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「武器としての交渉思考」を読んだ

投稿時刻2024年4月5日 16:49

武器としての交渉思考」を 2,024 年 04 月 05 日に読んだ。

目次

メモ

束縛があって初めて自由が得られる p22

みんなが「契約を守ろう」と約束することで社会が健全に回っていく――これが民主主義にもとづく近代国家の基本理念です。

契約は、守らなければ何らかのペナルティが科されます。
そういう意味で、契約とは必ず個人にとって「自由を束縛するもの」になります。

しかし、なぜわざわざ、お互いに自由を束縛する必要があるのでしょうか?

それは、全員が完全に自由になると、他者の自由と衝突するために、かえって不自由になってしまうからです。
みんなが自由に生きるためには、必要最低限のルールを合意に基づいて決めて、各自が守っていく。
そうすることで「自由を最大化」することができるというわけです。

ルールというのは、社会でいうところの「法」になります。

つまり、「自由主義」と「法治主義」というのは、じつは表裏一体の関係なのです。

自由になった人は、つぎに「どういう場合ならば、自分は拘束されてもいいのか」「どんな場合は、相手を拘束していいのか」という問題を他の人と話し合って、意思を一致させておく必要があるわけです。

p97

本当は自分に責任があるのに、「あいつのせいだ」「部下が使えない」「会社がダメ」「社会も悪い」と言って、自分を正当化するのも同じような現象でしょう。

ただし、いくら認知的不協和を心理的に解消したところで、本来の問題が解決するわけではありません。
むしろ、行動を修正する方向に働かないので、状況はどんどん悪化していく可能性が高い。

ロマンしかない行動が長続きしない原因がここにあります。

夢や理念といったものが、問題の本質から目を逸らさせてしまうことがよくあるのです。

p130

交渉においてとにかくいちばん大事なのは、「相手の利害に焦点を当てる」ということです。

自分の立場と相手の立場がぶつかっているときに、「私の立場もわかってください!」とお願いしても意味がないことは、ここまでに述べたとおりです。

そうではなくて、単純に相手側の利害関係を理解する。
お金が欲しいのか、それともそれ以外のメリットが欲しいのか。
それを満たすのと同時に、自分も得をする道を考えればいいのです。

交渉というのは、お互いに自分の主張を言い張って「俺はこう思う」と論争するのではなくて、ある種のパズルのように、お互いの利害の落とし所を探る作業です。

相手にいくら自分のことを言ったところで「お困りですか。それはたいへんですね」で終わってしまいます。
大事なのは、自分の立場ではなくて、相手側のメリットを実現してあげること。
そのうえで自分もメリットが得られるようにすることです。

p139

「バトナ」とは、英語の「Best Alternative to a Negotiated Agreement」の頭文字をとった言葉です。
簡単にいえば、「相手の提案に合意する以外の選択肢のなかで、いちばん良いもの」という意味になります。

p141

つまりバトナとは、目の前の交渉相手と合意する以外にいくつかの選択肢(Alternative)があったときに、
「交渉相手に、私はあなたと合意しなくても別の良い選択肢があるので、それよりも良い条件でなければ合意しない」と宣言できる他の選択肢ということになります。

バトナとして良いものがあれば、目の前の人と必ずしも合意する必要はないので、交渉上、強い立場になれるわけです。

逆に、バトナが悪い、あるいは、バトナがない場合は、たとえ条件が悪くても、その相手と合意するほうが決裂するよりはまだマシ、ということになりますので、交渉上、立場は弱くならざるをえません。

交渉においていちばん初めにやらなければならないのは、できるかぎりたくさんの選択肢を持つこと。
具体的には、目の前の交渉相手と合意する以外の選択肢を多く持つこと。

そして、そのなかのいちばん自分にとってメリットの大きな選択肢(=バトナ)を持ったうえで交渉にのぞむこと。

まずこれが、合理的な交渉の基本になります。

p145

つまり交渉とは、その交渉が決裂したとき、自分と相手側に、それぞれ他にどんな選択があるのか、その選択によって何が手に入るのかで決まるのです。

交渉が決裂してしまうより良い条件を相手に提示できれば、相手側はその提案を飲まざるをえなくなります。
その逆に、交渉が決裂しても相手側はまったく痛くないのであれば、勝負にならないわけです。

p153

交渉というコミュニケーションがディベートなどに比べてもやりやすいのは、「相手側に直接聞いて情報を集めることができる」ことです。
いろいろな提案をすることで、それがダメな理由を聞き出し、積み重ねていくことで、より正確に相手側の選択肢やバトナを捉えることができるのです。

2時間目でも述べたように、交渉について勘違いしている人は「どれだけ自分の主張を言うことができるか」の勝負だと思っていますが、そうではありません。

いかに相手の主張を聞き出し、こちらがそれに対してたくさんの提案ができるか、の勝負なのです。

交渉のポイントは「たくさん聞いて、たくさん提案すること」であると、覚えておいてください。

交渉の範囲を決める「ゾーパ」という考え方 p163

自分と相手のバトナを正しく把握できるようになると、「この条件より悪ければ合意にいたる必要がない」と判断できるようになります。
つまり「合意できる/できない」範囲が決まるわけです。

その「合意できる範囲」のことを「ゾーパ(ZOPA)」と呼びます。
ゾーパとは「Zone of Possible Agreement」の略で、日本語にすると「合意が可能となる範囲」といった意味になります。

p190

このような金額のみが争点となる交渉では、「最初に自分から途方もない条件を提示することで、相手をアンカリングする」という手法がとても有効な場合がよくあります。

アンカリングとは、さきほども少し説明したように「最初の提示条件によって、相手の認識をコントロールすること(もしくは、認識がコントロールされてしまうこと)」です。

相手側が出した条件に意識がとらわれてしまうことを指しますが、どんなに法外な条件でも「提示されるとそれを基準に考えてしまう」という人間の心理をうまく利用しています。

p200

最初の交渉で、自分にあまりにも有利な条件を提示して、あとから「あいつはひどい」「騙された」という噂が立ったら、のちのビジネスに悪影響を及ぼします。

それは、ビジネスを長期的に行ううえで、きわめて大きな不利益をもたらします。

さきほど述べた不動産ファンドは、事業が非常にうまくいっていた数年間は、日本でもっとも給料が高い会社として週刊誌などにもよく取り上げられていたのですが、利益をボりすぎたことから「あまりにもえげつない」と悪評が立ってしまい、割安な不動産が買えなくなってしまいました。

それでも、最初のうちは潤沢な資金があったので、今度は大型の不動産を高額で買いに走って、さらなる大儲けを狙っていたのですが、リーマンショックが起きたことで、所有不動産の価値が一気に下落してしまいました。
そして、最終的には会社が回らなくなり、大儲けしていた時代からわずか1、2年で倒産することになったのです。

この不動産ファンドの事例を見てもわかるように、継続的に市場で勝ち続けるためには、「あまり暴利を貪らない」ということがじつは重要です。

アンカリングしたいからといって、あまりにむちゃくちゃな条件を突きつけると、「この人たちの言うことは信用できないから、聞く意味がない」と思われてしまいます。

アンカリングも、一定の常識的な範囲だからこそ、そこに合理性が生まれて、交渉となる。
だから、高い目標でありつつ、現実的で、相手が受け入れる可能性があるものでなければなりません。

相手に「なんでこの値段なんですか?」と問われたときに、理路整然と説明ができるものにしないと、長い目で見た場合は失うもののほうが大きくなるということです。

p202

逆に、こちらが条件提示を受けたときにはどうすればいいでしょうか?

アンカリングされるのを避けるためにも、相手側が出してくる条件は、まずは「一切無視」ぐらいに考えておくほうがいいでしょう。

料金交渉ならば、相手が出してくる金額がいくらであれ、自分としてはこの金額が最低ラインである、という「下側の条件」をまずは出すことです。

「この金額より下がらなければ絶対に買いません」とカウンターの提案を出すことで、それがアンカリングとなり、相手に揺さぶりをかけることができます。

またその際、こちらから出す条件も、さきほどと同じように、高い目標に合致していて、現実的で、説明が可能なものでなければなりません。

どれだけ相手とのギャップがあったとしても、「こういう理由でこの値段になるんですよ」ということが論理的に説明できる必要があるのです。

たとえば、不動産会社が持っているビルを売るときの交渉で、相手から「高すぎるよ」と言われたら、「来年、有名ブランドショップがテナントとして入りますから、いまこの値段で買っても、すぐに高い収益が望めますよ」というような情報を伝えるわけです。

p247

ビジネスでは、いろいろな価値観の交渉相手がいます。

会ってすぐに、いきなり本題に入ることを好む人もいれば、最初に会ったときは「今日はご挨拶だけです」と世間話に終始し、何度か無駄に思えるミーティングをして、お互いに打ち解けたところでようやく本題について話すことを好むタイプもいるでしょう。

こちらとしてはすぐに本題に入りたくても、相手がそうでなかったら、まずは相手に合わせるのがいちばんです。

交渉は「話を聞く」ことが大切であると合理的な交渉のところでも述べましたが、相手の大切にしている価値観がどういったものであるかを把握するために、まずは相手に話をさせましょう。

それをじっくり聞きながら、ポイントだと思うところで質問をして、相手の価値観を探っていくのです。

相手の価値観は変えられない p248

相手の言動からその人の価値観を探っていくときのポイントとして、「人の価値観とは固有のものであり、それを他人が変えることはできないから、認めるしかない」ということを押さえておきましょう。
どれほど自分の価値観と距離がある相手であっても、「彼らの価値観にはそれなりの理由があるんだ」ということを理解して交渉の場にのぞみ、それを前提として作戦を立てるのです。

他人の価値観を変えるのは、はっきり言ってほとんど不可能です。

交渉相手が数十年かけて培ってきた価値観を、もしも一瞬のうちに変えることができる才能があるのであれば、いまやっている仕事を即辞めて、宗教家になることをお勧めします。

そうでなければ、相手の価値観の変更はできない、ということを前提に交渉にのぞんだほうがいいでしょう。

違う人間同士なのですから、価値観は違って当然です。
相手に真に共感すること、というのもめったにありません。

しかし交渉相手も、「この相手は自分の価値観に共感しようとしているな」という態度はわかります。
あなたがそういう共感的な姿勢をとることに対して、相手も「それならば話を聞こう」と思ってくれるのです。

p259

よく書店には「一瞬で相手を信頼させる50の方法」みたいな本が並んでいますが、ラポールを瞬時に築くのは、催眠術でも使わないかぎりは不可能でしょう。
そういう方法も実際にあるのかもしれませんが、催眠術師を目指すのでなければ、相手との関係構築にはそれなりの時間と労力がかかる、ということをよく覚えておいてください。

交渉にも、近道はないのです。

p283

動物的反応がネガティブに働いているとき、相手側の感情的な反応には、こちら側はつき合わないのが鉄則になります。
つられてこちらも感情的になると、ますます相手の感情がエスカレートしてしまうからです。

「今日は虫の居所が悪そうだな」と思ったら、交渉を延期したほうがいいこともあるでしょう。
ツイッターなどを見ていると、明らかに「この人はちょっと感情が高ぶってるな」とわかることがあります。

一定の間隔で躁状態と鬱状態をくり返す人は少なくありません。

気温や気圧の影響もあるようですが、そういう人の発言を時系列に注意深く観察すると、「いま、この人は躁モードだな」「鬱の時期に入った」というのがわかります。
そして、躁モードにあるときは、やたらと攻撃的な発言をくり返したりします。

ネットではそういう人を面白がって攻撃したりする人がいますが、現実の世界でこのタイプに出会ったら、「いまはこの人と交渉すべきではないな」と判断して、そっとスルーするのが賢明でしょう。

人間というのもしょせんは動物なので、その動物ならではの特性もきちんと把握しておくことはとても重要なのです。

p330

1968年、たった13歳の少年が、市販の電話帳で番号を調べて、自分が憧れる会社の社長の自宅に電話をかけました。

クラブ活動の製作実習の宿題で、その会社の部品が必要だと思ったからです。

電話に出た社長は、「あなたの会社の部品が欲しいから、無料で自分にくれないか?」と唐突に言ってきた少年のことを気に入り、部品をあげたうえで、夏休みに自社の工場でバイトをしないかと持ちかけます。

少年は大喜びでその依頼を受け、父親に送り迎えをしてもらいながら、その会社の工場で働き始めました。

そして少年は3年後、その会社のインターンシップでひとりの仲間と出会い、やがて彼とともに若くして会社を立ち上げ、リーダーシップを発揮しながら、会社を成長させていきました。

30年以上が経ち、その会社は現在、時価総額でも影響力でも「世界最大の企業」となって、世の中を変えるさまざまな商品・サービスを、私たちに提供し続けています。