「僕は君の「熱」に投資しよう」を 2,023 年 07 月 15 日に読んだ。
目次
メモ
p31
たとえば僕の妻で、フィンテックにいち早く参入し、モバイル決済サービスを展開している「hey」の起業家・佐俣奈緒子は、学生時代にせどりで稼いでいた。
僕は彼女と大学3年生の頃に出会っている。
そのとき、彼女は同じ学生なのに飲みに行くとなれば高級ホテルのバーへ行くし、しょっちゅう海外旅行に出かけていく。
「金持ちのお嬢様か何かなのかな?」と思って、なんでそんなにお金があるのかと聞いてみたら、とある販売店で大量に電子辞書を買い込み、それをヤフオクで転売しているという。
なんでもその販売店で売っている電子辞書は、内蔵している辞書の数が多いうえに、一般的な電子辞書よりも安く買えるそうだ。
さらに彼女はニューヨークなどに海外旅行に行っては、ブランド物の靴を買い込んで帰ってきていた。
現地で「型落ち」したブランド物の靴を日本で転売すると高く売れるんだそうだ。
その差益で、海外旅行の旅費のほとんどを賄えるという。
「これ、履く」と、革靴をもらったことがあるが、それは日本で6万円はする高級品だった。
普通の人なら1つ2つ買って少し儲ける程度だが、成功する起業家は売れるとわかれば一気に購入し、まとまった金に変えてしまうのだ。
これに対し、失敗しがちな起業家がよくやるのが「クオリティを担保するために、まずは小さく始めてみようと思います」というものだ。
この段階でこの起業家はほぼ100%失敗する。
ゼロの起業家が着想したアイデアなんて、よほど優れていないかぎり全部ゴミみたいなものである。
起業で成功するためには、まず「規模にアプローチ」しなければならない。頭を使うんじゃない。
手と足をつかって100倍にするんだ。
それがもっとも手っ取り早くアイデアが事業化できるかを試すことができる唯一の方法だ。
規模を変えてこそ、わかることがあるんだ。
僕のアジトにいる起業家には、信じられないほどレベルの低いアイデアを持って現れたやつらがいる。
2014年に最初に会ったとき、彼らは28歳で、「渋弁」という、渋谷にあるオフィスにお弁当を届ける事業をしていた。
起業家の芦野貴大とその相棒が本当にただのお弁当屋さんだったこと以外、何も記憶していない。
僕はお弁当屋さんという肩書で僕の目の前に現れて投資を求めるという、彼らの信じられない熱に対して、投資を行った。
彼ら2人の熱だけはホカホカだったが、渋弁は「ほっともっと」の足元にも及ばないほどの存在感を一部の利用者だけに残し、終了した。
次にやつらを見たのは渋谷のど真ん中だった。
弁当屋に見切りをつけ、やつらは「スク水(スクール水着)」のコスプレをして踊っていた。
その姿を目の当たりにしたとき、すでに最悪を通り越したアイデアに暴走中だということだけがわかった。
おそらく自分たちもどこに向かっているのかわかっていなかっただろう。
再び僕の前に現れたとき、やつらはすでにコスプレダンサーではなくなっていた。
日本でも火がつきはじめたエアビーに乗っかったビジネスをしようと、次はマンションを借りて、日本にやってくる観光客に貸し出そうと言うんだ。
そこで僕が路頭に迷いかけている彼らに「まず規模を100倍にしろ」と言ったら、29歳の彼らは本当に100倍にした。
東京中でマンションを借りまくったのだ。
わずか数人のスタートアップだ。
膨大な量のマンションをマネジメントするなんて途方もない話だろう。
たちまちオフィスに大量の洗濯機と乾燥機が持ち込まれ、24時間体制でベッドのシーツを洗濯し交換するという爆笑の光景が広がった。
しかしこの試みも失敗に終わった。
いい線を行ってはいたが、日本でいわゆる民泊問題に火がつき、法律が改正されると同時に、彼らのビジネスもまた、燃え尽きたのだ。
それにも懲りず、彼らは再び僕の前に現れた。
そのとき、彼らは31歳。
京都で町家を借り、モダンな内装に改装し、ハイクオリティなゲストハウスとして貸し出すビジネス「宿ルKYOTO」を始めていた。
京都という観光の一大スポットで、京都らしい高付加価値の宿泊サービスを提供するというビジネスだ。
このビジネスは、どうやら好調らしい。
現在も着々と規模を拡大中だ。ぜひ一度ウェブサイトをのぞいてみてほしい。
とても元弁当屋がやっているとは思えないクオリティに驚くだろう。
やつらは考え得るなかで、いや、考えるまでもないなかでも最低のアイデアで起業している。
もはやアイデアですらない。熱にまかせた衝動で、ただ暴走していただけだ。
ただ、彼らは大きな規模への挑戦をした。
その時点から、事業がみちがえて良くなっている。
いいか、規模が「バカ」を起業家にするんだ。
伸びない起業家は、スタートアップと名乗るな p93
僕が伸び悩む起業家をピボットに誘う理由は、起業家の成長のためという以外に、もうひとつある。
それは起業家を「リビングデッド化」させないためだ。
事業を成長させられず、資金が尽きて死ぬ起業家はまだ深い。次のチャンスもあるだろう。
しかし死ぬに死ねない起業家、つまり失敗すらできない状況にいる起業家は、もっとも残酷でタチが悪い。
スタートアップ界隈では、世界を変えるほどの大きな目標を持っていた起業家が、気づけばずっとスモールビジネスをしている、ということがよくある。
事業が伸び悩み、利益が出せないとなると、起業家は大企業からの受託案件などで人件費や事業費用を賄い、会社の経営を維持しなければならなくなる。
スタートアップとしてベンチャーキャピタルから投資を受けられるような起業家であれば、優秀なのでウェブサイト制作などの受託なんて朝飯前だ。
瞬く間に仕事がたくさん来て、忙しくなる。すると数字上、メイン事業は伸びていないものの、会社の経営自体はうまくいっているという奇妙な状態になる。
一見、悪くないように見えるだろ?
しかし、この状態は起業家にとっても、ベンチャーキャピタリストにとっても最悪なんだ。
なぜならその起業家はすでにスタートアップなどではなく、インターネット業界におけるスモールビジネス、「ウェブサイト制作屋さん」にすぎないからだ。
投資家としては、どこにでもいるウェブサイト制作屋さんには投資するだけ時間の無駄だ。
スタートアップの起業家の使命は、事業を圧倒的に成長させること。
スモールビジネスのように、最初から天井の決まった成長を目指すものではけっしてない。
さらに厄介なのは、起業家がその「経営を維持するだけ」の状況から抜け出せなくなることだ。
受託案件をやめた瞬間に経営が悪化するから、もはや止められないし、断れない。
いつのまにか、受託案件をこなすことだけにリソースが割かれ、世界を変えるはずだったメインの事業はお座なりになる。
こうしたスモールビジネス屋が、スタートアップを名乗って、
対外的には事業がうまくいっているかのように振る舞っているケースが、実はたくさんある。
失敗が怖いのだろうか。
人から良く思われたいのかもしれない。プライドが高く、チヤホヤされる「起業家」という名にすがっていたいのかもしれない。
成長しない事業や会社は、何度潰しても良い。
しかし、見栄やプライドにすがって、自分や他人をごまかし、成長にこだわれない起業家は、事業としては死んでいなくても、起業家としてはもう死んでいるんだ。
体はあっても、もう魂はゾンビ(リビングデッド)のように存在していない。
覚えておいてほしい。
起業家の死とは、けっして資金が尽きることじゃない。
挑戦をやめること、なんだ。
誰よりも成長した男 p95
ここで、誰よりも「成長した」男の話をしたいと思う。
僕のファンドは、キャピタルゲインにおけるギネス的記録を持っている。
現在9年目を迎えている「1号ファンド」は、合計18社に投資し、その半分が上場・買収といった「イグジット」、つまり投資案件としての成功を果たしている。
約4億円のファンドが、93億円の価値に(2020年5月現在)。
これは、自分で言うのもなんだが、なかなかスゴい数字だと思う。
そのなかで、もっとも桁外れの事業的成功を果たしたのは、ユーチューバー向けのマネジメント会社「UUUM」を起業した鎌田和樹だ。
2017年にUUUMは東証マザーズに上場を果たしたが、そのキャピタルゲインは57億4600万円だった。
ANRIの合計投資額は約2200万円だったから、資産価値としては約260倍だ。IRR (内部収益率)は、
一般的にファンド全体で20パーセントも出せば優秀と言われるなか、UUUMだけを見ると、なんと2万3855パーセント。
この記録もまた、なかなか破られることはないだろう。