「Balance in Design」を 2,025 年 03 月 03 日に読んだ。
目次
- メモ
- はじめに p5
- 認識に基づくプロポーションの好み p6
- プロポーションと自然 p8
- 五角形のパターン p9
- p10
- ヒマワリの螺旋の成長パターン p10
- 松ぼっくりの成長パターン p10
- ニジマスの黄金比の解析 p11
- ブルーエンジェルフィッシュの黄金比の解析 p11
- 古代ギリシア・ローマの彫刻における人体のプロポーション p12
- ギリシャ・ローマ時代のスケッチにおける人体のプロポーション p14
- 顔のプロポーション p18
- 建築物のプロポーション p20
- パリのノートルダム大聖堂、1163~1235年 p21
- プロポーションの比較 p21
- ル・コルビュジェの基準線 p22
- 黄金長方形の作図法 p24
- 正方形を使った黄金長方形の作図法 p24
- p25
- 黄金螺旋の作図法 p25
- 相似の正方形 p25
- 三角形を使った黄金長方形の作図法 p26
- 黄金比 p27
- 円と正方形の黄金比 p28
- 黄金比とフィボナッチ数列 p29
- 黄金三角形と黄金楕円 p30
- 五角形から黄金三角形を作図する p30
- 五角形から二次的な黄金三角形を作図する p30
- 十角形から黄金三角形を作図する p30
- 星形五角形の黄金比 p31
- 黄金三角形から黄金螺旋を描く p31
- 動的な黄金長方形 p32
- ルート2長方形の作図法 p34
- ルート2長方形の作図法、正方形を使う方法 p34
- ルート2長方形の分割 p34
- ルート2長方形の作図法、円を使う方法 p35
- ルート2長方形の中の次第に小さくなる螺旋 p35
- ルート2長方形の相似の関係 p35
- DINの紙のプロポーション p36
- 動的なルート2長方形 p37
- ルート3長方形 p38
- ルート3長方形の作図法 p38
- ルート3長方形を分割する p38
- 六角形の作図法 p39
- ルート4長方形の作図法 p40
- ルート4長方形を分割する p40
- ルート5長方形の作図法 p41
- ルート5長方形の分割 p41
- 正方形を使ったルート5長方形の作図法 p41
- テザインの視覚的解析 p43
- 「バウハウス展」ポスター、フリッツ・シュライファー、1922年 p48
- 文字のデザイン p49
- 解析 p49
- 「構成主義展」ポスター、ヤン・チヒョルト、1937年 p66
- 解析 p67
- 構成のための三角形 p67
- フォーマットのプロポーション p67
- 「具体芸術展」ポスター、マックス・ビル、1944年 p72
- ルート2長方形の構造(左) p73
- 円のプロポーション(右) p73
- 解析 p73
- p74
- 文字の描き方 p74
- 文字の大きさのプロポーション p75
- 「ペヴスナー、ファントンゲルロー、ビル展」ポスター、マックス・ビル、1949年 p75
- 「ベートーヴェン」ポスター、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、1955年 p78
- p79
- 解析 p79
- 角度の構成(左) p80
- ルート2長方形の構造(右) p80
- 弧のプロポーション p80
- 「ムジカ・ヴィーヴァ」ポスター、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、1957年 p81
- 「ムジカ・ヴィーヴァ」ポスター、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、1958年 p82
- ルート2長方形の構造と円の位置 p83
- 円のプロポーション p83
- 解析 p83
- 「デザイナー展」ポスター、ウィム・クラウェル、1968年 p86
- 「フュルステンベルク陶器展」ポスター、インゲドラッカリー、1969年 p88
- 文字の描き方 p89
- 解析 p89
- フォルクスワーゲン・ビートル、ジェイ・メイズ/フリーマン・トマス/ペーター・シュライヤー、1997年 p98
- 前面 p99
- 解析 p99
- 後面 p100
- アンテナ p100
- あとがき p101
メモ
はじめに p5
アルブレヒト・デューラー
『Of the Just Shaping of Letters (文字をかたちづくるということ)』(1535年)
「まともな判断力のある人にとって、専門知識もなく描かれた絵ほど違和感を覚えるものはない。
たとえそれが細心の注意を払い、努力して描いた絵であったとしてもである。
そのような画家がみずからの間違いに気づかないのは、ただ単に幾何学を学んでいないためである。
誰であれ幾何学を知らずに完璧な画家になることはできない。
だが非難すべき相手は絵の教師である。
教師自身が幾何学を知らないのだ」
ル・コルビュジェ
『Towards A New Architecture (建築をめざして)』(1931年)
「幾何学は人の言葉である。
……人はリズムを見つけ見ただけでそれとわかり、互いの関係において明らかなリズムである。
このリズムは人の活動のまさしく根底にある。
このリズムは有機的な必然性によって人の体内に鳴り響く。
この純粋な必然性のせいで、子どもも年寄りも未開人も知識人も“黄金比を持つ絵を描く”のだ」
マックス・ビル
『タイポグラフィック・コミュニケーションズ・トゥデイ』誌(1989年)に掲載された1949年のマックス・ビルの文章からの引用
「私が思うに、ほとんど数学的思考だけを頼りに芸術を生み出すことは可能である」
ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン
『The Graphic Artist and His Design Problems (グラフィックアーティストとデザインの問題)』(1968年)
「……形の要素とその間にある空間のプロポーションは、必ずと言ってよいほど論理的にたどることのできる特定の数列に関連している」
プロのデザイナーであり、教師でもある私は、優れたコンセプトが実現の過程で台なしになるのをたびたび目にしてきた。
それは主に、デザイナーが視覚的な何学的構図の原理を理解していないことが原因であった。
このような原理には黄金比とルート長方形、比率とプロポーション、形の相互関係、基準線といった伝統的なプロポーションシステムを理解することも含まれる。
本書は幾何学的構図の原理を目で見てわかるように説明しようとしており、プロがデザインしたポスター、製品、建物を幅広く集め、これらの原理に従って視覚的に解析している。
解析した作品は、時を経ても尚評価が高く、さまざまな点でデザインの傑作と考えられるものを選んだ。
作品は年代順に並んでおり、それぞれが特定の時代のスタイルと技術の点で関連しているだけでなく、時代を超えたデザインの傑作という点でもつながりがある。
作品の生まれた時代は異なり、小さい平面のグラフィックから建築物まで形態もさまざまであるにもかかわらず、知識に基づくプラニングと幾何学による構成という点で著しい類似性がある。
本書の目的は幾何学によって美的価値を数値で表すことにあるのではなく、むしろ、プロポーションや成長パターンといった生命に不可欠な特性ならびに数学に基礎を置く視覚的な関係を明らかにすることにある。
その目的はデザインのプロセスを洞察し、視覚的な構造を通じてデザインに見た目の調和をもたらすことにある。
アーティストやデザイナーが自分の価値や自分の作品の価値を見つけることができるとしたら、このような洞察を通じてである。
キンバリーイーラム
リングリング・スクール・オブ・アート・アンド・デザイン
2001年春
認識に基づくプロポーションの好み p6
歴史を通じて、人は人工の環境でも自然界でも、認識に基づいて黄金比を好んできたことが記録に残っている。
1:1.618という比率を持つ黄金長方形が使われた初期の証拠に、紀元前20世紀から16世紀にかけて築かれたストーンヘンジがある。
このほか、紀元前5世紀の古代ギリシャ人の文章、芸術、建築物にもその証拠が記されている。
その後、ルネサンスの芸術家や建築家も黄金比を研究し、記録に残し、優れた彫刻、絵画、建築物の作品に採り入れた。
黄金比は人が手がけた作品だけでなく、人体のプロポーションから多くの植物、動物、昆虫の成長パターンまで、自然界にも見ることができる。
19世紀末、ドイツの心理学者グスタフ・フェヒナーは黄金比に興味を持ち、黄金長方形の特殊な美的特性に対する人々の反応を調べた。
フェヒナーが興味を持ったのは、黄金比に対する原型的な美的好みの形跡が通文化的に見られたことがきっかけだった。
フェヒナーは人工の環境に限って実験を行い、本、箱、建物、紙マッチ、新聞など、多数の長方形の寸法を測った。
その結果、長方形の縦横比の平均値は、黄金比として知られる1:1.618に近いことがわかった。
また、大多数の人が黄金比に近い縦横比を持つ長方形を好むことも明らかになった。
フェヒナーの実験は徹底していたが無計画だった。
1908年にはラロがより科学的な方法でこの実験を繰り返し、その後も同様の実験が繰り返されたが、結果は驚くほど似通っていた。
プロポーションと自然 p8
「黄金比が調和を生み出す力は、全体の中の別々の部分を、それぞれの独自性を保ちながら、全体というより大きなパターンに溶け込ませるという形で、統一することができるというユニークな能力により引き起こされる」
ジョージ・ドーチ『The Power of Limits (制約のカ)』(1994年)
黄金比に対する好みは人の美意識だけでなく、動植物の成長パターンの比率に見られる注目すべき関係の一要素でもある。
貝殻の丸い螺旋には少しずつ大きくなる成長パターンが見られ、この成長パターンは科学および芸術において数多くの研究のテーマとなってきた。
貝殻の成長バターンは黄金比の対数螺旋であり、「完全な成長パターン理論」として知られるものである。
セオドア・アンドレアス・クックは著書『The Curves of Life (生命の曲線)』の中で、このような成長パターンを「生命の本質的なプロセス」と説明している。
螺旋を特徴とする成長の各段階で、新しい螺旋の比率は、黄金長方形が内包する正方形が、ひとつ前よりも大きくなる時の比率に極めて近い。
オウムガイなどの巻き貝の成長パターンは正確な黄金比にはならない。
むしろ、生物の成長パターンの比率は正確な黄金比に近づこうとはするが、正確な黄金比になることは絶対にない。
五角形と星形五角形[一筆書きできる、5つの角のある星形]にも黄金比があり、カシパンウニなど多くの生物にそれを見ることができる。
五角形の内側には星形五角形ができる。
星形五角形の長さの違う2辺の比率はいずれも、黄金比の1:1.618になる。
五角形のパターン p9
五角形および星形五角形には黄金比がある。
例えば、星形五角形の三角形の長さの違う2辺の比は1:1.618である。
この五角形と星形五角形に見られるような関係は、カシパンウニや雪の結晶にも見られる。
p10
松ぼっくりとヒマワリの螺旋の成長パターンは似ている。
種はどれも交差する2組の螺旋に沿って成長し、一粒一粒の種は両方の螺旋に属する。
松ぼっくりの種の螺旋を調べると、時計回りの螺旋が8つ、反時計回りの螺旋が13あり、両者の比率は黄金比に近いことがわかる。
ヒマワリの螺旋は、時計回りが21、反時計回りが34あり、この比率も黄金比に近い。
松ぼっくりの螺旋の8と13およびヒマワリの螺旋の21と34という数字の並びは、数学者にはおなじみである。
これはフィボナッチ数列の隣り合った数字のペアである。
この数列は前の2つの数字を足していき、0、1、1、2、3、5、8、13、21、34、55……となる。
隣り合う数字の比率は黄金比の1:1.618に少しずつ近づいていく。
魚にも黄金比と関わりがあるものは多い。
ニジマスの上に重ねた3つの黄金長方形の図を見ると、目と尾びれの関係は相補的な黄金長方形および正方形と関わりがあることがわかる。
黄金比はそれぞれのひれにも隠れている。
熱帯魚のブルーエンジェルフィッシュは黄金長方形にきれいに収まり、口とエラは相補的な黄金長方形の位置にある。
人が自然界や貝殻、花、魚などの生物に惹かれるのは、潜在意識の中で黄金比のプロポーション、形、パターンを選んでいるからかもしれない。
ヒマワリの螺旋の成長パターン p10
松ぼっくりと同様、ヒマワリの一粒一粒の種は2組の螺旋の両方に属する。
螺旋のうち21は時計回り、34は反時計回りに渦を巻いている。
21:34は1:1.619で、黄金比の1:1.618にきわめて近い。
松ぼっくりの成長パターン p10
松ぼっくりの一粒一粒の種は2組の螺旋の両方に属する。
螺旋のうち8つは時計回り、13は反時計回りに渦を巻いている。
8:13は1:1.625で、黄金比の1:1.618にきわめて近い。
ニジマスの黄金比の解析 p11
ニジマスの全身は3つの黄金長方形に囲まれる。
目は相補的な黄金長方形の高さにあり、尾びれは相補的な黄金長方形に収まっている。
ブルーエンジェルフィッシュの黄金比の解析 p11
全身が黄金長方形にそっくり収まる。
口とエラの位置は相補的な黄金長方形の位置にある。
古代ギリシア・ローマの彫刻における人体のプロポーション p12
多くの植物や動物に黄金比があるように、人にも黄金比が隠れている。
人が認識に基づいて黄金比を好むもうひとつの理由に、あらゆる生き物に見られるような数学的なプロポーションの関係が人の顔や身体に見られるということがあるのかもしれない。
人体のプロポーションや建築物を調べた初期の記録のうち現存するものの中に、古代ローマの学者であり建築家でもあった、ウィトルウィウスの名で広く知られるマルクス・ウィトルウィウス・ポリオの著作がある。
ウィトルウィウスは寺院の建築について、すべての部分が調和するように、均整の整った人体を手本に設計するべきだという意見を述べた。
彼はこのようなプロポーションについて、均整のとれた人の身長は広げた両腕の長さに等しいと説明している。
身長と広げた両腕の長さで正方形ができ、その正方形が身体全体を囲む。
一方、両手と両足の先は臍を中心とする円に接する。
このシステムでは、人体は腿のつけ根で二等分され、また臍の高さで黄金分割される。
「槍を持つ人(ドリュフォロス)像」と「ゼウス像」はいずれも紀元前5世紀の作品である。
作者は違うが、いずれの像のプロポーションも明らかに、ウィトルウィウスの規則(カノン)に従っており、それぞれに使われるプロポーションの解析はほぼ一致する。
ギリシャ・ローマ時代のスケッチにおける人体のプロポーション p14
15世紀末から16世紀初期にかけて、ルネサンス時代の画家レオナルド・ダ・ヴィンチやアルブレヒト・デューラーもウィトルウィウスの規則を採り入れた。
ダ・ヴィンチもデューラーも人体のフォルムのプロポーションシステムについて学び、研究した。
デューラーは数多くのプロポーションシステムを実験し、『Four Books on Human Proportion (人体均衡論四書)』(1528年)という本でこれを図解した。
一方ダ・ヴィンチは数学者ルカ・パチョーリの著書『Divina Proportione (神聖比例論)』(1509年)でこれを図解した。
ダ・ヴィンチとデューラーのスケッチは、明らかにウィトルウィウスのプロポーションシステムを備えており、重ねて比較すると、両者のプロポーションはほぼ一致する。
唯一違いが目立つのが、顔のプロポーションである。
顔のプロポーション p18
ウィトルウィウスの規則は人体のプロポーションだけでなく、人の顔のプロポーションも規定している。
その顔の造作の配置は、ギリシャやローマの彫刻に使われている古典的なプロポーションになる。
レオナルド・ダ・ヴィンチとアルブレヒト・デューラーはいずれもウィトルウィウスの人体のプロポーションの規則を採り入れたが、顔のプロポーションは大きく異なっている。
ダ・ヴィンチの顔のプロポーションはウィトルウィウスの規則を手本としており、彼のオリジナルの人体図には、下絵の線がかすかに残っている。
しかし、デューラーは顔にまったく異なるプロポーションを使っている。
彼が「円に内接する人」のスケッチに使った顔のプロポーションは顔の造作が下の方に集まり額が広いという特徴がある。
これはおそらく、当時美しいとされて、流行っていた顔立ちだったのかもしれない。
顔はまゆ毛の上の線で二等分され、目、鼻、口はこの線よりも下にあり、首が短い。
同様のプロポーションは『人体均衡論四書』で多くのスケッチに繰り返し使われている。
また、デューラーは「描かれた4つの頭部」という一連のスケッチで顔のプロポーションの実験も行っている。
ここでは絵を描くためのグリッドに斜線を入れて、顔のバリエーションを描いている。
画家がスケッチや絵画、彫刻に描く場合を除いて、ほかの生物と同じように、人の顔や身体のプロポーションが完璧な黄金比になることはきわめて稀である。
特に古代ギリシャにおいて芸術家が黄金比を採用したのは、人体の表現を理想化し、システム化しようという試みであった。
建築物のプロポーション p20
ウィトルウィウスは人体のプロポーションについて詳しく記録しただけでない。
彼は建築家でもあり、調和の取れた建築物のプロポーションについても書いている。
そして、寺院の建築はすべての部分が調和した、均整の取れた人体に基づいて設計するのがよいという考えを唱えた。
人体のプロポーションを表す場合、頭や足の長さをモジュール(基準寸法)として用いる。
このモジュールを建築物に採り入れたのがウィトルウィウスであり、モジュールという概念はその後の建築史において重要な意味を持つようになる。
アテネのパルテノン神殿はギリシャのプロポーションシステムの一例である。
簡単に解析すると、神殿のファサード(正面)は、分割した黄金長方形に囲まれており、相補的な長方形が軒縁、帯状装飾壁、切妻屋根の高さを決めている。
主要な長方形が内包する正方形は、切妻屋根の高さを決め、図の中で一番小さい長方形が、帯状装飾壁と軒縁の位置を決めている。
数百年後には、ゴシック様式の大聖堂に「神聖比例」、すなわち黄金比が意図的に採り入れられた。
『建築をめざして』の中でル・コルビュジェは、パリにあるノートルダム大聖堂のファサードのプロポーションにおける正方形と円の役割について述べている。
大聖堂のファサードを囲む長方形は黄金長方形である。
この黄金長方形の中の正方形部分にファサードの主要な部分が収まり、相補的な黄金長方形に2つの塔が収まる。
採光窓の少し上で交わる対角線が基準線であり、大聖堂のファサードを構成する8つの長方形を通っている。
ファサード中央の入口も、図に示すように黄金比を持つ。
採光窓の直径は正方形に内接する円の直径の4分の1である。
パリのノートルダム大聖堂、1163~1235年 p21
黄金長方形によるプロポーションと基準線の解析。
ファサードは全体が黄金比の関係にある。
ファサードの下部は黄金長方形が内包する正方形に囲まれ、塔は相補的な黄金長方形に囲まれる。
さらに、ファサードの下部は6つに分割でき、それぞれが黄金長方形に収まる。
プロポーションの比較 p21
採光窓とファサードの主要な円の比率は1:4である。
ル・コルビュジェの基準線 p22
ル・コルビュジェ『建築をめざして』
「建築に不可欠の要素。
秩序を保つための必須項目である。
基準線は勝手気ままなデザインに制約を設ける手段であり、十分な理解をもたらす。
基準線は結果に至る手段であり、レシピではない基準線とそこに与えられた表現様式を選ぶことは、建築物を創造する上で欠かせない要素である」
構造の幾何学と数学を応用することに対するコルビュジェの興味について、彼は著書『建築をめざして』に前記のように記している。
この中で彼は建築物に秩序と美をもたらすための方法としての基準線の必要性を論じ、「あなたは基準線によってイマジネーションを殺し、レシピに従って神を創造することになる」という批判に対して、次のように反論している。
「だが、過去が図像学の文書や、石版、文字を刻んだ石、羊皮紙、手書き原稿、印刷物といった証拠を残している。
……初期の最も原始的な建築家でさえ、手や足や二の腕といった基準となる測量の単位を使って、作業をシステム化して秩序をもたらしていた。
同時に建造物のプロポーションはヒューマンスケール(人体寸法)に対応していた」
コルビュジェは基準線のことを「……紛れもないインスピレーションの瞬間であり、建築にとって極めて重要な働きのひとつである」と論じている。
その後1942年に、彼は『The Modulor: A Harmonious Measure to the Human Scale Universally Applicable to Architecture and Mechanics (モデュロール:建築および機械のすべてに利用し得る調和した尺度についての小論)』を著した。
そしてこの中で、黄金比の数学と人体のプロポーションに基づく独自のプロポーションシステムについて記している。
黄金長方形の作図法 p24
黄金長方形とは「神聖比例」を持つ長方形である。
神聖比例は次の方法で線を2分割することによって得られる。
すなわち、線ABと長い線分ACの比率が、長い線分ACと短い線分CBの比率と同じになる。
この比率は約1.61803対1になる。
これは (1 + √5) / 2 という式で表すこともできる。
正方形を使った黄金長方形の作図法 p24
1.
まず正方形を描く。
2.
1辺の中点Aから相対する角Bまで斜線を引く。
この斜線を半径とする弧を描き、正方形の辺をCまで伸ばす。
小さい長方形と形で黄金長方形ができる。
3.
黄金長方形は分割することができる。
分割すると、相似の小さい黄金長方形ができる。
両者は相補的な関係にあり、分割したあとに正方形が残る。
この正方形をノーモン(グノモン)と呼ぶこともある。
4.
分割の手順は無限に続けることができ、相似の小さい長方形と正方形ができる。
p25
黄金長方形は、分割すると、相補的な黄金長方形と正方形になるというユニークな特徴がある。
その特殊な性質のために、黄金長方形は螺旋状の正方形からなる長方形として知られている。
比例しながら小さくなる正方形を使って、辺の長さを半径とする螺旋を描くことができる。
黄金螺旋の作図法 p25
黄金長方形を分割した図を使って、黄金螺旋を描くことができる。
長方形を分割してできた正方形の辺の長さを半径とする円を描く。
図中のそれぞれの正方形で弧を描いて、それらをつなぐ。
相似の正方形 p25
黄金長方形を分割してできた正方形は互いに黄金比の関係にある。
三角形を使った黄金長方形の作図法 p26
1.
2辺の比が1:2の直角三角形を描く。
Dを中心にDAを半径として、斜辺と交わる円弧を描く。
2.
Cを中心にCEを半径として、底辺と交わる弧を描く。
3.
弧が底辺と交わる点Bから斜辺まで線を引く。
4.
この方法で、長方形の2辺の長さABとBCが決まり、黄金比を得ることができる。
このように三角形を分割した時、ABとBCの比率は黄金比の1:1.618となり、黄金長方形の2辺が決まる。
黄金比 p27
三角形を分割して黄金比を得る方法によって、黄金長方形の2辺が決まる。
さらに、この方法を使って、以下に示すように、互いの比率が黄金比となる連続する円や正方形を描くことができる。
直径 AB = BC + CD
直径 BC = CD + DE
直径 CD = DE + EF
︙
黄金長方形 + 正方形 = 黄金長方形
A + B = AB
AB + C = ABC
ABC + D = ABCD
ABCD + E = ABCDE
ABCDE + F = ABCDEF
ABCDEF + G = ABCDEFG
円と正方形の黄金比 p28
三角形を使った黄金長方形の作図法を元に、互いに黄金比の関係にある連続する円や正方形を描くことができる。
黄金比とフィボナッチ数列 p29
黄金比の特殊な性質は、フィボナッチ数列という数字の並びと密接な関係がある。
この名称はピサのレオナルドと呼ばれたフィボナッチにちなんで名付けられた。
彼は800年ほど前に十進法とともにこの数列をヨーロッパに紹介した。
1、1、2、3、5、8、13、21、34……という数字の並びは、前の2つの数字を足して3番目の数字を出すという方法で計算する。
例えば、1 + 1 = 2、1 + 2 = 3、2 + 3 = 5となる。
この数列の比率のパターンは黄金比のシステムと非常によく似ている。
数列の最初の方の数字は黄金比に近づいていき、15番目以降の数字を次の数字で割ると、ほぼ0.618となり、前の数字で割ると、ほぼ1.618となる。
黄金三角形と黄金楕円 p30
黄金三角形は二等辺三角形で、2辺の長さが等しい。
「美しい三角形」とも言われ、黄金長方形に似た美しさがあり、多くの人が好む三角形である。
五角形を使って簡単に作図することができ、頂角は36度、底角は72度になる。
この三角形の底角と相対する五角形の頂角を結ぶ線を引き、その頂角と向かいの頂角を結ぶと、もうひとつ黄金三角形を作図できる。
続けて、五角形の頂角を対角線で結んでいくと、星形五角形ができる。
十角形の隣り合う頂角と中心点を結ぶことで、連続する黄金三角形を描くこともできる。
黄金楕円にも黄金長方形や黄金三角形に似た美しさがあることがわかっている。
長方形の場合と同じく、短軸と長軸の比率は1:1.618になる。
五角形から黄金三角形を作図する p30
五角形を描く。
五角形の底角と頂角を結ぶ。
すると、底角が72度頂角が36度の黄金三角形ができる。
五角形から二次的な黄金三角形を作図する p30
五角形を使った作図法をもとに、二次的な黄金三角形を描くことができる。
底角と相対する頂角を結ぶ。
十角形から黄金三角形を作図する p30
十角形を描く。
隣接する頂角と中心点を結ぶと黄金三角形ができる。
星形五角形の黄金比 p31
正五角形に対角線を引いて描いた、5つの頂点を持つ星形を星形五角形といい、中心にも五角形ができる。
次第に小さくなる五角形と星形五角形の連続は「ピタゴラスのリュート」として知られており、互いが黄金比の関係にある。
黄金三角形から黄金螺旋を描く p31
黄金三角形は底角に新たに36度の角度の線を引くことによって、連続する小さい黄金三角形に分割できる。
こうして分割した三角形の側辺の長さを半径とする弧を描いて、螺旋を作図することができる。
動的な黄金長方形 p32
すべての長方形は2種類に分類できる。
1/2、2/3、3/3、3/4などの有理数を縦横比に持つ静的な長方形と、√2、√3、√5、Φ(黄金比)などの無理数を縦横比に持つ動的な長方形である。
静的な長方形は分割しても、見た目に美しい比率の面が連続してできることはない。
分割してできる面は予測された、規則的な形で、あまりバリエーションはない。
しかし、動的な長方形を分割すると、見た目に美しい調和の取れた形と面が無数にできる。
これはその縦横比が無理数だからである。
動的な長方形を一連の調和的な形に分割する手順は簡単である。
相対する角同士を対角線で結び、各辺と平行な線や、対角線と垂直に交わる線を網目状に引けばよい。
ルート2長方形の作図法 p34
ルート2長方形には、小さい相似の長方形に無限に分割できるという性質がある。
ルート2長方形を二等分すると、小さいルート2長方形が2つでき、四等分すると、小さいルート2長方形が4つできる。
またルート2長方形の縦横比は黄金比に近いことにも注目する必要がある。
黄金比が1:1.618であるのに対して、ルート2長方形の縦横比は1:1.41である。
ルート2長方形の作図法、正方形を使う方法 p34
1.
まず正方形を描く。
2.
正方形の対角線を引く。
対角線を半径とし、正方形の底辺を延ばした線に接する弧を描く。
こうしてできた図を囲む長方形を描く。
これがルート2長方形である。
ルート2長方形の分割 p34
1.
ルート2長方形は小さいルート2長方形に分割できる。
ルート2長方形を図のように二等分すると、小さい長方形が2つできる。
二等分した長方形をもう一度二等分するとさらに小さいルート2長方形ができる。
2.
この手順を無限に繰り返して、無数の連続するルート2長方形を描くことができる。
ルート2長方形の作図法、円を使う方法 p35
1.
ルート2長方形を作図する方法はもうひとつある。
まず円を描く。
次に円に内接する正方形を描く。
2.
正方形の向かい合う2辺が円に接するまで広げる。
こうしてできた長方形はルート2長方形である。
ルート2長方形の中の次第に小さくなる螺旋 p35
ルート2長方形の中の次第に小さくなる螺旋は、相補的なルート2長方形の対角線を引き、それらをつなぐことで作図できる。
ルート2長方形の相似の関係 p35
ルート2長方形を繰り返し分割すると、より小さい相似のルート2長方形ができる。
DINの紙のプロポーション p36
ルート2長方形はより小さい相似の長方形によって無限に分割できるという特殊な性質がある。
そのため、DIN(ドイツ工業規格)はルート2長方形を紙のサイズの規格のベースとしている。
そのため、本書で取り上げたヨーロッパのポスターの多くもこれと同じ比率で作られている。
全紙を一度折ると、半分の大きさ、すなわち二折版ができる。
全紙を二度折ると、紙は4枚、すなわち印刷面は8面になる。
このシステムは効率がよいだけでなく、紙を最大限に使えて無駄がない。
豊かなポスターの伝統を持つヨーロッパの都市は、町中でポスターを貼る場所をこの比率で標準化している。
ルート2長方形は無駄を省くという機能的な性質があるだけでなく、美しい黄金比にも近い。
動的なルート2長方形 p37
黄金長方形と同じく、ルート2長方形は動的な長方形として知られる。
黄金長方形と同じように、分割すると変化に富む調和の取れた形や組み合わせができ、それらは常に元の長方形の縦横比と関係があるからである。
調和的な分割の手順は、まず対角線を引き、各辺と平行な線や対角線と垂直に交わる線を引く。
ルート2長方形を分割すると常に同じ数の相補的な長方形ができる。
ルート3長方形 p38
ルート2長方形が小さいルート2長方形に分割できるのと同じように、ルート3長方形、ルート4長方形、ルート5長方形も分割できる。
これらの長方形は横にも縦にも分割できる。
ルート3長方形は3つの縦長のルート3長方形に分割でき、縦長の長方形はさらに3つの横長のルート3長方形に分割できる。
ルート3長方形はそこから正六角形を作図できるという性質がある。
このような六角形は、雪の結晶や蜂の巣など自然界の多くの場面で見ることができる。
ルート3長方形の作図法 p38
1.
ルート2長方形を描く。
2.
ルート2長方形の対角線を描く。
対角線を半径として、長方形の底辺を延ばした線に接する弧を描く。
こうしてできた図を長方形で囲む。
これがルート3長方形である。
ルート3長方形を分割する p38
ルート3長方形は小さいルート3長方形に分割できる。
長方形を三等分して、小さい長方形を3つ作る。
それをもう一度三等分すると、小さいルート3長方形ができる。
この手順を無限に繰り返して、連続する無数のルート3長方形を描くことができる。
六角形の作図法 p39
ルート3長方形から六角形を作図できる。
長方形を中心点で回転させて、角と角を重ねていけばよい。
ルート4長方形の作図法 p40
1.
ルート3長方形を描く。
2.
ルート3長方形の対角線を引く。
対角線を半径として、長方形の底辺を延ばした線に接する弧を描く。
こうしてできた図形を長方形で囲む。
これがルート4長方形である。
ルート4長方形を分割する p40
ルート4長方形は小さいルート4長方形に分割できる。
長方形を四等分して、小さい長方形を4つ作る。
それをもう一度四等分すると、小さいルート4長方形ができる。
この手順を無限に繰り返して、連続する無数のルート4長方形を描くことができる。
ルート5長方形の作図法 p41
1.
ルート4長方形を描く。
2.
ルート4長方形の対角線を引く。
対角線を半径として長方形の底辺を延ばした線に接する弧を描く。
こうしてできた図面の周りを囲むように長方形を描く。
これがルート5長方形である。
ルート5長方形の分割 p41
ルート5長方形は小さいルート5長方形に分割できる。
長方形を五等分して、小さい長方形を5つ作る。
それをもう一度五等分すると、小さいルート5長方形ができる。
この手順を無限に繰り返して、連続する無数のルート5長方形を描くことができる。
正方形を使ったルート5長方形の作図法 p41
ルート5長方形を作図する方法はもうひとつある。
まず正方形を描く。
正方形の底辺の中点を中心に、正方形が内接する弧を描く。
次に正方形の底辺を、弧と交わるまで延ばす。
正方形の両側の小さい長方形は黄金長方形である。
小さい長方形の片方と正方形で黄金長方形がもうひとつできる。
両方の黄金長方形と正方形でルート5長方形ができる。
テザインの視覚的解析 p43
グラフィックデザイン、イラスト、建築、インダストリアルデザインの解析について考察する場合は、ル・コルビュジェの概論から始めるのがよい。
『モデュロール』の中でル・コルビュジェは若い頃にパリで受けた啓示について次のように書いている。
「ある日、パリの小さい部屋の石油ランプの下で、彼はテーブルの上に何枚かの絵はがきを並べた。
彼の目はミケランジェロの設計したローマのカピトリーノ美術館の写真に留まった。
もう1枚の絵はがきを裏返して、角のひとつ(直角の角)を直観的にカピトリーノ美術館のファサードに重ねた。
そしてふいに、よく知られている事実に改めて気づいた。
「直角が構図を支配し、直角の位置が全体の構図を決める」という事実である。
それは彼にとって啓示であり、確信であった。
同じ分析はセザンヌの絵画にも当てはまった。
だが、彼は自分の判断を疑い、芸術作品の構図はルールによって支配されるのだと自分に言い聞かせた。
そのルールとは、明白であろうとなかろうと、意識的なものかもしれないし、使い古された常識的なルールかもしれない。
それは、芸術家の創造的な本能によって、直観的な調和の現れとして暗示されるものかもしれない。
セザンヌの場合はほぼこれに違いなかった。
ミケランジェロはタイプが異なり、あらかじめ考えられた、意図的で意識的なデザインに従う傾向がある。
オーギュスト・ショワジーの『History of Architecture(建築史)』という本の中で、基準線が説明されている。
この書物が彼に確信をもたらした。
では、構図を支配する基準線というものは存在したのだろうか?
1918年に彼は本気で絵を描き始めた。
最初の2枚の絵はでたらめな構図で描いた。
1919年に描いた3枚目の絵は秩序正しい方法でキャンバスを埋めようとした。
かなりいい絵が描けた。
次に4枚目の絵を描いた。
3枚目と同じものを、全体をまとめ、取り囲み、構造を与える明確なデザインを使い、改良したフォルムで描いた。
その後、1920年に一連の絵を描いた(この時の絵は1921年にドゥルエ画廊で展示した)。
どの絵も確かに幾何学に基づいていた。
これらの絵には2つの数学的な手段が使われていた。
すなわち直角の位置と黄金比である」
コルビュジェが受けた啓示はあらゆる芸術家、デザイナー、建築家にとって価値がある。
基本である幾何学の構成の原理を理解することは、創造的な作品に構図のまとまりをもたらし、ひとつひとつの要素がその作品に属しているという見た目の印象を与える。
幾何学、システムプロポーションの一部を明らかにすることによって、多くのデザイナーや建築家の意図や論法をより深く理解することができる。
構成の幾何学の採り入れ方が直観的であろうと意図的であろうと、厳密であろうといい加減であろうと、それは実現のプロセスへの洞察をもたらし、多くの決定を合理的に説明してくれる。
「バウハウス展」ポスター、フリッツ・シュライファー、1922年 p48
フリッツ・シュライファーは1922年の「バウハウス展」ポスターで、構成主義の芸術家らを讃えた。
当時の構成主義者の理想に従い、彼は人の顔と文字を抽象化して、無表情な「マシンエイジ(機械時代)」にふさわしい単純な幾何学的形状を描いた。
幾何学的な顔はもともとバウハウスの印章の一部としてオスカー・シュレンマーがデザインしたもので、このオリジナルのデザインをさらに単純化して、縦横の細い線を省き、5つのシンプルな長方形だけを残した。
口を表す一番小さい長方形の幅はほかの長方形の幅の寸法の基準となっている。
タイポグラフィは顔の長方形と一貫したデザインで、角張った堅い形を繰り返している。
書体はテオ・ファン・ドゥースブルフが1920年にデザインした最初の書体と似ている。
文字のデザイン p49
文字の構造は5ユニット×5ユニットの正方形に基づいており、最も幅の広いMとWが正方形をいっぱいに使い、線の太さおよび線と線の間隔は1ユニットを使っている。
細い文字は5×4ユニットを占め、線の太さは1ユニット線と線の間隔は2ユニットを使っている。
BとRは少し異なり、1/2ユニット分ずらして丸い部分を表し、同時にRとA, Bと数字の8を区別している。
解析 p49
目は中心を通る縦軸と揃っている。
顔のほかの要素は、この軸に対して非対称の関係に配置されている。
文字は首を表す長方形の上下のラインと揃っている。
「構成主義展」ポスター、ヤン・チヒョルト、1937年 p66
「理由はわからないが、人は偶然のプロポーションよりも意図的で明確なプロポーションを備えた平面を心地よく美しいと感じるということを、我々は証明することができる」
ヤン・チヒョルト、『The Form of the Book (書物の形態)』(1975年)
ヤン・チヒョルトが1937年に制作したこのポスターは構成主義の展覧会のためのものである。
構成主義の運動が消えようとしていた時期にこのポスターが制作されて以来、円と線は夕日と解釈されるようになった。
構成主義という芸術運動は、工業文化の機能的な表現として抽象的な幾何学の要素を数学的に配置することによって、芸術とグラフィックデザインを機械化した。
ポスターとしてのこの作品は、チヒョルトが著書『Die Neue Typographie (ノイエ・タイポグラフィ)』(1928年)で唱えているように、幾何学的な抽象、数学的な視覚的構成、非対称のタイポグラフィという構成主義者の理想を利用している。
解析 p67
円の直径はポスターの寸法の単位となり、要素を配置するための尺度となっている。
円はポスターの焦点であり、目はいやおうなくそこに引き寄せられる。
円は展覧会のタイトルならびに出展者のリストも強調している。
展覧会の開催日程を示すテキストの隣にある小さい黒丸は、中心となる円と同じ形ではあるが、大きさは対照的で、視覚的な句読点として使われている。
出展者のリストはポスターの対角線と下の長方形部分の対角線が交わる位置で始まっている。
開催日程を示すテキストと主要な要素である円の距離は、横線と“konstruktivisten”のベースラインの距離と等しい。
またこのテキストは円の中央に配置されている。
構成のための三角形 p67
ポスターのタイポグラフィは三角形をなしており、この三角形によって文字はポスターのフォーマットに固定され、視覚的な面白さを高めている。
フォーマットのプロポーション p67
細い長方形のフォーマットは円に内接する五角形を元にしている。
五角形の上辺が長方形の幅となり、一番下の頂点が長方形の底辺と重なる。
ポスターの横線は五角形の2つの頂点を結ぶ位置にある。
「具体芸術展」ポスター、マックス・ビル、1944年 p72
「私が思うに、ほとんど数学的思考だけを頼りに芸術を生み出すことは可能である」
マックス・ビル、1949年のインタビューより『タイポグラフィック・コミュニケーションズ・トゥデイ』誌(1989年)
マックス・ビルは芸術家、建築家、タイポグラファーとして名高い。
彼はバウハウスでヴァルター・グロピウス、モホリ=ナギ(モホイ=ナジ)、ヨゼフ(ジョセフ)・アルバースらの元で学んだ。
バウハウスでは、彼は機能主義、デ・ステイル・スタイル、形式的な数学的構成といった理想の影響を受けた。
1920年代のデ・ステイル・スタイルの特徴に、縦横の線によるきわめて形式的な空間の分割という要素があった。
この作品が1944年に制作される頃にはこのスタイルは穏やかになっていた。
空間は分割されてはいるが、円と弧を使っており、デ・ステイル・スタイルの一部の書体に見られるまっすぐな横線は進化して、円や斜線を含んでいる。
ルート2長方形の構造(左) p73
ルート2長方形の構造は円の配置と直接関係がある。
対角線は一番大きい円と一番小さい円の中心を通り、一番小さい円はルート2長方形に含まれる正方形の辺に接している。
円のプロポーション(右) p73
円の比率は1:3:6である。
解析 p73
一番小さい円の直径はポスターの幅の1/3に等しく、二番目に大きい円の直径の1/3でもある。
また、一番大きい円の直径の1/6である。
最小のテキストは最小の円の中心を通る縦線に左端を揃えている。
またこれ以外のテキストは最小の円と他の円との点を通る縦線、および円の線に左端を揃えている。
p74
ビルの幾何学的抽象の使い方は、タイポグラフィの要素も組み込むまでに発展した。
書体は手で描かれ、ポスターと同じルート2長方形のフォーマットが使われている。
個々の字体はルート2長方形の構造と直接幾何学的な関係にあり、モジュール方式で作成されている。
この書体はほかのポスターにも使われており、1949年にビルがデザインした展示品にも使われている。
文字の描き方 p74
長方形に含まれる正方形はベースラインおよびミーンライン(小文字のxの高さ)と等しい。
アセンダー(xの高さより上に出る部分)とディセンダー(ベースラインより下に延びる部分)はルート2長方形の長辺で決まる。
幾何学的な構造に基づいて線が引かれ、角度は45度と決まっている。
“s”の角度はこの制限から外れ、30度と60度である。
また“a”と“y”の主要な線は63度の角度をなす。
“m”はルート2長方形を2つ使っており、“n”を2回繰り返した形と等しい。
数字も同じ方法で作成しており、完璧な円を使い、ポスターの大きい円の形を繰り返している。
文字の大きさのプロポーション p75
文字は線の太さが一定で、大きさの比率は円と同じ1:3:6である。
「ペヴスナー、ファントンゲルロー、ビル展」ポスター、マックス・ビル、1949年 p75
このポスターは「具体芸術展」の4年後にデザインされたもので、同じ書体を使っている。
ビルはのちにこの書体を少し洗練させて、ある展覧会で使用した。
この書体は現在、ロンドンのザ・ファンドリーから入手できる。
「ベートーヴェン」ポスター、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、1955年 p78
「形の要素とその間にある空間のプロポーションは、必ずと言ってよいほど論理的にたどることのできる特定の数列に関連している」
ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、『The Graphic Artist and His Design Problems (グラフィックアーティストとデザインの問題)』(1968年)
ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンはスイス・スタイルすなわちインターナショナル・スタイルの創始者の一人として知られている。
彼が1940年代から50年代にかけて制作したトーンハレ・コンサートのポスターは、グリッドシステムという視覚的な構成の基準を設けた点で重要であった。
p79
コンセプト的な作品として見た場合、同心円の弧の幾何学的なリズムは音楽に現れる数学的なシステムと構造に直接関連していることがわかる。
また、組み立てられたデザインの作品として見た場合、すべての要素の大きさ、配置、位置に理由があることがわかる。
同心円の弧のプロポーションのドラマチックな変化はベートーヴェンのドラマチックな音楽を思い出させる。
彼の作品はすべて同じように幾何学的に解析できる。
理論に基づいて組み立てた数学的なプランが、彼の作品には常に採り入れられている。
解析 p79
円の中心はテキストブロックの左上の角にある。
すべての角度はこの円の中心から広がっており、角度は45度のモジュールに基づいている。
最も小さい角度はこのモジュールの1/4、すなわ11.25度である。
次に大きい角度は22.5度、その次が45度である。
中心点の周りを周りながら、弧の太さは1ユニットから32ユニットまで順に倍増していく。
インデントしたテキストブロックの左端と重なる縦線が縦軸となり、テキストブロックの上端と重なる横線が横軸となっている。
角度の構成(左) p80
あらかじめ計画された角度のプロポーションと配置は、最初の円に内接する正方形を描くと簡単にわかる。
ルート2長方形の構造(右) p80
ポスターのフォーマットは図を重ねるとわかる通り、ルート2長方形に基づいている。
円の中心は長方形に含まれる正方形の底辺上にある。
弧のプロポーション p80
弧の太さは1ユニットから32ユニットまで変化する。
それぞれの弧の太さは前の弧の太さを倍にした、1、2、4、8、16、32という数列に従っている。
最も太い32ユニットの弧はポスターの右上角の線でかすかに示されている。
「ムジカ・ヴィーヴァ」ポスター、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、1957年 p81
このポスターは、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンによる、膨大なトーンハレ・シリーズの一作品である。
1950年代、彼はイラストや装飾のない、組み立てられた幾何学的要素に基づく、構成的なグラフィックデザインの理論を試していた。
このシリーズのポスターは三角、正方形、円弧などの幾何学的な形を視覚的なテーマとして使っている。
構図はあらかじめ計画されたリズムや要素の繰り返しによって、慎重に調整されている。
「ムジカ・ヴィーヴァ」ポスター、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、1958年 p82
ミューラー=ブロックマンのこのポスターはトーンハレ・シリーズの作品であり、彼のほかの作品と同様、幾何学的な計画に基づいている。
繰り返される非具象的な要素に円を使い、空間とプロポーションに遊びがある。
それぞれの円は次に小さい円の2.5倍の大きさである。
このことは、次に小さい円が四分円(円の4分の1)を占めていることを示す図を見ればわかる。
イメージの部分はルート2長方形によって定義される。
ルート2長方形はポスターの上辺の角から下に向かって弧を描くことで作図できる。
正方形の底辺は二番目に小さい円の中心を通る横線と重なる。
円の中心を通る縦線はテキストのコラムと整列しており、最も大きい円の中心を通る縦線は、ポスターの端と重なる。
ルート2長方形の構造と円の位置 p83
ポスターのフォーマットは黒い線の図が示すようにルート2長方形に基づいている。
正方形の底辺は三番目に大きい円の中心を通り、二番目に大きい円のベースラインとなっている。
黒い点線は大きい2つの円を分けている。
円のプロポーション p83
それぞれの円の比率は2:5である。
解析 p83
円の配置は正方形の対角線によって決まり、円の中心は互いに90度の関係に並ぶように配置されている。
“musica viva"の文字の大きさと、最も小さい円との比率は1:1.41、すなわちルート2長方形の比率である。
コラムの幅は円の端と中心を通る線で決まっている。
「デザイナー展」ポスター、ウィム・クラウェル、1968年 p86
このポスターはパソコンが登場するはるか以前の1968年に制作されたものである。
当時コンピュータでの計算に深く関わっていたのは銀行くらいで、このポスターの書体は、小切手帳に使われた、機械が読み取れる数字の書体に似た美しさを備えている。
ポスターのタイポグラフィはコンピュータが判読できるこのような文字を思い出させるとともに、来るべきデジタル時代を強く予感させる。
ウィム・クラウェルはタイポグラフィ・コミュニケーションの分野で、スクリーンとコンピュータの役割がますます広がると当時すでに予想していた。
ポスターのフォーマットはルート2長方形で、中に正方形のグリッドパターンが描かれており、単純に半分に分割されている。
正方形の上辺と右辺から5分の1ずつずらして引いた線で個々の正方形は分割され、グリッドパターンはさらに複雑になっている。
テキストは手で描いており、グリッドパターンの正方形を使っている。
少しずらしたグリッドラインが角の丸みの半径を決め、同じ半径が文字の線と線をつなぐ部分にも使われている。
「フュルステンベルク陶器展」ポスター、インゲドラッカリー、1969年 p88
インゲ・ドラッカリーはフュルステンベルク陶器の美しさと繊細さをこのポスターで優美に伝えている。
書体は線が細く、太さが一定の幾何学的な構造で、丸みのある文字、特にuとrは時代を超えたエレガンスさと調和を備えた非対称の構図となっている。
20世紀ヨーロッパのポスターの大半と同じく、このポスターも標準的なルート2長方形のフォーマットを使っており、各要素はルート2長方形の構造と関連がある。
縦横の中心線は、見る人の目が数字の“1”の縦の線を追い、大文字の“A”の頂点に近づく位置で交差する。
文字の描き方 p89
文字のセット幅は三等分された正方形に基づいている。
最も細い文字は3分の1を占め、少し幅の広い文字は3分の2、それより広い文字は正方形の幅全体を占め、最も幅の広い文字は3分の4を占める。
解析 p89
“221 JAHRE PORZELLAN MANUFAKTUR FÜRSTENBERG”のために作成した字体は高さがポスターの長さの約1/16である。
上の方にある3行の小さいテキストは、新たに作成した文字の高さの3分の2を占める。
陶器メーカーのマークであるイタリックのFと王冠は文字の作成に使った正方形の2倍の大きさである。
フォルクスワーゲン・ビートル、ジェイ・メイズ/フリーマン・トマス/ペーター・シュライヤー、1997年 p98
新しいフォルクスワーゲン・ビートルは、車というよりは道路を走る、動く彫刻である。
ほかの車とはまったく異なり、フォルムの結合力という視覚的なアイデアを見事に捉えている。
車体はレトロでもあり、未来的でもあり、幾何学となつかしさが融合している。
車体は黄金楕円の上部にきれいに収まる。
サイドウィンドウは黄金楕円の形を繰り返しており、ドアは黄金長方形の正方形部分に収まり、リアウィンドウは相補的な表面の変化の細部はすべて、黄金長方形に収まる。
黄金楕円または円と接している。
アンテナでさえ、フロントフェンダーを囲む円に接する線上に配置されている。
前面 p99
車の正面はほぼ正方形で、すべての面が左右対称である。
ボンネットのフォルクスワーゲンのロゴは正方形の中心にある。
解析 p99
黄金楕円は黄金長方形に内接している。
車体はこの黄金楕円の上半分にきれいに収まる。
楕円の長軸はタイヤの中心のやや下で、車体のラインと整列する。
(下)2つめの黄金楕円がサイドウインドウを取り囲んでいる。
この楕円もフロントフェンダーの内側に接し、またリアホイールに接している。
楕円の長軸はフロントとリアのフェンダーの内側に接している。
後面 p100
前面と同様、後面も正方形に収まる。
ロゴはやはり正方形の中心近くにあり、すべての要素と表面の変化は左右対称である。
車体の幾何学はほかの細部でも実行されている。
ヘッドライトとテールランプは楕円だが、曲面に配置されているために円に見える。
ドアのハンドル部分も型押しした円を使い、丸いドアロックの付いた丸みを帯びた長方形で分割している。
アンテナ p100
アンテナの斜線はフロントフェンダーを囲む円と接しており、アンテナベースの位置はリアフェンダーと整列している。
あとがき p101
ル・コルビュジェ『モデュロール』
「……基準線は原則的に、あらかじめ考えられたプランではない。
それらはすでに明確に表現され、すでに紛れもなく確かに存在している構図そのものの要求によって、特定の形の中で選ばれたものである。
基準線は幾何学的な釣合いのレベルで秩序と明確さを確立し、それによって洗練されたデザインを実現する(あるいは実現したとただ主張する)にすぎない。
基準線は詩的な、あるいは叙情的なアイデアをもたらしたりしない。
それらは作品のテーマを示唆することはない。
またそれらは創造的でもない。
基準線は単にバランスをもたらすにすぎない。
純然たる立体感の問題である」
コルビュジェは正しかった。
幾何学の構成はその中においても、それ自体も、ダイナミックなコンセプトやインスピレーションをもたらしはしない。
それが創造的なアイデアに与えるのは、構図のプロセスであり、フォルムが相互関係を結ぶ手段であり、視覚的なバランスを達成する方法である。
それはばらばらの要素を結合力のある全体にまとめるシステムである。
コルビュジェは幾何学の構成における直観について書いているが、私が調べたところ、デザインと建築において熟慮の末に適用されているのは、直観よりも蓄積された知識である場合がはるかに多いことがわかった。
本書で作品を解析した芸術家、デザイナー、建築家の多くは、作品に対する幾何学の関係について明言している。
ル・コルビュジェ、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、マックス・ビルなど教育に携わった人々は、幾何学の構成と計画がデザインのプロセスにとって不可欠であり、基本であると考えていた。
構成における秩序と効率の必要性、美的に満足のゆく構造を作りたいという欲求により、建築は幾何学の構成ときわめて強い教育上のつながりを持っている。
美術とデザインの世界では事情が異なる。
美術とデザインを教える学校の多くで、幾何学の構成についての学習は、美術史の授業でパルテノン神殿の黄金比について論じるだけで終わってしまう。
それは教育の一部における情報の隔たりによるものである。
生物学と幾何学と美術は別々の教科として教えられる。
ほかの教科と重なる内容はたびたびおろそかにされ、学生は自分でつながりを見つけなくてはならない。
さらに美術とデザインは直観を使う活動であり、個人のインスピレーションの表現であると一般にみなされている。
残念なことに、スタジオに生物学や幾何学を持ち込んだり、美術とデザインを科学や数学の授業で教える教師は少ない。
本書はデザイン、幾何学、生物学に共通する内容を、グラフィックデザインを学ぶ私の生徒に教えようと努力した結果生まれた本である。
キンバリー・イーラム