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『あなたの会社が90日で儲かる!』を読んだ

あなたの会社が90日で儲かる!』を2025年10月10日に読んだ。

目次

メモ

「真面目」と「儲かる」の相関関係はない p23

まぁ、裏を知ってしまうと、「えっ」と疑問を感じる商売は、世の中に溢れている。

あなたの業界でも、思い当たるふしがないだろうか?

大抵の営業マンは、こんなことをいっているのである。

「あの会社の商品は最低なのに、なんであんなに売れるんだろう?買ったお客は、知らぬが仏だよな」

このように悪徳業者が儲かっているのが、現実である。

その一方、真面目に取り組んでいるにもかかわらず、残念ながら苦労している会社が多い。
自転車操業で、フーフーいいながら仕事している。
「真面目にやっていれば、もうじき楽になるだろう」と思いながら。

真実をいおう。

「真面目に働く」というのと、「儲かる」ことは、相関関係はない。
残念なことではあるが、真面目にやっても潰れることがある。
社長が真剣に、社会に貢献しようと頑張っていても、社員が夜中まで血のにじむような努力をしても、容赦ない。
最高にいいやつでもガンになってしまうのと同じように、真面目で、誠実な会社でも潰れる。
これが現実なのである。

それじゃ、「儲かる」っていうのは、何と相関関係があるんだろうか?

これは、悪徳業者が儲かる理由を考えるとよく分かる。

悪徳業者は、品質の悪い商品を売っている。
そもそも売れない商品を抱えているのである。
エスキモーに冷蔵庫を売っているようなもんである。
だから、黙っていたら、いつになってもお客は来ない。

お客が来ないから、「どうすれば、売れるのか」について真剣に考える。
どういう広告を出せば、お客をおびき寄せることができるのか?
どういう誘い方をすれば、相手が話に乗ってくるのか?
どういう仕組みにすれば、自分は楽することができるのか?
徹底的に売り方を工夫しているのである。

ところが正直者は、なまじっか商品が良いもんだから、売り方を真剣に勉強しない。
商品が良ければ、自動的に売れると思っている。
いま売れなくても、いい商品だから、いつかは売れる。
そんな奇跡が起こると信じている。
つまり、商品に甘えているわけである。

さらに根が真面目だから、楽しようと思わない。
つい自分の時間を仕事に投入する。
気づいたときには、雑用ばかりやっている。
雑用は収益を生まない。
だから、儲からないのに忙しくてしょうがない。

「忙しい、でも儲からない」から、「暇だけど、儲かる」へ p25

このような悪循環に、あなたはハマっていないだろうか?

ハマっていたとしても、あなたの責任ではない。

なぜなら、あなたの人生を振り返ってみてほしい。
そもそも、売り方を体系的に教えられることが、あっただろうか。
学校で一時間でも、モノを販売する授業があっただろうか?
経済学や法律は学んだかもしれない。
だが、お客の集め方を学んだことはあるんだろうか?

黙っていてもモノが売れる時代は、これでも良かった。
しかし、これからは誰もが、自分の商品やサービスを売る能力を磨かなければならない。

お客を集める努力をしなければならない。
医者、弁護士、税理士、そして公認会計士に社会保険労務士。
例外は一切ない。
いままで先生といわれ、営業する必要もなかった職業でさえ、お客が来なけりゃ、廃業だ。

しかし、安心してほしい。
「大変な時代だ」と嘆く必要はない。

なぜなら集客というのは、それほど難しくないからだ。
難しそうに見えるのは、誰もそれを体系的に教えられたことがないからである。

理論的に教えられないから、いままでは精神論がまかり通ってきた。
ところが、あなたも気づいているとおり、現実には、汗と根性では、お客は来ない。
祈っても、瞑想しても、お客は来ないのである。

私の考えでは、集客というのは科学である。

実に、予測可能なものである。

柔軟にコントロールできるメカニズムである。

p30

どんな商品にもライフサイクルがある。
つまりどの商品も、導入期成長期、そして成熟期を必ず経るわけである。

ライフサイクル上、すでに成熟している商品は、その販売促進策に対する反応率が低くなる。
例えば、以前は、二〇〇件電話をすれば、一件は引っかかってきても、いまは八〇〇件電話をして一件しか反応がなくなってしまうのである。

こうなると、儲かる仕組みを築くのが困難だ。

具体的に計算してみよう。

電話をかけるには、人件費を含めて、一件二五〇円かかるとしよう。
以前は、二〇〇件電話したら、一件のアポが取れた。
つまり五万円かけると、一件のアポが取れたわけである。
アポが取れた三軒を訪問した結果、一台販売できたと仮定しよう。
すると、一台販売するのに、一五万円の営業コストがかかったわけである。
まぁ、訪問販売の場合、一台三〇万円の掃除機であれば、粗利は一八万円ぐらいある。
すると、一五万円の営業コストがかかっても、儲けがでるわけである。

しかし成熟段階に入ったら、どうだろうか?
反応率は、八〇〇件に一件の割合に減っている。
営業コストは、四倍に跳ね上がる。
つまり四五万円の営業コスト!
天文学的な数字である。
これじゃ、悪徳業者さえ音を上げる。

このように商品のライフサイクルによって、反応率というのは、大きく変化するのである。
そして、いったん落ち込みはじめると、反応率は急速に低くなる。
その結果、とてもこの商品だけに頼って、新規の顧客を集めることはできなくなってしまう。

携帯電話も同じようなパターンをたどった。
つい最近まで、携帯電話の広告は、そこらじゅうに出ていた。
「携帯電話、無料モニター一〇〇〇名募集!」とやるだけで、わんさか応募があったわけである。
しかし、成長力が鈍ると同時に、広告に対する反応が激減する。
「広告への反応が、以前の一〇分の一になっちゃったよ」ということになる。
すると、広告宣伝をするために必要な粗利が確保できなくなる。
だから最近、携帯電話の無料モニター広告は、ぐっと減っている。

「いつかはきっと…」は泥沼への第一歩 p31

このように商品のライフサイクルに応じて、その商品を販売するコストは大きく変化する。
コストが変化するばかりではない。
営業マンの苦労も大きく変わる。
ガンガンに市場が成長している商品であれば、黙っていても売れていく。
しかし商品が旬を過ぎると、汗をびっしょりかいて、走り回らないと、なかなか売れない。

当たり前のことなのだが、日常的に商売をやっていると、こんなことまでが見えなくなる。
そして、一度売れた商品にしがみつく。
その結果、ずるずると泥沼に入り込んでいく。
「もうちょっと頑張れば売れる」
「一度使ってみてくれれば、この商品の良さをきっと分かってくれる」
そういうふうに、「いつかは」と祈っているうちに、傷を広げることになるのである。
長銀も、日債銀も「いつかはきっと」と思っているうちに、ああなっちゃったのである。

ただし「この商品は、ダメだな」と思っていても、状況が変わる場合がある。

例を二つ挙げよう。

ひとつ目は、商品の革新があった場合。
これは新たなライフサイクルが始まるので、再び成長軌道に入ることができる。
例えば、アップルのiMac。
インターネットが簡単にできるパソコンという切り口で、新たな成長曲線を作り出した。
ご存じのとおり、そっくり真似したようなe-OneというPCも登場した。
これはiMacが生み出した成長曲線にそのまま便乗している。
問題にはなったが、賢いやり方だ。

二つ目は、みのもんたが「買いなさい」といった場合である。
つまり、大衆に影響力をもったカリスマが、積極的に商品を推奨したときに起こる。
いままで、ほとんど売れなかった商品が、一日で品切れになる。

最近の例では、梅肉エキスがあるが、これもテレビで放映されたとたんに、売れ行きが数倍に跳ね上がった。
これはいままで意識しなかった商品メリットが、カリスマの発言によって認知され、新たな商品のライフサイクルが始まったわけである。
ところが、これだけの認知度を、みのもんたなしに作ろうと思ったら、それは広告宣伝への数十億円の資金の投入が必要となる。

こんなふうに奇跡が起こらないとはかぎらない。
しかし、奇跡を信じて、祈り続けている間に、潰れてしまったら元も子もない。

もちろん頭に汗をかく努力をしないで、すぐ諦めるのは問題外である。
後で詳しく話すように、商品を販売するときの切り口や、販売するターゲットを変えるというような、マーケティング上の工夫をすると、反応が一〇倍以上に飛び跳ねることがある。
この工夫を全くしないで諦めるのは論外だ。
が、その工夫を出し尽くした後にも、反応がどうしても上がらないとすれば、それはもう潮時である。

商品に対する消費者の反応は、そのライフサイクルによって、ある程度決まっている。
その数値は、空気の酸素混合率が変わらないと同様、極めて物理的な数値である。
汗や祈りでは補いきれない。

だから、ある程度の工夫をし尽くしたにもかかわらず、反応率が上昇しなければ、未練がましくしがみついているより、他の商品に移行したほうが手っ取り早い。
なぜなら、同じような努力で、何倍もの新規客が向こうから「売ってくれ」といってくる商品があるからである。

石の上にも三年。
これは石器時代の話である。
三ヶ月、懸命にやってダメな場合は、三年ダラダラやっても同じことだ。

正直者が失敗する理由 その② 「これだけ価格が安いのだから、絶対に売れるはずだ!」 p34

悪徳業者は、できるだけ高く売ろうとする。

正直者は、できるだけ安く売ろうとする。

もちろんお客にとっては、安ければ安いほどいいに決まっている。
しかし、ここで間違うのは、正直者は、「安ければ売れる」と思ってしまうことである。
「これだけ安くしたんだから、売れるだろう」と思ってチラシを配る。
それで電話がならないと、「どうして、こんなに安いのに、売れないんだ」と泣き叫ぶ。
それが現実だ。

それじゃ、高く売ればいいのか、それとも安く売ればいいのか?

私の意見では、正直者も、できるだけ高く売ることを考えたほうがいい。

なぜかといえば、正直者は、全く利益が取れないレベルまで安くしてしまう傾向が強いからである。

もちろん、本人は、「このぐらいだったら、十分利益が取れるはずだ」と綿密な利益計算の結果、価格を決定している。
しかし、その利益計算がとてつもなく甘いのである。

例を挙げよう。

正直者は、こう考える。

「この商品は、ライバル商品よりもかなり安い。
しかも品質もいい。
絶対売れるような気がする。
それじゃ、まずダイレクトメールを出してみよう。
雑誌で『通信販売ででっかく儲ける』という特集記事を見たら、ダイレクトメールの反応率は一~三%だって書いてあった。
まずは一〇〇〇通ぐらいからダイレクトメールを出してみよう。
最悪を想定して、一%のお客が買ってくれたとしよう。
すると最低でも一〇人は買ってくれる……。
え~と、一オーダー当たり、これだけの粗利があるから、一〇人だとすると…。
おぉ、十分利益が取れるじゃないか!
こりゃ、蔵が建てられるぞ!」

こうして一〇〇〇通のダイレクトメールを出してみるのである。

その一週間後。

「なんか、おかしいな、ちゃんと郵便局は届けたのかなぁ?まぁ、もうちょっと待ってみよう」

さらに、その一週間後。

「こんなはずはない!一件しか注文がないじゃないか。どうしてなんだ!」と、顔が真っ青になっているのである。

あなたも聞き覚えがないだろうか、こんな話。

かくいう私自身も、こういう失敗を山ほどしてきた。

そもそも、ダイレクトメールの反応率が一~三%というのは、誰が決めたことか分からない。
しかし多分、石器時代の数字である。
この現代では、全く知らない赤の他人にダイレクトメールを送って、一~三%の客が買ってくれたならば、それは宝くじに当たったようなもん。
半年後には、都心に家を建てることができるだろう。

それじゃ、現実の反応率がどんなもんかといえば、売る商品の価格帯によって異なるが、その一〇分の一ぐらいと思ったらいい。

石器時代の数字で儲ける業者たち p37

こういう石器時代の数字に、ダマされる正直者が多い。

どうしてこんな数字が亡霊のごとく徘徊しているかというと、その数字のマジックで儲ける会社が多いからだ。

例えば、「チラシを配るだけで、月収一〇〇万円が!」と書いた広告を見たことはないだろうか?
販売代理店の募集広告である。
大抵ベンツの前に、ガッツポーズで、ダブルのスーツを着た男の写真が載っている。
もちろん、ベンツは借り物である。

内容をよく読むと、「時間の空いたときに、カタログを配るだけで、毎日が給料日」なんて書いてある。
その際の損益シミュレーションが載っていて、それが三%の反応率を想定しているのである。

そりゃ、石器時代の数字をベースに考えたら、儲かるよ。
しかし現代では、三%という数字は、絶対にありえない。
まぁあのカタログの商品であれば、その一〇分の一、一〇〇分の一であろう。
こんなの考えてみれば分かるんだけど、「チラシを配るだけで、高収入」が本当だったら、当然、自社で直販する。
なぜなら、チラシを配る業者なんて山ほどあるからである。
自分でやっても儲からないことが分かっているから、販売代理店を募集するわけ。

この会社の利益は、当初の入会金、カタログを代理店に売ることにより得られる利益、そして月々の事務管理費。
つまり商品なんか売れなくても、販売代理店が自分の間違いに気づくまで、ガンガンに儲かる仕組みになってんの。

こういう半分詐欺的な会社じゃなくても、広告宣伝の効果を現実以上に見せる業者は、星の数ほどある。

考えてみれば、現実の数字が公然となってしまったら、ほとんどのチラシやダイレクトメール、広告っていうのは、赤字垂れ流し状態であることが、ばれてしまう。
だから、できるだけ秘密にしているのである。
ばれちゃったら、商売にならない。

正直者は、石器時代の数字をそのまま信じてしまう。
すると、大赤字になる。
これをやって、私はもう何回も失敗した。
あなたは、もう私の真似をする必要はない。
これが、私がクライアントに「価格は高めに設定してください」と頼んでいる理由の一つだ。

安売りは、バカにやらせておけ p40

価格を安く設定しないほうがいい理由が、もうひとつある。
それは、割引以外に売る工夫をしなくなるからである。
割引とは、極めて安直な方法である。
バカでもできる。
バカでもできるから、必ずあなたの価格を下回るバカが出てくる。

また「安い安い」で販売すると、安値競争に突入する。

この競争は、規模で勝負が決まる。
量販店を敵に回して競争することになる。
これは、竹やりでミグ21を落とすようなもんである。
原始人の戦法であるから、あなたはやめたほうがいい。

それでは、賢いあなたは、どうすればいいのか?

お客というのは、購入しようとする商品・サービスの価値が、支払う金額よりも高いと感じたときに購買決定する。

すると、ものを売る方法は二つあることが分かる。
①支払う金額を安くする。つまり割引をする。
②商品・サービスの価値を高める。

①の方法は、ちょっと前にいったとおり、原始人の方法。

とすれば、②の方法がいいわけだ。
そうだ、簡単なことだったのだぁ。
商品・サービスの価値を高めれば、価格を高く設定できるのだぁ〜。

「バッカじゃないの?それじゃ、原価が高くなって、利益がでないじゃないか?」と思われただろうか?

さすがに、賢明なあなたのことである。
煙に巻かれなかったようだ。

「こんなバカなコンサルタントの本を読むのはもうやめた。時間のムダだ」

まぁ、まぁ。
そう怒る前に、もうちょっとガマンして聞いてほしい。

実は、価値には二通りある。

絶対的な価値と、お客が感じる価値である。

絶対的な価値っていうのは、値札に書かれた価格。
つまり売り手が決めた価値のこと。
例えば、ネクタイだったら、一本三〇〇〇円というような個別商品の価格。

一方、お客が感じる価値は、「これはお得だぁ」とか「これを買ったら、損するわ」という、価値観のこと。
つまり買い手が感じる価値。
これは値札とは一致しない。

こう考えると、お客が感じる価値が、絶対的な価値を上回ったときに、購買が起こることが分かる。

「それじゃ、お客が感じる価値を高められるのであれば、原価は同じでも、高い価格が設定できるんでしょ。
こんないいことはないじゃない」

そのとおりなんである。

問題は、「どうすれば、お客が感じる価値を高めることができるか?」である。

お客が感じる価値を高める方法 p42

いろいろな方法があるが、二つ例を挙げよう。

海外旅行に行ったときに免税店に入る。
すると「ネクタイ三本買うと、もう一本無料!」というキャンペーンが目立つ。
それは、結局、二五%割引と同じこと。
しかし「ネクタイ二五%OFF」とは絶対書かない。

なぜか。

「一本無料!」のほうが「二五%OFF」よりレジに並ぶ率が高いという実証データがあるからだ。
これを先ほどの話に置き変えていえば、全く同じ商品でも、「一本無料!」としたほうが、お客が感じる価値が高くなるっていうこと。

さらに、テレビでの通信販売を思い出してほしい。
典型的な売り込みのパターンは、こうだ。

女「それでは、気になるお値段ですが?」

男「いまなら、この高級カメラが、なんと一万九八〇〇円」

女「うぁ〜。
凄いですね。
こんなに安くしていいんですか?」

男「特別ご奉仕のお値段です。
しかも、いまなら、この望遠レンズと、スタンドを無料でお付けいたします」

まぁ誰もが、「おまけを付けるんであれば、その分、値段を安くしろ」と思う。

しかし、テレビの高いスポットCMを買っている会社は、それほどバカじゃない。
当然のことながら、値段を安くした場合と、おまけ商品を無料でつけた場合と、売り上げを比較してきている。
すると、おまけ商品を付けたほうが、売り上げが高いわけである。
この経験則は、昔からずーっと変わっていない。
つまり、おまけは、絶対的な価値以上に、お客の感じる価値を高めるのである。

こんな例から分かってもらえたと思うが、なにも「安く売る」だけが能ではない。
安く売ることは簡単である。
「二五%OFF」を「四〇%OFF」とするのは、数字を書き換えるだけだから、頭を使わないですむ。

しかし儲からない。
そして消耗戦に突入する。

正直者が失敗するのは、お客が感じる価値を高める努力をしないで、安く売ってしまうからである。

「安ければ、売れる」と盲目的に考える。
お客が集まらないのは、分かっている。
しかし、やらないで不安になるよりいいから、やり続ける。
それは、思考のストップ。
麻薬中毒になったと同じである。

この悪循環から抜け出すためには、脳味噌に汗をかかなければならない。

サービスを付加したり、パッケージを変えてみたり、特典を付加してみたり、お買い得な理由を考えたり、期間限定にしてみたり。
こうしてお客が感じる価値を高める知恵を出さなければならない。

人間、頭を使うことには、非常におっくうだ。
頭を使うより、身体を動かしているほうが五倍ラクだからである。

しかし悪徳業者は、悪知恵を使っている。

正直者だからといって、知恵を使わないですむという特権はないのである。

正直者が失敗する理由 その③ 「お客のニーズをつかめば、売れる」 p45

真面目に勉強した人の営業スタイル……。

「このたびは、お忙しいところ、貴重なお時間をありがとうございます。
早速ですが、提案書をお持ちいたしました。
まずは、弊社のご説明をさせていただきたいと思います」

このように、「〇月〇日 〇〇会社御中」と表紙がついた提案書をめくって、説明を開始する。
昔は、こんな営業スタイルはなかった。
しかしコンピュータが浸透してからは、ちょっと勉強した人はやりたがる。
このようにプレゼンテーションを行う営業は、コンサルタントがやったりしていたので、コンサルティング営業とか、提案営業といわれている。

しかし、全く役に立たない。

私が失敗してきたから分かる。

この方法は、社内で「できるヤツ」「いかにも仕事をしている」と印象づけるには、それなりに役に立つ。
しかし、それで商売が成立するかといえば、そうは簡単にいかない。

いったい、どうして役に立たないのだろうか?

あなたが、売られる立場だったらどうか、考えてほしい。

このかっこいいプレゼンテーションに対して、どんな感情をもつだろう?
あなたの心のなかを覗き見すると、こんな感じだ。

あなた「ふーん、この提案書は、表紙はうち向けになっているけど、中身は、どの会社も同じものなんだな。(中略)
あぁ、なかなか頑張ってるねぇ。
うちのことも、よく調べてきているじゃないか。
でもやっぱり現場を知らないな。
そこが問題じゃないんだがな」

そこで、プレゼンテーションが終わり、営業マンに聞かれる。

営業「いかがでしょう?」

あなた「今日は、いいプレゼンをありがとうございました。
よく勉強していますね。
また来てください」

これで、本当に売れるのだろうか?

なんでこんなことになってしまうかといえば、簡単なこと。

営業マンがしゃべると、それだけで売り込みになるのである。
人は誰でも、売り込みは嫌いだ。
売り込まれると、欲しいものでも、欲しくなくなる。

にもかかわらず、提案営業は、営業マンがしゃべることで成り立っている。
「いまプレゼンをしてるんだから、まず私の話を終わりまで聞きなさい」というもんである。

提案営業は、冒頭から、ボタンを掛け間違える。

これからの営業を難しくする人間関係をつくってしまうのである。

私、売り込む人。
あなた、売り込まれる人。
売り込まれる人は、売り込まれないようにする感情が自然に起こる。
「こいつをできるだけ早く追い返そう」と思ってしまうのである。

販売に関する根本的な誤解 p48

それじゃ、どうして営業マンは、説明したがるのか?

これは販売に関して、根本的な誤解があるからである。

人間は論理的に判断するから、理屈が通れば、購入する。
そう営業マンは信じている。
だから論理を築き、理屈で説得しようとする。

しかし残念ながら、人間は、理屈では買わない。
感情で買う。
そして、その後に、理屈で正当化する。

例えば、車を買うためにショールームに行くとする。
このときには、すでにこの車が欲しいという感情がある。
ショールームに行くのは、欲しい理由を正当化するためである。
営業マンに質問して、「やっぱ、この車は最高だわ」と納得するわけである。
このように欲しいという感情が先にある。
その感情を正当化するための理由が、理屈なのである。

この順番を間違えると、致命的だ。

お客に欲しいという感情が起こる前に、売り込みをかける。
すると、お客の側には、とたんに不買心理が起こる。
できるだけ、あなたの話を聞かないようにする。

お客にとって、営業マンは害虫である。
だから早くその場所から立ち去ろうとする。

ところが、お客の側に欲しいという感情があった場合は、全く逆になる。
営業マンは、何でも親切に教えてくれる。
営業マンは、幸福をもたらす天使となるのである。

このように売り込むタイミングをほんのちょっと間違えただけで、全く違う人間関係を築いてしまうのである。

提案営業の場合は、このタイミングを間違えることが多い。
感情を全く無視して、理屈だけで議論を進める。
冒頭から、「うちの会社は素晴らしい」「この商品は素晴らしい」だ。
すると一気に不買心理を築いてしまうわけだ。
となると、一度築かれた壁を壊すのは、並大抵のことではない。

売り手の感情と、買い手の感情その許しがたいズレ p60

「チラシを配っても反応がない」と嘆く会社は、よくこんな勘違いをしている。

①チラシ効率の平均値を知らないために、一〇〇〇枚撒いて、全然反応がないと諦めている。この枚数じゃ、全然電話が鳴らないのも当たり前。
②他社と同じようなチラシを、他社と同じように配っている場合。これじゃ、他社と同じような結果しか得られないのは、当たり前。
③チラシの作り方が、あまりにもお客の感情とずれているので、お客は電話をかけたいとも思わない。

①、②の勘違いは、現実の平均値を知れば、自分のところだけチラシの反応が悪いと考えていたのは、単なる被害妄想であることが分かるだろう。

問題は、③である。
この勘違いを、九九%の会社がしている。
だから最小限の反応しか得られない。

チラシの勉強会をやっていたときのことである。
関東の住宅メーカーのチラシを大阪へもっていった。
そして、そのチラシの感想を、大阪の住宅メーカー数社に聞いてみた。

すると、大阪の会社が怒り出した。
「こういう詐欺的な商売をしちゃいけない」と。

その理由を聞いてみると、「この仕様の住宅を、この価格でできるはずはない」というわけだ。

実際、関東の住宅メーカーは、別に詐欺でもなんでもない。
血のにじむような企業努力で、価格を安くしていたのだ。

私が面白いと思ったのは、大阪の住宅メーカーが、他社のチラシを見た観点である。
どういう観点かというと、まず商品仕様を見る。
そして価格とのバランスを考える。
つまり商品品質と価格で、チラシの反応が決まると考えている。

これは大変、大きな勘違い。
なぜならば、お客は、そういった観点からチラシを眺めていないから。

それじゃ、どういう観点で眺めているか?

要するに、商品品質以前の問題。
お客は、チラシをパッと見たコンマ数秒で、じっくり見るか見ないかを決定する。
しかも、それを感情で判断している。

お客の頭のなかで、こんな質問をしている。

「私は、この会社に家を建ててもらいたいかどうか」

このように、「〇〇したいかどうか」という好き嫌いで、判断しているのである。
このコンマ数秒の、好き嫌いテストをパスしないと、あなたのチラシは、ゴミ箱行きの束に直行する。

もちろん反論もある。
典型的な反論は、こうである。

「チラシを好き嫌いで見ている客というのは、どちらかといえば、レベルの高い客なんですよ。
現実問題、多くの客は、安けりゃ飛びつくんですよ」

そのとおりである。
確かに、価格が安けりゃ、飛びつくケースもある。

しかし問題は、飛びつくのが確実かどうかである。

価格を安くしたらお客が飛びつくことが確実ならば、問題は簡単。
単純に価格を安くすれば、いいこと。
この本を読む必要はさらさらない。

ところが最近は、安値に飛びつかないケースが多くなっている。
飛びついたとしても、質の悪い客が多い。
質の悪い客は浮気をする。
リピート客にまで育たない。
長い付き合いができないから、収益率が低くなる。
つまり忙しいのに、儲からない。

一方、大手からの価格競争は激しくなるばかり。
その結果、さらに集客が悪くなる。

そして「こんなに安くしても、一人もお客は来ないじゃないかぁ~」と泥沼にはまる。
「いつになったら、楽になるのか」と不安の毎日を過ごす。

まぁ、こんな人生は、あなたのライバルに送ってもらえばいい。

この本を手にとった賢明なあなたには、別の人生が待っている。

安値に頼らず、チラシの効率を上げるためには、どうすればいいのか?

ちょっと前に話したとおり、お客は、チラシを好き嫌いで判断している。
好き嫌いというのは感情である。
とすれば、お客の感情を動かせるかどうかがポイントになる。

お客の感情はメカニカルに動く p63

一見、感情を動かすことは、難しそうに聞こえる。
しかしチラシを含めた広告への反応を数値で追っていくと、意外なことに、お客の感情というのは、メカニカルな動きをすることが分かる。
メカニカルとはどういう意味かといえば、あるスイッチを押せば、お客は、機械のように予想された行動を取るということである。

それじゃ、そのスイッチとはなにか。

ひとつの例として、人間関係を売るというテクニックがある。
どうやるかといえば、商品を売る前に、自分を売る。
さらには会社の姿勢やこだわりを売る。
スマートさはない。
逆に、人間くささを前面に出す。

この工夫だけで、チラシの反応が四〇倍になったケースもある。

ある治療院が、一万五〇〇〇枚のチラシを配った。
内容は、「腰痛、肩こりにお悩みの方」との見出しに、ご予約の電話番号と治療院の場所と地図が書いてある。
なんの変哲もない、商品を前面に出したチラシである。
すると集客は、一~二人。

ところが、そのチラシに、人間くささを出す工夫をする。

院長が自らの顔写真を載せる。
笑顔を見せる。
スタッフの似顔絵を入れる。
さらには、お客様の喜びの声を入れる。
再度、一万五〇〇〇枚のチラシを配ったところ、四〇人のお客が集まった。

どうして、ここまで違いがでるのか?

一言でいえば、人間くさいチラシを通して、この治療院では思いやりや安心感が得られることを、お客に伝えることができたからである。

お客は、いろいろな疑問をもつ。
「この先生は、腕はいいんだろうか?」「怖くないだろうか?」「痛くないだろうか?」

人間くさいチラシは、こうした疑問に、事前に答える。
経験ありそうな先生。
親切そうなスタッフ。
そして多くの患者さんからの喜びの声。
「ここだったら安心」という感情が、お客に湧いてくる。
そこで電話という行動にシフトする。

これは業界が変わっても同じ。

商品以前に、安心や親近感を売らなければならない。

ところが、通常のチラシは、商品を売ることばかり考える。
内容の九割は、商品メリット、価格の安さだ。

これが最大の間違いである。
なぜかといえば、商品説明のタイミングが、お客の感情とマッチしていない。

お客は、欲しいという感情が生まれたときに、初めて商品説明を求める。
その順番を逆にしてはならない。
お客は欲しくないときに商品説明をされると、売り込まれないように堅いバリアを張る。

そこで、悪徳業者が儲ける理由が分かる。
商品を売る前に、人間関係を売るからである。
悪徳業者は、商品の話はできない。
なぜなら商品を説明すると、品質が悪いのがバレる。
それでは誰も買ってくれない。
そこで商品を売る代わりに、まずは自分を信用させることに注力する。
「この人から買う商品だったら、大丈夫だ」と、まず自分を信用させるのである。

商品を売る以前に、自分を売る。

この原理原則は、営業マンだけでなく、チラシや広告でも全く同じ。
チラシだろうと、営業マンだろうと、販売を目的とするかぎり、購買に向かうまでの、お客の感情は無視できない。
お客の感情を無視して、自分よがりになると、営業マンでもチラシでも、反応率が急に低くなる。

うちの会社は有名じゃないから、チラシや広告に反応がないというのは、被害妄想である。
反応が得られないのは、お客の感情にマッチした内容になっていないから。
お客の思考にマッチしたときに、反応は飛躍的に上がるのである。

正直者は、こうすれば、ダントツになる p67

いままで悪徳業者が儲かり、正直者が失敗する理由について話してきた。

その理由を一言でいうと、悪徳業者は、商品がひどい。
その分、売り方でカバーしなければならない。
そこで販売方法の研究を徹底的に行ってきた。

それに対して、正直者は、なまじっかいい商品をもっていた。
そのため商品力に甘え、販売方法の研究を怠ってきた。
それが失敗の原因だったのである。

私は、なぜ悪徳業者に花をもたせ、正直者をこけ落とすのか?

それは、正直者が、大変もったいないことをしているからである。

正直者は、いい商品をもっている。
そこで販売方法を真剣に研究すれば、文句なしのダントツになれるはずなのである。

正直者がもつ、誠実さや信用力は、時間を経ないと築かれない。

それに対して、販売方法というのは、単なる技術論である。
技術論というのは、短期的に学べる。
その短期間に学べる技術がないばかりに、正直者は、本来、得るべき利益を得ていないのである。

残念なことに、販売の技術論は、いままでほとんど教えられてこなかった。

いや、教えられてきたのかもしれない。
礼儀正しく接客したり、セールストークのロールプレーイングを行ったり。
しかし、その教えられてきたことが、残念ながら、この成熟期では使えなくなってしまったのである。

なぜかといえば、お客が購買に向かう過程において、最も重要な概念が見事に欠落していたからである。

その概念とは、エモーションである。

お客の感情的な反応(エモーショナル・レスポンス)を起こすことが、営業活動にとって、極めて重要なのである。

そして、この方法をマスターすることによって、あなたが全く知らない世界が開けてくるのだ。

エリートが、叩き上げ経営者をダメにする p72

学歴と経営のセンスは、関連性があるだろうか?

もちろんである。

反比例する。

一代で、事業を築いた人の学歴を見るといい。
東大卒は、稀だ。
それに対して、高卒、大学中退、無名大学卒の社長が、どんどん売り上げを伸ばしている。

だから、本来、センスをもった社長は、学歴をもった人の偉そうな話なんて、聞く必要がない。
しかし、きちんとした勉強をしたことがない劣等感のためか、学歴をもった人の話に価値があるように錯覚してしまう。

その結果、自分を失い、エリートの罠にはまる。

福岡に、抜群のセンスをもった社長がいる。
外食チェーンの社長である。
とにかくブームを起こすことが、天才的にうまい。
学生のころから事業を起こし、短期間に、年商五〇億円の企業を築き上げた。

天才的な社長なんだが、業績が思うように伸びない時期があった。

その社長は、私のセミナーに参加した後、こんなことをいっていた。

「いゃ~、神田さんのいっていること、本当によく分かります。
実は、創業当初は、私も神田さんがいうようなことをやっていたんです。
だから会社中でワクワクしてたんですよ。
でも、すっかり忘れていました。
(神田さんと会って)自分のやり方でいいんだと分かりました」

そういって帰っていくわけだ。

「それじゃ、私の価値は、何なんなの?」とガクっときたりするんだが、翌週には、集客が倍になったと自信を取り戻しているのだから、まぁ、いいだろう。

ところで、なぜこれほどの天才肌の社長が、集客のコツを忘れてしまうのか?

ひとつの原因は、外野の雑音である。

何十億の社長にもなると、まわりの連中が放っておかない。
よってたかって、そのおいしい利益にあずかろうとする。
ハイエナのごとく、コンサルタントや、ベンチャーキャピタリストが群がるのだ。
「戦略が不明確だ」とか、「素人くさい経営から脱皮しないといけない」だの、「ナスダックに上場しろ」だの、こういう学歴の高い人たちが、一言いいたがるわけである。

そのアドバイスに従うと、実に教科書的な企業になる。
その企業が、当初もっていた独自の面白さをどんどん消してしまう。
その結果、お客にとっても、社員にとっても、つまらない会社になる。
すると、業績がガターンと下がる。

こうして餌食にされた経営者が何人いることだろうか?

実は私は、学歴はたくさんもっている。
学歴おたくだったのだ。
経歴を見ると、修士号を二つも持っている。

だから真実を告白しよう。

こういう人のいうことは、聞いてはいけない。
なぜなら教科書の知識は役に立たないからだ。
中学校で学んだ、二次方程式の解の公式と同じぐらい、役に立たない。

だが、ピカピカの格好をして、キャッシュフローだの、ナレッジマネジメントだの、サプライチェーンマネジメントと、訳の分からんことをいっていると、学歴のない人は、「やはりちょっとは聞かなくてはならないんじゃないか」と思ってしまう。

しかし、耳を傾けるだけムダである。
暴露することにしよう。

いかにムダであるか。
それを理解していただくために、これから元エリートが、内情を暴露することにしよう。

一流コンサルタントの実力はお粗末 p75

超一流コンサルティング会社に勤務していたコンサルタントが、数年前に起業した。
インターネット関連の事業を始めるとのこと。

調査を行い、市場データに基づきマーケティング戦略を作った。
緻密な財務計画を練り上げ、キャッシュフロー分析を行った。
そして徹底的にシミュレーション分析をして、リスク管理をした。
「数年後には、店頭上場だ」っていってね。

この事業計画に基づき、仲間を集め、事務所を設けた。
そして商品開発を行い、会社案内を作った。

しかし、一向にお客は集まらない。

そこで、「とにかくクライアントを捕まえなければ」と、電話帳を使って、片っ端から電話をかけはじめた。
しかし何百社、何千社電話をかけても、契約に至らない。
アポも取れない。
こんな状況で、半年後には、会社は解散した。

笑いごとじゃなくて、いわゆる経営コンサルタントのスキルっていうのは、こんなもん。
どんな一流会社のコンサルタントであっても、自分で事業をやるときは、素人と変わりない。
多分、一流であればあるほど、現実のビジネスを立ち上げる能力に欠ける。

なぜ分かるかといえば、私自身が、以前コンサルティング会社に勤めていたとき、全く能力がなかったからだ。

一時期、外資系のコンサルティング会社で仕事をしていたことがあった。
その際、日本でのクライアントを増やすために、有料のセミナーを開こうと企画したことがあった。
その集客のためのダイレクトメールを、私が制作することになった。

かなり時間をかけて、コンサルティング会社らしい、格調高いダイレクトメールを作り上げた。
そして対象となりそうな会社を、とにかく四季報からピックアップした。
三〇〇〇社ほどに、そのダイレクトメールを送った。

送付後、上司と「どんな結果になるか楽しみだね」なんて話していた。

当時は、私も甘かった。
ダイレクトメールの反応率は、一~三%というのを、無垢に信じていたのである。
「最低一%としても、三〇社は来るだろう」と考えていた。

でも結果は一件。

このようにコンサルタントというのは、自分じゃ、お客を捕まえる知識をほとんどもっていない。
一度捕まえた客に対して、あの手この手と、契約を引き延ばす能力は凄い。
しかし新規クライアントを見つけてこられる能力をもつコンサルタントというのは、極めて少ない。

これは中小企業診断士を見ても分かる。
あの資格を取ると仕事が取れるのかというと、全く取れない。
現実に、地方のコンサルタントの平均年収は四〇〇万円程度らしい。
つまり自分の年収を増やせないコンサルタントが、人様の経営を指導できると思っている。
これが、経営コンサルタントの実態。

ビジネススクールは役に立たない MBAの真実と嘘 p81

MBAとはなんだかご存じだろうか?

経営学修士号。
ビジネススクールを卒業すると取得できる。

アメリカでは、経営幹部になるために、不可欠の資格。
MBAを取得後は、取得前と比較して、平均年収で三〇〇万~五〇〇万円の差がでる。
有名ビジネススクールを卒業すれば、卒業後の平均年収はかるく一〇〇〇万円を超えるという。

日本でも、MBAは、人気のある資格である。
ビジネス書でも、タイトルに「MBA」という文字を入れるだけで、売れ行きが伸びるらしい。

実は私は、ビジネスウィーク誌のランキングで全米第一位、ウォートンスクールのMBAをもっている。

だから本音をいう権利があると思うけど、MBAは、やんなっちゃうほど役立たないよ。
現実のビジネスについては、全く無力。
これ、本当。

まぁ、MBAの名誉のためにいうが、少しは、役に立つ部分もないわけじゃない。

大企業の社内で理屈をこねるには、役に立つ。
だから会議では、ちょっといい気分ができる。
それから、格好いいイメージがあるから、女の子にモテるようになるかもしれない。

しかし、どうひっくり返しても、それ以上のメリットはでてこない。

事実として、私はトップランキングのMBAをもちながら、泥まみれになった。

MBAを取った後に就職したコンサルティング会社からは、リストラされた。
その後、なんとか入りこめた家電メーカーでも、リストラ不安に眠れぬ日々が続いた。
当時は子供が生まれたばかりだった。
そんなときに、また失職するのは、まっぴらだ。

そこで地に這いつくばって営業した。
冷蔵庫を売るために、おばさん連中に頭を下げた。
量販店のバイヤーには、「バカやろう」呼ばわりされた。

そうしているうちに、ビジネススクールで教えないことに、いかに重大なことがあるかが見えてきたのである。

どうしてMBAは、役に立たないのか?

それは、ビジネススクールでは、出来上がった事業を分析・管理することは教えても、新たに事業を立ち上げるスキルついては、ほとんど教えないからである。

例えば、冷蔵庫を販売するとしよう。
ビジネススクールでは、どのようなアプローチを取っているのだろうか。

まず市場を分析する。
そのために市場規模、成長率、市場浸透率等の基本的な市場データを集める。
そして次は、競合を分析する。
ライバル会社はどういう戦略を取っているか、ライバル会社の市場シェア、ライバルの強みと弱み等々を調べ上げる。

これらのデータを、きれいなチャートに落とす。
そして自社の事業戦略を作る。

極めて単純化したけど、これが、ビジネススクールで教えるアプローチ。

なるほど、実に理知的な進め方だよね。

しかし、大きな落とし穴がある。

家電メーカーに勤務していたころ、私は、日本での事業の立ち上げを担当した。
日本は家電王国だけあって、外資が参入するのは極めて難しい。
私の上司は業績があげられず、次々とクビになった。
そこで最後に、私に、責任が回ってきた。

まさにババ抜きで、ババを引いてしまったのだ。

当初はなにから始めたかというと、ビジネススクール的な発想での取り組み。
一言でいえば、市場データを収集、あらゆる角度から分析、事業戦略を構築。
そしてプレゼンテーションを何回も繰り返す。
しかし、必ず絵に書いた餅で終わる。
その理由は、外資系企業にも、建前と本音っていうのが、あるからだ。

建前は、事業戦略が重要。

しかし、企業の本音は、次の三つだ。

①儲かっていなけりゃ、人は雇わん。
②儲かっていなけりゃ、商品は開発しない。
③儲かっていなけりゃ、もちろん、金もやらん。

つまり儲かっている事業所には、人・金・商品のすべてが集まる。
儲かっていない事業所には、なにも与えられない。

なんか人生の縮図みたいだけど、「こんなこと、学校じゃ教えてくれんかったよぉ〜」と叫んだところで、状況は変わらない。

こういう現実を直視しているうちに、「ビジネススクールで学んだ内容というのは、結局、建前論なんだな」と気づいた。

企業の本音は、お金をかけないで、どうやって最大限の利益を得るか?
極端なことをいえば、「無から有を作り出すこと」が求められている。
それができない管理職は、年をとったら、どんどんリストラ。
こんな都合のいいことを考えているのが、現実のビジネス。

ビジネスとは、ここまで単純な話だった p86

それじゃ、本音の世界では、なにが効果あるのか?

この答えは、ビジネスの根本を理解すれば、簡単に分かる。

あらためて考えてほしい。

一体、ビジネスって何?

ビジネスの本質っていうのは、次のプロセスを継続的に行うことである。

①見込客を費用効果的に集める。
②その見込客を、成約して、既存客にする。
③その既存客に繰り返し買ってもらい、固定客にする重要なので、もう一度、繰り返そう。

ビジネスとは、見込客を費用効果的に集め、成約して、繰り返し買ってもらうプロセスである。
お客を中心に発想していくと、世の中のビジネスは、例外なく、この形に落ち着くのだ。
これができていれば、利益が途絶えることは決してない。
夜も安心して寝られる。

問題は、このプロセスに必要な能力を、学校で学べるかどうかだ。

まず①について。
費用効果的に、見込客を集めるには、なにが必要なんだろうか?
商品品質を良くすること?
お店のイメージを良くすること?
サービスレベルを上げること?

どれも違う。

広告宣伝のスキルが必要なのだ。
具体的には、新聞・雑誌・テレビ広告、チラシ、ダイレクトメール、テレマーケティング、立て看板等の媒体を活用して、いかに安く見込客を見つけてくるか、っていう能力になる。

確かに「見込客を集めるには、口コミや紹介が、一番効果的だ」っていう意見もある。
しかし口コミ紹介は、既存客からしか得られない。
ということは、既存客が増えないかぎり、口コミ紹介も増えない。
既存客を増やすには、見込客を増やさなければならない。

つまりすべての原点は、見込客を集める活動にあることが分かる。

見込客を集めること。
これほど重要なスキルを、ビジネススクールでは、どのくらい教えているだろうか?

ゼロである。
ゼロ。

ハーバード・ビジネス・スクールでも、スタンフォード・ビジネス・スクールでも、ほとんど教えられることはない。

それから②について。
見込客を成約するには、どういう能力を学ぶ必要があるか?

成約するには、セールストークや接客術が、大事になる。
どういうトークや接客をすれば契約できるのか、どういう順番で商品を紹介すれば、単価の高い買い物をしてくれるか等のスキルだ。
これは、売り上げに直結する重要な能力である。

それじゃ、セールストークや接客術を、ビジネススクールで、どれだけ教えているのか?
これも、ゼロだ。
一秒たりとも教えていない。

最後に③について。
既存客にリピート購買をしてもらうためには、なにが必要か?

実は、ここで初めて、商品品質、サービス、顧客満足(CS)という内容が重要になる。

「えっ、商品品質っていうのは、成約するかどうかの大きな決め手でしょう?」と思うかもしれない。
でも、前にも言ったように、商品品質っていうのは、購入後、商品を使ってみないと分からない。
つまり商品品質を体験できるのは、既存客だけになる。
その結果、商品品質や顧客満足は、顧客の流出を食い止める役割は果たすが、成約には、直接的な影響を与えない。

それじゃ、商品・サービス品質、それから顧客満足(CS)を、ビジネススクールでどのぐらい教えているのか?

これは、結構やっている。
どうやって品質・サービスを差別化するか、どうやって顧客満足度を計測・分析するか等について、統計学を駆使して、コンピュータで分析する手法を学ぶ。

結論をいうと、ビジネススクールで学ぶのは、調査・分析・戦略構築。
それが、ほぼ九九%。
見込客を集めたり、販売するような泥臭い作業は現場のものに任せるから、勉強しなくてもいい。
そういう理解なのである。

しかし現実問題として、ビジネスの入り口を無視して、調査・分析だけで食っていける会社はない。
トヨタであっても、ソニーであっても、屋台のラーメン屋であっても、継続的に、新規顧客が獲得できなければ、必ず潰れる。
この原理は、大企業であっても、零細であっても、差別はない。
ビジネスだけでなく、医者でも、学校でも、原理原則は同じだ。
それだけお客を集めるというのは、極めて本質的なことなのである。

「お客を集める」というのは、実に単純に聞こえる。
しかし、これが一番、難しい。

ビジネススクールでは、集客は結果であり、原因でないと考える。
つまり顧客ニーズに合った商品を、価格帯で、適切な戦略をとれば、客は自然に集まると。

しかし、現実では、客が集まらないならば、なんの手も打てないのだ。
客が集まって初めて、顧客の本当のニーズが分かる。
そして商品改良もできる。
また量を販売できるので、価格は下げられる。
そうして初めてビジネスは、善循環に入るのである。

だから、なにがなんでも客を集める能力を身につけなくてはならない。

そして、この能力を身につけたとき、間違いなくあなたの収入は、飛躍的にアップする。

能なしの広告代理店 あなたは、このようにカモにされている p91

この知識を身につければ、確実に収益をコントロールできる。
にもかかわらず、ほとんど活用されていない知識とは?

広告宣伝である。

あなたの商品を宣伝する。
すると電話がかかってくる。
そもそも電話は、興味があるお客からかかってくるのであるから、対応は難しくない。
商品によっては、新人営業マンでも、質問に答えるだけで成約していく。

このように広告は、事業を成長させる、極めて重要なツールである。

しかし知識をもたないでやると、ほとんど失敗する。

なぜ失敗するのか?
その理由を説明しよう。

広告宣伝には、二種類のタイプがある。
「儲かる広告」と「儲からない広告」の二つだ。
実は、あなたが新聞、雑誌で見るほとんどの広告が、儲からない広告なのである。
この儲からない広告は、一般的に、イメージ広告といわれている。

イメージ広告は、どこを見ると分かるか。
まず写真やイラストが多用され、文字は少ない。
デザイン重視のため、広告紙面に余白が多い。
会社を印象づけるために、会社のロゴが大きく印刷されている。
商品の特長と価格が記載される。
問い合わせの電話番号は、虫眼鏡が必要かと思われるほど小さい。

イメージ広告は、大企業のための広告である。
儲からないのだから、当たり前なんだけど、不況になると、まずカットされるのが、このイメージ広告。

イメージ広告は、会社の収益のためではなく、福利厚生の一環でやっているというのが、私の見解である。
なぜならば会社が格好いい広告を出していると、社員は、「あぁ、あのイメージのいい会社に勤めていらっしゃるのね」と親戚や友達からいわれ、自慢できるからである。
実に、それだけの効果しかない。

イメージ広告の最大の欠点は、効果が計測できないことだ。
広告費用と売り上げ効果の関連性が全く分からない。
これは営業マンの売り上げ成績を全く把握しないで、終身雇用するようなものである。

そりゃ、広告代理店は、効果が計測できますっていうよ。
しかし、それは広告のメッセージが、何人に到達したかという認知度の指標。
つまり、何人が広告を見て、お客さんになったかという収益の指標じゃない。
だからイメージ広告をやっているかぎり、儲かったか損したのか分からない。

一方、儲かる広告もある。
これをレスポンス広告という。
どんな広告かといえば、典型的には通信販売の広告。
他の例としては、かつらやダイエット、英会話等に、レスポンス広告がよく見られる。

レスポンス広告を、他の広告と区別するのは、簡単である。
オファーがあるかどうかで決まる。
オファーとは、「提案」という意味だけど、簡単にいえば、「無料なんとか」のこと。
例えば、「無料サンプル」、「無料お試し」、「無料ガイドブック」、「無料レポート進呈」。
このように無料で特典を与えることが多いが、「一〇〇〇円お試しキット」のように、無料でないものも、オファーとなる。

このオファーが広告に記載されていれば、何件の問い合わせ・購入があるかは、必ず計測できる。
つまり広告費をいくら使って、資料請求が何件、それから何人成約というデータが簡単に計測できるのである。
すなわち、広告費のすべてを直接売り上げに関連づける、最も効果的な広告手法である。
結果を誤魔化せないから、効果がない場合は即刻中止とされる。

なぜ「儲からない広告」があふれるのか p94

このように、広告には、二種類の広告がある。

「儲かる広告」もあるのだが、皆さん、「儲からない広告」をやってしまう。

会社が広告を出そうとする典型的な場合は、こうだ。

とにかく商品に自信がある。
価格も安い。
社長としては、とにかく目立つところに広告を出そう。
この商品を見てくれれば、買ってくれると信じている。

ところが、いったい、チラシをやればいいのか、雑誌広告を出せばいいのか、それともダレイレクトメールを出せばいいのか、分からない。
また、どんな内容で出せばいいのか、見当がつかない。

「それじゃ、うちは広告のことは分からんから、専門家の意見を聞こうじゃないの」ということになる。
そして広告代理店やプランナーを呼ぶことになる。

すると、広告代理店はいう。

「予算はいくらですか」

そこから、まず、話が噛み合わない。

「予算は、いくらかって?そりゃ売れれば、いくらでも出すわいな」というのが経営者の頭。
「まぁ、三〇万程度とかなぁ」といったとしよう。

すると、こういう商談になる。

広告代理店「三〇万円だと、こんなに小さなスペースしか取れませんよ。これじゃ、あまり効果はないですから、最低このぐらいの大きさの広告じゃないと」
社長「じゃ、いくらなの?」
広告代理店「これは七〇万円ですが、こまごまやっているよりも、大きくやったほうが、いい結果がでますよ」

思ったより随分高い。

「でもプロのいうことだから、まぁ、間違いないだろう」と社長は、やってみる。
すると、どんなことが起きるか?
全然、電話が鳴らない。

そして一週間後。

社長「こないだの広告、全然電話かかってこなかったじゃないか!」

広告代理店のいい訳は、次の三つのいずれかである。

①「社長、一回やっただけじゃ、ダメですから。最低三回はやらないと。何回もやるうちに、お客さんは、安心して買ってくれるようになるんです」
②「広告費の三分の一は、会社のイメージを上げるためと思ってください」
③「う〜ん、天気が悪かったからなぁ」

こうやってほとんどの企業は、広告費をドブに捨てるわけである。

実は、この構図は、中小・零細企業から、大企業まで全く変わらない。

中小企業は、広告代理店にいわれるまま何回かやる。
でも、ほとんど効果がない。
そのうちに、資金に余裕がなくなる。
そして、「うちの会社は、有名企業じゃないから、広告やっても効果がない」と諦める。

大企業は、そもそも広告を出して、元を取るという発想自体がない。
だから損を垂れ流していても知らんぷり。
売り上げの数%の予算を使い果たすことだけが、目的となっているから、まさに広告代理店のなすがまま。

その無知に乗じて、広告代理店は、やり放題。

「俺たちに任せておけ。仮に失敗しても、うちのような有名広告代理店に依頼して失敗したんだから、あんたの失敗にはならない」というわけ。

まぁ、これが広告業界の実態なのだ。

だから広告は、極めて強力なツールでありながら、ほとんどの会社が損をしている。

広告のプロは、商品を売るプロではない p97

広告代理店も、悪気があって、あなたに損をさせているわけではない。
彼らのビジネスの構造上、仕方がないのである。

広告代理店というのは、お客を集めて、売ることのプロじゃない。
広告代理店は、あなたの会社の広告予算を増やすことが仕事。
なぜなら、広告代理店というのは、広告費用の一五~二〇%程度の手数料を貰うことで成り立っている。
つまり、広告予算を増やしてもらわないと儲からない。

一〇万、二〇万円の仕事を貰ったって、営業マンの人件費も出ない。
だから、できるだけ値段の張る広告スペースを紹介し、一回ポッキリではなく、何回も契約してほしいわけだ。

しかし、高い広告を出したからといって、反応が多く取れるわけではない。

実は、広告スペースの価格と、反応件数には、明確な関連性がない。
広告を出す上で最も重要なのは、反応のいい場所かどうか。
価格が安くても、反応が得られる場所やスペースというのがある。
その場所を知っているかどうかが肝心。

それから、広告内容が、レスポンス広告の原理原則を押さえているかどうかだ。

レスポンス広告の原理原則とは、最大限の反応を得るための経験則。

例えば、簡潔な説明よりも、十二分に説明したほうが売れる。
短い文章よりも、長い文章のほうが売れる。
商品と関連性のない写真を使うことは、必ずしも効果的でない。
パコと見て広告と分かるレイアウトより、記事風のレイアウトのほうが、読まれる率が五倍高い。
このように、いろいろな原則原則がある。

この原理原則を押さえると、反応は、一〇倍にも二〇倍にもなる。

それじゃ、大手広告代理店が、このように反応を取る知識をもっていないのかといえば、実際は、もっている。
ただ大きくて、うるさいクライアントには、その知識を出すというだけ。

このように広告代理店というのは、吸血鬼のように、あなたの血を吸い取ることが仕事。
それも、生かさず殺さずっていうことがポイント。

そこを勘違いして、「俺は広告のことは分からんから、広告のことはプロに任せておけばいい」といってしまって、任せっきりにする。
だから、失敗する。

本来、社長というのは、商品のことを一番良く知っている。
しかも、実際、お客さんを目の前にして売った経験があるから、なにをいえば商品が売れるのかを、本能的に分かっている。
だから自社の広告については、広告代理店に任せないで、自分で考える。

他社の広告を徹底的に研究する。
来るチラシ、来るダイレクトメールにすべて目を通す。
そして自分がどういう広告に目が止まるのか?
どういう場合に電話がしたくなるのか?
自分がお客になったつもりで考えてみる。
すると、しだいに、どういう広告が反応が高いのか、分かってくる。
その知識を得るのに、大して時間がかかるわけではない。
しかし、その時間に対する投資は、何十倍にも、何百倍にもなって返ってくる。

奇跡は、こうして起こった p104

この一八〇日間が、私の転機になった。

極限の状況で、いままで教えられてきた営業法と、全く発想を変えた営業をやらざるを得なかったのだ。

いままでのやり方は、まず電話で訪問の約束を取る。
ご挨拶にいく。
商品を提案する。
ところが、そうやって取りつけた商談のほとんどは、一歩も前に進まない。

一八〇日と時間が限られているので、そういう悠長な営業ができなくなった。
興味のないバイヤーを説得するのは時間がかかりすぎる。
時間を稼ぐためには、興味のあるバイヤーに、手を挙げてもらわなくてはならない。

手を挙げてもらうために、私はなにをやったか?

売り込みの代わりに、アンケートを思いついた。

当時の為替は、円が一〇〇円を切ったころだ。
ちょうど週刊誌で、「外国家電メーカーが日本の家電市場を直撃」という記事が話題になっていた。
そこで緊急調査と称して、「外国製の家電製品が、日本で根付くかどうか」という内容のアンケートを作った。
時事的な話題であれば、アンケート回収率が高くなるだろうとの目論見である。

五〇〇通程度のダイレクトメールを出した。
そして返答を待った。

ファックスで次々と返答があった。
取引に前向きな答えも多かった。
しかし、どうも考えても取引規模が小さすぎる。
とても本社の撤退の意向を変えるものとは思えなかった。

アンケート送付から一週間が経った。
そろそろアンケートの返りも少なくなってきたころである。
仕事をしていると、ファックスが入ってきた。
ちらっと見ると、アンケート用紙だ。

「また零細家電店のおやじかな」と思って、取り上げた。

すると、大手量販店の専務取締役からの返答だった。
アンケート用紙には、こう書いてあった。
「弊社は全店で八〇〇億円の売り上げです。その規模に見合った商談をお願いします」

私は、狂喜した。
「これで、クビが繋がるかもしれない」。
事務社員と、文字どおり、飛び跳ねて喜んだ。

しかし、そこからがまた難関だった。
当時、日本向けの商品は、全くなかったのである。
つまり商談にいっても、売るものがない。

私は、腹をくくった。
手ぶらで商談にいったのだ。
まずは、相手がどんな商品を欲しいのか、聞いてくることにした。

「どんな商材をお探しですか?それを開発しましょう」

相手も、相当面食らったようだ。
しかしその席で、仕入れたい商材と、納入台数、価格を聞き出した。

話は、具体的になった。
すると本社も動いた。
本社にとっても、家電王国である日本市場に食い込めるのは、魅力的な話だ。
私は、本社からサポートを取り付け、韓国メーカーから電子レンジをOEM生産してもらうことが決定した。

その後、三ヵ月間。

その三ヵ月は、私の人生のなかでも、最も仕事をした期間になるだろう。

そりゃ、そうである。
人がいない。
私一人である。

電子レンジの機種選定から、商品デザイン、説明書、保証書、レイアウト、リーフレットの制作、ダンボールのデザイン、さらには、物流、発注方法の整備まで、すべて一人でやらざるを得なかった。

しかし、苦労の甲斐があり、本社の日本戦略は大きく変わった。
撤退は中止。
日本市場向けの体制の整備、および商品開発が始まったのである。

この地獄を通して、私は、ひとつの真理を発見した。

お客がいれば、ビジネスは立ち上がる。
金がなくても、商品がなくても、人がいなくても、なんとかなる。

ところが、この順番を逆にしてしまうと、全く立ち上がらない。
多くの会社が失敗するのは、この順番が逆だからだ。

まず売れそうな商品を仕入れる。
そして、その商品を買ってくれるお客を探す。

多くの会社は、ここで当てが外れる。
現実には、売れない。
在庫になる。
在庫を処分するために、営業マンの時間が取られる。
売れない商品だから、営業マンが売る気を失う。

これでは、失敗への一直線である。

あなたも、新規事業を立ち上げるのであれば、まずお客を集めてほしい。

お客を集める。
お客の欲しい商品を聞く。
そしてその商品を提供する。

そうすれば、事業リスクは極めて低い。
投資はほとんど必要ないそして事業が急速に、立ち上がることは、間違いない。

この奇跡は、偶然か、それとも必然の結果なのか? p112

問題は、広告宣伝への反応アップが、偶然の結果ではなく、法則化できるかである。

それでは、先ほどの広告は、なぜ一〇倍もの差がついたんだろうか?

理屈は、こうだ。

広告宣伝への反応というのは、高い労力が必要とされる。
まず広告を読まなければならない。
そして電話をするかどうかを決定する。
電話のところまで行って、ダイヤルする。
売り込みを覚悟しながら、要件と、自分の住所・氏名を伝える。

これだけの労力を使わないと、広告へ反応はできないのである。

それでは、この労力を正当化する場合には、どんな条件が必要なのか?

ヒントは、アメーバにある。

実は、すべての生物は、アメーバを含めて、次の場合に行動を起こす。

①快楽を求める。
②苦痛から逃れる。

行動する原因は、この二つしかない。

しかも人間もアメーバも、快楽を求めるよりは、苦痛から逃れるほうが、より強い行動要因になるのである。

もう、分かったかな?

ここで、旅行会社の広告を、もう一度見てみよう。

広告①は、割引を前面に出している。
割引は、「お得な買い物ができる」という快楽を求める側面を強調している。
ところが、広告②は、「まだムダ金を使いますか?」という苦痛から逃れる側面を強調しているのだ。

単純なことだと思うかもしれないが、この表現の違いが、人間の根源的な感情に直結しているから、一〇倍という反応の違いを生んでしまうのである。

このように、ほんの一言の違いが、反応を大きく左右する。

さらに、次ページの広告を見てほしい。

この二つの広告の文章は、ほとんど変わらない。
横書きか、縦書きかの違いである。

あなたは、どちらの広告が、反応数が多いと思うだろうか?
これも三〇秒で考えてほしい。

答えは、横書きが、三二件。
縦書きが八七件の反応を得ている。
同じ内容なのに、どうしてこんなに反応数が違うのか?

あえて理屈をつけるとすれば、消費者の広告に対する反感がある。

そもそも、読者は、なぜ新聞を読むのか?
新聞を読むのは、記事を読むためである。
広告を見るためではない。

すると、パッと見て、広告と分かるものについては、飛ばして読もうとする。
つまり広告は、広告っぽいほど、消費者に「私には関係ないわ」と無視されるわけである。

さらに広告の目的は、結局、売り込みである。

売り込みに対して、消費者は、本能的に防御心が働く。
その結果、常に消費者は、「ダマされないようにしなくっちゃ」と懐疑心をもって、広告に接している。

こうした消費者の感情を理解すると、広告は、できるだけ広告に見えないほうがいい。
そこで、先ほどの広告には、写真もロゴも入れていない。

縦書きのほうが反応がいいのは、横書きよりも、さらに記事に近い印象を与えるからである。
なぜかといえば、鐘というコラムが横にある。
このコラムを読み始めると、つい意識せずに、私の広告まで目が進む。
だから反応が高まったんではないかと考えている。

この理屈を裏付ける証拠がある。

実は、縦書きの広告の結果がいいことに気を良くした結果、もう一回、同じ広告の掲載を依頼したのである。
すると新聞社から、「記事と混同される危険性がある」という理由で、文中に、「広告」という但し書きを入れるようにいわれた。
そして、その指示に従った結果、反応は、横書きのものと同じレベルにまで下がったのだ。

このように消費者の感情を読むことによって、広告宣伝への反応は、いとも簡単に上げることができる。

ところが、この事実が広く知られていないために、現在のほとんどの広告は、本来、持つべき効果を上げていない。
本来、売り上げを上げられるはずの広告が、単なるイメージ広告に成り下がっているのである。

魔法を起こす三つのポイント p119

いったい、どうして、この九〇円の封筒が、これだけの活躍をするのか?

あなただけに、その秘密を、お教えしよう。

三つのポイントがある。

ポイントのひとつ目は、売り込み臭がほとんどしないように作ってあることである。
ダイレクトメールの場合も、売り込みをしてはいけないという原理原則を守ってほしい。
これは前に話した、訪問営業の場合と全く同じ。

初めから、売り込みと分かってしまう場合、それだけで、相手は感情的に反発する。
その反発を起こさせてしまうと、相手はバリアを築く。
そのバリアを取り崩すのは、大変難しい。
そこで封筒を受け取った瞬間から、売り込み臭を感じさせないように作り込んでいる。

ポイントの二つ目は、相手にとって得はあっても、リスクが全くない提案をしていることである。

「無料でサンプルを送ります。その後、仕入れる義務も負担もありません」というのが提案である。
もうちょっと直接的にいえば、「無料でサンプルを差し上げますから、どうぞご家族で食べちゃってもいいですよ」ということなのである。
相手にとっては、全く悪い話じゃない。

さらに「サンプルをご請求ください」とはいっていない。
「無料でサンプルをお送りいたしますので、送付する許可を与えてください」といっている。

この許可を与えるというのが、相手の自尊心に直接的にアピールしている。
ここで相手の感情が、カチっと刺激される。
ふと気づいたときには、サンプル請求をしている。

このように相手の感情を尊重した上で、ダイレクトメールを設計すると、反応が飛び跳ねる。

ポイントの三つ目は、次の行動を起こしてもらうために、必要な情報はすべて与えていることである。

このダイレクトメールの文章は長い。
ご挨拶から、商品内容、取引するメリット、取引先の実績リスト、店内ディスプレイイメージ等、三枚にわたって、詳しく説明している。

常識的に考えれば、「こんな長い文章を、誰が読むのか」って思うだろう。

「忙しいんだから、できるだけ簡潔な文章にしないと、誰も読むはずがないじゃないか!」と、会社では教えられている。

これは間違った教えである。
面白ければ、長くても読む。

そして誰が読むかというと、この商品に興味のある客が読むのである。

そもそも興味のない客は、ダイレクトメールだって分かったとたん捨てるわけだから、相手にする必要はないのである。

長い文章を読む客が、興味のある客なのだ。

そして、興味のある客に、次の行動を取ってもらうためには、必要な情報をすべて盛り込む必要がある。

あなたもそうだろうが、情報が足りない場合は、人間はリスクを先に感じて、行動を起こすことができない。

例えば、あなたが、会ったこともない三人の女性のうち、一人と結婚しなければならないとする。
そのうち二人は、趣味と経歴が簡単に書いてある手紙をくれた。

残り一人は、ノートをくれた。
ノートには、細かい字でぎっしりと、自分の生い立ち、好きな時間の過ごし方、起床時間、就寝時間、どんな結婚生活が望みか、子供は何人欲しいか等々が書かれていた。

さて、あなたは、どの女性をパートナーに選ぶだろうか?

通常であれば、三人目の女性を選ぶ。
なぜならば、他の二人は情報不足のため、選択するには、リスクが高いからである。

多くの会社のダイレクトメールが失敗するのは、初めの二人の女性と同じ間違いをしているからだ。
基本的には、「この商品は素晴らしいから、ぜひ、ご検討ください」とパンフレットが入っているだけである。

ちょっと考えてみれば分かるように、営業マンが訪問した場合でも、「この商品は素晴らしいから、ぜひ、ご検討ください」といっただけで、契約ができるはずはない。

だから文章が長くなったとしても、必要な情報はダイレクトメールに入れないとならない。
そして、このようにダイレクトメールを設計すると、セールスプロセスが実に簡単となる。
なぜなら決定に必要な情報は、すでに手紙のなかで伝えられているからだ。

すると営業マンは、相手を説得する必要がないのである。

営業マンの仕事は、不明な点がまだあった場合、質問に答えるだけになる。
手のうちを探ったり、誘導したりといった成約上のテクニックは必要ない。
つまり営業スキルの乏しい新人でも、成約できるということである。

このようにエモーショナル・マーケティングを活用すると、あなたは、広告からの反応を高めるだけじゃなく、スムーズに成約できるようになる。

業種、そして時間を超えて応用できるのは、なぜか? p124

エモーショナル・マーケティングを実践する過程で、広告の反応データを蓄積していくと、面白いことが分かってくる。

どのような表現や文章展開パターンが、感情の引き金を引くのかが分かるのである。

反応がとても良かった広告があるとしよう。
その反応を突き動かした感情はないかと考える。
その結果、「あっ、そうか、この言葉が、引き金を引いているんだな」と見えてくるようになる。
このように、ひとつ成功するパターンを見つけると、業種を問わずに、反応数を上げることができる。

例えば、「まだムダ金を使いますか?」というコンセプトは、幅広い応用性をもつ。
航空券だけでなく、経費削減に心が動かされるお客に対しては、同じように効果を上げる。

また「送付する許可を与えてくれるだけで結構です」というコンセプトも、自尊心やプライドをくすぐることが効果的なお客については、そのまま応用できる。

「この方法は、どちらかというと消費者向け営業には使えると思うのですが、法人向けにも使えるのですか」という質問をよく受ける。

もちろんである。
法人といえども、購買を決定するのは、人間である。
だから法人であっても、消費者であっても、感情を動かすメカニズムは同じなのである。

業種を問わないだけではない。

購買者の人間としての消費感情の流れを読む作業だから、時間がたっても、原理原則は変わらない。

ここを、多くの会社が勘違いする。

大成功した販促企画があったとする。
しかし時間が経つと、効果がなくなり、中止される。
これは、企画の表面だけを捉えているからである。

なぜ、その企画が当たったのか、という消費感情を理解していない。

根底に流れる消費感情を理解すれば、感覚で、場当たり的に企画を立てることはなくなる。
なにがヒットするか、科学的に見えるようになるからだ。

例えば、消費税還元キャンペーン。
これを初めにやった会社は、大当たりした。
そこで、どの会社も、みんな消費税還元キャンペーンをやった。
しかし数ヵ月後には、効果がなくなった。
それは、なぜ効果があったのかを考えていないで、表面だけ真似したからである。

当時は、消費税アップのために、消費者の間で、反政府感情が高まっていた。
そこで、政府を共通の敵として想定するには、消費税還元という切り口は、格好の材料だった。

「政府は、あなたの敵。私は味方」

このように共通の敵を設けることによって、消費者の感情を動かすことができたのである。

敵を設けることにより大衆を動かす方法は、別に新しい方法ではない。

ナチスがユダヤ人を迫害したのも、結局は、ドイツ国民を一体化させるためだった。
当時、ナチスを訪れた日本軍幹部は、こう報告したそうだ。

「ドイツが羨ましい。なぜならユダヤ人がいるからだ。日本では、ここまで国民を一体化することはできない」

敵を設ければ、感情を刺激するという原則は、一〇〇年経っても二〇〇年経っても変わらない。
それは人間の根源的な習性だからである。

それを分かっていれば、消費税還元キャンペーンの効果がなくなっても、いくらでもアイディアは浮かぶ。
政府がバカなことをやらかすたびに、いろんな切り口でできるからである。

広告やダイレクトメールへの反応を数字で計測する。
すると表現の違いで、反応が何倍も異なることが分かる。
そのデータを集積して、消費感情の引き金を引くパターンを見つける。
いったい、どんな言葉、どんな文章の展開をした場合に、反応が高まるのか?
どんなレイアウト、どんなデザインをしたときに、消費感情が動くのか?

そういう法則性を導くという試みが、エモーショナル・マーケティングなのである。

そして、その法則は、業界には左右されない。
流行りすたりもない。
人間の心の法則だから、普遍性をもつのである。

ワン・トゥ・ワン・マーケティングを超える? p127

エモーショナル・マーケティングは、いままでの方法論を否定するものではない。

実は、すべての方法論を超えちゃうのである。

つまり、すべての方法論を臣下に置く、神のような存在なのである。

「おい、おい、そんな偉そうなこというなよ」

そうあなたが思われるのも、無理もない。
しかし事実なのだから、仕方がない。

「だったら、証明してみろよ。証明できなかったら、どうなるか分かってるんだろうな」
あなた……そこまでいいますか?

それじゃ、その喧嘩、買いましょう。

コンサルタントにとって、神というのは、結果である。
結果を出さなけりゃ、社会のゴミであることは、前に話したと思う。

とすれば、私にとって、方法論というのはどうでもいい。
結果が出さえすれば、別にエモーショナル・マーケティングじゃなくても、なんでもいいのである。

ところで集客および営業の方法論は、数え切れないほどある。

マーケティングという言葉がつくものだけで、マス・マーケティング、ワン・トゥ・ワン・マーケティング、エリア・マーケティング、データベース・マーケティング、さらにインターネット・マーケティング、口コミ・マーケティングというものまである。

なぜ、こんなに多くの方法論があるかというと、ぶっちゃけたところ、コンサルタントが食っていくためである。
難しいことをいって、クライアントが理解するまでの時間稼ぎをしないと、すぐ契約を切られちゃうのである。

契約を長引かせるために、コンサルタントは、訳分からんことをもったいぶっていわなければならない。
だから、方法論がたくさん必要なのだ。

これだけいろんな方法論があったとしても、結果を出すためには、最終的に行き着く場所がひとつだけある。

それは、極めて単純なことなのだ。

いかにお客の心をつかむか。
いかにお客と感情的な繋がりをもつことができるか。

最終的には、どの方法論も、ここにぶつかる。

そして、この最終関門を突破しないことには、絶対に結果がでないのだ。

例えば、流行りのワン・トゥ・ワン・マーケティングについて、考えてみてほしい。

ワン・トゥ・ワン・マーケティングとは、一人ひとりのお客(個客)を認識するマーケティングといわれている。
つまり、いままでマス広告では、個客は無視されていたが、それはもう時代遅れ。
これからは、個客を大切にする。
そして個客データに応じた、商品提案をしなければ、生き残れないという趣旨である。

全く正論である。

だから、多くの会社が、このコンセプトに飛びついた。

しかし現実には、ワン・トゥ・ワン、すなわち、売り手と買い手を一対一で繋ぐ、というコンセプトを理解・実践できているという会社は、まずない。
特に、大企業になればなるほど、勘違いが激しい。

現在、どのような状況になっているかといえば、コンピュータ会社やコンサルティング会社が、営業するための標語として、ワン・トゥ・ワンといっているだけ。
そして、やることのない大企業の管理職が、そのセミナーに参加しているだけ、というお寒い状況にある。

実際の運用として、ワン・トゥ・ワン・マーケティングがどのように理解されているかといえば、行き着く先は、顧客データベース、POS、ポイントカード等の導入だ。

そして、どんな結果がでるか?

「ビールを買う客は、実は、おむつを買う傾向が高かった」

顧客データベースを導入すると、こんなことまで分かると、喜んでいる。

しかしそんなことは、売り場に立っているパート社員は、以前から知っている。
何千万の機械を導入しなくても、パートに聞いてみりゃ、タダである。

本来の目的は、一人ひとりのお客と、心の交流をもつことである。
そのための手段として、データを把握する必要がある。

これが逆になっている。
データの把握が目的となっているのだ。
そして、データを活用するために、売り込みがかけられる。

お客にとっては、いい迷惑だ。

会員カードを作っても、お礼状の一枚も送られてこない。
ポイントカードを作ったレストランから、ハガキが送られてきたと思ったら、「イタリアン・パスタ・フェア 一〇月一日から」と書いてあるだけ。
う~ん、どう考えても、個客の認識をしているとは思えない。

ワン・トゥ・ワン・マーケティングを運用しているところで、個客認識をしてるな、と思えるところがある。

生命保険のダイレクトメールだ。

「神田様に、お得なお知らせです」と、封筒に書いてあった。
そこで、開封して読んでみた。
挨拶文一ページ当たり、「神田様」と一九カ所書いてあった。

正直、吐きそうだ。

現在のように、「コンピュータに顧客データをぶち込んで、そしてぐるぐる回せば、売り上げが上がる」というのは、そりゃ、現場を知らない。
たいそうな分析の結果、出されたダイレクトメールが、「〇〇セール実施中」じゃ、お客は大切にされているなんて、さらさら思わない。

つまり現状では、データベースやポイントカード導入というハード面での知識はある。
しかし、どうすれば、お客と心の繋がりを持てるのかというソフトに関する知識が全くないのである。
だから、結果が出ないのである。

このように、どうもワン・トゥ・ワン・マーケティングは勘違いされている。
そして前にもいったとおり、客の見えない大企業ほど、勘違いの度合いが強い。
ワン・トゥ・ワン・マーケティングと声高に叫ぶ業者連中に、金がむしり取られているだけなのだ。

インターネットが陥る、落とし穴とは? p132

ワン・トゥ・ワン・マーケティングは、実際の運用上、コンセプトが先に歩きはじめて、最終的な行き着き場所、すなわち、「お客との感情的な結びつきをどうつくるか」が、全く無視されてしまっている。

一番重要にもかかわらず、一番分かりにくいところだから、無視されちゃってるんだと思う。

これは、インターネットについても、全く同じ状況にある。

多くの会社が間違えるのは、インターネットという媒体自体に、効果があると思い込むことだ。
インターネットにものを乗せれば、販売できると思っている。

これは大きな勘違いである。

典型的な勘違いを紹介しよう。

三年ほど前のこと。
まだインターネットが、マルチメディアといわれていた時代である。
そのときに、コンピュータの端末を使って、ショップ展開を行う会社があった。
会員制で、会員はインターネットを通して、格安でショッピングできるというコンセプトであった。

かなりの費用をかけて、プログラムを開発した。
カラーの動画で画像が見られた。

ところが、全く売れなかった。
大企業が母体であったが、そのうち消えてなくなった。
あなたが端末を操作することを、想像してみてほしい。

コンピュータを操作すると、画面で、ブラウスやら、セーターやらが、くるくる回るのである。
その後、値段と仕様が表示される。

「一万九八〇〇円。ウール一〇〇%」

誰が、買いたくなるんだろうか?

この会社の致命的な間違いは、なんだろう?

人は商品を買っていると思い込んでいるのである。

人は、商品を買うのではない。
ショッピングという体験を買っているのである。

つまり、その服を着た自分を想像する。
そして、そういう自分になりたいという感情が刺激される。
その自己実現ができるかもしれないという体験を、買っているのだ。

コンピュータの画面で、くるくる回っている商品を見ても、そのような自分を想像できない。
その結果、全く消費欲求が起こらないのである。

インターネットに商品情報を載せれば、「売れちゃう」という錯覚がある。
「これからは、eコマースの時代だ」なんて、また新しい言葉をもち出し、結局は、何千万円もするハードを売ろうとする。

これでは、先ほどの、マルチメディアの会社が犯した間違いを繰り返すことは確実だ。
ハードだけじゃ、売れないのよ。
ハートがなくっちゃ、売れないの。

ワン・トゥ・ワン・マーケティングにしても、インターネットにしても、使いこなせば、大変な武器になる。
それは、他の方法論も同様。

しかし、どの方法論も、結果を出さなければ、ゴミである。

結果を出すためには、どの方法論にも共通する真実の瞬間がある。

それは、お客を前にして、なにをいうかである。

その内容によって、お客は心の留め金を外す。
そして消費欲求が起こる。
この過程を経ずして、お客は財布を開かない。

現在、数かぎりない集客の方法論がある。
これからも、新しい方法論が生まれてくるだろう。
しかし、どの方法論も、最後には、この真実の瞬間に出合う。

残念ながら、ほとんどの方法論は、真実の瞬間に対応していない。

最も重要な、最後のパズルが、嵌められていないのだ。
そのパズルを嵌めたとき、すべてのシステムに命が吹き込まれる。

それが、エモーショナル・マーケティングの魔法である。

お客を、あなたに引き寄せる設計図とは? p138

「う~ん。
感情の動きを理解することで、何倍ものお客さんが集まってくることは分かったんだけど……。
具体的に、なにをやったらいいのか、分からないんだよね」

あなたの、はやる気持ちは分かる。

ただ、ちょっとした表現の違いで、売り上げが大きくアップすること自体が分かっただけでも、大きな進歩。

なぜなら、この本を読んでいないほとんどの人は、商品や品質で集客力が決まると思っている。
そこで売り上げをアップさせるために、値引きをしたり、景品を増やしたり、また夜遅くまで働こうとする。
しかし、集客できる保証はない。
集客に失敗した場合、努力した分だけ、マイナス効果になってしまう。

一方、あなたは、たとえ同じ商品を販売したとしても、表現の工夫だけで、反応が何倍にもなることを、知ってしまった。

すると、どうだろう。
必要なことは、頭を働かせることだけ。

経費は一切増やさない。
また労働時間が増えることもない。
広告の表現を変えるだけ。
寝ている間にも、広告が勝手に仕事をして、何倍もの電話を鳴らしてくれるわけである。

この言葉の魔法を知っているだけでも、かなりの進歩になる。
しかし、あなたの会社を高収益企業に変えるために、もうひとつ重要なことがある。

一言でいえば、それは設計図である。

エモーショナル・マーケティングとは、あなたがお客を探すのではない。
お客があなたを探す方法だと前に説明した。
それは常識的に考えれば、あり得ないことだろう。

その非常識を実現するのが、設計図なのだ。

設計図という概念を理解するために、あなたに、イメージしてもらいたい。

あなたの会社には、大きなドアがついている。
お客がドアをノックする。
ドアを開くと、階段が目の前にある。
あなたの商品を買うためには、階段を上がって、あなたがいるところまで、辿りつかなければならない。

ドアを叩いた時点では、お客は、あなたのところまで行って、お金を払うかどうかはまだ決心していない。
あなたが降りていって説得しようとすると、お客は怖がり、ドアを閉めて逃げてしまう。

そこであなたは、じっとお客が階段を登ってくるのを、見守るわけである。

この階段がぎくしゃくしていたら、お客は途中で引き返してしまう。
しかし、この階段がスムーズであり、また一歩一歩登るためのインセンティブがあれば、お客は、自らの力で登ってくることができる。
つまり、あなたが営業努力をしなくても、お客は、自発的に、成約まで進んでくるのである。

あなたの会社が高収益企業に変身していくためには、この階段を設計する必要がある。
この設計図をもたないと、いくら広告で、お客の感情の引き金を引いて、何十倍もの見込客を得たところで、全く意味はない。
成約率が上がってこないからである。

結果が伴わない広告表現は、言葉の遊びとなる。
言葉の遊びにしないためには、設計図がしっかりしていなければならない。

お客を導くための、設計図の三大ポイント p142

設計図を書くにあたって、重要なポイントが三つある。
このポイントを押さえれば、お客があなたを見つけて、商品を買いにくるという、重力の法則に反するようなことが、起りはじめる。
その三つのポイントについて、ひとつひとつ、あなたと一緒に確認していこう。

設計図の第一ポイントは、広告宣伝では、商品を売ることではなく、興味のある人を集めることを徹底することである。

旅行会社の広告を思い出してほしい。
この会社が、商品を売ることを目的としたら、広告のメッセージはどうなるだろうか?
「ビジネスクラスの航空券が安い」ということである。

「安い」といわれて、お客は「買った~」と電話をかけるだろうか?
現実は、そんなに甘くはない。

買うことを決定するまでには、お客は、いろいろなことを考える。

「もっと安いところが、あるかもしれない」
「あの安売りで有名な航空会社だったら、もっと安いだろう」
「いま使っている旅行代理店に、この価格を見せて、もっと安くさせよう」
「いまは旅行しないから、関係ない」

このように多くのハードルが存在する。
お客は、このハードルを越えなければ、電話ができないのである。

これを先ほどのイメージで説明すると、お客がドアを開いたとたん、絶壁が立ちふさがっている。
あなたのところに行くまでには、絶壁をよじ登っていかなければならないということだ。
そこで、広告のアプローチを変える必要がある。

反応が良かったほうの広告は、「安いから、買ってください」というアプローチを取っていない。
海外旅行のヘビーユーザーを集めるというアプローチを取っている。
つまり、航空券を買いやすい見込客を募集する広告なわけである。
商品広告ではなく、人材募集の広告だと思えばいい。
ここに、この本を読まなければ、まず知ることができない秘密がある。

極秘事項なので、他人に見られないように、小さい字で書くことにする。

商品を販売する広告よりも、その商品に興味がある人を集める広告の方が、圧倒的に簡単なのである。

考えてみてほしい。

あなたが仕事を探しているとする。
すると、人材募集広告を読むであろう。
その際には、大きな広告と、小さな広告に差をつけるだろうか?
小さな広告でも見逃さないように、目を皿のようにして、見るのではないか?

このように、特定のものを探している人は、小さな広告でも、目につけるのである。
その結果、商品を売るよりも、商品に興味がある人を集めるほうが簡単になる。

この事実を知っただけで、あなたは、ライバルを大きく引き離すことができるのである。

「そのうち客」が、あなたに与える三つのメリット p144

商品を販売するというアプローチから、商品を買う傾向のある見込客を募集するというアプローチに変更すると、重要な変化が起りはじめる。
どういう変化かというと、「いますぐ客」だけでなく、「そのうち客」も集まりはじめるということである。

「いますぐ客」というのは、その名のとおり、いますぐ買ってくれる客。
「そのうち客」というのは、そのうち買ってくれる客である。

あなたは、もうすでに気づいていると思うが、ほとんどのビジネスは、「いますぐ客」だけを集めている。

これは、大変もったいないことをしている。
そのうち客を集めれば、簡単に得られる数々のメリットを、失っているからである。

そのメリットのうち、特に重要な三点を確認しよう。

一番目のメリットは、「そのうち客」には、ライバル会社が群がっていないという点である。

「そのうち客」に比較して、「いますぐ客」には、ライバルが何社も集まっている。

例えば、住宅の建て替えをする客を考えてみよう。

住宅を、半年から一年以内に購入したい客、すなわち、「いますぐ客」は、どんな行動を取るだろうか。
まず雑誌を購入して研究する。
次の段階では、住宅展示場に行ったり、各住宅メーカーからパンフレットを請求したりする。
一般的にお客は、平均七社~一〇社のパンフレットを請求する。
つまりこの段階で、七社~一〇社が、よーいドンで競争しはじめるわけである。
お客は、そのなかの三社~五社から詳しく話を聞き、見積もりまで進む。

その後、最終的に一社に絞りこまれるのであるが、その間、この一人のお客に何社もの会社が、必死の売り込み攻勢をかけているのである。
どの営業マンも、同じよう「うちの住宅は、最高です」という。

すると、なにが起こるのか?
お客は混乱する。
その結果、「結局、住宅ってのは、みんな同じね。それじゃ、一番、安いところにしましょう」という価格競争に陥ることになる。

価格競争になり、利益が取れないということだけではない。

この競争は、短距離競走である。
つまり、全速力で走っていなければ、勝てない競争なのである。
しかも競合相手のスピードに合わせなければ、脱落する。
先行きが全く見えないにもかかわらず、全速力で走りつづけなければならない競争をしているわけである。

息が切れないことを祈るばかりである。

一方、「まぁ、二年後くらいには家を建てたいけど、先行くものがないからなぁ」という「そのうち客」を集めると、どうなるか?

その段階では、競合相手はまだ少ない。

すると、ライバルと競争するというよりも、自分との競争になる。
お客に信頼していただき、そして感情的な結び付きがつくれるかどうかの競争である。
お客に信頼されるとは、「住宅を建てることになったら、ここにお願いしよう」と思われることである。
他社に電話をすることもない。
つまり、他社と競争する前に決着がついている勝負をすることになる。

一本釣りか、それとも投網をして魚を取るのか? p147

「そのうち客」を集めるメリットの二番目は、集客費用が安いということである。

なぜかといえば、「そのうち客」を集めることができれば、同時に、「いますぐ客」も集まっている可能性が高いからである。

例えば、一本釣り、もしくは投網で魚を取る場合。
この二つの漁法をイメージしてみよう。
一本釣りをした場合、お目当ての魚を釣り上げるためには、テクニックがいる。
また経験もいるだろう。
ところが投網をした場合、お目当ての魚もかかれば、その他の魚もかかる。

お客を魚に喩えるのは、恐縮だが、投網をすれば、「いますぐ客」も「そのうち客」も同時にかかってくるのである。
すると、一匹当たりを獲得するコストは、大幅に削減できる。

この比喩を、実際のビジネスに置き換えると、どうなるだろうか?

実例を紹介しよう。

次ページに二つの広告がある。
同じ新聞に、同じ大きさで出した化粧品の広告である。

どこが違うか分かるだろうか?

見出しを読んでみてほしい。
本文コピーは、ほぼ同じであるが、見出しが異なる。

初めの広告は、この商品は素晴らしいから、買ってくださいというアプローチ。
つまり、「いますぐ客」を集める広告である。
二番目の広告は、「サンプルをあげますから、まずは試してみてください」というアプローチ。
つまり、「そのうち客」を集める広告。

当然、後者の広告のほうが反応いいと、あなたも予想したと思う。
問題は、どのぐらい反応に違いがでるかである。

前者の購入数は、一件である。
それに対して後者は、六〇件のサンプル請求がある。
電話の数として、六〇倍の差がでている。

それでは、最終的に、どれだけ売れたのか?

その後、サンプル請求者のなかから、一二人が購入することとなった。
すると、売り上げとして一二倍の差が出たわけである。

実は、この広告を出した会社は、初めから後者の広告をやろうとしていた。
しかし広告代理店が間違えて、前者のパターンを掲載してしまった。
そこで、恐縮に感じた広告代理店が、後者の広告を無料で掲載してくれたのだ。

その結果、大変、貴重なデータが得られた。

そのデータが実証した結果は、「いますぐ客」だけを集めるか、それとも、「そのうち客」も集めるべきかの判断材料となる。

その違いは、一〇%とか、三〇%程度の違いではなかった。
一二〇〇%の売り上げの違いである。
一二倍の売り上げ差が出るのであれば、あなただったら、どちらのアプローチを取るだろうか?
サンプルを入れたり、またそのうち客をフォローするのが面倒くさいから、はじめのアプローチを取る?

もしそうであれば、あなたのライバルは幸運である。
短期間のうちに、あなたの会社のシェアを急速に食えるからである。
実例を紹介しよう。

こうすれば、お客を「いますぐ客」に育てることができる p152

「そのうち客」を集める三番目のメリットは、「いますぐ客」に育っていくということである。

先ほどの住宅の例でいえば、「そのうち客」というのは、「まぁ、二年後ぐらいには、家をもちたいなぁ」という客だった。
しかし、「二年後ぐらいには」と思っているお客が一度、行動を取り始めると、二年間という時間は、急速に短くなりだす。

その期間を短くする原因というのは、なんだろうか?

情報量の増加に伴う、選択判断基準の明確化なのである。

どういうことかといえば、住宅が欲しいと思って、小さな行動を取る。
雑誌を購入したり、また住宅メーカーから資料を取り寄せたりする。
すると営業マンから電話がかかってくるようになる。
このように情報ソースが多くなる。

すると、いままでは「先立つものがない」と思っていたにもかかわらず、「ちょっと無理すれば、十分買えるじゃないか」と思い出す。
そうしているうちに、どんなレイアウトにしようとか、庭はどうしようかとか、そういう空想をする時間が多くなる。

つまり、一度、小さな行動を取ると、雪だるまのように、急速に、夢が膨らみだすのである。

このように商品に関する情報量の増加というのは、購買意欲の高まりと比例するのである。
その結果、二年とはいいながら、実際には、小さな行動を起こした、ほとんどの客が一年以内に購入の決定をするようになるのである。

これは、別に住宅でなくても、他の商品でもほとんど同じ展開を見せる。
自動車であっても、旅行であっても、情報が増えれば、欲しくなる。

保険であっても、葬式であっても、同じである。
もちろん、保険や葬式は、本来的に、ニーズ(必要性)は高いが、ウォンツ(欲求)は少ない商品である。
つまり、あまり考えたくない商品なので、空想をするということはない。
しかし情報量の増加が、購買決定を短期化するというのは、そのまま当てはまる。

このように、「そのうち客」を育てることは、極めて有利なことでありながら、現実のビジネスにおいては、実におざなりになっている。

「いますぐ客」だけを追う会社と、「そのうち客」を育てる会社の三年後は? p154

先日、ある住宅メーカーのチラシに対して、資料請求を行った。
家づくりの秘訣が分かビデオと、ミッキーマウスのコップが、資料請求者全員に貰えるというオファーだった。

私は、住所・氏名を書いて、ハガキを送った。

あなたは、その結果、何が起こったかお分かりになるだろうか?

それは、想像と全く異なる出来事だった。

その二~三日後に、私のマンションまで、営業マンがコップを持ってきた。
ビデオは持ってこなかった。
たまたま、在庫がなかったらしい。

営業マンは、私の妻と二~三分ほど話をした。
実は、私たちは「そろそろ家を」と、具体的な話をしているときだった。
しかし、そんな素振りは、営業マンに見せるはずはない。

「まぁ、五年後ぐらいには、欲しいと思っているんですよ」なんて、家内は答えていた。

しかし、その後、この営業マンからは、全く連絡がない。
ビデオを持ってくるわけでもない。
会社から、情報誌が届くわけでもない。
全く連絡が途絶えているのである。

「えっ、もうちょっと強引な営業しないの?」と拍子抜けだった。

売り込みをかけてこない理由は、明らかだ。

そもそも、私たちの家族は、土地をもっていない。
そして世帯主は、訳の分からない会社を設立したばかり。
こういう理由で、見込客にならないと、勝手に判断されているわけである。
その後、不動産屋にも、何社か当たった。
しかし三度以上、連絡を取ってきたところはない。
あなたも、面白いからやってみてほしいが、このように対応する会社というのは、極めて多い。
訪問した時点で、「いますぐやらせてくれる」という客でなければ、営業マンは諦めているわけである。

しかし、その資料請求の電話を一本鳴らさせるために、会社は、どれだけの経費を使っているのか。
典型的な反応率から試算すると、一本の電話が、一〇万円近くかかるのである。
つまり、その一本の電話の価値を知らないバカな会社は、一〇万円をドブに捨てているのである。

一方、一本の電話の価値を知っている会社はどうするか。
その時点から、「そのうち客」を育てる活動が始まるわけである。

いますぐ購入する客じゃなくても、定期的に情報誌を送ったり、営業マンにコンタクトさせる。
そうして情報を絶えずインプットしていく。
「情報量は、購買意欲を高める」という法則に従っているのである。

お客を育てる意識をもった会社と、一〇万円をドブに捨てた会社。

この違いが、数年後にどの程度になっているか、想像がつくだろうか?

この違いは、ただ単に一〇万円を捨てただけではない。
一〇万円を捨てた会社は、常に「いますぐ客」をさらなる経費をかけて探しつづけなければならないわけである。
こういう会社は、景気が悪くなると、直撃される。
なぜなら、お客が全くいなくなるからだ。

一方、「そのうち客」が育つということを知っている会社は、お客のストックができる。
そして、広告を絶えず打たなくても、そのストックのなかから、時間が経つにつれ、ポコッポコッと「いますぐ客」が生まれてくるのである。

こちらの会社は、景気の悪いときは、チラシを配らない。
なぜなら、チラシを配っても、どうせ反応が悪いからである。
その代わりに、いままでストックされたお客に対して、より魅力的なオファーを提供することにより、新規客を獲得する。
このように安定的、先の読める経営ができるようになる。

あなたが、「いますぐ客」だけに、ターゲットを絞る営業戦略を取っていたとすれば、いままで信じられないほどの損をしてきたことに、気づいていただけたのではないかと思う。

でも、がっかりすることはない。
いま後悔できるだけいいのである。
あなたのライバルは、まだ気づいていないところが多いのだから。

どうすれば、お客に信頼されるアドバイザーになれるのか? p162

私が、この情報ツールの活用を勧めるのは、「そのうち客」を集めるためだけではない。

実は、あなたとお客との人間関係に、根本的な違いを生じさせる。

情報提供というステップなしに、あなたとお客が接触した場合、その人間関係は、どのような言葉で描写されるだろうか?

売り込む営業マンと、売り込まれるお客の関係である。

それは、敵対関係なのである。

敵対関係であるから、お客は本心をいわない。
買うつもりがあっても、決して買う素振りを見せない。
そして、あなたの見えないところで、ライバル会社に声をかける。

要するに、あなたは、お客に「買ってくださいよぉ」と嘆願する立場。
そしてお客は、「買ってあげるんだから、もっと安くしなよ」という立場である。

それに対して、情報提供というステップを置いた場合は、どうだろうか?

当初から、お客との人間関係が全く異なる。
お客さんは、あなたを専門家として、位置付けるわけである。

どうすれば専門家としての位置付けが可能になるのか?

それは、まずお客さんに、手を挙げてもらうことが鍵である。

情報提供というステップを加えた場合は、あなたは、「ご希望の方に、このガイドブックを進呈致します」という立場。
一方、お客は、「資料を送って欲しいんですけど」と依頼する立場。
このように、まずお客さんに手を挙げてもらえれば、その後のセールスのスムーズさが違う。
あなたが十分の商品知識をもっていれば、「〇〇を買うんだったら、〇〇さんから買おう」と専門家として信頼されることになる。
つまりお客さんとの位置付けを、冒頭に間違えなければ、後は、自動的に成約していくわけである。

逆に、営業マンと認識されてしまったら、一気にセールスは難しくなる。
どんなに優れた知識や素晴らしいサービスを提供しても、あなたは、大勢の営業マンの一人である。
初めの不信感を乗り越えて、信頼を獲得し、成約に繋げていかなければならない。
その結果、かなりの回り道をすることになる。

当然、この関係性は、最終的に成約する価格に大きな影響を与える。
売り込まれる立場のお客は、「もっと安くなんないの〜」と食い下がる。
しかし、売ってくれと依頼する立場になると、値引き交渉はほとんどないのである。

このように、お客さんと初めて接触する瞬間で、あなたの位置付けが決まってしまう。
そして一度、構築されてしまった位置付けを変えることは極めて難しい。
こんなにお客さんと接触する瞬間というのは、重要なわけだ。

しかし現在のビジネスの九九%は、この瞬間で、すでに間違いを犯している。

営業は、やる気だ、熱意だ、と盲目的に信じている。
その結果、わざわざ必要のない敵対関係をお客さんと最初につくってしまう。
そして、その敵対関係を超えるために、ムダな努力をしつづけているのである。

お客に手を挙げてもらった後は、どうすればいいのか? p165

お客さんに、まず手を挙げてもらう。

それが、あなたとの関係性を決定し、さらには最終価格にまで大きな影響を及ぼすことは、ご理解いただけたと思う。
そして情報ツールは、興味のあるお客さんに、手を挙げてもらうためには、格好なツールだったわけだ。

それじゃ、手を挙げてもらった後は、どうすればいいのか?

重要なことは、この後も、ステップを踏んで営業するということである。

私は、これを段階式営業と呼んでいる。

広告宣伝は、商品を売ることではなく、その商品に興味がある人を募集するほうが簡単であると述べた。
つまり、一気に売り込みをするのではなく、広告の目的は、見込客のリスト化だけに注力したほうがいいということだ。
このように広告宣伝では、いくつもの目的を達成しようとするのではなく、ひとつの目的に絞ったほうがいい。

実は、この後の営業についても、あなたがひとつの働きかけをする際には、ひとつの目的に絞るということが、重要なポイントになる。
お客さんが、気軽にもう一歩踏み出してくれることを目的とするのである。

ひとつの目的に絞ることは、階段の一段一段を、できるだけスムーズにすることである。
階段の一段一段をスムーズにすれば、あなたと信頼関係が強くなるに応じて、お客さんは、自発的に階段を登ってくれることになる。
しかし、その階段がスムーズでなく、段差があるようだと、あなたのもとに来るまでに、お客はめげてしまう。

エモーショナル・マーケティングの進め方 戦略立案から実行まで p167

それではこの段階式営業について説明すると同時に、いままで説明してきたツール、すなわち、「そのうち客」を情報ツールを使って、集客するというツールを具体的に、どうやって組み合わせていけばいいか、事例を想定して、総合的に説明することにしよう。

駐車場を管理するシステムを販売するベンチャー企業があったとしよう。
この駐車場管理システムをどのように販売していけばいいか、あなたと一緒に考えてみたい。

まず商品について、説明しよう。

デパート、量販店、レストラン等の駐車場では、車が混み合う。
お客は、駐車場に入ったとしても、どこに駐車していいのか分からず、ぐるぐる回ることになる。

ところが、この駐車場管理システムを導入すると、駐車場全体のレイアウトが、入り口の電光掲示板で分かる。
また、どの場所が空いているか、番号を点灯表示してくれる。

駐車場が便利になれば、来店客数も増える。
また駐車場の管理スタッフも少なくてすむので、経費削減となる。
このようなメリットがある商品である。

さて、あなただったら、どのように、この商品を売っていくだろうか?

この商品の販売には、いくつか困難な点がある。

第一に、価格が数百万円から、一〇〇〇万円を超えるということである。

品質に比べて、価格が高すぎるので、販売が難しいのではない。
その予算帯の決裁権をもつ人を特定するまでに時間がかかるから、難しいわけだ。

例えば、この商品の購入を決裁できる人は、一社で何店をもつ会社の社長なのか、店長なのか。
それとも、本社の管理部が予算を持っているのか、それとも企画部門なのか?

典型的な答えは、「決裁者は、会社ごとに異なる」ということになる。
すると、誰に売り込んでいいのか、一社一社調べはじめなければならない。

仮に、その面倒くさい作業をして、決裁担当者が特定できたとする。

そして、その担当者に売り込みにいったとする。
しかし担当者としても、この商品は、心理的なハードルが高い。
単価が高いので、一人では決定できない。
社内の関連部署に相談することになる。

いますぐに必要な商品でもない。
その他に、やるべき仕事はたくさんある。
こんな仕事はできるだけ後ろ回しとなってしまう。
そして優先順位から外れてしまう。

以上のような状況を考えると、どんなにうまくいった場合でも、導入までに三ヵ月から一年はかかってしまうのではないか?

すると、立ち上げ当初は、全く売り上げが上がらない。
しかしこの間にも、社員の給与は払い続けなければならない。
その結果、当初は極めて深刻な資金不足に悩むはずである。

この状況を、どうすれば、打開できるだろうか?

常識的な営業パターンは、こうである。
有力者の紹介を得て、社長からプッシュしてもらう。
担当者を飲みに誘って人間関係を強くする。
このように決定を早めるように、あの手この手で頼み込む。

もちろん、この営業パターンは、一対一になって、肉弾戦になった場合に、効果を上げる。
しかし戦略ではないので、システマチックに顧客を獲得することはできない。
紹介が得られる得られない、担当者の異動、担当者との相性といった数々の外部要因によって、成約状況が大きく左右されてしまう。

それをシステマチックに、先が見えるようなシステムにしていくためには、営業のための設計図をつくる必要がある。
一度ドアを叩いてもらったなら、お客が、自発的に階段を一歩一歩進んで、あなたの商品を購入する仕組みをつくるのである。

感情を軸として、戦略を立てる p170

この駐車場管理システムを販売していくためには、どのような仕組みが最適なのか?
この仕組みを考えるために、いま一度、状況を整理してみよう。

この会社の問題点は、担当者が特定しにくいということと、特定した後も、心理的な障壁が高いということだった。

この状況は、次のようにチャート化できる。

このチャートで、駐車場管理システムがどこに当てはまるか、考えてみよう。

このシステムは、購買者が特定しにくい。
また特定後も、心理的バリアが高いために成約しにくい。
すなわち左下のボックスに入っている。

一方、最も楽に成約しやすい場所は、右上のボックスである。
そこで、右上から左下のボックスへ行き着くための、道すじを考える必要がある。

これが戦略となる。

右上のボックスに位置するのは、簡単である。

情報ツールを活用すればいい。

目的は、商談相手の特定である。
現在、相手先の特定が難しいので、相手から手を挙げてもらって、商談先を特定していくわけである。

どういう内容の情報ツールを作るかは、自分のターゲットになる人が、どんな悩みをもっているかを考える。
この場合のターゲットは、駐車場について悩みを抱えている、経営幹部である。
どうすれば、このターゲットとなる人物に、自分から手を挙げてもらうことができるか?

やり方は、二つある。

ひとつ目は、アンケートを依頼する方法。
まず、対象となる会社にダイレクトメールを送る。
内容は、次のようにする。

「駐車場の集客に及ぼす影響についてアンケートを行うので、協力してほしい。ご協力いただいた方には、お礼としてアンケートの結果レポートを進呈する」

もうひとつの方法は、特別レポートを無料で差し上げる方法。
これも、まず、対象となる会社にダイレクトメールを送り、興味があれば、レポートを請求してもらう。
レポートのタイトルは、例えば、「デパート経営者が知らなかった、駐車場でのトラブルの五つのクレームが、お客をライバル店へ向かわせる」とする。

まぁ、私だったら、どうやるかといえば、できるだけラクな道を進む。
レポートを書かないでも、お客が手を挙げてくれる方法から先にやる。

具体的には、先ほどの内容で、三〇社程度のアンケートを行う。
そして、アンケートの集計を行い、レポートにまとめる。
その後、アンケート協力企業にレポートを送り、同時に営業を開始する。

次に、アンケートに協力してくれなかった企業から、資料請求を得る手を考える。
そこで、すでに作成したアンケート集計結果のレポートを活用する。
このレポートに、担当者が読まずにはいられないタイトルをつける。
例えば、先ほどの、「デパート経営者が知らなかった、駐車場でのトラブル ~ この五つのクレームが、お客をライバル店へ向かわせる」というタイトル、である。
このレポートに対する資料請求を、ダイレクトメールで行う。
つまりアンケートを取るという一回の作業で、レポートまで用意できる一石二鳥のやり方である。

この情報集客ツールで、相手のターゲットが特定できることになる。
すると、この商品を販売する上で、困難だった点が一部解消されるわけである。

日常業務をやりながら、営業ができる仕組みづくり p174

アンケートを活用した情報ツールで、右上に位置することができた。
この位置から、現駐車場管理システムが位置する、左下に辿りつかなければならない。

ところが、いきなり左下のボックスに進むのは、困難である。
そこで、まず左上のボックスに進む。

どうすれば、この左上のボックスに移動できるか。

担当者が心理的抵抗なしに受け入れることができる、低価格のサービスを提案すればいい。
例えば、駐車場管理代行サービス、駐車場管理者の人材派遣、成果報酬での駐車場経費削減サービス、駐車場経営コンサルティング等が考えられる。

こうしたサービスというのは、低価格でありながら、原価がほとんどかからないので、粗利率が高くなる。
また通常、人材派遣等、人が絡むサービスは、支払い条件が悪くない。

するとサービスをビジネスとして行うと、日銭が稼げる。
つまり、資金がショートする可能性が低くなる。

さらに日常業務を行う範囲で、人間関係が深まり、信頼関係が強化され、取引実績がついてくる。
そして最終目的である、駐車場管理システムの導入にまで、漕ぎ着ける確率が高まるわけである。

つまり日常業務は、駐車場関連サービスを提供している。
しかし、それと同時に、単価の高い駐車場管理システムの営業活動が行える。
一粒で二度おいしい仕組みを築くことができるわけである。

駐車場関連サービスだけで、日常の営業経費がまかなえるのであれば、駐車場管理システムの販売については、粗利がそのまま残ることになる。
しかも、その駐車場管理システム販売後についても、そのシステムの年間メンテナンス契約をすることができれば、極めて安定的な収益源を確保することができるようになる。

お客を自動的に生み出す、究極の営業システム p176

以上が、お客を自動的に作り出すシステムの設計図のポイントである。

復習すると、ポイントは次の三つだ。

①情報ツールで「そのうち客」を集める。
②相手から手を挙げてもらうことにより、専門家として位置付ける。
③成約に至るまで、お客が自ら登れるスムーズな階段を用意する。
以上である。

このポイントを押さえて営業プロセスを設計すると、広告宣伝の反応率の上昇が、売り上げに結び付くシステムが動き出す。

一度、このシステムに入ったお客は、自然に成約する流れに乗る。
まるで工場で、ベルトコンベヤーが動いて製品が作られるように、見込客から既存客が生み出される。

あなたは、なにも遅くまで働く必要はない。
このシステムを作成するまでは、確かに頭を使う。
しかし、その後は、このシステムに時々、油をさして、錆びつかせないようにすればいいだけだ。
売り込むのではなく、どうやってお客さんの感情を味方につけることができるのか。

この人間誰もがもっているエモーションを活用することによって、営業経費は最小限に抑えることができるのである。

その結果、売り上げはアップするが、営業経費は下がる。
こんな奇跡が、九〇日以内に起るようになる。

p183

本来、エモーショナル・マーケティング自体は、どんな業界でも当てはまる。
なぜなら、売り手の側の論理ではなく、買い手の感情に焦点を当てるものだから。

売り手には、いろんな都合がある。
商品が違う。
粗利も違う。
販売地域だって、また売る顧客対象も違う。
このように売る側から見れば、さまざまな状況に対応しなければならないと思う。
だから、さまざまな売り方があるのではないかと考える。

一方、買う側っていうのは、購入を決定するまでの感情の動きは全く同じ。
まず商品に気がつく。
そして関心をもつ。
さらに欲求をもって、比較検討する。
そして最終的に購買という行動に移る。
この消費の流れは、変わらない。

このようにエモーショナル・マーケティングというのは、消費者の購買に至るプロセスに着目したわけだから、どんな業界でも、当てはまるわけ。

商品の売れる切り口を発見するツール ニーズ・ウォンツ分析法 p209

なぜ、九六人は、この味噌・醤油を買わないのか?
それを分析するためには、お客のニーズとウォンツを分けて考える必要がある。
これを、私は、ニーズ・ウォンツ分析法と呼んでいる。

話は、ちょっとわき道にそれるが、重要な点なので、知っておいていただきたい。

「この商品は、ニーズがあるから、成功するよ」とよくいわれる。
しかし、ニーズがあるからという理由で、商品を売ると、まず失敗する。

ニーズというのは、必要性ということ。
残念ながら、人間は、必要性だけでは商品を買わない。
ウォンツ、すなわち、欲求がないと購買という行動に向かわないのである。

そのニーズとウォンツを、チャートにすると、売れる切り口が発見しやすい。

歯医者と、ローレックスの例で、このチャートの使い方を説明しよう。

歯医者の場合、歯医者に定期検診に行かなければならないという必要性(ニーズ)はある。
しかし、定期検診に行きたいという欲求(ウォンツ)はない。
つまり、次のチャートでは、左上のボックスに位置する。

行動を起こすボックスは、ニーズもウォンツも高い場所。
すなわち、右上のボックスである。
だから、歯医者が患者を増やそうとした場合は、左上から右上のボックスに移動する戦略を考えなければならない。

それじゃ、その移動はどうすればできるのか?
歯医者が痛くなる前に、歯医者に行きたいという欲求を高めることが必要。

ひとつの方法としては、定期的に行くと、歯が白く保たれる、きれいになれる、という面を切り口にすること。
つまり、きれいになりたいという欲求を活用する。
もうひとつの方法としては、いまは痛くないけど、痛くなる兆候があることを明確に伝えること。
この二つの面を強調することにより、右上のボックスに移動しはじめる。

歯医者の例とは、逆に欲求があるが、必要性はないという商品がある。
例えば、ローレックスの時計。

ローレックスに対しては、欲求はある。
ところが、必要性がない。
だから、なかなか購買されない。
つまり、この商品は、右下のボックスに位置している。

この商品を売れるようにするためには、どうすればいいのか?
右下から右上のボックスに移動させる戦略をとる。
そのためには、必要性を強調する切り口を考えればいい。
例えば、「ローレックスの時計は、資産価値がある」「ローレックスをしていないと、仕事に差し障りがある」というような面を打ち出せばいいわけだ。

このように売り方の切り口を見つける場合は、「こうすれば売れるんじゃないか」という感覚的にやると失敗する。
消費者の感情を多面的に見ることによって、確実性が高まるのである。

味噌・醤油の売り上げを一〇倍にした、商品の切り口とは? p215

それでは、この分析法を、味噌・醤油に応用して、売れる切り口を探してみよう。

現在、味噌・醤油がどこに位置付けられているかといえば、左下のボックスである。
つまり、味噌・醤油は、いまあるから必要ない。
いまの味噌・醤油で満足しているから、わざわざ買い換えたくない。
ということである。
ニーズもウォンツも不足しているわけだ。
すると、この会社は、どういう戦略を取らなければならないのか?

これには二つのステップを踏めばいい。

まずは、必要性を押し上げて、左上のボックスに移動する。

現在、なぜ必要性がないのかといえば、いま使っている味噌・醤油が使い終わっていないからだ。
しかし、それを前提としても、味噌・醤油が残り少なくなった人はいるはず。
そういう人に対して、必要性を高める方法はないのか。

そこで、改めて自社の商品を見直した。

すると、お試しといいながら、醤油二本、味噌二袋と、量が多過ぎるということに気づいた。
つまり、味噌・醤油が残り少なくなっているお客についても、必要以上の量を提案していたのである。
そこで、お試しセットの量を少なくし、代わりに、ポン酢等の数点のおまけをつけることにした。

次に考えることは、左上から右上のボックスに移動する戦略である。
つまり、欲求を高めるには、どうしたらいいか。

欲求には、二つのタイプがあることは、説明した。
すなわち、快楽を求める欲求と、苦痛から逃れる欲求である。

この味噌の場合はどうか。
快楽を求める欲求というのは、「美味しい味噌を食べたい」という欲求。

それに対して、苦痛から逃れる欲求とは?

「重い味噌や醤油は、できるだけ買い物袋に入れたくない」
「誰が触ったか分からない、店に並んだ味噌の袋はいや」
こんな点が挙げられた。

そこで、次の切り口が考えられた。

「重い味噌は、もう運ぶ必要はない、電話一本で、新鮮な味噌があなたの元に届きます。
しかも蔵出しをそのままパックしたから、新鮮でおいしい」

そして改善されたのが、二二〇、二二一ページのダイレクトメールである。

このように段階を経ていった結果、通販を開始したばかりのころは、たった四%の数字が、三ヵ月後には、五〇%まで上がった。
このように、全く同じ商品でも、商品の切り口を変えることによって、売り上げが一〇倍に化けるわけである。

売れる仕組みをもつ会社と、行き当たりばったりの会社 p218

この事例で勉強していただきたいポイントは、ほとんどの会社は、この一〇倍の数字を得られるまえの段階、すなわち、たった四%のところで、勝負しているということである。

その理由は、商品の導入と同時に、商品の切り口を固定させてしまうからである。
きちんと印刷しないと、大きな会社のように見えない。
そこでイメージを重んじて、カタログの印刷に費用をかける。
投資をするわけだから、リスクを犯すことに慎重になる。
そこで、他社と同じような、無難な切り口で、販売することになる。

その結果、得られる数字は、四%。
そして「不況で売れない、売れない」といっているわけである。

カネヨ販売の横山常務が違うところは、売り方の工夫を、仮説と検証をしながら進めていったことである。
簡単そうに見えるが、彼にとって、それは大変じれったい時間だった。
四%で終るならば、彼の夢、醤油・味噌業界でのセシールになるという願望は、泡と消えてしまうわけである。

そのじれったい時間に、彼は、工夫を続けた。
それが一〇倍という数字に繋がったのである。

ただ、工夫の結果が見えてくるまでは、二年も三年もかかるわけではない。
ほんの三ヵ月なのである。

その三ヵ月に集中して、頭に汗をかけるかどうか。

これで、売れる仕組みをもつ会社になるか、それとも、先行きが全く見えず、その場その場で対処する会社になるかが決まるのである。

反応を誘発する二つのキーワード p230

どうして忙しい社長が、こうまで行動に駆り立てられるのか?

これを説明する二つのキーワードがある。

ひとつは、認知不協和。
そして二つ目は緊急性である。

ひとつ目の認知不協和というのは、心理学の用語である。
次の二つの図を比べてほしい。
どちらが目立つだろうか?
あなたは、バランスを崩しているほうを選んだと思う。
このようにバランスが崩れていたほうが、注意を引く。
これはデザイン的なことだけと思われているが、実は、すべてにわたって応用がきく。

この認知不協和が、ダイレクトメールにどのように応用されているのか?

まず、このダイレクトメール自体、通常送られてくるダイレクトメールとは、かなり違う。
この本では分からないが、手紙は、ピンクの紙を使っている。
しかもコピーである。
顔写真は潰れている。
正直のところ、「どこのバカが作ったのか」という体裁になっている。

これは意識的にやっている。
心理的な不協和を起こすためである。

「なんじゃ、これ」という反応を起こす。
感情のバランスが崩れる。
すると、バランスを崩した人は、そのバランスを直さずにはいられない。
その結果、怖いもの見たさで、手紙を読んでしまう。
それが、感情のメカニズムである。

読ませるまでの段階は、これで達成した。

次は、どうやって行動を取らせるかである。

行動を取らせるために、絶対に忘れてはいけないキーワードが、緊急性である。

人間、どんな素晴らしい提案であっても、後回しにする。
忙しいから、「あとでいいや」となってしまうのである。

そこで、「あとでいいや」という反応を、「いますぐ判断しないと、大変なことになる」という反応に変えていかなければならない。
それが緊急性なのである。

この場合は、五二時間というストップウォッチがカチカチ動いている。
必然的に、緊急性が意識されることになった。
通常であれば、「後で考えよう」というパターンが、「いますぐ申し込もう」というアクションに繋がったのである。

なぜ、あなたは、この本を買ってしまったのか p232

この認知的不協和と緊急性という切り口は、この本でも、活用している。
それが、あなたがこの本を現在、読んでいる理由なのである。

まずマーケティングの本とは思えない、ショッキングピンクの装丁。
これが不協和を起こす。
「なんじゃ、これは」という反応になる。

そして、心のバランスを回復するために、この本を手に取る。

まず、あなたは表紙を見て、次に裏表紙を見る。
すると細かい字で、ゴチャゴチャとなにか書いてある。
実績が書いてある。
しかし「本当に、こんなに実績を上げてんのかよ、嘘だろ」と、まずは疑ってかかる。

それを嘘かどうか確かめるために、「どんなヤツが書いているのか」と、著者プロフィールを見る。
すると、「一応、へんな人じゃなさそうだ」ということになる。

そして本を開き、冒頭を読むわけだ。
冒頭を読んでいると、最後には、「レジへ行きましょう」との明確な指示がある。

そして、そのとおりに、この本を買っているわけである。

実は、このような設計がされていた。

だからこそ、あなたが、この本のピンクの表紙を見て、手に取ったときから、あなたの行動は、私が計画したとおりになっているのだ。
その間、私は、「買ってくれ」と頼んだ覚えはない。
むしろ、「買わないでくれ」と頼んでいる。

これがエモーショナル・マーケティングなのである。

そして、あなたも同じことができるのである。

誤解されやすいので、もう一度、強調しておく。

この方法が、お客の心を操作しているというのは、間違いである。

むしろ、逆である。

いままでの方法は、お客に、自分本位の売り込みをかけてきた。
そのため、あなたとの人間関係をつくることを妨げてきた。

エモーショナル・マーケティングとは、あなたとお客さんの心を、スムーズに繋ぐ方法なのである。
そしてあなたの思いを、市場に、急速に伝える。
それを、いままでの方法に比べ、何倍ものスピードで達成していく。

このように強力なツールである。

しかし、強力なツールであるからこそ、あなた自身の、心のレベルの高さが問われる。
冒頭でいったとおり、商品に自信がもてず、売り逃げしようと考えるなら、使うのはやめたほうがいい。
このツールは、あなたを破滅させるだろう。
なぜなら、急速にあなたの悪評を広めるからね。

しかし、いい商品を販売している自信がある。
そして、お客と一生涯の信頼関係を築き、奉仕することに、あなたが生きがいを感じるのであれば…

この方法を、今日から、実践してほしい

九〇日後には、あなたの会社を高収益企業に変身させるだろう。