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「小さい畜産で稼ぐコツ」を読んだ

投稿時刻2024年10月9日 18:34

小さい畜産で稼ぐコツ」を 2,024 年 10 月 09 日に読んだ。

目次

メモ

p1

家庭菜園で自分がつくった野菜を食べたときの感動はつくった人にしか味わえないものですが、それがそのまま畜産でも実践できるんだなと思っています。

というわけで、わが「わはは牧場」は兵庫県養父市の山間地で、繁殖和牛を10頭、出産をくり返した経産牛の肥育を年に約1頭、豚の肥育を年に約10頭、アイガモ農法で米をつくり、そのアイガモは年間約200羽飼育しています。

飼っている家畜はすべて自力でお肉にして販売しています(繁殖和牛は別)。

わが家は認定小規模食鳥処理場を経営しているので、アイガモはわが家の分とは別に年間約5000羽分を委託処理しています。

他にも小麦を栽培したり、牛のエサもほとんど自給できるよう耕作放棄を利用して牧草を栽培したりしています。
環境負荷の少ない小さな循環を実践して自分たちの食べたいものをつくる生活が、わが牧場の仕事です。

夢はあと少し、養鶏を数年以内に、またいつかは乳牛を飼って乳製品を作りたい。
そして、これは食べものではありませんが、ヒツジを飼って毛をつむぎ、着るものを作るところまで実践できれば、わはは牧場は文字どおり、わははと笑える牧場になるような気がします。

畜産は初期投資額が大きいという話を聞いて、新たな畜種の導入や新規参入を断念された方も多いのではないでしょうか。
わが家の場合も最初は指導を受けるがままにした結果、それなりに経費もかかり、畜舎も大げさなものになってしまいました。
しかし、今思えばそこまでの必要はなかった、もっと簡易な方法で経費も手間もかけずに同じことはできたと思うのです。
この本では、そういったことも含めて、小さい畜産の魅力とその実際を紹介していきたいと思います。

自分たちで豚も飼おう、牛の肥育も始めよう p14

豚を飼い始めたのは、私のお肉好きがきっかけでした。
アイガモ処理場を引き継いで間もなく、近所でこだわりの養豚農家さんがいると知り、そこのお肉でベーコンを作ってみようとなりました。
塩と香辛料だけで仕込んだものでしたが、シンプルゆえとてもおいしいものができました。
その後、定期的にその豚肉を仕入れては仕込むことにしていたのですが、その方が突然養豚をやめるという連絡が入ったのです。

そこで、自分たちで豚も飼おうということになりました。
牛を飼っているのだから、それより小さい豚なんて簡単だ~。
そんな軽い気持ちで。
なんでもチャレンジです。

ただし豚は、いきなり10頭近く産みます。
母豚を飼って子豚を産ませる繁殖から始めるとなると、あっという間に多頭飼いになってしまってとても無理なので、子豚を仕入れて育てる肥育から始めることとしました。
地元の子豚市に買いに行って2頭購入、養豚が始まりました。
ただ、残念なことに繁殖養豚農家の減少で豚市も閉鎖となり、初めて参加した市が県内最後の子豚市となってしまいました。
それ以降は兵庫県で1軒だけになった繁殖農家から子豚を直接仕入れています。

2頭の子豚を連れて帰ったとき、じつはまだちゃんとした豚舎というものができておらず、あいていた農地にあったビニルハウスで飼うことになりました。
ハウスの中に豚を放し、ごそごそ遊ばせているうちに柵を作るという、なんとも簡単というかある意味危険な作業でしたが、追い詰められればなんとかなるもんです。
簡単ですが、その日のうちに豚小屋ができてしまいました。

そして、念願の牛の肥育も始めました。
それまでは牛を飼っているのに牛肉を食べられないことだけが残念でした。
肥育といっても、こちらは経産牛です。
経産牛とは出産をくり返したお母さん牛で、今までも繁殖適期が過ぎた牛はある程度肥育して家畜商に引き取ってもらっていましたが、自給飼料のみで飼育できるようになってようやく自分で食べたいお肉となり、その結果、自信を持ってお肉の販売が始められるようになりました(図1-4)。

わが家の牧草畑でまかなえる頭数に牛を減らした p16

100%地元で手に入るエサで飼い、夫婦2人で精肉処理して販売するには、牛の肥育で年間約1頭、豚で年間(実質半年)約10頭で精一杯です。

ちなみに、繁殖和牛のエサは一般には輸入飼料が多用されていますが、わが家ではこれを地元のものでまかなう努力をしています。
最近では子牛価格の高騰が続いているので売上を増やすには頭数が多いほうがよいのですが、エサの自給率を上げたいため、わが家の牧草畑でまかなえるように、20頭ほど飼っていた繁殖和牛を思い切って10頭まで減らしました。

お肉にして自分で売れば、好きな値段が付けられる p16

繁殖和牛の子牛は、市場で値段が付けられます。
同じように育てた子牛ですが、出来の良し悪しによって月とすっぽんほどの価格差が出ます(たとえば、1頭当たり150万~30万円)。
それが予想外の高値になり、うれしいこともあるのですが、たいがいは思っていたより安かったという場面がほとんど。
自分で値段を付けられないのが悔しい!

しかし、お肉にして自分で売れば、好きなように値段が付けられます。
とはいっても、そんなに変動させることもできませんが。

今ではわが家の精肉加工販売はインターネットでの販売が多数を占めるようになりました。
それが約6割でしょうか、残りは販売店舗での直売です。
以前は道の駅へ出荷したり、イベント販売などでの売上もありましたが、冷凍での販売になるため設備の整わない店があったり、土産物といっしょに並ぶと見栄えのよい商品に埋もれてしまい、わが家の商品の価値を発揮できないので、今はやめています。

労働力は2人。
それで現在の年間売上は約1250万円、直接的な経費が約450万円、差し引いた大まかな金額は約800万円です。
現在の畜産では、所得を増やそうと多頭飼育をめざしても、売上が大きいわりに利益率は低い経営が多そうです。
わが家では、エサがほぼ自給できている分、経費が少ないので、売上がそれほど多くなくても利益が出やすいということはいえるかもしれません(図1-5)。

Q 畜種が増えると働き方は変わるの?エサは何を与えるの? p26

A
わが家では、アイガモは別として、繁殖和牛1頭に加えて経産牛肥育を年に約1頭、豚の肥育を年に約10頭増やしたことになります。
新たに種を増やすと、毎日の作業が忙しくなるのではないかとか、エサのやり方(飼い方)が難しいのではないかと思われるかもしれません。
しかし、まったくそんなことはありません。

たとえば、図1-12は現在のわが家の日中の働き方です。
年の前半は豚か牛の肉処理が入り、年の後半は同じ時間に畑仕事かアイガモの処理が入ってくる違いはありますが、朝夕2回の牛(繁殖和牛)のエサやりの時に同じ牛舎にいる産牛に同時にエサをやり、豚はそこから歩いてすぐの豚舎に行ってエサをやるだけのことです。

豚のエサは地元の野菜くず、せんべいくず、くず小麦など手に入れるためにクルマを走らせる必要はありますが、安くてすみます(くわしくは44ページ)。
経産牛のエサは、高くつく配合飼料を与える繁殖と違ってほぼ牧草だけですませています。
もちろん自分でつくるので、種まきや刈取りなどは必要ですが、毎日の見回りや雑草の管理とかの手間はそんなにかかりません(くわしくは49ページ)。

何より自分で育てたお肉が食べられるのです。
自分の手で育てた家畜のお肉はおいしいですよ。
ほんとに。

Q 豚の肥育って難しくないの? p27

A
子豚を市場などで買ってきて肥育から始めれば難しくありません(41ページ)。

豚は雑食なのでなんでも食べます。
土の上にハウスを建て、周りを単管パイプで囲い、不安なら電気柵を設置するだけで豚舎が作れます。
土の上で育てれば自分でエサを探して食べるし、泥んこになって遊び、豚の本能が発揮されます。
見ているこちらが不安になることもありますが、本人(本豚?)たちはおかまいなし。
楽しんでいるようです。
雪の中を走り回る姿は子どもといっしょですね。

Q 病気の心配はないの? p27

A
豚では、子豚を仕入れている農家さんのところで最低限の予防接種(豚コレラとグレーサー病)はしているとのことですが、わが家に来てからは元気そのもの。

豚には、地面を掘る、水たまりで遊ぶ、などの本能がありますが、通常ではコンクリートの床の上で飼うのでどうしてもストレスがたまるのではないでしょうか。
「穴掘り、やりたくてもできないよ〜」という豚の声が聞こえてきそうです。
少頭飼いなら、土の上で飼うことが可能です。
そうすれば閉じ込められていた本能が発揮され、豚が動物として生き返るといえば大げさですが、ほんとに楽しそうに遊んでいます。
たまにはケンカもしますが、寒い夜に寝るときは寄り添って、また暑い日は体が埋まるまで深い穴を掘り地面にフラットなまでに埋まって暑さをしのいでいて、一見「どこにいるの?」と思うようなこともあります。

牛も、狭い牛舎に閉じ込めっぱなしではなく、放牧とまではいきませんがパドック(牛の運動場)でエサやりの時以外は自由にのんびりと過ごしています。
その奥は急な岩山になっていて、石だらけのガレ場でも登っていきます。
足腰が鍛えられるのか、出産も心配することはありません。
出産事故はゼロです。
季節繁殖をしているせいか、子牛の下痢や風邪も重症化することはありません(40ページ)。

Q 糞尿処理は毎日やるの? p28

A
畜産は規模が大きくなると糞尿の量も多くなり、畜舎から運び出したり、畑にまいたりするのも大変です。
小規模なら、糞を小さいサイクルで循環させることができます。
無理なく糞を畑に還元できるのです。
豚の場合は土の上で飼っているので実質糞出しは不要です。
牛は週イチ程度で糞出しし、まとめて堆肥舎に積んでかき混ぜて発酵を促し、牧草田に入れています。

畜産の盛んな地域では、堆肥処理してくれる施設があると思います。
1t当たりいくらかの持ち込み料金はそう高額でないかもしれませんが、運搬などにかかる経費も含めると馬鹿になりません。

Q エサ代は高くつかないの? p28

A
今や畜産の飼育技術は完成の域を迎えていると思います。
DCP(可消化粗タンパク質)やTDN(可消化養分総量、カロリー)といったアルファベット数文字で示される栄養価計算などをもとに、グラム単位のエサの量が成長度数との割合で飼育日数とともに決められ、いちばん効率のよいとされるところが決まっています。
それを超えると効率が大幅に落ちるといわれ、1万頭養豚だと1日出荷が延びるとエサ代が120万円増えるともいわれています。

その点、頭数が少ないとエサの確保に困らないので、効率を気にしたところでたかが知れています。
数が少ないからこそ確実な飼育管理が必要と考えることもできますが、豊富にエサを与えることができればあまりこだわる必要はないと私は思います。

わが家では、繁殖農家の都合もあって子豚を1回に2~4頭仕入れますが、出荷は2ヵ月以上ずれることがあります。
それでもエサ代が気になるなんてことはありません。

経産牛の肥育も、わが家はほとんど草だけで育てています。
一般にはエサ代が高くつく穀物多給が主流ですが、
うちは仕上げ体重優先ではなくエサの自家生産が優先なので、エサ代は気になりません(図1-13)。

Q エサ代は為替相場や原油価格に左右されないの? p29

A
わが家のように、ほぼ100%地元で手に入るエサを与えていれば、エサ代の変動は心配いりません。

一般に家畜の飼料の多くは、輸入された遺伝子組み換え穀物やポストハーベスト処理されたものが原料として使われています。
しかしわが家ではそういうものをいっさい与えず、人間がそのまま食べることができるもののみエサとして与えています。

そのような原料も気になりますが、輸入の飼料は為替相場や原油価格の変動により大きく値段が変わるのがネックです。
しかも、値上げは早く、値下がりは遅いです。
少しでも安く買うために相場のチェックや価格変動などに目を光らす毎日といえば、なんか世界を見ているようでかっこいいようですが、正直私は疲れました。
そんなことに労力は使いたくありません。

ちなみに、豚はレストランの残飯やコンビニの廃棄物でも飼えるという話も聞きますが、添加物のことを考えると私はちょっと不安です。

また、「自家配合」と「自家生産」の飼料はまったく別のものです。
自家配合は輸入飼料を自分で混ぜてもうたえますが、自家生産は間違いなく国産、いや、地元産です。
言葉が似ているからか、よく混同されがちなうたい文句ですね

Q 精肉加工のいいところは? p30

A
精肉の処理や最終の商品化まで自分でやれば好きなように販売できるほか、何より経費がかからないのがうれしいです。
そのままでも高値で売れる部位はそのままに、単価の安い端肉など加工品にしたほうが売りやすい部位などは加工品にして売っています。
品質が悪くなったからミンチにするとか、加工に回すとかいう考えはありません。
あくまで部位ごとの販売のしやすさや加工することによる付加価値の判断です。
それより何より、自分が食べたいものであることがいちばんかと思っています。

精肉加工すれば、豚1頭が約15万円に、経産牛1頭が約100万円になり、それぞれ肉豚肉牛として市場に出荷するのと比べて約3倍の売上になります。

まずは牧草を自分でつくる p34

自分でつくる牧草ですので、電話1本で生長するわけもなく、牛舎までやってくるわけでもありません。
種まき、刈り取りなどの手順は必要です。
種子だけは電話1本で配達してくれますけど。

それでも、イネのように日々見回りが必要とか雑草の管理とかの手間はそんなにかかりません。
つくる場所は、このご時世あいた農地はいくらでもあります。
耕作放棄田となって木が生えてきた田んぼを開墾したこともありますが(田んぼでも数年放置すると自然に木が育ってきます)、そこそこ管理されていた田んぼがほとんどでしょう。
そういう場所ならすぐに牧草を栽培できます。

わが家の場合、約3haの農地で牧草をつくっています(写真2-2)。
初夏に種まきして秋に収穫するソルガムと、その後に種まきして越冬させて翌春に収穫するイタリアンライグラスとの2種類(どちらも早期に刈り取れば二番草が取れる)でかなりの量の牧草が収穫できます。

いずれの牧草も祖父がつくっていたから継続していますが、ソルガムは栽培が容易で発育もよく、再生力も強く、イタリアンライグラスは寒地型の牧草で耐湿性もあります(表2-2)。
栄養価の高いトウモロコシもつくっていましたが、イノシシにねらわれやすいので、ソルガムにしました。

労力と草地面積に合わせて牛を減らす p36

とはいっても牛は大食いです。
聞いた話によると完全放牧では1頭につき1haの土地が必要とのこと。
いくら収量の多い牧草の栽培をしたところで、とても私のような3haくらいの土地ではまかなえそうにありません。
そこで、わが家では牛の頭数を減らしました。
3haで何頭飼えるかわかりませんでしたので、20頭ほどから徐々に減らし、今は親牛が10頭です。

もうちょっと減らさねば無理かな、と思っていましたが、2017年にはソルガムとイタリアンライグラスの二毛作をするようになったことや二番草の収穫もできたことで、3haで目標の粗飼料の全量自給を実現することができました。
現状でこの頭数を維持できそうですが、地域による牧草の生育具合の違いもあると思いますので、あくまでも目安です(図2-1)。

ちなみに、牧草は雨が多いと収量が減ることが多いのですが、当地方は「弁当忘れても忘れるな」というほど雨の多い山陰地方で、冬は雪で完全に埋まってしまう土地柄です。

とはいっても、1人の労働力(牧草の栽培管理は私1人の仕事)ではこの面積が精一杯です。
農地が転々としていて、20aばかり、最遠方では約15kmも離れているので、移動だけでも一仕事になりますので。

動ける人数がいるから面積を倍にというわけにもいきません。
なぜなら種まきから収穫まで、今どき機械での作業ばかりです。
人が増えれば機械も同じように増やさなくてはならなくなってしまいます。

子豚を買ってきて肥育から始める p41

わが家では繁殖養豚農家から子豚を仕入れてきて肥育しています。
繁殖を手がけないのはアイガモ処理の仕事もあり、年中豚飼いができないという事情もありますが、豚の特性による事情もあります。

産まれたての豚は小さくてかわいいので一見の価値ありですが、豚は一度に10頭前後産まれ、死亡事故も多く初期の管理に手がかかるので、いきなり繁殖から肥育まで一貫して手掛けるのは大変です。
いつかは繁殖をめざすとしても、まずは子豚を買ってきて肥育から始めるほうがラクでしょう。

肥育なら豚は飼いやすい家畜です。
なんでも食べますし、すぐに大きくなります。
お肉になる直前はかなり大きくなるので、それなりに頑丈に囲った場所が必要となりますが、それがクリアできれば誰でも始められると思います。

ただ、養豚は繁殖・肥育の大規模一貫経営が中心となってきており、繁殖養豚農家の減少で子豚市も少なくなり、誰でも公正な価格(繁殖農家の言い値ではなく市でのせり価格)で子豚を手に入れることが難しくなってきているのが現状です。

そんな中、幸い県内残り1軒となった繁殖養豚農家が隣の市におられるので、今のところ希望頭数を希望の時期に購入することができています。

ビニルハウス豚舎でいい p42

豚を飼う場所はあらかじめ決めていました。
そこには中古のビニルハウスが建っていて、その中で飼う予定でしたが、なんと市で子豚を2頭買ってきてから囲いなどを作ることになってしまいました。
計画が間に合わなくて突貫工事もいいところです。
豚を向こうにシッシと追いやりながら単管パイプを打っていく、クランプで止めていく、という作業でした。
ハウスですので屋根はあります。
妻側(短辺)両面に柵を作っていくのと、両サイドにエキスパンドメタル(58ページ)を張っただけの簡単な豚舎ができあがりました(写真2-4)。

地面はコンクリートでなく土のままです。
土の中には虫や草の根などおいしいものが豊富にあるようで、掘り返して大きな穴ができています。
その穴は夏場の暑さをしのぐ場所なんでしょう。
雨が降ればプール、いや、お風呂みたいな感じですけれど、ドロドロで、ぱっと見は薩摩の黒豚以上の黒さです。

面積はハウスが120㎡、オープンな遊び場と合わせて全部で約300㎡ほどです。
その中には自然に生えた桑の涼しい木陰もできています。
決して広くはないエリアですが、その中にいるのは最大で8頭(平均4頭)ほど。

一般には1~1.5㎡に1頭が目安とされているそうで、わが家の豚密度は低いので糞出しはやらなくても自然に土に還っていきます。

70日齢前後の豚を約3カ月肥育する p43

そんな豚舎と呼べないような豚舎に、生まれて2~3ヵ月ほどの子豚を買ってきます。
わが家では10月の2頭から2ヵ月に一度のペースで4月頃まで買いに行きます。
トータルで約10頭になります。

毎年のはじめ、子豚を2頭導入したての10月頃であればなんら問題も起きませんが、途中に追加で入れると、それはそれは大乱闘が始まります。
耳がちぎれないかと思うほど先輩豚が新米豚に噛み付いて放しません。
泣き声も人間に近いトーンで発するので、聞いてて怖さ倍増です。
まあこれは序列を付けるための儀式なんですぐに収まりますが、見ていてちょっと怖いです。
しかし、大ゲンカしても翌日以降はみんなで川の字になって寝て、エサも仲よく並んで食べるようになります。

わが家に来てから約3ヶ月経過すると、大きくなった順にお肉にしていきます。
大きさの目安は一般的な豚肥育と同じ110kg前後(図2-4)ですが、それに届かないとか、逆に大きくなりすぎるなど、なぜか個人差ならぬ“個豚差”がかなり出ます。
これは、放任に近い飼い方をしているがための豚の個性だと思っています。

食べたいエサを食べたいだけ与える p44

わが家の肥育は、「食べたいエサを食べたいだけ自由に与える」というのが基本です。

ただはずせないのが前に書いたとおり、エサの中身の実態をしっかり確認すること。
遺伝子組み換えじゃない、ポストハーベストでないもの。
この2つだけは絶対に守っています。
「エサだろ?人間が食うんじゃねえし」と言われるかもしれませんが、エサを食べた家畜を人間が食べるわけです。
わが家では人間が食えないものは、豚にはもちろん、牛にも、アイガモにもエサとして与えていません。

エサは自家製粉の小麦粉、せんべいくず、野菜くず p44

わが家の豚のエサは、野菜くず(多くが有機JAS認定のもの)のほか、くず大豆入りのせんべいくず、ジャガイモなどの野菜や麦のくずなど、手に入るものをその都度、1日1~2回与えています。
くずばかりですが、これは人間の用途から見たうえでのこと、もの自体に悪いところはありません。
また、豚は土を掘り起こして小動物や植物の根なども食べていますので、別にミネラル分を補給するようなことはありません。

水は、ため水より豚専用の給水器を設置したほうがいいです。
最初、牛用のウォーターカップを置いていましたが、すぐに泥で詰まってしまい、掃除が大変でした。
その点、豚用のニップル式給水器は筒状になったもので、くわえたときだけ筒の中から水が出てくるしくみで汚れません(写真2-5)。

ちなみにエサ箱は置いていません。
地面にまくだけです。
最初は木(コンパネ)で作っていましたが、すぐに壊されてしまいました。

経産牛の肥育を始めるには p45

母から子牛を産ませる繁殖経営ですが、いつまでも産めるわけではありません。
歳を取れば生理的にも繁殖能力が落ちてきますし、何より昨今の子牛市場では10産を越えた母牛の子だと極端に値が下がります。
そうなるまでに母牛を更新しなくては、同じように牛を飼っていても損なだけです。
昔は20産もすると多産表彰といって優秀な牛と褒め称えられていたのに時代は変わるものですね。
わが家では、その繁殖能力の落ちた母牛(経産牛)を肥育に回してお肉にしています(写真2-6)。

ほぼ牧草だけで肥育できる p45

人からは「但馬牛のおいしい牛肉が食べられていいですね」とよく言われたものですが、自分が育てた牛が食べられなくて悔しい思いをずっとしていました。
アイガモ、豚と、自分で育てて食べる肉が増えてきたので、さらに牛の肥育もやりたいと思うようになったのです。

以前も経産牛の肥育はやっていました。
母牛を処分するのに、家畜商や肉屋さんが買ってくれていたのですが、少しでも肉を付けたほうがやせた状態より高値で買ってもらえたからです。
この時のエサは市販の肥育牛用のエサでした。

しかし、わはは牧場の家畜はエサにこだわった豚であり、カモであったわけです。
食べるために牛を養うには市販のエサでは不満がありました。
自分で育てた草を食べさせたい。

ちょうどその頃、国産の自給飼料で育てたオーガニックの牛肉を探しているというレストランのシェフと知り合い、そんな牛肉ができたらぜひ買いたいとのこと。
こちらの思いもふくらんでいたところでしたので、背中を押してもらうことができ、牧草つくりから始めました。

そして翌年、牧草が収穫でき、それだけで肥育できるようになってさらに1年以上経って、ようやく食べたいと思える牛肉が生産できるようになったのです。
そのレストランにも、計画から2年以上というたいへん長い月日をずっと待ち続け応援していただきました。
感謝しています。

いかに手をかけないで育てるか p46

祖父の残した3頭の牛から繁殖経営を始めたのですが、祖父はとにかく牛が好きだったので、いかに手をかけて育てるかというところが最重要ポイントでした。
そういう姿を見てきたせいで私自身は牛飼いが嫌になったのも事実で、このまま祖父と同じような飼い方は真似できんなと思っていました。
そんなとき、牛飼いでは先輩の友人が「おまえのじいさんのやっていたようにはようせんやろ。今はそんなやり方をせんでも牛飼いはできるんやで」と教えてくれ、いろいろと省力化の方法など教えてもらったものです。

また、就農前のその時期、歯科技工士の仕事を辞めていたけれど、今ひとつ牛飼いになる決定打がなく気持ちが不安定だったときに、ドライブを兼ねて九州方面の畜産を視察に行きました。

そこで教えてもらったのは大きく2つでした。
まずは、「牛舎なんぞ、風雨がしのげ、エサが雨に当たらなければそれでよい」。
そして、「除角すること」でした。

放し飼いスタイルなら除角する p48

また、九州の畜産農家によると、除角は放し飼いスタイルにするなら必須とのこと。
母牛が突き合わないよう、安全のためです。
しかし、いくら角は評価に値しないといいながらも、見た目を重視する但馬牛ではなかなか除角する農家はいません。
品評会では角の評価はありませんが、昔からの但馬牛の資質のひとつに“角味”というのがあり、祖父も毛・皮・骨の牛の質の3要素を端的に表わすのは角である、と言っていました。
でも、思い切って除角することにしました。

角のない牛に慣れてしまうと、よその牛舎の牛が怖くてしょうがないです。
ただ、鼻木につなぐ綱を普通は耳、角の後ろに回すのですが、角がないのではずれやすいのが難点でしょうか。
しかし、わが家では「はずれやすいなら付けなくてもいい」との考えで、鼻木だけでロープは付けておりません。
「そんなのどうやって捕まえるの?」と聞かれますが、必要なときはスタンチョンで固定でき、捕まえられるのでなんら困りません。

1年に1頭ずつメス子牛を残す p48

先にも書きましたが、母牛を10産以上させると、その子牛の価格が安くなってしまいます。
なので、それを見込んで肥育の予定を立てるのですが、わが家の場合は母牛が10頭なので、年に1頭ずつ子牛を残して育成し、母牛にすれば、1年に1頭ずつ肥育に回せます(図2-5)。

現状ではまだ理想どおりに回っていませんが、数年内にそのように回転させていくつもりです。
そうすれば、母牛の更新、経産牛の肥育ともに無理なく確保できるようになります。

肥育期間は約1~2年です。
主に草だけで育てるので急激な増体は望めませんし、通常の肥育牛のように巨大にもなりません(通常の肥育牛で枝肉重400~500kgですが、わが家は300kg程度)。

成長が緩やかな分、お肉にするタイミングも仕事の合間を見て時間の取れそうな時にフレキシブルに対応しています。
少々日数が予定よりオーバーしようが、自家製飼料なので、あまり細かく日割り計算して費用を気にする必要はないと考えています。
もちろん多少のコストはかかりますが……。

どちらかというと、わが家では肥育というより、言葉は悪いですが毒抜きのイメージのほうが強いかもしれません。
体中の細胞がすべて生まれ変わるのに2年ほどかかると聞いたので、繁殖飼育で遺伝子組み換えなどの配合飼料を与えて育った体を、草主体のエサで飼いなおすといったところです。

外敵さえ防げれば難しくない p54

アイガモの詳細な飼い方、技術的なことは専門書を参考にしていただきたいと思いますが、外敵さえ防ぐことができれば、難しくありません。
そして、地域により飼育方法に違いがかなりあるのがこのアイガモ農法です。
ここでは、雨が多く寒冷地である山陰地域のわが家でやっていることを紹介させていただきます。
暖かい地域ではもっと飼いやすいはずです。

アイガモの適正羽数 p54

田んぼに放すアイガモの数は10aに20羽を基準としています。
ヒナは孵化場に注文することになるのですが、自然死、事故死のことも考え、購入は総面積で数を出し、その2割増程度がいちおうの目安(わが家は約50aなので、5×20羽×1.2=120羽)。
さらには、100羽以上で送料が無料になる孵化場が多いので、100羽以上の単位で買うほうがお得なこともあって、多めの200羽仕入れています(写真2-11)。

ただ注意が必要なのは、昨今生き物を配送してくれる運送会社が少なくなっており、到着すると思ったら遠方の営業所まで引き取りに行かねばならなかったといった場合があります。
注文時にはしっかり運送業者に確認するようにしたほうがいいです。

ヒナが届いたらすぐにカモプールで飼い慣らし p54

カモは水鳥なのに、なんとびっくり!
おぼれてしまいます。
産まれてすぐに水に浸からずに数日経過してしまうと、羽に油分が分泌しなくなり、その状態で水に浸かると羽がずぶ濡れになり、乾かずに弱ってそのまま死んでしまうことが多いです。

ですので、産まれてすぐのヒナ(初生ビナ)が届いたら一刻も早く水に慣らすことが必要です。
わが家の場合、傾斜地に置いたカモプール(図2-6)に半分ほど水を入れ、陸地も作り、そこで1週間ほど飼い慣らしてから田んぼに入れています。

ゼロ日放飼といって、ヒナが来たらすぐに田んぼに放す方法もありますが、これは温暖な地域だからこそできることで、当方のような夜間に冷え込む地城では難しいです。
実際にやってみたこともありますが、弱って死んでしまうヒナが多かったので断念しました。

圧死を防ぐため、1群50羽前後に p56

もともと群れで生活するアイガモです。
産まれてすぐは、寒い夜間に団子になって圧死の可能性が高くなります。
そこで、たとえばヒナを買う(銅う)数が200羽になる場合、1週間ほどのインターバルをあけ、2回に分けてヒナを注文します。
ひとつの群れで100羽以上だと、圧死のリスクが増大します。
ほんとはもっと少なくてもいいくらいで、飼うスペースを区切り、1エリア50羽前後にしたほうが安心していられます。

ヒナが届いたらすぐに水に浸けるだけでなく、エサも必要です。
米ぬか、くず米に市販の餌付け用のエサを少量混ぜ、徐々にくず米主体の硬いエサに切り替えていきます。
青い草も大好きです。
さすが名前のとおり、ヒヨコ草(ハコベ)はよく食べますよ。

父がアイガモ農法を始めた頃は、到着したヒナ1羽ずつに砂糖水を小さじで少しずつやり、おがくずを厚く敷き詰めた上に暖かいコタツで保温した状態で約1週間。
その後、徐々に水に慣らすため、1羽ずつ水浴びさせてこれまた数日。
そんな手間暇かけて飼育していましたが今はそんな面倒なことはしません。

これはカモが進化したのではなく、ただ単に過保護だっただけです。
先に書いた牛と同じように、その生命力を信じれば、生きようとする力はそう簡単に崩れるものではないと思います。
人間の力の及ぶところではありません。

気温が上がるまで田植えを待ってから放飼 p56

1週間ほどプールで飼い慣らし、エサを与えて数日経過後、いよいよ田んぼに放します(図2-7)。
静かだった田んぼが一気ににぎやかになり、「生きた田んぼ」になるうれしい瞬間です。

「雑草や虫を食べるから、田んぼの中でエサをやる必要はないのでは?」と思われるでしょうが、そうではありません。
ここでいかにしっかりエサをやるかが、肥育の出来の良し悪しを決めてしまうといっても過言ではありません。

エサは、くず米にせんべいくずや米ぬかなどを混ぜたものを、田んぼの中に設置した屋根(カモ小屋)の下に置いて毎日与えます。
草が生えたところにエサをまくと、そこに群れるので除草になると聞いたことがありますが、なぜかうちではあまり効果を感じたことはありません。

イネの品種は、肥料分が多いと倒れやすくてアイガモ農法には向いていないといわれていますが、当地域推奨のコシヒカリをつくっています。

近所では5月中旬には田植えを終えてしまいますが、わが家ではこの地域での限界ギリギリといわれる6月上旬に田植えをしています。
これは少しでも気温が高くなるのを期待してのこと。
毎年ゴールデンウィークの頃には真夏のような気温の日があり、この時期に植えてカモを放してもよかったかなと思うのですが、周りが田植えを終えた後に冷え込む日が多く、放さなくてよかったなと毎年思うのです。

イネと草を見ながら放飼数を調整 p57

わが家では全部で50aほど、数にすると9枚の田んぼにそれぞれ放しています。
10a20羽を目安に入れますが、タイミングによってはすでに草が生えかけていたり、逆にイネの生育が遅かったりとバラツキがあるので、様子を見ながら加減しています。

先に100羽ずつ2回に分けて購入と書きましたが、最初の100羽を適当に分けて入れ(この時点では10aに10羽ほど)、草が少ないところではそのまま様子見か、いったん引き上げて次の100羽の分を入れています。
わずか1週間とはいえ、カモの成長は早いもので見た目にもはっきり大きさが違ってきますので、小さいカモに入れ替えてイネの負担を減らす考えです。
逆に草に負けそうな田んぼは最初の大きくなったカモを入れたり、数を増やしたりして対応します。
臨機応変、これが大切です。

外敵から守るためのメタル柵と電気柵 p58

アイガモ農法でいちばんやっかいなのが、ヒナの初期成育でもなんでもなく、外敵です。
地面からはイタチ、キツネ、テンなどの肉食動物が、空からはカラスがまだかまだかとアイガモが来るのを待ち望んでいるようです。

わが家では田んぼの周りをアイガモネットではなくエキスパンドメタル(XS32亜鉛めっき仕様、1.2m×2.4m)でぐるりと囲っています(写真2-12)。
毎年の網の設置撤去作業が大変なので、恒久的なもので囲うようにしました。

エキスパンドメタルはさすがに頑丈なものなので最初の5年は野生動物の侵入もなかったのですが、5年を経過した頃からそれを乗り越えて入ってくる獣が出てきました。
後述のカラスもそうですが、いわゆる害獣は一度味を占めると少々難があっても入ろうとチャレンジします。

これには困ってしまいましたが、対処方法として電気柵の設置をしました。
地面から10cmほどの低いところに1本、そして、網の上に避雷針(アンテナ)のように棒を立て、網の上5cmくらいのところに1本渡しています。
これで獣の侵入はなくなりました。

カラスには黒テグス p58

そしてカラスです。
こいつらは特に賢いので最初が肝心です。
アイガモ放飼時期がちょうどカラスの繁殖期にあたるのか、とにかくエサが欲しいようで猛烈にアタックしてきます。

以前は黄色いテクス(釣り糸)と透明なテグスを50~100cm間隔で張っていたのに侵入されたのでその中にもう1本張り、それでも入られたので間にもう1本、
最終的には17.5cm間隔で張り、総延長延べ10km以上、延べ10日以上という方もない労力をかけてがんばってようやく侵入を防ぐことができました。
しかし、毎年のこの作業は正直地獄です。
こんなことではアイガモ農法の普及につながりません。

そんな中、知り合いから教えてもらったのが黒テグスです。
どうも黄色とか透明のテグスはカラスには見えるようで、かなり狭い間隔でもす~っと通るということらしいのです。
その点、この黒テグスはカラスに見えないらしくないと油断して田んぼに入ろとしたときに触れ、びっくりして以来入らなくなるという理屈のようです。

ただ、これ、人間にも見えないのです。
張る作業は気を付けないと目に入ったりして危険ですし、数本をまとめて張ろうとしたときに絡まると、ほぐれなくてイライラしてしまいます。
そんなときには、「糸のほぐれはすぐとける~、こころのほぐれはすぐとけない〜」と、子どもの頃母親からよく聞かされた歌(?)を念仏のように唱えながら(歌いながら?)ほぐします。
これもおいしいカモさんのためだと思いながら……。

それと、テッペンにボタンの付いた帽子(野球帽のタイプ)は、テグス張り作業中にはたいへん邪魔です。
頭にテグスが引っ掛かるのです。
また、手袋は薄めの皮製のものがいちばんで、軍手は細い糸をつかむことができないので論外です。
なんだそんなことかと思われるでしょうが、こんなことひとつでも作業効率がずいぶん違います。

ちなみに、この黒テグスだと約50cm間隔でも大丈夫なようです。
作業時間は大幅に短縮できました。
なお、黄色や透明のテグスは巻いて回収して再利用していましたが、黒テグスは巻き取りにくいので、ちょっともったいないけれど使い捨てです。

放飼を終えてからの肥育法 p59

イネの穂が出る8月中旬になったら、カモを田んぼから引き上げます。
その頃には田んぼの中の虫も草もずいぶんとなくなってしまっているので、穂が出たら真っ先にカモにねらわれてしまうからです。
カモから見たら穗なんてはるか上空にあるようですが、彼らは、いちおう羽を持っていますのでジャンプしたり、またデカい水かきを使ってイネをなぎ倒したりして穂を食べようとします。
田んぼの内外、どいつもこいつも食うことには必死ですね。
ま、人間もそうなんですが……。

田んぼから引き上げたカモはイネをつくっていない田んぼに入れて肥育しています。
水鳥でもある程度大きくなれば、あまり多くの水はいらないようで、水浴びが少しできる程度あればいいようです。

エサはくず米主体で米ぬか、せんべいくず、くず小麦などを毎日やっています。
やる量は食べるだけ。
鳥類は牛と違い、食べ過ぎで調子を悪くすることはないそうです。

産まれてから約2ヵ月半くらいで成長し、その後はいつでもお肉にすることができます。
「エサ代がかかるから」とすぐにお肉にされる方もいらっしゃいますが、「霜が降りる頃にならないと脂が乗らない」と、12月まで飼育される方もおられます。
わが家は各地の農家から持ち込まれたアイガモの処理の合間にお肉にします(表2-5)。

豚は枝肉を引き取って p64

わが家で処理豚は月に1~2頭を兵庫県たつの市にある屠場まで持ち込んで、「枝肉」という頭と足と内臓が除かれて骨が付いたままの状態にしてもらいます。
中2日あけて引き取りに行きます(図3-2)。

朝一番に保冷コンテナを積んだ軽トラを走らせ、午前10時頃までに帰ってきて休憩もそこそこに、すぐ処理を始めます。
そのまま商品にできる部位(ヒレ、スペアリブなど)は真空パックして商品に仕上げ、夕方には片付けを含めて作業は終了します。

他の部位はブロックで一度冷凍し、後日半解凍状態まで戻してスライスしています。

牛の枝肉からの処理はあきらめた p64

「牛は豚よりブロックに小分けしやすくラクですよ」、なんてうわさで聞いていたのもあって、最初は豚と同じように牛も枝肉から処理するぞ!と意気込んで、最初の1頭は自分でやりかけました。
しかし、あまりのデカさにどうしようもなくて(天井が低くて枝肉がぶら下げられないのも理由のひとつ)、結局お隣の朝来市にある屠場で枝肉にしてもらい、知り合いのお肉屋さんで骨抜き、小分けにしてもらっています(図3-2)。

大きなブロックでわが家に届いたお肉は、冷蔵庫の中で約1ヵ月、普通のお肉より長期間熟成します。
熟成によって肉が軟らかくなり、うまみのもとのアミノ酸が増えるといわれています。
経産牛は硬いといわれるので、ちょっと長めに置いたほうがよいようです。

そのあとは豚と同じです。
ただ、牛は細かい部位も多く、それぞれに分けなければ商品価値を活かせないので日にちがかかります。

アイガモは屠殺から精肉までわが家で p64

アイガモは、屠殺、放血からパック詰めまで、すべてわが家で処理しています(図3-2)。
ニワトリも同じように処理できますが、うちはアイガモをメインにやっているのでニワトリのほうが難しく感じます。

放血後、お湯に浸け、脱毛機にかけてざっと毛をむしったのち、後述のようにワックス(蝋)で脱毛処理をします。
その後、骨抜きなど解体していき、胸肉、モモ肉と分かれたら最終的にピンセットで細かい毛を抜き、パッキングします。

カモは、水鳥なので羽毛が細かく、ニワトリのように簡単に脱毛ができません。
いかにきれいにするかがカギとなります。
わが家ではワックスで羽を固めてから抜き(こうするとベロっとはがれる)、残った毛をピンセットで手作業で仕上げています。
薬剤で処理する方法があるらしいと聞きましたが、いくら人畜無害なものであってもそういうものは使いたくないです。

動物の体のしくみは共通、まずは鳥で覚える p66

いろんな家畜をさばくようになって思うことは、動物は基本的に同じ骨格からできているということでしょうか。
それは鳥と牛ではまったく違うのです。
しかし、それらには共通点があるように思えるのです。
骨や関節の付き方、筋の通り方などは似ているところがありますし、関節を簡単にはずす方法は鳥も牛も変わらないように思いました(図3-3)。

なので、鳥で大ざっぱな方法を覚えて順に大きな動物をやっていけばやりやすいと感じたのですが、一般的にはそれぞれ専門の職人がおられて、その方たちは他の種類は門外漢かもしれませんね。
こうやっていろんなことにチャレンジできるのも小さい畜産のおもしろいところだと思います。
ちなみに、えらそうなことを書きましたが、わたくし、魚をおろすことはまったくできません……。

足で開閉できる水道の工夫 p69

お肉を触っているときにも水道を使うシーンは数多くあります。
しかし、お肉を触った手では、いや、どんな場合も作業中は蛇口を手で開け閉めするのは衛生上よろしくないです。
そこで、うちの処理場では足で水道が開閉できるように工夫しました(図3-4、写真3-6、写真3-7)。

屠場などで見かけたことがあるので、市販されているものもあるのかもしれませんが、ペダルのオンオフで弁を開閉します。
それを2つ取り付けて、片方は水、片方はお湯のスイッチにしています。
出しっぱなしが必要な作業もあるので、踏んだときだけ出るのではなく、1回踏んだら出て、もう1回踏めば止まる、というオルタネート式にしています。

公衆トイレなどでは手をかざすと水が出るセンサー式のものがだいぶ普及してきましたが、手をかざさないと出ないというのは、大きな鍋やトレイなどの洗いものができないということです。
そういうセンサー付きの水道栓も市販されていますが、これでは仕事になりません。

まずは保健所に相談するところから p77

食肉に関する許可は都道府県で認可されます。
自治体によって多少しくみが違ったり扱える範囲の解釈がまちまちだったりします。
なので、最終的にはお住まいの地域の担当部署に確認いただくとして、ここでは参考程度に読んでいただきたいと思います。

食に関する仕事を始めるとき、まずは保健所へ相談するところが第一歩です。
そこでくわしく必要な資格や施設のことを教えてもらえます。
何を聞いていいかわからないといったところからでも、やりたいことを話せば、たいがいは親身になって教えていただけるものです。

わが家の場合、まず父がアイガモ処理場の建設をしようと言ったときからお世話になりました。
その時に、「食鳥処理衛生管理者」の資格がいること、手洗いや冷蔵庫、換気扇などといった施設に必要な設備などを教えていただき、設計図を提出。
そこで設計ミスがないかどうか確認してもらってから作り始めました。

そして、できあがったら現地確認があり、不備がなければ許可証を発行してもらえます。
いきなり作って、「できたので確認に来て」ではなかなか難しいはず。
許可が出たらおしまいということではなく、その後のほうが保健所との長い付き合いとなるので、お互いに気持ちのよい間柄でいたいものです。

なお、行政との関係は、役目が分かれており、食肉販売に関しては保健所、食肉処理となると食肉衛生検査所、また、生きた動物に関しては家畜保健所の管轄となります。

「わはは牧場アイガモ処理場」の場合 p77

ちなみに、「わはは牧場アイガモ処理場」は、施設の許可では食肉衛生検査所の管轄の「認定小規模食鳥処理場」で、それを開設するには食鳥処理衛生管理者の資格が必要となります(表3-1)。

これで鳥をさばくことはできるようになりますが、これだけでは毛をむしり内臓を取るところまでしかできません。
引き続き、解体し、お肉にするには、それに合わせて保健所の管轄で「食肉処理業」が必要で、できた肉を売るには「食肉販売業」が必要となります。
お肉に冷凍や冷蔵は必須ですので「冷凍冷蔵業」も必要です。
もし、持ち込まれたアイガモに病気が見つかればそれは「家畜保健所」の対応となります。
ややこしいですね。

食肉販売業の許可取得は必須 p78

このように、お肉を売るには食肉販売業の許可が必要です。
ただし、すでにパックされた状態のお肉を仕入れて販売するだけなら、「包装食肉販売業」の許可ですみます。
こちらは直接お肉を触らないことが前提ですので、簡易な施設でよく、敷居が低く始めやすいです。

食肉の解体処理は食肉処理業が必要ですが、どこまでが処理なのかというこのへんの解釈が自治体によって異なるようです。
遠方の同業者の方と話がかみあわないと思ったこともありますので。

コロッケの話 p78

余談ですが、コロッケの話です。
カモを処理したときに出るくず肉をなんとかしたくて総菜屋さんに原料として売り込みに行ったのですが、そこでは自社販売用にはいわゆる鶏肉の入ったコロッケは作らないとのこと(経営者がただ単に鶏肉嫌いだったようです)。
それで「うちでは売らんけれど、あんたらが自分で売るならコロッケを作ってやる」というふうに言われ、作ってもらう話になってしまいました。

そこでカモ肉を持っていってお願いしたところ、最初、百数十個の予定が、いきなり数百もでき、まだ売りもしていないのに「次のができたよ」と、また数百個…….
「こんな数どうすんだ???とても食べきれない!(当たり前ですよね、家族5人で)」。
そこで、イベント販売するしかないなと、移動販売(露天商)の許可を大急ぎで取ったのでした(今はお店をオープンしたので返納)。

そのコロッケはイベント販売でヒットしたのはよかったのですが、自分たちとしてはもうちょっと肉が入ったのを食べたいということになり、結局自家生産することになりました。
今では、季節により異なることもありますが、ジャガイモ、タマネギだけでなく小麦粉も自家製の無農薬栽培のものを使用して、ちょっと大きめの食べ応えのある「があぶうコロッケ」として、わはは牧場の人気定番商品となっています(写真3-13)。

コロッケの原料にカモ肉と豚肉を使っているので、カモの「があ」、豚の「ぶう」を合わせて「があぶう」です。
また、大人も子どもも「がぁぶぅ」と食べてほしいという願いも込められています。

ベーコンを作るためには食肉製品製造業 p79

食品を作る場合、その原料として食肉が50%を超えるものは「食肉製品製造業」の許可が必要です。
これはお肉関係の許可の中ではいちばん敷居が高いものとされています。
わが家もベーコンを作るにあたって何回も保健所に相談してようやく許可をいただくことができました。

施設では、製造室内に、漬け込み室、燻煙室といった独立した部屋が別に必要で、また資格では食品衛生管理者が必要です(似たような名前の「食品衛生責任者」とはまったく別の資格です)。
食品衛生管理者には、医師、獣医師、大学で農業や食関連の学部を卒業した人などであれば、そのままなることができますが、そのような学歴のない場合は3年以上の従事経験のうえ約2ヵ月の講習を受ければ資格を得ることができます。
どちらも難しい場合は有資格者を雇うという方法もあり、わが家も今はそのようにしています。

加工機器は真空パック機と冷凍庫から p80

精肉加工を始めるためには、冷凍庫、冷蔵庫は必須です。
すでにパックされたお肉を扱う包装食肉販売ならそれだけでOKですが、精肉作業をするにはお肉をスライスするためのスライサー、また、ミンチにするミンチマシンなどが必要です(写真3-14)。

回転の速いお肉屋さんでは、スライスしたお肉をトレイに並べてラップをかけて冷蔵販売していますが、これだと1~2日で売り切ってしまわねばなりません。
わが家ではさばいた1頭分を数日で売るなんてできませんので、すべて冷凍販売しています。

そのままの状態でお肉を冷凍しても霜が着いてしまったり、長持ちしなかったりするので、真空パックにして急速冷凍庫(ブラストチラー)で凍らせています。
通常の冷凍ではなく、急速冷凍していることで品質の低下を最小限に抑えられているようです。

この方法の利点はかさばらないことです。
トレイだとけっこうかさばりますが、使い切りサイズの小さなパックなのでストックするにも便利です。
要望に応じてお客さんの使いやすい量でパックすることもでき、使い切りサイズは喜んでいただいています。

喜んでもらえる理由にはもうひとつあります。
真空パックだと解凍するのも便利なんです。
この状態のまま水に浸けておけばすぐに解け、料理に使うことができます。
それに、包装はプラスチックの袋だけですので、ゴミの量が減るというのも重要なところです。

真空パック機も自作 p80

ちなみに、真空パックの機械も自力で作りました。
もともとアイガモ処理で使う予定で、効率もよいように一度に4袋ほどパック可能な大きなサイズのもの(シール幅約1m)が必要だったのですが、そのくらいのサイズの機械は100万円以上と値段も高い。
しくみを見たら作れそうだったので、鉄を切ってチャンバーという真空になる部屋を作るところから始めました。

しかし、案ずるより産むが易しではなく、案ずるほど産むのは難しかったです。
どうせ作るならと市販のものと同じフルオート制御できるようにしたら、結局完成まで2年以上かかってしまいました。
途中どれだけ挫折しかけ、市販品を買おうと思ったことか……。
ただ、できあがってみたら、堅牢な設計にしたのも功を奏してか、作って10年ほどになりますが、大きなトラブルもなく現役で働いてくれています。

冷凍庫がダウンしたときの警報器も自作 p81

わが家には冷凍庫、冷蔵庫がたくさんあります。
何台も置いているのは、もし1台がダメになっても他でカバーできるようにというためでもあります。

しかし、そういう起こってほしくないことは忘れた頃にやってきます。
知らぬ間に電源が落ちていたとか、機械本体の不具合で冷えなくなってしまったとか。
それを未然に防ぐことはなかなかできないものですが、早期発見できれば中の商品のダメージは少なくなるので、こんな機械を作ってみました。

それは、「全冷凍冷蔵庫監視システム」です。
名前だけはかっこいいですね。
これは、冷蔵庫、冷凍庫すべてに外付けのセンサーを取り付け、温度表示機を1台にまとめ24時間体制で温度をモニターするものです。
そして、モニターするだけでは芸がないので、設定温度(短時間なら品質のダメージを受けないであろう温度、マイナス10℃とかで設定)より庫内の温度が上がってくればアラームが鳴り響くようにしました。

そのアラームは一度鳴れば温度が復活しても停止ボタンを押すまで止まりません。
自分の足で駆けつけてなぜそうなったかを追求しなければなりませんので。
アラームは、作業場、リビング、駐車場と3ヶ所に取り付け、家の中のどこにいようとわかるようにしています。
ちなみに、うちのお店のショーケースの温度も見たかったので、遠く離れたその場所まで総延長150mくらい、センサーのケーブルを引っ張りました。

これは家庭用電源で動くように作りました。
しかし、冷蔵庫がダウンするときはほとんどが停電でしょう。
停電となればこの「全冷凍冷蔵庫監視システム」も落ちるわけです。
それじゃ使えないではないかということで、ソーラー電源を屋根に上げ、常時電源をまかなう算段となっています。

ちなみに、これだけでは電気が余ってしまうので、携帯電話やパソコンなどの充電、夏場は扇風機など低電力のものを動かすことができ、省エネに貢献しています。
これはパネル3枚だけの小さな発電なので、売電などははなから考えてはおらず、それが逆にローコストで小電力をまかなう手段にはちょうどよいのです。

業務用加工機器はネットオークションで p82

いずれの機械も、わが家にあるものは「業務用」と名の付くものです。
新品やリースは高いので、中古でも頑丈なものが多い業務用機器を安く手に入れ、オーバーホールがてら大掃除をして、見つかった不具合を直して使っています。
一度直せば使用後の掃除、消毒、そして、メンテナンスを怠らなければ、そうそう壊れるものではありません。

近場のリサイクルショップでも掘り出しものがある場合もありますが、往々にして高いことが多いので、わが家ではネットオークション(103ページ)で探すことが多いです。

その場合でもショップでの出品者は避けることが多いのですが(利益を乗せているので高い、また消費税が別途必要)、たまにどういう機械なのかを含めて価値がわからずに出品していて、思わぬ安値で落札できる場合もありますので、そういうものはねらいめですね。

わが家のお肉の機械は、閉店するお肉屋さんが出品していたものです。
引き取りに行った際に「ついでやからこれも持って帰って!」と冷蔵庫や他の機械など通常のオークションで落札すればそれなりの価格になるものまでいただきました。
個人出品の方とのやり取りはこういうオマケが付くこともあるのでおもしろいです。

また、落札したものは少々遠方でもドライブがてらにトラックで引き取りに行くことが多く、これも楽しみのひとつです。
送料と思えば高い高速代も、楽しいドライブだと思えば安く感じます。

自分でやれば、とにかく安くつく p97

自分でやれば、とにかく安くつきます。
建築関係では経費の約半分かそれ以上が人件費といわれています。
それが浮くとなれば費用が約半分で抑えられるということです。
わが家ではそういった分を見込んで、使う材料で迷ったら上級のものを選ぶようにしました。
結果、低予算で気に入ったものができあがります。
そういうものは愛着が持てます。

何ごとも、最初からすべて完璧にやろうとするとお金もかかり借金もせねばならんのではと思います。

補助金に頼らない p97

そんなわはは牧場も借金はしてきましたが、補助金には積極的ではありません。

最初に牛を増やしたときに約700万円、数年後に牛舎建築に約1000万円、また数年後にサイロの建築に500万円ほど借金をしました(地下タイプのサイロですが、その後ラップサイレージにしたので今は使っていません)。
そして、すべての返済が終わってから、新たに土地を購入するのに700万円借りていて、これは今も返済中です。

今まで3000万円近くの借金をしてきましたが、これらは「農業近代化資金」などと呼ばれる政策金融公庫のものが主です。
利子補給があり、実質無利子で借りられるものですが、認定農業者になるなどの条件があります。
今では農業を始めようとする人向けに、さまざまな低利の資金が用意されているので、比較的ラクに調達できるはずです。

いっぽう、補助金は借金でなく補助していただける=もらえるお金なのですが、制約が多いのが難点です。
たとえば、機材を購入するのに、条件として新品を購入しなければならないとか、指定の店で買わねばならないとかいったことが多かったです。
補助金は種類もたくさんあり、一概にはいえませんが、購入額の半分くらい補助が出るものが多いと思います。

わが家は「格安のものを買って直して使う」というパターンが多いので、新品を購入して半額補助してもらうよりも、中古のほうがずいぶん安かったりするのです。
結局用意しなければならない自己資金分より安く買えることになり、補助してもらえないか、その必要がないとなってしまいます。

また補助金は事務的な手続きがやっかいなものも多く、農繁期と重なれば忙しくてそれどころじゃない、というケースもあります。

安く落札するならシーズンオフがねらいめ p104

安く落札するコツがあります。
これを書いてしまうとライバルが増えて安く落札できなくなってしまうのですが(競争相手が1人いるだけで値が上がる)、農機の場合、使うシーズンがはっきりしているので、シーズンオフがねらいめです。

田植え機なら夏以降に、コンバインなら冬の間に探します。
ただ、日本は狭いようで広いので、シーズンオフといっても使用時期に差が出ます。
そのあたりも考えて、出品者の地域を確認しながら探すとおもしろいです。
ただ、遠方なら送料も重要です。

わが家の場合、遠方の方なら引き取りを前提に、その近くに観光地があるかなど調べ上げることも多々あります。
観光がてら引き取りに行けます。
わが家の場合、トラクタを2台ともネットオークションで手に入れました。
1台は通常の入札で落としましたが、約5年後に手に入れたもう1台は案外近場だったので下見をしに行ったときに交渉しました。
実物を見に行くとなると足元を見られがちですが、そこは強気で交渉し、オプションを付けてもらったり、通常は配送料別途のところ無料で納車してもらったりと、お互い納得のいく価格で成立させることができました。

ただ、たまに「オークションで入手したものはアフターサポートをいっさいしない」というメーカーもあります。
以前に電子機器を入手した後、自前で直せずにメーカーに修理をお願いしたところ、そう言われて断られました。
わが家がお世話になっている農機は、メーカーでの修理も快く受けていただいていますが、農機販売店によってはそういう対応をされることがあるかもしれません。