場所によっては、近隣に迷惑がかかる場合があったり、住宅地の規制や山林の規制、開発の規制などが存在するところもありますが、個別の事情はさておき、農業はどこで始めてもよいのです。

例えば、不動産屋さんで、駐車場用地を購入して、そこで農業を始めるということも理論上は可能です。

それでは、なぜ、「農地」と他の土地を、わざわざ分けて考えるのかというと、やはり「農地」は他の土地に比べ農業を行なうのには圧倒的に有利な土地だからです。

そもそも、作物はどこでも育つというわけではありません。
まして砂利やコンクリートの土地になると、耕すことすらできません。
その点、「農地」は、昔より作物を栽培してきた土地になりますので、比べるまでもありません。

また、農業を行なうには「水」も必要になります。
パイプラインが来ているところ、川や池から水路で引いているところ、方式はさまざまですが「農地」には大抵「農業用水」が引かれていて、水道代に比べると安価な費用で使えるようになっています(長年耕作放棄されている農地や立地などによっては、用水が止まっているところもあります)。

そして、「農地」は、土地の値段が圧倒的に安く抑えられています。

例えば、1000㎡の土地を借りたとして、およそ賃料の相場は年間で1万円~2万円程度です。
場所によっては、もっと安いところもありますが、地域の相場があり、原則、相場より極端に高い賃料や売買金額での取引はできないよう法律でも規制がなされているのです。
住宅地だと一体いくらかかるのでしょうか?

したがって、皆さんが農業を始める時、やはり「農地で始める」=「農地を探す」というのが、ベターな選択肢になります。

それでは、本題に入ります。

「農地の壁」とはどんな「壁」かというと、実は、「なかなか見つからない」ということです。

最近、耕作放棄地の問題や高齢で辞めていく農家の話などがメディア等でも取り上げられていて、農地はたくさんありそうと感じているかもしれません。
実際、耕作放棄農地は全国でおよそ40万haあるといわれていて(これは埼玉県とほぼ近い面積になります)、これだけの使われていない農地があるのは事実です。

ですが、これら耕作放棄農地の大部分は中山間地域と呼ばれる山間地で、水がなかったり、コマ切れの飛び地だったり、日照が少なかったり、条件が厳しい土地ばかりです。

ですので、「場所や条件によってはたくさんあるけど、すぐに農業を始められるような比較的条件が整った農地はなかなか見つからない」というのが正確かもしれません。
条件のよい農地は、農家さんが続けて農業をしています。

そして、「農地」の取得には、法律上の許可が必要で、誰でもすぐに取得できるものでもありません。
また、値段も安いことから、一般の不動産屋さんでは、ほとんど扱っておらず、結果的に、なかなか情報も表に出にくくなっています。

最近、農地情報を扱う「農地バンク」が創設され、情報提供の取り組みが始まったところですが、現状、まだまだ情報は少ないです。

そして、情報が見つかったとしても、地主さんが「あなた」に貸してくれるか、売ってくれるかは、また別の話になります。
この点は次の地域の壁のところでお話しします。
新規就農者は、ここでも不利な条件からのスタートになります。

農家には当たり前にある農地も、実は当たり前ではありませんし、しかも将来のライバルとなるベテラン農家の多くは優良な農地を使って農業をしています。

営農計画を作る意味 p110

自分の望む理想のライフスタイルとそれに合致した農業が見つかったら、今度は、それを営農計画としてまとめます。

必要なお金を用意しようと思っても、いくら必要かがわからなければ、具体的に前に進むことができませんし、いつまでたっても「お金の壁」は超えられません。

営農計画を作ることで「どこにいくらお金をかければ、いくら返ってくるか」「始めるのにいくらお金が必要か」などが、具体的に数字として見えてきます。
数字が見えれば、これをもとに次のステップに進むことができます。

また、営農計画を作る上では、いつも「自分以外の目」を意識してください。

営農計画は自分以外の人(=第三者)に見せるために作りますので、第三者がこれを見てどのように感じるだろうかということを常に意識して、「納得」が得られるような計画にします。

「納得」を得ることで、農地を見つけたり、仲間を集めたり、役所の協力や許認可を得たりすることが可能になります。

そして、数字を示して「納得」を得ることで、銀行からの融資を得たり、あるいは「納得」を超えて「共感」まで得られれば、場合によっては、事業に資金を出してくださる出資者も現われるかもしれません。

最終的には、本項の目的である「お金」を集めることにもつながります。

つまり、営農計画は、いわゆる計画として「お金の使い方を決めるため」に作るのはもちろんのこと、その最大の意義は、第三者からの「納得」「共感」を得ること、その結果として「お金を集める」ことにあります。

③作付計画 p121

作付計画とは「作物を栽培するにあたっての計画表(工程表)」で、大まかには「どの時期に、どんな作業をするのか」といったものをまとめたもので、「いつ(WHEN)」「何を(WHAT)」「どうやって(HOW)」の部分にあたります。

また、通常は、場所が決まっていることが前提ですので、合わせて「どこで(WHERE)」も示すことになります。
(場所が決まってない場合に、農地探しの目的で営農計画を作る場合がありますが、これについては後述します)。

作付計画では、単に作業計画を立てることだけが目的ではなく、これを作ることによって、作ろうとしている作物の生産量、時期による作業時間などを算出し、経費や売上といった経営数字を導き出す「もと」を算出します。

これまでは、どちらかといえば、文化系の仕事で「想い」「コンセプト」の部分でしたが、ここからは理科系で「想いを数字に換えるプロセス」ともいえます。
論理的に数字で証明していきます。
ここが矛盾していると、いくら熱い「想い」を伝えても「説得力」がありません。

p123

ここでは、例として「品目別作付計画」と「農場別作付計画」の2種類を掲げましたが、営農計画として、第三者に見せる際は主として「農場別作付計画」の方を使います。

「品目別作付計画」は、「農場別作付計画」を考える際の資料や内部資料として使います。

まずは「品目別作付計画」から取りかかります。

【品目別作付計画の作り方】 p123

品目別作付計画の作成では、まず、自分が栽培しようとするすべての作物について、栽培する農場の場所(エリア)、栽培面積についてはいったん考えず、単位面積あたりの作業計画、生産量、作業時間等を一覧にしていきます。

ちなみに、農業において、単位面積は、多くの場合、10aが基準となっています。
書籍や文献の情報、役所等への申請書類等も10aがひとつの単位基準として活用されていますので、10aを単位基準にするのが望ましいといえます。

作業計画、生産量、作業時間等の情報は、もし、農業研修や農業法人での勤務経験等があり、現場の数字がわかるのであれば、それを入れるのがより「本物の情報」に近くてよいのですが、現段階では、これらの情報は持っていないかもしれません。

その場合は割り切って、文献資料を参考にして作成して、現場の数字が見えてきた時、その都度、ブラッシュアップして「本物」に近づけていけばよいと思います。

文献資料を頼りに計画を作る際は、作物別に栽培歴(作業計画)や経営指標(収穫量、収入、経営費、労働時間等)まで、掲載されているものが必要になりますが、都道府県の農業普及センター等の農業相談窓口で、これらの資料を入手することが可能な場合もあります。
その他、これらが掲載されている農業専門書籍もありますので、探してみてください。

参考までに、私のスクールで活用している『新 野菜つくりの実際』(川城英夫編、農山漁村文化協会)には、このような情報も掲載されています。

これら数値を参考例の通り、表に書き入れていきます。
この品目別作付計画を参考にして、作物が農場を占有する時期、収穫時期等を見て、効率的な農場の使い方やローテーションの方法などを考えます。

例えば、
「定植~収穫までが重なるブロッコリーとキャベツは同じ場所では栽培できないな」
「農場に種を直播するのではなく、別の場所で育苗して農場に定植する方法にすれば、効率が上がるな」
「スイートコーンの後に、ブロッコリーの栽培ができるな」などを考えていきます。

ところで、この品目別作付計画は、栽培しようと考える品目が多い場合、より有効になりますが、1つの品目しか栽培しない場合でも、周年で何回も作付するような品目の場合には、作っておくとよいでしょう。

例えば、ほうれんそうや小松菜等の葉菜類は、時期により栽培期間も、経営指標も異なります。
播種(種まき)時期ごとに一枠を作り、一覧表にしてみてください。

年間1作で1品目の栽培をする場合には、あえて品目別で作付計画を作る必要はありません。
次のステップの農場別作付計画から取りかかってください。

ところで、作付計画を作る場合、当然、地域により栽培時期も異なれば、そもそも栽培に適す、適さないというものもあります。
この辺については、参考文献を注意して見るのは当然のこと、周りの農家さんでは何を作っているのか?
を見たり、あるいは、地域の農業普及センターに相談してみるということもお勧めします。

地域の農業普及センターは、都道府県の機関(役所)で、その地域の農業者の栽培指導をするなど、地域の農業に精通しています。

【農場別作付計画の作り方】 p128

農場別作付計画は「どの場所に、どのくらいの面積で、何を作るのか?」ということを示す作付計画になります。

「農場別」としていますが、例えば、1つの農場を複数のエリアに分けて、異なる作物を入れたり栽培時期をずらしたりする場合には、1エリアを1つの農場として考えます。

作り方については、先の品目別作付計画を参考に、どこの農場に何を栽培するのかを考えて、順次入れ込んで行く形になりますが、品目別ができていれば、それを各農場(エリア)に当てはめていくだけですので、作ることは、問題なくできるはずです。
ただし、収穫時期の重なり、農場の占有期間、労働時間などには、気を付けておく必要があります。

書籍等を参考にする場合には、単位面積あたりの労働時間を参考に、自分やメンバーで投入できる労働時間を考慮して、栽培品目や栽培面積、時期を決めてください。

また、同じ場所で何作も栽培する場合には、連作障害についても考慮しておく必要があります。
この部分については、詳しくは農業専門書籍に譲りますが、できるだけ同じ作物を同じ場所で連続して栽培しないようにするとか、同じ科目の作物を続けない等の配慮が必要です。

この農場別作付計画を作成することで、「どの時期に、どんな作業があって、どのくらい時間が必要か(=経費)」がわかり、さらには「どの品目が、どのくらいの面積で、どのくらいの生産量が可能か(=売上)」ということが見えてきます。

つまり、自身の農場における「経費」と「売上」が、具体的な数字となって見えてきます。
これまでイメージしていた農業が、より現実的な数字として見ることができるようになるはずです。

【売上数字の算出方法】 p143

品目別作付計画→農場別作付計画を作成したことで「自分の農場における生産数量」は算出できていると思います。
これに、想定する販売先ごとの単価をかけ合わせることで、売上数字が算出されます。

基本的には、これがすべてで、あとは、この数字に技術習熟度の係数等をかけ合わせて修正します。

技術習熟度は、例えば「5年目を1とした場合、1年目は0.5、2年目0.7、3~4年目0.8」等で、生産量にこの係数をかけます。

習熟度係数は、作物によっても、個人の事情によっても異なると思いますが、地域の農業普及センターに相談すると、これまでの新規就農者の実情などから、目安の指導はしてもらえると思います。

ところで、この営農計画を作成する段階で「○○を作って△△スーパーに□□円で販売する」等というように、具体的に販売先や単価まで、決まっていれば理想的です。

もし、この段階で、この状態まで来られたなら「あとは作物を作るだけ」ということになり、精神的にも、とても楽な気持ちで取り組むことができます。

ただ、実際は、ここまで決められている人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
私がこれまで相談を受けてきた中でも、取引先からの要望により法人で農業参入する場合など、ごく稀に決まっているケースはありましたが、脱サラ個人で就農する場合では、ほとんど聞きません。

もし、ここまで具体的に決まっていない場合でも、最低限の想定は必要です。

例えば、

(a)販売先は?
「卸売市場に販売するのか?個人に直接販売するのか?直売所に販売するのか?」

(b)梱包方法は?
「コンテナでバラで出荷するのか?袋詰めして販売するのか?野菜セットとして段ボールで販売するのか?」

(c)出荷方法は?
「引き取りに来てもらうのか?自分で運ぶのか?宅配を使うのか?」

(d)販売単価は?
「それぞれの販売先に対し、どこにいくらで販売するのか?」

などです。

しかも、現実的な数字でなければ、計画を見誤ります。

もちろん、農作物を作る側とすれば、「高い金額でたくさん販売したい」というのが最も目指すところかもしれません。
しかし、現実には、なかなか、そうはいきません。

「高い金額で売れるけれど数が少なかったり」「たくさん売れるけれど金額が安かったり」というのが普通です。

少し余談になりますが、私のところへの就農相談で「○○では、△△を、□□円で買ってくれると言っています。近所のスーパーの2倍ですよ」

などと、意気揚々と話しに来られる方がいます。

でも、私の方から、

「すごいですね。それで、それはパッケージまで自分でやるのですか?スーパーまでは誰が運ぶのですか?一日何kgくらい買ってくれるのですか?」

と質問すると、

「それは、わかりません。でも、とにかく、買うからできたら持ってきてと言われているのです」

となります。

このような話は本当にたくさんあります。
ここまでお読みいただいた皆さんは既におわかりと思いますが、1章の「本物の情報を得る」の項でお伝えした「詳細な前提条件」が欠けています。
この話のレベルでは、実は何も判断ができません。

それでは、どうやって販売先や価格等を想定すればよいのかと迷われるかもしれませんが、方法はいろいろあります。

例えば、「卸売市場の平均価格」を想定価格にするという方法があります。

ホームページに取引価格を公開している公設卸売市場もありますし、少し古いデータになりますが、農林水産省の統計データ(「青果物産地別卸売統計」など)にも掲載されています。

卸売市場に販売する場合のパッケージや輸送方法等は、市場に出入りしている卸売業者の方等に聞けば、ある程度はわかります。

また、身近なところでは、スーパーや直売所に行って、販売されている価格を調査するという方法もあります。
お店によっては、ホームページに販売数量を公表しているところもあります。
パッケージは売り場で見られますよね。

この場合「バラで出荷して、スーパーがパッケージするのか」、それとも「自分がパックして出荷するのか」など、梱包や出荷の方法は個別により異なります。

あとは、やはり現場の情報。
研修先や見学先の農家さんで教えていただけるのであれば、その情報はとても貴重です。

その他にも、いろいろと考えられると思いますが、自分なりにできるだけ具体的に想定をしてください。

ここは、少し難しいところですが、これにより大きく収益が変わります。
経営手腕の見せ所でもありますので、自身の頭で考え、いろいろとトライしてみてください。

【収支計画をまとめる】 p148

経費と売上数字が算出できたら、あとは、これを収支計画としてまとめます。

収支計画は最低でも5ヵ年以上、設備投資が大きい場合は、その設備の償却期間が終わる年度くらいまで(7~10年程度)の計画は作っておきたいところです。

仮に、資金の借入をする(融資を受ける)場合、当然、収支計画により算出された収益が、返済金額以上なければなりません。
したがって、融資額と返済期間、利息を考慮して、年度ごとの返済金額を算出しておく必要はあります(図20とは別に、金融機関などと相談の上、作成してください)。

お金を準備する p151

営農計画を作成することで、自身の農業を始めるに際して、必要な金額は算出できていると思います。

そして、その必要な金額を準備する方法としては、大きく次の3つが考えられます。

①自己資金
②借入
③出資

いずれか1つで資金を準備してもよいですし、もちろん組み合わせても構いません。

ただ、例えば「自己資金がゼロで、100%銀行からの借入です」というのでは、実際の場面においては、融資を受けることは厳しいかもしれません。

①自己資金
もちろん銀行によっても、事業内容によっても、異なるとは思いますが、最低でも必要な額の3分の1以上の自己資金は準備しておきたいところです。
自己資金については、あまり説明は必要ないかと思いますが、これまでの自身の預貯金はもちろん、自身の預貯金で足りない場合には、家族の預貯金、親戚や親からの援助、保有資産の売却等も考えられます。

私のところへの相談でも「自動車や家を売って、資金を作りました」という話は、よく耳にします。
こういう話を聞きますと、こちらにも本気度が伝わります。

②借入
親や親戚等からの借入、友人知人からの借入、会社からの借入、金融機関(民間の銀行、信用金庫、JA、日本政策金融公庫等)からの借入等が考えられます。

金融機関からの借入については、農業の場合、日本政策金融公庫以外からの借入はなかなか難しいようです。
特に実績もない新規就農者の場合には、より審査も厳しくなります。

現在、日本政策金融公庫では、新規就農者向け資金として、「青年等就農資金」等の制度資金が用意され、原則として借入限度額3700万円、返済期間最長12年(うち猶予最長5年)で無利息となっています。

先に述べましたが、この資金を活用するには、認定就農者の認定を受けることが条件になります。
かなり条件が優遇されていますので、営農計画をベースに認定取得にチャレンジして、この制度資金の利用も検討してみる価値はあると思います。

③出資
友人、知人、親戚、親、親会社、取引先の会社等から出資を受けて資金を準備する方法です。
この場合の手法としては、株式会社等の会社を設立して、会社に出資していただく形が考えられます。

具体的には、会社の株式と交換に資金を預けていただき、株主として会社に参画してもらいます。
年度ごとに収益が出れば、その収益を持ち株数に応じて株主に分配します。

その他、自身の農業事業に賛同していただく人から出資を受けるという方法も考えられます。
最近、マイクロファンドやクラウドファンドと呼ばれるものを耳にしますが、これらのファンドを活用するのも方法としては考えられるでしょう。
特に社会公共性が高い事業に対しては、これらのファンドはマッチするかもしれません。

ただし、出資を受ける場合、農地法の制限には注意が必要です。
詳しくは「法律の壁を超える」のところで述べますが、農地所有適格法人として農業を行なう場合には、農業を行なう人以外の持ち株数(議決権数)は、農業を行なう人の49%以下でなければなりません。